孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  「8月15日は暗黒の日」 戦い続ける女性 「一日も早く学校に通いたい」と願う少女

2022-08-14 22:44:59 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンの首都カブールで、イスラム主義組織タリバンの戦闘員による威嚇射撃で散会させられるデモ参加者ら(2022年8月13日撮影)【8月14日 AFP】)

【「戦争は終わったが、アフガン女性の適切な居場所を求める闘いが始まった。」】
アフガニスタン駐留米軍が撤収を進める中、イスラム原理主義勢力タリバンが2021年8月15日、怒濤の勢いで首都カブールを制圧。ガニ大統領は抵抗することも和平交渉を行うこともなく出国逃避。欧米や日本が支援してきたガニ政権はあっけなく崩壊しタリバンが復権しました。

あれから1年が経過しようとしているということで、アフガニスタンの現状、とりわけ、就業・教育・一般生活におけるこれまでの権利を大きく制約されることになった女性の現状について、幾つかの報道がなされています。

特段の目新しいことはなく、“相変わらず”と言えば相変わらずですが、そうした不当な現実を改めて確認しておくことも必要でしょう。

****タリバン政権発足から1年、自由失った女性の闘い****
アフガニスタンのモネサ・ムバレズさん(31歳)は、20年にわたる民主政権下で獲得した女性の権利をやすやすと手放すつもりはない。

1年前にイスラム主義組織・タリバンが権力の座に返り咲く前、ムバレズさんは同国の財務省で政策監視を担う幹部だった。大都市を中心として、彼女のように自由を勝ち取っていた女性は多かった。1990年代末の前タリバン支配時代を過ごした世代には、夢見ることさえかなわなかった自由だ。

しかし今、ムバレズさんは職を失っている。タリバンがイスラム法を厳格に解釈し、女性の就労を厳しく制限したからだ。タリバンは女性に保守的な服装と行動を義務付け、全国で女子の中等教育学校を閉鎖した。

新政権に女性閣僚はおらず、女性問題省は閉鎖された。

「戦争は終わったが、アフガン女性の適切な居場所を求める闘いが始まった。あらゆる不公平に対し、命果てるまで声を上げていく」と語るムバレズさんは、首都カブールで最も著名な活動家の1人だ。

西側を後ろ盾とした民主政権が転覆した後の数週間、ムバレズさんはタリバンのメンバーによる殴打や拘束のリスクも顧みず、街頭デモに参加した。激しい闘いの末に勝ち取った権利を守るためだ。

そうしたデモも今ではすっかり鳴りを潜め、ムバレズさんが最後に参加したのは5月10日だ。

しかし、彼女らは自宅に集まって女性の権利について話し合い、他の人々にも参加を呼びかけるなど、反抗のための行動を内々に続けている。タリバンが前回アフガンを支配していた時代には、こうした集会はまず考えられなかった。

7月にムバレズさんの家で開いた集会で、女性らは車座になって経験を語り合い、「食料」、「仕事」、「自由」など街頭デモさながらのスローガンを唱えた。

ムバレズさんは、ロイターに「私たちは自らの自由のために、権利と地位のために闘う。国や組織、スパイ機関のために闘うのではない。ここは私たちの国、私たちの故郷であり、私たちはここに住むための全ての権利を有している」と語った。

国連女性機関のアフガニスタン代表、アリソン・ダビディアン氏は、ムバレズさんのような事例は国中にあふれていると言う。

「世界中の多くの女性にとって、自宅の正面玄関から外出するのは日常の一部」だが、「多くのアフガン女性にとって、それは特異なことだ。反抗を示す行動なのだ」とダビディアン氏は言う。

公共の場所における女性の行動について、必ずしも明確なルールは無い。だが、カブールのように比較的自由な都会では、女性は男性の付き添い無しに移動することがよくある。だが、南部や東部など、より保守的な地方では、さほど日常的な光景ではない。また、すべての女性は78キロメートル以上移動する際に、男性の付き添いが義務付けられている。

<勉強はやめない>
国際社会がアフガンの新指導部の承認を拒んでいるのは、タリバンによる少女と女性の取り扱いが主な理由の1つだ。この結果、アフガンは数十億ドルの支援を断たれ、経済危機に拍車がかかっている。

アフガニスタンは少女の高校通学を禁止している世界で唯一の国。タリバンは今年3月、女子の中等教育学校を再開すると発表したが、女子児童が喜んで通学し始めたその朝に決定を撤回した。

民間の学習指導やオンライン授業を通じて、なんとか教育を受け続けている少女もいる。
ケリシュマ・ラシーディさん(16歳)は、一時しのぎの措置として民間の学習指導を受け始めたが「学校再開を期待している」という。学校の閉鎖が続くようなら、学校に戻れるよう両親とともにアフガンを出たいと望んでいる。

「勉強することは決してやめない」とラシーディさん。2020年に北東クンドゥーズの自宅がロケットに攻撃された後、一家はカブールに移り住んだ。

食いつなぐために「新たな日常」を受け入れざるを得なかったと語る女性もいる。

元女性警察官のグレスタン・サファリさん(45歳)は、タリバンに止められて職を変えざるを得なかった。現在はカブールで他の家庭の家事を請け負っている。「自分の職業が好きだった。肉でも果物でも、必要なものが何でも買えた」とサファリさんは振り返った。【8月13日 ロイター】
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【声をあげる女性にタリバン威嚇射撃】
“(自由を求めて戦い続ける)ムバレズさんのような事例は国中にあふれている”というのは、やや誇張した表現でしょう。

そうあって欲しいという願いはありますが、厳しい現実を生きていくのはそうたやすいことではありません。
どんなに現状への不満や将来への希望があったとしても、まずは今日を生きることが優先されます。

そうしたなかにあっても声を上げる女性もいます。
しかし、タリバンの対応は強硬です。


****タリバン、女性の権利求めるデモに威嚇射撃 アフガン****
アフガニスタンの首都カブールで13日、数か月ぶりに行われた女性たちによるデモを、イスラム主義組織タリバンが参加者への殴打や威嚇射撃で暴力的に散会させた。(中略)

AFP記者によると、デモには約40人が参加。教育省前を行進しながら「パン、仕事、自由」とシュプレヒコールを上げた。

タリバン戦闘員は空に向かって威嚇射撃をしてデモを散会させた。近くの店に逃げ込んだ参加者の中には戦闘員に追い掛けられ、銃床で殴られた人もいた。

女性たちは「8月15日は暗黒の日」と書かれた横断幕を手に労働と政治参加の権利を求めて「正義だ正義。無学はもうたくさん」と声を上げた。多くは顔をベールで覆わずに参加していた。

デモ主催者の一人、ゾリア・パルシさんによると、タリバン情報機関の戦闘員がやって来て空に向かって発砲した。戦闘員は、横断幕を引き裂いたり、多くの参加者の携帯電話を没収したりしたという。

参加者の一人、ムニサ・ムバリズさんは「私たちを黙らせたくともそれはできない。家からでも抗議する」と述べ、女性の権利のために闘い続けると語った。

AFP記者によると、デモを取材していた報道陣の中にもタリバン戦闘員に暴行を受けた記者がいる。 【8月14日 AFP】
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イスラム社会において女性の権利が制約されているのは珍しいことではありませんが、“アフガニスタンは少女の高校通学を禁止している世界で唯一の国”というように、アフガニスタンの現状はイスラム教のルールというよりは、(おそらくはタリバンの中核をなすパシュトゥン人部族社会を反映した)タリバン特有のローカルルールであり、宗教指導者の中にも現状を批判する人はいるようです。しかし・・・・

****タリバンの著名な聖職者殺害される 女性教育に賛成****
アフガニスタンのタリバン暫定政権の支持者で、女性教育の推進者として有名だった宗教指導者が首都カブールで発生した自爆テロの標的となり、殺害されたことがわかりました。

現地メディアによりますとアフガニスタンの首都カブールの神学校で11日、自爆テロが起き、宗教指導者のラヒムラ・ハッカーニ師が殺害されました。犯人は義足に爆弾を仕込んで近づいたとみられ、その後、過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出したということです。

ハッカーニ師はタリバン暫定政権の支持者でタリバン統治に反対する「イスラム国」を批判、過去にも「イスラム国」のテロの標的となっていました。

アフガニスタンで争点となっている女性に対する教育に賛成していることでも知られ、今年初めイギリスBBCのインタビューを受けた際には「イスラム法では女性に教育を許さないとする正当な理由は全くない」などと話していました。【8月12日 TBS NEWS DIG】
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今回事件はタリバンではなく、「イスラム国」による自爆テロのようです。
ただ、アルカイダ・ザワヒリ容疑者とも近い関係があったタリバン強硬派とアルカイダや「イスラム国」といったテロ組織の間には考え方の差はあまりないようにも思えます。

【教育を奪われた少女の願い「一日も早く学校に通いたい、教育を受けたい」】
****女子教育の機会奪われたアフガニスタン 「夢を絶対に…」少女の訴えは “秘密の学校”も****
アフガニスタンでイスラム主義勢力・タリバンが再び実権を握ってから、まもなく1年です。この1年で女性を取り巻く環境は劇的に変わり、教育の機会も奪われたままです。学校に通えなくなった女子生徒たち、そして彼女らを支える女性が、苦しい胸の内を明かしました。
    ◇
今月、NNNのカメラはアフガニスタンの首都・カブールへ入りました。

平山晃一記者 「カブールでは、街の至る所で『タリバン』による検問が実施されています」

テロを繰り返していたイスラム主義勢力・タリバンが、今は街の治安を守る存在になっていました。
こうした中、カブールに住む12歳の少女・スーサンさんを訪ねました。すると、スーサンさんは日本語であいさつをしてくれました。

「おはようございます、こんにちは。わたし名前はスーサンです」
日本語であいさつした後、はにかんだ表情をみせるスーサンさん。父親の留学の関係で、小学校1年から3年まで日本の小学校に通っていました。「宿題忘れゼロ賞」と書かれた賞状や日本語で書いた作文などを見せてくれました。

「宿題がとても大変でした。でも、日本の先生たちはとても優しく教えてくれて、励ましてくれました」
しかし帰国後の去年8月、タリバンがカブールを占拠し、実権を掌握。タリバンは、いまだ女子の中等教育再開を認めておらず、スーサンさんと姉のマスーダさんは、学校に行けない日々が続いています。

「学校に行く代わりに、テレビを見て勉強をしていますが、将来がとても不安です…」
今年3月には、「女子の中等教育の再開」がアナウンスされましたが、当日に突如、撤回されました。

「学校に行って、イスに座って先生を待っていたら、帰るよう言われました」
顔を曇らせ、涙をぬぐうスーサンさん。夢の実現のため、「一日も早く学校に通いたい、教育を受けたい」と訴えます。

「母の夢でもあった『看護師になる』という夢を、絶対に実現したいです」
    ◇
こうした現状に立ち向かう動きも出てきています。

平山晃一記者 「こちらの場所では、学校に行けない少女たちを対象にした授業が行われていて、イスに座りきれず、床に座っている子たちもいますね」

元教師の姉と大学生の妹が、40人ほどの女子生徒らに、ひそかに授業を行っていました。いわば“秘密の学校”です。
(中略)

“秘密の学校”に通う女子生徒(12) 「将来は医者になって、この国の人を助けたいです。勉強を続けないと、夢をかなえることはできません」

タリバンが再び支配するまでの自由なアフガンを生きてきた元教師の姉は、この1年を次のように振り返りました。

元教師の姉 「この1年間で、女性たちは精神的に多くのダメージを負いました。仕事も勉強も何もかも制限されるようになりました。私たちアフガンの女性は、これからも戦い続けます」

タリバン暫定政権は、「準備が整えば、女子の中等教育を再開する」としていますが、今も少女たちの教育の機会は奪われ続けています。【8月12日 日テレNEWS】
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この少女らの夢がかなうことを切に願いますが、力によってしか変わらない現実を思うとやり場のない思いも・・・。
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アルカイダ指導者のザワヒリ容疑者を米軍がアフガニスタンで殺害

2022-08-02 23:45:48 | アフガン・パキスタン
(国際テロ組織アルカイダ指導者 ザワヒリ容疑者(右)と ビンラディン容疑者【8月2日 NHK】)

【米軍、ザワヒリ容疑者を殺害 アフガニスタン首都カブールで】
バイデン米大統領は1日、国際テロ組織アルカイダの最高指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を殺害したと発表したと発表しました。アフガニスタンの首都カブールでドローンを使った攻撃で殺害したとのことです。

ザワヒリ容疑者はアルカイダの黎明期からビンラディン容疑者が全幅の信頼を置いた最高幹部で、長年ナンバー2の「副官」として組織拡大に貢献、ビンラディン容疑者が米軍に殺害された後は結束力が弱まったアルカイダのトップとして組織維持に務めてきました。

****米、ザワヒリ容疑者殺害=アルカイダ最高指導者―アフガンでドローン攻撃****
バイデン米大統領は1日、国際テロ組織アルカイダの最高指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を殺害したと発表した。71歳だったとみられる。

ザワヒリ容疑者は2001年9月の米同時テロに深く関与し、11年5月の米軍特殊部隊によるビンラディン容疑者殺害後、アルカイダを率いてきた。アルカイダの一層の弱体化は必至で、壊滅的打撃を受けた可能性がある。

バイデン氏は国民向けのビデオ演説で「正義は下された。このテロリストはもうこの世にいない。世界中の人々はもうこれ以上恐れる必要はない」と表明。さらに「同時テロで奪われた罪のない人々の命を追悼し続ける」とも述べた。

米政府高官によると、米当局がアフガニスタンの首都カブールで現地時間7月31日午前6時18分(日本時間同日午前10時48分)ごろ、ザワヒリ容疑者が建物のバルコニーに出たところをドローン攻撃で殺害した。米メディアは「中央情報局(CIA)による殺害作戦」と報じている。高官は一般市民らにけがはなかったと強調した。

従来はパキスタンとアフガンの国境地帯に身を隠していると考えられていたザワヒリ容疑者がカブールに潜伏中という情報は今年に入って米政府が把握した。監視の結果は約3カ月前からバイデン氏にも逐一報告され、殺害作戦が本格化したのはここ1カ月の話だった。バイデン氏が作戦実行を最終承認したのは7月下旬という。(中略)

バイデン氏は昨年8月末、アフガンから米軍を撤退させた。イスラム主義組織タリバンの全土掌握による混乱で批判を招いたが、今回のザワヒリ容疑者殺害で「アフガンが今後、テロリストの安住の地になることはない」と強調した。【8月2日 時事】 
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映画・ドラマによれば、こういう場面ではホワイトハウス地下のシチュエーションルームに大統領以下の主だった関係者が集まり、モニター等で現地の状況を確認しながら作戦が実行される・・・ということのようですが・・・。

【テロが減少する直接効果はあまり期待できない】
アルカイダから分派したスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がイラクとシリアで台頭すると、アルカイダは求心力を失いましたが、未だイスラム過激派の“トップブランド”としての存在感はあり、独自の指揮系統でテロ活動を行う参加の組織にとってアルカイダの名前はそれなりの価値があると言えます。ヤクザ組織の代紋みたいなものでしょうか。

****米殺害のザワヒリ容疑者 若くして過激思想に傾倒****
米国が殺害を発表したアイマン・ザワヒリ容疑者はウサマ・ビンラーディン容疑者の死後、10年以上にわたり国際テロ組織アルカーイダを最高指導者として率いた。しかし、カリスマ性に欠け指導力を発揮できず、組織は弱体化。重病説も取り沙汰されていた。

エジプト・カイロ郊外で1951年に生まれたザワヒリ容疑者は、世界のイスラム過激思想に影響を与えた原理主義組織「ムスリム同胞団」に学生時代から傾倒した。過激思想に詳しいカイロ・アズハル大のアブドルバセット・ヘイカル教授は、欧米の中東支配に対する反発から「イスラム世界の過激な変化を志向した」と分析した。

ザワヒリ容疑者は74年にカイロ大医学部を卒業後、81年に起きたサダト大統領暗殺事件に関わったとして投獄された。その後、アフガニスタンで対ソ連ゲリラ戦に参加し、ビンラーディン容疑者に出会った。

2001年の米中枢同時テロのほか、1998年のケニアとタンザニアの米大使館爆破事件にも関与したとされ、米政府は懸賞金2500万ドル(約33億円)をかけて行方を追っていた。

2014年にはアルカーイダから分派したスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がイラクとシリアで台頭。求心力を失ったアルカーイダは、中枢が反米イデオロギーを鼓舞するメッセージを発信し、各地の傘下組織が独自の指揮系統でテロ活動を行っていたとの見方が有力だ。

欧米では近年、アルカーイダ本体の関与が明確な大規模テロは起きていない。しかし、中東やアフリカでは政情不安に付け入る形で傘下組織が活発に活動している。米議会調査局は今年5月、米国人らを狙う危険性があるアルカーイダ系組織として、イエメンの「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)やソマリアの「アッシャバーブ」などを挙げた。【8月2日 産経】
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今回のザワヒリ容疑者殺害の影響は二つあります。
ひとつはアルカイダの組織活動が今後どうなるか? テロ減少につながるのか? という問題。

アルカイダ自身の求心力は更に低下し、組織は大きく揺らぐかと思われますが、上記記事にもあるように、すでにアルカイダが何か企てるというよりは、アルカイダネットワークに参加する各組織が独自活動においてアルカイダの名前を“箔付け”に利用するという感じが強くなっていましたので、ザワヒリ容疑者殺害によってテロが減少する直接効果はあまり期待できないように思えます。

【タリバンとアルカイダの関係が切れていなかったことが証明された】
もうひとつの問題は、殺害されたのがアフガニスタンだったこと。つまりアフガニスタン・タリバン政権が国際テロ組織アルカイダのトップをかくまっていたと推測されることです。

****タリバン、アルカイダ指導者保護でドーハ合意に違反=米国務長官****
米国がアフガニスタンで国際武装組織アルカイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者を殺害したことについて、ブリンケン米国務長官は1日、イスラム主義組織タリバンが同容疑者をかくまっていたとし、ドーハでの合意に対する「重大な」違反だと非難した。

「タリバンに合意を守る意向もしくは能力がない中、われわれは揺るぎない人道支援でアフガンの人々を引き続き支え、特に女性や子どもの人権保護を提唱していく」と述べた。【8月2日 ロイター】
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このことが国際テロ組織との関係を断つとしていたアフガニスタンとアメリカ、国際社会との関係にどのような影響を及ぼすか・・・・という問題です。一方、アフガニスタンにしてみれば、自国内での米軍による殺害は主権の侵害という問題にもなります。

