(【7月12日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】 かつての女子中等教育 教育の機会を奪われた少女たちは今・・・)
【続く女性権利抑圧 未だ再開されない女子の中等教育 失われた女性の就業機会】
アフガニスタンのタリバン政権は「イスラム法に反しない範囲」で女性の権利を守ると約束しましたが、その「範囲」はタリバンの解釈次第。特に問題となっているのは、女性が教育を受けにくくなっていること。
一時閉鎖していた大学は再開しましたが、女性には様々な制約があり、共学だったカブール大はいま、男女別学になっています。男女で週3日ずつ通学日を分け、女性は男性講師の授業を原則受けられません。女性講師は圧倒的に少なく、実際問題として女子学生の教育は大きく制約されています。
また、ほとんどの地域で女子の中等教育が閉鎖されたままとなっています。
国際的な批判にもかかわらず、この状況は当分続きそうな状況です。
****女子通学、再開要請せず アフガン大会議が決議****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権がイスラム聖職者や部族長ら全国の指導者を集めた大会議は最終日の2日、国家運営に関する決議を取りまとめ閉幕した。
暫定政権に対し、3月に延期された日本の中学・高校に当たる中等教育の女子通学の全面再開を要請しなかった。女性に対する抑圧的な政策が当面続くことになりそうだ。
首都カブールで開かれた大会議は昨年8月の実権掌握後初めて。決議は暫定政権にイスラム法の範囲内で教育や女性の人権に特に留意するよう要請したが、会議には女性が招かれず、女子教育に関する国内外の要請を半ば無視した形で終了した。【7月2日 共同】
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下記のタリバン最高指導者が出席した会議というのも、上記大会議のことと思われます。
****タリバン最高指導者、カブールを初訪問 集会で演説****
イスラム主義勢力タリバンの最高指導者で、表に出ることの少ないハイバトゥラー・アクンザダ師が、アフガニスタンの首都カブールを初めて訪れた。タリバン当局が1日、明らかにした。
アクンザダ氏は、「国家の結束」を議論するために集められた宗教学者約3000人の大規模集会で、演説をしたとされる。
集会は厳しい警備態勢が敷かれ、タリバンと無関係のジャーナリストは取材を許されなかった。演説は音声が放送された。しかし、アクンザダ氏の映像や写真は公表されていない。音声からは、同氏の出席が発表された際に、大きな歓声が上がったことがわかる。(中略)
アクンザダ氏は演説で、タリバンが昨年、アフガニスタンを支配したことについて、「アフガニスタン人だけでなく、世界中のイスラム教徒にとって誇りの源」だと称賛した。
また、タリバンの女性に対する扱いに対して国際社会から批判が続いていることにも、言及したとみられる。タリバンは、女性に公共の場で顔をベールで覆うよう指示する規則を出すなどしている。
国営バフタル通信によると、アクンザダ氏は、「神のおかげでありがたいことに、私たちは今、独立した国家だ。(外国人は)私たちに命令すべきではない。私たちの制度で、私たちは自分で決める」と述べた。
「私たちは唯一の神に身をささげている。神が好まない他者の命令は受け入れられない」
この集会ではこれまでのところ、女子教育に関する目立った議論はなされていない。アフガニスタンではほとんどの地域で、女子の中等教育が閉鎖されたままとなっている。この集会は、女性の出席を認めていない。
別のタリバン幹部は先に、「女性は私たちの母や姉妹であり、私たちは大いに尊敬している。息子たちが集会に出席すれば、その母親や姉妹もある意味、集会に関わっていることになる」と述べた。
アフガニスタンで女性の権利のために活動する人たちは、怒りと落胆を表明している。
BBCアフガン・サービスが取材した男女たちは、今回の集会を、「(国民を)代表するものではない」と批判。タリバンが自らの支配の正当化を目指すものだとした。
南部ヘルマンド州出身の男性は、「国民の口をふさぐために集まったに過ぎない」とコメント。
