日中にTVをつけると、トーク番組に海援隊が出演してゐた。
もちろん、フォークソンググループの、である。
大阪に住んでゐた時代、私には逢ひたい人がいて、よく博多まで旅行してゐた。
そのなかで、あるイベントに特別出演した海援隊のライヴに、偶然出逢ったのである。
初めて生で聴ひた「贈る言葉」に、私の心は震へた。
人生の年輪を重ねた武田鉄矢さんの唄聲には、人生の年輪を重ねた人でなければ表現できない、“深さ”があった。
それまで、卒業シーズンの定番ソングくらゐの認識しかなかったこの曲を、はじめて名曲であることに気が付かされた瞬間でもあった。
以来、博多出身の海援隊は、私のなかでも博多に密接なフォークグループとして、深く刻み込まれた。
それから私も年齢(とし)だけは取り、あの時代(とき)の逢ひたい人のことも、それにまつわる出来事も、現在では心から一掃されてゐる。
しかし、海援隊だけは現在も、私のなかに在る。
「贈る言葉」、そして「思えば遠くへ来たもんだ」を生で聴ひたあのときの感動は、現在も鮮明に記憶してゐる。
人生の区切りには、いつも音楽の存在があった。
かつて、私にそれまでいた世界から飛び出す勇気を与へてくれたのも、音楽だった。
海援隊の曲は、その“はしり”かもしれない。
私もさらに年齢を重ねたら、これらの名曲はもっと深い音楽に、熟成されてゐるだらう。