孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  処理水海洋放出への批判・日本産水産物の輸入禁止措置を継続 世論は変化 政府も・・・?

2024-08-23 23:04:41 | 中国

(スシローの北京1号店の開店直前イベントには、中国メディア関係者らが参加し、すしを試食した=北京市内で2024年8月19日、小倉祥徳撮影【8月23日 毎日】 中国の日系回転ずしチェーンは出店ペースを加速させています)

【中国 処理水海洋放出批難、日本産水産物の輸入禁止措置を続ける】
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出が始まり、24日で1年となります。海水に異常は見られませんが、水産物輸出への影響は続いています。

*****原発処理水、6万トン超を放出 開始から1年、海水異常なし****
東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出が始まり、24日で1年となった。東電はこれまで6万トン超を放出、周辺海域のモニタリングで海水などに異常は確認されていない。放出に強く反発する中国は日本産水産物の全面輸入停止を継続し、解決の道筋は見えないままだ。

通算8回目の放出が続いた23日、福島県沖では漁が行われ、次々と「常磐もの」が水揚げされた。県漁業協同組合連合会の鈴木哲二専務理事は「かねて海洋放出に反対の立場だが、国などの支援もあり風評被害がかなり抑え込まれている」と話した。

政府は2021年4月、処理水の保管タンクが原発の敷地を占有する現状が廃炉作業の支障になるとして、海洋放出を決定。東電は昨年8月24日に漁業者が反対する中、放出を開始した。23年度は4回で3万1145トンを放出し、24年度は7回で5万4600トンを計画。放出は51年までに完了するとしている。

第1原発では、11年3月の事故で溶け落ちた核燃料の冷却に使用した水と、建屋に流れ込む地下水や雨水が混ざり汚染水が発生する。【8月23日 共同】
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中国政府は依然として処理水海洋放出を批難し、日本産水産物の輸入禁止措置について、「合理的で必要な措置だ」と継続の意思を示しています。

****中国「日本が世界に危険を転嫁した」 処理水放出1年で日本を改めて非難****
東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が始まって1年となるのを前に、中国政府は「日本が世界に危険を“転嫁”した」との表現で改めて非難しました。(中略)

放出の開始からあすで1年となるなか、中国外務省の毛寧報道官は、会見で改めて「処理水」を「核汚染水」と呼んで日本を非難しました。

中国外務省 毛寧報道官  「日本は周辺国家と十分な協議を行わないまま、一方的に福島“核汚染水”の海洋放出を開始し、全世界に危険を“転嫁”した」

また、毛報道官は「利害関係国が参加する、独立した長期的で有効な国際監視体制の構築に協力するよう促す」と改めて強調しました。(後略)【8月23日 TBS NEWS DIG】
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****中国外務省「合理的で必要な措置だ」 日本産水産物の輸入禁止****
(中略)中国外務省は23日、日本産水産物の輸入禁止措置について、「合理的で必要な措置だ」と従来の主張を繰り返しました。

中国外務省の報道官は23日の会見で福島第一原発の処理水の海への放出について、「中国はこれ(処理水放出)に一貫して断固反対し、日本側に何度も厳正なる懸念を示した」「食品安全と人々の健康を守ることは完全に正当なもので、合理的で必要である」と述べ、放出で日本は世界にリスクを与えたと批判しました。

また、放出が始まって以降、中国は日本産の水産物の輸入停止措置を継続していますが、これについても「合理的で必要な措置だ」と述べ、正当性を改めて主張しました。

日本政府は、輸入停止措置について中国側に撤回を求めていますが、ある日本政府関係者は「進展はない」と話すなど、交渉は難航しています。【8月23日 日テレNEWS】
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中国側の対応については、今後も「水産物も外交カードとして当分は温存するだろう」との見方がなされています。

****水産物禁輸続ける中国、外交カードとして温存か 処理水で主張平行線****
日本の農林水産物や食品の最大の輸出先である中国は、東京電力福島第1原発の処理水の放出が始まった2023年8月24日以来、日本産水産物の輸入を停止したままだ。

その結果、24年上半期(1~6月)の農林水産物・食品の輸出額は前年同期比1・8%減の7013億円となり、4年ぶりに減少に転じた。中国向けが43・8%(610億円)減の784億円と大幅に減少したことが響いた。23年上半期に223億円だったホタテや、51億円だったナマコの輸出額がゼロになるなど、加工品や真珠などを除く中国向けの水産物輸出額はゼロが続く。

事態を打開しようと、政府は中国との2国間の会議や国際的な議論の場で、規制の即時撤廃を働きかけてきた。日中両政府は今春以降、処理水放出について専門家同士による技術的な観点での意見交換を本格化させている。韓国・ソウルで5月に行われた岸田文雄首相と中国の李強首相の会談でも、事務レベルでの協議を加速することで合意した。中国国内では処理水問題への市民の関心は下がっており、すしなど海鮮人気も戻りつつある。

だが、(中略)両国の主張は平行線のままだ。

中国政府は福島原発事故後、日本産の野菜や乳製品に対しても事実上の禁輸措置を講じ、いまだに解除していない。日中関係の大きな改善が見通しにくい中、「水産物も外交カードとして当分は温存するだろう」(在北京の日本企業関係者)との見方が多い。(

一方、農林水産物・食品の輸出額を25年までに2兆円、30年までに5兆円に拡大することを目指す政府は、タイやベトナムなど東南アジアを中心に輸出先の多角化を目指す戦略に転換。国内消費の拡大にも本腰を入れ始めている。【8月22日 毎日】
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どのような政治的背景があるのかは知りませんが、北京の在中国日本大使館への嫌がらせ電話は未だに1日2万件を超えているとか。

****大使館への迷惑電話、今も2万件****
処理水問題を巡る日中両政府の協議は平行線のままだ。日本産水産物の禁輸撤廃を日本側が求めているのに対し、中国側は現行の国際原子力機関(IAEA)の調査にとどまらず「長期的な国際監視体制」の構築を要求し、双方の妥協点が見いだせない状況が続く。

日本を標的にした嫌がらせの電話は、今も北京の在中国日本大使館に寄せられている。最近は1日に2万~2万5000件の電話があり、この大半が嫌がらせや迷惑電話。中国語でまくし立てたり、無言を続けたりするケースが多い。1年前は1日4万件に達したのに比べれば減ったが、処理水問題前は数百件に過ぎなかったといい、桁違いの異常な件数が続いている。(後略)【8月23日 東京】
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【一般市民の関心は薄れる流れ それより「景気」に関心】
しかし、中国国内でも一般市民の関心度合いは変化しているようにも。
処理水問題で逆風を受けた中国の日系回転ずしチェーンですが、回転寿司大手「スシロー」が8月21日にオープンさせた北京1号店では、一時、12時間待ちの行列ができるほど大人気となったことも話題になりました。(すしネタは中国産の他、世界各地の食材を利用)

****処理水放出1年 中国で回転ずし盛況 関心は「汚染」より「景気」****
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出から24日で1年。「核汚染水」との批判が巻き起こった中国の世論は今、この問題をどうみているのか。

放出直後、中国政府は日本産水産物の全面禁輸に踏み切り、SNS(ネット交流サービス)を中心に反日感情が高まった。しかし、日本企業が多数進出する東北部の港湾都市、遼寧省大連市を久しぶりに訪ねると、市民にとっての気がかりはもはや処理水問題ではなくなっていた。

8月上旬、夏休みシーズンを迎えた大連市の海辺は多数の観光客でにぎわっていた。取れたての海の幸を売りにする屋台にとってはかき入れ時である。香ばしく焼けたエビやイカをほおばる人々は、処理水放出による「海鮮離れ」とは無縁のようだった。

「汚染水240日で中国到達説」のいま
2023年8月24日の放出開始当時、中国では「日本の『核汚染水』は240日後に中国沿岸に到達する」との情報が拡散した。名門・清華大(北京市)の研究グループによる予測として、メディアがこぞって報じた。

ところが、それから1年近く過ぎても、沿岸で処理水による汚染は確認されてなどいない。むしろ中国当局は自国の海洋環境の安全性を強調し、多数の中国漁船が日本周辺で操業を続ける。大連市のある遼寧省の24年上半期の漁業や養殖業の海産物生産量は前年より5・8%増えていた。

「240日」説について、屋台の店主たちは「政府が日々、水質検査しているから問題ない」「インターネットの情報なんてあてにならない」と笑い飛ばしていた。

3日間の大連滞在中、出会った住民に「水産物を食べるのに心配はないか」と質問してみた。「最近は報道も減り、気にしなくなった」「農産物だって農薬を使っている。考えすぎると何も口にできない」「日本で暮らす友人も海鮮を食べているそうだ。私も問題はないと思う」との答えが返ってきた。

前回、記者がこの地を訪ねたのは、放出開始から約1カ月にあたる23年10月の大型連休中だった。当時、言葉を交わした大連市民は、こちらが日本人と分かると決まって海や食の安全への懸念を口にした。それが今回は、処理水問題を自ら話題にする人に出会うことはなかった。

変わった海鮮が売れない理由
もちろん、限られた取材範囲で市民の不安が消えたと結論づけることはできない。市場や日本料理店を回ると「放出後に客足が減った」との声も聞かれた。それでも1年前と比べれば、人々の関心は確実に薄れているように思えた。

処理水問題に代わり、今回よく耳にしたのは「給料が減って副業を増やした」「海外に働きに出ようと考えている」という景気停滞に絡む身の上話である。

市場で取材した水産物業者は「海鮮が売れないのは(処理水ではなく)庶民にお金がないからだ。ホテルからの注文がガクッと減った」と嘆いていた。日本料理店の経営者たちも「1年前はともかく、今は消費の低迷が最大の悩みだ」と異口同音に話した。

「これまで中国で経験したことがない不況だ。みんな処理水の心配どころではないでしょう」。1990年代から大連市に工場を構える食品会社「松井味噌(みそ)」の松井健一社長(60)の実感だ。同社はさまざまな調味料・食材を製造し、中国の日本食業界を支える存在だ。

「とにかく誰も金を使おうとしない。特に高級路線の業態が苦しく、壊滅状態と言っても大げさではない」と、松井さんは飲食業界の実情を語った。

ここ1年で深刻さを増す消費の冷え込みは、処理水問題をかすませるほど社会環境に激変をもたらしているようだ。就職難、減給、リストラなどの将来不安から人々の間で節約志向が急速に高まり、飲食業でも価格競争が過熱している。

回転ずしなど低価格帯は人気上昇
大連市でみそラーメンなどの外食事業も手がける松井さんは「不況だからこその商機もある。低価格帯の需要は大きい。不動産不況による賃料下落は事業展開にプラス材料になり得る」と指摘した。

実際、処理水問題で逆風を受けたはずの日系回転ずしチェーンは、価格と質のバランスを強みに、中国で人気を集め、各社が出店ペースを加速させている。

北京市東部の大型ショッピングモールでは「はま寿司」の北京2号店が13日にオープンした。当日の午前11時半に足を運ぶと、入店まで約1時間かかる盛況ぶりで、親子連れらがマグロやサーモンの握りをほおばっていた。

別のモールには21日に「スシロー」北京1号店が開店。19日に開かれたプレイベントには中国メディアの記者やSNS上で影響力を持つインフルエンサーが駆けつけた。(中略)

「世界の海に汚染が及ぶ」と主張する中国政府の膝元である首都・北京で、日系回転ずしの開店ラッシュが起きる現実が、処理水問題に対する世論の移ろいを象徴しているように見える。

「中国は日本の5倍ぐらいの速さで社会が動いている。1年前の出来事は、日本で言えば5年前ぐらいの感覚。その変化に対応できなければ生き残れない」。反日デモなど中国ビジネスの荒波を幾度となく経験してきた松井さんはそう指摘した。【8月23日 毎日】
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【振り上げた拳を下ろす場所を探っている?】
こうした世論動向は、世論に敏感な中国政府も当然に把握しているところでしょう。国際的にも日本批判は限られた国でのみ。中国政府としても“振り上げた拳を下ろす場所を探っている”という状況ではないでしょうか。

****批判続ける中国政府、態度が微妙に変化 背景に何が 処理水放出1年****
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出について、中国政府は、開始から1年となる今も「核汚染水」と呼んで批判を続けるが、日本政府とのやり取りの中には微妙な態度の変化も見える。背景には処理水を巡る国際社会の反応が、中国にとっては誤算だったことなどもあるようだ。

「潜在的な汚染リスクを全世界に転嫁している」。中国外務省の報道官は今月7日、通算8回目の放出に対して改めて「極めて無責任」と非難した。ただ、1年前のように放出停止を求める文言はなかった。

中国はここに来て独自のモニタリング(監視)や試料採取を要求している。日本は既に国際原子力機関(IAEA)による監視枠組みを受け入れており、両国間の溝は深い。

ただ、中国政府は今年に入って専門家や外務省局長間の協議に応じるようになった。ある日本政府関係者は「中国としてもメンツを保ちながら、振り上げた拳を下ろす場所を探っているのだろう」と分析した。

習近平指導部が強気一辺倒でいられなくなった要因には国際社会の反応を読み違えたことがあるとみられる。中国に同調したのはロシアや北朝鮮、一部の太平洋島しょ国に限られ、韓国や東南アジアなど近隣の政府に対日批判の輪は広がらなかった。

長引く景気停滞の影響も大きい。習指導部は経済の立て直しのため、日本を含む外資の力をより切実に必要とするようになった。日本企業の「中国離れ」が加速しないよう、対日関係の安定を図っている。また、中国側は処理水放出のリスクが「世界」に及ぶと主張しながら、自国の水産業や飲食業が打撃を被り、消費低迷に拍車をかける事態は望んでいない。

一方で、日本産水産物の全面禁輸は早期の解決が困難な情勢だ。中国による日本産食品への規制は今に始まったわけではなく、多くの案件が長期化している。

福島原発事故に伴う東日本10都県への禁輸措置は2011年から続く。畜産物はその前から中国へ輸出できない状態であり、牛肉は01年の牛海綿状脳症(BSE)の発生を理由に20年以上、中国市場から締め出されている。

巨大市場を背景に、中国政府が食品などの輸入規制を外交カードに使い他国に圧力をかけるのは常とう手段の一つだ。オーストラリア産ワインに対する制裁関税撤廃のような事例を見ても、中国側は首脳往来などの重要イベントに絡めて他国への食品規制の解除に動く傾向がある。日中関係においても今後、停滞する首脳往来への道筋をつけられるかどうかが重要になりそうだ。【【8月23日 毎日】
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【野党に謝罪を要求する韓国・伊政権 しかし、世論は若干の改善はあるものの依然として処理水に厳しい評価】
一方韓国では、処理水をめぐる日本の決定を受け入れた政権側が、「煽った野党は国民に謝罪を」と反対した野党に強気の姿勢。

****原発処理水めぐり韓国大統領府「煽った野党は国民に謝罪を」****
東京電力・福島第一原発の処理水の放出をめぐって、韓国大統領府は「野党が煽らなければ使わなくていい予算は投入されなかった」として、国民に謝罪するよう野党に求めました。

韓国大統領府 チョン・ヘジョン報道官
「国民を分裂させる怪談の扇動を止めると約束し、今からでも国民の前で謝罪することを望みます」

福島第一原発の処理水の放出をめぐっては、去年、韓国政府は日本の決定を受け入れましたが、最大野党「共に民主党」は「最悪の環境破壊」などと激しく反発しました。

放出の開始から1年になるのを前に、韓国大統領府の報道官はきょう、「野党が『核廃棄物』といったような荒唐無稽な怪談で煽らなければ、使わなくて済むはずの1兆6000億ウォンの予算は投入されなかった」と強調。「無責任な行動を繰り返しているのは野党だ」として、国民に対し謝罪するよう求めました。

一方、「共に民主党」側は「大統領府は一体何を根拠に日本が放流した核汚染水が安全だと主張するのか」などと反発しています。【8月23日 TBS NEWS DIG】
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日本の立場に理解を示す伊政権は日本にとって有難い話ではありますが、「(反日感情の強い国で)そこまで言って大丈夫?」と他人事ながら心配にもなります。韓国の政治風土なのでしょうが、韓国世論もやや改善はしたものの、処理水放出への厳しい評価は続いています。

*****汚染水海洋放出から1年 反対は85%から76%に減少=韓国****
日本が東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出を開始してから24日で丸1年になることを受けて韓国で行われた調査で、海洋放出に反対する人の割合が昨年5月時点の85.4%から76.2%に減少した。韓国市民団体の環境運動連合が23日、調査結果を発表した。海洋放出に「賛成する」と回答した割合は10.8%から今年21.1%へ10.3ポイント高まった。

(中略)汚染水の安全性に関する日本政府の主張に対する信頼度も小幅上昇した。(中略)

一方、今年は「汚染水の海洋放出は国際基準に合わせて管理されているため問題ないという日本政府と国際原子力機関(IAEA)の主張に対してどう思うか」という質問に、24.4%が「信頼する」、73.5%が「信頼しない」と回答した。

ただ、海洋放出を巡る尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の対応については否定的な評価が増えた。「汚染水の放出問題に対する韓国政府の全般的な対応についてどう評価するか」という質問に対し、昨年は「よくやっている」が29.4%、「間違っている」が64.7%だったが、今年は「よくやっている」が24.1%、「間違っている」が73.6%だった。(後略)【8月23日 聯合ニュース】
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韓国では、未だ4分の3ほどの国民が日本の処理水放出に批判的な考えのようです。
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中国外交、紛争の仲介者としての存在感 ウクライナ、ミャンマー、パレスチナでも

2024-07-30 23:37:04 | 中国

(握手するウクライナのクレバ外相(左)と中国の王毅外相=24日、中国広東省広州市【7月25日 産経】)

【ウクライナ外相の訪中 欧米の支援先細りが懸念されるなかで、プーチンが耳をかす相手は習近平だけ】
先ず、7月27日ブログ“ウクライナ 「あと1か月半ほどで形勢変化」 停戦交渉を左右する米大統領選挙”でも取り上げた、ウクライナ外相の中国訪問。

****ウクライナ外相が中国訪問 ロシア侵略後初 王氏と停戦などを協議****
中国の王毅共産党政治局員兼外相は24日、訪中したウクライナのクレバ外相と南部の広東省広州で会談し、ロシアのウクライナ侵略を巡る停戦などについて協議した。侵略開始以降、ロシア寄りの立場を示す中国へのウクライナの高官の訪問は初めて。

中国外務省は中国がクレバ氏を招いたとしている。中国国営中央テレビ(電子版)によると、王氏は会談で、停戦などに向け「建設的役割を引き続き果たしたい」と表明。「ウクライナとロシアは最近、程度は異なるが協議を望むシグナルを発している。条件や時機はまだ熟していないが、平和に有益な努力を支持する」との強調した。

中国は5月、ウクライナ危機の政治解決を謳(うた)う独自案をブラジルと発表し、ウクライナとロシアの同意を得た国際和平会議の開催などを提案。王氏は同案について「国際社会の最大公約数を凝縮し、広範な賛同と支持を得た」と主張した。

ウクライナ外務省の発表によると、クレバ氏はロシアとの交渉には「ロシアが誠意を持って臨む用意」ができた際にウクライナも応じるとの姿勢を表明。現時点ではロシアにその準備がないと強調した。

クレバ氏は、ウクライナ主導の和平案協議のために6月に開いた「世界平和サミット」についても説明。中国はサミットを欠席している。

ウクライナを巡っては、11月の米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領が和平を目指す考えを示している。中国側はそうした動きの中で影響力を高めておこうとの思惑があるとみられる。ウクライナ側も国内で厭戦(えんせん)機運が高まりつつあることも踏まえ、中国との関係を保ち、将来の交渉でのウクライナの立場を強める考えとみられる。【7月24日 産経】
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****パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由****
人目をひくイベントの最中でも、国際情勢は常に動き続けている。

ウクライナ外相 異例の訪中
米大統領選挙にカマラ・ハリスが正式に立候補したのと同じ7月23日、ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣が中国を訪問した。4日間の中国滞在を終え、ウクライナに帰国したのはパリ五輪が開幕した26日だった。

世界的に注目されるイベントの狭間で、クレバ訪中はほとんど注目されなかったものの、かなり大きな意味をもつ。ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナ外務大臣の中国訪問はこれが初めてだからだ。

中国とロシアは昨年“無制限の協力”に合意した。これを警戒するアメリカは「中国がロシアに軍事転用可能な民生品などを供給している」と主張している。

中国はこれを否定しているが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今年6月、スイスで開催された支援国会合で「中国がロシアを支援している」「支援国会合に出席しないよう多くの国に圧力をかけている」と名指しで批判した。