****カブール市民「何かの間違い」 ザワヒリ容疑者殺害、重い口****
米国がザワヒリ容疑者殺害を発表した直後の2日朝、アフガニスタンの首都カブールは、普段通り多くの人々が通りを歩いていた。タリバンの暫定政権は「米国によるドローン攻撃」を非難する一方で、死亡したのがザワヒリ容疑者だったことについては言及を避けている。

暫定政権、言及避ける
「どんな理由であったとしても、この攻撃を強く非難する」。暫定政権のムジャヒド報道官は2日昼前に発表した声明で米国を非難。カブール中心部にあるシェルプール地区の民家への空爆があり、米国のドローン攻撃だったことが判明したとした上で「こうした行動は米国、アフガン、そして地域の利益に反する」と述べた。アルカイダに関する言及はなかった。

地元テレビでは、2日朝の段階でザワヒリ容疑者の殺害について報じるニュースは少ない。中心部の検問所で警戒にあたっていたタリバン戦闘員にザワヒリ容疑者の殺害について聞くと、戦闘員は「空き家にロケット砲が着弾しただけで、けが人はいなかったはずだ」と不思議そうな顔で答えた。ザワヒリ容疑者がカブール市内に居住していたことについても「何かの間違いだ」と否定し、「アルカイダとタリバンは関係がない」と述べた。

カブール市内の警備は、アルカイダとのつながりが指摘されるタリバン内の強硬派「ハッカーニ・ネットワーク」の戦闘員が中心的に担っているとされ、市内のいたるところに銃を携えた戦闘員が配置されている。

タリバンを長年取材してきた毎日新聞助手は「アルカイダとの関係を認めてこなかったタリバンは、今回の米国の攻撃で面目をつぶされた形だ。タリバン内部でも動揺が広がる可能性があり、騒動に発展することを警戒して検問も厳しくなるはずだ」と警戒したが、記者(川上)と助手が30分ほど外出した間、検問で止められることはなかった。(中略)

一方、(攻撃の様子を語る住民に)アルカイダやザワヒリ容疑者について話を聞こうとすると、住民の口は一様に重くなった。両替商のアブドル・モヒーンさん(20)は、殺害されたのがザワヒリ容疑者だったことについて「ニュースを見ていないから知らないし、関心もない」と話した。別の男性は「そんなことを聞かないでほしい。ここは民主主義国じゃないんだ」と小声で訴えた。

ザワヒリ容疑者はタリバンの復権に伴い、パキスタンとアフガンの国境付近の潜伏先からカブールに移動した可能性も指摘される。ザワヒリ容疑者を首都で事実上かくまっていた疑いが浮上したことで、国際社会のタリバンへの対応が厳しくなるのは必至だ。【8月2日 毎日】
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****アフガン、なお「テロの温床」 ザワヒリ容疑者 政府機関近くに潜伏****
アフガニスタンの首都カブールで国際テロ組織アルカーイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者が殺害されたことは、米軍撤収後のアフガンがいまだに「テロの温床」である実態を浮き彫りとした。

イスラム原理主義勢力タリバンが米国と合意した「国際テロ組織との関係遮断」を履行していない疑いは強い。カブール陥落1年を15日に控え、タリバン統治への不信感が高まる結果となった。

ザワヒリ容疑者が潜伏していた住宅はカブール中心部の高級住宅街シェルプール地区にあり、政府機関やタリバン幹部の自宅からもほど近い。タリバンはザワヒリ容疑者の居場所を把握していたとみられ、ロイター通信はタリバン関係者の話として、タリバンがザワヒリ容疑者に「最高レベルの警備」を与えていたと報じた。

タリバンと米国は2020年2月、カタールの首都ドーハで和平合意に署名した。合意では米軍がアフガンから撤収する一方、タリバンはアルカーイダなど国際テロ組織と関係を断ち、国土を活動拠点として利用させないことが盛り込まれた。

ただ、21年8月に米軍撤収は完了したものの、タリバンはアルカーイダとの関係を維持しているとの見方は根強かった。タリバンは1990年代、アルカーイダ指導者のウサマ・ビンラーディン容疑者を「賓客」として迎え入れて、原理主義化が進んだ経緯があり、両組織の縁は深い。

タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官は2日、ツイッターでザワヒリ容疑者の死亡は触れず、米軍のドローン攻撃について「米軍の攻撃は国際的な原則に対する明らかな違反行為だ。米国、アフガン、地域の利益に反する」と反発した。【8月2日 産経】
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“タリバンは1990年代、アルカーイダ指導者のウサマ・ビンラーディン容疑者を「賓客」として迎え入れて・・・”ということですが、何もタリバンが招いた訳でもなく、他に行くあてもない国際的お尋ね者ビンラーディン容疑者が舞い込んできたというところで、また、当時の国際情勢に疎いタリバンはビンラーディン容疑者がどのような人物かもよくわからないまま、客はもてなすという部族の慣習に従って「まあ、おとなしくしているなら、いてもいい」と受け入れたということのようです。

受入れ後も、ビンラーディン容疑者の資金・アラブ世界からの戦闘員の提供を重宝しつつも、国際社会を敵に回すその勝手な活動に(基本的にアフガニスタン国外のことには関心がないオマル師・タリバンは)苛立ったりもしていましたが、「客を追放するのは習慣に反するので、できない」とそのまま置いていくうちに、当時の最高指導者オマル師以下のタリバンが次第に精神的にもアルカイダ思想に取り込まれていった・・・というように思えます。
(参考 高木徹著「大仏破壊」)

ザワヒリ容疑者についても、思想的に共鳴してかくまったというより、他に行くところがないと頼まれると追い出す訳にはいかなかったのかも。

もっとも、アルカイダとのつながりが指摘されるタリバン内の強硬派「ハッカーニ・ネットワーク」と他の勢力の間では、ザワヒリ容疑者への対応に温度差があったかも。

いずれにしても、ビンラーディン容疑者がパキスタンで殺害された際も、パキスタン国軍がかくまっていたと推測され、パキスタンとアメリカの関係がギクシャクすることにもなりました。

タリバンがアルカイダと切れていないというのは誰しも想像することではありましたが、想像することと、実際にザワヒリ容疑者がアフガンにいたということでは重みが違います。

【タリバンが更に国際社会に背を向ける可能性も】
今回事件を受けて、タリバン政権が求めていた国際的な国家承認は更に遠のくことになるでしょうが、そのことでタリバン政権が国際社会との関係を見限って、更に強硬な路線に進むということも懸念されます。

タリバン指導部は実権掌握時は国際社会にも配慮した宥和的姿勢も見せてはいましたが、それから1年、その凶暴な性格が明らかになりつつあります。

****刑、拷問、恣意的拘束…今も続くタリバンによる人権侵害の実態 アフガン実効支配から1年****
イスラム過激派組織タリバンがアフガニスタンで政権を奪取してから、まもなく1年が経つ。

当初、タリバンは自ら記者会見を開いて「我々は変わった」と積極的に発信したり、日本のメディアを含む外国メディアの取材にも応じて英語でインタビューに答えたりするなど、「我々は変わった」アピールに余念がなかったこともあり、日本でもタリバン新政権を楽観視する向きがあった。しかし現実は大きく異なる。

「裁判なしの処刑160件」人権侵害の実態は
国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は7月20日、タリバン支配が開始された2021年8月15日以降10カ月間のアフガニスタンの人権状況をまとめた報告書を発表し、タリバンが今も人権侵害を続けている実態を明らかにした。

UNAMAはタリバンによる前政権や治安部隊の関係者に対する裁判なしの処刑(超法規的処刑)160件、恣意的な拘束178件、拷問や虐待56件について、極めて具体的に報告している。タリバンは政権奪取直後の2021年8月17日、前政権や治安部隊などの関係者を対象とした恩赦を発表したものの、「この恩赦は一貫して守られていないようだ」と指摘する。

こうした人権侵害の加害者に対し、タリバン当局が全く処罰していないだけでなく、タリバン当局の勧善懲悪省と諜報局という2つの組織が主体的にこれらの人権侵害を実行している実態について、UNAMAは強い懸念を表明している。

タリバンはジャーナリストの恣意的逮捕や報道機関に対する規制により報道の自由を抑圧しているだけでなく、抗議活動の参加者に暴力をふるったり拘束したりすることにより、反対意見を封殺しているともされる。タリバンによるメディア関係者に対する人権侵害は、163件が報告されている。

奪われる女性の権利、相次ぐ「イスラム国」の攻撃
タリバン支配の最も顕著な犠牲者は女性である。ブルカ(顔を含む全身を覆い隠す長衣)着用の義務付けや移動の制限、立ち入り場所の制限、教育や就業の制限など、タリバン当局が次々と発布する規制により、女性は公共の場から締め出され、社会に参加する権利を徐々に制限され、多くの場合完全に奪われてしまったと報告されている。

国連のアフガニスタン担当特別代表はこれについて、次のように述べた。
「女性と女児の教育および公的生活への参加は、いかなる近代社会にとっても基本的なことだ。女性と女子を家庭内に追いやることにより、アフガニスタンは彼女たちが提供する重要な貢献の恩恵を受けることができなくなる。あらゆる人のための教育は基本的人権であるだけでなく、国家の進歩と発展の鍵なのだ」。

治安に関しても、この10カ月間に「武器を用いた暴力」は大幅に減少したものの、民間人の死傷者は2000人を超え、その大半はイスラム過激派組織「イスラム国」の攻撃によるものとされる。

2021年8月以前は「武力を用いた暴力」を主に実行していたのはタリバンだったが、タリバンは今やそれを取り締まるべき立場にある。しかし「治安は回復した」「我々は『イスラム国』を封じ込めている」「米国は『イスラム国』の脅威をでっち上げている」といったタリバンの主張は、こうした報告書が突きつける事実の前に信憑性を失う。

タリバン政権誕生で状況悪化
タリバンによる政権奪取以降、アフガニスタン経済は崩壊状態にあり、タリバン当局がそれに対してほぼ無策であることが人権状況の悪化に拍車をかけている。

報告書によると、現在アフガニスタンの人口の少なくとも59%が人道支援を必要としており、その数は2021年初頭と比較して600万人増加した。

要するにタリバン政権誕生により、アフガニスタンの人々の状況は悪化したのだ。

UNAMAの報告書は国際社会に対し、アフガニスタンの人々への支援の継続を求めている。しかしいくら国際社会が人道支援をしようと、アフガニスタンを支配するタリバンが、すべてのアフガニスタン人の人権を保護・促進する義務を果たさない限り、根本的な問題解決にはならない。

タリバン当局は人権問題について西側諸国による再三の勧告を無視し、中国やロシアといった権威主義国家との関係を強化しつつある。問題解決への道は遥かに厳しく、そして遠い。【8月1日 イスラム思想研究者 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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アフガニスタン  続く女性権利抑圧 財政難のパキスタンとの関係 内戦時の英特殊部隊の蛮行

2022-07-17 21:59:18 | アフガン・パキスタン
(【7月12日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】 かつての女子中等教育 教育の機会を奪われた少女たちは今・・・)

【続く女性権利抑圧 未だ再開されない女子の中等教育 失われた女性の就業機会】
アフガニスタンのタリバン政権は「イスラム法に反しない範囲」で女性の権利を守ると約束しましたが、その「範囲」はタリバンの解釈次第。特に問題となっているのは、女性が教育を受けにくくなっていること。

一時閉鎖していた大学は再開しましたが、女性には様々な制約があり、共学だったカブール大はいま、男女別学になっています。男女で週3日ずつ通学日を分け、女性は男性講師の授業を原則受けられません。女性講師は圧倒的に少なく、実際問題として女子学生の教育は大きく制約されています。

また、ほとんどの地域で女子の中等教育が閉鎖されたままとなっています。
国際的な批判にもかかわらず、この状況は当分続きそうな状況です。

****女子通学、再開要請せず アフガン大会議が決議****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権がイスラム聖職者や部族長ら全国の指導者を集めた大会議は最終日の2日、国家運営に関する決議を取りまとめ閉幕した。

暫定政権に対し、3月に延期された日本の中学・高校に当たる中等教育の女子通学の全面再開を要請しなかった。女性に対する抑圧的な政策が当面続くことになりそうだ。

首都カブールで開かれた大会議は昨年8月の実権掌握後初めて。決議は暫定政権にイスラム法の範囲内で教育や女性の人権に特に留意するよう要請したが、会議には女性が招かれず、女子教育に関する国内外の要請を半ば無視した形で終了した。【7月2日 共同】
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下記のタリバン最高指導者が出席した会議というのも、上記大会議のことと思われます。

****タリバン最高指導者、カブールを初訪問 集会で演説****
イスラム主義勢力タリバンの最高指導者で、表に出ることの少ないハイバトゥラー・アクンザダ師が、アフガニスタンの首都カブールを初めて訪れた。タリバン当局が1日、明らかにした。
アクンザダ氏は、「国家の結束」を議論するために集められた宗教学者約3000人の大規模集会で、演説をしたとされる。

集会は厳しい警備態勢が敷かれ、タリバンと無関係のジャーナリストは取材を許されなかった。演説は音声が放送された。しかし、アクンザダ氏の映像や写真は公表されていない。音声からは、同氏の出席が発表された際に、大きな歓声が上がったことがわかる。(中略)

アクンザダ氏は演説で、タリバンが昨年、アフガニスタンを支配したことについて、「アフガニスタン人だけでなく、世界中のイスラム教徒にとって誇りの源」だと称賛した。

また、タリバンの女性に対する扱いに対して国際社会から批判が続いていることにも、言及したとみられる。タリバンは、女性に公共の場で顔をベールで覆うよう指示する規則を出すなどしている。

国営バフタル通信によると、アクンザダ氏は、「神のおかげでありがたいことに、私たちは今、独立した国家だ。(外国人は)私たちに命令すべきではない。私たちの制度で、私たちは自分で決める」と述べた。
「私たちは唯一の神に身をささげている。神が好まない他者の命令は受け入れられない」

この集会ではこれまでのところ、女子教育に関する目立った議論はなされていない。アフガニスタンではほとんどの地域で、女子の中等教育が閉鎖されたままとなっている。この集会は、女性の出席を認めていない。

別のタリバン幹部は先に、「女性は私たちの母や姉妹であり、私たちは大いに尊敬している。息子たちが集会に出席すれば、その母親や姉妹もある意味、集会に関わっていることになる」と述べた。

アフガニスタンで女性の権利のために活動する人たちは、怒りと落胆を表明している。
BBCアフガン・サービスが取材した男女たちは、今回の集会を、「(国民を)代表するものではない」と批判。タリバンが自らの支配の正当化を目指すものだとした。

南部ヘルマンド州出身の男性は、「国民の口をふさぐために集まったに過ぎない」とコメント。
カブール在住で、登校を禁じられているバランという名の若い女性は、「似たような考えをもつ人たちの集まりだった。私がそう言っているのではなく(中略)みんながそう思って言っている」と話した。
「女性として、とても残念だ。(タリバンは)私たちを人間として尊重しない」

アフガニスタンでは昨年、タリバンが権力を掌握。外国の開発援助はほぼ打ち切られ、一部の銀行は制裁を科されるなどし、経済と人道の深刻な危機が続いている。

国連や慈善団体を通じた短期的な人道支援は続いているが、アクンザダ氏は「外国資金」に依存すべきではないと主張。アフガニスタン出身の貿易商らに対し、帰国して経済を再建するよう呼びかけた。

集会の会場付近では6月30日、銃声が聞こえた。
タリバンは、武装勢力「イスラム国」と、前政権とつながりのある「抵抗」勢力によるゲリラ攻撃に直面している。
タリバン当局は、今回の銃声事件をささいな出来事だとした。だが、タリバンの治安部隊に殺害された武装集団とされる映像が出回っている。

1日には、アクンザダ氏の演説会場の近くで、何発かのロケット弾が発射されたと報じられた。死傷者は報告されていない。【7月2日 BBC】
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なお、大会議では、停止中の女子中等教育の全面再開を聖職者グループが支持し決議に盛り込む方針でしたが、採決直前に議長の反対で削除されたとの報道も。

****女子通学再開、直前に削除 アフガン大会議で議長反対****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が首都カブールで開いた全国指導者会議で、停止中の女子中等教育の全面再開を聖職者グループが支持し決議に盛り込む方針を固めたのに、最終日の採決直前、議長の反対に遭い決議案から削除されていたことが15日までに分かった。複数の会議参加者が共同通信の取材に明らかにした。
 
欧米などはタリバンによる女性抑圧の象徴として女子教育の制限を厳しく非難、即時再開を求めている。議長は暫定政権が選任しており、国内外でさらに批判が強まりそうだ。【7月15日 共同】
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上記報道が事実とすれば、タリバン内部にも一定に女子教育再開を容認する考えが少なからず存在するようにも思えます。ただ、「イスラムの教えに反する。外国勢力の圧力に屈してはならない」という“タリバン的正論”を振りかざされると誰もものが言えないというのが、教条主義的体制では通常のことです。戦前日本の軍国主義体制も同様でしょう。

女子教育だけでなく、女性はかおを覆うことが求められる服装の問題、何よりも女性が働く機会が著しく狭められていることなど、女性に対する圧力が続いています。

****【アフガン】髪も抜け落ち… タリバン政権で失業 うつ病に苦しむ女性たち****
イスラム主義勢力タリバンの暫定政権発足後、たくさんの市民が仕事を失っています。特に生活においてさまざまな制限が課されている女性たちが、失業をきっかけにうつ病にかかってしまうケースが増えているといいます。(後略)【7月16日 日テレNEWS】
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【財政難のタリバン政権】
なお、日本メディアによると、昨年8月以降は財政難でタリバン戦闘員のほとんどが無給だとか。転職しようにも他に職はなく、多くは「国のためなら」と耐えているとも。食事はタリバン政権から提供されている模様。

あまり長期に維持できる状況でもないように思われます。やがてこうしたタリバン戦闘員の不満が噴き出す事態も想像されますが、その不満の矛先がどこに向けられるのかが問題のようにも。

【隣国パキスタンもIMF支援で綱渡り状態】
財政難のアフガニスタンということですが、タリバンを生み育てたとされる隣国パキスタンも多くの国同様に経済的苦境に喘いでいます。

****パキスタンの6月インフレ率、13年ぶりの伸び 補助金停止で燃料高****
パキスタンの統計局によると、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比21.3%上昇し、5月の13.8%から加速、過去13年で最大の伸びとなった。前月比では6.3%。

