孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  反転攻勢失敗、欧米の支援疲れで、停戦論浮上も 厳しい1年に

2024-01-01 23:33:27 | 欧州情勢

(【12月26日 読売】)

【年末の戦闘激化 ウクライナ「一線を越える」ロシア攻撃】
ウクライナでは年末、ロシアがウクライナ全土への「最大級」の一斉攻撃を行い、これにウクライナがロシア領内を大規模砲撃するという「一線を超えた」反撃を行うという、これまでになく激しい展開となりました。

****露のウクライナ一斉攻撃、死者23人、負傷者132人に 極超音速ミサイルも発射****
ウクライナの首都キーウ(キエフ)など全土に29日、ミサイルや自爆ドローン(無人機)によるロシア軍の一斉攻撃があり、少なくとも23人が死亡、132人が負傷した。ウクライナ主要メディアが伝えた。

ゼレンスキー大統領やウクライナ軍によれば、各種のミサイル約110発を含む158の飛翔体が攻撃に使われ、軍はミサイル87発とドローン27機を撃墜した。

露軍のウクライナ全面侵攻後で最大級の空爆だったとみられ、各地で産科医院や商業施設、住宅、社会インフラなどが被害を受けた。死傷者はさらに増える恐れがある。(中略)

ウクライナ軍のザルジニー総司令官によると、露軍は各種の巡航ミサイルやイラン製ドローンのシャヘドを攻撃に使い、極超音速ミサイル「キンジャル」5発も発射した。露国防省は29日、「高精度ミサイルとドローンで敵の軍事目標を破壊した」と主張した。

キーウで地下鉄駅が損傷するなどして4人が死亡。東部ドニエプロペトロフスク州では商業施設への着弾があり、6人が死亡した。【12月29日 産経】
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極超音速ミサイル「キンジャル」はプーチン大統領が2018年に大々的に発表した6つの「スーパー新兵器」の1つ、自慢の兵器ですが、“プーチン自慢の極超音速ミサイル「キンジャール」は的に当たらない──英国防省”【12月20日 Newsweek】など、これまでの実戦評価はあまり高くありません。

プーチン大統領が怒っているという話も伝えられるなかで“いったい何事!? ロシアで極超音速ミサイルの科学者10数人が相次ぎ粛清──病床から引きずり出され「FSBに殺された」の声も”【12月19日 Newsweek】といった不可解な報道も。

今回のロシアの一斉攻撃で、30日のゼレンスキー大統領の発表では、死者はウクライナ全土で39人とも。
ロシアとしては、最大級のウクライナ全土への一斉攻撃で、長引く戦争で疲れも出てきたウクライナの戦意を更にくじく狙いでしょうか。

この攻撃にウクライナ・ゼレンスキー大統領はロシア領内を大規模砲撃するという「一線を超えた」形で反撃。
ロシア側の地元知事によると、民家やスポーツセンターなどが被災し、これまでの死者は24人になったとも。【12月31日 日テレNEWSより】

****ロシア領内、侵攻後最大の被害か ウクライナ軍砲撃、100人超死傷****
ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州で29日夜から30日にかけて、ウクライナ軍による大規模な砲撃があり、同州のグラトコフ知事によると、少なくとも22人が死亡し、100人以上が負傷した。ロシア領内の人的被害としては2022年2月に「特別軍事作戦」が始まって以降、最大とみられる。

これまでウクライナは、ロシアによる核使用などのエスカレーションを懸念する欧米に配慮し、ロシア領内へはインフラなどへの攻撃に限定してきた。

ただし29日にはロシア軍により国内各地に軍事作戦開始後で最大規模となる空爆を仕掛けられたことから、ゼレンスキー大統領も報復する意向を示していた。欧米による軍事支援が先細る中、ウクライナによるベルゴロド州への攻撃は「一線を越える」形となっている。

自国領内で20人を超す犠牲者が出たことを受け、ロシア軍は30日にもウクライナの首都キーウ(キエフ)などへの空爆に及んでおり、報復合戦の様相が濃くなっている。

ウクライナと隣接するベルゴロド州は特別軍事作戦の開始後、散発的にウクライナ軍による砲撃や無人機(ドローン)攻撃を受けてきた。23年6月の時点で、数千人の住民がすでに国内の別の地域に避難していると伝えられていた。(中略)