それから約1ヵ月後に中国で王毅外相と会談したクレバ外相は「ウクライナの平和は中国にとっての戦略的利益であり、大国としての中国の役割は平和にとって重要と確信している」と述べた。

欧米の“フェードアウト”への警戒
今なぜウクライナ政府は中国へのアプローチを強めているのか。
その最大の要因は、6月から7月にかけて、欧米のウクライナ支援が今後ますます減少する見込みが大きくなったことにあるとみてよい。

このうちアメリカは、国別でいえば最大の支援国であるものの、2023年後半から支援の遅れが目立ってきた。ウクライナ支援に消極的な共和党が過半数を握る議会下院が、ジョー・バイデン大統領にブレーキをかけてきたのだ。

ウクライナ側の懸念をさらに強めさせた転機は、6月末のバイデンとドナルド・トランプの討論会だろう。(中略)“コスト意識の高い”トランプが大統領選挙で勝てば、ウクライナ向け援助は激減すると見込まれる。

ウクライナ戦争に関してトランプは「自分が大統領になれば1日で終わらせる」と述べているが、それはもちろん「米軍が全面的に展開してロシアを追い払う」といった意味ではなく、「支援を停止してでもウクライナに停戦交渉をさせる」という暗示だろう。(中略)

パリ五輪で“一時封印”された政治危機
アメリカだけでなくヨーロッパ各国でもウクライナ支援の継続に消極的な世論が広がっている。パリ五輪が開催されているフランスは、その典型だ。

五輪開催直前の7月初旬に行われたフランス議会選挙では、左派政党の連合体"新人民戦線"と極右政党"国民連合"が大幅に議席を増やした。

その後フランスはパリ五輪に忙殺され、大統領と議会の対立は一時棚上げにされた。しかし、五輪が終わって熱狂が覚めれば、マクロンは再びウクライナ支援に否定的な世論の突き上げに直面することになる。

フランスが反ウクライナ侵攻の拠点でなくなれば、その影響はヨーロッパ全土に及ぶと想定される。つまり、ウクライナからみてヨーロッパもこれまで通りの支援を期待しにくい。

中国の立場と利益
もっとも、“ロシアと手を組む中国に停戦の仲介なんかできるはずがない”という意見もあるだろう。もちろん、中国はアメリカをはじめ先進国とは立場が異なる。

ただし、ウクライナ政府が強調したように、黒海沿岸で戦闘が続くことが中国の「一帯一路」構想にとって妨げになることは確かだ。

さらに、一般にいわれているほど、中ロの“無制限の協力”は無制限ではない。実際、中国はどさくさに紛れてロシアの“裏庭”中央アジアへの進出を加速させている。

ウクライナ戦争に関していうと、中国は公式には中立を標榜していて、ウクライナとの取引も多い。今年5月だけでも中国-ウクライナ貿易額は8億5000万ドルを超え、前月のアメリカ-ウクライナ貿易額の約1億8000万ドルを大きく上回った(ウクライナは中国の「一帯一路」構想に参加している)。

さらに中国は今年4月にはウクライナ停戦交渉のための6項目からなる提案をブラジルと共同で発表している。

その一方で、今やプーチンが耳をかす相手は習近平だけだろう。
クレバ外相との会談後、王毅外相はメディアに対して「ウクライナは今や中国に“仲介者”としての役割を期待している」と述べた。これは暗に「アメリカでもロシアでもなく中国こそ世界の安全に責任を果たす大国」とアピールしたかったとみてよい。

焦点は"国土の不可分"
ただし、実際にロシアに働きかけられるのが中国だけとしても、中国が仲介役をこなせるかは話が別だ。
その最大のハードルは2014年以降にロシアによって編入されたクリミア半島、東部のドネツクやルハンスクの取り扱いにある。

これらの土地はロシアによる実効支配のもとで住民投票が行われ、"独立"が多数を占めた。住民自身がロシア編入を望んだのだから、すでにウクライナ領ではない、というのがロシアの立場だ。ロシアは2022年以降、しばしばウクライナに停戦交渉を呼びかけてきたが、この一点を譲る様子はない。

これに対して、ウクライナ側は住民投票自体が違法と主張しており、ロシアの実効支配からこれらの土地を奪還したい。だからこそ、ウクライナは停戦交渉そのものに難色を示してきたのだ。

ウクライナとロシアの停戦交渉が実現しても、この問題が最大の難所になると予想される。先進国はウクライナの言い分を支持しており、スイスの支援国会合でも“国土の不可分”が強調された。

ところが、中国はクリミア半島やドネツクのロシア編入を支持していないものの、ブラジルと共同発表した停戦交渉に関する提案では、この問題について触れていない。

その一つの理由は、中国の外交方針にあるとみてよい。
1971年の国連総会で「中華人民共和国が国連における中国代表権をもつ」と決議されたとき、それを支持したのはほとんどが途上国だった。このように冷戦時代から中国は、新興国・途上国に国際的な足場を求めてきた。

アメリカなど先進国の呼びかけにも関わらず、新興国・途上国の多くはロシア制裁に消極的だが、そのほとんどはロシアの軍事活動や編入を支持しているわけではない。だからこそ、中国にしてみれば、新興国・途上国で受け入れられにくい部分でまでロシアに付き合うことのリスクは大きい。

かといって、中国がロシアに「ウクライナに土地を返せ」といえるかは疑問だ。とすると、たとえ中国が仲介役になっても、ウクライナとロシアの停戦協議がスムーズにいくとは限らない。

それでも停戦協議をスタートさせられる条件が最も揃っているのが中国であることも確かだ。そのこと自体、“徹底抗戦”を後押ししてきたアメリカはじめ先進国にとっては都合が悪いことなのである。【7月30日 六辻彰二氏 Newsweek】
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今年4月中国がブラジルと共同で発表した6項目提案にしても、今回のウクライナ外相の訪中会談にしても、中国が停戦に向けて懸案事項に関する具体策を示している訳でなく、あくまでも総論的なレベルにとどまってはいます。

ただ、形式的には“中立”を主張しつつ、“プーチンが耳をかす相手は習近平だけ”という状況が“仲介者”としての中国の存在感を高めています。

【ミャンマー要人の「中国詣で」 中国は総選挙実施で安定政権樹立を目指す】
“耳をかす相手は習近平だけ”という点では、欧米から制裁を受けるミャンマー軍事政権も同じでしょう。

****ミャンマー要人「中国詣で」 軍政、治安や経済支援促す****
軍事政権下のミャンマー要人による中国訪問が相次いでいる。この1カ月で軍政序列2位の高官や外相、主要政党代表のほか、テインセイン元大統領も派遣された。

治安や経済分野で中国の支援を促す。中国も物流の重要経路としてミャンマーへの関与を深める。
ミャンマーの主要4政党の代表が27日までおよそ1週間、中国共産党の招きで訪中した。(後略)【7月29日 日経】
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テインセイン元大統領・・・軍事政権ではありながら、その後のスー・チー政権につながる民主化、そして、経済発展の基盤をつくる「善政」を行った軍人政治家です。個人的には、民主化の象徴たるスー・チー氏以上に、その手腕・実績を評価しています。(軍幹部ですから、軍へのコントロールも効きます)

ミャンマーでは今月末には非常事態宣言が再び期限を迎えます、憲法では、宣言解除から6カ月以内に総選挙を実施すると定めています。それを受けて、軍事政権は総選挙実施の基礎となる国政調査を10月に行おうとしています

しかし、少数民族武装勢力及び民主派武装勢力との戦闘が続いている現状から、非常事態制限解除そして総選挙の実施は困難で、また延期されるのではと見る向きが多いようです。

そうした中で、中国は総選挙実施を後押ししています。
シンガポールのテレビ局CNAは消息筋の話として、中国外交トップ王毅共産党政治局員兼外相はミャンマー国軍がまず政権を手放し、選挙実施に向けた暫定政権をつくるよう、ミンアウンフライン司令官の説得を訪中したテインセイン元大統領に要請した、と報じています。

少数民族武装勢力ともつながりを持つ中国は、軍事政権とも同時につながりを持っています。
中国にとっては、投資や貿易の拡大のためにも、また中国本土からインド洋へアクセスを可能とする「一帯一路」の要としても、ミャンマーの安定を重視しています。

そのために、国軍が影響力を持つ前提で、暫定政権(テインセイン元大統領も参加か?)による選挙によって正統性がある政権を発足させることを狙っていると想像されます。

国軍を支えつつ、その他の勢力への影響力も維持しながら情勢安定を促すというのが中国の方向性のようです。

【パレスチナ各組織が北京で協議 ファタハ・ハマスの対立をおさめて「統一政府樹立」で合意】
ガザ地区での戦闘が続き、更にヒズボラとイスラエルの本格的戦闘も懸念されるパレスチナ情勢に関しても中国の存在が注目されています。

パレスチナの停戦・安定にとってパレスチナ自治政府の役割が不可欠ですが、そのパレスチナ自治政府がファタハとハマスの対立で長年機能麻痺状態にあることが、パレスチナ問題にとって大きな課題になっています。

そのパレスチナ内部の対立を中国が仲介してとりまとめ、「統一政府」を樹立することで合意したとか。現段階では方向性での合意のレベルに過ぎず、難しいのは今後の具体策ではありますが。

****パレスチナ各組織、統一政府樹立で合意 北京で会談=中国メディア****
パレスチナのイスラム組織ハマスや自治政府主流派ファタハなど複数の組織が23日、分断を終結させ統一政府を発足させることで合意した。中国国営メディアが伝えた。

中国国営中央テレビ(CCTV)によると、各組織は21─23日の日程で北京で和解に向け会談。閉会式で団結を強化する「北京宣言」に署名した。

ハマス幹部のフサム・バドラン氏は、宣言の最も重要な点はパレスチナ統一政府を樹立し、パレスチナ人の問題を管理することだと述べた。

中国国際テレビ(CGTN)はソーシャルメディアへの投稿で、対立するハマスとファタハの指導者を含むパレスチナの14の組織はメディアとも会談し、中国の王毅外相も同席したと伝えた。

バドラン氏は声明で、会議を主催し宣言の署名に導いた中国の取り組みを称賛した。
「われわれの市民が特にガザ地区で大量虐殺戦争に直面している重要な時期にこの宣言が行われた」と指摘。「(この合意は)パレスチナ統一の達成に向けたさらなる前向きな一歩だ」と述べた。

統一政府がガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の問題を管理し、復興を監督し、選挙の条件を整えると表明した。

「これは戦後のパレスチナ情勢を管理する上で、パレスチナ人の利益に反する現実を押し付けようとするあらゆる地域的・国際的な介入に対する強力な防壁となる」とした。

ハマスとファタハは和解に向けて今年4月に中国の仲介で北京で会談していた。【7月23日 ロイター】
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イスラエルはこの動きを批判しています。

****イスラエル、中国仲介のパレスチナ「和解政府」計画を非難****
パレスチナ諸派が中国の仲介によって23日、イスラム組織ハマスを含める「民族和解政府」を樹立して統治する方向で合意したことについて、イスラエルは即日、これを非難した。

イスラエルのイスラエル・カッツ外相は「ハマスによる統治は粉砕されるだろう」と述べ、「北京宣言」に合意した主流派ファタハを率いるパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長がハマスを受け入れたと非難した。

イスラエルおよび、ハマスをテロ組織と見なしている米国は、紛争終結後のパレスチナ自治区ガザ地区の統治にハマスが関与することは、断じて認めない姿勢を貫いている。

訪米中のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスを排除するまでガザでの戦闘を継続すると明言した。

中国は23日、ハマスの幹部ムサ・アブマルズク氏やファタハの特使マフムード・アロウル氏ら、14のパレスチナ諸派の代表を北京に招き、和解と合意を仲介した。

ハマス政治局幹部のホッサム・バドラン氏は今回の中国の関与について、米国の影響力に対抗する手段と位置付けた。その上で、米国は偏見によって「パレスチナ内部の民族的合意」に反対すると同時に、「われわれパレスチナ人に対する占領という犯罪」に加担していると非難した。

北京宣言では、「パレスチナ諸派の合意による暫定的な民族統一政府」が、ガザ地区およびヨルダン川西岸、イスラエルが併合した東エルサレムを含む「すべてのパレスチナ領に権限を行使する」計画の概要がまとめられている。 【7月24日 AFP】
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ハマスとファタハは長年対立し、過去にも「和解」を約束しましたが実現していません。そのため今回の北京宣言に関しても、その実効性は不透明と見られています。

ただ、ハマス、ファタハを含むパレスチナの14の組織が中国・北京で会談し、中国が仲介・主導するというのが非常に興味深いところ。

ウクライナやミャンマー同様に、水面下で多方面とパイプを持ちつつ、アメリカのように紛争当事者の一方に肩入れすることなく表向きは紛争に中立的姿勢をアピール、結果的に仲介者としての立場が強化されるという中国外交の成果・・・というか、それを可能にしている中国の存在感の高まりを感じます。

習近平国家主席があちこち飛び回るのではなく、紛争地域当事者が「北京詣で」するあたりが中国の存在感です。
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日本製鉄と宝山鋼鉄の合弁経営解消 日中関係の歴史を映したその関係 “大きなターニングポイント”

2024-07-24 23:17:13 | 中国

(ヘルメットを着用して新日鉄君津製鉄所を見学する中国の鄧小平副首相ら(1978年10月26日撮影)【7月23日 読売】)

【1978年の日中平和友好条約締結以降の日中関係を反映した日本製鉄と宝山鋼鉄の関係】
日本製鉄が中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との20年にわたる合弁経営を解消するというニュース・・・・大企業とは言え、一企業の経営判断に関するニュースと言ってしまえばそれまでですが、鄧小平によって始まった中国の改革・開放政策とその後の経済発展、日中関係の歴史・推移を思い起こさせ、感慨深いものがあります。

****日本製鉄が中国企業との合弁解消=「大きなターニングポイント」―仏メディア****
2024年7月23日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、日本製鉄が中国の鉄鋼メーカー宝山鋼鉄との20年にわたるすると報じた。

記事は、日本製鉄が23日、宝山鋼鉄との合弁契約が満了する8月末で契約を終了すること、合弁会社の宝鋼−新日鉄汽車鋼板(BNA)について、日本製鉄が保有する全株式を17億5800万元で宝山鋼鉄に売却する予定であることを発表したと伝えた。

そして、日本メディアの報道として、昨年末現在でBNAには591人の従業員がいること、BNAが日本から輸入した良質な鋼材に電気メッキを施して日本の自動車メーカーの中国工場に供給してきたことを紹介。BNAを通じて日本製鉄側は中国事業を拡大する一方、中国側は日本の鋼板技術を獲得し、双方が利益を得てきたとした。

その上で、中国の自動車市場では自国ブランドの電気自動車が大きくシェアを伸ばし、トヨタ、日産、ホンダに代表される日本メーカーで軒並み販売台数が減少するようになったと指摘。

日本メーカーの需要が減少したことで日本製鉄は中国事業の拡大は難しいと判断、投資リソースを米国やインドに集中させるために今回の合弁解消に至ったと伝え、合弁解消によって日本製鉄の中国での鉄鋼生産能力は70%減少することになると紹介した。

記事は、1978年の日中平和友好条約締結以降、日本製鐵は中国政府の要望に応えて上海宝山鋼鉄工場の建設をサポートするなど、経済協力の象徴として中国の鉄鋼産業近代化に貢献してきたと紹介。2004年により続いてきた合弁関係の解消は大きなターニングポイントとしての意味を持つと伝えた。

この件について中国のネットユーザーは「もっと早く出ていくべきだった」「合弁解消を喜ぶ人が多いけれど、宝山鋼鉄は当初日本の支援を受けて日本の技術を100%使っていて、そこから中国一の技術を持つ鉄鋼会社に成長した。それに上海虹橋空港だって日本の支援で建設したんだぞ」「時は流れ、状況が変わったということだ」といった感想を残している。【7月24日 レコードチャイナ】
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私などの世代だと、山崎豊子原作で、1995年の放映されたTVドラマ「大地の子」の舞台となった製鉄所建設ということが思い浮かびますが、まさに(いろいろな問題は内在しながらも)順調に見えた日中関係を象徴する製鉄所建設プロジェクトでした。

同製鉄所建設は日本を視察した鄧小平の一言で始まったとも言われています。

“中国は日本の新日本製鐵(新日鉄)と協力して、日本の鉄鋼産業の進んだ技術と設備を導入することを決めた。1978年10月、鄧小平氏が新日鉄の君津製鉄所を見学した時、案内をした稲山嘉寛・新日鉄会長と斎藤英四郎社長に対し「中国にもこれと同じような製鉄所をつくってほしい」と言った。”2009年10月20日 人民中国】

中国側の将来への期待や日本に対する特殊な感情なども含めて、日中の技術者達の様々な思いがぶつかり合いなが日本製鉄のサポートで建設された宝山鋼鉄は巨大企業「宝鋼集団」に成長し、2004年には米誌「フォーチュン」で世界企業500傑に名を連ねるまでになりました。

「鉄は国家なり」という言葉のように、宝山鋼鉄は中国の製鉄業、ひいては急成長する中国経済を牽引することになりました。

1978年に世界5位だった中国の粗鋼生産量は96年にトップに立つことに。また、宝山鋼鉄は合併を繰り返して巨大化し、グループの中国宝武鋼鉄集団の粗鋼生産は世界首位となりました。

日鉄と宝山鋼鉄は2004年、欧州鉄鋼大手のアルセロールと自動車用鋼板を製造販売する合弁会社を設立、今回解消されたのはこの合弁事業です。

ただ、その後の事業展開の中で、「日鉄内部には自社の先端技術が中国側へ流出したことへの不満が鬱積していた」(評論家の宮崎正弘氏)ということもあったようです。

****天風録 『日鉄、宝山鋼鉄を訴える』****
日中が国交を回復して5年後の1977年。ある訪日団を当時の新日鉄の現場に案内し、夜の宴席では缶ビールをプシュッとやる。これは鉄でできています、と日本側が配ると一行は「アイヤー」と驚いた

彼らは帰国後、共産党指導部に報告する。「あんなに薄くきれいな鉄板はとても作れない」。かの国は彼我の差を痛感して新日鉄に協力を求め、翌年、上海に今の宝山鋼鉄を建設する合意に至った―。「証言戦後日中関係秘史」(岩波書店)で、日中貿易の実務家が回顧している

ところが先日、新日鉄の流れをくむ日鉄が宝山鋼鉄を訴えた。この間柄で、訴訟沙汰とは穏やかではない

電気自動車に欠かせぬ部品、電磁鋼板の特許権を宝山鋼鉄が侵害したというのが理由。部品を仕入れるトヨタ自動車も訴えられた。脱炭素が進む中、日鉄にとって電磁鋼板は「虎の子」。

トヨタにしてみれば、調達先は多い方が優位に立てる。話し合いでは解決できなかったとか

中国残留孤児を主人公にした山崎豊子さんの長編小説「大地の子」に宝山鋼鉄は「宝華製鉄」として出てくる。引き裂かれた父子が再会する場だ。このたびの法廷に「情」が持ち込まれることはあろうか。【2021年10月18日 中国新聞】
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更に、中国製EV生産の拡大に伴う日本メーカーの需要減少という経済要因は冒頭記事にあるとおり。

【米中対立のなかでの日本企業の「脱中国」の動き】
USスチール買収を抱える日本製鉄にとっては、単に現在の需要減少だけでなく、米中対立のなかでの「確トラ」がもたらす将来への懸念からの「脱中国」の一環との指摘も

****日本製鉄「確トラ」で決断? 鉄鋼大手の宝山と合弁解消 日本企業〝脱中国〟加速、米国側に「親中企業では」警戒する声****
日本製鉄は中国宝武鋼鉄集団のグループ企業・宝山鋼鉄との合弁を解消した

日本製鉄は23日、中国鉄鋼大手の宝山鋼鉄との合弁事業を解消すると発表した。中国の鋼材生産能力を7割削減し、米国やインドに経営資源を集中させる。日鉄は米鉄鋼大手USスチールの買収を進めており、対中強硬姿勢を示すドナルド・トランプ前大統領の返り咲きをにらんで中国と距離を置いたとの見方もある。日本企業の「脱中国」は一段と加速するのか。(中略)

日鉄と宝山鋼鉄は2004年、欧州鉄鋼大手のアルセロールと自動車用鋼板を製造販売する合弁会社を設立したが、中国の自動車市場では電気自動車(EV)が台頭。日本の自動車メーカーは販売が苦戦しており、成長が見込めないと判断したことが合弁解消の理由としている。