財政赤字抑制と国際通貨基金(IMF)の支援再開に向け、政府が燃料補助金を打ち切ったことから、燃料価格は5月末以降90%程度上昇している。

輸送価格は前年比62.2%上昇と最大の伸びとなった。CPI品目の3分の1程度を占める食品価格は25.9%上昇した。

パキスタンはここ数カ月間、高いインフレに悩まされている。カーン前首相は、経済への対応とインフレ率の上昇に対する不満が高まるなか、3月に燃料と電力への補助金を採用。しかし首相は4月に失職、新政権は補助金を廃止していた。

燃料価格はさらに引き上げられており、政府はIMFとの合意により財政赤字削減に向け一段と課税するとみられている。【7月4日 ロイター】
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燃料補助金を打ち切りもあって一応IMFからの追加融資は実務レベル合意しましたが、綱渡り状態にか変わりありません。

****パキスタン、IMFと実務レベルで合意-追加融資12億ドル供与で****
パキスタンは、国際通貨基金(IMF)と実務レベルでの合意に達した。IMFによる12億ドル(約1660億円)の追加融資供与やさらなる支援への道が開かれる重要な節目となりそうだ。

IMFは声明で、2023年6月末までの拡大信用供与措置(EFF)延長を検討する意向も表明。理事会の承認が得られれば、追加融資が可能となり、パキスタンへのEFF融資枠は総額で約70億ドルになるという。

IMFからの支援は、今後のデフォルト(債務不履行)の可能性回避と、他の国際機関や友好国からの追加支援に道を開くことにつながり得る。パキスタンは、外貨準備高が減少する中、今後1年以内に債務返済や輸入代金支払いで少なくとも410億ドルを必要としている。

事情に詳しい政府当局者1人によると、12億ドルの追加融資はIMFからの最終的な承認を経て8月に行われる見込みだ。【7月14日 Bloomberg】
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【パキスタン・アフガニスタンの石炭をめぐる攻防 「タリバンが自己主張を始めた」?】
その苦境のパキスタンが目をつけたのが、隣国アフガニスタンの安価な石炭。
タリバン支援で関係が深い両国ですから、話はスムーズにいくか・・・と思いきや、現実はそう容易ではないようです。

****タリバン、パキスタンの石炭輸入に反発 統治の正統誇示****
アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンは、エネルギー不足の隣国パキスタンに対する石炭の輸出価格をこれまでの2倍以上に引き上げる方針を示した。

ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料は世界で逼迫しており、資源高を利用して外貨獲得を目指す。保護を受けてきたパキスタンに強い姿勢をみせることで、アフガン統治の正統性を誇示する狙いもある。

パキスタンは発電用をはじめとする石炭の7割を南アフリカから輸入してきた。しかし、この数カ月間は石炭価格が高騰し、十分に調達できていない。エネルギー不足による停電で市民生活やビジネスが打撃を受けている。天候不順や洪水も起こり、パキスタンの状況は一段と悪化している。

パキスタンのシャリフ首相は6月、品質がよく南アフリカ産よりも安いアフガン産の石炭の輸入を承認した。外貨不足のため、パキスタン通貨建てが条件だ。「アフガン産の石炭を購入すれば、輸入にかかるコストを年22億ドル(約3000億円)以上、節約できる」と、パキスタンの国営ラジオは報じている。

パキスタンの意向に対し、アフガン側は石炭に30%の輸出関税を課し、価格はこれまでの1トン90ドルから同200ドルに引き上げると表明した。

取材に応じたアフガンの鉱業・石油省の報道官は「国際市場での石炭価格は1トンあたり約350ドルだ。アフガンは石炭の輸出に関税をかけ、国際相場(に近い価格)で販売して地下資源を活用する」と説明した。
報道官は、アフガン側が石炭輸出に関するいかなる合意にも署名していないと明かした。

パキスタンはこれまで、公にはタリバンの姿勢への反応を避けてきた。同国のイスマイル財務相は地元メディアに対し、パキスタンはアフガンからの石炭輸入に関心を持つが、それは手ごろな価格で購入できることが前提だと話している。

パキスタンはタリバンに影響力を行使してきたとみられている。タリバンが今回、パキスタンの窮状に手を差し伸べようとしない理由について、専門家には「タリバンが自己主張を始めた」との見方がある。

アフガンが拠点の政治アナリストは「割安なアフガン産の石炭をパキスタン通貨で購入するという同国首相の表明は、タリバンの指導部に対する(国内の)批判を招いた」と分析する。「タリバンは、パキスタンに反発することで、アフガン統治の正統性を確保し、自分たちがパキスタンの代理人だとの一般的な見方を払拭しようとしている」とも話す。【7月14日 日経】
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パキスタンとアフガニスタンの微妙な関係は4月18日ブログ“パキスタン アフガニスタンを空爆 TTPをめぐる微妙な関係”でも取り上げましたが、「タリバンが自己主張を始めた」のかどうか・・・・興味深いところではあります。

【アフガニスタン戦争中の英軍特殊空挺部隊の蛮行 戦場の狂気】
話は変わりますが、アフガニスタン関連で報じられた衝撃的な報道。衝撃的と言うより「やっぱりね・・・」と言うべきか。

****繰り返し違法殺人か=アフガンで英特殊部隊―BBC****
アフガニスタン戦争中の2010〜11年、現地に派遣された英軍特殊空挺(くうてい)部隊(SAS)が、拘束者や非武装の人々の違法な殺害を繰り返した疑いが浮上した。BBC放送が12日、入手した軍の内部資料を基に報じた。半年間の作戦活動中に54人を殺したとみられる部隊も存在するという。
 
BBCは数百ページに及ぶSASの作戦に関する資料を分析。南部ヘルマンド州では「殺すか捕まえるか」と称した奇襲作戦が繰り返され、隊員の証言によると、非武装とみられる拘束者を殺害したり「誰が一番多く殺せるか」競争したりした。現場にAK47自動小銃を置いて、武装した相手を殺したと釈明する工作も行われたという。
 
SAS首脳は「違法な殺人」の報告を受けながら、軍警察に連絡しなかった。極秘メモで、違法な殺人を行う「意図的な方針」があった可能性を指摘した高官もいた。

SAS本部に勤務経験のある高官はBBCに「一晩で殺された人数が多過ぎる。(資料にある)説明も意味を成さない。拘束された者が死ぬことはあってはならない」と批判し、「深い懸念」を表明した。【7月12日 BBC】 
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真偽をめぐり論争もある「百人斬り競争」を連想させるような記事ですが、話は英特殊部隊だけのものではないでしょう。一番多く存在していたのは米軍ですから・・・。

アフガニスタンに限らず戦場では同様の蛮行・狂気が繰り返されますが、いったんは追いやられたタリバンが復活したこと、タリバンが外国の要請を頑なに拒否することの背景には、こういう現地の人間の命をもてあそぶような現実があるのかも。上から目線で人権や民主主義を説教される筋合いはない・・・ということか。

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パキスタン  TTP無期限停戦 シャリフ首相のもとで対米関係改善? 課題は治安と財政・インフレ

2022-06-03 23:05:24 | アフガン・パキスタン
(パキスタン石油ディーラー協会(PPDA)は2021年11月24日、政府が毎月決めるガソリン公定価格では利益が少な過ぎるとして、加盟ガソリンスタンドの全国ストライキを25日から開始すると発表した。これにより、各地のガソリンスタンドは、一部の大手石油流通系スタンドを除いて休業することとなり、ガソリンを求める自動車やバイクで大変な混雑となった。【2021年11月26日 JETRO】)

【TTP 無期限停戦を発表】
パキスタン、アフガニスタンのタリバン、そしてパキスタン国内で反政府武装闘争を行うイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP))」の三者の微妙な関係・・・タリバンを生み育てのはパキスタンの軍情報機関であるが最近は利害が衝突することも、タリバンとTTPは同じイスラム原理主義でつながっている、そのTTPとパキスタン軍は激しい敵対関係にある・・・などの関係については、4月18日ブログ“パキスタン アフガニスタンを空爆 TTPをめぐる微妙な関係”でも取り上げました。

そのなかで、タリバンが仲介してのパキスタンとTTPの停戦がなされたこと、しかしその後、停戦が終了したことにも触れましたが、5月に再びタリバン仲介で停戦が実現しています。

****武装勢力が一時停戦表明 パキスタン、タリバン仲介****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」は18日、同国政府との今月30日までの一時停戦を表明した。TTPと関係が深い隣国アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が仲介し、和平に向けて協議している。協議が進展するかは不透明。
 
タリバン暫定政権のムジャヒド報道官は、首都カブールでTTPとパキスタン政府の協議が行われたとツイートした。
 
双方は昨年11月にもタリバンの仲介で1カ月の停戦に合意したが、TTPが12月に停戦延長を拒否。戦闘が再燃した。パキスタン政府は今回の停戦について確認していない。【5月18日 共同】
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上記停戦は5月30日期限で成立しましたが、更にTTPは停戦を“無期限延長”すると発表しています。

****「無期限停戦」を宣言 パキスタンのタリバン****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は2日、アフガニスタンの首都カブールで行われていた和平交渉で「実質的進展」があったとして、パキスタン政府との無期限停戦を宣言した。これまでの停戦合意は5月30日までだった。【6月3日 時事】
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パキスタンでは3~4月に政変が起き、司法を巻き込んだ政治的混乱のなかでカーン前首相が退陣し、ナワズ・シャリフ元首相の弟であるシャバズ・シャリフ氏が首相に選出されています。背景にはカーン前首相とパキスタン政治を左右する軍部との関係が悪化したことが指摘もされています。

****パキスタンで巻き起こる政治的・憲法的危機****
パキスタンは、政治的・憲法的危機に陥っていた。

3月8日、野党がイムラン・カーン首相(当時)に対する不信任動議を提出し、その後の多数派工作により動議可決に必要な過半数の172票を確保したと見られるに至ったが、4月3日、不信任動議で解任されることを嫌うカーンが(過去に任期を全うした首相はいないが、不信任動議で解任された首相もいない)、不信任動議は外国政府の介入によるものだとして動議を却下させ、次いで下院を解散させて選挙に持ち込むことになった。

ところが、4月7日、パキスタンの最高裁判所は5人の裁判官の一致した判断として、カーンに対する不信任投票の却下、下院の解散、および選挙の実施は憲法違反との判決を言い渡した。

これを受けて、下院は――14時間におよぶカーンの党の妨害行動の後――10日の未明に過半数を超える174票をもって不信任案を可決した。
 
次いで、翌11日、カーンの党が退席した下院で、最大野党「パキスタン・ムスリム連盟ナワズ・シャリフ派(PML-N)」のシャバズ・シャリフが首相に選出された。

彼は、かつて3度もパキスタンの首相を務めたナワズ・シャリフの弟である。第二野党「パキスタン人民党(PPP)」のビラワル・ブットー・ザルダリ(元首相ベナジール・ブットーの子息)も当面シャバズ・シャリフに協力する意向のようである。(中略)【4月28日 WEDGE】
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「パキスタン人民党(PPP)」や爆死したブット元首相の名前を久しぶりに目にしましたが、息子が政界で活動しているようです。

【シャリフ新首相 中国との「中国・パキスタン経済回廊」を再生させながら、アメリカとも関係改善を目指す】
カーン前首相がアメリカへの批判的な発言が目立ったのに対し、シャリフ首相は良好な対米関係を築く意向を示しています。同時に、兄のナワズ・シャリフ元首相が始めた中国支援による「中国・パキスタン経済回廊」を推進するのではとも指摘されています。

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70歳のシャバズ・シャリフにカリスマ性はないが、有能な行政官との評はあるようである。軍との関係も悪くない。

彼にとっての緊急の課題は経済の立て直しである。国際通貨基金(IMF)支援プログラムに基づく援助は、カーンが2月にIMFとの事前の了解のないまま燃料と電気の補助金を導入したことで停止されているが、この支援プログラム再生のための交渉も当面の課題である。

中国・パキスタン経済回廊の復活か
中国は今回の成り行きを歓迎しているに違いない。シャバズ・シャリフは「中国・パキスタン経済回廊」を再生させると述べているが――管理の不手際か、それともパキスタンが巨額の債務に怖気づいたのか明らかでないが、カーンの時代に幾つかのプロジェクトが停滞した――このプロジェクトはナワズ・シャリフが首相の時代に始まったものである。
 
ジャバズ・シャリフは、米国との関係を修復すると述べた。少なくともカーン流の過激な反米レトリック(例えば、タリバンがカブールを制圧して米国が支援する政権を倒した日の翌日、カーンは「(アフガン国民は)奴隷の鎖を断ち切った」と述べたことがある)は影を潜めるであろう。しかし、それだけでカーンとの会談を拒んでいたバイデンがシャバズ・シャリフと電話で会談する気になるかは疑わしい。【同上】
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【ウクライナ問題でロシア寄りの前政権からの方針転換】
アメリカとの関係改善はまだよくわかりませんが、ウクライナ支援で前政権とは異なる独自路線を打ち出しています。

****パキスタン新政権 ウクライナに支援物資 前政権との違い鮮明に****
パキスタンで2日、ウクライナに送る人道支援物資の引き渡し式が行われました。前政権がロシア寄りの姿勢を示してきたのに対し、ことし4月に誕生したシャリフ政権は、ウクライナを支援する姿勢を打ち出し、前政権とは違う立場を鮮明にしています。引き渡し式は、パキスタンの首都イスラマバードの近郊ラワルピンディの空軍基地で行われました。

毛布や医薬品などの人道支援物資7.5トンを輸送機に積んで、3日、ウクライナの隣国ポーランドに向けて出発するということです。(中略)

パキスタンはこれまで、カーン前首相がロシアの軍事侵攻直後の2月24日にモスクワでプーチン大統領と会談したほか、3月に開かれた国連総会の緊急特別会合ではロシアを非難する決議案の採決を棄権するなど、ロシア寄りの姿勢を示してきました。

一方、ことし4月に誕生したシャリフ政権は、ウクライナを支援する姿勢を打ち出し、前政権とは違う立場を鮮明にしています。【6月3日 NHK】
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パキスタンは中国との関係が強固なことは周知のところですが、その中国がロシア寄り姿勢を維持しているなかでのパキスタン・シャリフ政権のウクライナ支援はやや意外な感じも受けました。

【国内で続く中国を標的にしたテロ】
その中国に関しては、中国の存在感がパキスタン国内で目立つだけに、反政府活動の標的にもなっています。
(パキスタンにおける中国の存在感を個人的に実感したのは、3年前、北部のフンザに向かうためにカラコルムハイウェイを走っていると、工事区間で中国語の道路標識を目にしたとき。中国企業が工事を行っており、中国人・中国車両が行き来しているためです。)

****パキスタンの中国語教育機関で自爆テロ 4人死亡****
パキスタン南部で26日、中国政府が設置した教育機関の近くで爆発があり、中国人職員3人を含む4人が死亡しました。過激派組織が犯行声明を出しています。

ロイター通信によりますと、南部の最大都市・カラチで26日、大学内に設置された中国語の教育機関「孔子学院」の近くで車両が爆発し、中国人職員3人を含む4人が死亡したということです。

その後、パキスタンの過激派組織「バルチスタン解放軍」が、自爆テロを行ったと犯行声明を出しました。

現地の中国大使館は声明で、「テロ行為を強く非難し、両国の犠牲者に深い哀悼の意を表す」とした上で、パキスタン側には「徹底した調査を行い、犯人を厳罰に処すよう要請した」としています。

中国との結びつきを強めるパキスタンには多くの中国企業も進出していますが、現地の中国人を標的にしたとみられるテロ事件も相次いでいて、中国政府と現地の治安当局が警戒を強めています。【4月27日 日テレNEWS24】
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この事件を受けて、シャリフ首相は弔意を示すメッセージを出し、自ら中国大使館を訪れて追悼の意を表明しました。

シャリフ首相は「パキスタンと中国の戦略的協力パートナーシップに損害を与えようとする敵の邪悪なたくらみは、両国の、鋼のように硬い、兄弟のような関係が揺らぐことはなく、両国の協力関係にも影響を及ぼすことはない」と語っています。【4月27日 レコードチャイナより】
その後も、中国を狙った不穏な動きもあるようです。

****パキスタンのテロ対策部門、中国車列を狙う自爆攻撃を試みた女性を逮捕****
パキスタンARYニュースによりますと、パキスタンのテロ対策部門は16日、バルチスタン州のホシャブ地区を急襲し、中国・パキスタン経済回廊沿いの中国車列を狙った自爆攻撃を試みた女性を逮捕し、爆発装置を発見したとのことです。

パキスタンのテロ対策部門は、「この女性は『バルチスタン解放軍』グループのメンバーで、4月26日に発生したカラチ孔子学院の自爆テロ事件の犯人と同じグループに所属していた」と発表しました。

現在、パキスタンはこのようなテロ攻撃に関与する組織のメンバー逮捕を目的とした捜査活動を展開しています。【5月17日 レコードチャイナ】
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TTPとの停戦が本格化すれば、「バルチスタン解放軍」対策も強化される・・・ということになるのかも。

【難題は財政再建・インフレ抑制 IMF支援とはいうものの】
シャリフ首相にとって治安対策以上の難題は経済・財政の立て直しです。

****南アジアで政情不安 財政難、ウクライナ侵攻で物価高****
(中略)
カーン氏は2018年に首相に就任したが、もともと不安定だった経済は好転せず、野党側が批判を強めていた。物価上昇も続き、3月の消費者物価指数は前年同期比で12・7%上昇した。ロイター通信によると、外貨準備は1日時点で113億ドルと1カ月で約50億ドル減少した。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、原油や食料の国際相場は高値水準が続いている。(後略)【4月13日 産経】
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2019年に決定したIMFからの支援も、一時停滞していましたが、動き出したようです。

****IMF、パキスタンの燃料補助金廃止後に9億ドル支援へ=関係筋****
パキスタンと国際通貨基金(IMF)の支援再開を巡る協議が25日終了し、パキスタンの燃料補助金廃止を条件にIMFから9億ドル超の財政支援を受けるという枠組みで合意した。

カタールの首都ドーハでの協議について直接知るパキスタン関係筋が匿名を条件にロイターに明らかにした。パキスタンのIMF代表はロイターのコメント要請に応じていない。

パキスタンは2019年、IMFから3年にわたり総額60億ドルの財政支援を受けることが決まったが、支援金の約半分をまだ受け取っていない。【5月26日 ロイター】
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パキスタンの実情は知りませんが、一般論で言えば“燃料補助金廃止”というのは市民生活を直撃するだけに大問題になります。国民の不満で政情不安に陥ることも。

