遅ればせながら、平松茂雄著「中国は日本を併合する」(講談社インターナショナル 2006年)を読む。
先日、尖閣諸島で中国の「民間」漁船が、海上保安庁の監視船に故意に衝突させる事件が起きた。NHK、TBS系、テレビ朝日系の報道では、日本国内で反中意識が高まらないように配慮した報道姿勢が目立った。仙石官房長官は、衝突事件や中国政府が日本大使を深夜に呼びつけて抗議した一件について、「遺憾である」としか言わず、かえって、台湾漁船の抗議行動に対しては、「台湾政府というか台湾に厳重抗議する」と憤ってみせた。旧・日本社会党出身で人権派弁護士、護憲運動家という仙石だが、要職についてもなお、親中国的政治姿勢は一向に改まらない。これほどまでに中国に媚び、民主主義国家である台湾を軽視する官房長官は、いまだかっていなかったはずだ。日本政府の中枢に、祖国よりも中国にシンパシーを寄せる政治家がいるとは、驚くべき事態だ。
菅政権の中でまともな対中認識を持っているのは、前原外務大臣だろうか。「東シナ海には領土問題は一切存在しない」と言った彼の態度は高く評価できる。事実、国際法に照らして尖閣諸島は、疑いなく日本領土なので、「領土問題」「尖閣諸島問題」というものは存在しないのである。
さて、本書は次のような構成だ。
序章 動き始めた「日本併合」に向けた中国のシナリオ
第1章 知らないうちに格段に進んだ中国の軍事力
第2章 東シナ海資源開発に隠された中国の真意
第3章 中国の「他国侵略」の歴史
第4章 日本は海からの侵略に耐えられるか
第5章 2010年、日本の運命の行方
第5章で著者は、2010年、すなわち今年が、日本の運命の分岐路となると予言した。中国の宇宙開発が進み、宇宙からの日本攻撃も可能になるのが今年だというのが、その予言の根拠だ。だが、中国海軍の軍事力も飛躍的に向上し、日本のシーレーンを脅かしている。
著者は、中国が意図するのは「中華世界の再興」だとする。1995年、李鵬首相(当時)がオーストラア首相に「日本などという国はこのままで行けば、二十年後には消えてなくなる」と語った。
「中国要人の発した”消えてなくなる”という言葉は、中国の軍事力を背景とした大国化と、それを容認、あるいは援助する日本という構図に鑑みれば、文化や精神の消滅を遙かに超えた、日本の存在そのものにかかわる予告と見なすことのほうが、現実性をもつのではないだろうか。中国は日本に対する評価を終えているのである。」(p.202)
中国の軍事力をここまで強大化させたのは、日本の「平和外交」だと著者は言う。
「日本政府は中国に対して、1979年から2004年までに、3兆3000億円、民間援助も合わせると、総計6兆円を超える援助を供与してきた。…つまり、ODAによって日本は、中国の経済成長を支え、対日貿易による巨額の黒字を積み上げさせ、今や実質世界第一位の外貨準備高を樹立させるのに貢献したばかりか、核と海洋と宇宙とを推し進めて、強大な軍事国家へと成長する中国の国家戦略を後押ししてきたのである。」
「総額6兆円を超える対中国経済援助の出所は、いうまでもないが日本国民の税金や資産である。一億2000万人の日本国民が、この25年内外に一人あたり約5万円の援助をしてきたことになる。」(p。192-193)
中国政府は、優越感と劣等感がミックスされた日本人の対中意識を巧みに操作して、日本から援助を引き出してきた。「中国をみくびったツケ」をわれわれはいま、払わされようとしているのだ。
著者・平松茂雄氏は、慶應義塾大学塾長であった故・石川忠雄氏(中国政治論)の一番弟子。長らく防衛研究所で研究を続け、中国の軍事問題の第一人者である。本書のタイトルを見ると、数多のトンデモ本のような印象を受けかねないが、その内容は、実証に基づいた真面目で確かなものである。
中国は日本を併合する 平松 茂雄 講談社インターナショナル このアイテムの詳細を見る |