ロシアはこの日、国連安全保障理事会の緊急会合の開催を要請。会合ではネベンジャ国連大使が、ベルゴロド州へのウクライナ軍の攻撃について「意図的なテロ行為だ」と指弾し、欧米諸国などに今後のウクライナ支援の見通しについて説明するよう迫った。【12月31日 毎日】
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ウクライナの広範な地域を侵略・占領しているロシアが、自国への砲撃に息まくというのは筋違いの話に思えますが、ウクライナのテロ・侵略意図に反撃しているというロシアの論理からすればそうなるのでしょう。

ウクライナの「一線を越える」攻撃が今回限りのものなのか、今後常態化するのか、その場合戦闘拡大に欧米がどのように反応するのか、ただでさえ「支援疲れ」が問題となっているなかで、ウクライナによるこうした戦闘拡大がどのように欧米側に受け止められるのか・・・・注目されるところです。

欧米側はこれまでの武器支援では、自国兵器がロシア攻撃に使用されて、ロシアとの直接対決状態になるのを嫌って、射程距離に制限をつけるなどしてきましたが、そうした欧米の姿勢はウクライナにすれば腰の引けたもどかしい、あるいは身勝手な対応にも映るでしょう。

ウクライナの反撃に対し、ロシアは“ウクライナ軍の攻撃に報復、ハルキウ州を攻撃 ロシア国防省発表”【12月31日 日テレNEWS】と更に反撃して「報復合戦」の様相を呈しています。

【反転攻勢失敗、欧米の支援疲れで、停戦論浮上も】
ロシアへの激しい抵抗を続けるウクライナですが、「反転攻勢の失敗」「欧米支援国の支援疲れ」と、戦局も支援体制も厳しいところに追い込まれており、今年はウクライナ・ゼレンスキー大統領が望まない形での「停戦」に関する議論も表面化してくることが予想されます。

****反攻不首尾のウクライナ、24年は「守勢」へ 停戦論浮上も****
ロシアの侵略を受けるウクライナは今年、本格的な反攻作戦に着手したが、目立った成果を出せなかった。ウクライナにとって来年は、兵士の追加動員などで戦力回復を進めながら、再び反攻の機会をうかがう「守勢」の時期になる見通しだ。露軍の攻勢が続き、ウクライナの劣勢が顕著になれば、欧米の支援国で停戦を促す機運が高まる可能性もある。

ロシアは戦果強調
ウクライナ軍が反攻を開始したのは今年6月。南部ザポロジエ州で南下し、アゾフ海沿岸にある露軍の補給路を寸断することで南部一帯の奪還につなげる戦略を描いた。だが、露軍の防衛線に阻まれ、アゾフ海まで約100キロの集落ロボティネを8月に奪還した後は前進が停止。東部ドネツク州バフムト周辺でも反攻に出たが、目立った領土奪還はできなかった。

露軍はウクライナが反攻で疲弊したとみて、秋ごろから東部で攻勢を強化。今月25日には、激戦が続いたドネツク州マリインカの制圧を発表した。プーチン大統領は露軍を祝福し、さらなる前進に意欲を示した。ショイグ露国防相は26日、「今年の軍の最重要任務は反攻を打ち破ることだった。それは成功裏に完了した」と誇った。
欧米メディアにも「反攻は失敗した」との見方が定着している。

反攻が成果を挙げられなかった理由としては、航空優勢の不在▽東部と南部への戦力分散▽露軍の防衛線の強固さ▽兵力や兵器生産力での国力差−など複合的な要因が挙げられている。

大量の追加動員へ
ウクライナは、戦力建て直しに動いている。
政府は25日、動員の規則を変更する一連の法改正案を同国最高会議(議会)に提出。改正案は軍への招集年齢を27歳から25歳に引き下げることや動員免除の対象者の縮小、国外滞在中の国民の動員を容易にすることなどを柱とし、来年初頭にも成立する見通しだ。法改正に合わせ、50万人規模の追加動員が行われるとの観測も出ている。

ウクライナはさらに、欧米からの供与に頼ってきた兵器や弾薬の国内生産を増やそうと欧米側の軍需企業を積極的に誘致。ゼレンスキー氏は11月末、露軍の前進を防ぐため各地に防衛線を構築し、国土を「要塞化」する方針も示した。

