原題:『不能犯』
監督:白石晃士
脚本:白石晃士/山岡潤平
撮影:高木風太
出演:松坂桃李/沢尻エリカ/新田真剣佑/間宮祥太朗/芦名星/矢田亜希子/安田顕/小林稔侍
2018年/日本
エンターテインメント性を奪う抽象性について
ある電話ボックスを通じて殺人を依頼すると病死や自殺や事故に見せかけて相手を殺してくれる主人公の宇相吹正と、そんな宇相吹の超能力に惑わされずにいられる刑事の多田友子の対決を軸にして展開されるストーリーはどんでん返しの連続で決して悪くはないと思う。
だからネタバレになるような詳細な言及は敢えて避けようと思うのだが、サスペンスフルな本作は意外と抽象的であるという印象を持った。宇相吹正は依頼人の憎しみの「純度」を勘案した上で相手のコンプレックスを増幅させることで自滅に追いやるのだが、逆に言うならば、依頼人の憎しみの「純度」に少しでも「濁り」があるならば、その「濁り」の増殖によって依頼人自身が自滅に追いやられるのである。多田友子の強さは彼女の正義感が「純度100パーセント」のところであり、コンプレックスの無い相手に対して宇相吹正はなす術がないのである。
しかし宇相吹正のようなキャラクターが存在しないのと同様に、多田友子のような「まっさらな正義」もありえないために、残念ながらリアリティーに欠けるところが本作の物足りなさにつながってしまうのである。