山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

史実の発掘 =「アテルイ」を継ぐ男

2021-11-24 18:28:08 | 読書

  歴代朝廷が 蝦夷(エミシ)の反乱に手を焼いていたのに、その蝦夷の側の史料が欠落している。歴史はいつも征服組の価値観が常識となる。TVでも映画でも戦国時代や幕末を描いていないと観客や視聴率を動員できない。しかしながら、最近はチラホラと蝦夷を取り上げられることも見られるようになった。そんな流れに東北の埋もれた歴史の発掘に情熱を注いできた、高橋克彦氏の小説『水壁-アテルイを継ぐ男』(PHP研究所、2017.3)を読む。

            

 山川出版社の『日本史小年表』には、他社には欠落している蝦夷の記述が比較的多く載せられている。

  (802年、蝦夷の英雄アテルイが降伏し京都を凱旋。坂上田村麻呂がアテルイらの自治権を朝廷に提案するが受け入れられずアテルイらは斬首)

 875年11月 出羽国渡島の蝦夷反乱、これを追討

 878年3月 出羽の蝦夷反乱  5月 藤原保則、出羽権守に任じ蝦夷を追討  6月 小野春風、鎮守府将軍に任じ蝦夷を追討

 本書はこの878年の反乱を題材に、蝦夷が秋田城を奪取する過程を生き生きと描いている。

     

 1993年に放映されたNHK大河ドラマ『炎(ホムラ)立つ』は、作者高橋克彦の原作をもとにその後の阿部氏や奥州藤原氏らの興亡を描いている。京都を中心とした歴史観ではなく、朝廷の圧力に屈せずそれ以上の文化をにぎにぎしく形成した東北の地域史を発掘している。まさに、「東北人の荒ぶる魂、ここにあり」にこだわる心意気が充満する。 

                 

 それは、さかのぼれば縄文文化の中心は東北にあったという自負でもある。つまり、歴史の中心は東北にあったと言いたいところなのだ。弥生人らの武力による征服組ではなく、穏やかに自然と共生してきた縄文人の伝統を保持してきた「魂」の美しさを謳歌したいところなのではないか。

  

  本書の結びには次のメッセージが書かれていた。

 「アテルイさまが果たせなかった夢をそなたらが引き継いでいくのだ」/ 天日子(ソラヒコ)の胸は大きく弾んでいた。/ 道はいつでも若い者らが切り開く。/ そう信じて進むしかないのである。」と。

             

 2011年の東日本大地震を体験した作者はきっと、この小説を描くことで東北人魂を掘り起こし、そして喚起し内外に宣言したのではないかと思う。ちなみに「水壁」とは何か。読み始めてわからずじまいだったが、表面的には川のことだったようだ。しかしここにいろいろな作者の思惑が込められているように思った。  

            

コメント
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