元旦の朝6時、平和祈願の初読経が行われた立正佼成会横浜教会でははなやかに鏡開きがありました。そしてこも樽のお酒が参列者にふるまわれました。木の香りのする樽酒は肺腑にしみわたりました。
大歌人・大伴家持(おおとものやかもち)のお父さん・大伴旅人(たびと)が『万葉集』に酒をほめる詩をうたつております。今から約1300年前の奈良時代ですからお酒はどぶろく、清酒ではありません。
大伴家は天皇を守る親衛隊の名門貴族でしたが、藤原一族に押さえられて衰退していきます。最晩年の旅人は63才(当時の平均寿命は30台でしょうか)で九州福岡の太宰府へ長官として赴任します。年をとってからの都落ち、左遷でしょうね。そして伴った愛妻が間もなくして亡くなる悲しみに打ちのめされました。にがい酒に憂世を忘れ飲まずにはいられなかったでしょう。
教会の清きお酒が波打つこも樽をのぞき込むと、私も旅人と同じように酒樽の中に浸ってみたい気分がしました。
大伴旅人に救いだったのは山上憶良や坊さんの満誓(まんぜい)など太宰府の歌人仲間が居たということです。友だちは大事ですね。
◯験(しるし)なきものを思わずは一坏(つき)の濁れる酒を飲むべくあるらし
◯なかなかに人とあらずは酒壺になりにてしかも酒に染みなむ
◯黙(もだ)をりて賢(さか)しらするは酒飲みて酔(え)ひ泣きするになほ及(し)かずけり
◯この世にし楽しくあらば来む世には虫にも鳥にも我はなりなむ
◯妹(いも)が見し楝(おうち)の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干(ひ)なくに