孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  相変わらずのタリバンの言行不一致 深刻化する飢餓と資金難 疑問視される統治能力

2021-11-01 22:26:53 | アフガン・パキスタン
(国内各地で住む場所を失い、首都の仮設シェルターに避難したアフガニスタンの子供たち(10月9日、アフガニスタン・カブール)【10月26日 BBC】)
 
【不明確な統治方針 相変わらずの言行不一致も】
アフガニスタンで実権を掌握しているイスラム武装勢力タリバンの統治がどのようにものになるのか、旧タリバン政権時代のようなイスラム原理主義に基づく(と、彼らが主張する)過酷なものになるのか、一定に女性・少数民族などの人権が守られるものになるのか・・・未だによくわかりません。

(国際的な国家承認を求めている)報道官など幹部からは、従来よりは融和的な発言もなされますが、実際に現場でおきていることは旧政権時代を彷彿とさせるようなことも。

実際には変わる気がないのか、末端兵士にまで支持が徹底されないのか、内部に従来と同様な過激な主張に固執する勢力が存在するのか・・・。

たまに、“変化”をうかがわせるような言動も。

****アフガンのクリケット代表が国際試合で勝利…娯楽に否定的なタリバンも祝意****
アフガニスタンの国民的スポーツ、クリケットの男子代表チームが25日、アラブ首長国連邦(UAE)での国際試合で勝利した。本格的な対外試合は、アフガンの親米民主政権が崩壊した8月以降では初めて。アフガン国民にとっては、一筋の希望の光となった。
 
代表チームは、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧した後も、国外で練習を続けていた。25日のスコットランド戦では、国歌斉唱でむせび泣く選手もいた。観客席ではサポーターがアフガンの黒、赤、緑の国旗を懸命に振った。
 
カブールの建築士の男性(39)は、電話取材に自宅で友人とテレビ観戦したと語った。タリバンの実権掌握後は仕事がなく不安な日々を送るなか、「代表チームが幸福をもたらしてくれた」と喜んだ。
 
本紙通信員によると、娯楽に否定的なタリバンを恐れて、路上などで喜びに沸く人の姿は見られなかった。タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は試合後、ツイッターに「全ての愛国者に祝意を表す」と投稿した。人心をつかもうとの思惑がありそうだ。【10月29日 読売】
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娯楽を禁じていた旧政権時代に比べると、報道官が祝意を表すというのは“変化”です。
でも、国内で練習が出来るような環境があるのでしょうか?
以前幹部から「女性がクリケットをする必要はない」といった発言もありましたが、女性のスポーツは?

一方で、やはり変わっていないのでは・・・と思わせることは多々。

****披露宴で招待客3人射殺、音楽演奏が原因か アフガニスタン***
アフガニスタン東部ナンガハル州で開かれた結婚披露宴で、招待客3人が射殺される事件が起きた。イスラム主義勢力タリバンの31日の記者会見によると、音楽の演奏が原因だったと思われる。

記者会見したタリバンの報道官によると、29日夜にナンガハル州で行われた結婚披露宴で、タリバンのメンバーを名乗る容疑者3人が招待客らを銃撃した。地元のジャーナリストはCNNの取材に対し、少なくとも2人が死亡、10人が負傷したと話している。

タリバンの報道官は、音楽演奏を理由とする殺人は許されることではないと述べ、個人的な争いを原因とする事件だったのかどうかを調べているとした。

報道官のツイッターによれば、容疑者らは銃撃前にタリバンのメンバーを名乗り、音楽を止めるよう要求していた。

ただ、容疑者が実際にタリバンのメンバーだったのかどうかについて、報道官は明らかにしていない。容疑者3人のうち2人は逮捕されたが、もう1人は逃走したという。

タリバンは結婚式など人が集まるイベントで音楽を演奏することは認めていないものの、今年8月に実権を握った後も禁止命令は出していない。

しかし8月下旬にはフォークシンガーの男性が自宅からひきずり出されてタリバンに殺害される事件が発生。同国のミュージシャンは、楽器を演奏しないよう指示されたと証言している。

1996〜2001年のタリバン政権下では、ほとんどの音楽が非イスラム的だとして禁止されていた。【11月1日 CNN】
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明確に音楽を禁止はしていないが、“音楽に関しての見解を示していないが、タリバン幹部は娯楽としての音楽を依然として良しとせず、イスラム法に反するとみている。”【10月31日 AFP】という事情が背景にあるようにも。

“音楽演奏を理由とする殺人は許されることではない”・・・・殺人は許されないが、殴って楽器を没収するぐらいは許されるのか?・・・人権・市民生活を尊重・保証する基本的な考えを明確に示し、それに違反する末端兵士がいれば厳罰に処するという実際の行動が示されない限り、タリバン支配を容認することはできません。

【「世界最悪の人道危機の一つに陥っている」(WFP)】
ただ、政変で経済が混乱し、国際支援は途絶し、干ばつやコロナ禍もあって従来以上に飢餓・食糧難が深刻化する事態に、人道援助は必要になるところが、国際社会の対応の難しいところです。

****アフガニスタン、人口の半分以上が飢餓状態に WFPが報告書で予測****
国連世界食糧計画(WFP)は25日、アフガニスタンで11月以降、人口の半分以上にあたる2280万人が飢餓状態になると予測した報告書を発表した。「世界最悪の人道危機の一つに陥っている」としている。
 
報告書によると、すでに9〜10月、前年同期に比べて30%増となる1900万人が飢餓状態に陥った。干ばつや新型コロナウイルス感染に加え、8月にイスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したことで、国際的な支援が滞ったという。
 
11月〜来年3月はさらに食料不足が深刻化し、飢餓に苦しむ人口が前年同期から35%増え、国連が調査を始めて以来最悪の水準になる恐れがあると警告した。特に5歳未満の子どもは年末までに、320万人が栄養失調に陥る可能性があるとみている。
 
今回はまた、失業者の増加や現金不足が原因で、都市部の住人も地方と同じ割合で食料不足にあることが分かった。中流階級だった層も飢餓状態になる可能性があるという。
 
WFPは「支援がなければこの冬、何百万人もの人が移住するか餓死するかの選択を迫られることになる」として国際社会に支援を呼びかけている。【10月25日 朝日】
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これから厳しい冬が訪れます。事態の悪化が懸念されます。

【米中 人道支援で影響力増大を狙う】
アメリカを含めた国際社会も人道支援には同意していますが、現実問題として、タリバン政権の性格が明確にならない状況では、政権を利することにならない形での人道支援というのは効率が悪く、援助国側のモチベーションも上がらないところがあるでしょう。

****タリバン、「アメリカが人道支援で合意」 アフガン撤退後初の対面協議が終了****
2アフガニスタンを支配する武装勢力タリバンと、米政府代表団の、米軍撤退後初の直接協議は10日、2日間の日程を終えた。協議では過激派勢力の封じ込めやアメリカ国民の脱出、人道支援の提供などが話し合われた。

米国務省のネッド・プライス報道官は、タリバンについては行動で判断するとしつつ、協議は「率直でプロフェッショナル」なものだったと述べた。

アメリカは、対面協議を再開したからといって、タリバンをアフガニスタンの正統な政府として承認したわけではないと強調している。
タリバンは10日夜に声明を発表し、アメリカがアフガニスタンへの人道援助の提供を開始することに合意したと主張した。

同組織は、「アメリカ代表団はアフガニスタンの人々に人道支援を行い、ほかの人道支援団体が援助を行うための施設を提供すると表明した」としている。

また、「人道支援を必要としている人々に、透明な形で届けるため、慈善団体と協力し、原則に基づいた外国人の移動を促進する」と付け加えた。

一方でアメリカはこれまでのところ、こうしたタリバンの主張内容を正式に認めてはいない。

米国務省のプライス報道官は、アメリカとタリバンの双方は「アフガニスタンの人々に直接、精力的な人道支援」を提供することについて協議したと述べたものの、詳細は明らかにしなかった。

また、「米代表団は、安全保障やテロに関する懸念、アメリカ国民やそのほかの外国人、アフガン人協力者の安全な移動、そしてアフガン社会のあらゆる側面に女性や少女が有意義な形で参加することなど、人権に焦点を当て」て協議したと話した。

一方タリバンは、過激派勢力「イスラム国(IS)」系の地元組織「ISKP(イスラム国ホラサン州)」(あるいはISIS-K、IS-Kなど)の活動対応に、米政府と協力することはないと述べた。

ただ、カタール・ドーハを拠点とするタリバンのスハイル・シャヒーン報道担当はAP通信に対し、タリバン政権が「単独でダーイシュ(ISの別称)に対処できる」と述べた。

アフガニスタンでは8日、米軍撤収以降最悪の自爆攻撃が起きている。北部クンドゥズのモスク(イスラム教寺院)を狙った自爆攻撃で、少なくとも50人が死亡し100人以上が負傷した。アフガニスタンでの少数派、イスラム教シーア派の寺院を標的にしたこの攻撃について、武装派勢力「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。【10月11日 BBC】
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ここでも中国は、人権などを重視する欧米とは一線画した速やかな支援で存在感を強めようとしています。

****中国外相、タリバンに支援申し出る****
中国の王毅国務委員兼外相は25日、訪問先のカタールの首都ドーハで、アフガニスタンのタリバン暫定政権のバラダル第1副首相代行と会談した。

中国外務省の発表によると、王氏は「力の及ぶ限り人道支援物資を提供したい」と述べ、支援を申し出た。王氏は「米欧に(対タリバン)制裁を解除するよう促している」と強調する一方、米欧が懸念を示している女性の権利について「適切に保護することを望む」とくぎを刺した。

新疆ウイグル自治区の独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」のアフガンでの活動を取り締まることも求めた。【10月26日 産経】
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中国としても、新疆ウイグル自治区のイスラム主義を刺激しないように、タリバンのテロ対策が明確に示されない間は国家承認までには至らない状況です。

もっとも、イスラム原理主義を声高に唱えるタリバンは、中国の新疆でのイスラム教徒弾圧には“不干渉”姿勢のようです。このあたりは非常に現実的です。

【懸念される基本的な統治能力の欠如】
深刻な飢餓が懸念される状況で、国家承認がなされず国外資産は凍結されたままで、財政的に枯渇していますが、そもそもタリバンは(ゲリラ戦の能力はあっても)国内統治の能力を有しているのか?という疑問もあります。

****労働の対価は小麦のみ 露呈するタリバンの「無能さ」****
反故にされた「約束」
イスラム過激派組織タリバンがアフガニスタンを実効支配してから2カ月半が経過した。
タリバンは国際社会に対し、自らを「アフガンの正当な代表」としてアピールすべく、「女性の権利はイスラム法の範囲内で保証する」「女性も就労できる」「女子も学校に行くことができる」「誰に対しても報復しない」「全てのアフガニスタン人の安全は保証されている」「包括的政府を作る」などと数々の「約束」をしたが、それらはことごとく反故にされているのが現状だ。

首都カブールの女性公務員はほぼ全員が仕事を奪われ、「女子トイレの清掃」といった女にしかできない仕事のみが許されると市当局は発表した。ほとんどの地域では女子に許されているのは小学校への登校のみで、中学、高校への通学は禁じられたままである。

女性警官や女子スポーツ選手の他、旧政府関係者や同性愛者などが拘束されたり惨殺されたりしているという報告も相次ぎ、アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウオッチなどの国際人権NGOはタリバンが少数派ハザラ人から家屋や畑を奪い強制移住させていると報告している。タリバンはイスラム教スンニ派であり、ハザラ人はシーア派だ。

統治能力の欠如
問題はこうした人権侵害だけにとどまらない。タリバンにはそもそも、統治能力というものが完全に欠如している現実も明らかになってきている。

タリバンはアフガンを「占領」する米軍に対する憎しみを煽り、米の傀儡政権である旧政府の腐敗・不正を強調し、暴力とテロを武器に「敵」を倒してアフガンの実効支配に至ったものの、今や4000万人のアフガン国民を守り、衣食住を確保し、インフラを整備してその生活を支え、経済を立て直して国を再建しなければならない責任を負う立場に立たされている。

しかしタリバンにその能力がほぼ完全に欠落していることは、末端のタリバン兵たちも証言している。彼らは米軍を追放し米の傀儡政府を打倒するための「ジハード」に参加すべくタリバン入りしたものの、タリバンからはほとんど給与をもらえず日々の食料にも事欠く状況に置かれている。役人や教員にも給与が支払われない状況が続き、これもアフガンで教育が滞っている一因となっている。

世界最悪の人道危機
国連の世界食糧計画(WFP)は、4,000万人いるアフガン人の95%が十分な食事を得られておらず、半数以上にあたる2280万人が深刻な食糧不足に直面しており、世界最悪の人道危機に陥っていると警告している。

苦境に立たされたタリバン政府が10月末に発表したのが、「小麦で仕事を」という「失業キャンペーン」だ。これは水路の建設や掘削作業などの肉体労働と引き換えに小麦を渡すというもので、全国の主要都市で展開され、数万人を「雇用」する予定だという。

タリバン政府当局は「失業対策のための重要な一歩」と胸を張るが、「雇用」とは言っても労働者に賃金は一切支払われない。対価は小麦のみである。

治安維持も「無能」
タリバンは治安維持においても「無能」であることを露呈させている。

8月末の米軍撤退直前には首都カブールの空港で自爆テロが発生し、180人以上が死亡した。10月には2週連続でシーア派モスクが自爆テロの標的となり、多数の死傷者が出た。いずれも実行したのはタリバンと反目する「イスラム国」だ。

アフガニスタンでは2015年から「イスラム国」の支部である「ホラサン州」がテロ活動を展開している。戦闘員数は現在4000人ほどと見積もられているが、そのうち約半数はタリバンが政権をとった際に「解放」されたか脱走したメンバーだとされる。タリバンの「おかげ」で勢力を倍増させた「イスラム国」は、8月以降アフガンで既出の自爆テロを含め既に40回近く「作戦」を実行している。

「イスラム国」は「作戦」の犯行声明で、タリバンの検問を容易に突破できたと度々強調しタリバンの「無能」を嘲笑しているだけでなく、タリバンは中国政府の反イスラム政策に協力してウイグル人迫害に手を染めている、タリバンは米軍と協力しているなどと批判し、タリバンのことを「背教者」と非難している。

タリバン政府は「イスラム国」は長続きしない、自分たちだけで十分対処可能でありアメリカと協力するつもりなどないとその脅威を過小評価しているが、治安の悪化は止まらない。10月末に公開された「イスラム国」の週刊誌『ナバア』は、1週間のうちにアフガンだけで215人の「敵」を死傷せしめたと報告している。

食糧難、経済難、そして治安悪化のいずれも、その直撃を受けるのはアフガン国民だ。アフガン国民の窮状を救うには、タリバンが罪のない人々に暴力を働く残虐非道な過激派組織であることだけでなく、その「無能さ」についても、国際社会が理解を共有する必要がある。【11月1日 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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労働対価が小麦というのは、それだけタリバンが資金的に苦しい状況にある、払いたくても資金がないことを示すものでしょう。

****タリバン、労働対価に小麦支給 飢餓対策で****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織「タリバン」は24日、飢餓対策として労働の対価に小麦を支給する計画を発表した。
 
タリバンの報道担当者ザビフラ・ムジャヒド氏は首都カブール南部で記者会見し、計画は主要都市で展開する予定で、カブールだけでも男性4万人の雇用につながると説明した。
 
ムジャヒド氏は「失業との闘いにおける重要な一歩となる」とし、労働者は与えられた仕事に励まなければならないと述べた。
 
アフガンはタリバンの実権掌握以前から貧困や干ばつ、電力不足、経済低迷に直面していた。現在、厳しい冬を迎えようとしている。
 
計画の対象は、冬に飢餓に直面する恐れが最も大きい失業者で、金銭は支払われない。実施期間は2か月間。
 
カブールでは小麦1万1600トン、ヘラートやジャララバード、カンダハル、マザリシャリフ、プリフムリーなどで合わせて約5万5000トンが支給される。
 
カブールでの労働は、干ばつ対策の流雪溝や貯水池の敷設工事といったものになる。 【10月25日 AFP】
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小麦支給でも、何もしないよりはましでしょう。
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アフガニスタン テロと飢餓に直面するタリバン統治 タリバンに求められる国内外の声に耳を傾ける姿勢

2021-10-16 22:39:26 | アフガン・パキスタン

(カブールで6日、タリバンがパスポート発行を再開すると発表したことを受け、オフィスに殺到した人々=ロイター。パスポートを取得して国外に脱出したいと願う人たちが多い【10月15日 朝日】)

【タリバン支配を不安定化させるテロ攻撃と食糧難・飢餓】
タリバンが統治するアフガニスタンでは、敵対するIS系勢力による大規模テロ攻撃が続いており、また、食糧難・飢餓が深刻化していることで、タリバンの統治能力に疑念を抱かせるような不安定な状況が続いています。

****2週連続で大規模テロ タリバンに打撃 ISが犯行声明****
アフガニスタン南部カンダハルのイスラム教シーア派のモスク(礼拝所)で起きた爆発で、スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)系の「ホラサン州」(IS−K)が15日、犯行を認める声明を出した。AP通信は爆発による死者が47人、負傷者が70人になったと報じた。

国内では8日にも北部クンドゥズでIS−Kによる自爆テロが発生し、50人以上が死亡した。2週連続で大規模テロが起きたことで、国内の実権を握ったイスラム原理主義勢力タリバンの治安維持能力が疑問視されている。

声明によると、IS−K戦闘員2人が警備員を射殺してモスクに侵入し、礼拝中の住民の間で自爆したという。IS−Kは敵対するタリバンへの攻撃とともに、国内少数派のシーア派住民を狙ったテロも繰り返している。【10月16日 産経】
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かつては、タリバン自身が(IS系と異なり、一般市民は対象としないとはしていましたが)自爆テロなどで政権を揺さぶっていましたが、現在はIS系勢力のテロに苦しむというのも皮肉な事態です。

テロも重大な問題ですが、より深刻・広範な問題は食糧難・飢餓の問題。

今日、10月16日は「世界食料デー」とのことですが、WFP(国連世界食糧計画)日本事務所は15日、「アフガニスタンの95%の家庭が十分な食料を得ることができていない」と支援を呼びかけています。

アフガニスタンの食糧難はタリバン支配以前からの問題ですが、タリバンが支配権を掌握して以来、経済は混乱し、頼みの綱の国際支援も滞り、事態は更に深刻化しています。

****アフガ二スタン 多くの国民が食事をとれない危機的な状況****
アフガニスタンでは、ことし8月にイスラム主義勢力、タリバンが再び権力を掌握して以降、現金不足などで経済の混乱が続いていて、多くの国民が十分な食事をとれない危機的な状況となっています。

アフガニスタンでは、海外にある政府の資産が凍結されるなどして現金が不足しているため、多くの人が給料を受け取れないうえ、仕事を失った人も多く、経済状況が極端に悪化しています。

さらに、ことしの干ばつの影響に加えて、再び権力を握ったタリバンの統治の行方を見極めようという各国の人道支援も滞り、食料不足が深刻化しています。

WFP=世界食糧計画によりますと、アフガニスタン国内で毎日の食事を十分にとれない人は、ことし8月のタリバンの復権の前でも80%いましたが、その数はタリバンが権力を握ったあと急増して、現在は、国民の95%に上るということです。

中でも子どもたちの食料不足は深刻だということで、WFPは、年末までに5歳未満の子どもたちのおよそ半数が急性の栄養失調となり、少なくとも100万人が命を落とす危険性があると警告しています。

WFPが人道支援に必要な資金は、年末までに1億ドル(日本円でおよそ110億円)が足りないということで、各国に対し緊急の支援を呼びかけています。

子どもたちの施設 支援届かず 食事提供できなくなるおそれ
首都カブールにある施設では25年余りにわたり、親を失った子どもたちなどに簡単な読み書きを教えたり、温かい食事を提供したりしてきました。