ただ、追加動員や兵器生産力の強化、防衛線の構築には一定の時間を要する。来年には支援国から米戦闘機F16の供与も始まる見通しだが、停滞した戦局を変えられるか不透明だ。

米大統領選も視野
欧米では、停戦の可能性を指摘する声も伝えられ始めた。
米CNBCテレビは今月25日の報道で「現状を見る限り、ウクライナには停戦交渉に応じる以外の選択肢はほとんどない」とする専門家の見解を紹介。この専門家はまた、来年の米大統領選でウクライナ支援に否定的なトランプ前米大統領が返り咲いた場合、停戦圧力はさらに強まるとの見方を示した。

米政治サイトのポリティコも27日、欧米当局者の話として、欧米はウクライナ支援の目標をロシアに対する完全勝利から、将来の対露交渉を見据えてウクライナの立場を改善させることに移し始めていると報じた。
停戦への動きが表面化するかどうかも来年の焦点となる。【12月30日 産経】
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【ロシア “死なせてもいい兵士”を使った人海戦術】
ウクライナの反転攻勢を阻んだロシアの戦いぶりにについては、“死んでもかまわない”受刑者などを大量投入して、犠牲の大きさを厭わない「人海戦術」が伝えられています。

“ロシア兵証言「人間扱いされず」 元受刑者、刑務所から肉弾戦に”【12月29日 共同】
““死なせてもいい兵士”の部隊ロシアの肉弾攻撃とは…【報道1930】”【12月31日 TBS NEWS DIG】

“遮るものがない平原をロシア兵が突進してくる。それを塹壕からウクライナ兵が銃を掃射してなぎ倒す。だが、ロシア兵は倒しても倒しても次から次に突進してくる。ウクライナ国営メディアによれば1.5〜2キロ前進するために2万人の死傷者を出したとも伝えられる。”【同上】

「1時間に15人から20人の軍隊規模で突撃してくるらしい。それが24時間続く。それで(突撃をやめて)前線を離れようとする兵士がいると、後ろで監視しているロシア兵に撃ち殺される。これは映像でも確認されている。だから前に進んでウクライナ軍に倒されるか、後ろに下がって仲間に撃たれるか…、そういう選択の中でロシアの兵士たちは戦っている。NATOの記録では最高8人のウクライナ兵で500人のロシア兵を倒したとある…」【同上】

ドローン攻撃が主役に・・・とか極超音速ミサイル「キンジャル」といった時代に「いったいいつの時代の戦争か」・・・とも思ってしまいますが、戦争の本質というのは結局こういうものなのでしょう。

こうした「人海戦術」は大勢の死者が出ても兵隊を戦わせながら前進させ相手の砲弾などを消耗させる作戦であり、第一次世界大戦でも第二次世界大戦でもおこなわれたロシア軍の伝統的戦術です。戦う相手は恐ろしくなり、「これではきりがない・・・勝てない・・・」という思いにも。今回は“受刑者”投入ということで“死なせてもいい兵士”の度合いが増しています。

日本も、日露戦争の旅順要塞攻略・203高地では似たような人海戦術をとっていますが。

【ウクライナ国内でも厭戦ムードが少しずつ広がる】
戦争の長期化、動員体制強化に伴って、ウクライナ国内にも厭戦気分が広がりつつもあります。

****ウクライナ世論調査「領土諦めてもよい」19%、昨年5月からほぼ倍増…厭戦ムード少しずつ拡大か****
ロシアの侵略を受けるウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」が今月発表した世論調査によると、「平和のために領土を諦めてもよい」との回答割合が19%で昨年5月のほぼ2倍になった。ロシアの占領下にあるウクライナ東・南部の奪還を目指す反転攻勢が思うように進まず、厭戦ムードが少しずつ広まっているようだ。

「どんな状況でも諦めるべきではない」は74%で、初めて8割を割り込んだ。地域別に見ると、ロシアの攻勢にさらされているウクライナ東部では「諦めてもよい」は25%で、「諦めるべきではない」が67%だ。領土の放棄を容認する割合が他地域よりも高かった。

ただ、「諦めてもよい」と答えた人の71%が、「西側の適切な支援があれば、ウクライナは成功できる」と回答しており、ウクライナ国民が士気を保てるかどうかは、欧米の軍事支援次第と言えそうだ。

