秋葉原通り魔事件~いたずらな一般化は事態を悪化させる~

2008-06-12 16:34:36 | 抽象的話題
およそ二週間前に包丁を両手に持って歩く男の話をした時、その内容を神経質だと受け取った人もいたのではないかと思う。男の隣に女性がいたのだからその反応を全面否定するつもりはないが、秋葉原の事件が起こった今、そのように反応する人、少なくとも笑い飛ばせる人はほとんどいなくなったのではないだろうか。このようにして、人のセキュリティ意識は変化していくわけだが、今回はその秋葉原通り魔事件に関してネット新聞をみて思ったことを書いていこうと思う。ただ、事件が起きて日も浅く、また様々なアプローチが可能なので(例えば、通り魔と昔の疫病のアナロジー=偶然性→宗教など)、ここでは1.原因を「社会の歪み」に求めること、2.セキュリティの問題の二点に話を絞ることにする。


ではまず1から。
最初は派遣社員の不安定な立場などが取り上げられたが、今では勝ち組への憎悪や自分の容姿や女性への劣等感についても言及されている。このような事件の背景について分析することは大事だし、そこから問題の一般性、つまりは社会の歪みへと繋げていくのは重要な試みである。とはいえ、それはこの事件が派遣会社や勤め先に対して起こされた場合であって、そのような問題を通り魔と結びつける、あるいは結びつけるような安直さは避けるべきである。


勤め先や派遣会社、つまり不満の直接的対象に同じことをやるのなら(もちろんやり方は間違っているにしても)まだわかるが、なぜわざわざ無関係の人に刃を向けようとするのか?問題が大きく思えてどこに拳を振り上げればいいかわからない⇒不満の対象のスライドと拡大、自己顕示欲etc....


そういった通り魔に到る心性も考えなければ、「社会問題⇒(無差別の)凶行」という単純化された図式が刷り込まれていき、ますます人は(無意味なまでに)他者を警戒して孤立感を深めるか、あるいは社会への漠然とした不安ばかりが残ってストレスを募らせていくことだろう(社会という大きくて漠然とした相手だけに、不安に思っても具体的に何をすればいいのかわからず、ますます不安が大きくなる)。それは結果として、(この事件で何度も取り上げられている)孤独感が強まっていくという悪循環を生み出すだけで、問題の解決には繋がらない。


はっきり言ってしまうが、社会問題などというものは決してなくならない。例えば孤立化の問題に関して言うなら、かつては多くの人が共有できた値観が相対化され、多様な価値観を持った小さな集団が林立するようになっているというのが現在の社会状況であり、孤立化は半ば必然である(ならそれを否定すれば…と思うかもしれないが、それはつまり多様な価値観の共存を否定することとほぼ同義であり、それを是とする人間が果たしてどれだけいるのか疑問だ)。またそういった社会の変容に伴って、当然その集団同士の軋轢、価値観の多様化を否定する存在への対処、秩序(セキュリティ)と自由、といった問題も浮上している(大ざっぱに言えば、近代は、主要な価値観を認めないもの、そぐわないものをマイノリティとして排除していた)。


このように、どこかに問題のない世界があるのではなく、世界の変容に伴って新たな問題が出てくるのだ(もし本当に問題のない世界を望むのなら、みなでロボトミー手術でもするしかないだろう。もっとも、それは問題のない世界ではなく、「問題を問題だと思えない」世界なだけだが…)。社会の歪みを声高に叫ぶのはいいが、結局は時代に合った問題との向き合い方、付き合い方を身につけていく以外に方法はない。


時代に合った問題の向き合い方とは何か?昔と違い、人に相談するのが難しくなりつつある今日、月並みだがカウンセラーなどのプロフェッショナルに相談するのが一番有効であるように思える(共同体のあり方の変容、キャラ的人間関係)。このさい邪魔になるのは、そういう場所に行く人に対する偏見と、自分は「まとも」であるという思い込みだが、それは結局のところ、自分には無関係だ、自分は大丈夫だという認識に基づいている。ゆえに、ここにおいてこそ、事件の背景にある問題が一般的であることを指摘し、単なる「狂人の所業」として忘却しないようにする意味がある(繰り返しになるが、いたずらに一般化するなということだ)。犯人の経歴を見る限り、彼には理想と現実のギャップというものが付きまとっていた。ある意味でそれは、多様なあり方を認められなかったということである。その理想についても、色々と考える余地があるだろう。


1に関する話は以上だが、随分長くなったので2は次回に譲る。
ちなみに、社会問題に関連して私が思ったのは、「え、車社会の問題は取り上げなくていいの?」というものだった(車で三人も死んでいる)。おそらく、車は日常生活に深く入り込んで…とか正しく使えば…とかいう反論が出るのだろうか、次回はその車とナイフを中心にセキュリティの話をしようと思う。

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