原題:『Rebel in the Rye』
監督:ダニー・ストロング
脚本:ダニー・ストロング
撮影:クレイマー・モーゲンソー
出演:ニコラス・ホルト/ゾーイ・ドゥイッチ/ケヴィン・スペイシー/サラ・ポールソン
2017年/アメリカ
目の前にある「宝」を活かせない人について
J・D・サリンジャーの半生が描かれてはいるが、それは大学を何度も中退した後、小説家になることを目指すべくコロンビア大学の創作文芸コースの聴講生になった1939年、20歳からのサリンジャーからである。
一応無難にまとめられており、サリンジャーの「入門編」としては良質と言えるのではないだろうか。それにしても残念なのはサリンジャーの才能を見抜いて最初にサリンジャーの短編を自身が主宰する雑誌『ストーリー』に掲載したコロンビア大学の教師のホイット・バーネット(Whit Burnett)であろう。自らサリンジャ―の才能を見出し、長編小説を書くことも積極的に勧めていたのに『ライ麦畑でつかまえて』の出版権を持ち損ね、『ストーリー』は負債をかかえて倒産してしまうからである。
それでもサリンジャーはバーネットの教えに感謝し、「お金のためではなく、芸術のために書く」ことを信条とするのであるが、これは『ライ麦畑でつかまえて』が世界的に大ベストセラーになったから言えるのであって、『ライ麦畑でつかまえて』が売れてなければサリンジャーは生活費を稼ぐために小説を書いているはずである。
むしろ優秀なのはバーネットが小説を教材として取り上げ、『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督 2018年)においても短編集が話題になるウィリアム・フォークナーではないだろうか。