毎日この施設に通うアリシュ・シャハユムさん(13)は5年前、アフガニスタン政府軍の兵士だった父親がタリバンとの戦闘で亡くなりました。

母親と2人の弟を養うため、路上でプラスチックの袋を売る毎日ですが、一日の稼ぎは400円足らずほどしかありません。

学校にはこれまで一度も通ったことがないといいます。日々、厳しい生活を送るアリシュさんにとって、施設で提供される温かい食事がいちばんの楽しみだといいます。

この日出されたのはごはんと豆の煮込みで、アリシュさんは「ここの食事はおいしいです。一日のうちで食事と呼べるのは、このランチしかありません」と話していました。

しかし、タリバンの復権以降、アフガニスタンの経済が危機的な状況となり、施設では子どもたちに食事を提供できなくなるおそれが出ています。

これまでNGOを通じて施設を支援してきたアメリカやヨーロッパ各国はタリバンの統治の行方を見極めようと、援助を見合わせました。

その後、各国は今月になって国連を通じた人道支援への資金の拠出を表明しましたが、まだ施設への援助は届いていません。

もともと施設の予算が限られ、肉などの高価な食材は使えませんでしたが、物価の高騰もあって十分な食材を調達することができず、保存していた米や豆を使った料理で何とかしのいでいるといいます。

施設の担当者は「支援金が届かず困難に直面しています。いつになったら資金が調達できるのか、いつまで子どもたちへの支援が続けられるのか分かりませんが、最善を尽くしたいです」と話していました。

食事を終えたアリシュさんは「施設は僕にとって家のようなものです。もし行けなくなったら食事も食べられなくなり、どうしたらよいか分かりません」と不安な様子で話していました。

WFP「目の前で状況がみるみる悪化している」
NHKのインタビューに応えたアフガニスタン事務所のメアリー・エレン・マクグロアーティ代表は、現在のアフガニスタンの食料不足について「200万人以上の子どもたちが栄養失調の危機にあり、信じられない割合に増えています。これが本当の危機です。目の前で状況がみるみる悪化しています」と話し、強い危機感を表しました。

そして「最も苦しむのは子どもと女性です。彼らは食べることもできず、体を温めることもできないのです」と訴えました。

支援が必要な人が増える中、WFPは今、深刻な資金不足に直面していて、冬が近づく中、状況の悪化に懸念を強めています。

冬になると特に北部の山岳地帯では、支援物資を運ぶルートが雪に覆われて通行できなくなるため、今のうちに物資を調達する必要がありますが、資金不足で確保できず、食料などを届けられないおそれがあるということです。

マクグロアーティ代表は「年末までに1400万人に支援を行いたいので、緊急にあと1億ドルが必要です。私たちは家族や子どもの平和やよりよい暮らしを願いますが、それはアフガニスタンの人も一緒です。世界のどこに住んでいても、私たちは同じ人間なのだということを忘れないでほしい」と訴えました。【10月16日 NHK】
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WFPの支援活動については、タリバンもその活動を保証しているようです。しかし、女性の就業について現時点では限定的にしか認めていないタリバンの姿勢によって、女性スタッフは不安を抱えながらの活動にもなっています。

そのたりの事情について、WFP日本事務所は以下のようにも語っています。

****支援活動の安全を確保も、女性スタッフに不安****
(中略)
――支援活動で危険を感じることは?

タリバンは、自分たちが人道支援を必要としていることを理解していて、私たちは標的ではないと保証しました。私たちは何年にもわたってタリバンに対応してきました。アフガンは一夜にしてタリバンに占拠されたわけではありません。私たちはタリバンと交渉して人道的アクセスを確保し、戦闘に巻き込まれることを回避してきました。そのため、国連WFPの活動に関しては、継続するのに十分な安全性があると考えています。(中略)
――女性スタッフへの影響は?

その質問に一言で答えるなら「ある」です。女性スタッフは大きな不安を抱えています。現在、80人の女性スタッフが働いています。何人かはマザリシャリフ(北部バルフ州の州都)やファイザバード(北東部バダフシャン州の州都)、そして私たちがカブールで運営している国連人道支援航空サービスで、すでに仕事に復帰しています。

しかし、タリバン暫定政権のトップレベルから女性スタッフの職場復帰が認められているとの確証が得られているとはいえ、仕事をすることに不安を感じる人もいます。現地のタリバン指揮官によって、状況が違うことがあります。女性スタッフは、出勤した場合に標的にされる可能性があることを非常におそれています。

――どのように対処している?

スタッフを強制的に出勤させることはありません。彼女たちが不安を感じた場合、可能な限りリモートで作業します。私たちはタリバンの指導者に対して、性別を問わず、すべてのスタッフの出勤を認め、国連機関が取り組んでいる職務の遂行を妨げてはならないと訴えています。私たちは人道的な理由で、人道的な原則に基づいて活動しています。独立し公平であり、私たちの活動やスタッフに対するいかなる干渉も受け入れることはできません。【10月15日 日テレNEWS24】
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【国際社会は人道支援では一致するも、制裁解除などについてはタリバンの姿勢を見極めてから】
こうした事態に国際社会も児童支援の必要性では一致していますが、欧米諸国はタリバンの人権、特に女性の権利に対する姿勢が明確に示されていない現状では制裁解除や国家承認は行わない方針で、人道支援が十分に機能するか不透明な部分もあります。

また、中国も人道支援では一致するものの、欧米とは異なる独自のアプローチに力点を置いています。

****G20首脳がアフガン情勢を協議 首相、年内220億円の支援表明****
主要20カ国・地域(G20)は12日、アフガニスタン情勢について初めてとなる首脳レベルの臨時会合をオンラインで開いた。岸田文雄首相にとって就任後初の国際会議への参加となった。

各国は人道支援の重要性を強調。ただ、中国の習近平(シーチンピン)国家主席やロシアのプーチン大統領は参加せず、足並みの乱れが懸念されている。

8月にタリバンが権力を掌握して2カ月近くが経ち、アフガニスタンでは人道危機が深刻化。国連世界食糧計画(WFP)によれば、1400万人が深刻な食料不足にあり、320万人の子どもたちが深刻な栄養失調に陥る恐れがある。
 
一方で、タリバンへの経済制裁による資産凍結や援助資金の停止によって国内経済は財政難にある。

国連のグテーレス事務総長は11日、人道支援を続けるためにも「アフガン経済の崩壊を何としても防ぐ必要がある」と訴えた。だがタリバンへの制裁解除に応じるかどうかは各国の意見が割れており、人道支援に向けてG20が歩調を合わせられるかが焦点となっている。
 
米ホワイトハウスは会合後、テロ対策や国外退避を望む人々の安全確保について議論したと発表した。また「国際機関を通じてアフガニスタンの人々に直接人道支援を届け、女性や少数派を含む全ての人々の基本的人権を促進することを各国が再確認した」とした。
 
ただ、米国はタリバンをテロ組織に指定しており、経済制裁を早期に解除するつもりはない。制裁維持によってタリバンに圧力をかけつつ、女性の権利尊重やテロ対策などの要求事項を守らせたい考えだ。タリバンへの圧力を強めるためにも、各国との協調が重要となる。
 
日本政府によると、岸田首相は人道危機に対応するため、6500万ドル(約71億円)規模の新規分を含め、今年中に総額2億ドル(約220億円)の支援を行う考えを表明。「タリバンがテロ組織との関係を断ち切ることが不可欠」との認識を示した。

対タリバン、米中の違いが浮き彫りに
また、「すべてのアフガニスタン人の人権、特に女性が学び、働くことができる環境を守ることは将来の発展に不可欠だ」と指摘。タリバンに対し、国際社会が一致して粘り強く働きかけていくべきだと訴えたという。
 
欧州連合(EU)もアフガニスタンの国民と近隣国のためだとして、約10億ユーロ(約1300億円)の支援を申し出た。

EUはアフガンへの開発支援を凍結したままで、タリバンの暫定政権も認めていない。だが、経済状況の悪化が進むなかで、飢餓などの人道危機を回避するためだとしている。

行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は会合前、「私たちはアフガン当局とのいかなる約束にも明確な条件を設けているが、市井の人々がタリバンの行動の代償を払うべきではない」とした。すでに計画していた人道支援に加え、予防接種や市民の避難などの専門的な支援をするという。
 
一方、この日の臨時会合に中国からは習氏は参加せず、王毅(ワンイー)国務委員兼外相が出席。アフガン問題を議論した9月の上海協力機構(SCO)首脳会議には習氏がオンラインで参加しただけに、米欧より、SCOに加盟するロシアやパキスタンなどとの協調を重視する姿勢がにじんでいる。
 
中国政府は先月、SCO加盟国のロシア、パキスタンとそろってアフガニスタンに特使を派遣し、タリバン側と会談。タリバンに対して一定の影響力を持つ両国と歩調を合わせて接触を重ねつつ、穏健な政権づくりを促す方針だ。
 
米国とはテロ対策の必要性では一致するが、タリバンとの向き合い方が異なっている。中国は医薬品など総額2億元(約35億円)分の支援をすでに約束し、暫定政権へ受け渡しを始めた。中国外務省によると、王氏は会合で一刻も早い援助の必要性を主張した上で、「一方的な制裁は解除すべきだ」と呼びかけた。
 
蘭州大学アフガニスタン研究センターの朱永彪主任は「タリバンに対する姿勢の違いが、アフガン問題で中米の協調を難しくしている」と語る。
 
先立って9月にオンラインで開催されたG20外相会議では、女性の権利尊重をタリバンに求めることで各国が一致したものの、対タリバン制裁をめぐっては米中の姿勢の違いが浮き彫りとなっていた。【10月13日 朝日】
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【現場において変化が認められないタリバン統治の暴力性】
日本を含めた欧米諸国もタリバン支配のアフガニスタンにどのように向き合うか悩ましいところです。
人道支援は必要ですが、人権を十分に保証していない現状においてタリバン統治を認めることもできません。

タリバン側の姿勢にも、目だった変化も見られていません。

****記者を暴行、脅迫、出勤停止… タリバン支配2カ月、言論の危機****
アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンがガニ政権を崩壊させ、権力を握ってから、15日で2カ月となる。タリバンは報道の自由をうたうが、実際には嫌がらせを受けた報道機関の休業や記者の拘束が相次いでいる。
タリバンによる支配への抗議や弱い立場にある女性の声は、ますます届きにくくなっている。
 
政権崩壊直前の8月中旬、東部ジャララバードのテレビ局「エニカスTV」でショクルラ・パスン記者(43)は番組の準備をしていた。そこに突然、タリバンの戦闘員らが現れた。戦闘員は「メディアは外国勢力の差し金だ」とののしり、局内を見回した後、取材車両3台を奪って帰ったという。
 
激戦地で取材するエニカスTVは、2018年に経営者が一時誘拐され、今年3月には女性局員3人が帰宅中に射殺されるなど繰り返し武装勢力の標的にされてきた。「市民と政治をつなぐ橋になる」ことを目標に報道を続けたが、タリバンの復権は記者たちを動揺させた。経営陣が国外脱出し、局の閉鎖が決まった。
 
閉鎖前から、パスン記者の携帯電話には不審な着信があったという。「タリバンはメディアを萎縮させ、批判を封じ込めている。市民の声を代弁する批判こそが政治を鍛える土台となることを理解していない」と憤る。現在は東部の自宅を離れ、親戚宅を転々として暮らす。
 
現地のジャーナリスト保護団体の調査によると、この2カ月間で国内の報道機関の約7割が休業したという。地元テレビは、政権崩壊から1カ月ほどで休業した活字メディアが153社に上ったと伝えた。米国の制裁などで経済がまひし、広告収入の減少で、記者に給料が払えないことも一因となっている。
 
特に苦しんでいるのはタリバンが敵視してきた女性記者たちだ。タリバン傘下に入った国営テレビ「RTA」では女性キャスターが出勤を止められた。国際NGO「国境なき記者団」が8月末に公表した報告によると、首都カブールの女性記者約700人のうち政権崩壊後も働いているのは100人に満たないという。
 
北部バルフ州のラジオ局などに人権擁護を訴える記事を届けてきたフリーランスの女性記者(25)は「タリバンから親戚伝いに執筆をやめるよう脅され、いま首都に逃げている」と話す。欧米メディアの現地スタッフとして働いた記者が退避対象になるなか、フリーランスの多くは脱出できずにいるという。
 
国内では抗議デモを取材する記者がタリバンに暴行されたり、機材を取り上げられたりする事案が相次いでいる。記者が減った東部ではタリバンの車両を狙った爆発が続発しているが、タリバンは取材を規制し、被害規模を公表しない。
 
一方、タリバンは見せしめ的な処刑や財産没収を公表し、反対派を牽制(けんせい)している。処刑や財産没収の法的根拠は明らかでない。
 
女性記者は「監視の目がなくなれば、誰も説明責任を果たさなくなる」と危惧する。これまでも女性の立場は弱かったが、児童婚や家庭内暴力に苦しむ女性の記事を書けば、NGOや人権活動家が動く希望があった。

女性記者は訴える。「堂々とものが言える社会には、内外の厳しい目が欠かせない。どうかアフガニスタンに目を向け続けてほしい」【10月15日 朝日】
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タリバンは長年、外国勢力を排除し、イスラム法による統治を実現することを掲げて戦ってきましたが、いざ政権を手にれると、国を統治することの難しさを今実感しているのではないでしょうか?

国際的な協力、国民の理解なくしてまともな統治はできません。そのためにはタリバン自身が国内外の声に真摯に向き合い、一定に譲歩し、変化していかなければなりません。
タリバンにそれができるか・・・・口ではいろいろ言ってはいますが、いまのところ実行が伴っていません。

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タリバン全土制圧はパキスタンにとって戦略的勝利ではあるものの、国内イスラム主義勢力刺激の危険も

2021-09-28 22:33:35 | アフガン・パキスタン
(【9月16日 CNN】CNNのインビューを受けるパキスタン・カーン首相)

【「戦略的縦深性(Strategic Depth)」と対米・タリバン「二股関係」】
アフガニスタンで権力を掌握したイスラム原理主義武装勢力タリバンを生み育て、支援してきたのが隣国パキスタン、特に軍の情報機関・三軍統合情報局(ISI)であったことは周知のところです。

ISIがタリバンを支援してきたのは、アフガニスタンに親インド政権が根付くのを嫌ったためと言われています。

そうしたこれまでの経緯からすれば、タリバンの勝利は、パキスタン・ISIの勝利だったとも言えます。
パキスタンのイムラン・カーン首相もタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎しています。

****「戦略的縦深性(Strategic Depth)」を維持したパキスタンの勝利*****
タリバンの最高指導者だった故オマル師は元々、1980年代に旧ソ連軍のアフガン侵攻と戦うため、パキスタンのISIの訓練を受けた戦闘員だった。
 
1989年のソ連軍撤退後、アフガン内戦となり、オマル師は軍閥の1人として戦い、タリバンを結成。パキスタンの支援を得たタリバンは1996年、ほぼアフガン全土を制圧。それ以後もパキスタンは専門家を派遣して、軍事も経済もタリバン政権をテコ入れした。
 
2001年の米軍のアフガン攻撃で、オマル師と幹部らはパキスタンに事実上亡命し避難。ISI(パキスタン三軍統合情報局)はパキスタン国境地帯にインフラを整備して彼らを保護した。

タリバンはここを拠点に米国を中心とする有志国部隊への攻撃を徐々に強化、ISIはペルシャ湾岸諸国から寄金を集めて支援した。オマル師はその後、カラチで死亡したという。
 
大国インドを主敵とする縦長のパキスタンは「戦略的縦深性(Strategic Depth)」を国家存続の要としてきた。そのため、背後の隣国アフガンを同盟国とし、戦略的に奥行きを深くするという形で自国の安全保障強化を図ってきた。同時に、インドがアフガンとの関係を強化しないよう警戒してきた。
 
だからこの夏、タリバンが事実上パキスタンの支援を得て「電撃戦」のような形でアフガンのほぼ全土を制圧したことは、明らかにパキスタンの勝利だった。
 
パキスタンは米国から軍事援助を得るのと同時にタリバンを支援するという「二股関係」をひそかに続けた歴史があるのだ。
 
バイデン大統領がパキスタンのイムラン・カーン首相と会談することはなく、アントニー・ブリンケン国務長官が今回、イスラマバードを訪問せず、インドの首都ニューデリーやカタールを訪問した理由はまさにそこにある。
【9月28日 新潮社 Foresight「混沌のアフガン、秘密工作へ動く情報機関:テロの次の標的に中国も」】
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上記記事によれば、タリバンの全土制圧を受けて、各国諜報機関が目まぐるしい活動を見せています。当然ISIも。

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タリバンが全土をほぼ制圧した後の8月23日、最初にアフガンの首都カブールに乗り込んだのは米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官。2番手はパキスタン3軍統合情報局(ISI)長官のファイズ・ハミド中将だった。
 
バーンズ長官の会談相手は、その後副首相に就任した、タリバンの政治部門トップ、アブドル・ガニ・バラダル師だった。他方ハミド長官は9月4日、カブールでタリバン幹部と会談。11日にはイスラマバードに戻り、中国、ロシア、イラン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの情報機関トップと異例の会議を開催したと伝えられる。【同上】
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アメリカがパキスタンの“米国から軍事援助を得るのと同時にタリバンを支援する”という「二股関係」を(苦々しく思いながらも)許してきた理由は、アフガニスタンでの作戦遂行の上で補給路にあたるパキスタンの協力が不可欠だったことや、パキスタンが中国に更に接近するのを警戒したことなどがあると思われますが、それ以外にも水面下の複雑な事情があったのでは・・・とも推測されます。

ただ、どんな理由・事情があるにせよ、パキスタンのタリバン支援を断つことがアフガニスタンでの米軍勝利の最大の近道であることは素人的にも明白に思われましたが、それでもアメリカが多大な犠牲者をアフガニスタンで出しながら、結局パキスタンの「二股関係」を止めさせることができなかったというのは不思議なことです。

やはり「核保有国」にかけることができる圧力には限界があるということでしょうか。

いずれにしてもアメリカにとって、今後のアフガニスタン・タリバン統治の方向性に影響を与えるうえで、パキスタンが有するタリバンへの影響力は依然として重要になります。パキスタンは「我々のアフガニスタンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してはいますが・・・

****米、対パキスタン関係を検証へ アフガンでの役割巡り=国務長官****
ブリンケン米国務長官は13日、数週間内に対パキスタン関係を検証し、アフガニスタンの将来においてパキスタンに果たしてほしい役割を明確化する考えを示した。

イスラム主義組織タリバンが先月、アフガニスタンを制圧し、米国が支援してきたアフガン政府が崩壊して以来初めての議会証言でブリンケン氏は、パキスタンには「数多くの関心事があり、一部は米国の関心事と対立している」と指摘、タリバン構成員をかくまっていることなどを挙げた。

議員にパキスタンとの関係を見直す時ではないかと問われ、ブリンケン氏は近く見直しを行うと表明。

「数日あるいは数週間内に検討する課題の1つになるだろう。パキスタンが過去20年間果たしてきた役割だけでなく、今後の数年に同国に果たして欲しい役割やどのようにすれば果たしてもらえるかについてを検証する」と述べた。

パキスタンはタリバンとのつながりが強く、20年続いたアフガン戦争ではタリバン側を支援したと批判されている。パキスタン側はこの見方を否定している。また、パキスタンとカタールはタリバンに最も強い影響力を持っていると見なされている。【9月14日 ロイター】
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「パキスタンとの関係を見直す時ではないか」という質問も奇妙です。何年も、十数年も前から、そのように言われて続けています。今更何を言っているのか・・・という感も。

【タリバン勝利でパキスタン国内イスラム主義勢力刺激の危険性】
パキスタンも、タリバン勝利を喜んでばかりはいられません。パキスタン国内にはタリバンと似たようなイスラム主義勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が存在していますが、パキスタン国軍はアフガニスタンのタリバンは支援する一方で、国内で反政府活動・テロを行うイスラム主義勢力に対しては厳しく武力針圧を試みてきました。

