遅ればせながら、「毛沢東~日本軍と共謀した男」(遠藤誉 新潮新書 2015年)を読む。
本書の書評については、国際政治学者である藤井厳喜氏の映像があるので、下記に貼り付けた。
著者の遠藤誉には「卡子(チャーズ) 出口なき大地」(1984年)という自伝的著作がある。二十年以上も前、私はこの本を読んで、大きな衝撃を受けた。新京(長春)における生き地獄のような実体験が、そこには記されていた。
毛沢東や中国共産党について、私たちの世代が読まされた本と言えば、ルポルタージュでは「中国の赤い星」(エドガー・スノー)、「中国紅軍は前進する」(アグネス・スメドレー)、通史では「中国現代史入門」(岩村三千夫)を筆頭に左翼学者が書いた本が推奨されていた。E.スノーなど米国人ジャーナリストのルポは、今から見れば、中共(=中国共産党)のプロパガンダを鵜呑みにした内容であることは明らかなのだが、当時はそんなことは夢にも思わなかったのである。
私は、宇野重昭先生の「毛沢東」「中国共産党史序説上・下」を熟読した。客観的に書かれた名著で、講義も聴講した関係上、今でも記憶に鮮やかだ。さらに「中国共産党史研究」(石川忠雄)も米国の中国研究の影響を受けた「客観的」研究としてよく知られていた。
だがしかし、従来の研究のほとんどは、多かれ少なかれ路線闘争の道筋を描き、その勝者の正当性を主張するという中共党史(中国共産党の公認史観)に依拠して書かれているので、コミンテルンとの関係を筆頭によく分からない点が多かった。
その点、遠藤誉「毛沢東」は、類書とは全く違う。中共を持ち駒と考えるコミンテルンの謀略性、さらにコミンテルンさえも手玉に取った毛沢東の冷酷非情が描かれる。国民党政府軍が日本軍と戦うように仕向け、中共の軍隊である八路軍の温存を図り、大衆に対しては巧妙なプロパガンダを仕掛ける。ただ待つのは日本の敗北のみ。本書の帯に書かれている毛沢東の言葉「日本軍の進攻に感謝する」がすべてを物語っている。