評論家の宮崎正弘氏は「日鉄内部には自社の先端技術が中国側へ流出したことへの不満が鬱積していた」と話す。

トランプ政権で国務長官を務めたポンペオ氏を起用
日鉄関係者は、合弁解消は「USスチールの買収とは一切関係ない」とする。ただ、トランプ氏は、大統領に返り咲いた場合、買収を「即座に阻止する」と強調している。日鉄はトランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏を助言役に起用するなど「トランプ・シフト」を進めている。

このところ、キリンホールディングスやAGC、パナソニックホールディングス、三菱自動車、ブリヂストン、住友化学などが中国事業からの撤退や縮小を発表している。

経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「米国側には宝武鋼鉄集団との協力関係を続けてきた日鉄を『〝親中企業〟ではないか』と警戒する声もあり、日鉄側は懸念を払拭する必要があったのではないか。中国も国策でEVの国産化を進めるなか、現地へ進出していた日本の自動車企業にとっては、痛みも伴うが、脱中国化は加速するだろう。軍事面にも関わるハイテク鋼材など先端技術をめぐっては今後、日本企業も米国側に付くのか中国側に付くのか、旗幟(きし)を鮮明にすることが求められる」と指摘した。【7月24日 夕刊フジ】
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「確トラ」の方は、ハリス副大統領出馬で不透明感を強めていますが・・・・

日中協力の象徴としての製鉄所建設、その製鉄所が牽引する中国経済の成長、日中間の技術移転をめぐる確執、EV拡大などの需要構造の変化、そして米中対立の影響・・・様々な時代の動きを反映した宝山鋼鉄工場建設から合弁経営解消至る流れで、「時は流れ、状況が変わった」との感も。

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中国  経済低迷のなか、政策方向性を決める「三中全会」開催

2024-07-15 22:45:33 | 中国

(2月27日、深センで世界で初めて海を渡る飛行に成功した峰飛航空科技のeVTOL「盛世龍」 往復で100kmを超える距離、道路を走れば片道2時間半から3時間かかるところを20分で飛行した。【3月27日 マネーポストWEB】電動モーターを使用しており、一回の充電で250kmの飛行が可能。最大積載人数は5人(操縦者1人、乗客4人)、最大積載荷物重量は350kg、走行速度は200km/h以上、同じレベルのヘリコプターよりは遥かに安くなるとのこと)

【低迷する中国経済】
不動産不況、地方財政悪化、若者の失業など中国経済の低迷と言うか、ひと頃の勢いを失っていることは周知のところ。

****「景気が良くないから節約始めました」中国 今年上半期だけで100万店が閉店 若者は“高齢者食堂”に*****
きょう(7月15日)発表された中国の4月から6月までのGDP=国内総生産の成長率は減速傾向でした。閉店した店は今年上半期だけで既に100万店を超え、若者が高齢者用の食堂に集まる事態となっています。

家電量販店の宣伝(中国SNSより)
「皆が楽しみにしていた瞬間がついに来た!6月15日から古い家電を新しいものに交換する際に補助金が出るようになりました」

家電の買い替え促進キャンペーンに、さらには仕事終わりの若者を惹きつけるエンタメ施設やレストランなどがある「ナイトスポット」の活性化。いずれも今、中国政府が力を入れている消費刺激策です。

しかし、その効果は限定的なようで、中国の国家統計局がきょう発表した今年4月から6月までのGDP=国内総生産の実質成長率はプラス4.7%。今年1月から3月までの成長率、5.3%から減速しています。

市民からも…
市民 「(Q.中国の景気はどうですか)あまり良くないです」 「会社から給料を下げられました」 「今まで考えたこともなかったのに、景気が良くないから節約を始めました」

客足が遠のき、8割近い店舗が閉店に追い込まれたショッピングモール。
中国メディアによりますと、閉店した店の数は今年上半期だけで既に100万店を超え、去年1年間と同じ店数に迫る勢いだといいます。

長引く景気低迷に市民の節約志向は変わらず、こんな現象まで…
記者 「こちらの高齢者食堂ですが、中には若い人の姿もあります」

地域の高齢者に安く栄養価の高い食事を提供する「高齢者食堂」。かつては高齢者ばかりが利用していましたが、最近、若者の姿が目立つようになりました。

「値段がちょうどいいし、ランチをすぐ済ませられるし、おいしいよ。将来に期待を持てないので節約しています」(後略)【7月15日 TBS NEWS DIG】
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(中国統計数字の信頼性には疑問もありますが)記事にもあるように、4月から6月までのGDPの実質成長率はプラス4.7%と、年間目標を下回り、減速傾向を示しています。

****中国4月〜6月の成長率4.7%に減速 年間目標を下回る 「不動産開発投資」落ち込む****
中国の4月から6月のGDP=国内総生産の伸び率は4.7%のプラスとなり、年間目標の5%前後を下回りました。

中国・国家統計局の15日の発表によりますと、1月から6月の消費の伸びはプラス3.7%と、1月から3月のプラス4.7%から減速しました。
また、減速が続いている不動産開発投資は、1月から6月のマイナス幅が10.1%となり、1月から3月のマイナス9.5%よりも、落ち込みが激しくなっています。

1月から6月の半年間でのGDPの伸び率は5.0%で、目標の5%前後には届いています。
今回は記者会見をせず、インターネットでの発表となりました。 15日から始まる中国共産党の重要会議の日程と重なったためとみられます。【7月15日 テレ朝news】
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大和総研 経済調査部の齋藤尚登部長はこの数字・経済状況について・・・

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Q. GDPの内容をどう評価する?
A. 市場予想の平均を見ると5%、あるいはもう少し上というところが多かったので、予想よりは悪かったという受け止めだと思う。

特に消費に注目していたが、小売業の売上高は、ことし1月から3月が前年同期比で4.7%のプラスで、4月から6月は2.6%のプラスと、2ポイントほど落ちていて、非常に低い数字だった。ここが一番の押し下げ要因になったのではないかと見ている。

Q. 不動産不況についてはどう見ている?
A. ことし5月17日に中国メディアが「前例のない総合的なパッケージ」と呼ぶ対策が出て、住宅市場のてこ入れということだったが、少なくとも6月の数字を見るかぎり、その効果はほぼ感じられない。非常に悪い状態が続いていると見ている。

特に中古の住宅価格は全国平均で7.9%のマイナスで、住宅価格の下落に歯止めがかかっていない。こういう状況だと、住みたいという人も様子見をしてしまう。

「もっと下がるかもしれない」「下がってから買いたい」ということで、今のところ住宅市場が回復する兆しは見いだせていないという状況だ。

Q. 景気の先行きをどう見る?
A. いま、中国は製造業の設備投資を増やせという政策をとっていて、ここは若干の効果が出てきている。
ただ、いま中国経済は供給過剰、需要が足りないということで、さらに生産能力を拡張してしまうと、いずれまた過剰生産能力の問題がクローズアップされることになる。

ことしの成長率目標が5%ということなので、根本的、あるいは構造的な問題を解決するというよりは、対症療法的な政策を導入して何とか5%成長にもっていくと思う。【7月15日 NHK】
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【節約志向 低迷する消費】
消費の低迷については、下記のような記事も。

****中国の大型ネット通販セール「618」が期待外れに、売上高が初めて減少―海外メディア****
中国の大型ネット通販セール「618」が期待外れに終わったことを受け、小売業者の目先の見通しや景気の先行きに暗雲が生じている、とロイター通信が報じた。

今年の618セールは売上高が初めて減少。既に厳しい価格競争を強いられている小売業者への圧力が強まっていることが浮き彫りになった。

618は電子商取引(EC)大手JDドット・コム(京東商城)の創設日である6月18日にちなんで名付けられた。11月の「独身の日」に次ぐ大型セールで、家計の消費を示す重要な指標とみられている。

両イベントはかつて中国の消費主義を象徴し、通販サイトやブランド各社に確実な売り上げ増加をもたらした。EC大手アリババが最後に独身の日の売上高を公表した2021年には期間中の売り上げが845億4000万ドル(現レートで約13兆5000億円)に達した。

ロイター通信によると、今年の618では消費者に支出してもらうのがいかに難しいかが示された。コロナ禍以降、節約傾向にある消費者の支出を促すため小売業者が年間を通じて値引きを実施していることも、大型セール期間中の販売伸び悩みの一因となっている。昨年の独身の日セールの売上高は2%増だった。

こうした値引きはJDドット・コム、アリババ系の「天猫(Tモール)」と「淘宝網(タオバオ)」から、低価格プレーヤーの「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」などに消費者が流れるのを遅らせているものの、個人消費喚起にはつながっていない。最近の四半期決算でアリババの国内EC部門は4%増収にとどまった。

さらに大きな懸念材料は22年から低迷が続く消費者心理だ。バンク・オブ・アメリカの最新の中国消費者調査によると、6月の消費者信頼感は一段と悪化した。

今後6カ月間に支出を増やすと回答した人の割合は45%と、4月の55%から低下した。また、今後6カ月に収入増加を見込んでいる人は31%で4月から10ポイント低下した。(中略)

市場調査会社カンター・ワールドパネルの大中華圏担当マネジングディレクター、ジェーソン・ユー氏は「消費者が618セールで必要な物を購入したため、今後数カ月は小売業者にとって困難な時期になる」と警告。「こうした買いだめ行動は今後の消費ポテンシャルの過度の前倒しだ。7月は非常に厳しくなるだろう」と語った。【6月29日 レコードチャイナ】
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【インフラ投資にも限界】
これまで中国経済成長を支えてきたインフラ投資にも限界が見えています。

****インフラ投資にも課題が浮かび上がる****
不動産不況の長期化で、中国の経済成長を支えてきたインフラ投資にも課題が浮かび上がっています。

中国政府は国有企業や地方政府と連携して、広大な国土に高速鉄道網を張り巡らせ、沿線の開発などで各地の経済成長を促してきました。高速鉄道は去年だけで2700キロ余りの区間が開通し、総延長は去年末の時点で4万5000キロに達しています。

その一方で、採算の合わない投資も目立っています。
中国メディアによりますと、全国の高速鉄道の駅のうち、利用者数の低迷などで閉鎖されるなどした駅が少なくとも26か所にのぼっています。(中略)

地方財政の悪化が深刻になる中、採算度外視のインフラ投資で不動産開発を推し進め、経済の成長を押し上げる手法やモデルは限界を迎えています。

中国政府は2035年までに高速鉄道の総延長を7万キロまでのばすという目標を掲げています。
ただ、主要都市を結ぶ路線はほぼ開通し、今後は比較的規模の小さい都市間の路線となることから、これまで以上に投資の妥当性が問われることになります。【7月15日 NHK】
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【政策方向性を決める「三中全会」開催】
こうした低迷する経済状況のなか、中国共産党の長期的な経済政策などの方針を決める重要会議「三中全会」が15日から始まりました。

****「三中全会」とは*****
「三中全会」は、5年に1度の党大会で選出されたメンバーによる中国共産党の最高指導機関「中央委員会」が、3回目に開く全体会議です。

慣例では、秋に開かれる党大会の直後に1回目の全体会議「一中全会」を開いて総書記など最高指導部を選出し、翌年の春に開く「二中全会」で新指導部のもとでの政府の主要人事を話し合います。

そして「三中全会」は党大会のおよそ1年後に開かれるのが慣例となっていて、新指導部の中長期的な経済政策運営の方針を決定します。

今回の「三中全会」は慣例に従って去年秋に開催されるとみられていましたが、開催の遅れが指摘されていました。
不動産不況の対策などの策定に時間がかかったのではないかという見方が出ています。

過去の「三中全会」では、1978年に改革・開放政策へと大きくかじが切られたほか、1993年には社会主義市場経済体制の確立を打ち出すなど、重大な決定が行われています。

不動産不況や厳しい雇用情勢、それに内需の停滞など、中国経済の課題が山積する中、今回の会議でどういった内容が打ち出されるのか注目されます。【7月15日 NHK】
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「三中全会」開催が遅れたのは“不動産不況の対策などの策定に時間がかかった”というか、“経済政策を巡り政権内での方針が定まらず開催が遅れた”【7月15日 読売】とみられています。

「三中全会」において、習近平指導部が経済状況改善に向けて、政策の方向性をどのように示すのかが注目されています。

****中国「三中全会」始まる 習近平指導部 政策方向性どう示せるか****
中国共産党の長期的な経済政策などの方針を決める重要会議「三中全会」が15日から始まりました。不動産不況などを背景に景気の先行きに不透明感が広がる中、習近平指導部として今後の政策の方向性をどのように示すのかが焦点です。

景気の先行き 不透明感が広がる中で開催
(中略)今回の会議は、「改革の全面的な深化」と、独自の発展モデルを意味する「中国式現代化の推進」を主なテーマとしています。(中略)

中国では、不動産不況の長期化や内需の停滞などで景気の先行きに不透明感が広がっています。

こうした中、不動産不況に伴う金融面でのリスクや地方財政の悪化、不動産に代わる新たな産業の育成などについて、習近平指導部として、政策の方向性をどのように示すのかが焦点です。(中略)

今回の議題と経済の注目点
今回の「三中全会」では、「改革の全面的な深化」と、独自の発展モデルを意味する「中国式現代化の推進」が議題となっています。(中略)

このうち、不動産不況やそれに伴う地方財政の悪化をめぐっては、ことし3月の全人代=全国人民代表大会の「政府活動報告」でリスクとして明示した上で、その解消に全力を挙げる姿勢を示していて、市場の健全化に向けてどこまで踏み込んだ姿勢を示すかが注目されています。

産業面では、これまで中国経済を支えてきた不動産に代わる新たな産業を技術革新などを通じてどのように育成していくかや、国有企業が優遇されているという指摘も出る中、民間企業の重視や外国企業への開放の姿勢をどこまで打ち出すかが焦点となります。

また、地方政府の間で広がる保護主義的な動きが、過剰生産の問題につながっているという指摘も出る中、全国統一市場の構築についてどう言及するかも注目点となっています。

さらに、経済政策の進め方をめぐって党の指導の強化や統制の強化をどこまで打ち出すかも焦点となります。(後略)【7月15日 NHK】
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【期待される「低空経済」】
不動産に代わって経済成長をけん引する新たな産業として期待されているのが「低空経済」だとか。そこまでのパワーがあるのか・・・・

****新たな産業育成へ 期待は「低空経済」****
中国では不動産に代わって経済成長をけん引する新たな産業の育成が急務になっています。こうした中、今注目されているのが、「低空経済」と呼ばれる高度1000メートル以下の空域でドローンやいわゆる「空飛ぶ車」などを活用する、新たな産業です。

中国民用航空局によりますと、市場規模は2025年までに1兆5000億人民元、日本円でおよそ33兆円、2035年にはおよそ77兆円に達する見込みで、ことし3月の全人代=全国人民代表大会の「政府活動報告」の中で、新たな成長エンジンの1つとして盛り込まれました。

このうち、ハイテク産業が集積する広東省の深※セン(※「セン」は、「土」へんに「川」)では、ドローンを使ったフードデリバリーが行われています。市内に10か所以上ある配送拠点で、利用者がスマートフォンを使って注文すると、食べ物や飲み物をドローンが配達してくれる仕組みです。

注文から15分から20分程度で配達が完了し、注文した電話番号の下4桁を入力すると、配達ボックスから商品を受け取ることができます。

深※センではことし5月下旬、国際ドローン展が開かれました。
4000機を超えるドローンが展示され、出展した企業が宅配便の配送や測量、災害時の活用や空飛ぶタクシーなど、「低空経済」に関連する新たなビジネスをアピールしていました。

出展したドローン専門の保険を扱う企業は「産業がまだ十分に成熟していない今の段階で企業の問題やリスクを解決するため、支援したい。これから業界が進歩し、成熟していくのに伴って、私たちも成長することを期待している」と話していました。

「低空経済」 農業分野で市場が急拡大
「低空経済」のうち、市場が急拡大しているのが農業分野です。

中国内陸部の雲南省の玉渓にあるみかん農家の畑では、農薬の散布などにドローンを活用しています。かつては人力で作業していましたが、急しゅんな地形で足場が悪く、雨の日は作業ができないため、効率が悪かったといいます。

しかし、ドローンの活用によって人手もかからず、短時間で効率的に農薬を散布できるようになったということです。

みかん農家の顧天保さんは「以前は十数人で4、5日かかったが、ドローンなら半日で終わる。農薬と時間、労力を節約でき、とてもありがたい」と、話していました。

人手不足解消や農村の活性化にもつながることが期待されていて、ドローンメーカーのエンジニアの李偉さんは「農業用ドローンが農家に受け入れられ、利用されれば、農業にテクノロジーの翼を授けることができる」と、話していました。(中略)

中国のドローンメーカー最大手のDJIによりますと、中国で農業用ドローンを導入している農家は、全体のおよそ3分の1にのぼるということです。

メーカーの企業戦略責任者の張暁楠さんは「政府の政策によって、さまざまな産業が、生産工程でドローンを使うかどうか、どのような問題を解決できるかを検討するようになる。業界発展のための新しい政策がチャンスをもたらすと考えている」と話していました。【7月15日 NHK】
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なお、かつては政権内に李克強首相のような経済通がいましたが、現在の指導部にはそうした経済に明るい者がいないことも問題点とされたいます。
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中国  進むAI技術とその活用 完全自律型「殺人ロボット」などの懸念も

2024-07-13 22:40:20 | 中国

(【テレ東BIZ】7月4日から上海で始まった「世界人工知能大会」)

【選挙に「AI候補」】
アメリカ大統領選挙は「うそつき」「人格破綻者」と「認知症が疑われる老人」の争いになっています。
また、政治家の腐敗・汚職は世界中あらゆる国・地域で必ず見られること。

こうした状況を見れば「いっそのこと愚かな人間ではなく賢いAIに任せた方が」という考えが出てくるのは(その妥当性はさておき)当然のところでしょう。

****米市長選に「AI候補」? 州は資格否定、当局が可否判断へ****
米西部ワイオミング州の州都シャイアンの市長選にAIで生成された自動プログラムが「候補」として届け出された。「先端技術とデータに基づく意思決定を市政にもたらす」と訴える「AI候補」に対し、州幹部は「立候補資格はない」と主張し論争に。出馬を認めるかどうか地元当局が判断する。

市民のビクター・ミラーさんが対話型AIのチャットGPTを駆使してつくり出し、「仮想統合市民」の頭文字を取って「Vic」の名前で届け出た。市のウェブサイトでは、候補を2人に絞る予備選と11月の本選で構成される市長選に届け出た6人のうちの1人として名を連ねている。

AIであれば、あらゆる情報を織り込んで政策判断できるとミラーさん。当選すれば自身がAI候補を操作するが、判断は全て委ねるという。AI候補も、出馬は人間のリーダーシップと先端技術の融合を政治の世界で実現する道を開き「画期的だ」と自賛する。

選挙を管轄するグレイ州務長官は「出馬できるのは有権者だけで、実在する人間である必要がある」と、AI候補を認めないよう求めた。【6月17日 共同】
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****イギリスの総選挙では「世界初のAI政治家」立候補…「不祥事を起こさない」とメリット強調****
7月4日に投開票される英国の総選挙に、政策を生成AI(人工知能)に従って決定すると公約する候補者が出馬している。英メディアの世論調査によると、当選する可能性は極めて低いとされているものの、候補者は当選した場合、AIの「代理人」として活動すると訴え、支持を呼びかけている。

立候補しているのは英南部の実業家スティーブ・エンダコット氏(59)で、「世界初のAI政治家」を目指している。投票用紙に記載される候補者名は「スティーブ・AI」だ。

エンダコット氏は経営する会社で、自身の姿と声を模したアバター(分身)とチャットボットの「AIスティーブ」を開発した。選挙期間中、有権者からの質問を24時間受け付け、音声と文章で回答する。

ロイター通信によると、当選すればエンダコット氏が議員となる。だが、政策はAIスティーブと有権者との対話や、地元のボランティアによる政策案の採点に基づいて決める。採決での投票行動も判断をAIスティーブに委ねる。

AIを使えば有権者との議論を大量にこなせ、有権者の意見を政治に直接反映できるとしている。AIが「不祥事を起こさない」とも強調している。(後略)【6月23日 読売】
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上記アメリカ・ワイオミングのケースについては、州法が立候補要件として求める登録有権者に該当しないとして州当局は立候補を認めませんでした。

少なくとも現時点では、AIと言えどもどういう資料をベースにしているかで判断に大きな偏りが出ることは周知のところです。参考にするには便利なツールですが、まだ判断を任せられるようなレベルにはないでしょう。