ひと頃は「テロ地獄」と言われるほど治安が悪かったパキスタンですが、2年半ほど前に観光でフンザ地方を訪れた際は、アフガニスタン国境も近いエリアまで観光目的で入れるほどに、ずいぶん治安も改善した様子でした。

しかし、タリバン勝利によって、再びパキスタン国内のイスラム主義勢力が刺激されることが推測されます。

****パキスタンのイスラム武装勢力指導者「タリバンとの強い関係願う」****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の最高指導者、ヌール・ワリ・メスード師が毎日新聞の取材に応じた。

メスード師は、隣国アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが20年ぶりに復権したことを歓迎し「両者の強い関係を願っている」と今後の連携強化に期待を示した。

パキスタン政府はタリバンの復権により、友好関係にあるTTPがさらに勢いづく可能性があるとして警戒を強めている。
 
TTPはパキスタン北西部やアフガンとの国境地帯を拠点とする複数の武装組織の連合体で、2007年に結成された。

12年には女子が教育を受けることの重要性を訴えたマララ・ユスフザイさんを銃撃。14年には北西部ペシャワルで学校を襲撃し、生徒ら150人以上が犠牲になった。マララさんは同年のノーベル平和賞を受賞した。
 
TTP、タリバンともに統治についてシャリア(イスラム法)の厳格な適用を掲げており、メスード師は「友好的で兄弟のような関係」だと表現。ただ、TTPはその活動をパキスタン内に限っているため「タリバン(の活動)に参加する機会はない」と述べ、共闘は否定した。
 
タリバンの今後について「彼らの莫大(ばくだい)な犠牲の見返りにアッラー(神)の支援があると思う。純粋なシャリアの首長国建設を心から願っている」と語った。一方でタリバンの復権がTTPの今後の戦略には影響しないと指摘。「その時々でパキスタン政府に対する攻撃は強化している」と述べた。
 
中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環としてパキスタンでインフラなどの整備事業「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)を進めているが、最近、これに携わる中国人らを標的にしたとみられるテロが頻発している。

TTPが関与したケースも少なくないが、メスード師は「中国に敵意はない」と主張。ただ中国政府や中国人に対し「パキスタンの陰謀や欺瞞(ぎまん)の餌食にならないことや、TTPとの戦争を始めないこと」を求めた。
 
メスード師は18年に最高指導者に就任し、一時は弱体化が伝えられたTTPの活動を再び活発化させた。(後略)【9月16日 毎日】
**********************

なお、メスード師は「シャリアの価値観に反していなければ女子教育を支持」とも発言しています。

****タリバン再登場に戦慄するインド・パキスタン****
(中略)
今なおアフガンに影響力
パキスタンはかねてアフガニスタンを「兄弟国」と見なして付き合ってきた。

実際、タリバンのメンバーは、アフガニスタンにおける多数派であるパシュトゥーン人が主流。このパシュトゥーン人は隣国パキスタン西部のペシャワールやマルダンなどに幅広く居住している。平時においてはお互いの行き来も活発だった。

そしてパキスタンの貧困層や地方住民には景気悪化や汚職などに不満を強める人々が多く、程度の差こそあれタリバンへのシンパシーを抱いていることも無視できない。

アメリカとともにソ連のアフガン侵攻に対抗するためタリバンを支援したとされるパキスタンだが、同国の外交官らはかねて「我々のアフガンへの影響力は低下している。もはやタリバンをコントロールできない」と繰り返してきた。

だが、普通に考えればパキスタンの諜報機関である三軍統合情報部(ISI)は今なおタリバン、とりわけ最強硬派の「ハッカニ・ネットワーク」と何らかの接触を維持しているとみていいだろう。過去20年間、ISIはタリバンのリクルート活動などを黙認あるいは支援してきた、と言われている。パキスタンの手助けや見逃しがなければタリバンの「復活」はあり得なかった、という主張には一定の説得力がある。

旧ガニ政権を手厚く支援してきたインドにとって、タリバンのアフガン全土掌握は大きなダメージだ。これをもってパキスタンに「外交的勝利」が転がり込んできた、といえなくもない。

アフガニスタンはインドに対して大きな外交カードであり優位性となる。パキスタンのイムラン・カーン首相がタリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎した背景はこういう事情があるのだろう。

しかしタリバンの復権はパキスタンにも大きな副反応をもたらす。今後パキスタンがアフガン支援でタリバン寄りの姿勢を見せた場合には、陸軍基地の目と鼻の先でテロ組織アルカイダの頭領オサマ・ビン・ラーデンの潜伏を許すなど数々の失態を大目に見たうえ、借金まみれのパキスタンを見捨てずに付き合ってきた米国との関係が一気に悪化する恐れもある。

それでなくてもバイデン大統領はアフガン問題の重要ステークホルダーであるパキスタンのカーン首相に今なお会おうとしない。ユースフ・モイード国家安全保障顧問は8月上旬、この状況に不快感を示し「それならばパキスタンはほかの手段に訴える」と発言している。アフガン問題では今後協力しないぞ、という意味だろうか。

しかし、タリバンの台頭によってパキスタンの過激派が覚醒して再び政府に牙を剥く恐れもある。2014年に北西部ペシャワールで児童ら150人が犠牲となったテロなどをきっかけに同国陸軍は情け容赦ない過激派掃討作戦「ザルベ・アズブ(預言者ムハンマドの剣撃)」を断行、タリバン残党らも含む多くの武装勢力をアフガン側に追いやったが、彼らが再びパキスタンに舞い戻ってくる可能性もある。

パキスタン国内には、本家タリバンと緩やかに連携している「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が跋扈する。ノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんを襲撃したのも彼らの仕業だった。

パキスタン当局、特に軍はタリバンが再びテロ集団を迎え入れるなど暴走しないよう働きかける一方、指導部に対しては自国の過激派を扇動しないようくぎを刺しておく必要がある。(後略)【8月30日 日本経済研究センター】
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【カーン首相 タリバンに女性教育や多様性を求める】
タリバンの統治については、ISやアルカイダなどイスラム過激派の「温床」となる危険性のほか、女性の教育・就業の権利制限、民族・宗派による差別的政治などが懸念されるところですが、女性の教育に関しては、パキスタン・カーン首相も「女性の教育を禁じるのはイスラム教に反する」と語っています。

****女性の教育を禁じるのは「イスラム教に反する」 パキスタン首相インタビュー****
パキスタンのイムラン・カーン首相がBBCのインタビューに応じ、アフガニスタンで女性に教育を受けさせない動きがあることについて、イスラム教に反するとの考えを示した。

カーン首相はインタビューの中で、アフガニスタンのタリバン新政権をパキスタンが正式承認するために必要な条件も挙げた。

その1つとして、多様な人を受け入れ、人権を尊重する指導を求めた。
カーン氏はまた、パキスタンの治安を脅かすようなテロリストの居場所として、アフガニスタンが利用されてはならないと述べた。

女子生徒の教育をめぐって
タリバンは先週、中等教育の学校には男子生徒と男性教員だけが戻れるとし、女子生徒は除外した。
これについてカーン氏は、女子生徒も近く学校に行けるようになるはずだと、BBCのジョン・シンプソン記者に語った。

「タリバンが権力を握って以降の声明は、かなり希望を抱かせるものだ」
「タリバンは女子生徒についても、学校に行くのを認めるだろう」
「女性は教育を受けるべきではないという考えは、イスラム教にはない。宗教とは無関係だ」

判断には時間が必要
タリバンが8月にアフガニスタンで権力を掌握して以来、1900年代のタリバン政権時代に戻るのではないかとの不安が高まっている。当時はイスラム教の強硬派が、女性の権利を厳しく制限した。

タリバンは今回、女性の権利は「イスラム法の枠組みの中で」尊重されると説明している。

女子生徒は学校に戻れないとした先週の決定は、国際的な非難を浴びた。タリバンの広報担当はその後、女子生徒も「できるだけ早期に」教室に戻ると述べた。
ただ、その時期や、戻った場合にどのような形式で教育を受けられるのかは、まだはっきりしない。

カーン氏は、タリバンが正式承認のための条件をクリアすると思うかとの質問に、国際社会がタリバンに時間を与えることが必要だと繰り返し主張した。

カーン氏は、「何かを判断するにはまだ早すぎる」とし、アフガニスタンの女性はゆくゆくは「権利を主張」できるようになるだろうと述べた。

タリバン政権の承認は
パキスタンは、ジハーディスト(イスラム聖戦主義者)によるテロと戦ううえで、すべての国から強固な同盟国だとみなされているわけではない。アメリカなどの国々では、タリバンに支援を提供しているとして非難されてきた。パキスタンは支援を否定している。

アフガニスタンで計画された9/11攻撃の後は、パキスタンは「テロとの戦い」を推し進めるアメリカの同盟国になった。しかし同時に、パキスタンの軍と情報当局の一部は、タリバンなどのイスラム教組織との関係を維持した。

カーン氏は、タリバン政権を正式承認するかは、近隣諸国などと協議しながら決定すると述べた。
「すべての近隣国が集まり、事態がどう進むかを見ていく」
「タリバンを承認するかどうか、まとまって決めることになる」

内戦の恐れ
カーン氏はまた、タリバンに対し、多様な人を取り込んだ政府をつくるよう求めた。そして、それができなければ、アフガニスタンは内戦に陥る恐れがあるとの見方を示した。

「すべての派閥を取り入れなければ、遅かれ早かれ、内戦になるだろう」
「そうなれば、アフガニスタンは不安定で混迷状態となり、テロリストにとって理想的な場所となる。それが心配だ」

タリバンの広報担当は21日、アフガニスタンの男性のみでつくる内閣の残りの閣僚を発表した。
追加された閣僚には、保健相となった医師が含まれている。しかしアナリストらは新政府について、構成メンバーにはタリバン支持者が圧倒的に多く、少数派はほとんどいないと説明している。【9月22日 BBC】
*********************

こうした考えをBBCにではなく、タリバン首脳に語ってもらいたいのですが・・・・。
もっとも、タリバンに影響力を持つのは、パキスタン政府・カーン首相ではなく国軍・ISIであり、カーン首相が何を言ってもさほど大きな影響はないのかも。
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アフガニスタン  「外に出るのは男のすることだ」「女性がクリケットをプレーする必要はない」

2021-09-18 23:03:26 | アフガン・パキスタン
(女性問題省の建物の看板が、かつて女性抑圧の象徴だった、勧善懲悪省の看板に差し替えられた【9月18日 日テレNEWS24】)

【「外に出るのは男のすることだ」】
今日もアフガニスタン・タリバンの話。
悪い冗談、もしくは女性の権利保護を求める欧米からの圧力には屈しないというタリバンの意思表示でしょうか。

****女性問題省が勧善懲悪省に タリバン、抑圧懸念強まる****
アフガニスタンで暫定政権を樹立したイスラム主義組織タリバンは17日、首都カブールにある女性問題省の建物表示を勧善懲悪省に置き換えた。

タリバン旧政権時代、同省は宗教警察の役割を担い、恐怖政治の象徴だった。極端なイスラム原理主義に基づく人権抑圧の懸念が強まっている。

一方、教育省は17日、男子生徒に対する学校の授業を18日に再開すると発表した。女子生徒への言及はない。

高等教育省は女性が教育を受ける権利を保障すると強調したが、授業は男女別々にし、女性に髪を隠す「ヘジャブ」の着用を義務付ける方針を示していた。【9月18日 共同】
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女性の権利を保護する省庁だった女性問題省の看板が、旧政権時代に女性抑圧の象徴だった勧善懲悪省の看板に差し替えられる・・・タリバン支配を許すということがどういうことなのかを如実に示す出来事です。

“女性問題省の職員だった女性たちは、タリバンに閉め出されたとして「私たちは、この省を誰にも渡さない」などと抗議の声を上げていました。”【9月18日 日テレNEWS24】

多くの男性がタリバンの暴力の前に沈黙するなかで、女性の教育や就労の権利を訴えて女性達のデモが世界の注目を集めましたが、タリバン兵士がムチをふるうなど、厳しい現実があります。

****「私たちは声をあげ続ける」デモを続けたアフガン女性達の“その後”****
20年前に逆戻りしたような驚愕の光景
アフガニスタンの首都・カブールで女性の教育や就労の権利を訴えていた女性達のデモ。そこに武装勢力タリバンの戦闘員があらわれ、参加者の女性を次々と鞭で強くたたき付け、暴力的にデモを阻止する−そんなショッキングな映像が捉えられた。

2021年8月15日にタリバンがカブールを陥落させ、政権を掌握してから1カ月あまり。20年前のかつての政権で女性の権利を著しく制限した当時に逆戻りしたかのような光景が再び出現したのだ。

タリバン側は女性の高等教育は保障するものの、女子学生は「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフの着用を義務づけると発表、学校や職場は男女別々にする動きも広がっている。街では女性の姿が大幅に減少し、国営テレビの女性キャスターは男性に代わった。

一方、かつてのタリバン統治下では決して見ることのなかったある光景に世界が注目した。女性達による抗議デモだ。

女性達の多くは顔を隠さず、タリバンの戦闘員達の目の前で声をあげ続けた。多くは高等教育を受けた女性達で、首都カブールに住み国内では経済的に恵まれている。貧困や就学率が長年課題となっているこの国で、彼女たちは恵まれた立場を失うリスクを冒し行動した。

タリバンはかつて極端なイスラム法の解釈から女性の教育や就業を禁じ、さらには残虐な刑を科した。
現在は旧政権時代とは違いイスラム法の範囲内で女性の権利を守ると主張しているが、国際水準で人権を守るとは考えにくくデモを行うリスクが極めて高いことは想像に難くない。

彼女達はなぜそれでも声をあげたのか。FNNはデモ主催者の一人である27歳のアテファ・モハマディさんに話を聞いた。モハマディさんは、タリバンによる抑圧により、今後デモを続けることが困難な状況であるとしながらも、「声をあげ続ける」と強調した。以下、その証言を詳報する。

“生きて帰れないかもしれない”と思った
アテファ・モハマディさん:デモをするたびタリバンは阻止しようとしてきます。拳銃を見せつけながら迫ってくるんです。それでも私たちは「世界に自分たちの声を届けよう」とデモを続けました。

ある日のデモには国内や海外から報道陣が来ていました。私たちは彼らの前を行進していたのですが、戦闘員は記者を逮捕しました。私たちが撮影した映像も削除させられました。

さらに戦闘員は私たちを取り囲み、威嚇射撃を繰り返しました。私はこのとき“生きて帰れないかもしれない”と思った。

その後、無理やり地下に連れて行かれ、地べたに座らされました。戦闘員は私に銃をつきつけ「動けば撃つ」と言い、逆さに持った銃で私の肩や背中、頭を殴ったんです。私は「女性たちもイスラム教徒。なぜ同胞に手を上げることができるのか」と言いました。声をあげるのは私たちの権利です。

アテファ・モハマディさん:戦闘員は自らを指でさしながら「なぜ女が家の外に出るんだ」「外に出るのは男のすることだ」と言いました。

私たちを指さして「誰が外に出るよう指示した?」とも。彼らは、私たちに自由があるとは考えていません。私たちはこの日、とてもデモを続けることはできませんでした。そ

れでもカブール以外の、例えば、タホール州、バダクション州、カピショーン州、バルワン州では最後までデモを続けています。

独裁による不当な人権侵害は許せない
アテファ・モハマディさん:アフガニスタンの人々には決断する力があります。アフガン女性のなかには、この20年間教育を受けるために奮闘した人々がいます。女性にはこれまで社会を作るという大きな役割があったから。

でもタリバンは女性の自由、教育や就労を否定しています。暫定政権の閣僚に女性は1人もいません。

私たちは世界に声を届けるために努力します。デモをすれば注目を集め弾圧される。デモ以外の選択肢は、様々な方法で自分たちの声を伝えることです。女性の権利が認められるまで、私たちは声をあげ続けます。独裁による不当な人権侵害は許せない。

モハマディさんは取材後「私たちはデモ以外の手段を考えなきゃいけない。メディアの取材に応じたり、国外の人たちとのコミュニケーションチャンネルを作ったり、デモができなくてもそういう方法で声を上げていきたい」とメッセージを寄せた。

「声を上げ続ける」女性達の動きはSNS上にも広がっている。
アフガニスタン・アメリカン大学の元教員バハル・ジャラリ氏は、真っ黒なドレスとベールを身にまとった女性の写真を引用ツイートし、「アフガニスタンの歴史の中で、このような服装をした女性はいませんでした。私がアフガンの伝統的なドレスを着た写真を投稿したのは、情報を提供し、教育を行い、タリバンが広めている誤った情報を払拭するためです」と投稿。【9月17日 FNNプライムオンライン】
**********************

「なぜ女が家の外に出るんだ」「外に出るのは男のすることだ」・・・タリバンの考えをシンプルに示すものですが、抵抗する女性たちが直面する壁は、それが単にタリバンの考えであるというだけでなく、おそらくタリバン以外の多くの一般男性もこの点ではタリバンに本音では共感するものがあるのでは・・・という「現実」です。

上記記事最後に取り上げているバハル・ジャラリ氏のSNSについては下記のとおり。

****アフガン出身の女性たち、カラフルな民族衣装でタリバンに抗議****

アフガニスタン出身の女性たちがカラフルな民族衣装をまとった姿をSNSに投稿して、イスラム主義勢力タリバンに抗議している/From Twitter

アフガニスタンで実権を握ったイスラム主義勢力タリバンが女子学生らに黒スカーフの着用を義務付けたことに抗議して、世界各地にいるアフガン出身の女性らが色鮮やかな民族衣装をまとい、その画像を次々とツイッターに投稿している。

タリバンはシャリア(イスラム法)の厳格な解釈に基づき、大学などでイスラム教徒の女性が頭を覆うスカーフ「ヒジャブ」の着用を義務付けた。11日に拡散した写真には、首都カブール大学にある公立大学の講堂で、全身を黒い衣服で覆った女子学生の集団がタリバンの旗を振る場面が写っていた。

大学内の集会で黒い衣服を身につけてタリバンの旗を振る女子学生=11日、アフガニスタン首都カブール/AAMIR QURESHI/AFP/Getty Images

民族衣装姿の投稿を始めたのは、アフガニスタン・アメリカン大学の元教員、バハル・ジャラリさんとされる。ツイッター上で黒装束の女性の写真を引用し、「アフガンの歴史上、女性がこんな服装だったことはない」と主張。タリバンが広める誤った情報を打ち消すためとして、自身の民族衣装姿を披露した。(後略)【9月14日 CNN】
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大学集会の画像、黒一色で、いったい何が写っているかもわかりづらい不気味な画像です。

もっとも、上記のような「抵抗」を示せるのは国外に居住するアフガニスタン人であり、国内でタリバンの暴力に直面する女性たちには難しいことではあります。

【「女性がクリケットをプレーする必要はない」】
「なぜ女が家の外に出るんだ」「外に出るのは男のすることだ」と同様に、「女性がクリケットをプレーする必要はない」というのもタリバン思考です。

****タリバン暫定政権が女性権利制限 大学でスカーフ義務、クリケット禁止****
アフガニスタンで暫定政権を立ち上げたイスラム原理主義勢力タリバンが、女性の権利を制限する動きを強めている。

大学では髪を隠すスカーフ着用が義務化され、スポーツ参加も大幅に規制される見通しだ。

タリバン幹部は女性の権利保証を約束したが反故(ほご)にした形で、極端なイスラム法解釈を背景にした抑圧が再来する可能性が高い。

暫定政権のアブドル・バキ・ハッカニ高等教育相代行は12日、女性も大学に通えるとする一方、女子学生には頭を覆うスカーフ「ヒジャブ」着用が義務付けられ、男女共学は禁止されると明らかにした。ハッカニ氏は「国民はイスラム教徒であり、それを受け入れるだろう」と述べた。

教員も異性に対して教えることは基本的に認められない。ハッカニ氏は女性教員がいない場合、「男性教員が(姿を見せずに)カーテンの後ろから教えることもできる」と説明した。具体的な科目名は明らかにしていないが、イスラム法の内容にそぐわない一部の科目を高等教育のカリキュラムから削除する考えも示した。

