貴重な先制点をあげた成岡が、泣いていた。
テレビのヒーローインタビューを終えて、一人遅れてヒーローを運ぶ車に乗りながら、何度も涙をぬぐっていた。
泣いていた選手は他にもいた。
新潟の選手たちは、それだけこの試合にかけていたということだろう。
思わず、もらい泣きしてしまった。
4月2日の福岡戦以来のリーグ戦勝利。
なんと10試合ぶりの勝利である。
そのうえ、今季ホーム戦初勝利である。
選手たちもサポーターたちも、どれだけこの勝利を渇望していたことか。
5月には、鹿島に1-2で敗れた後、ガ大阪・浦和・川崎と、上位のチームにほとんど得点を許さずに引き分けて、隠れた実力を示していた新潟。
それなのに、勝てると期待した仙台にも、ナビスコ杯最終戦ではリーグ戦最下位の福岡にも、4点も取られ完敗の公式戦連敗。
かなり危機感を抱いてこの日の大宮との一戦に臨んでいたはずであった。
それは、選手起用にも表れていた。
前線には端山を、左には成岡を起用した。
これが、ズバリ当たった。
前半4分、相手をかわした端山が、ゴール前でグラウンダーの速いラストパス。
そこに、足から体ごと突っ込んだのが、成岡。
ボールは、ゴールネットに吸い込まれ、見事先制。
この後も、新潟は相手に厳しくプレスに行き、攻める姿勢を貫いていた。
「今日は、選手たちが違う!」
そう感じさせるに十分だった。
しかし、油断はならない。
そこから逆転されて負けるのは、今まで見飽きるほどあったからだ。
後半になって、30℃の暑さの中を駆けていた選手たちは、守勢に回ることも多くなってきた。
後半開始10分ほどで、2人を交代せざるを得なくなった。
残り時間が15分くらいになってからは(アディショナルタイムもそこに追加すると、20分くらいの時間は)、ピンチの連続であった。
左手の負傷から復帰したばかりの守田が、ボールをはじき返す。
蹴り返さなければゴールしたボールを、味方選手誰彼なくすんでのところで跳ね返したり蹴り出したり。
選手たちの必死さが伝わって来た。
この試合、サポーターたちも、覚悟を決めて応援していることがよくわかった。
試合前、選手入場の際には、近くのスタンドを越えて人に呼びかけ、コレオグラフィーを作った。
「GET THE WIN」
勝利をつかみ取れ、ということだ。
歌って応援する声も、止むことはなかった。
試合の終盤は、私ももう立ちっ放しで、応援の声を出しっ放し。
アディショナルタイムは、定番の「アイシテル ニイガタ」を声を限りに歌っていた。
新潟サポーターのソウル・ソングである。
俺たちがついてるさ 新潟
やけどさせてくれ このゲーム
俺たちがついてるさ 新潟
伝えたいこの想い アイシテル ニイガタ
願いがかなって、やっとホームでリーグ戦初勝利であった。
選手たちの涙を見て、苦しんでいたのは、やはり選手たち自身なのだなと、思った。
勝てないとサポーターたちが、「やる気あんのか。」とか「気合みせろ。」と、よく叫んでいるが、当事者である選手たちがやはり一番苦しんでいるのだ。
なにはともあれ、これで今季3勝目。
あと2試合しか前期は残っていない。
でも、やれるはず、できるはず。
これからも、応援していく。
選手たちに、もう苦しさで泣かせたくない。
たった1勝で泣いてほしくない。
流すのは、もっと大きな歓喜の涙で十分なのだ。