一方で、将来的に人間の能力を超えて自律的な判断が可能になるAIが出現すれば、そのようなAIと人間の関係がそうなるか、それはそれで人類的大問題。

【AI利用に慎重な日本 積極的な中国】
いずれにしてもAIを取り巻く環境は日進月歩の世界ですが、世界に比べると日本は利用に慎重な傾向があるようです。

****日本で生成AIの利用が進まない理由―中国メディア****
2024年7月10日、中国メディアの第一財経は、欧米に比べて日本では生成AIの普及が進んでいないことが日本政府の報告により明らかになったとし、専門家の分析を紹介する記事を掲載した。

記事は、日本政府が5日に発表した「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)で、日本における個人の生成AI利用率は9.1%にとどまり中国の56.3%、米国の46.3%、英国の39.8%、ドイツの34.6%と大きな開きがあるほか、企業での利用率も46.8%と米国(84.7%)や中国(84.4%)、ドイツ(72.7%)より低いことが明らかになったと伝えた。

また、調査に参加した人のうち、生成AIを「とても使いたい」「使いたいと考えている」と回答した割合は7割に達しており、総務省によるとAI生成利用には「潜在的な需要」がある一方、4割以上が「使い方を知らない」ために生成AIを利用しておらず、4割近くが「生活に必要ない」と認識していることもわかったと紹介した。

さらに、生成AIをすでに利用している人の具体的な利用シーンは「質問」が8.3%と最も多く、「コンテンツの精緻化・翻訳」が5.9%で続いたほか、生成AIがもたらす影響については「新しいアイデア」「業務の効率化」「人手不足の解消」と回答した人が7割を超える一方、「情報漏えいなどのセキュリティーリスクが拡大する」「著作権侵害の可能性が高まる」といった悪影響を挙げる人も7割を占めたとしている。

その上で、総務省の報告では日本企業が生成AIに対して「慎重」であり、海外企業が顧客へのサービス提供など幅広い業務に活用しているのに対して国内企業は会議の日程調整など一部の社内調整にのみ用いる傾向があると指摘し、政府が生成AIの導入を促進するためには、明確なルールとガイドラインを確立してリスクを減らし、個人、企業が安心して利用できる環境を構築することが重要との見解を示していると伝えた。(中略)

また、朱氏が日本では1960年代から国の行政処理業務にコンピューターを使い始めるなど比較的早い段階から情報技術の導入を始めた一方で、コンピューターによるデータ処理を規制する地方条例を設けたり、70年代からは個人情報保護の制度化に関する大規模な議論が始まったりして、80年代以降は個人情報漏えい問題に対して総じて敏感かつ保守的な姿勢が鮮明になったと指摘したほか、2000年前後には民間企業による個人情報の不適切な取り扱いが絶え間なく発生したことで国民の個人情報保護意識が一層強まったと紹介し、このような状況が生成AIの受け入れに対して日本社会が「恐る恐る」な姿勢を崩せない根底にあると論じたことを伝えた。【7月13日 レコードチャイナ】
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何事につけ、新たなものに「慎重」なのは昨今の日本の傾向です。
メリットよりも、悪影響を先ず考える・・・・そういう日本社会の傾向が日本の長期的停滞・衰退の根本原因だと個人的には考えていますが、その話はさておき、日本と対照的に新たな技術にアグレッシブなのが中国。

****生成AI特許出願は中国が7割、2位米国を大きく引き離す3万8210件…昨年までの10年間****
世界知的所有権機関(WIPO)は3日、2023年までの10年間に出願された生成AI(人工知能)に関する特許件数約5万4000件のうち約7割を占める3万8210件が中国からの出願だったとする報告書を発表した。
 
2位米国の6276件を大きく引き離しており、世論操作などでの生成AI使用が懸念されている中国の群を抜いた注力ぶりが浮き彫りとなった。

次いで韓国4155件、日本3409件、インド1350件だった。組織別でも、IT大手のテンセントや百度(バイドゥ)、保険大手の平安保険グループ、中国科学院など中国勢が上位を占め、中国以外ではIBM(米国)が最も多かった。

生成AIに関する特許は急増しており、14年の出願件数は733件だったが23年には1万4000件超となり、この1年だけで全体の4分の1以上を占めた。【7月4日 読売】
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****中国でAI最先端を紹介 驚異の技術 展示会 “キュウリの皮むき”も****
中国・上海で最先端のAI(人工知能)の展示会があり、キーワードをもとに瞬時にイラストを描くなど驚異の技術が紹介されました。

4日から上海で始まった「世界人工知能大会」には中国の「百度(バイドゥ)」や「アリババ」といった国内外のIT企業など500社以上が参加し、最新のAI技術を披露しました。

特に目立ったのは簡単な指示をもとに瞬時に精巧なイラストを描く画像生成技術です。
他にもCGの少女が自然な口調で来場者と対話する展示など、各社が技術の高さを競い合っていました。

中国は国家戦略としてAI産業育成に力を入れていて、国内のAI企業はすでに4500社を超えたと言われています。【7月4日 テレ朝news】
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****AIの活用進む中国の医療現場、「Apple Vision Pro」もオペ室で活躍****
米アップルは先ごろ、「空間コンピューティングデバイス」である「Vision Pro」を発売した。ただその販売価格は3万元から(約66万円。日本での販売価格は59万9800円から)と高価なため、「技術オタク」であってもまだなかなか手が出せていないようだ。そんな中、中国では外科医がすでにオペ室に導入し、活用している。

テクノロジー感満載のある動画が最近、話題を集めている。その動画を見ると、外科医が「Apple Vision Pro」のARヘッドマウントディスプレーを装着して、手慣れた様子で患者に手術を施している。

手術が行われているのは北京大学人民病院のオペ室で、同病院の王俊(ワン・ジュン)院士が率いるチームが、中国で初めて「Apple Vision Pro」を活用して、胸腔鏡を使った肺がんの根治を目指す手術を行った。執刀医は高健医師が務めた。

同チームによると、胸部外科の胸腔鏡手術では先進的なディスプレー技術が執刀医をサポートする重要な役割を果たしている。デジタルコンテンツと現実世界がシームレスに統合され、医師に高い解像度で超低遅延のストリーミング処理を提供し、医師は手術の初めから最後までディスプレーを見ながら手術を行うことができる。

中国各地においては、各大手医療機関が技術革新を通して、「オペ室の革命」、ひいては「病院全体の革命」を試みている。

例えば、復旦大学附属産婦人科病院の専門家は、「5G+AI」技術を活用して、手術支援ロボットを正確に遠隔操作して、2000キロ以上離れた場所にいる多発性子宮筋腫が原因で貧血が起きている患者を対象に腹腔鏡手術を行った。かかった時間は約2時間で、手術は無事成功した。

上海市第一人民病院は数日前、モバイル決済サービス「支付宝(アリペイ)」と共同で開発した上海初の「AI陪診師」をリリースした。基盤モデルやデジタルヒューマンといった技術をベースに、通院する患者と双方向のやり取りをしながら付き添うサービスを提供してくれる。

現在、治療薬やワクチンの開発、医療用ロボットといったさまざまな分野において、人工知能(AI)技術が幅広く活用されている。

先ごろ世界経済フォーラム(WEF)が発表した「2024年新興テクノロジー・トップ10」のトップは科学発見を駆動する人工知能(AI)だった。

米市場調査会社・IDCの統計データによると、2025年に世界のAI応用市場の規模は1270億ドルに拡大し、医療業界がそのうちの5分の1を占めるとみられている。そしてそれがこの先5年の間、成長が最も著しい競争の場の一つとなりそうだ。

医学設備の分野を見ると、大まかな統計ながら、2023年末の時点で、中国ではAI関連の医学設備63種類と医療用ロボット61種類が認可を経て、発売されている。【7月7日 レコードチャイナ】
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日本だと、AI利用については、「問題が起きたとき、誰が責任をとるのか」といった議論に終始して、結局使用されない・・・となるのでしょう。

なお、中国生成AI市場の激戦状態については「資源の無駄遣い」との批判もあります。

****ベリシリコン創業者、生成AIの百モデル大戦は「資源の無駄遣い」―中国メディア****
中国メディアの快科技によると、中国RISC-V産業連盟の理事長で、中国半導体回路設計大手、芯原微電子(ベリシリコン・マイクロエレクトロニクス)の創業者・董事長の戴偉民(ダイ・ウェイミン)氏は、「百モデル大戦」とも形容される生成AI(人工知能)市場の激戦状態について「資源の無駄遣い」との認識を示した。

戴氏はこのほど上海で開催された世界人工知能大会の「RISC-V・生成AIフォーラム」で、AI大模型(大規模モデル)に対する見解を共有し、「ChatGPTが生成AIブームを引き起こして以来、多くの企業が大規模モデルの研究開発に投資してきたが、そうした『群模乱舞』現象は実際のところ不経済だ」と指摘した
戴氏は「人間の脳を超えるAIを実現するには、モデルパラメータの規模を継続的に拡大しなければならない。それには計算能力の指数関数的成長が必要で、膨大な電力消費を伴う」と強調。中国の基本的な大規模モデルの数は2028年までに10未満となり、理想的な状態は5だと予測した。

戴氏は「世界には100を超えるAI大規模モデルが存在しているが、持続可能ではない。やみくもにモデルの数を追求するのではなく、より効率的で環境に優しいAI技術の開発に資源を集中すべきだ」との認識を示した。【7月11日 レコードチャイナ】
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【AIロボットの未来 介護分野での可能性の一方で、自律型殺人ロボットも】
AIが頭脳なら、手足に相当するのがロボット。
中国はロボット分野でもアグレッシブです。

****世界のロボットの50%が中国に設置―中国メディア****
中国メディアの参考消息は23日、世界のロボットの50%が中国に設置されていることがロシアの報告書で分かったとする記事を掲載した。

ロスコングレス財団が発表した報告書「世界とロシアの産業用ロボット市場:人口動態が需要を左右」は、中国について「世界の産業用ロボットの生産と運営において議論の余地のないリーダーだ」とし、「2022年に世界で新設されたロボットの50%が中国にあり、台数は29万258台に上った」と指摘した。(中略)

22年の世界の産業用ロボット平均導入密度は、産業部門で雇用されている従業員1万人当たり151台で、6年前の2倍だ。生産の自動化が最も進んでいる国は韓国(従業員1万人当たりロボット1012台)で、シンガポール(730台)、ドイツ(415台)と続く。【5月29日 レコードチャイナ】
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当然ながら、ロボットにAIを搭載して「人型ロボット」という発想にもなります。

****人型ロボットが世界人工知能大会に登場、感情的に人間を高度に模倣―中国****
復旦大学工程・応用技術研究院のスマートロボット研究院が開発した人型ロボット「光華1号」が4日、中国上海市で開催中の2024世界人工知能大会(WAIC)に登場した。

このロボットは身長が165cm、体重が62kgあり、歩ける上、表情を作ることもでき、感情的に人間を高度に模倣できる精巧な作業用ソフトロボットだ。

同大学工程・応用技術研究院の副院長を務めるスマートロボット研究院の甘中学院長が同日、「人の表情を読み取れ、ふさわしい感情で対応できるのが、『光華1号』が他の人型ロボットと最も異なる点だ。『光華1号』は顔部分のスクリーンで喜・怒・哀・楽の4種類の表情を作ることもでき、人間との双方向のやりとりをする過程でよりわかりやすい感情的な体験ができる」と説明した。

現在、「光華1号」はまだ実験室での開発段階にとどまり、これから四川省、河南省、江蘇省、浙江省などの地域でテストを行うとともに、介護機能の最適化を絶えず進め、動作の安全性、正確性、柔軟性をさらに高める。

例えば、高齢者をベッドから抱き起こす、高齢者がトイレに行くのをサポートするといった機能がある。開発チームは高齢者ごとのパーソナルなニーズに応える機能をカスタマイズすることもできる。年内に試作品が打ち出され、来年には小規模の産業化普及テストが行われる予定だ。【7月6日 レコードチャイナ】
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一方で、AIロボットの軍事利用は中国だけでなく世界の軍事大国がどこも考えていること。

****中国の自律型殺人ロボット、戦場に登場間近...AI戦争の新時代到来****
<中国軍が開発する自律型殺人ロボットが2年以内に実戦配備される可能性が高まり、AI兵器の脅威が現実化している>
(中略)劇場化する今世紀の戦争の中で、ドローンやサイバー攻撃などの遠隔操作戦争は、ますます中心的な役割を果たすようになった。

無人航空機による空の制圧は、ウクライナで続く戦争で重大な問題になっており、アメリカ国防総省はこのほど、新たに10億ドルを拠出してドローン部隊をアップグレードすると発表した。

 さらに一歩先を行き、兵士に代わって戦場に配備するAI駆動の完全自律型「殺人ロボット」の開発に乗り出した国もある。 「2年以内に自律マシンが中国から登場しなければ驚きだ」。防衛アナリストのフランシス・トゥーサはナショナル・セキュリティ・ニュースにそう語り、中国はAIを使った最新鋭の船舶や潜水艦、航空機を「目が回るほどのペースで」開発していると指摘。「アメリカより4~5倍速く動いている」と言い添えた。

 報道によると、中国とロシアは既にAI兵器の開発で協力関係にある。 中国人民解放軍は5月にカンボジアで行った軍事演習で、銃を装填したロボット犬を披露した。(中略)

「殺人ロボットに関するアメリカの政策は、そうした兵器の倫理的側面にほとんど関心を示していない。自律兵器に対して新たに国際的な禁止措置や制限措置を講じることには反対し、自主的な行動規範のみを求めながら、戦場への配備を急いでいる」(国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのグース氏) 

2023年3月、自律殺傷兵器システムに関する国連会議でアメリカ代表は、そうした兵器の開発に対する法整備の着手について、今は「適切な時ではない」と発言した。 

こうした抑制の効かない進展に対し、非人間の兵器は戦争法を守れず、国家が兵士の犠牲を恐れて戦争を躊躇することもなくなると危惧する声が巻き起こっている。 

そうした兵器の使用を規制する役割を担う超国家機関はロシア、中国、アメリカ(殺人ロボットでを積極推進する国家)の独占状態にあることから、規制しようとしても「実質的にほとんど何も生まれない」とグースは言う。 

このまま放置すれば、自律兵器は核兵器や気候変動とともに、「人類の生存に対して最大の危険を投げかける」とグースは警鐘を鳴らしている。【7月8日 Newsweek】
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中国は日本と違って倫理的な問題には無頓着なところも。
完全自律型「殺人ロボット」以外でも、“死んだペットに「再会」できる!?急成長する中国のクローンペットビジネス”【7月9日 TBS NEWS DIG】といった話も。そのあたりがブレーキがない車のようで怖いところでもあります。

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日中関係  構造的停滞の改善に向けて

2024-06-28 22:39:42 | 中国
(28日、北京の日本大使館で、胡友平さんの訃報を受けて掲げられた半旗【6月28日 東京】

【日中首脳会談も具体的成果は示されず】
5月27日、日中韓3カ国は、韓国・ソウルで約4年ぶりに首脳会談を開き北朝鮮を含む地域情勢や貿易などについて協議、協力を進めていくことを確認しました。

****日中韓首脳会合、中国首相「新たな始まり」 貿易などで共同宣言****
日中韓3カ国は27日、韓国・ソウルで約4年ぶりに首脳会談を開き北朝鮮を含む地域情勢や貿易などについて協議、協力を進めていくことを確認した。

中国の李強首相は首脳会談の開幕に当たり、今回の会談は「再開と新たな始まりの双方」を意味すると発言。3カ国間の包括的な協力再開を呼びかけ、そのためには政治と経済・貿易問題を分けるべきだとし、保護主義とサプライチェーン(供給網)のデカップリング(切り離し)をやめるよう求めた。

李氏は「中国、韓国、日本にとって緊密な関係は変わらず、危機対応を通じて達成された協力の精神も、地域の平和と安定を守る使命も変わらない」と述べた。

<共同宣言を採択>
3カ国首脳は共同宣言を採択し、自由貿易協定(FTA)締結に向けた協議加速や、市場開放を維持しサプライチェーンの混乱を回避する避けるというコミットメントを再確認した。

共同宣言では、日中韓が最高レベルのより頻繁な意思疎通を正式な枠組みとすることや、気候変動・保全・医療・貿易・国際平和などでの協力を呼びかけた。【5月27日 ロイター】
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日韓関係は保守・伊政権のもとで大きく改善した面がありますが、日中関係は停滞が続いています。

日中韓首脳会議に合わせ、5月26日に行われた岸田文雄首相と李強首相との日中首脳会談も具体的成果は示されませんでした。

****「成果ゼロ?」の日中首脳会談を「有意義だった」と自賛する岸田首相、拘束邦人や水産物禁輸問題はどうなる****
岸田首相自慢の外交手腕、中国・李強首相を相手に通用したか
ソウルで行われた日中韓首脳会議に合わせ、5月26日夕刻に約1時間開かれた岸田文雄首相と李強首相との日中首脳会談は、またもや「ゼロ回答」に終わった。もしくは「発表できない進展」があったのかもしれないが、日中首脳会談後の華々しい発表とはならなかった。

日本と中国の間には、いわゆる日本側が言う「4大懸念事項」が存在する。
①日本産水産物輸入禁止……昨年8月24日に、日本が福島第一原発のALPS処理水を太平洋に放出し始めたことに対し、中国が「核汚染水を海洋に放出した」として猛反発。以後、日本産水産物及び加工品をすべて輸入禁止としている。

②複数の日本人のスパイ容疑での拘束……昨年3月にアステラス製薬幹部を北京で「反スパイ法違反」などで拘束したのを始め、少なくとも5人の邦人が中国国内で「スパイ容疑」により拘束・逮捕されている。

③尖閣諸島のEEZ(排他的経済水域)内でのブイ設置……昨年7月、中国が尖閣諸島のEEZ内にブイを設置。衛星と連動させた軍事目的の海洋計測などを行っているものと見られる。

④日本人短期渡航のビザ措置……コロナ禍が明け、中国はすでに多くの国に対して、短期のビザなし渡航を認めているにもかかわらず、日本に対しては中国へ渡航するすべての日本人に対して、ビザを義務づけている。(後略)【5月28日 近藤大介氏 JBpress】
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【「構造的停滞」の日中関係 変化に必要な熱意とビジョン】
こうした会談を持てるようになったことを前進と見ることもできますが、形ばかりの対話を繰り返しても状況が動くことはない・・・という指摘も。

米中対立という環境もあるなかで日中関係をどのような方向に持っていくのか・・・熱意とビジョンが問われています。

****変貌する北東アジアの地域情勢と日中関係****
(中略)
これまでの日中関係は2つの段階をへて今に至っております。

第一段階はいわゆる72年体制の段階であります。日中国交正常化の72年から80年代のまでの日中両国は日中友好をスローガンにし、日中友好のために両国の間で抱えている問題を棚上げにし、良好な政治関係を促進していました。このような良好な関係の下で、日中の経済相互依存関係の基盤が築き上げられました。

日中関係の第二段階はいわゆる「政経分離」の段階です。90年代以降、日中両国は歴史問題、台湾問題で対立しながら、安全保障分野の相互不信が高まりつつある中でも、親密な経済関係を持続させてきました。

この「政経分離」を基調とする日中関係を支えてきたのは、強靭な経済交流と深い人的交流です。しかし、今の日中関係は新たな段階に差し掛かっているのではないかと思います。

米中対立を基調とする国際環境において、日中両国の関係は大きな制約を受けています。こうしたなかで、日中両国の関係は「政冷経冷」の時代に入るのか、新たな「政経分離」の時代に入るのか。今、私たちは時代の分かれ目に差し掛かっているように思います。

国際関係の制約のなかで、もちろんこれまでと同じような「政経分離」の形態をとることは難しいといえます。おそらくこれからの政経分離は安全保障分野や先端技術で対立しつつも、実務的な経済関係を維持するといった形の「政経分離」の流れになるのではないでしょうか。(後略)【6月9日 青山瑠妙氏 早稲田大学教授 グローバル・フォーラム】
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大国外交を進めて国際社会における影響力の向上を求め、自国の価値観を広めて国際秩序の変革を目指す習近平政権を相手にして、「構造的停滞」とも指摘される日中関係を改善させる糸口はどこにあるのか?