また、タリバン文化担当のワシク幹部は8日、オーストラリアメディアとのインタビューで、アフガンで人気が高いクリケットについて「顔や体が隠されない状態になる可能性がある。イスラム教は女性がそのようになることを認めていない」として、競技参加を禁じる意向を示した。「女性がクリケットをプレーする必要はない」とも述べた。

タリバンは8月15日の首都カブール制圧後、「女性は働けるし、教育も受けられる。社会に必要な存在だ」と明言してきた。

だが、今月7日に発表された暫定政権の閣僚33人に女性は含まれておらず、暫定政権では旧タリバン政権(1996〜2001年)で女性の権利弾圧を主導した勧善懲悪省を復活させた。

国連のバチェレ人権高等弁務官は13日、「タリバンが女性の権利を守るという保証とは裏腹に、女性はどんどん公の場から排除されている」と懸念を表明した。【9月13日 産経】
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クリケットなどのスポーツ、多くの活動は、男性であれ、女性であれ、“やりたいからやる”のであって、“必要”の問題ではない・・・その基本的なところがタリバンには理解できないようです。

“必要”云々の発想で行くと、女性が必要とされるの家庭を守り、夫に仕え、子供を育てること・・・・という話になるのでしょう。(日本の保守的な男性も、一部女性を含めて、本音で共感される人も多いのでは)

****アフガンのサッカー女子ユース選手ら81人、パキスタンに脱出****
アフガニスタンのサッカー女子ユース代表チームが、国境を越えてパキスタンに入国した。16日にはさらに30人ほどの関係者が到着する予定だという。
チームのメンバーたちはこの1カ月、女性の権利を弾圧するタリバンを恐れ、身を隠してきた。

成人女子の代表チームは先月、カブールから空路で出国した。一方、女子ユース代表チームは、パスポートなどの書類がないため、移動できずにいると伝えられていた。
しかし、選手32人とその家族らは、慈善団体「Football for Peace(平和のためのサッカー)」がパキスタン側に働きかけた結果、査証(ビザ)の発給を受けたという。

パキスタンから他国に
パキスタン・サッカー連盟の関係者によると、一行は全員で81人。同国東部ラホール市にある同連盟本部に収容される見通しだという。他に34人が16日に到着予定だとした。
選手たちは、他国に亡命申請するまで30日間、厳重な警備の下でパキスタンにとどまるという。(中略)

選手たちは、1カ月前にタリバンが首都カブールを制圧した後、女子代表チームの元キャプテンのカリダ・ポパル氏から連絡を受けた。すべての写真をソーシャルメディアから削除し、道具を焼き捨てるよう指示された。新たな政権から身を守るためだと言われた。(中略)

タリバンが以前政権を握っていた1996〜2001年には、女性のスポーツ参加が禁止された。
今回、タリバンが再び権力を掌握してからは、スポーツや文化の分野の著名な女性らが、弾圧を恐れて国外に逃れる動きが続いている。人気歌手アリアナ・サイード氏と、映画監督サハラ・カリミ氏は先月、国外に避難した。【9月16日 BBC】
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【「男女が一緒に働けないことは明白だ」】
仕事やスポーツ以前の問題で、旧タリバン政権下では、女性は男性親族の同伴がなければ一人で外出することさえできませんでした。夫と死別した女性は、生活していくことさえ難しい時代でした。

****タリバン支配下のアフガン女性たち*****
アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧してから1か月たち、注目されているのが「女性の権利」だ。旧タリバン政権下でその権利を大きく制限されてきた女性たちの間では、手に入れた自由がまた制限されてしまうのではないかと不安が広がっている。アフガン女性たちに現状を聞いた。(中略)

■旧タリバン政権下で権利を制限されてきた女性たち
1996年から2001年まで続いた旧タリバン政権下では、女性の権利は大きく制限されていた。

例えば…
・頭の先からつま先まで全身を覆うブルカの着用義務  ・学校教育、就労の禁止  ・外出は男性親族の同伴が必要などの制約があった。

それが2001年、アメリカ同時多発テロをきっかけに、アメリカがアフガンを攻撃。旧タリバン政権が崩壊したことで、女性たちはそれまでの抑圧から解放された。

女性YouTuberたちが登場し、日常生活の様子を動画で配信。おしゃれをして街を歩き、その様子を積極的に発信するなど、タリバン政権下とは打って変わって女性たちが輝いているように見えた。

しかし、今回タリバンの支配が復活したことで、せっかく手に入れた自由がまた制限されてしまうのではないかという不安が女性たちの間で広がっている。(中略)

タリバンの復権以降、女性たちはどんな思いで過ごしているのか、アフガン女性2人に話を聞いた。

以前NGOで働いていて現在はパキスタンに避難している30代の女性――「タリバンから女性は働くことができないと言われ、新しい方針が決まるまでは家にいるよう言われた」「以前は、人と集まることも仕事もピクニックなども自由にできていたのに、今はそのすべてが奪われた」

日本に留学経験があり、現地の国際機関に勤めていた20代の女性――「出勤しても、オフィスは閉鎖され、タリバンの戦闘員に追い返され、いまだ出社できない状態」「外国人と仕事をしていたことが分かると危害を加えられる恐れがあることから、自宅の書類をすべて燃やした」「銀行にお金をおろしに行ったときには銃で武装したタリバン兵がいて、彼らの意に沿わない行動をしたら死につながってしまうだろう」

と不安の中で生活している。20年ぶりに復権したタリバンは国際社会の目を意識して、表向きは女性の権利を保障すると主張している。しかし、女性たちの話や今実際に起きていることを見ていると、女性の権利がどこまで守られるのかは不透明で、今後、国際社会が注視していく必要がある。【9月15日 日テレNEWS24】
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タリバンの幹部ワヒードラ・ハシミ氏は「シャリアは男女が一つ屋根の下で集まることは許していない」とし、「男女が一緒に働けないことは明白だ」と語ったとも。【9月14日 ロイターより】

中国の習近平国家主席は17日、いかなる場合においても他国の内政問題に干渉するようなことはあってはならないと強調していますが、基本的人権を踏みにじる統治に「それは違う」と声をあげるのは隣人としての当然の責務であると考えます。

問題は、どうやってタリバンに行動を変えさせるかです。単に「説教」しても聞く耳はもたないでしょう。

ひとつは凍結されている海外資産を人質にとった圧力ですが、もうひとつは、パキスタンなどタリバンに影響力を持つ国に対して(表立っては「自分たちはタリバンとは関係ない」と言うだけでしょうから)水面下で強い圧力をかけて、タリバンに対する影響力を行使させることでしょう。

****タリバンが女性の権利確約 国連高官「履行が重要」*****
アフガニスタンの人道支援に当たる国連人道問題調整室(OCHA)のグリフィス室長(事務次長)は14日、共同通信の単独インタビューに応じた。イスラム主義組織タリバン指導部と今月会談した際、タリバン側が女性の権利尊重や人道支援の安全を確約したと明らかにし、「実際に履行されるかどうかが重要」であり、国際社会が注視する必要があると述べた。
 
OCHAは人道支援面での国際的な調整を担っており、タリバン指導部が示した今回の見解は国際社会と一定の協調を進めていきたい意思の表れといえる。
 
会談は5日、人道危機が懸念されるアフガンの首都カブールで行われた。【9月15日 共同】
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アフガニスタン  タリバンと欧米 現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で綱引き

2021-09-06 23:19:11 | アフガン・パキスタン
(アフガンで連日女性の権利訴えるデモ、タリバン催涙ガス使用か【9月6日 TBS】)

【自爆部隊と暗殺者たちのパレード】
アフガニスタン情勢に関するニュースは山ほどありますが、一番印象的だったのは「殉教志願者」たちのパレードに関するもの。

****自爆部隊と暗殺者たちのパレード タリバン、国民に向けテレビ放映****

アフガニスタンの政権を崩壊させたイスラム主義勢力タリバンが、自爆攻撃や暗殺を訓練する「殉教志願者」たちのパレードの様子とされる映像を、傘下の国営テレビを通じて放映した。国内でくすぶる反タリバンの抵抗運動を牽制(けんせい)し、力を誇示する狙いとみられる。
 
映像は9月初めにテレビやSNSで公開された。撮影地は不明。
 
ナレーション付きの約38分間の映像の中で、タリバンは20年にわたる自爆攻撃などの「奮闘」が実を結び、駐留米軍を撤退に追い込んだと主張した。武装した100人以上の戦闘員が隊列を組み、タリバンの白い旗がはためく砂地の広場で行進。自爆装置や車爆弾も披露された。
 
タリバン軍事部門トップのヤクブ幹部の声明も読み上げられた。「殉教部隊の犠牲に感謝する。全ての国民は殉教のための訓練を受けなければならない」
 
タリバンはアフガニスタンや隣国パキスタンに軍事キャンプを持ち、宗教学校(マドラサ)の神学生を自爆犯として育ててきたとされる。タリバンはこれまでも、その訓練の様子とされる画像をネットで公開してきた。今後、思想を強く反映した国営テレビの放送が増えそうだ。【9月6日 朝日】
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暗殺者はともかく(通常の軍事活動も暗殺も目的とするところは同じですから)、自爆攻撃志願者というのは・・・。
ただ、これも戦前日本の特攻を考えると、さほど驚くべきものではないのかも。

【女性の抗議 大学女子教育に関する新規則】
もうひとつ印象的だったのは、女性によるタリバンに対する抗議行動。

****女性の抗議集団がタリバンと衝突、流血も アフガン首都****
アフガニスタンの首都カブールで4日、男女平等や政治参加を求める女性たちの集団が抗議デモを展開し、同国の実権を握ったイスラム主義勢力タリバンの部隊と衝突した。

アフガンではこの1週間で、女性活動家らによる小規模な抗議デモが少なくとも3回実施されている。

現地メディアのトロ・ニュースは4日、タリバン部隊と一部の女性参加者が衝突する場面の映像を伝えた。1人の男性がメガホンを通し、少人数のグループに「皆さんのメッセージを長老に伝える」と冷静な声で呼び掛ける一方で、映像の終盤には女性の叫び声や、「なぜ私たちを殴るのか」と抵抗する声が入っている。

トロ・ニュースは、大統領府へ向かっていた女性たちをタリバン部隊が阻止し、催涙ガスを使用したと伝えた。
現場にいた元政府職員はロイター通信に、タリバン部隊が女性たちに対してスタンガンの一種「テーザー銃」や催涙ガスを使ったと話した。銃の弾倉で頭部を殴られ、血を流す女性たちもいたという。

女性活動家の1人が頭から血を流しながら、デモでタリバンの戦闘員に殴られたと訴える映像もSNS上で拡散した。

これに対してタリバンの幹部は、デモを「故意に問題を起こそうとした」行動だと非難している。
タリバン指導者らは女性の社会進出や教育を認めると表明しているが、旧政権下の権利抑圧が復活するとの懸念も強まっている。【9月5日 CNN】
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同様のデモはカブールで3日にあったほか、2日に西部ヘラートでも起きています。

“タリバン幹部は英BBC放送のインタビューで、新政府の省庁で女性職員が元の職場に戻ることを希望すると述べる一方で「高い地位につくことはないだろう」と要職への女性登用を否定した。最終調整が続くタリバン政権の組閣でも、女性は起用されない見通し。”【9月5日 毎日】

崩壊したアフガニスタン政権が間違ったのは、軍隊を戦う意思のない男性で構成したこと。女性を兵士にしていたら、戦わずしてタリバンから逃げるようなことはなかったでしょう。

女性に関して、職業と並んで注目されていた教育について、少し具体的な方針が出されています。

****教育の新規則を発表、国内便の運航が再開 アフガン****
イスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタンで5日、タリバンが運営する高等教育省は教育に関する新規則を発表した。タリバンが支配の基盤を固めるなか、市民の生活には変化が起きそうだ。アフガンでは同日、国内便の運航も再開した。

高等教育省は、6日から始まる新学期から男性と女性の大学生を区分けする提案を承認した。
アフガン国内の131の大学や総合大学を代表する大学連合が提出した提案を承認した。

今回の提案によれば、すべての女子学生と女性の講師、職員はシャリア(イスラム法)に従い、イスラム教徒の女性が頭を覆うスカーフ「ヒジャブ」を身につけなければならない。

女子学生と男子学生が大学に入る入り口も別々にしなければならない。男女混合の授業は女生徒が15人未満の場合に限り許されるが、教室はカーテンで仕切る必要がある。私立大で新たに作られる教室は男女別々にしなければならない。

教室への入室時も男女一緒に入らないようにする。女子生徒が祈りをささげるエリアを別に設ける必要もある。

大学は将来的には女子学生のために女性の教授を雇用しようとしなければならないが、移行期間は、女子生徒の指導において信頼できることで知られている高齢の教授を指名しなければならないとしている。

政治学を学ぶ21歳の女子学生はCNNの取材に対し、タリバンが女性の高等教育への参加を禁止しなくてうれしいと述べたが、新規則は厳しすぎるとも言い添えた。(後略)【9月6日 CNN】
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“一応”(いろんな条件付きながらも)女性の大学での教育を認めるとのことのようですが・・・。実際の運用をみてみないと評価できないところも。

なお、上記記事では「ヒジャブ」(頭を覆うスカーフ)を着けねばならないとされていますが、【AFP】では「ニカブ」とされています。
“タリバン、女子学生に顔覆う「ニカブ」の着用命令”【9月6日 AFP】

私の理解ではヒジャブとニカブは全く異なります。
ニカブは目だけを出して、目以外の顔は覆うもの。旧タリバン政権時代に女性に強要されていたブルカ(顔全体を多い、目の部分は網目になったもの)よりはましですが、顔の大部分は隠れてしまいます。

【パンジシール州での抵抗制圧? パキスタン軍介入?】
長引いているパンジシール州での故マスード司令官の息子であるマスード氏率いる抵抗勢力との戦闘に関しては、タリバン側は勝利したとしていますが、抵抗勢力側は否定しています。

****タリバン、パンジシール州での勝利を宣言 抵抗勢力は否定****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンは、パンジシール州での勝利を宣言し、完全に制圧したと述べた。パンジシール州では2週間にわたって、抵抗勢力とタリバンとの間で戦闘が続いていた。

パンジシール州はアフガン全34州のうち最後までタリバンの支配に抵抗しており、今回の勝利宣言が事実なら、タリバンがアフガン全34州を実効支配したことになる。

しかし、パンジシール渓谷で戦っていた武装勢力「国家抵抗戦線(NRF)」の報道官はCNNに対し、渓谷全体で抵抗が続いていると述べた。

SNSに出回っている画像や動画には、パンジシール州の中心部とされる場所で建物にタリバンの旗が掲げられている様子がとらえられている。CNNは独自にこの画像の信ぴょう性を確認できていない。

タリバンの報道官はパンジシール州を完全に制圧したと述べた。
NRF側はパンジシール州中心部がタリバンの手に渡ったことについて否定はしなかったものの、パンジシール州は依然としてNRFの支配下にあると述べた。州都のあるバザラックの大部分や渓谷周辺はNRFの支配下にあるとしている。

NRFの指導者アフマド・マスード氏は5日、フェイスブックへの投稿で、戦闘の終了を呼び掛ける宗教指導者に支持を表明し、タリバンの武装勢力がパンジシール州や隣接するアンダラブ地区から撤退すれば対話の用意があると述べていた。

マスード氏の提案に対するタリバン側の公式な反応はない。
提案の発表後、NRFは報道官と幹部が死亡したことを明らかにした。【9月6日 CNN】
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状況ははっきりしませんが、軍事的にマスード氏らが孤立無援状態で抵抗を続けるのは難しいでしょう。

気になるのは、この戦闘でパキスタン軍の介入(空軍力でタリバンを支援)があったとの報道があることです。

****アフガニスタンめぐり“新映像” パキスタン軍介入か****
アフガニスタン全土をタリバンが制圧か。
周辺国の関与も指摘されている。

この映像は、タリバンが唯一支配していなかった反タリバン勢力の拠点で、5日に撮影されたとされるもので、上空に航空機のような影が見えたあと、攻撃される様子がとらえられている。

映像の提供者は、FNNに対し、「タリバンとの関係を強める隣国パキスタン軍による空爆」と説明。
イラン外務省も、「パキスタンの介入について調査中」としていて、周辺国による利害の対立が表面化している。

タリバンは日本時間の6日午後、全土の制圧を宣言したが、今のところ、反タリバン勢力側は認めていない。【9月6日 FNNプライムオンライン】
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タリバンの成立にパキスタンの軍情報機関ISIが関わり、長年タリバンを支援してきたことは周知のところですが、長引くパンジシール州の戦闘に、ISIはタリバン側と調整・仲裁を行っていました。

****反タリバン勢力との和平促す=アフガンでの対立拡大懸念―パキスタン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンに影響力を持つ隣国パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官は4、5両日、アフガンの首都カブールでタリバン幹部と会談した。軍当局筋によれば、ハミード氏はタリバンと反対勢力の武力衝突拡大に伴うアフガンの不安定化に懸念を表明し、和平締結を促した。
 
タリバンが唯一制圧できていない北東部パンジシール州では、崩壊した民主政権で第1副大統領だったサレー氏や、旧タリバン政権との戦闘で名をはせた故マスード司令官の息子アフマド氏らが武装闘争を続けている。8月下旬にいったん停戦が成立したが、その後もタリバンの攻撃はやんでいない。
 
パキスタン軍当局筋は、時事通信の取材に対し「タリバンが(反対勢力の意向をくんだ)包括的政府を早急に樹立しない限り、抵抗はアフガンの他地域に拡大する可能性があるとの情報を得ている」と明かした。実際に東部クナール州などで武装蜂起の動きが見られるという。これに対し、タリバン内部では、停戦を訴える派閥と戦闘継続を主張する派閥の対立があるとされる。
 
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は4日、米FOXテレビのインタビューで、アフガン情勢について「内戦に発展しそうな状況にある」との見解を示した。各地で戦闘が生じる事態になった場合、混乱に乗じて過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力がテロを起こす恐れが強まる。パキスタンにとっても、対アフガン国境地帯での治安悪化は大きな懸念材料だ。【9月5日 時事】
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これ以上長引いて、抵抗が各地に広がることのないように、タリバン政権を支援するパキスタン軍が空軍力で介入した・・・ということでしょうか? 状況はよくわかりません。

【新政権人事の発表遅れる 穏健派と強硬派対立も】
上記パキスタンISI長官は、パンジシール州の戦闘だけでなく、発表が遅れている新政権人事についても調整を行っているようです。

新政権人事に関しては、穏健派と強硬派対立も報じられています。

****タリバン新政権発表に遅れ 穏健派と強硬派対立も****
国内統一を主張したイスラム原理主義勢力タリバンは新政権樹立に向けた準備を進めているが、人事をめぐる詰めの作業に時間がかかっている。内部に主導権争いがあるとの情報もあり、調整が難航すれば、8月15日の首都カブール制圧で生まれた「権力の空白」は継続する可能性がある。

地元メディアなどによると、閣僚は3日に発表される予定だったが延期されている。タリバンのムジャヒド報道官は6日の記者会見で新政権について、内部対立を否定しつつ、「いくつかの技術的な事柄が残っている」と述べた。発表時期は明言しなかった。

新体制の概要は明確になっていないが、穏健派の副指導者、バラダル師が指導的役割を果たす見通しだ。だが、この方針に対して組織内の強硬派が反発しているもようだ。また、米国や国連の制裁対象になっている人物を枢要なポストに据えるかについても議論が続いているという。

内部ではひとまず暫定政権を樹立して権力の空白を解消し、時間を置いて正式な政権を立ち上げる案も検討されている。

4、5日にはタリバンに影響力を持つとされるパキスタン軍情報機関「統合情報部」(ISI)トップがカブール入りし、タリバン側と協議を行った。人事について何らかの調整を行ったもようだ。