カブール在住で、登校を禁じられているバランという名の若い女性は、「似たような考えをもつ人たちの集まりだった。私がそう言っているのではなく(中略)みんながそう思って言っている」と話した。
「女性として、とても残念だ。(タリバンは)私たちを人間として尊重しない」
アフガニスタンでは昨年、タリバンが権力を掌握。外国の開発援助はほぼ打ち切られ、一部の銀行は制裁を科されるなどし、経済と人道の深刻な危機が続いている。
国連や慈善団体を通じた短期的な人道支援は続いているが、アクンザダ氏は「外国資金」に依存すべきではないと主張。アフガニスタン出身の貿易商らに対し、帰国して経済を再建するよう呼びかけた。
集会の会場付近では6月30日、銃声が聞こえた。
タリバンは、武装勢力「イスラム国」と、前政権とつながりのある「抵抗」勢力によるゲリラ攻撃に直面している。
タリバン当局は、今回の銃声事件をささいな出来事だとした。だが、タリバンの治安部隊に殺害された武装集団とされる映像が出回っている。
1日には、アクンザダ氏の演説会場の近くで、何発かのロケット弾が発射されたと報じられた。死傷者は報告されていない。【7月2日 BBC】
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なお、大会議では、停止中の女子中等教育の全面再開を聖職者グループが支持し決議に盛り込む方針でしたが、採決直前に議長の反対で削除されたとの報道も。
****女子通学再開、直前に削除 アフガン大会議で議長反対****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が首都カブールで開いた全国指導者会議で、停止中の女子中等教育の全面再開を聖職者グループが支持し決議に盛り込む方針を固めたのに、最終日の採決直前、議長の反対に遭い決議案から削除されていたことが15日までに分かった。複数の会議参加者が共同通信の取材に明らかにした。
欧米などはタリバンによる女性抑圧の象徴として女子教育の制限を厳しく非難、即時再開を求めている。議長は暫定政権が選任しており、国内外でさらに批判が強まりそうだ。【7月15日 共同】
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上記報道が事実とすれば、タリバン内部にも一定に女子教育再開を容認する考えが少なからず存在するようにも思えます。ただ、「イスラムの教えに反する。外国勢力の圧力に屈してはならない」という“タリバン的正論”を振りかざされると誰もものが言えないというのが、教条主義的体制では通常のことです。戦前日本の軍国主義体制も同様でしょう。
女子教育だけでなく、女性はかおを覆うことが求められる服装の問題、何よりも女性が働く機会が著しく狭められていることなど、女性に対する圧力が続いています。
****【アフガン】髪も抜け落ち… タリバン政権で失業 うつ病に苦しむ女性たち****
イスラム主義勢力タリバンの暫定政権発足後、たくさんの市民が仕事を失っています。特に生活においてさまざまな制限が課されている女性たちが、失業をきっかけにうつ病にかかってしまうケースが増えているといいます。(後略)【7月16日 日テレNEWS】
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【財政難のタリバン政権】
なお、日本メディアによると、昨年8月以降は財政難でタリバン戦闘員のほとんどが無給だとか。転職しようにも他に職はなく、多くは「国のためなら」と耐えているとも。食事はタリバン政権から提供されている模様。
あまり長期に維持できる状況でもないように思われます。やがてこうしたタリバン戦闘員の不満が噴き出す事態も想像されますが、その不満の矛先がどこに向けられるのかが問題のようにも。
【隣国パキスタンもIMF支援で綱渡り状態】
財政難のアフガニスタンということですが、タリバンを生み育てたとされる隣国パキスタンも多くの国同様に経済的苦境に喘いでいます。
