MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『スポットライト』

2018-07-21 00:18:20 | goo映画レビュー

原題:『Zhgi!』 英題:『Light Up!』
監督:キリル・プレトニョフ
脚本:キリル・プレトニョフ
撮影:セルゲイ・ミハリチュク
出演:インガ・オゴルディナ/ヴィクトリア・イサコヴァ/ウラジミール・イリン
2017年/ロシア
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018

消えそうな夢をつなぐ方法について

 今は女性刑務所の看守として働いている45歳のアレフチナ・ロマノヴァは幼い頃同じ刑務所で慰問として歌を歌いに来ていたのであるが、伴奏してくれていた祖母が演奏中に急死したために歌手になる夢を諦めて看守として働いている。しかし彼女の歌声は衰えておらず、酔った勢いで歌っていたところを撮影され、それが動画サイトにアップされたことから話題になりテレビ局の新人発掘の歌番組『ライト・アップ』のプロデューサーのオルガ・ブゾバの取材まで受けるようになってしまうのだが、アレフチナの周囲は良い気がしない。高校生の娘のシュルカは喜んでいるが大工の夫は激怒し、刑務所の上司たちも仕事に支障が生じるとして機嫌が悪いのである。そんなアレフチナの背中を押すのがマリア・スターという囚人で、実は彼女が動画をアップした張本人である。マリアの伴奏でアレフチナはオペラの練習を始める。
 一方で、女性刑務所には問題があり、男性看守たちの女性囚人に対するセクハラがはびこっていたのである。アレフチナは地域緊急対策委員長のエレーナが対処することでモスクワに向かったのであるが、仮釈放されたマリアがエレーナの娘に歌のレッスンをすることになったことで実は男性看守たちとエレーナが繋がっていたことを知り、マリアがエレーナの家に立てこもる事態となる。モスクワで本番中のアレフチナが画面を通してマリアを説得するのであるが、結局、マリアは撃たれてしまい、モスクワにいるアレフチナはそのことを知らずに事件の解決を喜んでいる。
 ロシア版「アメリカン・ニューシネマ」といったところだろうが、不思議なのはポスターである。写っている女性はアレフチナではなくマリアを演じたヴィクトリア・イサコヴァ(Viktoriya Isakova)の方で、つまりそういうことなのである。


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『ザ・スワン』

2018-07-20 00:48:52 | goo映画レビュー

原題:『Svanurinn』 英題:『The Swan』
監督:アウサ・ベルガ・ヒョールレーフズドッテル
脚本:アウサ・ベルガ・ヒョールレーフズドッテル
撮影:マーティン・ノイマイアー
出演:グリーマ・ヴァールズドッテル/ソウルワルドゥル・ダヴィズ・クリスティアンソン
2017年/アイスランド・ドイツ・エストニア
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018

労働者が綴る「詩」の威力について

 主人公で9歳のソウルは夏休みの間、母親の妹が営む牧場で体験労働をすることになる。そこの夫妻には大学生の娘がいるのだが、久しぶりに帰郷してきた彼女は妊娠しており堕胎手術を受けることになる。毎年訪れている季節労働者と一緒の部屋で過ごすことになったソウルは彼のことが気になりはじめていたのだが、その季節労働者はその娘と良い仲になる。ソウルはまだ若すぎたのである。
 しかし本作には絶えず死が付きまとう。ソウルが世話をしていた子牛は屠られて家族や近所の子供たちに食されてしまい、カーニバルに参加した3人のうち労働者が体調を崩してしまい、娘が馬に乗せて帰宅する際に、誤って労働者を河に落としてしまうのである。
 目覚めたソウルはいつの間にか家に帰っており、2人の行方は分からないままだったのだが、娘は戻って来たものの労働者はどこへ行ったのか誰にも分からなかった。そんな時にソウルが対峙したのが白鳥だったのであるが、本作はまさに「白鳥の歌(Swan Song)」であろう。タルコフスキーの詩が引用されているのであるが、そっくりな美しい作風である。


