原題:『お米とおっぱい。』
監督:上田慎一郎
脚本:上田慎一郎
撮影:池浦新悟
出演:高木公佑/鐘築健二/大塩武/山口友和/中村だいぞう/リーマン・F・近藤/おくゆみ
2011年/日本
ブラックコーヒーという「美意識」について
10万円の報酬を目的にとある集会所に集まった4人の男たちを前に大学で心理学を教えている男が議長となって「明日この世からどちらかが消えるとしたら、どちらを残すべきか?」という命題で「お米かおっぱい」のどちらかを全員一致になるまで議論することになる。
しかしそもそもお米とおっぱいというのは食欲と性欲が違うように同じ土俵で議論できるものではないのだが、それは参加者の一人が指摘するように織り込み済みである。そうなるとお米とおっぱいは別の意味があるはずである。
実際に、やがて敵対するようになるのは農家の出身で画家のたまごとして雑誌のイラストなどを描いている若者と、コンビニで働きながら今すぐにでもお金を必要としている高齢の店員であり、それは美を追求する者と腹を満たしたい者の違いなのである。議論に煮詰まった店員が辛子明太子のおにぎりを粗末に扱ったり、若者が自分が描いている絵の画用紙を折って紙飛行機にして飛ばすなど葛藤も丁寧に描かれている。
「美」を巡っては他の参加者にもこだわりがあり、一人は服装倒錯者であり、もう一人のアイドル好きの英語の通訳者はかつらをかぶっている。最終的には「どっちも大好き」という結論で全員一致になる。
ラストで議長だった男がコーヒーの話をする。若い頃は砂糖をたくさん入れて飲んでいたのに、いつの間にかブラックコーヒーを飲んでいたというエピソードである。つまりいつから人は腹を満たすことから生活に「美意識」を取り入れるのかというのが本作のテーマなのである。
現在、学力を下げているものとして「マンガ、大衆雑誌、テレビ」を挙げているのだが、インターネットが抜けているのは、設定されている時代の問題なのだろうか。