ただ、先進7カ国(G7)などが求める諸勢力代表や女性が参加する「包括的政府」の実現は見通せない状況だ。

アフガン国家予算の大半は国際支援で賄われていたが、欧米を中心にタリバン新政権の動向を見極めるまで支援を停止する動きが広がっている。新タリバン政権がイスラム原理主義色の強い顔ぶれとなれば、支援の再開は遠のく可能性が高い。【9月6日 産経】
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【タリバンと欧米 現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で綱引き】
タリバンにとって問題は、上記記事にもあるように、海外資産・国際支援が凍結されており、国内統治に必要な資金が確保出来ていないことです。

****タリバン、国際資金枯渇の危機:米ドルで三重苦 アフガニスタンの財源は?****
<破綻も時間の問題か>
アフガニスタンの首都カブール陥落前夜の8月14日。
住民たちは資産を引き出すために銀行やATMに殺到した。銀行の前には、すべてのお金を引き出そうと延々と長い行列ができた。

しかし、お金をおろすことはできなかった。銀行は閉鎖されてしまい、今も閉鎖されている。そして絶望した人たちは、国外に亡命しようとしている。

また、外国に住んでいる家族や事業仲間からの送金に頼っている人にとって、重要な送金事業者であるWestern Unionも機能していない。

アフガニスタンの経済は、全体から見れば主に現金払いで成り立っているので(現物支給もある)、人々の日常生活に今のところは大きな支障は出ていない。

しかし、国の運営資金は別である。アフガニスタンでは、国際的な資金が次々と枯渇している。
米国当局はドル送金を停止、国際通貨基金(IMF)は支払いを凍結し、国内総生産(GDP)の42%を占める国際援助はほぼ停止している。フランスの『ル・モンド』紙が伝えた。

いわば三重苦に陥っていると言える。ほぼ完全に外貨が凍結された状態で、この国はどれだけ持ちこたえることができるだろうか。(後略)【8月30日 Newsweek】
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タリバンの(表面的な)融和路線は、こうした財政事情を背景に、どうしても国際的承認を得たい思惑があってのことですが、欧米側もアフガニスタン国内に残る自国民・現地協力者の国外退避や新政権の今後の統治方針に関してタリバン側の配慮を求めており、現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で、タリバンと欧米の駆け引き・綱引きが行われていると推測されます。

****タリバンが人道支援「保証」…空港では米国人ら千人足止め、政府承認までの「人質」か****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの政治部門トップ、アブドル・ガニ・バラダル師は5日、国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)と首都カブールで会談し、国際社会からの人道支援が国民に行き渡るよう、国連などと協力する考えを明らかにした。
 
同国では4日から国内旅客便の運航が再開しており、タリバンは国内交通網を復旧させ、支援の受け入れに向けた準備を急いでいる。
 
国連によると、5日の会談でグリフィス氏は、食糧難など人道状況が悪化する同国への支援継続を表明し、人道支援で女性が果たす役割の重要性などを訴えた。これに対し、タリバン側は人道支援に関わる人々の安全や移動の自由が「保証される」と明言した。
 
一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、アフガン北部マザリシャリフの空港で、米国人やアフガン人協力者ら約1000人が5日間にわたって足止めされていると報じた。国外に退避するためのチャーター便の離陸をタリバンが許可しないためだという。
 
バイデン政権は米軍撤収後も米国人らの退避を支援する方針だが、タリバンが出国を認めない限り実現は難しい。米下院外交委員会のマイケル・マコール議員(共和)は5日のFOXニュースで、「タリバンは米国から(政府としての)承認を得るまで米国人の出国を認めないだろう」と述べ、米国人らが「人質」になっているとの見方を示した。【9月6日 読売】
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アフガニスタン 史上最長の戦争を終えたアメリカ 融和路線の現実性に疑念も多いタリバン支配

2021-08-31 22:25:09 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンからの米軍撤退で、輸送機に乗り込む最後の1人となった米兵の画像【8月31日 CNN】)

【「民主主義と専制主義の競争」においてアフガニスタンの位置は?】
アメリカの20年に及ぶ最も長い戦争が終わりました。この間、多くの兵士・民間人の命が犠牲となり、そして膨大な資金が注ぎ込まれました。

****アフガン民間人の犠牲は4万人以上****
国連アフガニスタン支援団によりますと、2009年からことし6月までの間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人は合わせて4万218人にのぼり、けがをした人は、7万5000人を超えています。

20年間の米軍の死傷者と戦費
アメリカ国防総省によりますと、軍事作戦を開始した2001年10月からこれまでにアフガニスタンで死亡したアメリカ兵は2461人で、2万人以上がけがをしました。

また、アフガニスタンの復興状況を調べているアメリカ政府の監察官の報告書によりますと、この20年間、アフガニスタンでの戦費は、合わせておよそ8370億ドル、日本円でおよそ92兆円に上ります。

ただ、アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が、国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り、日本円でおよそ253兆円に上るとしています。【8月31日 NHK】
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国外脱出を必至に望みながらもかなわず、現地に残れた協力者など、この戦争の“後始末”はまだ終わっていません。

権力を掌握したタリバンがどういう統治を行うのかもまだ不明です。

従って、この戦いの総括にはまだ時間を要します。その前提で今敢えて言えば、中国に対抗して改めて「民主主義」の価値観を掲げているアメリカ・バイデン政権がアフガニスタンの民主主義を見捨てたという感は否めません。

もちろん、アメリカの目的は民主的国家の建設ではなかった、アフガニスタンに民主主義を受け入れる土壌がなかった、アフガニスタン政府が機能しなかった・・・・等々、多くの留意点があるにしても。

****タリバン復権、揺らいだバイデン氏の民主主義論 アフガン撤退****
アフガニスタン駐留米軍が30日、完全撤収した。2001年の米同時多発テロに端を発し、米史上最長の戦争となった米国の「テロとの戦い」の幕引きを古本陽荘・北米総局長が読み解く。

 ◇「トランプ氏の姿勢と大差ない」か
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが8月15日にカブールを制圧した後、バイデン米大統領は「アフガンでの米国の任務は、民主主義国家を作ることではなかった」と断言した。民主化を望んできたアフガンの人たち、特に女性は、この言葉をどう受け止めただろうか。
 
20年にわたるアフガン戦争の間、アフガンでの女性の教育機会は徐々に広がり、専門的知識を習得して社会で活躍する女性も増えた。民主主義の基盤となる市民社会が芽生えていた。こうした社会が拡大し、安定することこそが、過激思想への対抗策になると考えられてきた。
 
アフガン安定化がなかなか進まないことに米国人が不満を持つのは理解できる。しかしタリバンの復権で、アフガンの民主化がついえたのはほぼ確実だろう。

中国を念頭にバイデン氏は、「民主主義と専制主義の競争に勝ち抜く」と語ってきた。アフガンの民主化をあっさりと断念したいま、バイデン氏のこうした民主主義論は、説得力を失ったのではないか。「民主主義を本当に重視しているのか」という疑念は簡単には拭えないだろう。
 
交通事故で妻と娘を亡くし、脳腫瘍を患った長男にも先立たれたバイデン氏は、苦境にある人々の気持ちを理解し、寄り添う「共感力」が売りだった。新型コロナウイルスの感染が拡大し、多数の死者が出るなか、バイデン氏の支持率が比較的安定していたのも、この共感力によるところが大きかった。
 
しかし、民主化を希求するアフガンの人々への共感の言葉はバイデン氏から発せられなかった。共感の対象が米国人限定であるのであれば、排外主義的な「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ前大統領の姿勢と大差はない。
 
第二次世界大戦後のリベラルな国際秩序を維持するため「米国の復活」を宣言したバイデン氏だったが、アフガン戦争の幕引きは、米国の国際的指導力の低下を印象づけた。日本を含めた同盟国が、これまで以上に米国を補完する強い意志を持たなければ、国際社会の安定化は望めないだろう。【8月31日 毎日】
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【「音楽は禁止はしないが、演奏などをしないように説得する」 現実には歌手殺害か】
アフガニスタン情勢に関して取り上げるべき事項は多々あり、整理がつかないぐらいですが、先ずタリバン統治の今後について。まだよくわかりませんが、表向きの融和的姿勢にもかかわらず、「やはり旧政権時代と大差ないかも・・・」という疑念・不安が払拭できません。

****タリバン融和路線に強まる疑念****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンがアピールする融和路線への疑念が急速に広がっている。

タリバンは報道の自由を尊重すると主張するが弾圧の懸念は強まり、既に約100の民間メディアが運営を停止した。著名な音楽家がタリバンに殺害される事件も起きた。恐怖政治の足音が聞こえる中、アフガンは31日、治安維持の重しだった米軍撤収の期限を迎える。

「脅しの言葉はなく、『これから長い付き合いになる』とだけ言われた。生きた心地がしなかった」。アフガン南部に住むジャーナリストの男性は地域を制圧したタリバン戦闘員が家を訪れたときのことを話した。男性は脱出を検討しているが、タリバンが国境管理を強化し、身動きが取れないという。

旧タリバン政権(1996〜2001年)は国内の報道を規制し、インターネットの使用も禁止した。タリバンは今月15日の首都カブール制圧後に記者会見で「メディアの活動を保障する」との考えを示したが弾圧の兆しは見える。

ドイツの放送局に所属するジャーナリストの家族がタリバンの戦闘員に殺害され、26日には地元民放「トロTV」記者が取材中にタリバン戦闘員に暴行を受けた。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、運営を停止したメディアは100近く、特にタリバンの支配力が強い地方都市に多いという。国内ジャーナリストの脱出も相次ぎ、カブール制圧後にタリバン幹部にインタビューした女性テレビキャスターも国外退避したもようだ。

旧タリバン政権で禁止された音楽について、タリバン報道官は25日付の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに「音楽はイスラム教では禁止されているが、圧力ではなく、(演奏などを)しないように説得する」と融和的姿勢を示した。

だが、30日までに北部で民族音楽の歌手、アンダラビ氏がタリバン戦闘員に殺害された。指導部が穏健な姿勢でも組織の末端が従わない可能性もある。

脱出したアフガン人が到着している米首都ワシントン近郊のダレス空港で取材に応じたジョワドさん(35)は「既にSNS(会員制交流サイト)を通じてタリバンの暴力をとらえた動画が多く出回っている。世界はすぐにタリバンが変わっておらず、どれほど暴力的かを知るだろう」と話した。【8月30日 産経】
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まあ、タリバンが本気で「メディアの活動を保障する」とは到底思えませんので、メディア統制については別段驚きもしませんが、音楽の禁止については、旧タリバン政権当時の「暗い時代」を思い出さずにはいられません。

****タリバンがアフガン人歌手を殺害か 国際社会から懸念の声****
アフガニスタン北部バグラン州で先週、地元出身の歌手ファワド・アンダラビさんがイスラム主義勢力タリバンに殺害されたとの報道を受け、国際社会から懸念の声が上がっている。

AP通信が息子ジャワドさんの話として伝えたところによると、ファワドさんは27日、同州北部のアンダラブ渓谷にある自宅の農場で頭を撃たれた。ジャワドさんは「父に罪はない。歌手として人々を楽しませていただけ」と訴えた。(中略)

1996〜2001年の旧タリバン政権下では、音楽が宗教的な意味を持つ場合を除き、「非イスラム的」だとして禁止されていた。

タリバンの報道官は先週、米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「イスラム教では音楽が禁止されている」と述べた。アフガンでは公共の場での音楽がまた禁止されるのかという質問に対しては、「国民に圧力をかけるのではなく、そんなことをしないよう説得できるだろう」と答えていた。

国連の文化的権利に関する特別報告者、カリマ・ベノウネ氏は28日のツイートで、ファワドさん殺害の情報にユネスコ親善大使のディーヤ・カーン氏とともに「重大な懸念」を表明すると述べ、各国政府がタリバンにアーティストの人権尊重を求めるよう呼び掛けた。【8月31日 CNN】
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「イスラム教では音楽が禁止されている」・・・多くのイスラム国家で、普通に音楽やダンスが楽しまれている現実とそぐわないのですが、本当に「禁止」されているのでしょうか?

****イスラム教で禁止されていることは?****
(中略)
音楽は?
コーランには明確に音楽を禁止する規定はありません。

ただハディースには預言者ムハンマドが「音楽が聞こえてきたときにムハンマドが両方の耳を指で塞いだ」とあり禁止とまではいかなくても、推奨はできないものとされています。(「イスラムと音楽」)

しかし実際には音楽はイスラム社会の日常に溶け込んでいます。
結婚式には歌や踊りがつきものですし、エジプトの有名な女性歌手ウンム・クルスームは「永遠の歌姫」と言われ、今でもアルバムがアラブ世界で売れ続けています。

イスラム世界でも日本や欧米と全く変わらず音楽が生まれ、人々に愛されているのです。(後略)【「イスラム世界を知るメディア」】
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上記記事にあるはディースとは“ハディースは、イスラム教の預言者ムハンマドの言行録。クルアーン(コーラン)がムハンマドへの啓示というかたちで天使を通して神が語った言葉とされるのに対して、ハディースはムハンマド自身が日常生活の中で語った言葉やその行動についての証言をまとめたものである。クルアーンが第一聖典であり、ハディースが第二聖典とされる。【ウィキペディア】”とのこと

イスラム世界で普通に楽しまれている音楽を禁じる、あるいは“そんなことをしないよう説得する”・・・このあたりが多くのイスラム国家と違って、タリバンが“原理主義”として、あるいは独特のイスラム主義としてなかなか国際社会に受容されない所以でもあります。

ついでに言えば、旧タリバン政権では音楽だけでなく、ほとんど全てのエンタテイメント・レクリアーションが禁止され、テレビ・映画あるいは凧あげ・チェスも禁止されました。

【兵士が女性尊重の「訓練受けていない」ので女性は自宅待機】
そのような生活全般に対する重苦しい統制と並んでタリバン支配で懸念されるのが女性の権利。

****タリバン、女性医療従事者に職場復帰求める****
アフガニスタンの実権を握ったイスラム主義組織タリバンの報道官は27日、全ての女性医療従事者に職場に復帰するよう求めたことを明らかにした。教育や訓練を受けたアフガン人の多くが国外に退避する中、現地では公共サービスの人手が足りなくなりつつある。

タリバンのムジャヒド報道官は「イスラム首長国の公衆衛生省は中央および州の全ての女性職員に対し、定期的に勤務するよう勧める」と表明。「イスラム首長国によって職務遂行を妨げられることはない」と強調した。

現地では女性が職場から追い返されるケースなども出ており、2001年までの旧タリバン政権と同様に女性の就労が再び禁止されるとの懸念が高まっていた。

だが、脆弱な医療システムで人手不足が生じているという不満の高まりを受けて職場復帰を促したとみられる。【8月30日 ロイター】
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上記の医療従事者は社会的必要性をタリバンとしても認めざるを得なかったケースですが、その他の情勢は?

****タリバン、女性に出勤控えるよう指示 兵士が女性尊重の「訓練受けていない」と説明****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義勢力タリバンは24日、働く女性に対して自宅に待機するように指示した。タリバンの兵士がいる環境下では安全ではないためと説明している。

タリバンは前回政権時より女性に寛容になると国際社会に訴えていたが、その主張を損なうものとなる。同日には世界銀行が女性の安全に関する懸念から支援を停止し、国連も人権侵害の報告に関する調査を求めている。

タリバンのムジャヒド報道官は記者会見で、自宅待機の指針は一時的なもので、女性が無礼な方法で扱われないようにする方法を探すための猶予をタリバンに与えるとしている。この措置が必要となったのは、タリバンの兵士が「変化を続けていて、訓練されていない」ためだとも認めた。

「状況が通常の秩序に戻り、女性関連の手続きが整うまで仕事を休むように求めている」とも述べ、対応が発表され次第職場復帰は可能だとしている。

1996~2001年の前回のタリバン政権では女性の就業が禁止された。女性は外出時に同行者が必要とされ、全身を覆うことも求められた。

タリバンは今回はもっと穏健になると主張するが、その指導層は女性の権利が剥奪(はくだつ)されないとの保証をしていない。

24日には有名なロボット工学チームの女性5人が、人道ビザ(査証)の発給を受けてメキシコに到着した。

タリバンが勢力を回復する中で、女性は社会からの孤立化が進み、嫌がらせや攻撃の対象になってきている。今年3月には3人の女性ジャーナリストが殺害された。ロイター通信によれば、7月には南部カンダハルの銀行のオフィスに侵入した武装勢力が9人の女性行員に職場を去るように命じている。【8月26日 CNN】
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“兵士が女性尊重の「訓練受けていない」”のであれば、自宅待機すべきは女性ではなくタリバン兵士の方です。
そうした道理を言っても仕方ありませんが・・・。

【女性が大学で学ぶことは許されるが、男女が同じ教室で授業を受けることは禁止する】
女性の職業と並んで注目されるのが教育。

****タリバン 女性の大学進学容認も、男女共学は禁止****
アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンの教育担当責任者は29日、女性が大学で学ぶことは許されるが、男女が同じ教室で授業を受けることは禁止するとの方針を明らかにした。
 
欧米が支援するアシュラフ・ガニ政権を崩壊させて今月中旬に権力を掌握したタリバンは、女子教育を禁じた1990年代のタリバンの統治との違いを強調し、厳格なイスラム法の解釈に基づきつつ女性の権利の発展を尊重すると約束している。
 
タリバンで高等教育相代行を務めるアブドゥル・バキ・ハッカニ氏は29日、首都カブールで開いた各地の首長や長老らによる「ロヤ・ジルガ(国民大会議)」で、「アフガニスタンの人々は、シャリア(イスラム法)に照らして安全に、男女が同席しない環境で高等教育を受け続けることになる」と述べた。
 
ハッカニ氏はさらに、タリバンが望むのは「われわれのイスラム的、国家的、歴史的な価値観に沿った合理的なイスラム的カリキュラムを作成しつつ、他国と競争できるようになること」だと説明した。
 
小中等教育でも男女共学は禁じられるが、これは極めて保守的なアフガニスタンでは現在も一般的に行われている。
 
今回のロヤ・ジルガには、タリバン幹部を含めて女性の参加者は一人もいなかった。
 
ガニ政権下で市立大学の講師を務めていた女性は、「タリバンの高等教育省は大学の機能を再開するに当たり、男性の教員や学生の意見しか求めなかった」と批判。これは「意思決定への女性の参加に対する組織的な妨害」であり、「タリバンの公約と行動のずれ」を示していると指摘した。
 
アフガニスタンでは、この20年間で大学進学率が上がり、特に女性の進学が増加。女子学生は、これまでは男子学生と並んで授業を受け、男性教授のゼミを受講することもできた。 【8月30日 AFP】
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男女共学は禁止となると、現実には高いハードルも。

****女性、男性と同じ教室で学んではいけない タリバン幹部が言及 アフガン、教育機会奪われる恐れ****
(中略)同国ではタリバン政権が崩壊した01年以降、都市部で女性の進学率が伸びた。首都の国立カブール大学や西部の国立ヘラート大学は、学生の5割以上が女性。

カブール大の経済学部の女性(20)は電話取材に「1室に100人以上を詰め込んできた状況で、男女を分けると教室や教員が足りなくなる。結果的に講義が減るのは目に見えている」と語る。

同大で政治学などを学ぶ男性(20)は「性別や人種を超えて、色々な立場の人たちと議論する機会が奪われる」と憤る。「女性だけでなく、立場の弱い人たちを隅に追いやる動きが広がるのではないか」
 
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、18年時点で高等教育を受けた女性の割合は4・9%で、男性の14・2%に比べ低迷している。農村部では今でも女児の進学を良しとしない習わしが根強く残る。【8月31日 朝日】
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何より、報道官や教育担当責任者のような国際社会の目も意識する「幹部」の発言が、字を読めない者も多い一般のタリバン兵士にどこまで徹底されるのか? はなはだ疑問・不透明な点も多く、先行きが心配されます。
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アフガニスタン  IS系テロ攻撃に対し、アメリカとタリバンが「協力」

2021-08-28 23:12:28 | アフガン・パキスタン
(26日、カブール空港周辺の爆発で負傷し治療を求めて病院に着いた女性【8月27日 時事】)

【米 IS系勢力に報復ドローン空爆、立案者殺害】
米兵13人を含む計180人以上が死亡、200人以上が負傷したアフガニスタン・カブールの空港でのIS系組織による自爆テロに対し、バイデン米大統領は“「今回の攻撃を行った者たちへ」として、「我々は許さない。我々は忘れない」と強調。「代償を払わせる」と語気を強めた。テロ攻撃を行った過激派組織「イスラム国」(IS)の支部組織の拠点や指導者に報復攻撃する作戦計画の策定を米軍に命じたことを明らかにした。ドローンなどを使った空爆攻撃を検討しているとみられる。”【8月27日 朝日】と報復を言明していましたが、その第1弾が実行されました。

****米、アフガンIS系勢力に空爆=報復で立案者殺害か―空港テロ、死者180人超に****
米中央軍は27日、アフガニスタン東部ナンガルハル州で、過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力に対する無人機攻撃を実施したと発表した。同勢力は26日に首都カブールの空港で起きた自爆テロで犯行を認めており、空爆はその報復とみられる。
 
米中央軍は声明で「IS系勢力『イスラム国ホラサン州』(IS―K)の立案者に対する対テロ作戦を実施した」と説明。その上で「初期の分析によれば、標的を殺害した」と述べた。民間人の死傷者が出たとの情報はないとしている。
 
ロイター通信などによると、標的となった戦闘員は別のIS関係者と車に乗っているところを爆撃された。将来のテロ攻撃の計画・立案に関与していたとみられる。(中略)
 
一方、米政府は新たなテロが計画されている可能性が高いとみて、最高度の警戒態勢を維持している。
 
サキ大統領報道官は声明で「今後数日間が最も危険だ」と強調。国防総省のカービー報道官も記者会見で「攻撃があることを予想している」とし、「こうした脅威をリアルタイムで厳密に監視している」と述べた。【8月28日 時事】 
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攻撃はドローンが使用されたとのこと。

アメリカは今後も引き続き、この種の攻撃を続けるのでしょうか。そうなると、対中国を重視した軍の再配備という戦略目標からはずれて、テロとの戦いに再び引き戻される懸念もあります。

【米・タリバンの共同作戦? 互いに関係を今後も必要とする両者】
今回の報復で感じたは、「また随分早かったな・・・」ということ。

以前から米軍は“IS系勢力『イスラム国ホラサン州』(IS―K)の立案者”なる人物を特定していたのでしょうか?それなら、どうして今まで野放しにしていたのか?