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『ナンシー』

2018-07-19 00:22:45 | goo映画レビュー

原題:『Nancy』
監督:クリスティーナ・チョウ
脚本:クリスティーナ・チョウ
撮影:ゾーイ・ホワイト
出演:アンドレア・ライズボロ―/J・スミス=キャメロン/スティーブ・ブシェミ
2018年/アメリカ
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018 最優秀作品賞)

嘘をこじらせる嘘つきについて

 主人公で35歳のナンシー・フリーマンには父親がおらず母親のベティと一緒に暮らしているのであるが、体調を崩しているベティはナンシーに文句ばかり言っている。内向的なナンシーは人付き合いが苦手なのだが、例えば、北朝鮮に一人で旅行してきたと嘘をついて偽の写真まで用意して人の気を引くのである。
 ベティが突然亡くなって遺品を整理している時に、ナンシーは30年前に5歳の娘のブルックが行方不明になったリンチ夫妻をテレビで見たのであるが、ブルックの現在の似顔絵が自分に似ていることに気がつき、夫妻に電話をしてポールという名のネコを連れて会いに行くことにする。
 夫のレオは心理学者で妻のエレンは比較文学の大学教授だった。レオは当時のことをナンシーに訊きながら、DNA鑑定を頼むことにする。最初はぎこちなかった3人だが、エレンはナンシーのことを気に入り、ナンシーが書いたという「The Red House」という小説をジョーン・ディディオン(Joan Didion)の『ラン・リバー(Run, River)』を引き合いに出しながら褒めてくれたりする。
 DNA鑑定でナンシーはブルックではないことが暗に示された後に、エレンとナンシーが森を散策している際に、銃が暴発して倒れていた少年をナンシーが手際よく処置する様子を見てエレンはナンシーがブルックではなくても一緒に住んでいいと思っていたのだが、不思議なことにあれだけ平気で嘘をついていたナンシーがひるんでしまい、自ら真実を話す前、二人がまだ眠っている時に密かに車で去っていくのである。嘘が完璧で真実と化しているならば問題ないのだが、ついている嘘に少しでも疑惑を持たれてしまうと相手の思いやりでさえも嘘のように感じて受け付けられないというアイロニーが悲しい。


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『ザ・ラスト・スーツ』

2018-07-18 00:25:44 | goo映画レビュー

原題:『The Last Suit』
監督:パブロ・ソラルス
脚本:パブロ・ソラルス
撮影:ファン・カルロス・ゴメス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ/アンヘラ・モリ―ナ/ナタリア・ヴェルベケ/オルガ・ボラス
2017年/スペイン・アルゼンチン
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018

現代の「リア王」について

 主人公の88歳の仕立屋のアブラム(1927年1月15日生まれ)は引退と同時に子供たちに財産を処分され特養老人ホームに入れられそうになったことを契機に、戦時下でユダヤ人である自分を救ってくれた友人のピオトレックに自分が仕立てた服をプレゼントするために故郷のポーランドに向かった。
 実はアブラムにはマドリッドに住むクラウディアという娘がいるのだが、他の子供たちがアブラムに媚びを売っていた中でクラウディアだけがそれを拒んだためにアブラムの方から絶縁したのであるが、今になってそれを後悔していたアブラムは謝罪することでクラウディアとの関係を回復しようと目論んでいた。ところがクラウディアも兄弟から財産贈与を受けていたことを知り、アブラムは一人でポーランドに向かうことにする。
 身内の冷たさに対して、飛行機内で隣の席に座っていたミュージシャンのレオやホテルの受付嬢のマリアやドイツ人の人類学者のイングリッドやナースのゴジアなど他人が協力してアブラムをピオトレックに再会させるところが皮肉として効いている。