公共交通機関の発達していないパキスタンでは、バイクは庶民の足で、ガソリンの高騰はその庶民の懐を直撃します。

シャリフ首相の試練はしばらく続きそうです。
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アフガニスタン  独自の思考を市民に強制するタリバン 女性には顔を隠す服装命令

2022-05-27 23:18:11 | アフガン・パキスタン
(【2019年9月14日 GNV】 タリバンが推奨するブルカ姿の女性 これでは誰が誰かもわかりません。
なお、この写真はタリバン再支配以前の2019年当時のもので、女性が示す指先のインクは投票済みの印。今後はタリバン支配のもとで選挙も行われなくなり、こういう光景も見ることもなくなるのでしょう)

【日本の憂うべき「マスク依存症」】
落ち着く傾向の新型コロナ感染状況、あるいは、感染被害を一定に抑制できる状況になってきたことを受けて海外では各種規制の撤廃、“普通の生活”への回帰が進んでいますが、日本でも5月20日、厚生労働省は新型コロナウイルス対策のマスク着用について、人との距離が2メートル以上あれば、屋内でも屋外でも、多くの場合はマスクを外せるとする基準を公表しました。

欧米ではマスクで顔を隠すことへの違和感が強く、コロナ禍の間もマスク着用義務をめぐる議論・抗議が多くありましたが、日本人はマスクへの抵抗感があまりなく、むしろ顔を隠せることで安心感が得られ、マスク着用が必要になってもマスクを外せない「マスク依存症」的な傾向があるようです。

****マスクなしの素顔が恥ずかしい? 長引くコロナ、子どもに「依存」広がる懸念 専門家「発育妨げる」弊害訴え****
長期の新型コロナウイルス流行でマスク着用が常態化し、素顔を見せることを恥ずかしがる子どもが増えている。専門家は「コミュニケーションの発達や不登校に影響しかねない」と懸念し、子どものマスク着用の弊害を訴える。

◆オンライン授業なのにマスク着用
3月、東京都内の母親(29)は自宅でオンライン授業を受ける小学4年の娘(10)を見て不思議に思った。自宅ではふだんマスクを外し、以前はオンライン授業も素顔で参加していたが、この時はマスクを着けていた。理由を聞くと「みんな着けているから何となく」。画面の子どもの半数がマスク姿だった。
 
母親は「外でマスクを外していいと伝えた時も娘は恥ずかしがった。以前より素顔をさらすのが不安になっている」と心配する。
 
調査会社「日本インフォメーション」が2月、10~60代の会員約1000人を対象にインターネット調査を実施したところ、「コロナ収束後もマスクを使用するか」との質問に対し、10代は男女ともに約5割が「いつも必ず使用」か「できるだけ使用」と答えた。
 
理由は、10代女性では「かわいい、きれい、かっこよく見える」が最も多く、感染対策と関係がなかった。実際、東京・原宿で尋ねると、女子高校生(17)は「素顔を見せられるクラスメートは5人くらい。今さら外せない」と苦笑した。

◆「マスク依存」はコロナ前からある
「マスク依存の子どもが増えている可能性がある」と警告するのは、赤坂診療所(東京都港区)でマスク依存の患者を診てきた精神科医の渡辺登さんだ。従来のマスク依存について「人前に立つことを極度におそれる『社会不安障害』のある方らが、表情を隠すために着用していた」と説明する。依存に陥ると意思疎通が難しく、孤立して不登校や引きこもりになるリスクが増えるという。
 
広島県の男子大学院生(23)はコロナ禍前にマスク依存を経験した。「高校入学時に花粉症対策で着用したら、表情を隠せる安心感で外せなくなった」と振り返る。「コミュニケーションに困る」と悩んだ末、大学進学を機に自力で脱却した。国民のほとんどがマスク姿の現状には「望まずに依存する人が増えないでほしい」と願う。
 
渡辺さんは「子どもは顔にコンプレックスを抱えている場合も多い。感染対策のはずが、素顔を隠すことに利点を持つと、将来マスクを外せなくなりかねない」と強調。「感染リスクがない時はできるだけ外させた方がいい」と指摘した上で、「着用をやめるタイミングを政府が示してほしい」と求める。【5月10日 東京】
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他人の視線を遮断できて安心感が得られる「匿名性」への依存は、子供や女子学生、若者だけでなく会社でも「プレゼンテーションをする際に、マスクを装着していると視線が気にならずに落ち着く」 「苦手な上司と仕事をする時も、マスク越しであれば気持ちが楽になる」などの理由で広がっているようです。

前出【東京】にもあるように、「マスク依存症」的傾向は新型コロナ以前からあり、特に若い女性に“マスク女子”が目立っていました。

話は飛躍するようですが、欧米社会でイスラム教徒女性の顔を覆う服装が問題になる件を取り上げる際に、「匿名性」に隠れず、個人が面と向き合って接触するのが市民社会におけるコミュニケーションの基礎であり、日本の「マスク女子」の傾向は好ましくない風潮だと思っている旨をこれまでも述べてきました。

新型コロナによって、日本人のこの風潮が拡大し強固になったようで案じられます。

「マスク依存症」は市民社会のコミュニケーションを阻害するだけでなく、こういう他人の評価を恐れる「内向きベクトル」は、これまた話が飛躍しますが、日本の「失われた30年」をもたらしたものにも通じるもので、おそらく今後の「失われた数十年」、「沈下する日本」をもたらすメンタリティーだと思っています。

そんなにマスクが好きなら、イスラム教に改宗してニカブかブルカでも被れば?」と言いたくもなりますが・・・。

【タリバン 女性に顔を隠す服装命令 欧米は批判】
そんな日本の話はさておき、イスラム原理主義勢力タリバンが統治するアフガニスタンでは、タリバンがその本来の主張を徐々に露わにしつつあります。

****アフガンのタリバン、女性に顔を隠す服装命令 全身覆うブルカが「最善」****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。従わなければ父親などの近親男性が投獄されたり、男性が公務員であれば解職されたりする場合があるとしている。

同省は、最も良いのは全身を覆う青い「ブルカ」だとした。アフガンの女性の大半は髪を隠すスカーフをつけているが、首都カブールなどの都市部では顔は隠していない女性が多い。

公共の場でのブルカの着用はタリバンが1996年から2001年まで政権を掌握した際に女性に強制された。

発表を受けて国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は同日、「タリバンが表明してきた女性の人権の尊重と保護と矛盾していることを深く懸念している」との声明を出し、タリバンに即刻協議を求めるほか、他の国際組織と相談するとした。

米国などは既にアフガン開発援助を打ち切り、同国の銀行システムに制裁を科している。【5月9日 ロイター】
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日本の女性(一部男性も)なんかは、こうしたタリバン命令を大歓迎するのでしょうが、欧米基準では女性の人権の尊重に反するものとみなされます。

****米、タリバンが方針転換しなければ圧力拡大 女性の権利巡り****
米国務省のプライス報道官は9日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が最近決定した女性の権利を制限する方針を転換しなければ、圧力を強める用意があると表明した。

ブリーフィングで「われわれには複数の手段があり、方針が転換されないと感じれば、講じる用意がある」と述べた。具体的な措置の詳細や、タリバンがどのように方針を転換する可能性があるのかには言及しなかった。(中略)

タリバンは女性の就労や女子の通学なども制限している。【5月10日 ロイター】
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****タリバンの女性の権利制限でアフガン孤立化、G7外相が人権尊重訴え**** 
主要7カ国(G7)の外相は12日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性や少女の権利の制限がアフガンを国際社会から孤立化させているという見解を示した。

G7外相と欧州連合(EU)の外交政策トップは、フランスが公表した共同声明で、女性と少女に対する制限を解除し、人権尊重に向けた緊急行動を取るようタリバンに要請した。

タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表。従わなければ父親などの近親男性が投獄される場合があるとした。【5月13日 ロイター】
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【TV女性司会者に対しても同様指示】
一部女性は街で抗議の声をあげています。(タリバン支配の状況でのこの種の抗議は多大な危険を伴います)

****全身覆う衣装着用に抗議=アフガン女性「正義を」と訴え****
アフガニスタンの首都カブールで10日、イスラム主義組織タリバン暫定政権が女性に公共の場で全身を覆う衣装の着用を義務付けたことに対し、十数人の女性が抗議活動を行った。多くが顔を隠さずに、「正義を」とシュプレヒコールを上げた。
 
タリバンは全身を覆うブルカの着用が最適としているが、女性らは「ブルカは私たちのヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)ではない」と叫んだ。

女性の一人は「私たちは家の片隅に閉じ込められた動物としてではなく、人間として生きたい」と訴えた。タリバンは外に重要な仕事のない女性に「家にいるよう」命じている。【5月10日 時事】 
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ブルカの問題は単に服装の問題ではなく、女性の就労・教育を否定して「家にいるよう」命じるようなタリバンの歪んだ女性観を示すものでもあります。

更にタリバンは、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めています。

****アフガンのタリバン、女性TV司会者に顔を覆う服装指示****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めた。勧善懲悪省の報道官が19日明らかにした。

同省は今月、女性が公共の場で目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。

報道官は、メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れたとロイターに述べ、国民もこの措置を歓迎するとの見方を示した。今月21日までに順守する必要があるとも述べた。

従わなかった場合の措置は明らかにしなかった。【5月20日 ロイター】
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“メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れた”とのことですが、この指示に抵抗する女性司会者も。

****女性司会者、顔覆う命令を拒否 タリバンに「抵抗続ける」*****
アフガニスタンのテレビ局「カブール・ニュース」の報道番組の女性司会者が出演中に目の部分以外の顔を布で覆うよう命じたイスラム主義組織タリバン暫定政権に抵抗し、覆わずにニュースを伝え続けている。タリバン独自のイスラム法解釈で女性抑圧を強めていると批判、「カメラの前で闘い続ける」と語る。
 
この司会者はロマ・アディルさん(26)。暫定政権は7日、女性は公共の場で顔を覆うよう命令した。19日には各テレビ局へ女性司会者に従わせるよう指導したが、アディルさんは取材に「イスラムの教えやアフガンの慣習ではなく、従う理由がない」と指摘した。【5月24日 共同】
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アディルさんは放送中も髪を覆うスカーフは使用しています。

私が観光した国の経験で言えば、同じイスラム教の国であるインドネシアやマレーシアでは、あるいはイランでも、髪を覆うスカーフは一般的ですが、それ以上のニカブ(目だけを出すもの)を見かけるのはまれで、ブルカ(目の部分が網目になっており、顔全体を隠すもの)を見かけることはありません。ブルカはアフガニスタン特有の服装です。

ただ、現実問題としては、こうした抵抗を続けるのは困難でしょう。その後多くの女性司会者はヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演しているようです。

そうしたなか、タリバン指示に抗議する男性司会者もいるようです。

****女性キャスターの顔覆うよう命じたタリバンに抗議、男性司会者がマスク着用****
アフガニスタンの報道専門チャンネル「トロニュース」の総合司会者、ニサール・ナビル氏は、放送が始まる直前に黒いマスクを着用する。イスラム主義組織タリバンの暫定政権が、女性キャスターにテレビ出演の際は顔を覆うよう命じたことへの抗議だ。

「私たちは女性の同僚を支持している。生放送のニュースや政治番組では、抗議としてマスクをしている」とナビル氏は、首都カブールにあるスタジオでAFPに語った。
 
タリバンは昨年8月の実権掌握以来、さまざまな女性の権利を制限してきた。最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は今月、女性に公共の場では顔まで完全に覆うよう義務付け、ブルカの着用が望ましいとした。
勧善懲悪省は、女性キャスターも21日以降は番組出演の際に顔を隠すよう命じた。
 
女性キャスターらは当初この命令に反発したが、22日からはトロニュースのほか、1TV、シャムシャドテレビ、アリアナ・テレビなど各局で、ヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演している。
 
一方、男性キャスターは命令への抗議運動を開始。黒いマスクを着用してニュース番組に出演するようになった。女性キャスターと共演することもある。
「タリバンは、こうした制限を課すことで報道機関に圧力をかけようとしている。メディアを意のままに操りたいのだ」とナビル氏は指摘する。
 
主要民放局である1TVの編集責任者、イドリース・ファロキ氏は、女性キャスターが顔を覆ったまま3時間も4時間も収録を行うのは難しいとして、「われわれはタリバンが決定を見直し、制限を撤回することを望んでいる」と述べた。
 
だが、タリバンのイナムラ・サマンガニ副報道官は今週、ツイッターへの投稿で、「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」と主張した。
 
1TVのキャスター、モヒブ・ユースフィ氏は、当局が男性キャスターの服装にも規制をかけるのは時間の問題だとし、「多くの男性キャスターが心配している。私もだ」と述べた。 【5月26日 AFP】
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「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」とのことですが、タリバンのブルカへのこだわりが単なる服装の問題ではないことは前述のとおりです。

【次第に広がるタリバン的施策】
そうしたタリバンの思考を表す動きも広がっています。

****タリバン、男女一緒の外食・公園利用禁止 西部ヘラート****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは西部ヘラートで、男女が一緒に外食したり公園を訪れたりすることを禁止した。当局者が12日、明らかにした。
 
アフガンは極めて保守的で家父長制の根強い国だが、男女が一緒に外食をする光景はよく見られる。特にヘラートは長年、比較的リベラルな都市と考えられていた。
 
だがタリバンは昨年8月の復権以来、イスラム教の厳格な解釈に従って、男女を隔離する規制を強めている。
 
ヘラート勧善懲悪省のリアズーラ・シーラット氏は「飲食店で男女を分けるよう指示している」と語った。この規則は「たとえ夫婦でも」適用される旨を店主らに口頭で伝えているという。
 
匿名でAFPの取材に応じたある女性は、11日にヘラートの飲食店で店長から夫と別々に座るよう告げられたと語った。
 
飲食店経営のサフィウラ氏(アフガンに多い1語のみの名前)は「命令には従わなければならないが、商売には非常にマイナスだ」と言い、男女同席の禁止が続けば従業員を解雇せざるを得なくなると付け加えた。
 
シーラット氏は、ヘラートでは公園の利用についても、曜日ごとに男女別に分ける法令を定めたと明らかにした。女性は木曜、金曜、土曜で、残りが男性だという。
 
指定の曜日以外に運動をしたい女性は「安全な場所を見つけるか、自宅で行うべき」だと語った。 【5月14日 AFP】
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****タリバン、人権委を廃止 「必要ない」、懸念深まる****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、昨年8月に崩壊した民主政権下で女性や子どもの権利擁護を監視していた独立人権委員会を廃止した。ロイター通信が17日までに伝えた。暫定政権は女性の権利抑圧を強めており、国際社会の懸念を一層深めそうだ。
 
暫定政権のサマンガニ副報道官は「必要性がないとみなされ、予算も計上されなかったため廃止した」と説明。必要とされれば再開するとした。
 
民主政権下の2020年に設立され、タリバンとの直接交渉に当たった国家和解高等評議会や、憲法の履行状況を監督する委員会も同様の理由で廃止された。【5月17日 共同】
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【危機的食料事情】
アフガニスタンは世界でも最悪レベルの食料事情で、本来は大規模な国際支援が必要ですが、タリバンの人権侵害を強める姿勢が障害となって国際支援も滞りがちです。

****アフガン、食料危機続く WFP「かつてない飢餓」****
世界食糧計画(WFP)などは10日までに、イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立したアフガニスタンで6月から11月にかけ、人口の45%に当たる1890万人が深刻な食料危機に陥るとの予測を発表した。

小麦の収穫期を迎え3〜5月の1970万人と比べ若干改善するが、「かつてない水準の飢餓が継続する」とみている。
 
アフガンでは5〜8月に小麦の収穫期を迎え、人道支援の拡大も状況改善に寄与した。ただ、降水量の少なさから収穫量は平年を下回る見込み。ロシアによるウクライナ侵攻で国際的な食料や燃料価格も高騰。状況改善の妨げとなった。【5月10日 共同】
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パキスタン  アフガニスタンを空爆 TTPをめぐる微妙な関係

2022-04-18 23:17:16 | アフガン・パキスタン
(パキスタンとアフガニスタンの国境地帯で警備に当たるパキスタン兵士(2021年9月、ロイター)【4月17日 日経】)

【パキスタン TTP掃討でアフガニスタンを爆撃 微妙な両国関係】
後にアフガニスタンのタリバンとなった旧ソ連軍と戦うムジャヒディン(イスラム戦士)を訓練し、その後もタリバンを資金・武器・退避場所などで支援してきたのが隣国パキスタン、特に軍部の中枢にある「軍統合情報局(ISI)」であることは周知の事実です。

現在もパキスタンはアフガニスタン・タリバン政権を支援していますが、両者の関係は後述のように微妙なところもあります。

その“微妙”な部分の大きな原因が、パキスタン国内で反政府テロ活動を行うイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の存在。2012年には女子教育の重要性を訴えたマララ・ユスフザイさんを銃撃した組織です。

パキスタン軍はこれまでも長年厳しい掃討作戦を続けていますが、TTPはアフガニスタンのタリバンと思想的にも、組織的にも近しい関係にあります。

TTPのメディア部門であるウマル・メディアは、2021年12月8日に新しいビデオを公開しました。
その映像によれば“(TTP)最高指導者のヌール・ワリ・メスードはTTPをターリバーンの支部であると明言した。また、アフガニスタン軍やアフガニスタン警察の車両を保有している事が確認され、TTPがターリバーンの恩恵を受けている事が明らかになった”【ウィキペディア】とのこと。

TTPのメンバーの多くはパキスタン軍の取り締まりを逃れるため、アフガニスタンとの国境地帯のアフガニスタン側に潜伏しているとされています。

****パキスタン軍がアフガン空爆、女性・子供含む47人死亡…越境テロ巡りタリバンと対立****
AFP通信などによると、パキスタン軍が16日、隣国アフガニスタン領内の国境付近を空爆し、女性や子供を含む少なくとも47人が死亡した。アフガン内に潜伏して越境テロを行う過激派組織を狙ったとみられる。

国内の実権を握るイスラム主義勢力タリバン暫定政権は反発し、緊張が高まっている。
 
空爆はアフガン東部のホスト、クナール両州で行われ、複数の民家が被害を受けた模様だ。タリバン側は、パキスタンの駐アフガン大使を呼び出し、抗議した。ザビフラ・ムジャヒド報道官も「戦争が始まっても、誰の利益にもならないと認識すべきだ」と批判した。
 
アフガンメディアによると、ホスト州などで住民らが大規模な抗議を行った。
 
これに対し、パキスタン外務省は17日に声明を発表し、空爆については触れずに「この数日、パキスタンの治安当局が国境付近でアフガン側から標的にされる事案が増えていた」と主張した。14日には軍兵士7人が犠牲になったという。
 
