『疲労回復に効果があるとブームになっていたある薬が、じつはまるで効能がないことが分かり、問題になっています。
世の中にはたくさんの薬が出回っていますが、名医はむやみに薬を使わないそうです。
長いあいだ人間の体を診てくると、人間本来の自然治癒力がどれほど大きいものか分かるのでしょう。
その力を信じ、ここぞというときしか投薬しない。ところが最近の患者さんは、薬をたくさん処方しないと「この先生は大丈夫なんだろうか」と不安がる人が多いのだそうです。それほど薬漬けになっているわけです。
仏道修行の場合も同様のことがいえるかもしれません。人の不幸の原因は貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)の三毒にあります。さらに突き詰めると「諸苦の所因(しょいん)は 貪欲(とんよく)これ本なり」で、貪欲が苦の根源であることが分かります。
自分さえよければ、という自己中心、あり余る物に囲まれながら、もっともっとと欲をつのらせるその心を、人さまの幸せを願い、人さまに施す心に変えることで、その苦が喜びに変わるのです。
他からの救いの手ばかりを求めるのでなく、自分の心の切り換えで奇跡とも見える治癒力が生み出せるのです。』
庭野日敬著『開祖随感』より