國立劇場傅統藝能情報館で、今日から後期分が始まった「上方浮世絵展」を觀る。
(※展示物の撮影可)
遺された幾枚もの役者繪より、嵐家の華やかなりし時代へ想ひを馳せてゐるうち、
奥の視聴コーナーから歌舞伎公演の記録映像の音聲が聞こえてきた。
それは二昔以上前、師匠が最後にこの劇場に出演した芝居の映像だった。
私も同じ映像を所持してゐるが、師匠が亡くなったのち、まともに一度も見て觀てゐない……、と云ふか、いまだ觀られずにゐる。
私は迷ふことなく視聴コーナーへ行った。
亡くなる一年一ヶ月前の師匠が、大役難役を堂々と、まさに大舞臺の風格たっぷりに魅せてゐた。
私が記憶してゐるままの、師匠の姿。
傅統藝能とは血筋だの、お家柄だの、門閥だのではない、素質で魅せるものであることをはっきりと体現してみせた、誰にも引けを取らない師匠の姿。
私は今朝方、かなり久しぶりに師匠の夢を見た。
何の夢だったかは憶えてゐないが、會ったことのない、まだ若い頃の師匠だった。
目が覺めて、日中の外出先で、映像を介して、また師匠に逢ふ。
繪姿に遺る嵐家のご先祖に逢ひに来て、映像に遺る師匠にも逢ったのだ。
不肖弟子の私に、何かを傳へたかったのだらうか?
月命日は明日。
もし、“自分のことを忘れないでほしい”、とのことであったら、心配御無用。
寒風に顔を強ばらせる日の多い今冬、初めて寒氣の下で顔が綻んだ。