パキスタンでは、タリバンを支持するイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が昨年12月に政府との停戦を解消して以降、治安当局への攻撃を繰り返している。政府はTTPを含めた過激派組織がアフガン側に潜み、テロを行っているとして、タリバン側に対応を要求していた。国際社会も、アフガンが再び国際テロの温床になることを懸念している。【4月18日 読売】
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タリバンとパキスタン軍の“衝突”は今年1月にも報じられています。

****タリバンとパキスタンがまさかの「仲間割れ」、現地の勢力図に大きな変化が****
<パキスタンが設置していた国境の「柵」をめぐり、両軍兵が衝突。互いを必要とするはずの両者は妥協点を見いだせるか>

昨年8月、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧すると、隣国パキスタンでは歓喜の声が上がった。なにしろタリバン運動の発祥地だし、アフガニスタンに友好的な政府ができるのは大歓迎。一貫して親米政権を支持してきた天敵インドの影響力低下も必至だ。

しかし、そんな蜜月の終わる兆しが見えてきた。両国の国境、いわゆる「デュアランド線」での不穏な動きだ。
昨年12月19日にはアフガニスタン東部の国境地帯で、パキスタン側の設置した有刺鉄線のフェンスをタリバン兵が実力で撤去した。

年末の30日にも似たような摩擦が南西部であった。フェンスの設置は2014年から、国境紛争と密輸を防ぐためと称してパキスタン側が進めていた。

この2回目の摩擦を受けてタリバン政権は強く反発。国防省の広報官は年頭の1月2日に、パキスタン側には「有刺鉄線で部族を分断する権利はない」と主張した。ここで言う「部族」は、国境の両側で暮らすパシュトゥン人(アフガニスタンでは多数派だ)を指す。別のタリバン広報官は、「デュアランド線は一つの民族を引き裂く」ものだとし、その正当性を否定した。

この国境線は1893年に英領インドとアフガニスタンの合意で成立した。だが1947年にパキスタンが独立して以来、歴代アフガニスタン政権はデュアランド線に異議を唱え続けてきた。

自分たちはパキスタンの代理勢力ではない
ただ、タリバン側の動きには他の思惑もありそうだ。自分たちはパキスタンの代理勢力ではないと、対外的に主張したいのかもしれない。多数派のパシュトゥン人にすり寄るためという見方もできる。

フェンスの存在が国境を越えた人流・物流の妨げになるという現実的な問題もある。タリバン構成員には今も、パキスタン側に家族を残している者が少なからずいる。

年明け早々、パキスタンとタリバンは交渉を通じて国境間の緊張を解くことで合意した。だが容易ではない。パキスタンの外相も「外交的に解決できると信じたい」と、心もとない発言をしている。

消息筋によれば、パキスタン政府はフェンス設置へのタリバンの理解を得つつ、越境往来を増やせるような譲歩をするつもりだという。だが、その程度でタリバンの不満は収まるまい。

それでもパキスタンに対するタリバンの経済的・外交的依存の大きさを考えれば、彼らもこれ以上の関係悪化は避けたいだろう。

パキスタン側にも、早期の事態収拾を図りたい事情がある。タリバンとの緊張が高まれば、最近パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)への対処が難しくなるからだ。

タリバンの仲介で、アフガニスタンを拠点とするTTPとパキスタンは昨年11月に停戦1カ月の休戦協定を結んだが、TTPはその延長を拒んでいる。交渉再開にはタリバンの協力が不可欠だ。ただしタリバンも、TTPには強く出られない。国内のTTP基地へのパキスタン軍の攻撃を黙認するという選択肢もない。

パキスタンとタリバンの関係は持ちつ持たれつだ。しかし今のタリバンは、かつてのようにパキスタンの言いなりではない。【1月13日 Newsweek】
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上記記事にタリバンには“(アフガニスタン)国内のTTP基地へのパキスタン軍の攻撃を黙認するという選択肢もない”とありますが、今回その攻撃が行われたことで、タリバンとしては“主権の侵害”とパキスタンに反発しています。

もっともタリバン中枢とパキスタン情報機関ISIはズブズブの関係でしょうから、表面上のやり取りとは違う話が水面下にあることは十分想像できます。

【昨年末 タリバン仲介のパキスタン・TTP停戦は続かず】
なお、タリバンにとっても“身内”あるいは“仲間”のTTPとパキスタン軍の戦闘状態は何かと不都合がありますので、上記記事にもあるように、昨年11月にはタリバンの仲介でTTPとパキスタンの停戦が合意されました。
TTP及びISI双方に近いとされるタリバンのシラジュディン・ハッカーニ暫定内相が中心的役割を果たしたとのこと。

“パキスタン政府、武装勢力と1カ月停戦で合意 タリバンが交渉仲介”【2021年11月9日 毎日】

“タリバンにとっては、TTPとの交渉を仲介することで、事実上の「支援国」であるパキスタンの要請に応えられるほか、国際社会に対してもテロ対策に取り組んでいることをアピールすることができる。”【同上】との思惑が指摘されています。また、下記記事によればタリバンにとってテロを繰り返すTTPは“重荷”になっていたとも。

しかし、結局この停戦は延長されませんでした。

****TTP、パキスタン政府との一時停戦終了を表明 タリバンが仲介****
パキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は9日の声明で、パキスタン政府との間で11月から1カ月間実施していた一時的な停戦を終了することを明らかにした。一時停戦は、TTPと友好関係にあり、パキスタンの軍情報機関とも近いとされるアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが仲介していた。
 
TTPは停戦終了の理由として「政府側が合意を守らなかった」と主張。具体的には、政府側が拘束する100人超のTTP構成員が解放されなかった▽政府側の和平交渉を担うメンバーが(交渉場所に)到着していない▽パキスタン軍がTTPへの攻撃を続けた――ことなどを挙げた。
 
TTPは、パキスタン西部にある部族地域を拠点とする複数の武装組織の連合体。アフガンのタリバンと友好関係にある。2012年には女子教育の重要性を訴えていたマララ・ユスフザイさんを銃撃したほか、軍などを標的としたテロを繰り返している。
 
TTPのメンバーの多くは現在、パキスタン軍の掃討作戦から逃れる形でアフガン東部に潜伏している。

一方、アフガンのタリバン暫定政権の外務省幹部によると、パキスタンでテロを繰り返すTTPの存在は、国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた。

ただタリバンにとってTTPは友好関係にあるため、強制的に追い出すこともできず「パキスタン政府と和平合意を結んでもらうのが最善策」と考え、両者の仲介を試みたという。【2021年12月10日 毎日】
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【“揉める”余裕はない両国の事情】
以上のような“微妙”な関係にもあるアフガニスタン・タリバン政権とパキスタンですが、今回のパキスタンの越境攻撃が大きな問題となることはないのでは・・・・。

タリバンにとっては、なんだかんだ言ってもパキスタンは数少ない「支援国」ですし、今は国際承認を求めている状況ですから、“揉め事”は起こしたくないところでしょう。

****タリバンが収入源の麻薬禁止 生産最大、政権承認狙いか****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は3日、アヘンの原料となるケシの栽培と麻薬の使用を禁止すると発表した。

アフガンはケシの世界最大の生産国で、タリバンの収入源となっていた。タリバンは昨年8月に政権を掌握したが、各国は正式には認めていない。暫定政権には各国の求めに応じる形で麻薬対策に乗り出し、国際承認につなげる狙いがありそうだ。
 
暫定政権のハナフィ副首相は別の作物栽培などに置き換えるための協力を国際社会に求め「世界が安全に過ごせるようにする」と語った。最高指導者アクンザダ師による命令で違反者は取り締まるとしている。【4月3日 共同】
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さんざん資金源に使ってきて、今になって「世界が安全に過ごせるようにする」と言うのも、いいたいどの口が・・・という感はありますが。

パキスタン側も、4月12日ブログで取り上げたように、カーン前首相が失職し、シャリフ新首相に変わりましたが、政変のゴタゴタが続いており、タリバンどころではないのでは。

****インフレや反発議員の大量辞職表明…パキスタン新首相誕生も混乱続く****
(中略)
不信任案可決で失職したイムラン・カーン氏にかわり、新しく首相に就任したのはシャバズ・シャリフ氏。
野党勢力をまとめあげましたが、反発する議員100人以上が辞職を宣言。さらに前職のカーン氏からは反対デモを呼びかけられています。

「経済危機に、外交も難題ばかり。内憂外患の船出」
シャリフ氏は、過去に首相を3度務めたナワズ・シャリフ氏の弟。
新首相にとって急務となるのは、前政権で悪化したインフレの沈静化と、外交面の立て直しですが、いずれも難題です。

前首相のカーン氏は、ロシアによるウクライナ侵攻の直後にプーチン大統領と会談し、国際社会の批判を浴びたほか、アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力・タリバンに対する支援を巡り、アメリカとの外交が途絶えるなどしていました。

隣国インドとの関係も悪化しています。

消費者物価指数は、カーン氏の首相就任以来、2桁前後の上昇率で推移。ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇も深刻です。

これらの難題に加え、100人以上が議員辞職を表明したことに伴う大規模な補欠選挙や、パキスタンで強い政治力を持つ軍との関係構築など、いろんな難題にも向き合うことになるシャリフ新首相。今後、安定した政権運営ができるかは不透明です。【4月18日 FNNプライムオンライン】
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ただ、パキスタンの話でわかりにくいのは、政府の意図と軍の意向が往々にして異なることがある点で、軍は勝手に動いているように見えることも。
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アフガニスタン  改善しない生活状況、女性の権利侵害 タリバン、「掃討作戦」開始 市民監視目的?

2022-03-18 22:52:24 | アフガン・パキスタン
(タリバンによる「掃討作戦」 捜索対象の住宅の前に集まるタリバンの戦闘員ら (8日、カブール)【3月18日 日経】)

【相変わらずの経済混乱・生活苦、女性への人権侵害】
国際関係ニュースがウクライナ情勢一色になっているなかで、その他の地域のニュースは目にする機会が減っていますが、今回はタリバン支配のアフガニスタンに関するニュースをいくつか。

アフガニスタンについては、2月13日ブログ“アフガニスタン 政治混乱・干ばつ・食糧難・医療崩壊・・・「世界最大の人道危機になりつつある」”でも取り上げましたが、危機的状況は変わっていません。

上記ブログでは“金欠で子ども売る家族”に関する記事も触れましたが、売る子供がいなければ自分の臓器を・・・

****アフガンで広がる貧困 臓器売買も横行 タリバン支配から半年****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが首都カブールを制圧して、15日で半年となった。タリバンが政権を奪取して以降、国内経済は事実上破綻状態となり、貧困が急速に拡大している。

農村部では困窮した住民による臓器の売買も横行。「人道的危機と経済的崩壊」が同時に押し寄せ、安定には程遠い状況が続いている。

2400万人に支援必要
「私はやりたくないが、臓器を売って生活をする人も多い」。西部バドギス州のハビビさん(45)は産経新聞通信員の取材に困窮を打ち明けた。

ハビビさんによると、腎臓1つの値段は約1300ドル(約15万円)程度。これまでも臓器売買はあったが、困窮が拡大して臓器を売ろうとする人が絶えず、〝価格〟は下落しているという。複数メディアは、住民が子供を人身売買業者らに売って生活費を得る様子も報じた。

タリバンの政権奪取後、国家予算の8割を占めた海外援助が停止されたことに加え、長年続く干魃(かんばつ)の影響で経済は非常に厳しい状況だ。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は、今年は人口の約6割に当たる2400万人以上に人道支援が必要になるとの見通しを示した。昨年と比べて600万人増えるという。

東部ラグマン州のムルザさん(50)は「(タリバンが政権を握って以降)戦闘は確かに減ったが、貧困をどうすればいいのか」と語る。電気が使えるのは1日のうち3時間程度。警備員だったムルザさんも失業し、家財道具を売りながら糊口をしのいでいる。

女性への人権侵害続く
タリバンは昨年8月15日にカブールを制圧して政権を掌握した。9月には暫定政権を立ち上げ、支配体制を固めている。

ムルザさんが語るように国内の治安には改善がみられる。国連によると、昨年8月19日〜12月31日の間に起きた銃撃戦など治安に関する事件は985件で、前年同期比で91%減少した。タリバンと政府軍の戦闘がなくなったことが影響しているとみられる。

一方、女性に対する人権侵害は依然として深刻だ。タリバンは女性の就学を制限し女性の映画出演を禁止。「男性の親族が同伴しない限り、女性は公共交通機関を利用してはならない」との命令も出している。

政権批判にも神経をとがらせ、ジャーナリストの拘束や暴行も相次ぐ。

これに対し、欧米各国を中心に国際社会は暫定政権への厳しい姿勢を貫く。アフガンの豊富な天然資源に着目する中国を含め、暫定政権を正式な政府として承認した国はない。

アフガンの政治評論家、サミム・カイバル氏は「凍結資産の解除や国際援助の再開はなかなか見込めず、国内の貧困は拡大していくだろう。国際社会は暫定政権を通さずに市民に支援が行きわたる方法も考えていくべきだ。そうしなければ市民の餓死が増えるだけだ」と話した。【2月15日 産経】
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女性の就学については、大学は種々の制約のもとで女性の就学を認めることにはなっていますが、現実問題としては「再開」とは言い難い状況です。

****主要大学再開、女子学生まばら=アフガン****
アフガニスタンで26日、イスラム主義組織タリバンが昨年8月に政権を奪取してから初めて、首都のカブール大学など主要大学が再開された。しかし、タリバンの弾圧を恐れ、登校する女子学生の姿はまばらだった。教員の国外脱出も相次ぎ、講義が成立するかどうかも危ぶまれている。【2月26日 時事】 
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【規制の押しつけ 今はそれほど強制力は表面化していなくても、今後は・・・】
教育を初めとして女性に対する制約が多いのは事実ですが、一方でタリバン側も国際的な視線を気にしてでしょうか、旧政権時代のように“力づくで何が何でも”といった姿勢でもないようです。

下記は、ガニ政権崩壊時に遅ればせながら自衛隊機を派遣したもののいろんな問題から“唯一の退避日本人”となり、それから3カ月後に再びカブールに戻って住み続けると決めた安井浩美氏のリポートの一部です。

****唯一の邦人退避から3カ月、カブールに戻って住み続けると決めた タリバン支配下の生活―安井浩美のアフガニスタン便り(1)****
(中略)
 ▽音楽は禁止、とても多い女性への規則
家事の中で洗濯が一番好きな私。というのもカブールの気候は、乾燥していて気持ちが良いからだ。日本にはない真っ青の青空もいい。アマゾンミュージックで1980年代のポップスをスピーカでつなげて聞きながら洗濯をバルコニーに干すのが日課だった。

宗教音楽以外の楽曲を禁じるタリバン政権になってからはそれもできなくなった。家の中では聞いているが、外では聞くことができない。
 
ほかにも、おしゃれ好きにはつらいことが多い。体の線を隠すためにブルカと呼ばれる頭からすっぽり覆うマント、もしくは、アフガンではヘジャブと呼ぶ黒色の足首まである黒いコートの着用が義務づけられたため、すてきな服を着ても人から見てもらえないのだ。
 
女性に対する規則は挙げればきりがなく、欲求不満になっている自分に気づく。ただ、あれもこれもいろんな規則がある割には、強制力が今のところはあまりなく、今までとあまり変わらぬいでたちで、街を闊歩(かっぽ)している若い女性も見かける。
 
いつまでこの状態が続くのか気が気でない。男性はというと、以前のようにしゃれた服装でいるとタリバンに嫌がらせを受けるので、多くが民族服のペラン・トンボンを着用している。(後略)【3月12日 共同】
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まさに“いつまでこの状態が続くのか気が気でない”というところ。

タリバンに対し声を上げる女性もいるようですが、タリバンからの圧力も厳しく、生命の危機に及ぶことも。

****【現地ルポ】「私たちには夢があった」タリバン政権下で声を上げるアフガニスタンの女性たち****
飛び立つ米軍機にぶら下がる人々の衝撃的な映像で、2021年夏に世界の注目を浴びたアフガニスタン。イスラム主義組織タリバンのカブール制圧と米軍の完全撤退で起きた悲劇を、国際社会はもう過去の出来事として忘れているようだ。

しかし実際には市民の生活は悪化の一途を辿っている。米国内のアフガン資産が凍結されたことなどで経済が崩壊し、国民の半分は飢餓に直面しているのだ。

抵抗勢力の戦闘が近く本格化するとの情報が飛び交い、タリバン暫定政権は大規模な家宅捜索などを実施し、取り締まりを強化している。

女性の権利と自由を求めてタリバンに抗議デモをした10代、20代の女性たちもその標的だ。危険を承知でアフガニスタンに留まり、声を上げる女性たちに会った。

●「通りでよく男たちを殴ってたの」
マリアム(24)がカフェに入ってくると、周りの空気が一瞬、揺れる。くっきりとした眉と長いまつ毛に縁取られた大きな瞳、ブラウン系のリップ、礼儀正しさと人懐こさが混じった微笑み。タリバンがカブールを制圧する前まではモデルクラブに所属していたということも頷ける華やかさがある。ベージュのスカーフは、彼女の黒髪だけでなく、秘めた闘志も巧みに覆っているのだ。

「何年か前までは、通りでよく男たちを殴ってたの」と言う。テコンドーの道場に通っていた18歳ごろのことだ。すれ違い様に手や足に触れる男たちが我慢ならなかった。「ちょっと待って」と呼び止め、殴った男に殴り返され、顔が腫れたこともあった。

「私たちには夢があった」。前政権の汚職にはうんざりしていたが、大学でビジネスを学び、「アフガニスタンのビル・ゲイツ」を目指していた。だからタリバンが復活したあの夏、「未来を奪われた」と感じ、いち早く逃亡したガニ大統領ら政治家に怒りが湧いた。

アフガニスタンは多民族国家で、タリバンの主要な構成民族、パシュトゥン人は女性に関して極めて保守的だ。「タリバンはいい人たち」と語るパシュトゥン女性もいるが、タジク人であるマリアムには行動や教育、職業など女性の行動を厳しく規制するパシュトゥンの慣習はなじめない。

友人のラムジア(22)たちが、女性の自由と権利を求めるデモをすると聞いた時、マリアムは「参加しなくちゃ」と思った。

「デモなんて、あばずれがやるものだ」。父はそう言い、弟たちも反対したが、マリアムは振り切った。「ここは私の国よ。女性たちは互いの力が必要で、私にも責任がある」

自分の可能性を試したいと夢に向かって歩いていたのに突然、道を塞がれて止められ、罰せられたようだった。「私たちの罪は何?」。プラカードにそう書いた。

通りで見ていた男たちは「女がやることか」と嫌な顔をした。タリバン兵士に囲まれ、銃を突きつけられたり、催涙ガスを撒かれたりした。それでも女性たちはデモを何度も実行したのだ。

