図書館で、これまた懐かしい本があるのを見つけた。
その本の名前は、「さつよ媼(おばば)おらの一生、貧乏と辛抱」(草思社・石川純子著)という。
懐かしい冒頭に、すのすべてが表れている。
おらは生まれたまんま―まえがきにかえて
おらは生まれたまんま
九十六になっても生まれたまんま
なんじょに学校しないもの
だから話をするたって、まっすぐに正直に語るの
嘘の語りようも知らないもの
おらは貧乏の生き証人
明治も末の貧乏盛りに生まれて
国も貧乏、村も貧乏
なかでもわが家は貧乏者の一等賞
九つで子守りに貸され
十六で製糸場に売られ
二十一で嫁にくれられ
あとは土方ひとすじ
汗水たらして土を背負い
いくら骨揺って稼いでも
いつでも貧乏真っ最中
テレビの「おしん」どころでなかったよ
一番楽だったのは製糸場
テレビの「野麦峠」どころか、なんと別天地だったね
おらは貧乏したから
ひもじい人の気持ちがわかるよ
かなしい人の気持ちもわかるよ
だからどんな人にも親切にしたよ
お母つぁん、教えてくれたもの
「人を助けてわが身助かる」って
おらは人と比べないもの
おらは欲濃くしないもの
うらやましがったり、うらんだりして
心荒らしていられないもの
昔の人たち、教えてくれたよ
「雪と欲ぁ、積もるほど道忘れる」って
そうやって百歳ちかくまで生きてきたら
みんな、おらのこと
「さつよさんはいいなあ、入り日明るくて※」って
おら、もとは地獄、いまは殿様だよ
世の中平らだね
人は生きてるんでなくて生かされてるんだって
※=若いとき苦労しても老いて幸せなこと。
上記の文は、9つで子守りに出され、3年生で学校はおしまい。それ以後も、苦労に苦労を重ねながらも、96歳まで明るさを失わずに生きてきた「さつよ」というおばあさんの語った話の一部である。
この本は、2006年の発行であった。
その2年ほど後、当時の勤務先の児童のおばあさんから貸してもらって、繰り返し読んだのだった。
世代としてみると、われわれの祖父母世代に近い話になるのかもしれない。
冬の寒さに凍えながら我慢する話。
子守をしていた赤子のおしっこが背中を伝う話。
読んでから15年ほどたっても、忘れていない。
今の時代からはとうてい想像できない生活の連続で送ってきた人生。
次々と苦労を経験してきた、さつよおばば。
苦労に負けず生き抜いてきた、その強さはどこから来るのだろうと思うほどたくましかった。
つらいとか厳しいとか言わずに、とにかく生きる。
それが人生で一番大切なことだ、と当時96歳を超えたさつよおばばが教えてくれている。