村田公平という元スイス駐在大使が、9月5日、野田首相に書簡を出し、福島第一原発4号機の危険性について指摘し、脱原発を訴えた※。
※ http://www.tax-hoken.com/news_aibnovpsGM.html?ranking
この村田氏は、はっきりと脱原発を志向して運動をしている人らしい。しかも、天津科学技術大学名誉教授などという肩書きもお持ちなので、ある種のバイアスがかかった立場にいるのかも知れない。
それを承知の上でなお、彼の指摘には首肯できる点が多い。まず、「日本のマスコミが危機的状況を報じない福島第1原発4号機」については、まさにそのとおり。「独立行政法人科学技術振興機構(JST)元理事長、北澤宏一氏は、もし火災事故などが発生すれば、北半球全体が深刻な被害を受け、現代日本は滅亡する、と予想する。」 3.11後の危機の一週間で、最悪の場合、首都圏三千万人の避難が必要だったと後に明らかにされている。最悪のシナリオの根拠となったのが、この4号機の燃料プールの問題。今なお燃料プールは瓦礫に埋もれた原発建屋の上階に放置されたままだ。
野田首相は「原発の冷温停止状態」を宣言したが、それをまともに信じる人は誰もいない。問題の隠蔽なのか先送りなのか、どちらにしてもごまかしだ。
もうひとつ、原発事故処理が東電に委せっきりであることを懸念する。「こういった危機的な状況にもかかわらず、4号機の管理は東京電力に任されたままだ。現場作業の予算を同社が削るため、燃料棒取り出し作業は進まず、日本だけでなく世界を長く危機にさらし続けている。」
うそばっかりの原発事故情報。もう大丈夫だなんて思っていると、次の大地震でカタストロフィがやってくるのかも…。
私自身は、この村田氏のように「日本は不道徳な国家」だとは思わない。「原発冷温停止状態」宣言も、日本の「安全」を世界にアピールするための苦肉の策という側面もありように思われるからだ。この小さな日本列島に住む運命共同体のひとりとして、中国人や韓国人が言いかねない「日本は不道徳な国家」という台詞を受け入れる気持ちにはなれない。
日本政府の無責任を世界が糾弾
村田公平元スイス大使は5日、野田首相宛に送った書簡の内容を公開した。それによると日本のマスコミが危機的状況を報じない福島第1原発4号機について、世界は危機感を抱き、責任を持って対処しない日本に対して「不道徳の烙印」を押しているという。
不安視される福島第1原発4号機
福島第1原発4号機にある燃料プールには、大量の未使用・使用済み燃料が格納されている。一連の事故により、4号機もメルトダウンをおこし、建屋や格納容器が大きく破損。現在の強度について、世界中から不安の視線が注がれている。
施設を分析した独立行政法人科学技術振興機構(JST)元理事長、北澤宏一氏は、もし火災事故などが発生すれば、北半球全体が深刻な被害を受け、現代日本は滅亡する、と予想する。
こういった状況を受け、米上院エネルギー委員会の有力メンバーであるロン・ワイデン議員がヒラリー・クリントン国務長官に深刻な事態について報告。
8月24日から広島で開催された核戦争防止国際医師会議(IPPNW)では、世界の脅威となっている問題を東京電力という一企業にゆだねている日本について、「加害者としての罪悪感に欠ける」とする厳しい視線が向けられたという。
津波は来ない 燃料棒は燃えない
8月31日に衆議院第一議員会館で講演をおこなった原子力施設の専門家、アーニー・ガンダーセン氏も現在の状況に強い懸念を示す。
4号機に格納されている燃料棒はジルコニウム合金で覆われている。米国でこの燃料集合体が燃えるかどうか、実験したところ、空気に触れると発熱し燃焼したという。
東京電力に対して同氏が「火災がおきた場合、火を消すための準備をしているか」問い合わせたところ、東電からは「使用済み燃料プールに燃えるものはない」との返答があったそうだ。「津波は来ない」としていた東電は、今度は「燃料棒は燃えない」と決めつけているようだ。
もし燃料棒が燃えだした場合、事前の消火準備がなければ、再度の惨事が予想される。水をかけて消すことができないためだ。