●「抵抗以外に選択肢がない」
(中略)デモ参加者たちは今、追われる身だ。「タリバンのスパイから尾行されているかもしれないから気をつけて」とラムジアはマリアムに忠告する。米CNNテレビのインタビューを受けたラムジアの親友は1月中旬、武装した男たちに自宅で拘束され、2月中旬に解放されるまで行方不明だった。

地元ジャーナリストが人権活動家の話として語ったところによると、北部マザリシャリフでは、タリバンに拘束された複数の女性がレイプされた。事実だったとしても、家族の名誉を重んじる文化の中では被害が公になることはない。不名誉だとして、被害者が肉親に殺されることもあるのだ。

マリアムとラムジアも、タリバンと名乗る男の声で「お前たちを見つけ出す」と脅迫電話を受けた。ラムジアは毎晩、寝る場所を変えている。デモもしばらく中断を余儀なくされたが、女性たちはこれで終わりにするつもりはないという。

「危険なことは分かっている。でも私たちには他に選択肢がないの」と2人は言う。「この国の未来に責任があると思う。もし国を出なければならなくなっても、国外でアフガニスタンのために働きたい」。(後略)【3月18日 舟越美夏氏 AERAdot.】
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【タリバン、治安維持を目的とした「掃討作戦」開始 市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方も】
タリバンは治安維持を目的とした「掃討作戦」を展開しています。

****タリバン、アフガン人の出国禁止 治安理由に「掃討作戦」開始****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは27日夜、自国民の出国を厳しく制限すると発表した。また、首都カブールなど複数の都市で治安維持を目的とした「掃討作戦」を展開していることも明らかにした。
 
タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官は新たな渡航規制について、国外に暮らす多くのアフガン人が「非常に悪い状況にある」とする報告を受けたためだと説明。「政府には国民を保護する責任がある。国民の命が危険にさらされないという保証が得られるまで」出国を制限すると述べた。
 
各国政府や非政府組織の計画したアフガン人の国外退避禁止に加え、自力で出国を試みる家族も「理由」がなければ出入国管理局に止められることになる。また、男性親族を伴わない女性の出国は禁止される。
 
タリバンはまた、カブールなど複数の都市で先週末から「誘拐犯、窃盗犯、強盗犯」を取り締まるため、1軒ずつ民家をしらみつぶしに捜索する「掃討作戦」を開始したと発表。イスラム過激派組織「イスラム国」メンバーの疑いのある6人と誘拐犯9人、窃盗団53人を拘束したとした。
 
カブールの大規模な治安作戦は28日も続いており、欧米が支援していた前政権や米軍をはじめとする駐留軍に協力していた人々は、標的とされることへの警戒を強めている。
 
欧州連合のアンドレアス・フォンブラント駐アフガニスタン大使は、「異なる民族グループや女性に対する脅迫、家宅捜索、逮捕、暴力は犯罪であり、直ちにやめなければならない」「(ウラジミール・)プーチン大統領の戦争があろうが、われわれはあなた方を見ている」とツイッターに投稿した。
 
これに対し、ソーシャルメディアを多用するタリバン当局者のムハンマド・ジャラル氏は、「プーチン氏から欧州を守ることに集中しろ」と返した。 【2月28日 AFP】
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「誘拐犯、窃盗犯、強盗犯」を取り締まるため、1軒ずつ民家をしらみつぶしに捜索する「掃討作戦」・・・深夜突然、武装した大勢に踏み込まれる威圧感は甚だしいものがあります。
“定政権に対する市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方もある”とのこと。

****アフガン市民をタリバンが監視****
首都で深夜に家宅捜索

アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンが市民の監視を強めている。カブール首都圏では深夜を含め、抜き打ちの家宅捜索を始めた。

女性を対象に、イスラム法に基づく事実上の出国制限の実施を表明した。テロ対策や人材の国外流出の抑止が目的だとみられるが、失業が深刻になるなか、暫定政権への反発が強まっている。

内務省は2月下旬、家宅捜索を始めた。ポーランド出身のジャーナリストの女性によると、カブールの自宅に深夜、自動小銃や対戦車砲で武装した少なくとも20人の要員が突然、押し入った。「家中のものをひっくり返された。一人暮らしで、とても怖かった」という。

女性は後日、タリバンの広報担当がツイッターに投稿した掃討作戦に関する声明を読み、やっと事態をのみこめた。
タリバン側は家宅捜索の目的を、犯罪者の摘発と治安の維持だと説明するが、暫定政権に対する市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方もある。

住民は不満を募らせている。捜索を受けたカブール市民の一人は、冷蔵庫の上にイスラム教の聖典コーランを乗せていたが、扱いが雑だと要員に叱責された。

別の女性は、家に女性しかいないときに男性ばかりのタリバンの戦闘員が土足で上がり込んできて、食器棚を含め、隅々まで調べた行為に恐怖を覚えたと証言した。

暫定政権は市民の権利を制限している。2月下旬にはタリバンの報道担当が、市民の国外流出を抑える方針を示した。海外に留学する女性は親族の男性と一緒でないと出国できなくなった。イスラム法の解釈が根底にあるとみられる。

報道担当はその後、女性を含めた出国制限は「合法の書類を所持したり招待を受けたりした」人たちには適用しないとツイートした。

タリバン側は、こうした規制が国民を保護するために必要だと主張する。だが、暫定政権の監視下に置かれ、移動の自由も制限された市民の生活は一段と困窮する。国際労働機関(ILO)によると、2021年8月にタリバンがカブールを陥落させた後、50万人以上が職を失った。

暫定政権に抗議する活動に加わる女性は女子校でトルコ語を教えていたが、タリバンの制圧後、失業した。タリバンが女子学生の通学を禁止したためだ。この女性は「タリバンの言うことを聞かないと罰を受ける」と非難する。

「タリバンは私たちの行動、行き先、着る物を含めすべてを統制しようとしている。息が詰まりそうだ」【3月18日 日経】
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旧政権が生まれた内戦の混乱期と異なり、まがりなりも「自由」の空気を経験した現在のカブールなど都市住民、女性に対し「息が詰まる」ようなタリバン支配が受け入れられる余地は小さいように思えますが、そうなるとタリバン側は「力」で・・・ということにも。

そうしたタリバン支配を承認するものではありませんが、危機的な状況に対する人道支援は国際的に行う必要もあります。

****国連、アフガン支援継続を決定 タリバン支配下でも****
国連安全保障理事会は17日、イスラム主義組織タリバンが昨年実権を握ったアフガニスタンで正式な支援活動を継続する決議案を採択した。
 
決議は国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の活動期間を1年間更新するもの。活動内容には、女性、子ども、ジャーナリストなど、人道、政治、人権の分野での協力が含まれている。タリバン政権は国際社会で承認されておらず、決議ではタリバンへの言及はなかった。

採決では14か国が賛成し、ロシアが棄権した。
 
決議案を起草したノルウェーのモナ・ユール国連大使は採決後、AFPに対し「UNAMAの新しい任務は、差し迫った人道的・経済的危機に対応するだけではなく、アフガニスタンの平和と安定という包括的目標を達成するために極めて重要だ」と述べた。【3月18日 AFP】
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アフガニスタン  困窮する市民生活 問題が多いタリバン支配 今後に向けて欧米諸国との協議開始

2022-01-24 21:53:37 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンの首都カブールにある虐待被害を受けた女性向けのシェルターで祈る女性(2021年12月11日撮影)【1月22日 AFP】)

【困窮する市民生活 栄養失調で死亡 わが子を売らなければ生きられない】
アフガニスタンではイスラム原理主義勢力タリバンによる支配のもとで社会・経済は混乱し、女性の人権を認めないなどその統治に問題が多いタリバンに対する欧米諸国の経済制裁によって、市民生活は困窮を極めています。

****今年、栄養失調で子供75人死亡=アフガン南部の病院****
アフガニスタンのメディアは17日、南部カンダハルの病院関係者の話として、この病院で今年に入り、子供少なくとも75人が栄養失調で死亡したと報じた。

アフガンでは、イスラム主義組織タリバン暫定政権への制裁などで経済が混乱。0度前後の気温下で人々が十分な食料を得られず、国際機関などが支援を急いでいる。
 
複数の地元報道によると、この病院関係者は、今年に入り子供約1900人が栄養失調で搬送されてきたと証言した。世界食糧計画(WFP)は昨年、アフガン人の95%が十分な食料を得られていないと警告している。【1月17日 時事】
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*****「わが子売れば…」タリバン下で生活困窮 追い詰められるアフガン市民****
アフガニスタンで、イスラム原理主義勢力・タリバンが実権を掌握して5カ月がたった。
人々の生活は厳しさを増し、わが子を売らなければ生きられないほど、追い詰められた家族もいる。

2021年8月、タリバンがアフガニスタンで実権を掌握し、かつての恐怖政治の記憶から、国内は混乱した状況になった。
今も人権侵害などへの懸念から、国際社会は、タリバンによる統治を承認せず、経済制裁を科していて、市民の生活は厳しさを増している。
市民「状況は最悪で、みんな仕事がない」

カブール近郊の町で暮らす、ナーザニンさん(12)。4人姉妹の長女として、家事を手伝うなど、シングルマザーである母親を支えている。
ナーザニンさん「勉強したいができない。生活のために、水や油が必要」

しかし、病気を抱えながら清掃の仕事と子育てをしてきた母親は、雇い主の経済状況が悪化し、職を失った。
誰からも助けを得られず、生きるために、母親は、ナーザニンさんを売ることを決めた。
母・マルジエさん「何もできることがなかった。1人を売れば、自分も病気の治療ができて、3人の子どもを餓死から守れる」

その金額は、日本円でおよそ11万円。ナーザニンさんがその後、どうなるのか、母親は「何も知らない」と答えた。
しかし取材後、支援団体から援助を受けることができたとの報告が。ナーザニンさんは、今も家族と生活することができているという。

アフガニスタン情勢にくわしい東京外国語大学の講師・登利谷正人さんは、「現地では、子どもを売らなければ食べていけない人が増えている。“タリバン政権”を承認できるかは、ひとまず棚上げにしてでも、命を守るため行動しなければならない」と話している。【1月18日 FNNプライムオンライン】
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****アフガン 仕事失った人たちの食糧難深刻化****
イスラム主義勢力タリバンが実権を掌握したアフガニスタンでは、本格的な冬を迎え、仕事を失った人たちの食糧難が深刻化しています。

17日のアフガンの首都カブールの映像には、雪がしんしんと降る中、路上に座っている人がいます。仕事を失い、物乞いをするほか生活のすべがない人たちです。

カブール市民「子どもたちのためのお金をもらうため、ここに座っているしかありません。油、コメ、小麦粉が必要です。できるなら助けてください」

カブール市民「夫が亡くなって30年、私は一人です。この服は人からもらったものです。お茶もパンもなく、神様の助けがなければ食べ物が見つかるまで歩き続けなければなりません」

男性は、雪の寒さを防ぐためか、ビニールをまとっています。

カブール市民「仕事が見つかる日があっても、その後は仕事がありません。私のような労働者はたくさんいます。1日の稼ぎは90円ほどです。それで我慢しなければならないのです」

国連機関によりますと、アフガンでは現在、人口の半数以上にあたる2440万人が人道支援を必要としています。【1月18日 日テレNEWS24】
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【懸念を深める情報が多いタリバン支配の実情】
“タリバン政権を承認できるかは、ひとまず棚上げにしてでも、命を守るため行動しなければならない”・・・それはそうです。実際、国際支援も動いてはいます。

しかし、タリバン支配が容認できるものかどうかで疑念がある状態では支援もフル稼働とはいかないのが現実でしょう。

現地から伝えられる情報は、タリバン支配への疑念を深めるものがほとんどという状況です。

****女性の遠出、男性伴わねば禁止 タリバン****
アフガニスタンで実権を握るイスラム主義組織タリバン暫定政権は26日、近親男性が同伴しない限り女性の遠出を禁止すると発表した。勧善懲悪省がソーシャルメディアに新指針を投稿した。
 
タリバンはさらに、全ての車両所有者に対し、髪をスカーフなどで覆っていない女性の乗車を拒否するよう求めた。車内で音楽をかけることも禁止される。
 
勧善懲悪省の報道官はAFPに対し「女性が45マイル(約72キロ)以上移動する場合、近親者が同伴しなければならない」と説明した。近親者は男性に限るという。女性が移動する場合、「ヒジャブ」の着用が求められるとも述べた。
 
タリバンは8月15日に実権を掌握すると、公的部門で働いていた女性の復職を禁じた。また、大半の女子生徒が中等教育を依然受けられていない。 【12月27日 AFP】
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****タリバン、女性にヒジャブ着用命じるポスター掲示****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は今週、女性にヒジャブ(頭と首を覆うスカーフ)の着用を命じるポスターを首都カブール各地に掲示した。同省報道官が7日、明らかにした。
 
タリバンは昨年8月に政権に返り咲いて以来、シャリア(イスラム法)の厳格な解釈に基づく統治を強化。特に女性や少女の自由を厳しく制限している。
 
ポスターはカフェなどに張り出された。「シャリアに従い、ムスリム女性はヒジャブを着用しなければならない」と書かれているほか、ブルカ(全身を覆う衣服)も描かれている。
 
宗教警察の役割を担う勧善懲悪省の報道官は7日、同省が命じたとAFPに認めた。「たとえ従わなかったとしても、罰を受けたり殴打されたりするわけではない。ムスリム女性にシャリアに従うよう促しているにすぎない」と述べた。
 
カブールの女性は既に、ヘッドスカーフで髪を覆っている。カブール以外では、タリバンが1990年代の第1次政権時代に着用を義務付けていたブルカが一般的となっている。 【1月8日 AFP】
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ブルカ強制ではなくヒジャブであれば、イスラム諸国においては程度の差こそあれ着用が要請されていますので、タリバンがヒジャブ着用命じること自体は驚きではありません。

「ヒジャブでもなんでも着けるから、生きていくための食べ物が手に入るようにしてくれ!」というのがアフガニスタン女性の現在の叫びでしょう。

上記記事で問題なのは「たとえ従わなかったとしても、罰を受けたり殴打されたりするわけではない。ムスリム女性にシャリアに従うよう促しているにすぎない」という言葉が全く信用できないところです。ムチで人々を抑圧した旧政権時代の勧善懲悪省の姿が蘇ります。

タリバン支配のもとでは、タリバンのやり方に異を唱えることは許されません。

****タリバン批判の教授拘束 アフガン、言論弾圧に市民抗議****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は9日までに、会員制交流サイト(SNS)でタリバンを批判したとして、大学教授の男性を拘束したと明らかにした。首都カブールでは9日、言論弾圧を懸念する市民らが「教授の声は人々の声だ」と抗議し、釈放を求めた。
 
地元メディアによると、男性はカブール大のファイズラ・ジャラル氏。8日にカブールで治安当局に拘束された。テレビの討論番組にたびたび出演し、圧政や食料不足などを非難してきた。【1月9日 共同】
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【最大のポイントは女性の権利保護】
いろいろ問題があるなかで、食料問題は現実的には国際援助がない限りタリバンに改善能力はないので、そうした国際援助が受けられるようにするための「女性への対応」がポイントでしょう。

欧米諸国が求めるものとタリバン支配の現実には大きな溝があります。

****タリバン政権下で消える女性シェルター 虐待受けても行き場なし****
フェテマさんは7歳の時、曽祖父ほどの年齢の男性と結婚させられた。レイプされ、殴る蹴るの暴行を受け、飢えにも耐え忍んだ末、ついに自らの命を絶とうとした。
10歳の時には壁にたたき付けられたと言う。「頭が釘にぶつかって(中略)もう少しで死ぬところでした」
 
フェテマさんが身を寄せているのは、虐待された女性のためのシェルターだ。イスラム主義組織タリバンが昨年8月に実権を掌握したアフガニスタンで今もなお、女性たちを受け入れている数少ないシェルターの一つだ。だがフェテマさんは、いつここを追われるかもしれないとおびえている。
 
シェルターが閉鎖されれば、フェテマさんには行き場がない。実家との連絡は途絶えているし、嫁ぎ先の家族は名誉を汚したと言って、フェテマさんを殺すと明言している。
 
アフガニスタンでは、フェテマさんのような経験をしている女性が何百万人もいる。家父長制を伝統とするこの国では、貧困と教育の欠如により、女性たちが何十年にもわたって権利を奪われてきた。
 
国連によるとアフガン女性の87%が、何らかの形で肉体的・性的・精神的な暴力を体験したことがある。
 
にもかかわらず、人口3800万人のこの国で、タリバン復権以前に運営されていた女性保護専門のシェルターは、わずか24か所だった。そのほぼすべてが国際組織の資金によるもので、国内では多くの人から冷ややかな目で見られていた。
 
タリバンはイスラム教の聖典コーランの厳格な解釈に基づき、女性の権利を認め保護していると主張するが、現実には公的な場から徐々に女性が締め出されている。

■タリバンの視察
だが、ほのかな希望の光もある。
 
タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は今月初め、強制結婚を非難する立場を表明した。
またタリバン暫定政権が国連大使に指名したスハイル・シャヒーン氏は、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルに対し、暴力の被害を受けた女性は裁判所に訴えることができると語った。
 
タリバン政権はシェルターの今後について何ら公式に発表していない。だがその存在が見過ごされているわけではない。
 
フェテマさん他約20人が身を寄せるシェルターの職員によると、タリバンの戦闘員や幹部が数回にわたりシェルターを訪れた。

「彼らは入って来て各部屋を見て、男性がいないことを確かめていました」とある職員は言う。「そして、女性にとってここは安全な場所ではない、女性の居場所は家庭だと言いました」
 
それでも、希望を感じた女性もいた。職員は「(タリバンの訪問は)思っていたよりもずっと良かったのです」と語った。

■頼る先がない
タリバンが政権を掌握する前でさえ、家庭で虐待されている多数の女性が頼れる先はほとんどなかった。
殺してやると義父に脅されたザキアさんは女性問題省(現在はタリバンによって閉鎖)に問い合わせ、家を逃れる方法について助言を求めた。だが、ザキアさんの状況はそれほど悪くないと言われ、「話も聞いてもらえませんでした」。
 
ミーナさんも7年前、虐待する叔父の元から妹と一緒に逃げ出し、女性問題省に駆け込んだが、同じような扱いを受けた。そして「私が話す内容にうそがあると非難されたのです」。
 