****日中関係は構造的停滞関係のままなのか****
習近平政権の「微笑み」が日本にも始まった。韓国での首脳会談で李強・国務院総理は岸田総理と和やかに握手し、訪日した劉建超・党対外連絡部長は、日本の各界に笑顔を振りまいた。

だが、中国と欧米との間の対話と比べて、日中間の意思疎通はレベルも頻度も心許ない。また、ハイレベル交流が始まっても、日中間の懸案には具体的進展はない。

中国外交部定例会見では、報道官が台湾や福島第一原発の処理水で日本に注文をつける場面が多い。日中関係はどうなっているのか、習近平政権の構造的な問題に着目して考えたい。

ネット世論に縛られる中国
習近平政権でなくても、中国にとって、日本との関係は難しい。日本はかつての「侵略者」であり、日本への融和的な態度は時に中国国内で政治的に問題視される。かつて、胡耀邦党総書記(当時)は、親日的であることを理由の一つとして失脚させられた。過去に中国で発生した反日デモは、一部が反政府デモに発展したりもした。

以前周恩来に仕えていた中国人に、1972年の日中国交正常化は中国共産党だから出来たと言われたことがある。反日感情がまだ根強かった当時、共産党は大局的観点から日本に賠償請求を求めないことを決め、党組織を使って中国国民に対して日本の一般国民と軍国主義者を区別するように繰り返し教育し、国交正常化を実現したと。共産党統治の長所は世論に流されずに大所高所から政策を決定・実施できることだ、と彼は強調していた。

だが、中国社会にインターネットやSNSが普及すると、多くの中国人は新聞やテレビなどの公式報道を見ず、ネット記事やWeiboなどのSNSから情報を得るようになった。党の教育宣伝は、以前ほど国民に浸透しなくなっている。

また、中国のネット空間は一定の制約があるものの、その制約の中で意見が言えるので、当局はSNS上にある意見のトレンドを「民意」として敏感になる。

中国国内のネットやSNS上では、日本について否定的な反応が多い。中国当局はネット上の「民意」を意識して、また時にこれを利用して、日本との関係で強い対応を取りがちになる。(中略)

習近平によってどう変わったのか
もともと難しい日中関係は、習近平の統治によってどう変わっただろうか。習近平は、統治の正統性を中国の強さに求め始め、2017年の第19回党大会で、中国は「立ち上がり、豊かになるから、強くなることへの飛躍」を遂げたと宣言した。外交面でも、習近平は自国の権益のための闘争を求めた。中国は主権に関する主張を強め、南シナ海でベトナムやフィリピンと頻繁に衝突するようになり、日中間でも海をめぐる対立が固定化した。

また、「強い中国」のため、習近平政権は、大国外交を進めて国際社会における影響力の向上を求め、自国の価値観を広めて国際秩序の変革を目指すようになった。

これに対して、日本は「法の支配」を掲げて既存の国際秩序を擁護し、欧米とともに普遍的価値を推進する。日本は、習近平の打ち出した「一帯一路」構想や「人類運命共同体」構想に対して警戒を隠さない。日本は中国の外交戦略上の協力が難しくなり、中国外交における対日関係の優先度が下がってしまう。

米中対立も日中関係にマイナスの影響を与えている。米国は中国の台頭に警戒を抱き、同盟国とともにこれを抑えようとする。日本は、米国の同盟国として先端技術の対中輸出制限などで協力するので、中国にとって日本は対抗する相手にすらなってしまう。

さらに、習近平政権は、外交に対する共産党の指導を強め、党内でも党総書記に権限を集中させた。習近平が外交面で果たす役割が大きくなり、二国間関係を進める上で習近平と対話することが重要になる。

しかし、日本との関係はそもそも政治的リスクが大きい上に、東シナ海の問題など難しい問題が多い。中国の外交当局は、習近平を日本と対話させることに慎重になる。両国間の政治レベルのパイプも細っており、首脳外交を進めにくい。習近平と対話できない日中関係は、なかなか進展しない。

構造的停滞のなかで何が出来るか
現在、日中関係はいわば構造的停滞関係とも言うべき状態にある。両国間では対立が基調になり、前向きな案件は進めにくい。日中首脳会談が一回行われても懸案は進展しないし、対話もすぐには活発にならない。

しかし、このような状況は放置しておいていいのだろうか。中国には14億の巨大市場があり、優秀な人材や先進的な技術もある。中国と賢く付き合い、中国をうまく活用してこそ、日本は継続的な成長を実現できる。

日中両国がまず目指すべきは、いろいろな懸案はあっても、安定的に対話できる関係の構築である。中国側から見ると、米中対立のなかで日本の顔が見えにくくなっている。2020年から2年間勤務した北京では、中国人有識者から、「日本との関係をよくするには米国との関係を改善すればいい」「中国外交における日本の重要性が落ちている」といった意見を多く聞いた。

中国は欧米との関係でも対立が目立つが、対外関係全体のマネージと衝突回避のため、米国との意思疎通は続けようとする。欧州は米国に近い存在だが、EUとしての存在感や米国との立場の違いもあるので、中国は欧州とも対話を続ける。日本外交の独自性を見せることで、中国に日本との意思疎通の必要性を感じさせる必要がある。

また、構造的な停滞のなかにあっても日中間の経済活動は進めていけるのが望ましい。中国は日本にとって最大の貿易相手であり、多くの日本企業が中国市場で利益を得ている。

経済安全保障のため、中国との経済活動を見直したりする動きもあるが、同時に、日本の産業界はリスクに備えつつ、中国のイノベーション力などを活用しようとしている。中国も、多くの地方政府幹部や中国企業が日本を訪問するなど、日本との経済面での関係強化に積極的である。

日中関係における不確定要素も減らしていくことが望ましい。特に、台湾問題は中国にとっては国の一体性に関わる問題であり、台湾独立には理屈ではなく感情的に反応する。台湾の民意も、台湾独立ではなく現状維持にある。台湾海峡の緊張は、日本にとっても有益ではない。台湾に関する言動には慎重な対応が求められる。

習近平政権だから出来ること
習近平政権は日中関係にとって有利な面もある。習近平の国内政治基盤は比較的強く、大胆な政策決定ができる。(中略)

最近の中国も、日本との関係を少しでも良くしたいというシグナルを送っている。昨年11月の日中首脳会談で、日中両国は「戦略的互恵関係」の構築を確認し、建設的・安定的な日中関係を目指すことで合意した。5月の日中首脳会談では、李強国務院総理は、安定的な日中関係構築のために日本側が中国側とともに努力することを望むと述べ、中国側も努力する姿勢を見せた。

日本との関係が重要だと習近平に思わせるような「仕掛け」を作れれば、習近平政権は日本との対話により積極的になり、国内を抑えて懸案の解決に真剣になるだろう。

中国の提唱している構想をそのまま支持することはできないが、一定の条件の下で前向きに検討するとか、問題点を指摘しつつその精神は共有するといった姿勢を見せられないか。

中国側が日本に期待している養老・介護分野で、象徴的な案件ができないか。日中関係はなかなか前には進まないが、習近平政権だからこそ出来ることもある。【6月12日 町田穂高氏 Asia Pacific Initiative】
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【最近の事件から 「靖国神社落書き男」事件と蘇州・胡友平さんの死の痛み】
日中間で起きた最近の事件から二つほど。
日本について否定的な反応が多いSNSから派生した事件が「靖国神社落書き男」事件

****靖国神社落書き男に日本が怒る、旅行会社11社の訪日観光ビザ申請手続き権を取り消す―台湾メディア****
台湾メディアの三立新聞網は16日、靖国神社落書き男など中国の「小粉紅(シャオフェンフォン)」が日本で頻繁に無秩序な行為をしているため、在広州日本国総領事館が広東省と福建省の著名旅行会社11社の訪日観光ビザ申請手続き権を取り消したと報じた。総領事館が各旅行会社に宛てた書面が流出した。

小粉紅とは、中国における1990年代以降に生まれた若い世代の民族主義者のこと。

日本メディアによると、靖国神社で1日、神社名が書かれた石柱に赤いスプレーで「Toilet」と落書きされているのが見つかった。

中国版インスタグラムとも呼ばれるSNSの「小紅書(レッド)」に、半袖シャツに短パン姿でサングラスをした男が、靖国神社と書かれた石柱に向かって放尿するような仕草をした後、赤いスプレーで「Toilet」と落書きする様子を映した動画が投稿されていたことが分かった。

男は自らを「アイアンヘッド」と名乗り、英語で「日本政府による汚染水の海洋放出に対して、われわれには何もできないのか。おまえらに目に物見せてやる」などと話した。

警視庁公安部は捜査の結果、この人物が中国籍の男ですでに日本を出国し、中国に帰国したと明らかにした。
中国メディアの報道やSNS上の投稿などによると、男は中国で「鉄頭」のハンドルネームでさまざまな活動をしていた「お騒がせインフルエンサー」的な人物だという。【6月16日 レコードチャイナ】
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構造的停滞の日中関係を更に険悪にさせかねない事件ですが、中国政府もこうした動きを支持している訳ではないでしょう。ただ、非常に敏感な「民意」にも関わるものとして扱いに苦慮する類でしょう。日本政府もそうした中国側の立場にも一定に配慮することも必要になります。

もう一つは蘇州市で日本人母子が刃物で襲撃された事件。
事件自体はあってはならない痛ましいものですが、犯人の男を阻止しようとした中国人女性、胡友平さん(54)が死亡したことで、日中双方に対応が見られます。

****日本大使館が半旗=死亡の中国人女性悼み―蘇州邦人襲撃****
北京の在中国日本大使館は28日、江蘇省蘇州市で日本人母子が刃物で襲撃された際、犯人の男を阻止しようとした中国人女性、胡友平さん(54)の死を悼み、半旗を掲げた。

金杉憲治・駐中国大使は「(胡さんの)勇気ある行動に改めて深い敬意を表するとともに、心からのお悔やみを申し上げる」と哀悼の意を表明。中国当局と連携し、邦人の安全確保に「全力を尽くす」と述べた。

中国外務省の毛寧副報道局長は28日の記者会見で、胡さんの行動を「中国人の優しさと勇気を体現した」とたたえた。【6月28日 時事】 
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****蘇州市が故・胡友平さんに称号を追授へ 「正義のため勇敢に行動した模範」****
江蘇省蘇州市人民政府によると、同市で6月24日に発生した刃物による傷害事件で、女性や子どもへの襲撃を身を挺して阻止し、重傷を負った胡友平さんが26日に亡くなった。蘇州市は胡さんの行為を「正義のための勇敢な行動」と認定し、現在「正義のため勇敢に行動した模範」の称号を追授する手続きを進めている。(中略)

今回の凶悪な事件において、生死を分けるような局面で、中国人の一般市民が無意識に身を挺し、他の罪なき人々が刃物で刺されるのを防ぎ止めた。この勇気ある行動は感動を呼び、中国社会で高く評価されている。今回の市政府による追授や、インターネット上にあふれる追悼からも、そのことがうかがえる。

我々は全ての被害者に、国境を越えた人道的なお見舞いを申し上げる。我々は犯罪行為を強く非難すると同時に、犯罪行為に直面した時に中国人の一般市民が示した正義感にも目を向ける必要がある。暴力に直面した時、中国人と外国人に区別はなく、あるのは正義と犯罪行為の戦いだ。今回の件は中国社会全体の善良性、友好性、勇敢な精神を反映しており、これらの特質はすでに中国社会のDNAに組み込まれている。

日本の民間世論にも中国社会との共鳴が起きていることに我々は注目している。日本の少なからぬネットユーザーが、救いの手を差し伸ばした胡さんの行動に敬意を表し、彼女の快復を祈り、繰り返し感謝の意を表していた。

これらはいずれも、中日民間交流における最も真実の感情だ。そこには暴行に対する厳しい非難と勇敢な行動への敬意や称賛という共通の価値観があることに目を向ける必要がある。

蘇州は外国人の比較的多い都市であり、多くの外国企業が進出している。これは、40年余りに及ぶ中国の改革開放で、互いに融け合い切り離せなくなった中国と世界の構造の縮図でもある。

中国の対外開放の扉は大きく開け放たれていく一方であり、日本人を含む各国の人々が中国を訪れ、旅行や観光、投資や事業を行うことを歓迎する。これから中国を訪れるますます多くの外国人が、さらに友好的で親切かつ法治的な環境を感じることになるだろう。(編集NA)【6月28日 人民網日本語版】
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胡友平さんの尊い死が日中の絆を再認識させる形で、災い転じて・・・となればいいのですが。
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中国  個人破産制度のない社会での不良債務者 改めて「信用スコア」の話

2024-05-02 22:57:27 | 中国

(高スコアを得ることに対するインセンティブ例 芝麻信用(ジーマ信用・セサミクレジット)は、信用情報のネガティブ面のチェックよりも、行動を「良い方向」に導こうという明確な意図を持っている点が大きな特徴。【リース株式会社HP】とのことです)

【個人破産制度がない中国 不良債務者への扱いは?】
中国の不動産不況やイマイチ盛り上がらない個人消費はよく論じられていますが、「ああ、そうなんだ・・・」と思ったのは、中国では個人破産は認められていないということ。 では借金を抱えて滞納するような人はどうなるのか?

****中国の不良債務者に罰、旅行も高速列車も禁止****
急増する借金滞納者を取り締まる政府、給料の差し押さえも

チン・フアンシェンさんはかつて都会でもっと良い生活を送ることを夢見ていた。16歳で故郷の村を離れ、工場で働き始めた頃のことだ。

40代を迎えた今、彼女は4万ドル(約600万円)の借金を抱え、基本給は月400ドルだ。借金取りにしつこく追われている。高速鉄道の切符を買うことが禁じられているが、これは借金滞納者が政府に科される罰則の一つに過ぎない。

古びた鈍行列車に乗るしかないチンさんは、時折、周囲の乗客を見回してこう思う。「この人たちもみな私のような不良債務者なのだろうか」

借金とそれを返済しなければ処罰される制度が、中国全土の人々に重くのしかかっている。中国政府は滞納者の給料を差し押さえたり、政府の仕事に就くことを制限したり、高速鉄道や飛行機の利用を控えさせるなどして彼らを取り締まっている。

彼らの多くは多額の保険に加入することを禁じられ、休暇に出掛けることや高級ホテルに泊まることが許されない。これに従わなければ、当局に拘束されることがある。

公表されている政府のブラックリストに掲載された借金滞納者の人数は、2019年末以来50%近く増加し、現在は830万人に達する。裁判所がブラックリストに載せるのは、返済を求める判決を履行しない場合や、法的手続きに協力的でないと見なされた場合だ。

米国とは異なり、中国では自己破産を宣言して借金を帳消しにし、人生の次の段階に進むことを、大半の人々が――不運続きだった人も含めて――認められていない。

家計債務は過去5年間で50%急増し、今や約11兆ドルに達している。米国人の債務額である17兆5000億ドルよりは少ないが、所得水準がはるかに低い中国にとっては巨額だ。

住宅価格が下落し、デフレのリスクが定着しつつあり、失業が長引く課題となるなか、中国の指導部は人々の支出を増やすことに躍起となっている。

だが借金返済が1ドル増えれば、新しい服の購入や休暇旅行に回せる資金が1ドル減る。借金滞納で罰を受けるかもしれない脅威が、多くの世帯のお金の使い方を保守的にしている。

中国国家統計局が16日発表した1-3月期の小売売上高は前年同期比4.7%増と、国内総生産(GDP)伸び率の同5.3%を下回った。国民の多くが支出を抑える一方で、政府は製造業と輸出を急加速させることを優先し、この戦略は西側との貿易摩擦を悪化させている。

こうした状況下で、米アップルや米化粧品大手エスティローダー、米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)などの西側企業は、中国市場の売上高が減少している。

個人債務急増の背景
中国で長く続いた住宅ブームは、個人債務が増加する大きな原因になった。多くの人々が住宅購入のために借金を増やす必要があったからだ。

一部の購入者は投資目的でより多くの物件を購入するために借金を重ね、時には空き家のまま放置した。ブームが去り、価格が急落した今、手に負えない債務を抱えた人々が大勢いる。

不動産調査会社の中国指数研究院(チャイナ・インデックス・アカデミー)によると、競売に付された差し押さえ物件の数は2023年に43%増加し、約40万件だったという。

また個人債務の増加は、景気が低迷するなか、出費を賄うためにクレジットカードを使ったり、個人信用枠を利用したりする人が増えた結果でもある。

多くのエコノミストは、米国のような金融危機が中国で近く起きる可能性は低いと話している。国家が銀行システムを管理しているため、緊急事態が起きれば、政府が損失を吸収し、資本を注入できる。家計債務も過去2年間、ほぼ横ばい状態だ。余剰資金を買い物や株式投資ではなく、借金返済に回すことを優先する人が多いためだ。

借り手に厳しい制度
中国はかねて個人消費を拡大させようと努めてきた。伝統的なインフラと不動産市場拡大への経済の依存を和らげるためだ。銀行が新規発行するクレジットカードは年間数千万枚に上り、カード債務残高は2018年から23年の間に50%急増して1兆ドルを優に超えている。

支付宝(アリペイ)や微信(ウィーチャット)のような民間テック企業のアプリも、電子決済システムの人気上昇につれ、消費者ローンの普及に一役買うようになった。

だが借金が返済できなくなれば、個人の所得が国に差し押さえられる。債務者の生活費はわずかしか残らない。

そこへブラックリストに載った人々を相手にする闇市場が現れた。ある事例では、上海当局が、債務者に代わって高速鉄道の切符を予約・購入するダフ屋の一味を摘発した。地元裁判所によると、2021年初め、このサービスを利用していた債務者を当局が突き止め、身柄を拘束した。

現行制度は、苦しむ個人を犠牲にして債権者――権力を持つ国有機関が多い――の保護を重視している。この問題を研究する学者たちは、中国が早急に全国的な個人破産制度を整える必要があると話している。不良債権のコストを債権者と債務者に強制的に分担させることで、習近平国家主席が掲げる格差解消の目標(共同富裕)を達成するためだという。

「個人破産制度は富の再分配のメカニズムだ」。破産政策について政府に助言している学者の李曙光氏は昨夏、中国のオンライン雑誌の論評にこう書いている。(後略)【4月23日 WSJ】
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【「信用スコア」の活用が進む中国】
この記事を読んで思い出したのは、中国では民間企業による「信用スコア」制度が普及しているということ。
様々な個人情報を網羅して個人の信用度を格付けするこの制度では、上記のチンさんのような返済滞納者は単に高速鉄道や飛行機に乗れないといった話だけではなく、生活の多くの面で不利益を被るのではないのでしょうか?

個人生活の全てが監視・統制されるディストピア社会の象徴とも見らることが多い「信用スコア」の話は、2019年に「幸福な監視国家・中国」(梶谷懐・高口康太著)が出版された頃は盛んに論じられていましたが、最近はあまり関連記事を見ていません。どうなっているのでしょうか?

