今日はいつものように港へ夜間採集に行く。明日の日曜日は朝からイベントがあるのでさっと済ます予定。最近はあまり収穫はなく、今回もサッとひと通り確認するがいつものメンバーばかりである。帰り際にいつも外灯の下に群れている大きなボラに目をやると、そのうちの1個体の体側の両側にヒダ状になった寄生虫がいくつも付いている。どんな寄生虫だろうかと確かめる為、そのボラを掬ってみる。するとボラには逃げられてしまったが、タモ網の中にはイケカツオの幼魚が2個体入っている。暗いのでよく見えなかったが、あれは寄生虫ではなくイケカツオの幼魚が寄り添って泳いでいたものと思われる。イケカツオは2個体採れたがもう2個体は一緒に泳いでいたように見えた。イケカツオはボラなど他魚の鱗や表皮を剥がして食べるスケールイーターの習性をもつことが知られているので、今回もボラに寄り添って泳ぎ、時には鱗を食べていたのだろうか。今回は思わぬ珍しい収穫となる。
今までここの海域で得られていたトンガリサカタザメが全て未記載種とわかり、今日、元魚ボラの学生だった第一著者の方から新称モノノケトンガリサカタザメの新種記載論文がIchthyological Researchより出版されたと連絡を受けた。ちなみに私も著者に入れてもらっている。これで今までここの海域の定置網で得られていたトンガリサカタザメは全て新種モノノケトンガリサカタザメとなる。これまでにかごしま水族館や海の中道マリンワールドにも飼育展示魚として搬出している。だが、個体が大き過ぎる為、魚ボラの標本用には確保していなかった。ここの海域の定置網で獲れるトンガリサカタザメが未記載種の可能性があるという事で2年前に標本の確保依頼を受けた。当時は標本がとても大きい為、収容する容器が大学にはまだ無く、準備が出来てから再び連絡を受けた。そして連絡を受けた翌日、タイミングよくうちの定置網に入網し標本用に確保。魚体が大きな為冷凍保存することが出来ず、その日のうちに大学へと持ち込み標本登録を行った。標本写真の撮影も個体が大きな為大変で、魚ボラの学生総出で行われ、当時の事をよく覚えている。実は私もこのトンガリサカタザメを疑っていた。以前にブログにも書いているが(ブログ2007 9.6)、ネットで調べると沖縄や海外の写真では胸鰭や腹鰭の周りなどに小白点が散在しているが、ここの海域でそのような個体は見た事がない。だが、これはサイズや地域変異の影響なのだろうと思っていた。だが、今考えると別種を疑うのが当然であったと思い反省。この仕事を始めた当初も定置網に白い斑点の無いマダラトビエイが入網していたが、ナルトビエイは当時使っていた日本産魚類大図鑑には載っておらず、これがアオスジトビエイなのだろうかと思っていた。やはり少しでも疑いがあればとことん追求することが重要である。今回、ようやくモノノケトンガリサカタザメが新種として記載されたのでまだまだ標本を確保したいところではあるが、標本を確保してからこの2年間、全く入網していないのである。以前から数は少ないものの、毎年1~2個体は入網していたのだが同属他種の状況から察するにかなり絶滅の危険もある魚らしいのでちょっと心配である。更に今後、当たり前のトンガリサカタザメも見つけたい思いである。
日曜日に台風10号の暴風域を喰らい、定置網は網を陸に揚げ、まだ操業できない状況であり、今週は魚とはまだ触れ合っていない。と言う事で今回の夜間採集は意地でも何か探す意気込みである。港に着くと幸い風も無く、水中はよく見える。魚を探すと岸壁に寄り添うハゼを発見。ドロメかクモハゼだろうと思って掬ってみるとハゼの仲間ではあるが魚種はわからない。その後も散策すると何かの稚魚を発見し採集。ヒメジ科の稚魚である。更に直ぐ近くでも採集しヒメジ科稚魚を2個体確保する。持ち帰り水槽に入れ撮影し、画像を拡大して見るがハゼの仲間もヒメジ科の稚魚も全て魚種確定までは辿り着かない。と言う事で同定はいつものように魚ボラ任せとし、標本用に冷凍保存する。
ハゼの仲間
ヒメジ科稚魚
今朝の地元紙から。魚ボラの学生が執筆した種子島と冲永良部島沖合で採集されたヨウジウオ科2種の日本初記録種の論文が日本動物分類学会の和文誌、英文誌にそれぞれ掲載され、標準和名タマリタツ、シューヤジリチンヨウジウオが提唱された。詳細は聞いていないが記事によると共に黒潮によって北上して来たらしい。となると、うちでも見つかる可能性があるのだが、あまり遊泳力のないヨウジウオ科となると可能性は低い気がする。