霜柱踏んで入りゆく奥山の音は足元に聞こゆ道行
凍み風に身体は冷えてゆくままに汗など遠きひとり枝打つ
竹倒し陽の当たりたる林床で眩しく仰ぐ大寒の空
昼過ぎて霜の消えざる北影の谷地通るたび白き息はく
尾根上部の除伐を開始した。やることは同じでも作業ルートを開く意味合いがあるから、少しは気分転換になる。
尾根の散策道にいたる急傾斜の細い尾根を作業道に決めてとりあえず除伐を開始する。およそ50本程度伐り倒したところでガス欠になり、リブバンドをしている身だから早目の作業終了とした。
太い竹のみを倒して、細いのはそのままだが尾根の空が望めるようになった。また風が吹き上げてくるようにもなって、この一瞬は何回味わっても気分が良い。これから林内の小竹と常緑樹を除伐するが、小面積だから除伐するだけで二日か三日も見れば良いだろう。やはり竹を刻むのが厄介だ。
歓声が聞こえるので振り返れば、顕わになった林の向こうに子ども達の遊ぶ姿が垣間見える。小さな溜池に、と言っても水は深みに少しだけなのだが、泥の底を楽しんでいる様子だ。こんなことも気分転換に良い薬である。
トンボ池の水面がだだっ広いだけで身を隠す場所も少ないから、切り株二つ調達して配置した。欲を言えば、もう少し大きな物が欲しかったのだが肩に乗せて運ぶのは、これくらいが限界だった。
幹の太さは一尺前後といったところだろうが腐朽が進んでいるから、本当に枯木そのものだ。花を添えれば生け花の素材にも使えそうだった。竹を切っても切っても「かぐや姫」は現れなかったし、池を掘っても掘っても「埋蔵金」は出てこなかった。
せめて「ここ掘れワンワン」が当たらなかったとは言え、「枯木に花」は出来るのだと、エッチラオッチラと山道を運んで据えたのだ。ただ朽ちるに任せたままの切り株も、これでようやく花を持たせてもらえたのである。お役にたった!

クシャミや咳をするとビリビリ痛むし、起き上がる時や深呼吸の時も痛む。呼吸は陰圧時は痛まないが胸を膨張させると痛い。心当たりを指でなぞると痛点がある。「もしや?」が「やっぱり!」と確信に変わるのに躊躇はなかった。なにせ22ヶ月前に体験済みの症状だ。
トレイル脇に小鳥のなきがらがあった。損傷も少なく発見できるのは稀だ。一見、スズメのようだが胸部は鮮やかな黄色でアオジかと思ったのだが、頭部の色彩からノジコではないかと推測した。
腹部が多少乱れてはいるものの、捕獲されて息絶えたとも思えなく、「鳥インフルエンザ?」と脳裏に浮かんだから手をつけずに置いた。
通常は羽毛だけしか発見できないのが多いのだけれど、前日、前々日との2日間の出来事であるから、餌にならずに済んでいるのは、何か忌避される要素があるのだろうと思っている。しかし野鳥の羽毛は地味だけれど、眺めるほどに美しさが伝わってくる。もちろん自分でお化粧したわけではないが、造形の神は精緻であると共に消え逝く時は人知れずあっけない。
加速して斜面を滑る太き竹笹葉衝き抜け谷に突き射る
大竹は地響き立てて倒れたり沢を乗り越え向こうの斜面
竹を伐る風さむざむと背に凍みて独り伐る山陽は有り難き
横に伏し今は静かな大竹も半時前は風と張り合う
ようやく予定域内に生えていた侵入竹を全伐した。開始してから約一ヶ月、延べ人数にして70に達した。まだ林床の集積は終えてなく、もう数日、10人工くらい必要とする見込みだが気分的にも一息つける。
今日は季節風が強くて、竹の重心方向とは逆の風向きだったから、倒すのに手間が掛かった。風も一定ではなく息継ぎをするから、風による重心方向の偏移がうっとおしい。その上、足場の悪い場所ばかりだったから、足場を作るために竹を敷いて、その上で作業する事が多かったので、重心の偏移は厄介だった。
危惧していた通り、竹を集積した上で切り込みを入れようとした時、竹がスライドしてバランスを崩した。近くの竹に手を添えたまでは良かったが古竹で、根元から折れて一緒に倒れてしまった。右の胸を竹の切り口でしたたか打ったが骨折までには至らなかったようだ。それでも息を大きく吸うと痛みが走る。
回避したほうが良いと判断しても、状況的にその条件で行わなければ出来ない作業もあって「リスクは取らない」と言うわけには行かないのが現実だ。
父母と耕し畑はすでになく見渡すかぎり穭田の霜
父眠る墓の中には母おらぬ祖父母もおらじ御先祖もなき
招魂所並ぶ戦士は前髪の会津長州薩摩の藩子
仔を取られ三日三晩呼ぶ牛の声はいまだにこの身の奥に
故郷は遠くにありて想うもの思いて痛む胸に風吹く
山里は雪降り積みて道もなし今日来む人をあわれとは見む 平兼盛
沢道は雨降り積みて道流る今日来る人はあわれや見えず
み吉野の山の秋風さ夜更けてふるさと寒く衣打つなり 藤原雅経
身よしなし山も秋風白湯冷えてふるさと遠く鼓動打つ胸
秋は来ぬ年も半ばに過ぎぬとや萩吹く風の驚かすらむ 寂然
飽きはこぬ歳は半ばも過ぎぬとや禿吹く風は冷たく掠る