****あなたの信用度は何点? 知っておきたいトレンドワード30:信用スコア****
AIを活用して個人の「信用度」を数値化した信用スコアリングサービスが社会的に認知されはじめている一方で、先行国では課題も顕在化しつつある。信用スコアとは何か、そのメリットや課題、海外や日本での活用状況について解説する。

信用スコアとは
「信用スコア」とは、属性情報、金融情報、行動情報などを用いて、AIを使って個人の信用力を数値化したもの。分析して弾きだされた数値は、融資やローンなどの申し込みに対して「この人はどの程度信用できるか」の判断や、割引やポイント還元など優待サービス提供などに活用されます。

信用情報との違いは
よく似たものにローンの申し込みなどに際して使われる「信用情報」があります。信用情報は国内に3社ある信用情報機関が取り扱い、クレジットやローンの契約などの際にクレジット会社が顧客の信用を判断するための参考資料として使用されます。

信用スコアとの大きな違いは活用するデータ量です。信用情報はクレジットカードや割賦販売、各種ローンなどの契約内容や支払い状況などの客観的な取引事実に加え、年収や住宅情報、勤務先、公共料金等の支払い状況など、資産や支払いに関連した情報を登録したものです。そのため主な使用先はクレジットカード会社や銀行など金融機関、保険会社や保証会社、消費者金融、信販会社などです。

信用情報は信用情報機関とクレジットカード会社などの利用企業との間だけでやり取りされ、仮に審査に落ちてもどんな情報を見てどう判断されたのか、個人が知ることはできません。

一方信用スコアはスコアリングサービス提供企業が「個人の信用度」を算出するにあたり、信用情報に加えて学歴や職業、SNS使用履歴や購買履歴など、個人に紐づいたよりセンシティブな情報も判断材料として使います。

また、信用情報は支払い状況や残債など客観的な事実のため、信用情報機関によって信用度が異なることは考えられませんが、信用スコアの場合はスコアリングを行う会社によって判断材料として使用する項目やAIによる重みづけは異なるため、同じ人物でも会社によって数値が異なることが考えられます。

ユーザー個人が自らのデータを提供してスコアを算出し、スコアを活用する場合もありますが、スコアリングサービス運営会社が自ら保有するサービスや提携企業を通じて情報収集を行う場合もあります。

信用スコアを活用するメリット
信用スコアの数値が高いことで得られるメリットには、個人の信用度が多様な基準に基づいて数値化されることによって、フリーランスや非正規労働者、外国人など、信用情報に基づく審査基準では金融サービスを受けるのが難しかった人でも比較的融資を受けやすくなる場合がある点が挙げられます。

また、ローンの承認やクレジットカードの発行だけでなく、スコアに応じて金利が優遇されたり、後払いが可能になったり保証金が不要になるなどの優遇措置を受けやすくなる、スコアが高いほど転職や婚活で希望が通りやすくなる、割引や非金融のオプションサービスを受けられるといったメリットも想定されます。

さらに、オンラインでの取引で出品者やユーザーの評価に信用スコアが反映されるようになれば、サービスを安心して利用・提供できるようになります。

信用スコアの活用が進んでいる中国では、不正行為が減った、マナーが良くなった、病院の混雑が緩和されたなどの変化がみられているそうです。

信用スコアの活用によるリスクや課題
信用スコアのリスクとしては、やはり個人情報やプライバシーに対する課題が挙げられます。Web上での行動やSNS使用履歴、決済アプリの利用履歴などの情報を知らないうちに収集されたり分析されたりするのではと抵抗感を抱いたり、情報漏洩を心配する人も少なくありません。

また、膨大な情報をもとに複雑な処理(ディープラーニング)をしてAIが分析・数値化するため、アルゴリズムやプロセスが見えません。そのため仮に低いスコアを出されて悪影響を受けたとしても、なぜ低い評価になったのかスコアリングサービス提供企業すら説明できない場合があります。

実際に中国では「アリババ以外のネット通販会社を利用するとマイナス評価になる」といった噂が飛び交っているようです。評価基準が明確ではないにもかかわらず、信用スコアによってサービスを利用できる人と利用できない人が出てくるといった状況も懸念されます。

さらに信用スコアの利用拡大によって新たな格差や差別の拡大につながりかねないという懸念もあります。意図せずバイアスがかかるなど、必ずしも正しいとは限らない数値に基づく信用システムで一度低い評価を受けてしまうと、あらゆる社会サービスから除外されて抜け出しにくくなるリスクがあるわけです。性別や宗教、人種や出身国などによって信用スコアの数値に影響があるとしたら、それが差別につながる恐れもあります。

たとえば、アメリカで保有資産が同じにもかかわらず女性であることで信用スコアを下げられ、利用限度額に大きな差がつけられたのではないかと問題になった事例があります。同様に「年収や職業など他の条件が同じでも性別を男性から女性にするだけでスコアが下がる」と指摘されたケースは日本でも見られました。

海外での信用スコアの活用状況
信用スコアの活用が最も進んでいるのが中国とアメリカです。特に保証金や先払い制度が根強い中国では社会インフラにもなっており、信用スコアが高いことで享受できるメリットも高くなっています。

中国はアリペイの機能の一つである「芝麻信用」がほぼ独占状態で、12億人ともいわれるアリペイユーザーの膨大な情報を分析し、「学歴」「勤務先」「資産」「返済」「人脈」「行動」の6つを評価軸として350点~950点の範囲で信用スコアを算出。高スコアの場合、優遇金利でローンが組めるほか、賃貸契約の際に敷金が免除になる、出国手続きが簡素化される、シェアサイクルや電気自動車レンタル、ホテル予約の保証金免除などの優遇が受けられます。

アメリカで利用されている信用スコアで代表的なのは、Equifax、TransUnion、Experianの三大信用調査機関が採用している「FICOスコア」です。1956年から活用され、返済履歴、借入残高、信用履歴の長さ、クレジットの種類と構成、そして新規クレジットの5つの要素で採点を行なっていて、算出にあたって性別や年齢、住所、収入といった個人情報は使用していないと言われています。そのため算出根拠データは信用情報に近いですが、スコアを個人が把握できる点と、利用範囲が幅広い点が異なります。

スコアは300点~850点の範囲で採点されていて、760点以上がエクセレント、725点以上がベリーグッド、660点以上がグッド、660点未満がサブプライムと呼ばれています。スコアは預金利子やローン金利だけでなく、就職や入居審査にも影響するため、生活への影響はかなり大きくなっています。

また近年フィリピンなど金融口座開設率がまだまだ低い国で、デジタル銀行など振興勢力が信用スコアを活用し始めるなど、急速に活用が広がりはじめています。 現状日本国内ではまだ活用シーンは少ないですが、今後海外とビジネスをする際には信用スコアが必要になってくるかもしれません。

日本での信用スコアの状況
日本ではプライバシーや個人情報保護法のハードルもあり、活用の動きは始まったばかりでまだまだ浸透していない状況です。(中略)

AIの技術が進化し、ビッグデータの解析がより複雑化、精緻化されていくに従って、信用スコアを利用した新しいサービスが生まれてくるかもしれません。

信用スコアによる与信の自動化によって、金融機会の拡大や個人間取引の安全性などに期待が寄せられる一方で、「AI(IT企業)が人に点数をつけて評価する」ことに対する根強い抵抗感や、個人情報の取り扱いに対する不安、差別や偏見を生み出す危険性に対する対応が求められます。(後略)【3月14日 コクヨファニチャー-】
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【ディストピア社会ではないとの指摘も】
前期のように、“個人生活の全てが監視・統制されるディストピア社会の象徴とも見らることが多い”とネガティブな面で語られることが多い「信用スコア」「信用システム」ですが、そのポジティブな面、改善・進化している面の指摘もあります。

****監視とスコア付けで国民を支配する中国「社会信用システム」のヤバすぎる進化****
(中略)
「社会信用システム」の役割とは?
「社会信用システム」といわれると、全ての人の行動を徹底的に監視してそうなイメージです。しかし、中国で運用されている社会信用システムは実際のところ、市民の行動を監視するだけのものではなく、市民にとって役に立つ部分もあったようです。

中国の社会信用システムは現在「3つの役割」を果たしています。

【1】財政対策
(中略)消費が拡大すれば中国の経済を立て直すことができます。ただ、以前の中国で銀行やクレジットカードなどの信用情報を持っているのは人口のわずか5分の1しかいませんでした。当然、銀行やクレジットカードがなければ、ローンを組むことができません。ローンが組めないなら、お金を使うこともできません。

一方、銀行口座を持たない人口の多くは、WeChatやAliPayといった中国のアプリを日常的に利用しています。そこで「すべてのデータを使って信用スコアを作る」というアイディアが考えられ、アリババグループのアント・フィナンシャルなどを含む8つの企業がシステムを構築しました。

【2】市民の評価
以前の中国では粉ミルクに有毒化学物質が使用されるという食品問題や、政治家や公務員の汚職が社会問題になっていました。これらの問題は、中国社会全体の信頼の欠如につながると政府は懸念しました。

そこで中国政府は、都市に市民の行動を評価するシステムを作るよう指示します。しかし、細かいルールは各都市にゆだねられていたため、それぞれ独自のルールと報酬で評価システムを導入することになりました。

例えば「タバコを5本吸うごとに3ポイント」「15,000歩歩くごとに5ポイント」加算すると発表した都市もあれば、「市民一人ひとりにAからDまでの成績をつける」という都市もありました。これらのルールは市民から非現実的だと非難されました。ただし、中国政府はこのような問題だらけのシステムを評価していないようです。

【3】進化した「ブラックリスト」
以前は、各省庁が個別に記録を管理していたため、例えば税務当局の規則に違反しても、食品検査官には知られずに済んでいました。つまり、ブラックリストが共有されていなかったということです。

現在では、各省庁がそのデータを内部だけでなく一般市民とも共有することになっており、企業名を検索して評判の良い企業かどうかを判断することができます。

このように中国の社会信用システムは市民だけを監視するのではなく「財政対策」「市民の評価」「データの共有」といった目的で運用されているのです。【2023年7月1日 AppBank】
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ただ“中国政府は、都市に市民の行動を評価するシステムを作るよう指示”というのは、やはり怖い。どういう基準で評価されるのか? 政府の施策に批判的な傾向がデータ的に窺えると、信用度が低くなり多くのサービスから締め出されることも。

あるいは、狙い撃ち的に政府が「望ましくない人物」と判断した者の信用度が低くなるとか・・・。
評価基準がブラックボックスだけに対処しようもない。

コロナ禍ときも、中国中部の河南省にある複数の銀行で預金が引き出せなくなったトラブルをめぐり、省都・鄭州市当局が新型コロナ対策のアプリ「健康コード」を不正操作して預金者が抗議に集まるのを妨害しようとしたとしたことが発覚しました。

なお、中国でも個人情報利用は一定に制限されてはいるようです。

****中国、顔認証技術の利用に関する規則案発表****
中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)は8日、顔認識技術を使用する際のセキュリティー管理に関する規則案を発表した。

規則案によると、顔認識技術を使用できるのは特定の目的と十分な必要性がある場合に限られ、厳しい保護措置を講じる必要がある。 

さらに、使用には個人の同意も必要になる。目的を達成できる生体認証以外の技術がある場合にはそれを優先的に選択すべきだとしている。

生体認証、特に顔認証は中国で広く普及し、ゴミ収集からトイレットペーパーのホルダーなどあらゆるものに使われており、規制当局や国民の間で懸念が出ている。

中国はデータ規制の強化に動いており、2021年には企業による顧客データの乱用を取り締まるため、個人のプライバシーに初めて焦点を当てた個人情報保護法が施行された。【2023年8月8日 ロイター】
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中国  止まらない少子化で「女が家庭を守る」伝統に回帰する習政権 しかし、女性の意識とは真逆

2024-04-23 23:17:45 | 中国

(【23年10月1日 WEDGE】 中国が2018年あたりから急速に低下している理由の分析も必要に思われます)

【止まらない少子化 「出産に優しい文化」キャンペーン】
経済協力開発機構(OECD)によると、1人の女性が生涯に産む子どもの人数を示す「合計特殊出生率」は、中国は21年に1.16でした。少子高齢化の進む日本の同1.30も下回り、深刻さを増しています。
22年には1.09に下がったとの現地報道もあって、少子化進行が止まりません。

****中国、止まらない少子化 出生数過去最少、雇用悪化で将来不安か****
中国国家統計局は17日、2023年末の総人口が22年末比208万人減の14億967万人だったと発表した。人口減少は2年連続で、減少幅は22年(85万人)より拡大した。教育費の増加や、若者の雇用環境の悪化などを背景にした少子化に歯止めがかからず、出生数が7年連続で減少したほか、死者数も増加した。

 ◇2年連続人口減、62年ぶり
2年連続の人口減少は毛沢東が主導した食料や鉄の大増産運動「大躍進」が失敗し、大量の餓死者を出した1960〜61年以来62年ぶりとなった。

23年の出生数は、前年比54万人減の902万人で49年の建国以来過去最少を更新した。

中国政府は79年から導入してきた「一人っ子政策」を見直し、21年からは3人目までの出産を容認。地方政府や企業も、複数の子供を育てる世帯を対象に補助金の支給や休暇の義務化を打ち出すなど対策を急ぐが、少子化を食い止められていない。

出生数低下の背景にあるのが、住宅価格や教育費など結婚・子育てにかかる費用の高騰だが、それに加えて若者の雇用環境の悪化による将来不安の影響も大きいようだ。

 ◇経済回復遅れ 若者失業率21%
新型コロナウイルス禍から経済の回復が遅れる中国では、23年6月には、都市部の若者(16〜24歳)の失業率が21・3%と過去最悪を更新。統計局は同8月、「統計の改善」を理由に公表を一時停止して物議を醸した。統計局は今回、公表を再開し、12月は14・9%に改善したとしたが、「学生を含まない」と調査対象を修正した影響などがあり、若者の雇用情勢は依然厳しい。

また65歳以上は2億1676万人と全人口の15・4%(前年比0・5ポイント増)となり高齢化がさらに進行した。中国政府が23年予算で計上した社会保障費(就業支出含む)は、3兆9192億元と、5年前の1・45倍に膨れ上がっており、今後さらにその割合が増加するとみられる。少子高齢化の加速は中長期的に中国の財政や経済成長に深刻な影響をもたらしそうだ。(後略)【1月17日 毎日】
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中国政府は出産増加に向けて、今のところは「強要」ではなく奨励策に力を入れる形で、あれやこれやの対策をとってはいますが、自分の人生を自分で決めたいと考える女性の意識の意識の強まりによって、目立った成果を上げていません。

****中国の出産圧力、女性が突きつける「ノー」****
政府は「もっと産め」 14億人の人口、2100年には約5億人に落ち込む可能性が高い

中国の女性たちは、もううんざりだと思っている。中国政府はもっと出産せよと要求するが、それに対する彼女たちの反応は「ノー」だ。

政府の嫌がらせに閉口し、子育てのさまざまな犠牲を警戒する若い女性の多くは、政府や家族の希望よりも自分自身を優先しようとする。彼女たちの拒絶によって中国共産党は危機に追い込まれている。高齢化する社会を若返らせるため、共産党は何としても赤ん坊を増やさなくてはならない。(中略)

昨年10月、習近平国家主席は政府が支援する「中華全国婦女連合会(ACWF)」に対し、「女性分野のリスクを予防し、解決する」ことを促した。(中略)共産党がいくら「家庭の価値観」を説いてもほとんど効果がなく、それは中国の農村部でも同様だ

「出産に優しい文化」キャンペーンは、緊急の国家課題の様相を呈し、政府主催のお見合いイベントや軍人家庭の出産を奨励するプログラムが設けられている。

西部・西安市の住民は8月、中国のバレンタインデーにあたる「七夕節」の期間に、政府の番号から自動音声メッセージを受け取ったという。「あなたに甘美な恋と適齢期の結婚が訪れますように。中国の血統をぜひ続けましょう」(中略)

政府は一人っ子政策の時代に特徴的だった「強要」ではなく、奨励策に力を入れる。地方政府は2人目・3人目を出産したカップルに現金を支給する。東部・浙江省のある県では25歳までに結婚したカップル全員に137ドル(約2万円)相当のボーナスを出す。(中略)

また当局は一人っ子政策時の重要な手段だった人工妊娠中絶を抑制しようとしている。1991年には1400万件を超えたが、2020年には900万件弱へと3分の1以上減少した。それ以降、中国は精管切除術や卵管結紮術、中絶に関するデータ公表を中止している。(中略)

カリフォルニア大学アーバイン校のワン・フェン教授(社会学)は、中国社会には二つの相反する変化が起きていると指摘する。女性の権利への認識が高まったことと、家父長制を推進する政策の拡大だ。(中略)

中国政府はフェミニズムを外国勢力が後ろ盾となった邪悪なイデオロギーとみなす。女性の権利を唱える活動家を拘束し、そのソーシャルメディアのアカウントを削除するなど、何年にもわたって取り締まりを続けている。

それでも女性たちは人間関係や家族、仕事に関する自らの経験について、ネット上で以前より声高に発言している。彼女たちの投稿は個人的な形でフェミニズムを表しており、当局がそれを取り締まるのはより難しい。(後略)【1月16日  WSJ】
*********************

女性が政府の要請に否定的なのは、女性にとって出産・子育てが大きな負担になるという現実が背景にあります。(このたりは日本も同様でしょうが)

****中国の養育費は世界有数の高さ、女性の負担重く シンクタンク報告****
中国のシンクタンク「育媧人口研究智庫」は、同国の養育費が1人当たり国内総生産(GDP)でみて世界有数の高さだとの報告書をまとめた。

18歳までの養育費は1人当たりGDPの約6.3倍。これに対しオーストラリアは2.08倍、フランスは2.24倍、米国は4.11倍、日本は4.26倍。

子育てにより女性の有給労働時間と賃金は減少するが、男性の生活に大きな変化はないという。

報告書は「中国の現在の社会環境は母親に優しいとは言えず、女性が子供を育てる時間的なコストと機会費用が高すぎる」と指摘。「養育費の高さ、女性が家庭と仕事を両立させる難しさといった理由から、中国人の平均的な出産意欲は世界最低に近い」としている。

中国では昨年、2年連続で人口が減少。出生数は2016年の約半分に落ち込んでいる。

報告書によると、0─4歳の子どもを育てる女性は有給労働時間が2106時間減り、6万3000元(8700ドル)の収入を失う。子どもを持つ女性は賃金が12─17%減り、余暇の時間も0─6歳の子供が1人いる女性は12.6時間、2人の場合は14時間減るという。

報告書は養育費を下げる政策を全国レベルで可能な限り早期に導入すべきだと主張。現金給付や優遇税制、保育サービスの改善、母親と父親の育児休暇平等化、外国人ベビーシッターの活用、柔軟な勤務体制、独身女性と既婚女性の同等な生殖権といった対策を挙げた。

「現在の超低出生率を改善できなければ、中国の人口は急速に減少し、高齢化が進む。そうなればイノベーションや国力全体に深刻な悪影響が出る」としている。【2月21日 ロイター】
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【23年の婚姻数が10年ぶりに増加 ただし、特殊要因かも】
そうしたなかで、23年の婚姻数が10年ぶりに増加したという中国政府を喜ばせるニュースも。

****中国の婚姻数、10年ぶり増加=ウィズコロナ移行で反転****
中国民政省は18日までに、2023年の同国の婚姻登録数が768万組だったと発表した。中国メディアによると、婚姻数は22年に過去最低を記録したが、23年は前年比12.4%増で、10年ぶりの増加となった。

中国の婚姻数は13年の約1347万組でピークを迎え、14年から減少に転じた。22年は683万5000組で、13年の約半数まで落ち込んでいた。23年は前年までの厳格な新型コロナウイルス対策が解除され、「ウィズコロナ」に移行したことが結婚増の背景にあるとみられる。【3月18日 時事】 
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ただ、これは記事にもあるように、新型コロナウイルス対策で結婚を控えていた人が解除によって婚姻に至ったということ、更には辰(たつ)年の24年に子どもを産むと縁起がいいと考える人が数字を押し上げたことなどの影響も大きいと思われ、今後も増えるのかどうかは不透明です。

婚姻・出産増加に向けて、中国の女性団体、中華全国婦女連合会が、何百人も招待するような伝統的な大規模結婚式ではなく、「質素な」結婚式を奨励する記事をネットに掲載するといった対策も。
“中国当局、質素な結婚式を奨励 婚姻と出生率引き上げへ”【3月26日 ロイター】

【中国女性と習近平政権の示す真逆のベクトル】
ここで、これまでの出産や婚姻に関する話題とは表面的には全く関係ない話、中国女性の女性器整形に関する記事をひとつ。

****中国で加熱「美容整形ブーム」の知られざる裏側 現役医師が初めて明かす「ヒミツの部位へのプチ整形」が人気急上昇のワケ****
中国でいま、空前の美容整形ブームが起きているという。世界4大会計事務所の一つである「デロイト トーマツ」の調査によれば、2025年に中国の整形市場は実に3500億元(約7兆円)を超えると予測。なかでも最近、注目を集めているのが“秘めたパーツ”に施されるプチ整形という。その実態を「日本の第一人者」と呼ばれる医師が初めて明かした。

(中略)中国の国内事情に詳しいニュースサイト「レコードチャイナ」の任書剣氏が言う。
「(中略)しかし1980年代以降に生まれた世代はアイドルブームやインターネットの普及などを通じ、“見た目も心を表す”といった考えが主流で、整形やタトゥーに対する抵抗感も薄れています」

そんな新しい価値観を体現し、近年の整形ブームを引っ張るのが、現在30〜40代の「中女(オトナの女性)」という。(中略)

一方で最近、話題を集めているのが〈天使名器〉と呼ばれる、女性器へのヒアルロン酸注入手術です」(任氏)

女性たちの「不満」の核心
中国の“中女”たちから「天使名器造成の第一人者」と呼ばれるのが、東大医学部卒で、都内・港区六本木で美容外科「ヴェアリークリニック」を経営する井上裕章医師だ。その井上氏がこう話す。

「(中略)昨年11月、初めて中国に招待され“衝撃”を受けました。年会費が数千万円もする富裕層向けの美容サロンで行われたトークセッションにゲストとして呼ばれたのですが、会場には司会役の男性のほか、30〜40代の中国人女性が20名ほど集まっていた。