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『招かれざる者』

2018-07-17 00:10:12 | goo映画レビュー

原題:『T'padashtun』 英題:『Unwanted』
監督:エドン・リズヴァノリ
脚本:エドン・リズヴァノリ
撮影:ダニー・ノールトアヌス
出演:アドリアナ・マトシェ/ジェイソン・デ・リダー/ニキ・ファルカール
2017年/コソボ・オランダ
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018

説明されなければ分からない深刻で複雑な紛争について

 コソボから難民としてオランダに住むアルバニア人のザナは息子のアルバンの喧嘩っぱやさに悩んでいた。アルバンはルディの自転車店でアルバイトとして働いていたのであるが、ルディの孫のゾフィの友人のアナと交際するようになる。しかしアナの父親はコソボ出身のセルビア人で父親は2人の交際に反対していた。
 そんな時、母親が亡くなったことを知らされたザナはアルバンを連れて実家に戻って葬儀に出席したのだが、絶縁していた父親に見つかって追い返される。近所に住んでいる親友だったリリーの家を訪れ、久しぶりの再会に2人とも感激するのであるが、ザナが泊まらせて欲しいと言うと急にリリーの態度が変わり、やんわりと断られる。リリーの娘もザナという名前で明らかに親友の名前から取っているはずなのだが、「娘のザナはアルバンよりもずっと若い」と言い残して家の扉を閉めてしまうのである。ここらあたりのリリーの急な感情の変化はなかなか理解しにくい。さらにその後、2人の交際に反対していたアナの父親がアルバンを家に招き入れることも不可解なのであるが、上映後の監督の説明で納得できた。ザナの父親が娘を忌み嫌う原因も、アルバンの言動が荒い理由も全てはコソボでザナの身に起こったことが全てだったのである。
 本作で使用されていたオランダのシンガーソングライターのブラウズーンの「マンデー」を和訳しておきたい。

「Monday」 Blaudzun 日本語訳

マンデー
少年たちが遊びに出かける時
君は一人でいるだろう
朝の君は弁舌が冴えわたる
昨日という響きは
もはや君が愛する人を傷つけることはない
悲しいメロディーは忘れよう
君はどん底から元気になれるから
それはトランポリンのような喜びだ

マンデー
君は削除すれば
元気になれるよ

マンデー
少年たちが遊びに出かける時
君は一人でいるだろう
朝の戦闘地域で
最初に息抜きの場所を見つけよう

マンデー
君は削除すれば
元気になれるよ

マンデー
君は削除すれば
元気になれるよ

マンデー
君は削除すれば
巻き戻しは出来ない

BLAUDZUN - MONDAY (Official Video)


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『ダーリンの憂い』

2018-07-16 00:06:36 | goo映画レビュー

原題:『Darling』
監督:ヴアギッテ・スターモス
脚本:キム・フォップス・オーカソン
撮影:マレク・セプティムス・ウィーザー
出演:ダニカ・クルチッチ/グスタフ・スカルスガルド/ウルリク・トムセン
2017年/デンマーク・スウェーデン
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018

「パイオニア」の計り知れない苦労について

 世界的に有名なデンマークのバレリーナのダーリンはコペンハーゲンのロイヤル・デンマーク・バレエ団で『ジゼル』のリハーサル中に怪我をしてしまい、代役に若手ホープのポーリーが抜擢されることになる。
 夫で振付師のフランツと共にポーリーの指導に当たるのであるが、内心ではポーリーに良い気がしない理由は、もちろん自分のプリマバレリーナとしての立場を脅かすだけではなく、自分が作ったポジションに自分が味わった苦労もせずにポーリーが就くことが許せないのである。だからダーリンは怪我をした際に使っているクスリと同じものをわざわざポーリーに使わせたりするのである。あるいは詳細には描かれてはいないが、自分がプリマバレリーナに、フランツが振付師になるために劇場の支配人であるクリスチャンと同衾したのかもしれない。
 しかしクライマックスでポーリーの演技を見たダーリンはようやくポーリーを認めるに至るのである。ラストでダーリンが街中を去っていった後に、画面に映っている信号が全て赤に変わるシーンが洒落ている。
 最後に本作で使用されていたポーティスヘッドの名曲「グローリー・ボックス」を和訳しておきたい。

