親族の遺品を整理していたら、昔の写真がたくさん出てきた。この写真は、東京都八王子市上恩方町上案下(かみあんげ)の昭和の初めの光景。当時は、東京都南多摩郡恩方村上案下という地名だった。
昭和初期、恩方村上案下(現・八王子市上恩方町上案下)の風景
どこにでもある典型的な山村の風景だが、第二次大戦の戦中・戦後期、この村に移り住んだ文筆家がいた。「きだみのる」がその人だが、今やその名前を知る人も少ない。
「きだみのる」をWikipediaで検索すると、次のように書かれている。
「若年期は転居、家出、旅を多くする。アテネ・フランセ創設者のジョセフ・コットに身近く薫陶を受け、後には仏語教師として自らもアテネ・フランセの教壇に立つなどした。開成中学~慶應義塾大学中退後にパリ留学。ソルボンヌ(パリ大学)でマルセル・モースに師事し社会学・人類学を学ぶ。帰国後は戦中戦後の長期に亘り、東京恩方村に、こもるようにして暮らすことになった。1948(昭和23)年『気違い周游紀行』で第2回毎日出版文化賞を受賞。」
きだみのるの代表作「気違い周游紀行」は、この恩方村(現・八王子市恩方)の「ムラ社会」における人間模様を描いた作品。今や「放送禁止用語」となった「気違い」と「」が重なった書名であるから、勘違いして、眉をひそめる人もいるかも知れない。だが、もちろん、「気違い」が登場するわけでも、「問題」を描いたものでもない。日本の原風景とも言える「ムラ社会」を、近代主義的な立場から、ユーモアも込めて描き出した作品だ。
この恩方地区は、童謡「夕焼け小焼け」の里としても有名。作詞者の中村雨紅(1897-1972)※が生まれ育った村でもあるからだ。
※ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E9%9B%A8%E7%B4%85
今やこの写真の面影は、残っていない。写真ではきれいに手入れされているように見える山や林が、現在ではかなり伐採されて放置されているのが残念だ。
なお、きだみのる著「気違い周游紀行」は、現在も入手可能。それだけ、普遍性のある作品なのだろう。興味のある方は、下記のamazonをクリック!
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冨山房
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