根拠も何もない私の全くの想像ですが、タリバン側から上記人物に対し何らかの情報提供がアメリカにあったのでは・・・その情報をもとに米軍がドローンで攻撃するという、タリバンと米軍の共同作戦だったのかも・・・・

今回の空港自爆テロではタリバン兵も28名ほど死亡するという大きな打撃を受けています。何より、アフガニスタンの治安は自分たちが担うとしていたタリバンは、敵対組織IS-Kによってメンツを潰された形にもなっており、アメリカだけでなくタリバンにも報復への強い動機がありますでの、その両者が手を組むというのはありうる話ではないでしょうか。

その根底には、アメリカもタリバンも、“ケンカ別れ”ではなく、今後に向けて互いに相手を利用しあう関係を望んでいることがあります。

タリバンとしては、今後の国家統治に国際的な承認が是非とも欲しいところで、なんだかんだ言っても国際社会をリードするアメリカとの関係は断ちたくないところでしょう。

****タリバン、アフガンの米大使館存続を望むと明確に表明=米国務省報道官****
米国務省のプライス報道官は27日、イスラム主義組織タリバンが米政府に対し、アフガニスタンの大使館の存続を望むと明確に示したと明らかにした。

プライス報道官はこのほか、米国はアフガニスタンの人々に対する人道支援を継続すると表明。ただタリバンの財源にならないようにすると述べた。【8月28日 ロイター】
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アメリカとしても、撤退後に残された協力者などの処遇といった「残務整理」でタリバン側に配慮を求めたいといということもありますし、今後のタリバン統治において女性の人権などで国際社会の価値観に合わない事態が表面化すれば、「米軍撤退はやはり間違いだったのでは」という議論にもなりますので、一定にタリバンに対し影響力を行使できる立場にありたいという希望もあるでしょう。

【米財務省 アフガニスタンへの人道支援を非公式許可】
上記記事にもある人道支援については、「非公式の許可」という扱いのようです。

****アフガン人道支援、米が非公式に許可 タリバン制裁で例外措置****
米財務省は人道支援組織に対し、アフガニスタンへの支援提供を許可した。事情に詳しい関係者が明らかにした。

イスラム主義組織タリバンがテロ組織として制裁対象になっていることが障害となり、アフガニスタンに食糧などの物資が届けられなくなるとの懸念が高まっていた。
 
援助団体や銀行からは、アフガニスタンへの人道支援や関連した金融取引を行っても罰せられない保証を求める声が高まっており、財務省は今週、プライベートの会話の中で許可を出した。

ただ、援助団体などは財務省に対して制裁からの正式な例外措置を求めており、今回の非公式な指針で懸念が払しょくされたどうかは明らかではない。
 
米国は2001年9月11日の同時多発テロ後、攻撃を実行したアルカイダ要員をかくまったとして、タリバンをテロ組織に指定した。これ以降、米国を拠点とする団体はタリバンにいかなる支援を行うことも法律で禁じられている。
 
タリバンは今月、政府機関や民間部門の大半を含め、アフガニスタンを全面的に掌握。このため、人道支援の取り組みに支障が出るとの懸念が高まった。
 
アフガニスタンでは治安が悪化し政府は崩壊したため、多くの国際援助団体が活動を停止。国際通貨基金(IMF)のエコノミストなどの専門家は、アフガニスタンは深刻な経済危機に陥る危険性があり、人道的危機が悪化する恐れがあると警告している。
 
開発援助・人道支援団体の主要ネットワークであるインターアクションとアライアンス・フォー・ピースビルディングはジャネット・イエレン米財務長官に対し、タリバン支配下のアフガニスタンへの人道支援に正式な許可を出すよう要請してきた。
 
インターアクションは「アフガニスタンの状況は悲惨であり、日々悪化している」としている。【8月27日 WSJ】
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アフガニスタンの食糧事情が極めて厳しい状況にあることは言うまでもありません。

****アフガン、深刻な飢餓に直面 WFPが警告****
国際赤十字社(IRC)は23日、アフガニスタンの人々が情勢不安定、食糧危機、コロナの感染拡大という3つの脅威に直面していると述べた。国連世界食糧計画(WFP)は19日までに緊急援助資金がなければ、同国は早ければ9月に食糧不足に直面するだろうと警告した。

IRCのグレゴリー・マシューズ氏は、アフガニスタンの政情不安、55万人の避難民、そして大干ばつ後の7月に政府が危機宣言を出したことで、食糧不足が高まっていると指摘した。さらに、コロナの感染拡大も、同国の医療システムを危機に陥入れている。世界保健機関(WHO)は23日、カブール空港が商業便の運航を停止しているため、重要な物資の輸送ができなくなっていると明かした。
 
WFPのアフガンの事務担当のアンドリュー・パターソン副局長は、「アフガン人口のほぼ半分であらる約1,850万人が援助に依存しており、今年の干ばつやコロナ禍による社会経済的影響で、作物の約4割が失われたため、多くの家庭が必要な食糧を入手できない状況にある」と述べた。
 
WFPによると、アフガンの3人に1人が飢えに苦しみ、子どもは200万人が栄養不良の状態にある。数十年にわたる紛争だけでなく、深刻な干ばつや新型コロナウイルスの感染拡大による貧困が原因だ。タリバンの進攻によって多くの人々が避難を余儀なくされ、食料不足に一段と拍車がかかる可能性がある。
 
WFPでは、2,000万人もの人々が食糧を必要とし、9月までに現在の備蓄が不足する可能性があるとしている。アフガニスタンの人々を12月末まで支援するためには、54,000トンの食糧が必要で、食糧の購入には約2億米ドル(約220億円)が必要である。
 
国際連合児童基金(UNICEF、ユニセフ)事務局長のヘンリエッタ・フォア氏も23日、アフガンでは約1,000万人の子供たちが人道的支援を必要としており、治療を受ける前に100万人が死亡する可能性があり、状況はさらに悪化すると予想されていると述べた。
 
WHOの地域緊急局長であるリチャード・ブレナン氏は、電子メールの声明で次のように書いた。「世界の目は今、避難者と飛行機に向けられており、残された人々を助けるための物資を送り込まなければならない」【8月26日 看中国】
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【アメリカ中央軍司令官 タリバンとの情報共有・共同でのテロ防止活動を認める】
話をアメリカとタリバンの対テロ協力に戻すと、アメリカ中央軍の司令官を務めるフランク・マッケンジー将軍がそのような協力が行われていることを発言しているようです。

****タリバンと米軍が「反テロ」で協力か──カブール空港テロと習近平のジレンマ****
中国はタリバンを支援する交換条件としてテロの撲滅を絶対条件とした。今般のテロでタリバン兵士28人が犠牲になっており、タリバンはアメリカと協力してテロ組織をつぶそうとしている。これは習近平に痛手か?(中略)

タリバンが米軍と協力して過激派ISISを打倒する
アメリカ中央軍の司令官を務めるフランク・マッケンジー将軍は、空港を標的としたロケット弾や車両爆弾の可能性を含め、ISISによるさらなる攻撃を警戒している」と述べ、「一部の情報はタリバンと共有している」とした上で、「タリバンによっていくつかのテロ攻撃が阻止された」と付け加えた。つまり、タリバンはテロ集団と戦っているということだ。

何よりも驚くべきは、マッケンジー将軍が「米軍の司令官はタリバンの司令官と協力してさらなる攻撃を防いでいる」と語ったことである。
つまり、「米軍がタリバンと協力してテロ活動を防いでいる」というのだ。

中国共産党が管轄する中国の中央テレビ局CCTVも8月27日正午のニュースでカブール空港テロ事件に関する特別番組を組んだのだが、そこで中国国際問題研究院の研究員である崔洪建氏が「米軍とタリバンが協力して共にテロと戦う」という可能性を排除できないと解説していた。

そうなると、アメリカがここに来て、初めて「反テロ」に向けてタリバンと共闘するという、前代未聞の事態が現れるということになる。(中略)

バイデン大統領は必ず米軍を8月31日までに撤収させると言っているのだから、米軍がタリバンと協力してテロ組織撲滅に従事することなどできないと思うのが常識的な反応だろう。

しかし、おそらくタリバンもピンポイント的に「テロ組織撲滅」という目的にのみ特化した部隊を残すことには賛同するだろうし、遠隔操作という方法もある。何らかの方法を考えるのではないかと推測される。(後略)【8月28日 遠藤誉氏 Newsweek】
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今回の「報復攻撃」がアメリカ・タリバンの共同作戦だったかどうかは知りませんが、今後の話で言えば、ドローンなら、タリバンからの情報提供に基づいて周辺国の基地から飛ばし、操縦などはアメリカ本土から行うということも可能です。

もっとも、現地に情報機関要員がおらず、情報を全てタリバンに頼るというのは、非常に危険な側面もありますが。
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アフガニスタン空港テロ  窮地のバイデン大統領 今後の戦略にも影響 中国「テロの温床」を危惧

2021-08-27 22:54:01 | アフガン・パキスタン
(ホワイトハウスで26日、うつむきながら記者の質問を聞くバイデン米大統領【8月27日 朝日】
強い大統領を求めるアメリカでは、こういう姿は大きなマイナスでは・・・。ただでさえ、認知症の疑念を持たれていますので。
“最後には「みなさん、20年間の戦争を終わらせる時だったのです」と質問を打ち切り、会場をあとにした。”とのこと)

【アメリカとタリバンの限定的な協力関係を狙ったISによる「起こるべくして起きた」テロ攻撃】
カブールの空港付近での自爆テロは、タリバンの首都制圧以降の空港の混乱ぶりからすれば、誰しも予想した(何事もなければ、それが不思議なぐらいの)「起こるべくして起きた」テロ攻撃ではありますが、死者は100人を超え、アメリカにとっても兵士13人が死亡するという「最悪」の結果になっています。

****アフガンテロ、死者100人超 米大統領、IS報復を指示****
アフガニスタンの首都カブールの空港付近で起きた自爆テロで、AP通信などは27日、死者が100人を超えたと報じた。標的の一つは出国希望者らが集合するホテルだったことも判明した。

関与を主張した過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力のIS「ホラサン州」は、世界が注目する退避作戦を狙った攻撃で存在感を誇示し、アフガンの混迷が拡大。バイデン米大統領は報復を指示した。
 
ISはタリバンと敵対関係にある。米軍撤退完了の期限が31日に迫る中、アフガンが再びテロの温床となる恐れが高まった。米兵の1日当たりの死者数として13人は過去10年で最悪となった。【8月27日 共同】
*********************

ISにしてみれば、アメリカに打撃を与え、同時にタリバン支配も揺さぶることができる、一石二鳥のテロです。

****アフガン自爆テロ IS―K、米タリバンの〝信頼なき協力〟標的****
アフガニスタンの首都カブールでの自爆テロは、仇敵である米国とイスラム原理主義勢力タリバンが、在留米国人らの退避プロセスで実質的な協力関係を結ぶ中で発生した。

実行したとみられるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」傘下の「ホラサン州」(IS―K)には、対米ジハード(聖戦)の成果を誇示することで競合するタリバンの正統性をおとしめて混乱を助長するとともに、米国とタリバンの不信を増幅させる狙いがある。

アフガンでは、今月15日にタリバンがカブールを制圧して以降、米国人をはじめとする在留外国人や、タリバン支配を恐れるアフガン人らの退避が本格化。撤収期限の8月末が迫るなかで米国は、タリバンとの間で、外交団や軍のレベルで「日常的な連絡態勢」(国務省)を構築した。

背景には、「脱アフガン」を円滑に進めたい米国側と、外国勢力を国内から排除して早期に支配を確立したいタリバンとの利害の一致がある。タリバンとしては今後の政権運営をにらみ、米欧に恩を売る狙いもあるとみられる。タリバンがアフガン人の出国を認めないとするなど両者の隔たりは大きいとはいえ、限定的な協力関係が生まれているといえる。

これに対し、米国とタリバンの双方を敵視するIS―Kにとっては、今回のようなテロで混乱を長期化させることが利益になる。正統なジハード(聖戦)勢力とのイメージを強化し、タリバンの求心力低下も期待できるためだ。

今回のテロでは、自爆犯がタリバンによる検問をすり抜けて現場に接近していることから、タリバン兵にIS―Kの協力者がいる可能性も否定できない。

26日にオンラインで記者会見した米中央軍のマッケンジー司令官は、「タリバンを信用できるのか」との問いに、重要なのは「タリバンには、米国に(アフガンから)出ていってほしい理由があること」だと指摘し、「連携を継続する」と強調。米国は、無人機などを活用した上空からの監視態勢を強化する一方で、タリバンとの〝信頼なき協力〟に頼りつつ退避プロセスを進める構えだ。【8月27日 産経】
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【責任問題で窮地に立たされるバイデン大統領 再び「テロの戦い」に引きずり込まれる可能性も】
アメリカ国内では8月31日機嫌の徹種に拘って現地混乱を惹起したバイデン大統領の責任を追求する声が強くあります。

****米メディア、バイデン大統領の責任を追及****
アフガニスタンの首都カブールの国際空港で少なくとも13人の米兵が殺害された自爆テロについて、米メディアは26日、トップニュースとして被害状況や背景を詳報した。バイデン大統領が8月31日のアフガン駐留米軍の撤収期限にこだわったことが犠牲を招いたとの論調が目立った。

バイデン氏が26日に行った記者会見で、保守系FOXニュースの男性記者が厳しく追及する様子が注目を集めた。
記者が、撤収期限を設けたことが米兵の殺害につながったとし、「あなたは責任を負うのか」と問いただすと、バイデン氏は「起きたこと全てに基本的な責任を負う」と応じつつも、撤収はトランプ前政権とアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンとの間で合意されたことであると強調した。一連のやり取りは経済誌フォーブスや議会紙ヒルが電子版で速報した。

有力紙では、ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が社説で「誰もが恐れていたイスラム過激派のテロが起きた。大統領は安全な退避活動のために十分な兵力を出さなかった過失責任を逃れられない」と批判した。

ワシントン・ポスト紙(同)は「バイデン氏の『経験豊かで堅実な世界の指導者』という信認が損なわれた」と指摘。与党・民主党の一部議員も「自爆テロが起きた空港周辺の治安をタリバンに頼る国防総省の方針を疑問視している」と伝えた。

一方、ニューヨーク・タイムズ紙(同)は「混乱した撤収」としつつも、自爆テロに関するバイデン氏への批判は「政治的」であると分析。多くの米国人が「(米軍の)アフガン撤収を望んでいた」とし、「長期的にバイデン政権の打撃となるかどうかは不透明だ」と論じた。【8月27日 産経】
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****カブール爆発、トランプ氏や共和党議員がバイデン氏非難****
アフガニスタンの首都カブールで自爆攻撃によって米兵13人が死亡、18人が負傷したことを受けて、米国のドナルド・トランプ前大統領と複数の共和党議員は26日、ジョー・バイデン大統領を非難した。
 
バイデン氏のアフガン問題への対応を厳しく批判してきたトランプ氏は、自爆攻撃を「悲劇」と呼び、防げたはずだと述べた。「この悲劇は決して起こしてはならなかった」
 
複数の共和党議員は、バイデン氏は辞任するか弾劾されるべきだと批判した。
 
共和党のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州選出)は、「ジョー・バイデン氏には責任がある」と述べた。「今や彼にリーダーとしての能力も意志もないことが明白となった。辞任しなければならない」
 
共和党下院ナンバー3のエリス・ステファニク議員は、「(米兵らの)死の責任はジョー・バイデン氏にある」とツイッターに投稿した。
 
ステファニク氏は、「この恐ろしい国家安全保障上および人道上の大惨事は、ジョー・バイデン氏がリーダーとして弱く、無能なことの帰結にほかならない。最高司令官にふさわしくない」と主張した。 【8月27日 AFP】
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“バイデン大統領が8月31日のアフガン駐留米軍の撤収期限にこだわった”とは言っても、現地を制圧しているタリバンが期限延長を認めない状況では、他の選択肢はなかったとも思われます。

そもそも米軍撤退はトラン前大統領のタリバンとの合意が前提となっており、タリバンの首都制圧も誰も予想しえなかった程の急展開でしたので、バイデン大統領一人が責められるのはやや理不尽なところはありますが、「撤収のやり方がまずかった」と言われれば、結果が全ての政治の世界で責任回避はできないでしょう。

そうした責任問題と同時に、アフガニスタン撤退によって対中国の軍展開を目指していた矢先のテロ攻撃によって、再び「テロとの戦い」に引き戻されるという点でも、バイデン政権にとっては大きな痛手となっています。

****バイデン政権、発足以来最大の窮地 再びテロとの戦いに突入か****
「テロリストは我々を邪魔することはできない。我々は退避作戦を継続する」
バイデン米大統領は26日の演説でこう力を込めた。バイデン氏は米軍高官たちと退避作戦を協議。高官たちは「(作戦の)任務を完了できるし、完了させなければいけない」と明確に答えたという。
 
バイデン氏はさらに「今回の攻撃を行った者たちへ」として、「我々は許さない。我々は忘れない」と強調。「代償を払わせる」と語気を強めた。テロ攻撃を行った過激派組織「イスラム国」(IS)の支部組織の拠点や指導者に報復攻撃する作戦計画の策定を米軍に命じたことを明らかにした。ドローンなどを使った空爆攻撃を検討しているとみられる。
 