高温の燃料棒に触れた水は、酸素と水素に分離する。酸素はジルコニウム合金の被覆を溶かし、水素は爆発するため、放射性物質が一気に拡散することになる。
日本は不道徳な国家
こういった危機的な状況にもかかわらず、4号機の管理は東京電力に任されたままだ。現場作業の予算を同社が削るため、燃料棒取り出し作業は進まず、日本だけでなく世界を長く危機にさらし続けている。
さらに原発推進体制をあらためず、原発輸出や再稼働に踏み切った日本は世界から「不道徳の烙印を押されたも同然」と語る。
【村田公平氏のHPより引用】
野田佳彦内閣総理大臣殿
拝啓
時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
ご報告申し上げた通り、去る8月31日のアーニー・ガンダーセン氏の院内での講演会で、二つの重要な事実が判明いたしました。
第一に世界が安全保障問題として注目するに至っている4号機問題につき、経産省及び東電の課長クラスの実務責任者が事故後1年半を経て全く理解しておらず、最悪の場合、燃料棒が大気中で燃焼する可能性を一切想定せず、対策も考えていなかったことです。議場が罵声と怒号で包まれたのは当然です。全国から反響に接しております。ご賢察の通り事故処理への対応は、このような実態をさらけ出した現体制では到底十分とは言えません。
第二にアーニー・ガンダーセン氏は、4号機の未使用の202体の燃料棒集合体及びすでに放射線の低くなっている600体を合わせて1533体の3分の2は今からでも取り出せる旨、そしてその作業が終わる1年半ぐらい後には残りの取り出しが可能となると指摘しました。来年末まで待つことなく作業を始められるとの見解が示されたのです。現場で事故処理に携わる会社の責任者も予算を東電の担当者に半分に削られたりする現状を改め、国が全責任を担う体制にすればガンダーセン氏の提言に沿うことは困難が伴うことはあっても可能との見方をこのほど私に述べております。
4号機について、フランスの有力誌「ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」は先月掲載した記事の中で「最悪の事故はこれから起きる」とする記事を掲載しました。この記事では、北澤宏一元JST理事長など、同施設のデータを分析した専門家を取材、北半球全体が長期にわたって深刻な汚染にさらされ、現代日本は滅亡すると指摘する声を伝えております。
また同誌は、この事態の危険性を日本の政府やマスコミはいっさい伝えないが、欧米諸国では早くから危惧されてきており、米上院、エネルギー委員会の有力メンバーであるロン・ワイデン議員は昨年6月、ヒラリー・クリントン国務長官に深刻な状況を報告したと指摘しております。
去る8月24日より3日間、広島で開催された核戦争防止国際医師会議[IPPNW]の世界大会に出席しスピーチをしてまいりましたが、海外からの4号機問題への関心は高まる一方です。世界を脅かすこの問題への対応を東電に委ねて国として最大限の対応をしていないこと、そして放射能汚染による加害国としての罪悪感に欠けることについて海外から厳しい目が向けられ出していることを同大会に出席して強く感じました。
以上を踏まえ、次の諸点を要望させていただきます。
1.原発ゼロ政策の確立
2.事故収拾については国が全責任を負い4号機からの燃料棒集合体取り出しの作業を早急に開始すること
3.人類の叡智を動員するため中立評価委員会及び国際技術協力委員会を設置すること
4.福島事故の教訓は原発事故は人類が受容できない惨禍であることを立証するものであり、そのような可能性は完全にゼロにする必要があることを世界に発信すること
原発は倫理と責任の欠如に深く結びついたものであるとの認識が、急速に国際に広がりつつあります。福島事故以後も原発推進体制が改められることなく、原発輸出、再稼働などにより不道徳の烙印を押されたも同然の日本の名誉は大きく傷つけられております。
貴総理がこの際、強力な指導力を発揮され、広島、長崎、そして福島を経験した日本として当然打ち出すべきものと世界から期待されている脱原発政策の確立を実現され、日本の名誉を挽回されるよう心からお願い申しあげます。
貴総理のご健闘とご自愛をお祈り申し上げます。