朝のラジオ放送で、喜多流「絃上」を聴く。
須磨の浦を舞臺に、渡唐を志す琵琶の名手藤原師長と、實は村上天皇とその后の靈である汐汲み老夫婦との音樂を介した交流、そして後半には村上天皇の靈そのものが登場し、八大龍王の演奏で舞を舞ふ氣宇壮大な曲趣ゆゑにか、やや「またか……」と感じられるほどラジオ放送ではよく取り上げられる曲。
前半、琵琶を彈きはじめた師長は、折から降り出した雨の音をうるさく思ひその手を止めてしまふと、老夫婦はすかさず屋根板に筵を敷いて雨音を抑へ、「琵琶は黄鐘(低音)、雨音は盤渉(高音)で調子が合はないのでさうした」とその心得を見せるところが、ちょっとした見せ場になってゐる。
折しも、このとき私の住む町では昨夜からの雨が未練がましくポツポツと不快な音を立てており、
師長の氣持ちはこれかと、奇しくも私もその場に同席してゐるのやうな気分に浸る。
どんなに詳しい解説でも味はへない妙味、すなはちこれなり。