ただ、政権肝いりの退避作戦で多数の米軍兵士が犠牲となったことは、バイデン政権発足以来最大の政治的窮地を迎えたと言ってもよい。

バイデン氏が米軍撤退を推し進めたのは「国益のためにならない」(同氏)戦争でこれ以上の若い米軍兵士の犠牲を防ぐという大義があった。

批判を受けても8月末の退避作戦完了にこだわったのも、空港周辺でテロ攻撃を画策しているという情報を米情報機関がつかんだことで、作戦が長期化すれば、米軍兵士がテロ攻撃にさらされるリスクが高まることを理由にあげていた。
 
今回の13人という米軍兵士の死者数は、2011年8月に米軍ヘリが撃墜されて30人の米軍兵士が死亡したのに次ぎ、アフガニスタンでの一日の死者数としては最も多い。サキ大統領報道官は「バイデン大統領の任期中で、最悪の出来事」と表現した。
 
今回のテロ攻撃をきっかけに、米国が再び中東周辺に足を取られていく恐れも出てきた。もともとバイデン政権はアフガニスタンから撤退することで、米国の軍事力を「唯一の競争相手」と位置づける中国に対して集中させるという狙いがあった。

しかし、報復宣言に見られるように、バイデン政権が再びテロとの戦いに引きずり込まれていく可能性もある。実際、バイデン氏は26日、「追加の派兵が必要であれば、私は認める」と語った。【8月27日 朝日】
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【タリバン「米軍が管轄する場所で起きた」】
今回テロをタリバンがどのようにとらえているかについてはあまり報じられていませんが、“タリバン報道担当のムジャヒド幹部は、ツイッターに「市民を狙った爆発を強く非難する」と投稿し、爆発は「米軍が管轄する場所で起きた」とした。”【8月27日 朝日】とのこと。

責任は米軍側にあるということでしょうか。ただ、前出記事にもあるように“自爆犯がタリバンによる検問をすり抜けて現場に接近していることから、タリバン兵にIS―Kの協力者がいる可能性も否定できない”という側面も。

【中国 「テロの温床」となって新疆ウイグル自治区へ影響することを懸念】
一方、中国にとってアフガニスタンに関する関心は、地下資源とか「一帯一路」の問題もありますが、一番はアフガニスタンの混乱がテロの温床となって、“敏感な”新疆ウイグル自治区の情勢に影響を与えないことでしょう。

****アフガンのタリバン政権と中国****
(中略)ところで、中国はタリバンに対して如何なるアプローチを取っているのか。

アフガンが大混乱に陥る直前の7月28日、王毅・中国外相は、天津市でタリバンの幹部と会談し、アフガニスタン和平などについて意見交換を行った。中国外務省の発表によると、同外相はタリバンについて「アフガンの和平、和解、復興プロセスで、重要な役割を発揮することが見込まれる」と述べたという。

また、今月8月19日、王毅外相は、ラーブ英外相とアフガニスタン情勢について電話会談した際、国際社会はタリバン政権に対し「圧力よりも支援を」と強調している。

翌20日、タリバンの報道官は、CCTVの取材を受け、中国について「偉大な隣国だ」とした上で、「同国はアフガニスタンの平和と和解のため建設的な役割を果たしてきた」と評価した。

中国共産党としては、タリバン政権と友好な関係を構築したいのではないか。周知の如く、新疆ウイグル自治区では、ウイグル人収容所があり、タリバンはイスラム教スンニ派である。場合によっては、タリバンが中国国内の一部のスンニ派ウイグル人と手を結び、テロによって習近平政権を脅かさないとも限らない。

また、アフガンには大量の資源(主に銅とリチウムで、一説には3兆米ドルにのぼるという)が眠る。中国共産党は、何とかアフガンの資源を手中に収めたいだろう。同時に、中東(例えば、トルクメニスタン等)と中国を結ぶアフガンの石油・天然ガスパイプライン敷設も重要課題である。北京は、是非とも、そのパイプラインを稼働させたいのではないだろうか。

更に、習近平政権としては「一帯一路」構想を実現する上で、アフガンの安定は不可欠である。もし、アフガン情勢が混迷化すると、同構想は頓挫するかもしれない。

一方、タリバン政権としても、今後、米国やEU等からの支援を得づらいので、中国との友好関係を深めたいのではないか。特に、アフガンではケシの栽培が行われている。世界のアヘンの9割はアフガン産と言われるが、そのアヘンを主に中国が買い取っているという。

ただし、よく知られているように、部族国家のアフガンでは、歴史的に、大国の英国、(旧)ソ連、米国が泥沼に嵌まっている。ひょっとすると、中国も同じ轍を踏む可能性がないとは言い切れまい。【8月25日 澁谷司氏 Japna In-depth】
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****中ロ首脳、アフガン安定化へ協調=テロの温床を警戒****
中国外務省によると、習近平国家主席は25日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、アフガニスタン情勢の安定化に向け協調することで一致した。両首脳はアフガンがテロ組織の温床になることに強い警戒感を示した。
 
習氏は、ロシアをはじめ国際社会の各国と意思疎通や協調を強化したいと説明。さらに「アフガンの各派が開放的・包括的な政治的枠組みを話し合って築き、穏健な内外政策を実施し、テロ組織と徹底的に(関係が)切れるよう奨励したい」と訴えた。【8月25日 時事】 
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そうした(支配者はタリバンでも誰でもいいので)アフガニスタンの安定によって「テロの温床」となることを防ぐことを重視する中国にとっても、今回の事件は今後の「テロの温床」を懸念させるものになっていると思われます。

****カブール空港テロ、中国も非難 「テロ拠点化防ぐ」****
中国外務省の趙立堅副報道局長は27日の定例会見で、アフガニスタンの首都カブールのにある国際空港付近で発生した爆破テロ事件について「中国はあらゆるテロに断固反対し、強く非難する。国際社会と共にテロの脅威に対応し、アフガニスタンがテロの拠点になることを防いでいきたい」と語った。
 
趙氏は「多数の死傷者が出たことに衝撃を受けている」としたうえで、「事件はアフガニスタンの治安状況が依然として厳しいことを物語っている」との認識を示した。
 
中国が最も警戒するのは、アフガニスタンの不安定化が新疆ウイグル自治区の独立を目指す東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の活動につながることだ。趙氏は「タリバンはいかなる勢力も中国に危害を加えることは許さないと明確に述べた。約束を着実に実行してほしい」とタリバン側に役割を果たすよう求めた。
 
一方、米国はETIMについてトランプ政権が昨年、「活動存続の確証がない」としてテロ組織指定を解除している。趙氏は「米国はテロに反対すると言いつつダブルスタンダードだ。中米の反テロ協力に何の利益にもならない」と批判した。【8月27日 朝日】
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退避希望者が空港に入れず、これまで進捗していない日本の退避作戦は、今回のテロで更に難しくなると予想されますが、その点では韓国はテロ発生前にうまく処理したようです。

****韓国、アフガンから390人脱出成功 特殊部隊「ミラクル」作戦****
韓国政府は27日までに、アフガニスタンで韓国政府に協力していた現地スタッフとその家族390人を脱出させ、韓国で難民ではなく「特別功労者」として受け入れた。作戦名は「ミラクル」(奇跡)。

首都カブールの国際空港への接近が難しい状況下で、在アフガニスタン韓国大使館職員以外に60人余の特殊任務部隊を編成し、希望者全員を脱出させることに成功したという。
 
「とても危険な作戦で、我々は幸運だった」。青瓦台(大統領府)の朴洙賢(パクスヒョン)国民疎通首席秘書官は26日、ラジオのインタビューでこう振り返った。
 
青瓦台や国防省などによると、救出作戦を遂行するため空軍などで構成する66人の特殊任務部隊を緊急編成し、23日に軍輸送機3機を派遣。当初は退避希望者が自力で空港に集合した後に空輸する予定だったが、タリバンが空港に至る道に検問所を設置して市民を追い返していたため、24日に空港までたどり着いたのは26人だけだった。
 
そのため、作戦を変更し、米国が現地で契約するバスを6台確保した。タリバンと米国は事前に指定したバスは空港に入れることで合意していたからだ。
 
大使館の連絡網を通じて、市内に散らばって待機させたバスの位置と集合時間を退避希望者に伝え、全員をバスに収容。さらに米軍兵に同乗してもらうことで、タリバンの検問を通過し、25日に空港に到着した。パキスタンの首都イスラマバードで待機中の輸送機をカブールに急派し、同日中にイスラマバードへ退避させた。
 
脱出したのは在アフガニスタン韓国大使館や韓国政府が運営する病院、職業訓練施設などで勤務していたスタッフとその家族390人。全員が27日までに新型コロナウイルスの検査を受けた後、政府施設に滞在する予定だ。「特別功労者」は短期ビザのため、今後、就職が可能な長期ビザへの切り替えを可能にする法整備も進める方針だ。
 
韓国外務省は今年6月、アフガニスタンに滞在する国民に撤収を要請。カブール陥落後に残っていた国民1人も8月17日に大使館員と共に脱出したため、すでに現地に残っている国民はいない。【8月27日 毎日】
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アフガニスタン  国際的孤立の中、タリバンが直面する経済・市民生活の再建という難題

2021-08-24 22:40:12 | アフガン・パキスタン
(露店でメロンやスイカを買い求める人たち。権力を握ったイスラム主義勢力タリバンを恐れていても、人々は生活のために街に出る=8月23日、カブール【8月24日 朝日】
一見、普段どおりの生活が営まれているようですが・・・)

【物価上昇、ATM停止、給料未払い・・・困窮する市民生活】
外国人、外国軍への協力者、女性活動家などタリバン支配による脅威にさらされている人々などのアフガニスタン国外退避とその混乱、進捗の遅れが世界の注目を集めているなかで、これからのアフガニスタン再建に関するニュースが。

****タリバン、アフガン中銀総裁代行を任命 経済再建に着手****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンは23日、アフガニスタン中央銀行総裁代行にハッジ・モハンマド・イドリス氏を任命したと発表した。

タリバン幹部によると、イドリス氏は北部ジョージアン州出身で、2016年にドローン(小型無人機)による攻撃で殺害されたタリバンの前最高指導者マンスール師の下で長らく財務を担当していた。

別の幹部は、イドリス氏はタリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されていると述べた。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は声明で、イドリス氏は各機関を整備し、アフガニスタン国民が直面している経済問題に対処すると表明。ただ政府職員の給与支払いが滞り、多くの企業が営業を停止する中、食料品や家庭で利用する燃料などの生活必需品の価格に上昇圧力がかかっており、困難が予想される。【8月24日 ロイター】
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困難を極めることが予想されるアフガニスタン経済、市民生活の再建の中心になるべき人事ですが、“タリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されている”という人物で可能なのか? という素朴な疑問も。

タリバンの金庫番と、一国の経済のかじ取りはまた別物のようにも思うのですが・・・・

一部の国外退避する人々以外の大多数の人々は、今後ともアフガニスタンの地で生活していかねばなりませんが、その生活は今、政治の空白、国家機能の停止によって日増しに苦しさを増しています。

物価は高騰し、銀行ATMは停止し、公務員給与は止まっています。
そうしたなかでも人々は食糧を手に入れ、生きていかねばなりません。

****タリバン、アフガニスタン首都掌握から1週間 食品高騰で市民は困窮、銀行は閉鎖****
イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを瞬く間に掌握してから1週間が過ぎた。銀行は閉まったままで、食品価格は跳ね上がり、職を失って日々の暮らしと格闘する人々の数が日に日に増えている。

数千人の群衆が空港の入り口に押し寄せ、カブールを脱出するための席を確保しようと争う光景は、西側を後ろ盾とした政権が崩壊した後の混乱ぶりを何より鮮明に印象付けた。

しかし日がたつにつれ、食糧や家賃といった日々の心配事が見通しの暗さに輪を掛けるようになっている。この国のぜい弱な経済は国際支援の消滅によって打ちのめされた。

「途方に暮れている。何を真っ先に考えるべきなのか分からない。自分の身を安全にして生き延びることか、それとも子どもと家族を食べさせることなのか」と語るのは元警察官だ。妻と4人の子どもを養っていた260ドル(約2万8600円)の月給を失い、今は身を隠している。男性はこの2カ月間、給与を受け取っていない。下位の公務員の多くがそうした状態だ。

「私が住んでいるのは賃貸アパート。この3カ月間、大家に家賃を納めていない」と語る。
この1週間は妻の指輪とイヤリングを売ろうと試みたが、他の多くのビジネスと同様に金市場も閉鎖されており、買い手は見つけられない。「お手上げだ。どうすれば良いのか分からない」とため息をつく。

タリバンがカブールを制圧した15日より前から状況は悪化していた。タリバンが地方都市を急スピードで進攻したことで通貨アフガニはドルに対して急落し、基本的な食料品の価格をさらに押し上げた。

小麦粉、食用油、米などの価格は数日間で10―20%も上がり、銀行が閉まっているため多くの人々は貯蓄を引き出すこともできない。国際送金サービス、ウエスタン・ユニオンの事務所も閉じたので、海外からの送金も途絶えた。
捕まるのを恐れて身を隠している元政府職員は「すべてはドルの状況のせいだ。中には店を開けている食料品店もあるが、市場は空っぽだ」と嘆く。

隣国パキスタンとの主要な国境沿いで交通は再開したものの、国全体が厳しい日照り続きで、多くの人々の困窮に追い打ちを掛ける。テントや仮設シェルターで生き延びようと、数千人の人々が都市を目指している。

複数の国際支援団体は22日、アフガン向けの商業航空便が停止されたため医薬品その他の支援物資を届ける手段がないと訴えた。

地方の窮状は日増しに都市部にも波及するようになり、下位中間層を直撃している。この層は前回のタリバン政権が終わってからの20年間、生活水準の向上を経験してきた。

「何もかも終わった。倒れたのは政府だけではない。私のように1万5000アフガニ(200ドル)前後の月給に頼って暮らしていた数千人も同じだ」と、別の元政府職員は語る。

「この2カ月間というもの政府が給料を払ってくれず、私たちは既に借金を背負っている。高齢の母は病気で薬が必要だ。子どもと家族は食べ物が必要だ。神様お助け下さい」と悲痛な声を上げた。【8月24日 Newsweek】
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麦価で唯一下がっているのは家賃。また、経済停止によって電力需給も改善しているとか。
ただ、それらはアフガニスタン経済が直面して困難を物語ってもいます。

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物価のうち唯一下落しているのが家賃だ。カブールの両替商、パイマン氏は「非常に大勢の人々が町を去った」と語る。同氏によれば、「住宅が空き家だった場合、タリバンが接収する可能性があることを恐れ、一部の家主はテナントに無料でも居続けるよう頼んでいる」という。
 
住民らによると、改善された点の一つは全国を通じて以前に比べて電力供給がより安定したことだ。これは、政府オフィスや多くのビジネスが依然として閉鎖状態にあるため電力需要が減少したことや、主要送電網の途中にある鉄塔をタリバンが爆破するのをやめたことなどを反映している。【8月24日 Newsweek】
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【国際支援も停止】
これまでアフガニスタン経済を支えてきた国外からの支援も停止しています。

****アフガン、経済混乱 閉まった銀行、物価は急騰****
イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンで、国内経済の混乱が続いている。米国による資産凍結などで現金が不足し、銀行は営業を停止。物価が急騰し、市民の生活は苦しくなる一方だ。
 
「タリバンは軍事的には勝利した。しかし、これからは国家運営が必要になる。簡単ではない」。アフガン中央銀行のトップだったアジュマル・アフマディ氏は18日、脱出先の国外からツイッターで経済の逼迫(ひっぱく)ぶりを説明した。
 
アフマディ氏によると、アフガン中銀は政権崩壊前の時点で海外に約90億ドル(約9900億円)の資産を持っていた。その大半が米ドルや債券、金などの形で米国に預けられていたが、米バイデン政権が凍結。新政権ができても「タリバンが使える資産は、おそらく0・1~0・2%しかない」という。
 
国際通貨基金(IMF)のゲリー・ライス報道官は18日、タリバンが支配するアフガニスタンが「国際社会の承認を得ていない」として経済支援の送金を止めると発表した。
 
すでにアフガン国内は現金不足に陥っている。治安悪化で外貨の持ち込みが止まり、アフガン中銀は国内の銀行に現金を渡せなくなった。銀行の店舗は閉まったままで、街中のATM(現金自動出入機)への現金の補充はほぼない。
 
住民によると、1リットル50アフガニ(約70円)ほどだったガソリンはここ数日で5割上昇。小麦粉や砂糖なども1~2割高くなった。公務員への給料の支払いは止まっている。露天商アシフさん(24)は「みんな手持ちの金がなく、買い物もできない。国外脱出を願う若者が多いのも当然だ」と語った。
 
そんななか、ドイツ政府は17日、今年予定されていた約560億円相当の支援を一時停止すると発表。これに先立ち、マース外相は「タリバンが完全に支配すれば1セントたりともアフガニスタンには送らない」と語っていた。ドイツは主要援助国の一つで、他の国の判断にも影響しそうだ。国家予算の約5割を国際援助に頼ってきたアフガニスタンにとって打撃は大きい。
 
タリバンは1996~2001年の旧政権時代、極端なイスラム教の解釈が国際的な批判を浴び、経済が行き詰まった。タリバンは17日の会見で「天然資源で経済を立て直す」と主張したが、天然資源を運び出すための鉄道網は未整備で、実現は容易ではない。
 
タリバンが今後、これまで資金源にしてきた麻薬ビジネスを活発化させる恐れがある。【8月24日 朝日】
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かつて旧タリバン政権が実験を掌握したときと、今では状況が大きく異なります。

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現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。【8月24日 WSJ】
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【経済再建、国際支援復活のために妥協するのか あるいは恐怖支配か】
タリバンは、内戦によって廃墟状態にあった1996年と異なり、曲がりなりにも現代生活を享受していた国民の要求に向き合うことになります。

これまでのゲリラ戦で銃を撃ち、敵を倒すこととは、全く異なる能力が要求されています。

国民生活を維持していくためには国際支援が必要となりますが、そのためには国際社会の人権・自由に関する要求に一定に応える必要があります。(だからこそ、今現在、実態はともかく、公式見解として比較的融和的な姿勢を打ち出しているのでしょう)

****アフガン経済崩壊、交渉迫られるタリバン****
銀行閉鎖で現金が不足 ドルも外国の援助も届かず

アフガニスタンの新たな支配者となったタリバンは、本格的な軍事的抵抗がなくなった今、経済の破綻という新たな脅威と格闘している。経済問題はタリバンの統治に向けた新たな課題として深刻化する可能性があり、すでに権力の共有を迫る圧力となっている。
 
アシュラフ・ガニ大統領と大半の閣僚が8月15日に首都カブールを脱出して以来、アフガンに正式な政府は存在しない。それから8日目を迎えても銀行や両替所は閉まったままで、生活必需品の価格は急騰、経済活動は急停止した。
 
「人々はお金を持っているが、それは銀行に預けてある。つまり彼らの手元にはもうお金がない。現金を手に入れるのは困難だ」と、カブール在住で建設会社の経理を担当していたバヒール氏は話す。「そのため、カブールではすべての商売が停止状態になっている」

1990年代には、タリバンによる権力奪取がアフガン経済を再活性化させた。敵対し合う軍閥間の争いが終息し、交易のための道路が再開されたからだ。

その当時、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国がアフガンのタリバン政権と国交を結んだ。こうした進展がもたらした安定は、タリバンに対する評価を高めた。

しかし今回は、カブールを掌握した新政権を承認した国はまだ一つもない。こうした苦況による経済的打撃で、対立する政治勢力を取り込んだ融和的で――そして穏健な――政府の構築を、タリバンが迫られる可能性もある。
 
アフガンの元財務相、オマール・ザヒルワル氏は今週、タリバンと権力共有の協議を行うためカブールに戻ってきた。同氏は「政治的安定の回復が早ければ早いほど、現在生じつつある深刻な経済的打撃からアフガンを救い出すのも早くなる。われわれはタリバンと協力して、銀行やオフィス、省庁の再開などカブールの日常を取り戻そうとしている」と語った。
 