アフガン女性の権利を訴えて長年活動し、シェルターを運営しているマブバ・サラジャさんにとって心配なのは、家庭で虐待を受けていながら、他に行き場のない女性たちだと言う。
 
ザキアさんには、少なくとも今のところシェルターがある。だが、いつまでここにいられるだろう。「実の父にも、おまえのことなんかどうでもいいと言われたのですから」 【1月22日 AFP】
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家庭内での暴力から逃れてきた女性に「女性にとってここは安全な場所ではない、女性の居場所は家庭だ」というのは“悪い冗談”です。

ただ、“女性保護専門のシェルターは、わずか24か所だった。そのほぼすべてが国際組織の資金によるもので、国内では多くの人から冷ややかな目で見られていた。”“タリバンが政権を掌握する前でさえ、家庭で虐待されている多数の女性が頼れる先はほとんどなかった”ということに見られるように、女性の権利を重視しない風潮はタリバンだけでなくアフガニスタン社会全般の問題である点は踏まえて置く必要があります。

そうしたなかにあって、若干の改善も。

****女子中等教育も「解禁」=3月下旬に再開か―タリバン****
フガニスタンの民放トロTVは23日、イスラム主義組織タリバン暫定政権が、3月下旬から中等教育課程以上の学校を女子についても再開するよう指示したと報じた。現在、タリバンは一部を除き女子は初等教育までしか認めておらず、国内外から批判を浴びている。
 
タリバンはこれまで、独自のイスラム法解釈に基づいて女子教育を抑圧してきた経緯があり、実際に再開されるかは不透明だ。【1月24日 時事】 
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【欧米諸国とタリバンの協議開始】
今後に向けて、タリバンと欧米諸国の協議が始まるようです。

****タリバン、オスロで欧米諸国と協議開始 人権や人道危機など焦点****
アフガニスタンを支配する武装勢力タリバンと、欧米各国との対面協議が23日、ノルウェーの首都オスロで始まった。昨年8月にタリバンがアフガニスタンの政権を奪還して以来、代表団が欧州で欧米政府と協議するのは初めて。

一方、タリバンと協議することに反対する抗議集会も、週末にかけて欧州各地で開かれた。

非公開の協議は3日間続く予定で、アフガニスタン国内の人権や人道危機の状況も検討する。
最も重要とされる24日には、タリバンは欧米各国に対して、アメリカの銀行で凍結されている数十億ドルの出金を認めるよう要請する見通し。

タリバン代表団のシャフィウラ・アザム氏はAP通信に対して、「アフガン資産の凍結を解除し、政治対話を理由に一般のアフガニスタンを苦しめることがないよう(欧米に)求める」と話した。
「今は厳しい冬で、飢えが広がっている。国際社会はそろそろ、政治的対立を理由にアフガニスタン人を罰するのではなく、アフガニスタン人を支えるべき時期だと思う」とも、アザム代表は述べた。

タリバンの復権以来、アフガニスタンでは失業と食料価格が急騰する一方、通貨の価値は急落し、金融機関は現金引き出しに上限を設けている。

国連によると、アフガニスタン国民の95%が十分な食事をとれていない。人口の55%が飢えの危険にさらされている状態という。

タリバン代表団は22日夜にオスロに到着。23日には、代表団の一部が人権活動家と面談したものの、話し合った内容は公表されていない。

女性の権利活動家のジャミラ・アフガニさんはAFP通信に対して、代表団は「好意的」な態度だったと述べ、「発言をもとに、実際にどう行動するかを見てみよう」と話した。

「タリバン承認ではない」
欧米側はタリバン代表団に対して、人権尊重と包摂性の高い政権作りを強く求める見通し。

昨年8月の政権奪還以来、タリバンはほとんどの女性について外で働くことを禁止。中学・高校には男子生徒と男性教師しか通うことができなくなった。こうした権利抑圧に抗議する女性たちへの取り締まりも厳しくなり、活動家の中には行方不明になった人たちもいるが、タリバンは関与を否定している。
人権活動家やジャーナリストに対するタリバンの攻撃も悪化している。

これまでのところ、タリバン政権を正統なアフガニスタン政府と承認した国はない。
ノルウェーのアンニケン・ウィットフェルト外相は21日、協議の開催を発表するにあたり、代表団と協議するからといって「タリバンを正当化するわけでも承認するわけでもない」と述べた。
「それでも、国の事実上の当局とは話をしなくてはならない」とも外相は話した。

今回の協議について、国外のアフガニスタン人の意見も割れている。BBCのリーズ・ドゥセット特派員によると、タリバンと関わるのは大事だと指摘する人もいれば、本国で人権侵害を繰り返すタリバンを欧州の首都に招いてはならないという意見もある。

オスロでの協議に反対する人たちが週末にかけて、欧州各地で抗議集会を開いた。オスロで抗議した1人はAFP通信に対して、家族を失ったアフガニスタン人を「面と向かって笑い飛ばす」ようなものだと協議を批判。「テロリストと話し合ってはならない」と述べた。【1月24日 BBC】
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アフガニスタン・タリバンとパキスタンのTTP対応などの“微妙”な関係

2022-01-15 22:17:50 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンとの国境を守るパキスタン兵(2021年9月)【1月13日 Newsweek】)

【アフガニスタン撤退で、アメリカ議会で強まった“戦犯”パキスタン批判 パキスタン「もはやタリバンをコントロールできない」】
パキスタン、特にその諜報機関である三軍統合情報部(ISI)がアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンを生み、育ててきたことは周知の事実です。

その目的の最大のものは、隣国アフガニスタンにおいて宿敵インドの影響力が強まるのを防ぐためと言われています。

ただ、パキスタン政府は「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返しています。

****タリバン再登場に戦慄するインド・パキスタン****
(中略)
パキスタンはかねてアフガニスタンを「兄弟国」と見なして付き合ってきた。実際、タリバンのメンバーは、アフガニスタンにおける多数派であるパシュトゥーン人が主流。

このパシュトゥーン人は隣国パキスタン西部のペシャワールやマルダンなどに幅広く居住している。平時においてはお互いの行き来も活発だった。

そしてパキスタンの貧困層や地方住民には景気悪化や汚職などに不満を強める人々が多く、程度の差こそあれタリバンへのシンパシーを抱いていることも無視できない。

アメリカとともにソ連のアフガン侵攻に対抗するためタリバンを支援したとされるパキスタンだが、同国の外交官らはかねて「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してきた。

だが、普通に考えればパキスタンの諜報機関である三軍統合情報部(ISI)は今なおタリバン、とりわけ最強硬派の「ハッカニ・ネットワーク」と何らかの接触を維持しているとみていいだろう。

過去20年間、ISIはタリバンのリクルート活動などを黙認あるいは支援してきた、と言われている。パキスタンの手助けや見逃しがなければタリバンの「復活」はあり得なかった、という主張には一定の説得力がある。(後略)【2021年8月30日 山田剛氏 日本経済研究センター】
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当然ながら、タリバンと戦ってきたアメリカには“同盟国”パキスタンの“裏切り的”タリバン支援には長年苛立っていましたが(とは言いつつも、結局パキスタンに対し決定的な対応をとらなかった、あるいは、とれなかった訳でもありますが)、混乱の中のアフガニスタン撤退という屈辱を受けて、改めてパキスタン批判が強まりました。

****米政界で対パキスタン議論 圧力か孤立回避か****
イスラム原理主義勢力タリバンによるアフガニスタン掌握を受け、バイデン米政権が、対テロ戦争の「重要同盟国」と位置付けられてきたパキスタンへの政策見直しを進めている。同国が米国の援助を得る一方で、タリバン支援を続けていたためだ。

議会ではパキスタンへの〝懲罰〟を主張する声が出ているが、専門家らには同国を孤立させれば大規模な地域紛争を招く危険があるとの慎重論が強い。

米下院外交委員会で5日に行われた公聴会では、議員と外交・安全保障の専門家らの間でパキスタン関与のあり方が議論となった。

トランプ前政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めた証人のマクマスター氏は「パキスタンへの支援を停止して孤立させ、タリバンなどジハード(聖戦)勢力を保護した責任を負わせるべきだ」と述べ、民主、共和両党の一部議員が同調した。

反論したのは、同じく証人として出席したアーミテージ元国務副長官らだ。
アーミテージ氏は、パキスタンの孤立は中国、インドの領有権争いも絡む係争地カシミール地方の不安定化を招くと警告。

駐パ、駐アフガン両大使などを歴任したクロッカー氏も「パキスタンを罰する(外交政策上の)余裕はない。カシミールの暴発は中印パの地域戦争に発展する」と証言した。

こうした議論が熱を帯びるのは、アフガン政策の失敗はパキスタンが原因だとの見方があるためだ。
米国は「テロとの戦い」にパキスタンの協力は欠かせないと判断。米メディアによると2002年以降、計330億ドル(約3兆6700億円)以上の軍事・経済支援を供与してきた。

一方、1990年代のタリバン創設にも関与したパキスタンは、したたかに立ち回った。2001年のタリバン政権崩壊後も自国内に拠点を提供。タリバンを手駒に地域情勢への影響力を強め、対立するインドを牽制(けんせい)するといった狙いがあった。

タリバンが米軍やアフガン政府との戦闘を継続できたのは、パキスタンでの戦闘員徴募や訓練、武器調達が可能だったからだ。

こうした経緯から、タリバンのアフガン掌握で利益を得たのはパキスタンであるようにも見える。だが、事態はさらに複雑だ。

アフガン駐在経験のある外交筋は「勝利したタリバンが制御不能になるのを最も懸念しているのは、実はパキスタンだ」と語る。

同国内には、タリバンの影響で誕生した「パキスタンのタリバン運動」(TTP)などの過激派が存在する。それらが今後、パキスタン政府への攻撃やインドへのテロなどを行うため、アフガン領を安全地帯として利用する恐れは強い。タリバンがパキスタンを利用したのと同じ構図だ。

米政界で対パ非難が強まる中、ブリンケン国務長官は9月、米パ関係を「再評価」すると表明した。だが、パキスタンが孤立感を強めれば、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて域内の影響力を高める中国との関係緊密化を一層促すことにもつながる。

パキスタンのカーン首相の安全保障補佐官を務めるユースフ氏は今月、米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、対パ非難の高まりは米国など西側諸国がアフガン政策失敗を糊塗(こと)するための「スケープゴート」探しだと批判した。【2021年10月13日 産経】
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【タリバンを支援してきたパキスタンにとってもタリバン復権は副作用も】
上記記事にもあるように、タリバンとパキスタンの関係は、カジミール情勢、中国の影響力などもあって複雑な面もありますが、パキスタンとしても(国軍、ISIではなく、少なくともパキスタン“政府”は)自国内のイスラム過激派「パキスタンのタリバン運動」(TTP)の活動活発化やアメリカなどのパキスタン批判を警戒して、タリバンの復権には慎重な面もあるようです。

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旧ガニ政権を手厚く支援してきたインドにとって、タリバンのアフガン全土掌握は大きなダメージだ。これをもってパキスタンに「外交的勝利」が転がり込んできた、といえなくもない。

アフガニスタンはインドに対して大きな外交カードであり優位性となる。パキスタンのイムラン・カーン首相がタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎した背景はこういう事情があるのだろう。

しかしタリバンの復権はパキスタンにも大きな副反応をもたらす。今後パキスタンがアフガン支援でタリバン寄りの姿勢を見せた場合には、陸軍基地の目と鼻の先でテロ組織アルカイダの頭領オサマ・ビン・ラーデンの潜伏を許すなど数々の失態を大目に見たうえ、借金まみれのパキスタンを見捨てずに付き合ってきた米国との関係が一気に悪化する恐れもある。(中略)

しかし、タリバンの台頭によってパキスタンの過激派が覚醒して再び政府に牙を剥く恐れもある。2014年に北西部ペシャワールで児童ら150人が犠牲となったテロなどをきっかけに同国陸軍は情け容赦ない過激派掃討作戦「ザルベ・アズブ(預言者ムハンマドの剣撃)」を断行、タリバン残党らも含む多くの武装勢力をアフガン側に追いやったが、彼らが再びパキスタンに舞い戻ってくる可能性もある。

パキスタン国内には、本家タリバンと緩やかに連携している「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が跋扈する。ノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんを襲撃したのも彼らの仕業だった。

パキスタン当局、特に軍はタリバンが再びテロ集団を迎え入れるなど暴走しないよう働きかける一方、指導部に対しては自国の過激派を扇動しないようくぎを刺しておく必要がある。【前出 2021年8月30日 山田剛氏 日本経済研究センター】
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【国境「柵」をめぐるタリバンとパキスタンの対立 かつてのようにパキスタンの言いなりではない今のタリバン】
このように“微妙”な関係にもあるアフガニスタン・タリバンとパキスタンですが、両国国境にパキスタン側が設置した「柵」を巡って対立があるとも報じられています。

****タリバンとパキスタンがまさかの「仲間割れ」、現地の勢力図に大きな変化が****
<パキスタンが設置していた国境の「柵」をめぐり、両軍兵が衝突。互いを必要とするはずの両者は妥協点を見いだせるか>

昨年8月、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧すると、隣国パキスタンでは歓喜の声が上がった。なにしろタリバン運動の発祥地だし、アフガニスタンに友好的な政府ができるのは大歓迎。一貫して親米政権を支持してきた天敵インドの影響力低下も必至だ。

しかし、そんな蜜月の終わる兆しが見えてきた。両国の国境、いわゆる「デュアランド線」での不穏な動きだ。
昨年12月19日にはアフガニスタン東部の国境地帯で、パキスタン側の設置した有刺鉄線のフェンスをタリバン兵が実力で撤去した。年末の30日にも似たような摩擦が南西部であった。フェンスの設置は2014年から、国境紛争と密輸を防ぐためと称してパキスタン側が進めていた。

この2回目の摩擦を受けてタリバン政権は強く反発。国防省の広報官は年頭の1月2日に、パキスタン側には「有刺鉄線で部族を分断する権利はない」と主張した。ここで言う「部族」は、国境の両側で暮らすパシュトゥン人(アフガニスタンでは多数派だ)を指す。別のタリバン広報官は、「デュアランド線は一つの民族を引き裂く」ものだとし、その正当性を否定した。

この国境線は1893年に英領インドとアフガニスタンの合意で成立した。だが1947年にパキスタンが独立して以来、歴代アフガニスタン政権はデュアランド線に異議を唱え続けてきた。

自分たちはパキスタンの代理勢力ではない
ただ、タリバン側の動きには他の思惑もありそうだ。自分たちはパキスタンの代理勢力ではないと、対外的に主張したいのかもしれない。多数派のパシュトゥン人にすり寄るためという見方もできる。

フェンスの存在が国境を越えた人流・物流の妨げになるという現実的な問題もある。タリバン構成員には今も、パキスタン側に家族を残している者が少なからずいる。

年明け早々、パキスタンとタリバンは交渉を通じて国境間の緊張を解くことで合意した。だが容易ではない。パキスタンの外相も「外交的に解決できると信じたい」と、心もとない発言をしている。

消息筋によれば、パキスタン政府はフェンス設置へのタリバンの理解を得つつ、越境往来を増やせるような譲歩をするつもりだという。だが、その程度でタリバンの不満は収まるまい。

それでもパキスタンに対するタリバンの経済的・外交的依存の大きさを考えれば、彼らもこれ以上の関係悪化は避けたいだろう。

パキスタン側にも、早期の事態収拾を図りたい事情がある。タリバンとの緊張が高まれば、最近パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)への対処が難しくなるからだ。

タリバンの仲介で、アフガニスタンを拠点とするTTPとパキスタンは昨年11月に停戦1カ月の休戦協定を結んだが、TTPはその延長を拒んでいる。交渉再開にはタリバンの協力が不可欠だ。

ただしタリバンも、TTPには強く出られない。国内のTTP基地へのパキスタン軍の攻撃を黙認するという選択肢もない。

パキスタンとタリバンの関係は持ちつ持たれつだ。しかし今のタリバンは、かつてのようにパキスタンの言いなりではない。【1月13日 Newsweek】
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タリバン側に“かつてのようにパキスタンの言いなりではない”という思いがあるとすれば、パキスタン側には“いったい誰のおかげで今のタリバンがあると思っているのか”という本音もあるでしょう。

【パキスタン・タリバン運動(TTP)をめぐるタリバンの“微妙”な対応】
上記のようにタリバンとパキスタンの“微妙”な関係のなかでも、とりわけ微妙なのがタリバンのパキスタン・タリバン運動(TTP)への対応。

パキスタン国内でテロ活動を活発化させているテロ組織パキスタン・タリバン運動(TTP)をパキスタン軍は厳しく掃討してきましたが、タリバンの仲介で一応「停戦」が昨年11月に成立しました。

****パキスタンのイスラム武装勢力「停戦継続は困難」…メンバー釈放巡り政府と対立****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は9日、政府との間で先月9日から1か月続いた停戦について、「継続は困難」だとして延長しない方針を示した。TTPが挙げるメンバーの釈放が実施されず、軍が掃討を継続した、などと主張した。双方による戦闘が再発する恐れがある。
 
TTPの報道官名で出された声明では、メンバー102人の釈放が9日までに実現せず、双方が和平を話し合う協議会に政府関係者が来ないと批判した。さらに政府側が停戦を破って、掃討作戦やTTP関係者の殺害をこの1か月に何度も行ったと非難した。
 
地元紙ニューズは10日、最高指導者のヌール・ワリ・メスード司令官も音声で停戦延長を拒否する意向を示したと報じた。ニューズによれば、直近1週間で100人近くが釈放されたが、TTPが要求する102人とは異なる可能性がある。
 
停戦は、双方と関係があるアフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの仲介で実現した。政府とシャリーア(イスラム法)に基づく極端な統治を求めるTTPの隔たりは大きい。【12月10日 読売】
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****TTP、パキスタン政府との一時停戦終了を表明 タリバンが仲介****
パキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は9日の声明で、パキスタン政府との間で11月から1カ月間実施していた一時的な停戦を終了することを明らかにした。一時停戦は、TTPと友好関係にあり、パキスタンの軍情報機関とも近いとされるアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが仲介していた。(中略)
 
TTPは、パキスタン西部にある部族地域を拠点とする複数の武装組織の連合体。アフガンのタリバンと友好関係にある。2012年には女子教育の重要性を訴えていたマララ・ユスフザイさんを銃撃したほか、軍などを標的としたテロを繰り返している。

