「漫画家たちの戦争」シリーズを借りようとすると、私の行く図書館では、10代の人たち向けの本が並ぶコーナーの中に、それらの本はある。
そのうちの2冊を借りようとして、手に取って歩いていたときに目に入ったのが、この本だった。
「格差と分断の社会地図」(石井光太著;日本実業出版社)
表紙の最上部には、「16歳からの<日本のリアル>」と書いてある。
本書の「はじめに」では「未来を担う君たちへ」とあった。
高校生くらいの年代を相手に、若者に期待して著した本だとは思ったが、「格差と分断」という言葉が気になって、借りて読んでみることにした。
本書では、「章」ではなく「講義」として、若者向けに語るように7つの講義から成っている。
講義1 日本の格差はいかにつくられるか―所得格差
講義2 弱者を食い物にする社会—職業格差
講義3 男と女の不平等史—男女格差
講義4 格差と分断の爆心地「夜の街」—家庭格差
講義5 移民はなぜギャングになるのか―国籍格差
講義6 障害者が支援をはずされるとき―福祉格差
講義7 高齢者への「報復」は何を生み出すのか―世代格差
現在の日本にある格差の問題をこのように明らかにし、分けながら述べているようだが。
日本社会では、バブルの崩壊を機に、日本全体で格差が明確化した。
近年は格差の拡大によって、社会の階層(上流・中流・下流など)が大きく隔たったものになりつつある。
とくに、中流の数が大幅に減り、格差がどうしようもないほど広がって、安定した収入を得られる層と、生きるだけで必死の生活を強いられる層とに分断された。
日本は、バブル崩壊後、きちんとした対応をして来なかった。
特に、経営者たちが、自分たちに近い年輩の人たちの雇用を残し、若い人たちを切って危機を乗り越えてきた。
また、生じた労働者不足を補うように外国人労働者を雇用するようになったが、それによって6人に1人くらいの割合で学校に行かない不就学の外国人の子どもたちが生じている。
やがてそれらの子どもたちが、法的に問題のある事をしてでも生きていこうと犯罪や事件を起こすことにもつながっている。
バブル崩壊から約30年が経ったいま、日本は国民の7人に1人が貧困者であるという、「貧困大国」と呼ばれるようになった。
これは世界で14番目に高いのだそうだ。
著者は、ホストクラブのホストや風俗嬢、外国人など社会から分断された人たちの思いに多くふれている。
様々な人の人生を追いながら、劣悪な家庭環境からくる経験が、
社会から自分たちは見捨てられている。
だから、自分1人で踏ん張って生きていかなければならないんだ。
という根本的な考え方にたどり着くのだという。
家庭でずっと裏切られてきたから、他人どころか自分さえ大事にできないんです。
私たちの仕事は、そういう考え方を変えることです。
彼らの心によりそい、信頼関係を築いていくことで、自分を大切に思ってくれる人がこんなにいるんだとわかってもらう。見守ってもらえているという意識は安心を生みますし、夢を抱いてもいいんだ、努力してもいいんだという気持ちにつながる。自分のため、人のためにがんばって道を切り開いていけるようになるんです。
文中に出てきた、この児童養護施設の職員の言葉が、温かく響いた。
このような思いで人に接することが、相手に温かさが伝わり豊かな社会につながっていくはずだということに、共感を覚えた。
最後に、未来を担う若い人たちに対して、著者は、すべきこととして大きく2つを訴えている。
①日本社会の足元で起きている格差や分断の問題にきちんと目を向け、何が原因でどういうことが起きているのかを学び、それを改善していくこと。
②自分自身が地に足をつけて生きることで新しい価値観を示すこと。
そして、著者は、
一人一人が起きていることに問題意識を持って溝を埋める努力をすることでしか、負のスパイラルを止めることはできない。
と、個に求めつつも、
君たちは1人で闘う必要なんてない。
とも言っている。
同じ感覚を持つ人たちが必ず賛同し支持してくれるはずだということも言い、勇気づけている。
この辺の心づかいはいいと思うし、そのとおりだとも思う。
格差や分断の背景、明確な問題点の指摘など、一般の大人が読んで知っておきたい内容が多く含まれていた。
若い人たちに向けた本ではあるが、それゆえに分かりやすい表現や図、グラフなどが多く、なるほどと納得できる部分が多かった。
ただし、解決の方策について具体性は欠けているのは、若者向けだからとしておこう。
ついでだけど、借りてよかったと思えた本であった。