「Glory Box」 Portishead 日本語訳

この弓とこの矢をもてあそぶことに私はすっかり疲れてしまった
私は本音を言うつもり
遊ぶためなら弓矢は他の女の子たちに置いて行く
遊び相手の女として私はあまりにも長く演じすぎたから

ただあなたを愛する理由を私に教えて欲しいの
女性でいられる理由を私に教えて欲しい
私はただ女性でいたいのよ

これからは解放されて
私たちは違うイメージを描くことになる
心の中の新しいフレームを通じて
数え切れないほどの花が咲けば
私たちは少し離れてそれぞれの居場所が持てる

ただあなたを愛する理由を私に教えて欲しいの
女性でいられる理由を私に教えて欲しい
私はただ女性でいたいのよ

だから男であることを止めないで欲しい
ただ外側から眺めてみるだけで
泣こうがどうしようが
あなたは小さなやさしさをまくことができる

これは永遠の始まり

この弓とこの矢をもてあそぶことに私はすっかり疲れてしまった
私は本音を言うつもり
遊ぶためなら弓矢は他の女の子たちに置いて行く
遊び相手の女として私はあまりにも長く演じすぎたから

ただあなたを愛する理由を私に教えて欲しいの

Portishead - Glory Box


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『最後の息子』

2018-07-15 22:29:32 | goo映画レビュー

原題:『Last Child』
監督:シン・ドンソク
脚本:シン・ドンソク
撮影:イ・ジフン
出演:チェ・ムソン/キム・ヨジン/ソン・ユビン
2017年/韓国
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018 審査員特別賞

韓国の埋められない「格差」について

 インテリアデザイナー業を営むスンチョルと妻のミスクは去年の2016年の8月に高校生だった息子のウンチャンを水難事故で亡くしていた。ウンチャンは溺れている友人のキヒョンを救おうとして代わりに犠牲になったのである。
 ある日、スンチョルは友人たちにいじめられているキヒョンを見て、自分の会社にアルバイトとして雇い入れる。それだけでなく資格を取らせるために参考書を購入し、キヒョンは彼らの期待に応えて資格試験に合格するのである。
 ところがキヒョンが急に仕事に来なくなり、心配したミスクがキヒョンの家に訪れるとキヒョンが驚くべき話を始める。実はウンチャンは友人のジェチョンに連れられて自分たちのグループと諍いになり、ジェチョンの代わりにウンチャンがいじめられキヒョンが溺死させたというのである。
 驚いたミスクとスンチョルはグループのリーダー的存在だったギョンソクを中心としたグループのメンバーを警察に告発したのであるが、メンバーたちは既に口裏を合わせており、ギョンソクの父親は会社の社長ということで捜査は打ち切りになるのである。
 絶望したスンチョルとミスクは会社を畳んで自殺する決心をする。最後にキヒョンと共にピクニックに出かけるのであるが、怒りが治まっていないスンチョルはキヒョンと2人きりになったところで首を絞めて殺そうとするのであるが、止めを刺すことはできなかった。その直後キヒョンは近くの川に向かい、服に石を詰めて川に向かって歩いて溺れているところを後から追いかけてきたミスクに助けられて命を救われるのである。
 いまだに埋められない韓国の格差社会が描かれているように思う。


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『ブリス、マイ・スウィート・ホーム』

2018-07-14 23:55:40 | goo映画レビュー

原題:『God Bliss Our Home』
監督:ナウルズ・パギドポン
脚本:ナウルズ・パギドポン
撮影:ナウルズ・パギドポン
出演:ナウルズ・パギドポン
2017年/フィリピン・韓国
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018