同氏はまた、現在の政治空白状態では、国外に脱出した経済組織の高官の後任として、現職の公務員を昇格させることが「知識のない者や国際社会から認知されていない者を新たに高官に任命するより有益だ」と付言した。
 
しかしタリバンは今のところ、こうした主張に影響されてはいないようだ。タリバンは23日、現職の公務員を昇格させるのではなく、タリバン幹部として反政府活動に長年かかわってきたハジ・モハマド・イドリス(Hajji Mohammad Idris)氏をアフガンの中央銀行の新総裁に任命した。これまで中央銀行の総裁代行だったアジマル・アフマディ氏は、8月15日に他のアフガン市民らととも脱出を図り、米軍のC17輸送機の後方スペースに逃げ込んだ。

タリバンは23日に初の経済的な命令を出し、金属スクラップの輸出を禁じた。タリバンはまた、政府職員の給与支払いを続けることと、銀行業務が「近い将来」に再開されることを発表した。(中略)
 
タリバンが国際的な制裁対象であるため、米国は既にアフガンへの送金や支援金の支払いを停止している。アフガン人の国外移住者が多く利用している2大送金事業者の米ウエスタンユニオンと米マネーグラム・インターナショナルは21日に同国への送金を停止した。送金を継続すると、米国の制裁に違反する恐れがあるからだ。
 
国際通貨基金(IMF)は先週、「現在、国際社会でアフガン政府の認知に関する透明性が欠如している」ため、同国はもはやIMFの資源にアクセスできないとの見方を示した。
 
アフガニスタンは8月23日にIMFから4億4000万ドル(約484億円)相当の特別引き出し権(SDR)を受け取る予定だった。前出のアフマディ氏によると、タリバンによる政権奪取前の時点でアフガン中銀が保有していた90億ドルの外貨準備のうち、アフガン国内で保有されているものはほとんどないという。海外支援や海外にいるアフガン人からの送金が、同国経済の主要な部分を占めている。

現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。
 
住民によると、カブールでは銀行と大半の店舗が休業しているため、携帯電話のアカウントの利用可能残高を増やすために使うスクラッチカード(プリペイドカード)が人気商品になっている。通信ネットワークの多くは部分的に海外の大手企業が保有しているが、現段階でサービスが継続されているため、同カードは額面金額をはるかに上回る価格で売れているという。
 
現在でも稼働している現金自動預払機(ATM)からの1日当たりの預金引き出し上限額は1万アフガニ(約116ドル)で、従来の3万アフガニから引き下げられていると、アフガン北部バルフ州マザリシャリフの住民、バリヤライ氏は話す。バリヤライ氏は「銀行は1カ所も開いていない。銀行は現在、ATMに現金を補充しておらず、誰も現金を得ることができない」と語った。
 
住民らによれば、小麦粉、食用油、ガスなど生活必需品の価格は50%も上昇している。依然として営業している数少ない町の両替商の交換レートによれば、アフガニは対ドルで約10%下落しており、ドルを入手するのはますます困難になっている。また、一部輸入商品は商店の棚から消えている。
 
人々はたとえお金を持っていても使おうとしない。カブール在住の政府職員、トルヤライ氏は、「人々は将来を懸念しており、資金を残しておきたいと思っている」と指摘、「彼らは今後の困難な時期のために備えておきたいと考えており、手持ちの資金を国外脱出に使うつもりだ」と語った。(中略)

カブールでは一部のレストランやコーヒーショップが営業を再開したが、ビジネスは低調だ。タリバンによる政権掌握から2日後にカブール西部で人気コーヒーショップを再開したある事業者によれば、1日当たりの客数はわずか5~10人程度だという。
 
この人物は、「店の近くの検問所の責任者であるタリバンの指揮官が店に来て、ケーキを食べ、カプチーノを飲んだ。彼は私のコーヒーを気に入っていた」と語った。
 
この事業主は「町は消滅し、人々は希望を失っている」と付け加えた。【8月24日 WSJ】
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“銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する”人々の要求にタリバンはどのように対応するのか?

そういう要求をイスラムに反するとして否定するとき、あるいは要求を満足させることができなかったとき、タリバンがとる方策は力と恐怖による支配でしょう。


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アフガニスタン・カブールからの国外退避  「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つ」 残される人々

2021-08-22 23:03:32 | アフガン・パキスタン
(国外退避を希望してカブールの空港近くに集まったアフガニスタン人ら=20日【8月22日 時事】)

【バイデン大統領「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つだ」「最終的な結果がどうなるかは約束できない」】
米軍撤退のあり方についてのバイデン大統領への批判は国内外で多々あり、バイデン大統領の支持率も低下しています。

そのことはしっかり議論する必要がありますが、そうした議論より先に今行うべきことは、出国を必要とする人々を速やかに出国させることです。

バイデン大統領が認めているように、予想よりはるかに早かった首都陥落で事態は困難を極めています。

アメリカ国務省は21日の記者説明で、これまでにアメリカ国民約2500人を含む1万7000人がカブール空港から出国したと説明していますが、現在も最大で約1万5千人のアメリカ人が退避を待っているほか、6万人以上のアフガン人が国外脱出を希望しています。

*****バイデン氏、米国民ら退避は「史上最大かつ最もな困難な空輸作戦」*****
バイデン米大統領は20日、ホワイトハウスで記者会見し、アフガニスタン駐留米軍の撤収に伴い国外退避を求める人々が首都カブールの国際空港に殺到している問題で、米国民やアフガン人通訳などの現地協力者、女性や子供らの退避に「全ての力を動員する」と強調した。

ただ、現在も最大で約1万5千人の米国人が退避を待っているほか、6万人以上のアフガン人が国外脱出を希望しているとされ、混乱が続くのは必至とみられる。

バイデン氏はカブールの陥落が不可避となった14日以降、米軍機によって米国民やアフガン人ら計約1万3千人を国外に退避させたと明らかにした。これとは別に、米政府がチャーターした民間機で数千人が退避したとしている。

また、アフガンの実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンの標的となる恐れが高い、米メディアのために働いたアフガン人記者や助手ら計204人について、ウォールストリート・ジャーナルなど米紙各社との連携で今週前半までに米軍機で脱出させた。

バイデン氏は「米国とのつながりを理由に標的となるかもしれないアフガン人らを安全に退避させるために力を尽くす。帰国を希望する米国人も必ず祖国に帰す」と強調した。

同氏は一方で、カブールからの国外退避は「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つだ」と指摘し、「作戦は困難な状況下で実施されており、人的損失の恐れも含め最終的な結果がどうなるかは約束できない」とも語った。

バイデン氏によると、カブール空港では現在、米軍部隊約6000人が展開して安全確保に当たっている。

バイデン氏はまた、性急な米軍撤収が混乱を招いたとの指摘が出ていることに関し「世界の同盟諸国からは米国の信頼性を疑う声は出ていない」と反論。先進7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議の場でも、各国首脳がアフガンへの関与を同時に終了させることで合意したと強調した。

タリバンを正式政府として承認したり支援したりするかについては「米国が適用する条件は厳しい。タリバンが女性や少女、自国の市民らをどのように扱うか次第だ」と述べた。【8月21日 産経】
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【圧死者もでる空港周辺の混乱 テロの脅威も】
現地カブールの空港では押し寄せる群衆で押し潰される圧死者が出る混乱が続いています。
カブール空港は現在米軍が管理していますが、空港外には手が出せない状況となっています。

****アフガン首都、空港近くで大きな混乱 7人死亡****
英国防省は22日、アフガニスタンの首都カブールの空港近くで大きな混乱が発生し、アフガン人7人が死亡したと発表した。アフガニスタンではイスラム主義組織タリバンが権力を掌握して以降、多くの市民が国外退避を試みている。
 
英国防省報道官は、7人が「人混みの中で死亡した」と指摘。タリバンの権力掌握から1週間となる中、米国やその同盟国は、退避便への搭乗を試みる大勢の人の対応に追われている。
 
報道官は「依然として現場の状況は極めて厳しいが、あらゆる手を尽くしている」と強調した。
 
英スカイニューズは21日、白い防水シートで覆われた空港の外の3人の遺体を捉えた映像を放送した。
空港にいたスカイニューズのスチュアート・ラムゼイ記者は、集団の一部の前方にいた人々が「押しつぶされた」と報道。その他にも「脱水症状の人やおびえた人」がいたと伝えた。
 
ベン・ウォレス英国防相は大衆朝刊紙デーリー・メールに対し、米軍のアフガン撤退期限である今月31日より前に「全員を退避させることができる国はない」と語っている。 【8月22日 AFP】
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空港へ至るまでの検問所でのタリバンの妨害に加えて、タリバン敵対勢力(IS系)によるテロの危険も。

****ISIS系、カブール空港へのテロ攻撃を謀議か 米分析****
米国民らの国外退避が続くアフガニスタンの首都カブールの国際空港やその周辺で過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」系の組織によるテロ攻撃の脅威が高まり、米軍が空港へつながる新たな経路開設に動いていることが22日までにわかった。

米国防総省当局者はCNNの取材に、テロ攻撃の可能性は強いと指摘。カブールにいる上位の外交官はこの脅威の信用度は高いとしながらも差し迫った段階にはないと述べた。

代替の進入経路は国外避難を急ぐ米国人、外国人や資格要件を満たしたアフガン人に提供されるとした。
同省当局者によると、アフガンの実権を握ったイスラム主義勢力タリバンもこの代替経路の設定を把握し、米側と協力しているとした。アフガンで活動するISIS系組織はタリバンの仇敵(きゅうてき)ともされる。

米国防総省は国外退去のため人々が殺到するカブール空港周辺の状況を注視。ISIS系組織による攻撃は車爆弾、自爆攻撃や迫撃砲攻撃などの可能性があるとした。

代替経路の計画ではタリバンと協力し、人々の集まりを分散させ、大規模な群衆の出現を阻止するなどとしている。

このISIS系組織は「ISIS―K」と自称。「K」はアフガンやパキスタンなどの地域を含むとする「Khorasan(ホラサン)」を意味する。両組織はイデオロギーや戦術を共有するが、組織面や指揮系統、管理面でどの程度密接な関係にあるのかは全面的に解明されていない。

米情報機関当局者は以前、ISIS―Kの構成員にはシリアから来た経験豊富なジハード(聖戦)主義者らの少人数が含まれるとし、幹部級の工作員10〜15人を割り出したとCNNに明かしてもいた。【8月22日 CNN】
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【今月末までに全員を出国させるのは不可能との予測も】
こうした状況で、撤退期限の今月末までに希望者全員を出国させるのは「人数上、不可能だ」という認識も強まっています。

****全員退避は不可能との観測も****
カブール空港は現在、米軍が管理している。米軍は自国と他国の人々の退避を支援している。西側諸国の部隊のために働き、タリバン政権では安全が懸念されるアフガニスタン人も、支援の対象としている。

ただ、米政府は今月31日を米軍の撤退期限に定めている。その日以降に何が起こるかは不明だ。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、9月1日以降も退避の支援活動を継続できるよう、カブール空港を利用可能な状態のままにすることを、いくつかの加盟国が提案していると明らかにした。

BBCの取材では、イギリスもそうした国の1つで、数日間の延長を求めている。

各国がすべての自国民や、危険な状況にあるとみられるアフガニスタン人全員を退避させるのは不可能だとの見方も出ている。空港では行列する人たちの出国手続きに時間がかかっており、退避便の増便もうまく進んでいない。

欧州連合(EU)外務トップのジョセップ・ボレル氏はAFP通信に、アメリカが渡航許可証を持っているすべてのアフガニスタン人を今月末までに出国させるのは「人数上、不可能だ」と述べた。

また、アメリカの安全管理は厳し過ぎ、欧州諸国のために働いたアフガニスタン人が空港に入れていないと、EUとしてアメリカに「抗議した」と話した。

アメリカのジョー・バイデン大統領は20日、「帰国したいアメリカ人はすべて帰国させる」と宣言した。ただ、退避について、「損失のリスクは排除できない」とし、「史上最も大規模で困難な空輸」だとした。【8月22日 BBC】
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【ベルリン空輸当時の措置活用で民間機提供命令の検討も】
タリバンやテロの危険性もさることながら、退避が進まない根本原因は、限られた数の飛行機しか使えないという制約でしょう。

かつて第二大戦中、ドイツ軍に追い詰められた英仏軍はダンケルクの戦いで40万人の将兵をイギリスに向けて脱出させましたが、それが可能だったのは輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員することが出来たから。

内陸国アフガニスタンでは飛行機のみ。それもカブールの空港のみ。

そういう隘路を打開すべく、ベルリン大空輸当時の措置が蘇るようです。
商用民間機を提供させ、アフガニスタンからの退避者が足止めされている各国米軍基地からアメリカへの移送を行うもののようです。

****米、アフガン退避に民間機協力命令を検討****
バイデン米政権はアフガニスタンの首都カブールからの退避作戦を大幅に拡大するため、米国の主要航空会社に数万人の移送に協力させる準備を進めるとともに、アフガン人の退避者を収容できる米軍基地の数を増やす計画を立てている。
 
米政府関係者によるとホワイトハウスは、第2次世界大戦後のベルリン空輸を契機に1952年に創設された民間予備航空隊(CRAF)の制度を活用し、最大5社の航空会社に20機近くの商用ジェット機を提供させることを検討する見通し。これにより、アフガニスタンの基地からアフガン人を輸送する米軍の取り組みを助ける計画だという。
 
これらの民間機はカブールを発着することはない。民間航空会社のパイロットと乗組員がカタール、バーレーン、ドイツの米軍基地に足止めされている数千人のアフガン人などを運ぶ手助けをするという。カブールは15日、イスラム主義勢力タリバンの支配下に置かれた。
 
民間航空会社の参加は、アフガン人の退避者で急速に埋まりつつあるこれらの基地の圧力を軽減することになる。米軍と関わりを持つことでタリバンからの報復を受ける可能性のある数千人のアフガン人が、この1週間にカブールの空港に殺到。米国は空港からアフガン人を退避させる取り組みを拡大している。
 
米軍の一部である輸送軍は航空各社にCRAFの編成を指示する可能性があることを通知したと、米政府関係者は述べている。

ホワイトハウス、国防総省、商務省の関係者は、まだCRAFの使用について最終的な承認をしておらず、代替案が導入される可能性もあるという。CRAFの使用の可能性については、これまで報道されていなかった。
 
業界関係者によると、航空各社は20日夜にCRAFが発動される可能性があることを通知された。各社はまた、政府の空輸活動を支援するための自主的な取り組みについて議論しているという。(後略)【8月22日 WSJ】
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また、“アフガン人の退避者で急速に埋まりつつあるこれらの基地の圧力を軽減する”ということに関しては、避難民の収容で日本にある基地の利用もあり得るとか。

****米、カブール空港回避を勧告=避難民収容、日韓基地も候補か―有力紙*****
(中略)米メディアによると、バイデン政権や米軍は、民間機を活用した退避活動支援を視野に入れているほか、日本や韓国、ドイツなどにある米軍基地をアフガン人避難民の一時収容先候補として検討しているという。(中略)

避難民の収容に関しては、米東部ニュージャージー州の基地で仮設住宅の設営が進んでいる。同紙はこれに関し、バージニア、カリフォルニア両州などにある米本土の複数の基地に加え、日韓独やコソボ、バーレーン、イタリア各国内の米軍基地も一時収容先の候補として検討されていると報じた。(後略)【8月22日 時事】 
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【ひどく不安で不透明な未来を前にして、現地に取り残される多くの人々】
今対応に苦慮しているアメリカなど各国が自国民や協力者として認める者以外にも、身の不安を感じて出国しようと願う更に多くの人々がいます。

*****英旅券を振りかざし……脱出しようと必死の大混乱 カブール空港から****
「下がって! 下がって!」。イギリス兵士が叫ぶ。イギリス大使館が避難させた人たちが出国前に一時かくまわれた避難先の前で、集まった群衆に向かって。

兵士の前では大勢が必死の様子で、イギリスのパスポートを振りかざしていた。自分も中に入れてもらおうとして。しかしゴムホースを手にしたアフガニスタン人警備員の一団が、群衆を押し返そうとしていた。

ここに集まったほとんどの人は、自分がイギリス政府に退避させてもらえるという通知を、受け取ったわけではない。

それでも、アフガニスタンをなんとかして出国しようと必死の思いで、ここへやって来た。他方で、中には大使館からのメールでここへ集まるよう指示されてきた人たちもいる。ここへ来て、出国便の搭乗手続きを待つようにと。

その中の1人は、ヘルマンド・カーンさんだ。ロンドン西部に住むウーバーの運転手で、幼い子供たちと親類を訪れるために数カ月前にアフガニスタンに来たばかりだ。幼い息子2人が隣にいる。数冊のイギリス・パスポートを握りしめて、私に向かって突き出した。「もう3日前から、中に入ろうとしているんだ」と必死の面持ちで私に言う。

英陸軍の通訳だったハリドさんもいる。妻は2週間前に出産したばかりで、このような事態で生まれたばかりの赤ん坊が死んでしまうのではないかと、恐怖におののいている。「朝からずっとここにいる。ここへ来る途中にタリバンに、背中を鞭(むち)で打たれた」。

少し離れた場所には、この避難所への正面玄関がある。数千人がここへ来たがその大半は、本当に出国できる可能性は実際にはない人ばかりだった。イギリスの兵士たちは時折、群衆を鎮めるために空へ向かって発砲していた。

中へ入るには、なんとかして群衆をかき分けて進み、兵士たちに向かって書類を振りかざすしかない。どうにかして、入れてもらえますようにと願いながら。

米兵が警備を担当する空港のゲートは、さらに状況が混乱しているようだ。空港の、市民が使う正面玄関では、タリバンが空への発砲を繰り返し、中へなだれ込もうとする群衆を押し返している。(中略)

自分は国際的なバスケットボール選手なのだと、私に言う若い女性もいた。イギリス大使館との接触は何もないが、殺されてしまうかもしれないと恐怖にかられているという。いかにおびえているのか語ろうとして、喉が詰まり、涙声になってしまった。

タリバンは、政府と結びつきのある全員に恩赦を与えたと強調する。「包摂(ほうせつ)的」な政府を樹立するつもりだと言う。しかし、ここにいる大勢は将来を深く危惧(きぐ)している。

市内の別の場所に移動すると、情勢はもっと落ち着いている。まるで別の世界のようだ。店舗や飲食店は再開つつある。ただし、青果市場の露天商たちによると、出歩いている人たちは普段よりはるかに少ない。化粧品を売る男性は、とりわけ女性の姿がはるかに少ないと話す。通りを歩く女性は珍しくはないのだが。

他方でタリバンは至るところにいる。アフガン治安部隊から奪った車両に乗って、あちこちをパトロールして回っている。略奪や世情不安を防ぐために、市内でことさらに存在感を示しているのだとタリバンは言うし、確かにそのおかげで安心だと話す住民もいる。今や当のタリバンは、暗殺や爆弾攻撃を繰り広げていないだけに。

タリバン支配下の生活がどういうものになるのか、多くの人はまだ考えあぐねている最中だ。タクシー運転手の1人は、タリバン戦闘員の集団を市内の端から端まで乗せたという。その間、ずっと車内ステレオで音楽をかけながら。「何も言わなかったよ」と、運転手はにやりと笑顔で私に言う。「前みたいに厳しくない」。

しかし、決してそうではないという話も相次いでいる。複数の報道関係者や元政府関係者の自宅にタリバンが押し掛けて、尋問したなど。自分たちが標的にされ、攻撃されるのは時間の問題だと、大勢が恐れている。

空港近くに戻ると、英軍通訳だったハリドさんと家族は、赤ちゃん共々ついに避難施設内に入ることができた。

それでも、まだ大勢が中に入ろうとしている。1人のアフガニスタン系イギリス人が、私に協力してくれと訴えてきた。「この込み合う中を、子供たちを連れて通るわけにはいかない」のだと。

そして、イギリス政府による退避対象ではないものの、なんとしても出国しようと必死の大勢が、ここに残されることになる。ひどく不安で不透明な未来を前にして。【8月22日 BBC】
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