『山田恵諦猊下(やまだえたいげいか)に最後のお別れを述べさせていただいて、胸が締めつけられる思いでした。しかし、猊下が笑顔でうなずきながら聞いてくださっているお顔が目の前に浮かんできて、これまでに頂戴した数々のお言葉が、耳によみがえってまいりました。
「比叡山の使命は、仏教によって世の人の幸せを願い続けていくことにあります。せっかく人間に生まれてきたのだから、みんなが幸せな人生をまっとうするように祈り、導く。これがすべての宗教の起こりです」
「比叡山で修行された祖師方は、自分の派を興(おこ)そうとか、自分の悟りを広めよう、といった気持ちで布教されたのではありません。世の人の幸せをそっちのけにして、教えを広めることが中心になることから過ちが起こるのですよ……」
そうした猊下のお言葉のひと言ひと言が、私にとって、なによりもの励ましでした。
いまも、猊下は私どもを励まし続けてくださっておられるのです。』
庭野日敬著『開祖随感』より