 パーソナルなドキュメンタリー映画の「甘さ」について

 「ブリス」とはマルコス政権時代に建てられた集合住宅の名称である。パギドポン監督はフィリピン大学卒業後も故郷のミンダナオに戻ることなくマニラで映画製作という夢を追い続けているのであるが、原題「神は僕たちの家をすごく幸せにする」という意味がマルコス政権に対するアイロニーとして使われることはなく、このドキュメンタリー映画は都会にこだわる監督と故郷に戻って来て欲しいと願っている彼の母親の諍いがメインテーマとなる。
 アニメーションなども駆使して工夫は施されているのだが、ストーリーがそれほど盛り上がらない理由は、最後まで監督と母親のわだかまりが解消されることがないからであろう。だから本作は敢えて「未完」として「和解」するまで2人の関係を描き続けるべきではないだろうか。


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『パンク侍、斬られて候』

2018-07-13 22:16:41 | goo映画レビュー

麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚の死刑執行…第一報は日テレ「スッキリ」がテロップ速報
麻原彰晃死刑執行 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【前編】
麻原彰晃死刑執行 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【後編】

原題:『パンク侍、斬られて候』
監督:石井岳龍
脚本:宮藤官九郎
撮影:松本ヨシユキ/尾上克郎
出演:綾野剛/北川景子/東出昌大/染谷将太/浅野忠信/村上淳/國村隼/豊川悦司/永瀬正敏
2018年/日本

パンクが作り出すアナーキーの是非について

 麻原彰晃を含む7人の死刑囚の刑が執行されたニュースを聞いた直後に観たためなのか、本作に登場する新宗教団体「腹ふり党」がどうしてもオウム真理教とダブって見えてしまった。
 そもそも腹ふり党の元大幹部だった茶山半郎のふざけた顔にしても麻原彰晃の顔にしても誰もがやり手だとは思えない彼らの風貌こそが油断の元で、掛十之進や内藤帯刀が権力闘争の中で上手く利用してやろうと目論んだのであるが、何故か部下として優秀なはずの幕暮孫兵衛や超能力を有するオサムが彼らが抱えるコンプレックスを刺激されたためなのかハマってしまい、茶山半郎は何も言わないが茶山の後ろに付いている仮面を被った2人の男たちの声に従って「ろん」と呼ばれる美人の広告塔の元、「聞きたいことしか聞きたくない」人びとの絶大な支持を得るところなど、オウム真理教の成り立ちとそっくりである。
 冗談半分だった「腹ふり党」が大勢を巻き込んで冗談でなくなってしまい、黒和藩の藩主である黒和直仁が全くユーモアを解さないことが事態をさらに深刻化させ、ついには大臼延珍が率いるサルの軍団に頼らざるを得ないという皮肉が強烈であるが、何よりも「腹ふり党」が暴走を始めたきっかけがある殺人だったことも同じなのである。今年の邦画の最高作かもしれない。


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『快盗ルビイ』

2018-07-13 00:52:57 | goo映画レビュー

原題:『快盗ルビイ』
監督:和田誠
脚本:和田誠
撮影:丸池納
出演:小泉今日子/真田広之/水野久美/加藤和夫/伊佐山ひろ子/天本英世/陣内孝則
1988年/日本

コメディアンとしての真田広之の演技について

 本作は名作と呼ばれているようである。確かに冒頭で主人公の加藤留美が引っ越し先にもってきたハンフリー・ボガードのパネルなど和田誠監督が見せる映画的記憶は申し分はないし、加藤留美を演じる小泉今日子の可愛さも絶好調だったとは思うのだが、その相手の林徹を演じた真田広之のコメディアンとしての演技が「正しい」のかどうか、『恋は雨上がりのように』(永井聡監督 2018年)の大泉洋の絶妙な演技を見た直後もあって疑問が残る。せめて留美の恋人を演じていた陣内孝則と真田の配役を変えるべきだったと思うのだが、それぞれの所属事務所の力関係で無理だったようだ。


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