****パキスタンの6月インフレ率、13年ぶりの伸び 補助金停止で燃料高****
パキスタンの統計局によると、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比21.3%上昇し、5月の13.8%から加速、過去13年で最大の伸びとなった。前月比では6.3%。
財政赤字抑制と国際通貨基金(IMF)の支援再開に向け、政府が燃料補助金を打ち切ったことから、燃料価格は5月末以降90%程度上昇している。
輸送価格は前年比62.2%上昇と最大の伸びとなった。CPI品目の3分の1程度を占める食品価格は25.9%上昇した。
パキスタンはここ数カ月間、高いインフレに悩まされている。カーン前首相は、経済への対応とインフレ率の上昇に対する不満が高まるなか、3月に燃料と電力への補助金を採用。しかし首相は4月に失職、新政権は補助金を廃止していた。
燃料価格はさらに引き上げられており、政府はIMFとの合意により財政赤字削減に向け一段と課税するとみられている。【7月4日 ロイター】
財政赤字抑制と国際通貨基金(IMF)の支援再開に向け、政府が燃料補助金を打ち切ったことから、燃料価格は5月末以降90%程度上昇している。
輸送価格は前年比62.2%上昇と最大の伸びとなった。CPI品目の3分の1程度を占める食品価格は25.9%上昇した。
パキスタンはここ数カ月間、高いインフレに悩まされている。カーン前首相は、経済への対応とインフレ率の上昇に対する不満が高まるなか、3月に燃料と電力への補助金を採用。しかし首相は4月に失職、新政権は補助金を廃止していた。
燃料価格はさらに引き上げられており、政府はIMFとの合意により財政赤字削減に向け一段と課税するとみられている。【7月4日 ロイター】
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燃料補助金を打ち切りもあって一応IMFからの追加融資は実務レベル合意しましたが、綱渡り状態にか変わりありません。
****パキスタン、IMFと実務レベルで合意-追加融資12億ドル供与で****
パキスタンは、国際通貨基金(IMF)と実務レベルでの合意に達した。IMFによる12億ドル(約1660億円)の追加融資供与やさらなる支援への道が開かれる重要な節目となりそうだ。
IMFは声明で、2023年6月末までの拡大信用供与措置(EFF)延長を検討する意向も表明。理事会の承認が得られれば、追加融資が可能となり、パキスタンへのEFF融資枠は総額で約70億ドルになるという。
IMFからの支援は、今後のデフォルト(債務不履行)の可能性回避と、他の国際機関や友好国からの追加支援に道を開くことにつながり得る。パキスタンは、外貨準備高が減少する中、今後1年以内に債務返済や輸入代金支払いで少なくとも410億ドルを必要としている。
事情に詳しい政府当局者1人によると、12億ドルの追加融資はIMFからの最終的な承認を経て8月に行われる見込みだ。【7月14日 Bloomberg】
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【パキスタン・アフガニスタンの石炭をめぐる攻防 「タリバンが自己主張を始めた」?】
その苦境のパキスタンが目をつけたのが、隣国アフガニスタンの安価な石炭。
タリバン支援で関係が深い両国ですから、話はスムーズにいくか・・・と思いきや、現実はそう容易ではないようです。
****タリバン、パキスタンの石炭輸入に反発 統治の正統誇示****
アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンは、エネルギー不足の隣国パキスタンに対する石炭の輸出価格をこれまでの2倍以上に引き上げる方針を示した。
ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料は世界で逼迫しており、資源高を利用して外貨獲得を目指す。保護を受けてきたパキスタンに強い姿勢をみせることで、アフガン統治の正統性を誇示する狙いもある。
パキスタンは発電用をはじめとする石炭の7割を南アフリカから輸入してきた。しかし、この数カ月間は石炭価格が高騰し、十分に調達できていない。エネルギー不足による停電で市民生活やビジネスが打撃を受けている。天候不順や洪水も起こり、パキスタンの状況は一段と悪化している。
