江戸時代の俳人・松尾芭蕉に、「閑さや岩にしみいる蝉の声」という句があります。「なんと静かになんだ。蝉の鳴き声しか聞こえない。かえって静けさがつのるように感じられる。蝉の声は、まるで岩々にしみこんでいるように静かだ。」というところでしょうか。
私が現在地に越してきた頃は、柏林がいくつもあって、夏になると蝉の声がジージー聞こえていました。蝦夷クマゼミという蝉です。
まだ住宅もまばらで、うるさいほど鳴いていました。車の往来もなく、蝉の声だけが聞こえていました。休日の午後、その声を聞きながら昼寝をすると、うるさいはずの蝉の声が何故か静けさを誘い、いつの間にか寝込んでいたのを思い出します。
私が子供の頃、蝉の抜け殻のことを「ドンチ」と呼んでいましたが、これは北海道だけでしょうか。十勝だけでしょうか。朝、柏林に行くと、草や木の1m前後のところに「ドンチ」がたくさん地中から這い出して、脱皮をしている姿が見られました。背中が割れて白い透明な蝉が抜け出して、折畳まれた羽が少しずつ伸びていきます。やがて、透明だった蝉に色がつき羽がピーンと伸びて、やっと成虫になります。
地中で6~7年暮らし、地上に出てきて、ゆっくりと時間をかけて成虫になり、1週間ほどで、その生涯を終えるといわれます。そう思うと必死に声を張り上げ、メスを誘っているオスが気の毒に思えてなりません。
最近、蝉の声を聞きません。道路の拡幅とか、倒木の恐れがあると柏の木が切り倒されました。蝉の生息する環境が消えてしまったのです。
夏休みになっても、子どもたちは蝉を捕ることさえ知りません。こんな小さな環境破壊が、地球温暖化に繋がっているのかも知れません。
松尾芭蕉:寛永21年(1664年)~元禄7年10月12日(1694年11月28日)は現在の三重県伊賀市出身の江戸時代前期の俳諧師。
したっけ。