いつもの古道を散歩してゐて、はや夏の表情を見せる空に、ふと足をとめる。
綿を放ったやうな雲も、すっかり夏の表情(いろ)。
しばし夏の旅行に出た氣分を味はふ。
どんなに浮世が煽らうと、私は人体實験に協カするつもりは全く無い以上、今夏の旅行は計画しない。
すべては、確實な安心安全のもとで、手猿樂を演じられる日を迎へんがため。
ただ、その一点に尽きる。
有象無象が致死病菌に狎れて無自覺症状を発症し、奇妙に浮かれてゐる今こそ、“夏の後”の備へに努める絶好の機會なり。
旅行は、なにも距離ばかりではない。
手許や足許の景色から、想ひを馳せることもまた旅なり。