パキスタンのシャリフ首相は6月、品質がよく南アフリカ産よりも安いアフガン産の石炭の輸入を承認した。外貨不足のため、パキスタン通貨建てが条件だ。「アフガン産の石炭を購入すれば、輸入にかかるコストを年22億ドル(約3000億円)以上、節約できる」と、パキスタンの国営ラジオは報じている。
パキスタンの意向に対し、アフガン側は石炭に30%の輸出関税を課し、価格はこれまでの1トン90ドルから同200ドルに引き上げると表明した。
取材に応じたアフガンの鉱業・石油省の報道官は「国際市場での石炭価格は1トンあたり約350ドルだ。アフガンは石炭の輸出に関税をかけ、国際相場(に近い価格)で販売して地下資源を活用する」と説明した。
報道官は、アフガン側が石炭輸出に関するいかなる合意にも署名していないと明かした。
パキスタンはこれまで、公にはタリバンの姿勢への反応を避けてきた。同国のイスマイル財務相は地元メディアに対し、パキスタンはアフガンからの石炭輸入に関心を持つが、それは手ごろな価格で購入できることが前提だと話している。
パキスタンはタリバンに影響力を行使してきたとみられている。タリバンが今回、パキスタンの窮状に手を差し伸べようとしない理由について、専門家には「タリバンが自己主張を始めた」との見方がある。
アフガンが拠点の政治アナリストは「割安なアフガン産の石炭をパキスタン通貨で購入するという同国首相の表明は、タリバンの指導部に対する(国内の)批判を招いた」と分析する。「タリバンは、パキスタンに反発することで、アフガン統治の正統性を確保し、自分たちがパキスタンの代理人だとの一般的な見方を払拭しようとしている」とも話す。【7月14日 日経】
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パキスタンとアフガニスタンの微妙な関係は4月18日ブログ“パキスタン アフガニスタンを空爆 TTPをめぐる微妙な関係”でも取り上げましたが、「タリバンが自己主張を始めた」のかどうか・・・・興味深いところではあります。
【アフガニスタン戦争中の英軍特殊空挺部隊の蛮行 戦場の狂気】
話は変わりますが、アフガニスタン関連で報じられた衝撃的な報道。衝撃的と言うより「やっぱりね・・・」と言うべきか。
****繰り返し違法殺人か=アフガンで英特殊部隊―BBC****
アフガニスタン戦争中の2010〜11年、現地に派遣された英軍特殊空挺(くうてい)部隊(SAS)が、拘束者や非武装の人々の違法な殺害を繰り返した疑いが浮上した。BBC放送が12日、入手した軍の内部資料を基に報じた。半年間の作戦活動中に54人を殺したとみられる部隊も存在するという。
BBCは数百ページに及ぶSASの作戦に関する資料を分析。南部ヘルマンド州では「殺すか捕まえるか」と称した奇襲作戦が繰り返され、隊員の証言によると、非武装とみられる拘束者を殺害したり「誰が一番多く殺せるか」競争したりした。現場にAK47自動小銃を置いて、武装した相手を殺したと釈明する工作も行われたという。
SAS首脳は「違法な殺人」の報告を受けながら、軍警察に連絡しなかった。極秘メモで、違法な殺人を行う「意図的な方針」があった可能性を指摘した高官もいた。
SAS本部に勤務経験のある高官はBBCに「一晩で殺された人数が多過ぎる。(資料にある)説明も意味を成さない。拘束された者が死ぬことはあってはならない」と批判し、「深い懸念」を表明した。【7月12日 BBC】
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真偽をめぐり論争もある「百人斬り競争」を連想させるような記事ですが、話は英特殊部隊だけのものではないでしょう。一番多く存在していたのは米軍ですから・・・。
アフガニスタンに限らず戦場では同様の蛮行・狂気が繰り返されますが、いったんは追いやられたタリバンが復活したこと、タリバンが外国の要請を頑なに拒否することの背景には、こういう現地の人間の命をもてあそぶような現実があるのかも。上から目線で人権や民主主義を説教される筋合いはない・・・ということか。