先日、読みかけのこの本について、次のように書いた。
小熊英二「〈(民主〉と〈愛国〉~戦後日本のナショナリズムと公共性~」(新曜社 2002)を読み始めた。300ページほど読んだが、まだ3分の1にも届かない。全文で964ページという大著だ。 大著と言っても、本著に書かれている同時代を過ごした記憶がある私にとっては、結構すらすらと読めてしまう本である。
著者は1962年生まれなので、戦後の混乱期はもとより、60年代の安保紛争も体験はしていない。丹念に資料を分析し、分かりやすく記述した点が評価される。 かなり年上の私は、たった1度だけだが竹内好の講義を聴いた記憶がある。次章がその竹内好を採り上げているので、楽しみだ。
ようやく、読了したのだが、率直に言って長すぎると思った。竹内好あたりまでは真剣に読んだが、それ以降は、自分自身が同時代を体験しているという”既知感”があって、かなり読み飛ばした。
全体の印象としては、「戦後思想グラフィティ」ということか。「グラフィティ」(Graffitti)とは、いたずら書きの意味だが、著者がそういう意図で書いたという意味ではない。異なる世代の著者が、戦後思想を総括した結果が、我々には「戦後思想グラフィティ」に映るということだ。
この本はかなり高価(6,300円)だ。どのような読まれ方をしているのだろうか。教科書としては散漫に過ぎる印象だし、だいたい今時の学生が読み通すことが出来るのだろうかと思う。「思想史」なんて、最も人気のない分野だろうから…。
結局、研究のための研究という印象を強く受けた。時が移り、「同時代」が「歴史」に変わっていく時、こういう本が出るのだなと思った。