TTPのメンバーの多くは現在、パキスタン軍の掃討作戦から逃れる形でアフガン東部に潜伏している。

一方、アフガンのタリバン暫定政権の外務省幹部によると、パキスタンでテロを繰り返すTTPの存在は、国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた。

ただタリバンにとってTTPは友好関係にあるため、強制的に追い出すこともできず「パキスタン政府と和平合意を結んでもらうのが最善策」と考え、両者の仲介を試みたという。【12月10日 毎日】
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“国際的な承認を目指すタリバンにとって「重荷」となっていた”とも指摘されるTTP幹部がアフガニスタン領内で殺害されました。

****イスラム武装勢力の幹部殺害 パキスタンから逃亡****
パキスタン軍関係者などによると、隣国アフガニスタン東部ナンガルハル州で10日、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の幹部が殺害された。殺害の経緯は不明。副指導者に次ぐ立場と指摘され、TTP報道官も務めていた。
 
死亡したのはムハンマド・ホラサニ氏。軍は、ホラサニ氏がパキスタン治安当局へのテロ攻撃を数多く手掛けた後にアフガンへ逃亡し、新たな計画を練っていたと指摘している。
 
パキスタン政府とTTPは昨年11月、1カ月の停戦で合意。TTPが12月に停戦延長を拒否して以降、軍との戦闘が激化していた。【1月11日 共同】
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TTP幹部殺害にタリバン、パキスタンがどのように関与していたのか、関係はないのか・・・想像はいろいろできますが、真相はわかりません。

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アフガニスタン  タリバンに教育の権利を求めた少女 出口が見えない難民の暮らし

2021-12-31 22:05:59 | アフガン・パキスタン
(「私たちには教育を受ける権利がある」、イスラム主義勢力タリバンを前に、アフガニスタンの15歳の少女が声を上げました。【12月30日 日テレNEWS24】)

【アフガンに民主主義はなじまない(タリバン幹部) 選挙管理委員会を解体】
この1年、国際面のニュースで一番印象的だったのはアフガニスタンの政権崩壊とタリバン支配の復活でした。

状況から見て「時間の問題」とは思っていましたし、米軍幹部などの予想にも「そんなに長くは持たないのでは・・・」とも思っていましたが、政権側が抵抗らしい抵抗も出来ずに、これほど劇的に変化するとは・・・

タリバン支配の在り様は、これまでも度たび取り上げてきたところですが、欧米の批判をかわし、国家承認を取り付けたい狙いから、政権幹部からの旧タリバン政権当時に比べると比較的穏健な発言もあるものの、現場から報じられる女性の権利、人権、民主主義、国内融和などに関するその実態は「やはりタリバンに多くを期待するのは無理か・・・」という感は否めません。

最近のタリバン政権の表向きの言動も、「やはり・・・」という懸念を裏付けるようなものとなっています。

****タリバン、選管を解体=民主制への影響懸念―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は25日、選挙管理委員会を解体したと発表した。

報道担当者は「必要があれば再び組織する」と述べたが、タリバンはもともと民主制には懐疑的な立場を取ってきた。女性や少数派の意見を反映した包括的政権実現の可能性がまた一歩遠のいたのではないかと懸念されている。
 
地元民放トロTVによると、暫定政権のカリミ副報道官は25日、記者団に対し「欠員に伴い政府職員を募集中だ。不要のため解体された政府機関の職員は他の職務に充てるべきだ」と選管解体の正当性を主張した。暫定政権への移行後、女性職員の労働が規制され、タリバンの報復を恐れ、出勤を見合わせる旧民主政権職員も多い。
 
暫定政権は他にも議会に関連する省庁などを解体した。カリミ氏は「必要があれば再び組織する」と説明したものの、タリバン幹部は今年8月中旬に政権を掌握後、アフガンに民主主義はなじまないといった発言を繰り返しており、見通しは暗い。
 
トロTVによれば、アフガンの政治評論家サイード・ハールーン・ハーシミー氏は「共和制や民主主義の破壊の第一歩だ」と批判した。
 
アフガンではこのほか、暫定政権下での経済的混乱やタリバンの脅迫などに伴い、報道機関の閉鎖やジャーナリストの失職も続いている。政権についての情報を国民に提供する機会が失われ、危機感が広がっている。
 
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」(RSF)は今月20日、タリバンの政権掌握後にアフガン全体の6割に当たる6400人以上のジャーナリストが失職したと発表した。特に女性ジャーナリストは8割が職を離れた。その後殺害されるケースも続発している。【12月26日 時事】 
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タリバン支配のもとでの民主的な選挙、報道の自由を期待するのが「無理」というものでしょう。

【女性単独での遠出禁止 車内で音楽禁止 礼拝時間は停車 イスラム支配の現実】
女性の権利についても・・・・

****女性の遠出、男性伴わねば禁止 タリバン****
アフガニスタンで実権を握るイスラム主義組織タリバン暫定政権は26日、近親男性が同伴しない限り女性の遠出を禁止すると発表した。勧善懲悪省がソーシャルメディアに新指針を投稿した。
 
タリバンはさらに、全ての車両所有者に対し、髪をスカーフなどで覆っていない女性の乗車を拒否するよう求めた。車内で音楽をかけることも禁止される。
 
勧善懲悪省の報道官はAFPに対し「女性が45マイル(約72キロ)以上移動する場合、近親者が同伴しなければならない」と説明した。近親者は男性に限るという。女性が移動する場合、「ヒジャブ」の着用が求められるとも述べた。
 
タリバンは8月15日に実権を掌握すると、公的部門で働いていた女性の復職を禁じた。また、大半の女子生徒が中等教育を依然受けられていない。 【12月27日 AFP】
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女性単独での近場の外出を禁止していないだけ、まだましということでしょう。
ただ、遠出であれ近場であれ、女性が外に出ることへ厳しい目が向けられることになります。

音楽・テレビ・映画・サッカー・闘犬・凧あげなど市民生活における「娯楽」も旧タリバン政権では禁じられましたが、再びその兆しが。

****「車内で音楽禁止」「礼拝時間は停車」…タリバンのイスラム教解釈が先鋭化****
(中略)また、暫定政権の勧善懲悪省は、走行中の車内で音楽を聞くことを禁止し、礼拝の時間には停車することを義務づける通達を出した。イスラム教の規範を独自解釈して社会に適用する動きを加速させている。(後略)【12月26日 読売】
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「走行中の車内」に限定したのはどういう思惑か?
運転の妨げになるという“大義名分”で導入しやすい場面から「禁止」を導入し、やがては範囲を拡大しようというものでしょうか?

「礼拝の時間には停車」
以前、マレーシアの東海岸コタバルを観光したことがありますが、この地域はほとんどがイスラム教徒で、イスラム原理主義政党PASが支配する地域。 

広場を多くの屋台が埋める市場を散策していると、礼拝を告げるアザーンが鳴り響き、拡声器を抱えた男性が。 言っていることはわかりませんが、多分「お祈りの時間だ。みんなモスクへ行け」と言っているのでしょう。

大勢の人で賑わっていた市場は、客も売り手もほとんどいなくなりガランとした状態に。

誰も肉を焼いている途中でモスクに行きたいとは思わないでしょう。多分、逆らうと営業出来なくなるのでしょう。
「イスラム支配というのはこういうものか・・・」と実感しました。

【「なぜ女子は学校に行けないのでしょうか? 私たちには教育を受ける権利があります。」】
こうしたタリバン支配の「本音」が次第に明らかになる状況で、女性の教育を受ける権利をタリバンに求めた少女がいるとのこと。

****「教育を」タリバンを前に声を上げた少女****
「私たちには教育を受ける権利がある」、イスラム主義勢力タリバンを前に、アフガニスタンの15歳の少女が声を上げました。タリバンが実権を握り、多くの女子生徒が学校に行けない中、少女の勇気ある行動に、世界的な注目が集まっています。

■「学校に行く権利がある」マララさん届けた少女のメッセージ
2021年12月、ノーベル平和賞の受賞者で人権活動家のマララ・ユスフザイさんは、アメリカのブリンケン国務長官と面会した際、あるアフガンの少女の手紙を読み上げ、女子教育への支援を訴えました。

「学校や大学が女子に閉ざされている時間が長ければ長いほど、私たちの未来への希望は失われていきます。女子教育は、平和と安全を築くための強力なツールです。私たちには、学校に行く権利があるのです」

■少女はタリバンを前に、ある驚きの行動に…
この手紙をマララさんに託したのは、アフガン西部ヘラート州に住む、15歳のソトゥーダ・フォロタンさん。日本の高校1年生にあたります。この2か月前、タリバンの当局者ら200人を前に、ある驚きの行動に出ていました。

イスラム教の預言者ムハンマドの誕生日を祝う行事で、詩を朗読する予定だったソトゥーダさん。壇上に上がると突然、こう訴えました。

「ヘラートは知識と文化の街なのに、なぜ女子は学校に行けないのでしょうか? 私たちには教育を受ける権利があります。女子のために、学校の扉を開けてください」

タリバンの旗がたなびく壇上で「学校に戻りたい」と、自らの思いを語ったのです。地元メディアによりますと、彼女の勇気あるスピーチの動画はSNSでも話題となり、タリバンのメンバーの中にも称賛する声があったといいます。

■少女の訴えは、地元政府を動かした
旧政権下では、女子教育を禁じていたタリバン。21年8月に実権を掌握した後は、女子の通学を小学校については認めたものの、中学・高校についてはいまだに認めていません。

教師の母に育てられたソトゥーダさんは、こうした状況の中で、女子のクラスメートの思いも背負い、教育を受ける権利を求めて声を上げたのです。女性初の外務大臣になりたいという夢が、ソトゥーダさんの勇気の源だといいます。

スピーチからおよそ2週間後、ヘラート州では、中学・高校の女子の通学が認められたのです。

■女子教育の再開…教師らによる粘り強い交渉も
(中略)タリバン暫定政権が正式に中学・高校の女子生徒の通学を認めていない中、なぜヘラート州は女子教育の再開に踏み切ったのでしょうか。ソトゥーダさんの訴え以外にも、現場の教師や保護者らの取り組みが後押ししたといいます。

AP通信によりますと、ヘラート州では、教師や保護者らが地元のタリバン当局者と粘り強く交渉を続けました。暫定政権の許可なしには再開できないとする地元のタリバン当局者に対し、学校では男女が分離されており、女子には女性教師が教えることや、女子はヒジャブを身に着けることなどを徹底すると訴えたのです。その結果、州独自の判断として、女子の通学が認められました。

ヘラート州以外でも一部の地域で、中学・高校への女子の通学が認められています。しかし、あくまで各地域の独自の判断とみられ、首都カブールなど多くの地域では、女子生徒が学校に行けない状態が続いています。

■貧困や治安の悪化で「教育現場は崩壊」の声
また、国民の多くが日々の食事にも困っている中で、学校に子どもを通わせる余裕のある家庭は多くないのが現状です。「教育現場は崩壊している」カーブルの複数の中学や高校で教師をしている女性は、NNNの取材にこう訴えました。

女性は21年11月から教師の仕事に復帰したものの、学校に通えるはずの男子生徒も、貧困や治安の問題で、およそ2割しか通学できていないといいます。

12月には、教えている男子生徒が通学途中に誘拐され、身代金を要求されるという出来事も。家族が身代金を払い解放されたものの、男子生徒は精神的なショックで学校には戻れず、他の生徒や教師にも動揺が広がっているといいます。

また、いまだ学校に行けない女子生徒らは自宅で自習するしかなく、将来に希望を見いだせない状態だといいます。女性の元には「奨学金をもらって海外で勉強したい」という相談も寄せられています。

■高まる“児童婚”のリスク
さらに深刻な問題もあります。ユニセフ(=国連児童基金)は、「10代の女子たちが学校に戻れない状況が続くと、児童婚のリスクが高まる」と警鐘を鳴らします。

ある学校の教師は、イギリスBBCの取材に対し、「タリバンが実権を握って以降、15歳以下の女子生徒少なくとも3人が結婚を余儀なくされた」と証言しました。女子生徒が学校に行けず、家にいるだけの状況に家族が不満を募らせると、こうした児童婚の増加に拍車がかかるのではないかと危惧していました。

■2022年 女子生徒は学校に戻れるか
タリバンを前に、教育を受ける権利を訴えたソトゥーダさん。イギリス・フィナンシャルタイムズ紙の、21年の「最も影響力がある女性25人」にも選ばれました。

しかしその後、脅迫を受けるなどして、学校に行けない状況に逆戻りしてしまったといいます。「彼女はオリに閉じ込められたカナリアのようだ」父親は、ソトゥーダさんの近況について、地元メディアにこう語っています。

また、一部の中学・高校では、女子生徒の通学を再開できても、説明もなく再び禁止されたり、タリバンの戦闘員が通学途中に女子生徒の服装を確認したりするため、多くの女子生徒が恐怖から登校をやめてしまったケースもあるといいます。

タリバン暫定政権は、22年に新たな教育政策が承認されるまで、女子生徒が中学・高校に通うことは許可しないとしています。タリバンが今後、どのような方針を示すのか、国際社会による監視と検証が求められます。【12月30日 日テレNEWS24】
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少女の声に耳を傾けたタリバンも少なくなかったことでもわかるように、タリバンの中にも一定に女子教育の必要性に理解を示す者もいるのでしょうが、「宗教上の正義」を振りかざされたとき、そういう「理解」は抑圧されていまいがちです。

【社会にも受け入れられず、冬を迎え、一層厳しさを増す難民の暮らし】
厳しい状況はアフガニスタン後に暮らす人々だけでなく、様々な脅威から国を離れた難民も同じです。

****冬を迎え厳しさ増すアフガン難民家族の今***
イスラム主義勢力タリバンから逃れるため、アフガニスタンを脱出した大勢の難民たち。食料は不足し、満足な暖房器具もないまま冬を迎えている。あるアフガン難民家族に話を聞くと、故郷を捨て国外に逃れた彼らを待つ過酷な現実が浮き彫りになった。(中略)

■難民の受け入れはわずか、多くは「不法入国者」
イギリスにたどり着くことができた難民は幸運なほうだ。イギリスは約2万人のアフガン難民の受け入れを表明していて、彼らには居住や就労の権利が与えられる。

しかし、国外に逃れた全てのアフガン人がそうした待遇を得られるかというと、そうではない。

私は21年10月にトルコにやってきたアフガニスタン人の取材をした。彼らは密航業者に1人数百ドルの手数料を払い越境してきた「不法入国者」だ。「不法入国者」であるが故に正規の仕事には就けず、学校にも通えず、病院に行くことすらできない。もちろん治安当局に見つかれば拘束されてしまう。冬を迎え、彼らの生活は一層厳しさを増している。

彼らは今どのように暮らしているのか、オンラインで再び顔を合わせた。【取材日2021年12月16日】

■父親がタリバンに殺され…難民家族の今
話を聞いたのは母親(46)、長男(15)、二男(8)の3人家族。軍人だった父はタリバンに連行され、殺害されたという。身の危険を感じ、21年8月にアフガンを脱出、イランとトルコの国境近くにある街にたどり着いた。

寒さが厳しく、冬の最低気温はマイナス10℃近くにもなるという街。密航業者の仲介により、街はずれの民家の一室を借りて暮らしているが、部屋には暖房器具も給湯設備もなく、厳しい生活を送っている。母親は病気で働けないため、長男と二男が飲食店や商店の雑用で毎月日本円にして7000円程度を稼ぎ、生活を支える。

――食べ物は足りていますか?
(母)いいえ、残念ながら十分ではありません。

――家族の健康状態はどうですか?
(母)ここの寒さのせいで、家では二男がインフルエンザにかかり、せきをして熱を出していました。その前には、長男も病気になりました。私自身も腰の骨に問題を抱えていて痛みがあり、働けない上、家でもなかなか動けません。私たちは寒さと病気に悩まされています。

――病気になった場合、どうしていますか?
(母)こちらでは身分証明書を持っていないので、医者に行って診察してもらったり、処方箋をもらったりすることができません。治るまで、あるいは死んでしまうかもしれませんが、ただ家にいることしかできません。誰も私たちに関心を持っていません。そのため、状況は日に日に悪くなっています。

――将来の見通しについて、どう考えていますか?
(母)子どもたちの将来のために、どこかの国で教育を受けさせ、前に進んで行きたいと思っています。しかし、今の私たちにはトルコに滞在するための資格がありません。イスタンブールに移動するためのお金もありません。私たちは苦しんでいます。二男は週に100トルコリラ(約900円)で働いていますが、長男は先日仕事を解雇されてしまいました。

――滞在資格を得るための法的な問題について、サポートをしてくれる人はいますか?
(母)いいえ、法的問題についてサポートしてくれる人はいません。ここには誰も知り合いがいません。

■2人の子どもは学校に通えず生活費を稼ぐ毎日

――トルコで友達はできましたか?
(長男)トルコ語がわからないので友人ができません。私は一人で落ち込んでいます。

――状況は良くなっていますか?
(二男)いいえ、以前よりも状況は悪くなっています。私は仕事をしていますが、失敗をすると殴られ、または罰としてよりきつい仕事をさせられます。私にとっては最悪の状況です。

――今、何を一番望んでいますか?
(二男)自分と家族のために、平穏な日を過ごしたいです。毎日が良い日であってほしい。滞在の資格や身分証明書を得たい。良い人生を過ごしたいです。

(母)私は息子たちに良い未来を望んでいます。彼らが教育を受け、とても良い未来が待っていることを。もちろん、現在の生活で言えば、全てのものが必要です。洗濯機がない、冷蔵庫がない、お湯は出ない、暖房器具もない。私はたくさんの問題を抱えています。この部屋は寒くて、例えば壁に触れられないくらいです。病気にもなってしまいました。

(母)まずはトルコに受け入れてもらえなければなりません。病気になったら、医者に行かなければいけないのに、今私たちは医者に行くこともできません。

取材した家族は未来に全く希望を見いだせない今の状況に涙を流していた。

トルコ政府も難民を受け入れたい思いがないわけではない。しかし、現地の難民収容センターによれば、トルコはすでにおよそ500万人のシリア難民を受け入れていて、さらにアフガニスタンからの難民を受け入れる余裕はないのだという。

アフガニスタン難民の問題はG7、あるいはG20などで議論されている。人数が膨大な上に広い地域に拡散しているため手が回り切らないのが現状だが、引き続き国際社会の中での主要課題として位置づける必要があるだろう。

私が取材した家族のような、アフガン難民を取り巻く環境が、22年は少しでも改善されることを願ってやまない。【12月30日 日テレNEWS24】
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アフガニスタン国内に暮らす人にとっても、国を離れた難民にとっても、2022年がより良い年になるといいのですが・・・。

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