驚いたのは、彼女たちの口から次々と夫婦の営みに関する不満が飛び出したことです。中国ではいまだに“男性本位”の考えが根強く、会場にいた30代の女性の一人は『夫は行為に至るまでの過程を楽しむといった行動を一切取らない。寝ている私を叩き起こして“入れて・出して”で終わり。その間、私はひたすら耐えるしかない』と話していました」(井上氏)

また別の40代女性は「中国ではこれまで女性が性を楽しむことは禁忌とされてきたので、正直、何をどう楽しんだらいいのかも分からない」と打ち明けたという。

「そこで私が女性器形成術を説明し、その効果の一つに“感度の高まり”があることを話しました。(中略)」(井上氏)

トークライブの場で手術
井上氏の説明を聞いた女性のうち、30〜50代の3人が「実際に“天使名器”の手術を受けたい」と、その場で手を上げたという。(中略)

国内で吹き荒れる“不況の嵐”もドコ吹く風。「中女」たちの欲望はむしろ加速しているという。(後略)【4月21日 デイリー新潮】
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出産や婚姻に関する話題とは全く関係ない“下半身”の、しかも一部富裕層女性の話ではありますが、中国の女性が自分自身、自分の人生について自分で決断・行動するという方向で声を上げ始めているという意味で、非常に印象的に思えました。

そのベクトルの向きは、習近平政権が進めるような共産主義的社会観からの共同富裕とか出産奨励といたもの、あるいは、家父長制的な発想を引きずる「女性は結婚、出産に・・・」といった話とは真逆の方向を指し示しているように思えます。

おそらくこうした真逆のベクトルが存在する現状(前出【WSJ】でワン・フェン教授(社会学)が“中国社会には二つの相反する変化が起きている”と指摘するもの)では、中国政府の出産奨励策は大きな効果はでないでは・・・と思った次第です。

【「中絶禁止」に向かうのか?】
「奨励」で効果が出ないなら・・・「一人っ子政策」で不妊手術などの「強制」の実績もある中国のことですので、「中絶禁止」などの「強制」が表面化するのでは・・・とも推測されます。すでに「医学的に必要ではない」中絶は制限されています。

ただ、上記のような真逆のベクトルを考えると反発もこれまでになく大きくなることが予想され、下記記事で王豊(ワン・フォン)教授(社会学)は「ほとんど想像できない」とも。

****低すぎる出生率で迷走...中国政府は「中絶禁止」に向かうのか****
<人口維持に必要な水準を大きく下回る少子化は悪名高い1人っ子政策を放棄しても止まらない>

中国は何十年もの間、人口増加を抑えるために1人っ子政策を続けていた。だが今は、ほぼ回避不可能な人口減少の趨勢(すうせい)を、中絶の制限などで逆転させようと躍起になっている。(中略)

中国政府は22年に出産・子育て支援策を導入。出生数の増加を期待しているが、人口減少に歯止めはかかっていない。この程度の施策では不十分というのが専門家の見方だ。

この人口動態の変化は、欧米とよく似ている。乳幼児死亡率の低下とともに、生まれる子供の数は減り、子育ての費用が増えるにつれて、子供を持つ余裕がなくなる人々が増える。特に1980~90年代生まれのミレニアル世代は人生で2度の深刻な景気後退を経験している。

高齢者の面倒を誰が見る?
「多くの若者が子供も持ちたがらないし、結婚もしたがらなくなった」と、ハーバード大学フェアバンク中国研究センターで中国社会を研究するスーザン・グリーンハル教授は本誌に語る。「(中国の)子育て費用は法外で、韓国に次いで世界で2番目に高い。既に育児の負担と時間的制約に悩まされている女性にとって、2人目の子供の出産は仕事と収入、自由を失うことを意味する」(中略)

「悪名高い1人っ子政策を撤廃した後も、予想外の急速な少子化が進んでいる現状を、中国政府は強く懸念している」と、王(人口と高齢化、格差の問題に詳しいカリフォルニア大学アーバイン校の王豊(ワン・フォン)教授(社会学))も指摘する。「だが、少子化はこの国の経済・社会構造に深く根差した現象であり、出生率の低下を食い止める手っ取り早い処方箋はない」

グリーンハルによれば、中国政府がこの問題に取り組み始めたのは13年。夫婦のどちらかが1人っ子の場合に限り2人目を産めるようにして、1人っ子政策を初めて微調整した。「15年には制限なしの『2人っ子政策』を発表し、16年1月1日から全てのカップルが2人の子供を持てるようにした」と言う。

「新たな国勢調査のデータで出生率の上昇が一時的なものであることが判明すると、21年8月には再び政策を変更して『全てのカップルが3人目を産める』こととし、出生率向上のために極めて多数かつ多様な支援措置を導入。同じ21年には、新しい政策のニーズに合わせて人口・出産計画法も改正された」

「女が家庭を守る」伝統に回帰
中国はまた、習近平(シー・チンピン)国家主席が言う「新時代の結婚・出産文化」を育成するため、「若い女性が家庭に戻り、フルタイムで出産・育児と年長者の世話をするよう奨励している」と、グリーンハルは言う。「(今の中国は)女性が家庭を管理し、男性が稼ぐ伝統的な国家にかなり近いものをつくろうとしている」

中国政府は既に「医学的に必要ではない」中絶を制限する政策を導入し、男女の産み分けを防ぐ目的で胎児の性別判明後の中絶も制限していると、グリーンハルは指摘する。

中国では1950年代から中絶規制が緩和された。1人っ子政策が続いていた数十年間は、地方当局が「違法な」妊娠の中絶を女性に強要していた。

中国政府は中絶禁止まで踏み込むだろうかと王に質問すると、「ほとんど想像できない」という答えが返ってきた。「今の中国は高学歴社会でもある。若者たち、特に若い女性は自分たちの権利に敏感だ。人々の意思に反するやり方は政治的な自殺行為になる」

中国が検討していない政策の1つは、移民の増加による生産年齢人口の確保だ。「日本や韓国も歴史的に移民受け入れが非常に少なく、それが全人口と生産年齢人口の減少を加速させた要因の1つになった」と、アジアの高齢化問題に詳しいニューサウスウェールズ大学シドニー・ビジネススクール(オーストラリア)のフィリップ・オキーフ教授は本誌に語った。

「たとえ中国が移民の拡大に意欲を示し、外国から中国に移住する意思と能力を持つ労働者がいたとしても、中国の労働力の絶対的な規模を考えれば、移民の受け入れによって状況を変えるのは難しいだろう」

さらにオキーフはこう言葉を続けた。「中国にとってもっと現実的な当面の目標は、合計特殊出生率が0.72の韓国や0.97のシンガポールのような近隣諸国のレベルまで落ち込まないように、現在進行中の出生率低下に歯止めをかけ、安定させることかもしれない」【4月22日 Newsweek】
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「今の中国は高学歴社会でもある。若者たち、特に若い女性は自分たちの権利に敏感だ。人々の意思に反するやり方は政治的な自殺行為になる」・・・・それでも共産党支配に必要とあらば強権でやる、反対は許さないというのが中国の怖いところではありますが・・・。
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チャイナ・ショック2.0  中国の「過剰生産」「余剰生産能力」がもたらす輸出急増を世界が懸念

2024-04-14 22:01:13 | 中国
(チャイナ・ショック
弱い国内需要と膨らみ続ける生産能力が 中国の輸出価格を押し下げている

そして中国企業が外国に買い手を 求める中、出荷量を押し上げている
【4月10日 WSJ】)

【世界経済が懸念する中国の「過剰生産」「余剰生産能力」】
中国経済の低迷は相変わらずですが、最近世界で注目されているのは中国の「過剰生産」「余剰生産能力」。

中国政府が莫大な補助金を使って企業活動を後押しすることで安価な製品が大量に生産されるものの、国内の需要は不十分で、その製品が海外に輸出される。その結果、アメリカなどの先進国だけでなくブラジル、アルゼンチン、インドネシア、メキシコ、フィリピンなどの新興国を含む世界の多くの国が安価な中国製の洪水にさらされ国内産業がダメージを受ける・・・というものです。

****米中対立の新たな火種に!? 中国新スローガン「新質生産力」が“世界経済に悪影響”とみるワケ****
中国政府が最近打ち出した「新質生産力」という新しいスローガン。これが「世界経済に悪影響を及ぼしかねない」とアメリカが警戒しています。(中略)

最近、中国政府が打ち出した新しいスローガン「新質生産力」。AIなど最先端技術を活かし生産力を向上させようというもので、関連産業には今後、20兆円とも言われる巨額の国費が投入されるとの観測もあります。

「新質生産力の模範」と紹介されたEVフォークリフトのメーカー。製造工程を自動化したことで生産力が向上、売り上げが伸びたと盛んにアピールしていました。
EVフォークリフトメーカー幹部 「このEV車をますます強化して、市場シェアをますます広げていきたいです」

ただ、このスローガンのもと、中国政府が莫大な補助金を使って企業活動を後押しすることが世界経済に悪影響を及ぼしかねないとの懸念が高まっています。その理由はこうです。

(1)政府の補助金をもらって作られた中国製品は価格が安くなります。
(2)これにより競争力が上がりシェアを拡大させることができます。
(3)また政府の後押しによって「過剰なまでにたくさん生産」されることになり…
(4)その結果、次々と海外に輸出され、欧米や日本の競合メーカーがシェアを奪われる可能性が出てくるのです。(後略)【4月5日 TBS NEWS DIG】
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後述のようにアメリカはこの問題を重視して米中関係の争点ともなっていますが、冒頭にも書いたようにアメリカだけでなく、新興国なども含めた多くの国で問題となっています。 
例えば中国との関係を重視するルラ大統領のブラジルでも・・・。

****【中国VSブラジルの貿易論争】経済悪化の中国が世界に及ぼす影響とは?****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月17日付け記事‘Brazil launches China anti-dumping probes after imports soar’が、ブラジルが中国の反ダンピング調査を開始したことを報じている。要旨は次の通り。

ブラジル産業省は、産業界からの要請に基づき、中国による工業製品ダンピング疑惑について、過去半年間に金属薄板、鉄鋼材、化学製品、タイヤなどに関して、少なくとも10余りの調査を開始した。

今般のブラジルの措置は、世界第2位の経済大国、中国が不動産セクターの減速と内需低迷の中で生産能力過剰に苦しんでおり、世界が中国からの輸出の洪水に備えている時にとられた措置である。

経済活性化のため、中国は先進的な製造業、特に太陽光発電、電気自動車、バッテリーに投資している。
中国の輸出は今年1〜2月の間に7.1%増加し、輸入の伸びを大きく上回った。中国の輸出価格下落が長引けば、中国と主要経済大国との貿易摩擦が高まる可能性がある。
中国税関のデータによれば、中国の対ブラジル輸出・輸入ともに、今年最初の2ヵ月間で3分の1以上増加した。

北京との関係を強化しつつ、国内産業を保護、発展させようとしている左派のルーラ大統領にとって、貿易摩擦はジレンマをもたらしている。昨年、大統領に返り咲いたルーラは、産業政策を経済戦略の中心に据えている。ブラジル政府としては、最大の貿易相手国であり、大豆や鉄鉱石などの商品を大量に購入している北京との対立を避けたいようでもある。

ブラジルの鉄鋼メーカーは、輸入した鉄鋼製品に対して、9.6%から25%の関税をかけるよう政府に要求している。中国からの鉄鋼と鉄の輸入は、2014年の16億ドルから昨年は27億ドルに増加した。

中南米諸国は鉄鋼生産の主原料である鉄鉱石の世界有数の輸出国であるが、急増する安価な鉄鋼輸入は、ブラジル政府にとって頭の痛い問題だ。

また化学品とタイヤも問題になっており、産業省はここ数カ月、別個に調査を開始している。(中略)

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G20議長国ブラジルの頭痛の種
「世界の工場」として世界第二の経済大国となった「中国」は、この20年近くの間に、世界の多くの国にとって最大の貿易相手国になった。

この記事は、「コロナ以降、中国経済の不調が深刻化し、生産設備が過剰となる中、安値攻勢で製品輸出を増加させ、他国経済に悪影響を与えるようになっている。そして、各国は対抗措置をとるために調査を開始した」と報じている。中国経済の悪化が世界に与える影響を把握する上で重要な報道である。

09年以降、中国は輸出入ともに、ブラジルにとって最大の貿易相手国となった。2位は米国である。23年、ブラジルから中国への輸出総額は、大豆、食肉、石油、鉄鉱石など1043億ドル(史上最高額)であった。

ブラジルの中国からの輸入総額は532億ドル(機械類・電気機器、紡織用繊維、化学工業品等)であり、ブラジルの対中貿易黒字額は500億ドルを超えている。中国が大豆など食料や天然資源の備蓄を増加させているのは、気候変動や有事に備えているからとも言われている。

記事では、ブラジルによる中国製品アンチ・ダンピング調査の開始に触れているが、中国は逆に24年2月、19年からブラジル産鶏肉に適用していたアンチ・ダンピング措置の撤廃を公表した。ブラジル国内を「分断」しようとする「中国らしい措置」である。

今年、ブラジルは主要20カ国・地域(G20)議長国であり、また、中国との国交樹立50周年を迎える。来年は有力新興5カ国で構成するBRICS首脳会議と第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)がブラジルで開催予定である。

昨年、中国との二国間貿易において米ドル排除を決定する等、中国との一層の関係強化を期待しているルーラ大統領にとって、中国製品のダンピングは間違いなく「頭痛の種」である。(後略)【4月8日 WEDGE】
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【イエレン米財務長官 「2000年代初頭の「中国ショック」の再来をバイデン大統領も私もは許さない」】
アメリカのイエレン財務長官訪中(4月3~9日)の中心議題もこの「過剰生産」でした。
中国側は、この主張を拠がないと一蹴しています。

****安価な中国製品による新産業の破壊、米国は認めず=財務長官****
中国を訪問中のイエレン米財務長官は8日会見し、政府の補助金を受けた安価な中国製品の流入で新たな産業が壊滅的な打撃を受けることを米国は認めないと表明、10年前にも鉄鋼産業で同じことがあったと述べた。

イエレン氏は、中国製品の大量流入で米製造業で約200万の雇用が失われた2000年代初頭の「中国ショック」の再来をバイデン大統領は許さないと述べた。

「これは以前にも起きたことだ。10年前にも中国政府の大規模な支援により、原価割れの中国製鉄鋼製品が世界の市場にあふれ、米国など世界中の産業が壊滅的な打撃を受けた」と指摘。「バイデン大統領と私はそのような現実を二度と受け入れないと明言している」と述べた。

4日間にわたる中国当局者との会談について、米国の利益を促進するものだったと指摘。会談では中国の内需低迷に懸念を示したほか、電気自動車(EV)、バッテリー、太陽光産業などへの「大規模な政府支援」に支えられた過剰投資にも懸念を表明したと述べた。

人為的に安価に設定された中国製品が世界の市場にあふれた場合「米国など外国企業の存続に疑問符が付く」との認識も示した。

ただ、中国政府の支援が続いた場合、追加関税、その他の通商上の制裁措置を取るとまでは踏み込まなかった。

過剰生産能力問題は、それを扱う新設のフォーラムで解決策を模索するが、合意達成には時間が必要だと指摘した。

<中国は個人消費促進を>
イエレン氏は、余剰生産能力に対する米国の懸念は、欧州の同盟国や日本のほか、メキシコ、フィリピンなどの新興国にも共有されていると述べた。

短期的な解決策としては、中国が個人消費を下支えし、供給サイドへの投資による成長モデルからの転換が考えられると述べた。

同氏は中国訪問中、この問題を李強首相と協議。藍仏安財政相、人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁、劉鶴前副首相とも会談した。

米財務省当局者によると、米中は金融安定を巡る問題で協力を深めている。大手銀行の破綻に対処する演習を最近実施したのに続き、金融ショックの模擬演習をさらに2回予定しているという。

<中国は一蹴>
中国で3月に開催された全国人民代表大会(全人代)は、製造業の過剰生産能力を抑える措置を取る方針を示した。

しかし、米欧が最近、中国の過剰生産能力が他国に及ぼすリスクを指摘することには反発している。

新華社によると、李強氏は「(米国は)経済・貿易問題を政治や安全保障の問題にすることを慎む」べきだと主張。「市場原理やグローバルな観点から」生産能力の問題を扱うべきだと述べた。

中国の王文濤商務相も7日、同国の「過剰生産能力」に対する米国や欧州の批判には根拠がないと一蹴した。【4月8日 ロイター】
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イエレン米財務長官は「輸出をてこにして急成長を遂げるには中国は大き過ぎる」とも指摘しています。

【「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」】
アメリカは一部で中国をサプライチェーン(供給網)から排除しようともしていますが、「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」との指摘も。

****チャイナ・ショック2.0 世界中で反発強まる****
中国からの輸入急増を食い止めようと欧米も新興国も防御策を講じている

経済復活を目指す中国は世界中に安価な製品をあふれさせつつあり、20年余り前に世界の製造業を席巻した「チャイナ・ショック」の続編を数兆ドル規模で引き起こしている。

だが今回、世界は反撃に出ている。
米国と欧州連合(EU)は中国製の電気自動車(EV)や再生可能エネルギー関連機器に対し、貿易障壁を引き上げると警告している。

今回はブラジルやインド、メキシコ、インドネシアなどの新興国もこの輪に加わり、鉄鋼やセラミック、化学製品など、ダンピング(不当廉売)の疑いがある中国製品に狙いを定めている。

「輸出をてこにして急成長を遂げるには中国は大き過ぎる」。同国を訪れたジャネット・イエレン米財務長官は5日、最初の訪問地である広州でこう述べた。同長官は中国滞在中、安価な物品の大量生産によって経済活性化を図ることに繰り返し警告を発した。「もし供給を生み出すことだけを重視した政策を進め、同時に需要を喚起しなければ、世界に予期せぬ影響が波及することになる」

各国はすでに大量に押し寄せる格安の製品から自国メーカーを守る措置を講じている。インドでは、中国製のボルトやねじ、ガラスの鏡や真空断熱ボトルなどあらゆる製品が反ダンピング調査の対象となっている。アルゼンチンは中国製エレベーターを調査している。英国は掘削機や電動自転車を詳しく調べている。

こうした動きは、新たなチャイナ・ショックがすでにほころびの兆しがある世界貿易システムにおいて緊張をいかに高めているかを物語る。背景には、ロシアによるウクライナ侵攻や、米国主導で西側諸国が国内産業を振興し、経済の一部で脱中国を進めていることがある。この圧力は世界経済の分断を加速させるリスクがある。サプライチェーン(供給網)から中国を排除しようとする国々と中国依存に縛られる国々との溝が深まるためだ。

「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」。カナダの調査会社BCAリサーチの新興国市場・中国担当チーフストラテジスト、アーサー・ブダギャン氏はこう述べた。

深刻な不動産危機を埋め合わせようと中国指導部は国内の広大な製造現場に投資を振り向けている。中国企業は国策に基づく低利融資に支えられ、国内で売れない大量の余剰品の買い手を外国に求めている。この傾向は、2000年代初めに中国の輸出急増で米製造業の雇用が推定約200万人分失われたこと(この現象をエコノミストは「チャイナ・ショック」と名づけた)を思い起こさせる。

中国から押し寄せる輸出品はすでに一部の業種で外国の競合企業を打ち負かしつつある。チリの鉄鋼最大手CAPは3月、ウアチパト製鉄所の操業停止を発表した。これに先立ち、チリ製の鉄鋼よりも40%安い中国からの輸入品にもはや太刀打ちできないと幹部が述べていた。

不当に安いと訴える地元企業の苦情を受け、チリの政府諮問委員会は中国製の鉄鋼に15%の輸入関税を課すことを勧告した。CAPは同委員会に対し、25%の輸入関税を勧告するよう働きかけていた。

世界各国は2023年の年初以降、中国を標的にしたものだけでも70件以上の輸入関連措置を発表している。開かれた貿易を推進する非営利団体(NPO)グローバル・トレード・アラート(本部・スイス)の集計で明らかになった。
標的となる複数の対象国の一つが中国であるものを含めると、23~24年の輸入関連措置の合計は300件以上となる。これには反ダンピング調査や輸入関税、輸入割り当てなどが含まれる。

「標準的な価格をつけた製品では対抗できない」。インドネシアの合成繊維大手アジア・パシフィック・ファイバーズの広報担当者プラマ・ユダ・アムダン氏はこう話す。インドネシア当局は昨年、中国から輸入される合成糸に関して調査を始めた。ジャカルタ市場に上場する同社の昨年の売上高は前年比27%減の2億8850万ドル(約432億円)だった。アムダン氏は減収の要因として競合する中国企業のダンピングとみられる行為を挙げた。

