四季の歌と暮らす

 年齢ごとに「一度っきり」の四季と、
旬(しゅん)のヨコハマを味わう「くりごとの集」です。

河野裕子さんを悼む(その1)

2012-06-28 14:49:26 | 歌の花束
 現代女流歌人で人気の河野裕子さんは乳がんとの十年の闘病に力尽き64歳で逝かれました。お正月の宮中歌会始の選者で、美智子皇后もその早き死を悼んだ歌を発表されました。ご夫君は科学者で歌人永田和宏さんで、歌会始の選者、朝日歌壇の選もされている有名な現代歌人です。この歌人夫婦は40年間お互いに5百余の相聞歌を交わしていたそうで驚きます。愛妻を追慕して『たとへば君』と題して出版されました。ガン発見から訣別までの随筆や歌に感動し、考えさせられます。最も近い他人である夫婦でも、病人が出ると心には棘が出やすくなります。もし妻が癌に冒されたら私は心の襞まで分かり合える夫婦になれるだろうかと不安に思う。

 蒸留水と息子がわれを批判せしと
      うれしそうなり妻の口ぶり(永田和宏)
 「この家にあなたは住んでいない」と
      不意にしずかな声に言いたり
 意地のごとく息子とわれを比較する
      妻のこの頃好きとは言えぬ


 あの時の壊れたわたしを抱きしめて
    あなたは泣いた泣くより無くて(河野裕子)

 なんにしてもあなたを置いて死ぬわれにいかない
    と言う塵取りを持ちて(永田和宏)


裕子さんの「泣くより無くて」、和宏氏の「塵取りを持ちて」が切ない。
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