世界中で強まる反発に対し、中国は保護主義の台頭を非難しており、それは同国がやり方を変えるつもりはないことの表れだ。国営メディアは、中国の過剰生産能力についての西側諸国の不満は大げさで偽善的だと非難する記事を掲載している。さらに重要なのは、米国のEV補助金が中国製部品を除外しているのは不公平だとして中国が世界貿易機関(WTO)に提訴したことだ。

中国商務省と、指導部に対する報道機関の問い合わせに対応する国務院新聞弁公室は、コメントの求めに応じなかった。

現在調査を受けている製品の広範さからは、中国が経済を改革しWTOに加盟した2000年代初め以降、世界の製造業における同国の地位がいかに高まったかが浮き彫りになる。

「中国の現在の軌道で人々が脅威に感じるのは、製品の質向上に伴い、中所得国とも高所得国とも激しく競争していることだ」。スイスのザンクトガレン大学のサイモン・イバネット教授(国際貿易)はそう指摘する。

先進国は、数十年前に中国の攻勢で家具などの製造業の雇用が失われたように、同国が輸出を拡大させることで自国経済の強みだった産業が空洞化することを懸念している。

一方、発展途上国にとって中国からの輸入急増は、独自の製造業を築き上げることで中国のように経済発展の階段を上ろうとする希望を打ち砕く可能性がある。

ブラジルの化学業界は、昨年の工場稼働率がデータ集計の始まった17年前以降で最低の64%に落ち込んだのは、中国からの輸入増加が原因だとみている。業界団体Abiquim(ブラジル化学工業会)の経済担当ディレクター、ファティマ・コビエロ・フェレイラ氏は、工場閉鎖や大量の雇用喪失を避けるためには一時的な関税が必要になるとの見方を示す。「あれほど激しく流入する輸入品にはかなわない」【4月10日 WSJ】
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肝心の中国国内需要は弱含みです。
2023年通年の消費者物価指数(CPI)は0.2%にまで落ち込み、「中国がデフレに陥ったのではないか」とも懸念されています。

消費者は従来の高価な商品から、より安価な商品に乗り換えています。こうした消費者動向は「消費降級」(消費ダウングレード)、「平替」(高級品を通常価格の品物に代替する)というビジネス用語であらわされています。

そしてこうした消費者ニーズに応えるべく「赤字覚悟」「赤字上等」で安価な商品生産を急拡大する新興企業も現れますが、すぐにまた競争相手が出現します。

こうした目まぐるしい新興企業の興亡、「多産多死」の中からごく一部とはいえ本当の技術力やブランド力を兼ね備えた優良企業が生まれてくるという点でポジティブな側面もあって、中国政府はこのジェットコースターのような新興企業の多産多死を歓迎、推進する立場をとるようになっています。

*****中国でスタバの売り上げが激減している理由。「安い中国」「中国発のデフレ」が世界を破壊する!?****
(中略)赤字上等の成長戦略をとるためには、お金の出し手が必要となる。ベンチャーキャピタルがこの役割を担ってきた。爆発的な成長を遂げれば上場や事業売却で出資金のもとは取れるというソロバン勘定である。

ところがベンチャーマネーだけならばまだしも、近年では政府系ファンドがベンチャーキャピタルに出資することで、赤字上等戦略を支えるようになってきた。今や政府系ファンドの資金規模は13兆元(約270兆円)に達しているとされる。

世界各地を“荒らし”、撤退する懸念
この膨大なマネーによって突き動かされるジェットコースターのような浮き沈みの新興企業群は今や中国国内のみならず、全世界に影響をもたらすようになっている。赤字上等戦略で生み出された、高コスパのアパレル、バッテリー、EVなどが全世界で売れまくっている。

消費者の視点からすると、ありがたい話ではあるが、企業や労働者の視点からすると、このせわしなく“しんどい”経済に否応なくまきこまれるのは勘弁してほしいという気持ちになるも事実だ。

地方に出店したショッピングモールが地元のお店を軒並み倒産させてから撤退するように、中国の新興企業が世界各地のローカル企業を潰滅させてから潰れるというのも困る。

“中国のデフレ”とともに、世界に波及する“中国発のデフレ”を懸念する声が高まっているのだ。【4月1日 WEDGE】
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中国一帯一路  ネガティブ評価は多々指摘されるも、東南アジアでは高評価 中国が米を逆転

2024-04-06 23:28:58 | 中国

(2019年、パキスタン・フンザ観光で、今回中国人を対象にしたテロのあったベシャム手前、バタグラムを過ぎたあたりのカラコルムハイウェイ沿いで見かけた標識 工事車両運転手も中国人なので、標識も中国語なのでしょう)

【「債務の罠」 ラオスの場合】
ものごとにはすべて表と裏、光と影がありますが、中国・習近平国家主席が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」については日本ではネガティブな側面が強く報じられる傾向があります。

ネガティブな側面の最大の問題は、融資を受けた国が過大な債務に苦しみ、結局中国に重要な権益を譲る結果となるという「債務の罠」の問題。

アジアにおける「一帯一路」の“目玉”事業の一つ、中国・昆明とラオス・ビエンチャンを結ぶ「中国ラオス鉄道」についても、ラオス側の債務増大が問題視されています。

****中国「一帯一路」10年 「中国式」鉄道開通のラオス、過大な債務負担に直面****
中国の習近平国家主席が巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱してから今秋で10年となる。途上国のインフラ建設を巨額資金で援助し、自国経済圏に引き込んで影響力拡大につなげた一方で、中国の過剰な融資により途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」が国際社会で警戒される。

中国と結ぶ鉄道が開通して1年半超が過ぎた東南アジアのラオスでも、過大な債務負担が懸念されている。

田園に巨大駅舎
中国雲南省昆明とラオスの首都ビエンチャン間の1035キロを約9時間半で結ぶ中国ラオス鉄道は2021年12月に開通した。中国の「ゼロコロナ」政策が撤廃され今年4月からは旅客の直通運行が始まった。アジア最貧国の一つであるラオスで鉄道建設は長年の夢だった。

ラオス側の起点・ビエンチャン駅は、中心部から車で30分超という郊外にある。家畜の牛の姿が目立つ田園風景の中に、不釣り合いな巨大駅舎がそびえており、周辺には「中国・ラオス友好の象徴的プロジェクト」との垂れ幕がある。(中略)

中国メディアによると、9月3日までの累計乗客数は延べ2090万人を突破。中国企業のラオス進出も増えており、街中を走る車は中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)など中国製が目立つ。現地の経済関係者は「中国企業で働こうと中国語を勉強する若者が増えた。給与が桁違いに高いからだ」と指摘する。

ビエンチャンで小売業を営んで20年になる中国・重慶出身の50代男性は「昔はラオスで中国人への扱いは悪かったが、鉄道ができるなど中国の存在感が増して尊重されるようになった。中国が発展したおかげだ」と笑顔を見せた。

「民間に恩恵ない」
一方、ラオス側には国内で中国が影響力を増すことへの警戒もある。30代のラオス人男性経営者は「政府は中国に助けられているが、民間人は恩恵を感じることができない」と声を潜めた。

ラオスの首都ビエンチャンのワットタイ国際空港近くには巨大な中華街がある。3年前に営業を始めたというホテルの館内は中国語表記が目立ち、警備員の制服も漢字で「保安」と書かれていた。

中華街の一角にある建設現場に掲げられた作業責任者の一覧表を見ると、6人中全員が中国人とみられる名前だった。

一帯一路を巡っては、企業だけでなく資材や労働者まで中国から持ち込む〝ひも付き〟の形がとられ、地元経済への影響が限定的だと指摘される。両国国境近くのラオス・ボーテン駅の周辺では、中国資本のビルやホテルの建設ラッシュで、中国語や人民元の使用が日常化しているという。

深まる中国依存
王毅(おう・き)共産党政治局員兼外相は8月中旬、昆明でラオスの国家副主席と会談し、鉄道開通が「ラオス人民に確かな利益をもたらしている」と強調した。将来はタイ・バンコクやシンガポールまで鉄道網を延伸する構想も取り沙汰されている。

ただ、一連のプロジェクトの持続可能性は不透明だ。中国ラオス鉄道は中国側が7割、ラオス側が3割出資した合弁会社が建設と運営を担う。

総工費はラオスの国家予算の2倍弱にあたる約60億ドル(約8900億円)。うち6割に当たる約35億ドルは中国輸出入銀行からの借り入れだ。ラオス側は債務の政府保証を行っていないが、同国の「隠れ債務」になる可能性が指摘される。

ラオスの対外公的債務は22年末時点で105億ドルで、国内総生産(GDP)比84%と既に高レベル。対外債務の半分を占める中国への依存は強まっている。多額の対外債務は通貨安を招いており、外貨建て債務返済負担の増加も懸念される。【2023年10月13日 産経】
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国際通貨基金(IMF)は昨年、ラオスの公的債務残高が国内総生産(GDP)の120%を超えていると推計、「支払い困難で持続不可能」と警告しています。こうした債務状況は中国以外の国がラオスへの融資を行う妨げとなっています。

ラオス・ソンサイ首相は貨物・旅客双方との「大成功している」と評価しています。債務問題については、ラオスにはまだ返済能力があるが、返済条件の見直しや債務免除について債権者(中国)と交渉すると語っています。

なお、「債務の罠」でいつも代表事例と上がるのスリランカ。中国依存を強めた前政権時代の2017年に南部のハンバントタ港の建設費返済ができる見込みがなくなり、中国とスリランカの合弁企業に港の運営権を99年間リースせざるを得なくなりました。

現在、債務の再編を進めている当のスリランカは「一帯一路」から手を引いた訳ではありません。

****「債務の罠」批判あるなか習近平国家主席がスリランカ首相と会談 「一帯一路」推進で一致****
中国の習近平国家主席は27日、北京を訪れたスリランカのグナワルダナ首相と会談し、中国が主導する巨大経済圏構想「一帯一路」を今後も進めていく方針で一致しました。

中国外務省の発表によりますと、会談で習主席は「中国とスリランカとの関係を強化し、発展させることは両国民の利益に沿うものだ」と意義を強調。

そして、巨大経済圏構想「一帯一路」をめぐり、「質の高い建設を実現し、相互の助け合いを引き続き深めていきたい」として最大都市のコロンボなどで行われている港の建設のほか、物流や環境分野での協力を推進していく考えを示しました。

ただ、中国からの融資に頼って港の工事を行ったものの資金の返済に行き詰まり、港の運営権を99年間中国企業に委ねることになってしまうなど、こうした協力は「債務の罠」だという国際社会からの批判もあります。

一方、グナワルダナ首相は会談で「中国はスリランカが困難な時に常に手を差し伸べてくれた」と感謝の意を示したうえで、「プロジェクトはスリランカの経済発展を大いに後押ししてきた」として、引き続き「一帯一路」構想を進める考えを示しました。【3月28日 TBS NEWS DIG】
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【テロの標的とされる中国人・企業 パキスタンの場合】
「一帯一路」のネガティブな側面のもうひとつは、冒頭記事にもあるように“企業だけでなく資材や労働者まで中国から持ち込む〝ひも付き〟の形がとられ、地元経済への影響が限定的”ということで地元住民には不評であると言われていること。

単に“不評”と言うだけでなく、地元住民との衝突が起きたり、また、政府と結託した中国の進出が地元武装勢力のテロの標的となったりすることもしばしば起きています。

ラオスと並んで「一帯一路」事業の最重要拠点がパキスタンでの事業ですが、現地ではしばしば中国人・企業がテロの標的となっています。

****パキスタンで中国人狙った自爆テロか 中国人技術者ら6人死亡****
パキスタン北西部で、ダムの建設現場に向かっていた車列に爆発物を積んだ車が突っ込んで爆発し、中国人技術者5人を含む6人が死亡しました。

警察は中国人を狙った自爆テロとみて捜査を進めています。
パキスタン北西部のカイバル・パクトゥンクワ州で26日午後、山あいの幹線道路を走っていた車両の列に、爆発物を積んだ車が突っ込み爆発が起きました。

警察によりますと、車列には現地で進められているダムの建設作業に当たる技術者やその警備担当者などが乗っていたということで、爆発によって車1台が谷底に落ち、中国人の技術者5人とパキスタン人の運転手1人が死亡したということです。(中略)中国人を狙った自爆テロとみて捜査を進めています。

パキスタンでは、今月20日にも中国の進める巨大経済圏構想「一帯一路」の重要拠点として知られる、南西部のグワダル港の港湾施設が武装した集団に襲撃されるなど、中国に反発する武装グループによるとみられる攻撃が相次いでいます。【3月27日 NHK】
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中国が一帯一路の重要拠点と位置づけるパキスタンでは、中パ経済回廊(CPEC)やグワダル港整備など全土で総額600億ドル規模のインフラ工事が行われています。工事の大半は中国からの融資でまかなわれおり、ここでもパキスタン側の債務危機が深刻化しています。

一方、中国の進出に反発する勢力が一帯一路の拠点を狙う事件も相次いでおり、パキスタンの反政府勢力「パキスタン・タリバン運動」やバルチスタン州の分離独立派の関与が疑われています。

【履行されない事業も タイ・バンコクから南の高速鉄道、マレーシアは計画中止】
「一帯一路」の大盤振る舞いは中国にとっても負担で、受け入れ国側のもろもろの事情もあって、当初の計画通り進まないことは多々あります。

****「一帯一路」で8.3兆円不履行=中国の対東南アジア援助―豪研究所調査****
中国が巨大経済圏構想「一帯一路」に基づき東南アジア諸国に援助を約束した大規模事業のうち、3分の2近い547億米ドル(約8兆3000億円)が履行されなかったことが分かった。オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所が、27日公表の調査報告書で明らかにした。

報告書によると、2015〜21年の東南アジアの大規模インフラ開発事業で、中国は843億米ドル(約12兆8000億円)の支出を約束していた。

だが、実際に支出したのは296億米ドル(約4兆5000億円)で、履行率は35%にとどまる。タイやフィリピンの鉄道建設、マレーシアのパイプライン敷設が中止されたほか、規模が縮小された事業もある。【3月27日 時事】 
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受入国側だけでなく中国にとっても、従来のような大盤振る舞い、結果、債務不履行も・・・といったことは重荷となっており、近年では経済合理性を重視する方向に変化していいます。

なお、上記記事にもある中国ラオス鉄道につながるタイでの高速鉄道建設については、中国側は建設を急ぐようにタイに要請しています。

*****中国外相、タイ首相と会談 高速鉄道の早期建設呼びかけ****
中国の王毅外相は29日、タイのセター首相とバンコクで会談し、ラオス経由で両国を結ぶ高速鉄道の建設を急ぐ必要があるとの認識を示した。 中国外務省が明らかにした。具体的な時期には触れなかった。

タイ政府は現在、同国内の区間(873キロメートル)が2028年に開業するとの見通しを示している。

中国政府は「一帯一路」構想の下、同国南西部の昆明市とシンガポールを結ぶ高速鉄道の建設計画を推進。計画には昆明を起点にミャンマー、タイ、ベトナムを経由し、バンコクで合流する3つのルートが盛り込まれている。

タイ区間は費用負担の問題や新型コロナウイルス流行の影響などで建設が遅れているほか、一部で「財政のわな」に対する懸念も浮上している。

タイ政府によると、バンコクとナコンラチャシマ県を結ぶ第1区間は15%以上完成しており、27年までに開業予定。ラオスと国境を接するノンカイ県とナコンラチャシマ県を結ぶ第2区間は28年までに完成する予定。ラオス経由で中国に接続する計画だ。

バンコクとマレーシア、シンガポールを結ぶ区間は、マレーシア政府が計画を中止しており、先行きが不透明。【1月29日 ロイター】
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【それでも東南アジアでアメリカと逆転した中国への高評価】
ここまでの話、主に「一帯一路」のネガティブな側面を中心にした話は、これまでも再三指摘されている話で、いささか“耳たこ”  
ここまでは前置きで、今日取り上げたかったのは、これまでの話を踏まえたうえでの下記の記事

****東南アジア “米より中国を選択”が初めて上回る 調査結果****
ASEAN=東南アジア諸国連合の国々で、アメリカと中国の選択を迫られた場合、中国を選ぶとする人の割合が初めて上回ったとする調査結果をシンガポールのシンクタンクが発表しました。

シンガポールのシンクタンク、ISEAS=ユソフ・イシャク研究所は、2日ASEAN10か国の研究者や政府当局者などおよそ2000人を対象に行った調査結果を発表しました。

それによりますとアメリカか中国かの選択を迫られた場合、どちらの国を選ぶかという質問では、「アメリカ」が49.5%、「中国」が50.5%と中国を選ぶとする回答がわずかに上回りました。

去年の調査と比べると中国を選んだ割合は11.6ポイント上昇していて、2020年に公表が始まったこの調査項目で、中国がアメリカを上回ったのは今回が初めてです。

中国を選んだ割合が高かった国はマレーシアが75.1%、インドネシアが73.2%、ラオスが70.6%などとなっていて、いずれも去年に比べておよそ20ポイントから30ポイント上昇しています。

調査を行ったシンクタンクはこうした国々について「中国の一帯一路構想や、活発な貿易や投資で大きな恩恵を受けている」と指摘しています。

一方、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンのほか、ベトナムやシンガポールなどはアメリカを選ぶ割合が依然として高く、米中の主導権争いが如実に反映されています。

また「信頼できる国や地域」という調査では日本が58.9%と米中やインド、EU=ヨーロッパ連合を上回り1位でした。【4月3日 NHK】
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“ASEAN加盟国のうち、米国を第一としたのはフィリピン、シンガポール、ベトナムの3カ国のみ。インドネシア、マレーシア、タイ、ラオス、ブルネイ、ミャンマー、カンボジアの7カ国は中国寄りの結果となった。特に中国の「一帯一路」構想や対中貿易から恩恵を受けているマレーシア、インドネシア、ラオスでは中国支持が7割を超えた。”【4月3日 レコードチャイナ】

従来から中国の影響力が強いカンボジア、ラオス、ミャンマーは予想されたところ。
近年中国との関係強化が伝えられるタイも「まあ、そうかも・・・」
インドネシア・マレーシアの結果は意外でした。

ながながとネガティブ評価の前置きを並べてきたのは、「そうは言いつつも、中国「一帯一路」はアジア各国で好意的に評価されているポジティブな面も強いみたい・・・ということです。

だから「一帯一路」を評価すべきとは言いませんが、ものごとは表と裏、光と影、両面を見る必要があるということ。

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【「観光旅行者」としての個人的感想・印象】
以下は、「観光旅行者」としての個人的感想・印象

スリランカの「債務の罠」典型例としていつもあげられる南部のハンバントタ港周辺で、2009年の正月、島の南端に位置する聖地カタラガマに行く途中に車を止めて小休止したことがあります。

行きかう車も少ないのに立派な道路ができており、同行ガイド氏から「大統領が自分の地元に港を作っている」といった話を聞きました。「いくら小さな島国とは言え、中心部からかなり離れたこんなところに港を作って、何に使うのだろうか?」というのがそのときの印象でした。

融資した中国の問題もありますが、一番は採算を無視したスリランカの責任でしょう。

中国人を対象にしたテロのあったパキスタン・ベシャムには、2019年のフンザ観光の際に1泊したことがあります。
周辺道路はいわゆる「カラコルム・ハイウェイ」と呼ばれる険しい山肌を削って作られた道路。
あちこちで道路工事(拡張・補修?)が行われ、発破作業などのために車が停止させられることも何回かありました。

工事は中国主導で行われているようで、あちこちに中国語表記の看板が見られ、道路標識も中国語。さすがに中国語の道路標識には「パキスタンの山奥で中国語かよ・・・」と呆れたことも。

ただ、中国の工事が完了した区間は快適なドライブができますが、工事が済んでいない区間は悪路・悪路の連続。
「中国さんよ、早く工事進めてよ!」というのが本音の感想でした。

同行ガイド氏もさかんに中パ経済回廊(CPEC)に言及しており、中国に対して悪い印象は持っていないようでした。

中国ラオス鉄道とその延伸
中国雲南省昆明周辺、ラオス、タイ・・・それぞれ何回か観光していますが、これらの地域が高速鉄道でつながるのは観光的には大きな魅力。ビザの問題などがクリアされるなら、是非雲南省からラオス、タイへ周遊する旅行をしてみたいと考えています。
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