一方、露政府系の「全ロシア世論調査センター」の21日の発表によると、2024年に期待する出来事として、ロシアでウクライナ侵略を意味する「特別軍事作戦の終結」が45%で最多を占めた。「来年3月の大統領選挙」が26%、「経済成長と生活水準の向上」が13%と続いた。

今年の主要な出来事を問う項目では、「特別軍事作戦」との回答が22%だった。昨年の62%から大きく下落しており、露国民のウクライナ侵略への関心低下をうかがわせた。【12月26日 読売】
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“露国民のウクライナ侵略への関心低下”はプーチン大統領には好都合でしょう。時間をかけて物量・人員にものを言わせてウクライナ側への圧力を強めることができます。

【危ういアメリカ・EUのウクライナ支援】
ウクライナ側は“欧米の軍事支援次第”
その“頼みの綱”が非常に危うくなっているのは去年後半から連日報じられているところ。

アメリカ・バイデン政権は議会・共和党の協力が得られず、「最後の支援」「資金が枯渇」という文言を頻繁に目にします。

****米、ウクライナへ軍事支援発表 「議会が承認しない限り最後の可能性」****
バイデン米政権は27日、ウクライナ向けに2億5000万ドル(約355億円)の軍事支援を発表した。ウクライナ支援で政権は議会に614億ドルの追加予算を要請したが、不法移民が殺到する南部国境の警備強化を条件とする野党共和党が承認を拒否し、採決に至っていない。国防総省は声明で「議会が追加予算を承認しない限り、本日発表の軍事支援が最後となる可能性がある」と訴えた。

支援は防空システム、高機動ロケット砲システム「ハイマース」や155ミリ榴弾砲の砲弾など。政権は米軍の在庫からウクライナに武器・弾薬を供給し、国防総省に配分された資金で在庫の補充を行っているが、国防総省は今月、議会に対し、追加予算が承認されなければ資金は年内に枯渇すると警告していた。

ブリンケン国務長官は27日の声明で「米国の国益を促進するために議会が即座に行動することが不可欠だ」と早期承認を求めた。(攻略)【12月28日 産経】
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EUもハンガリーの“拒否権”でウクライナ支援が危うくなっています。

****EUの「ウクライナ支援」予算案 ハンガリーが“拒否権”発動で難航…苦肉の策の「プランB」とは?****
(中略)戦闘の長期化と、ウクライナによる反転攻勢の停滞などを受けて“支援疲れ”も叫ばれる中、EU=ヨーロッパ連合では、親ロシア政権のハンガリーがウクライナ支援のための予算案に拒否権を行使。2023年内に予算案は合意に至らず、2024年のウクライナの軍事態勢への影響を懸念する声が大きくなってきている。

そんな中、EU内では、ウクライナ支援を継続するべく、代替案「プランB」が水面下で調整されている。その驚きの中身とは?

■EU加盟交渉は前進も肝心の予算案が暗礁に…
23年12月、ベルギーのブリュッセルで行われたEU首脳会議。注目の議題は、ウクライナなどのEU加盟交渉と、500億ユーロ(=およそ7兆8000億円)にのぼるウクライナ支援の予算案だった。

巨額の予算案をめぐり、当初、東ヨーロッパを中心に数か国が反対するのではないかという観測もあったが、蓋を開けてみれば、明確な反対は、ハンガリー1か国のみ。ただ、予算承認には加盟27か国すべての合意が必要だ。

ハンガリーのオルバン首相は23年10月にロシアのプーチン大統領と会談し、「ロシアと対立しようと思ったことはない」と話すなど「親ロシア」を鮮明に打ち出している。会議では、そんなオルバン首相への説得交渉が続けられた。

ハンガリーは司法の独立性に疑義があることなどから、EU側から予算執行を停止されている。ハンガリー側が求める停止解除と引き換えに、ウクライナ支援予算案への協力を求める交渉が行われたが、合意には至らず、ハンガリーは反対の姿勢を崩さなかった。

後述する“秘策”によって、ウクライナのEU加盟交渉に関してはハンガリーは拒否権を行使しなかったものの、予算案については拒否権を行使したため、23年内の承認は得られなかった。

暗礁に乗り上げた予算案だが、EU各国は今後、24年初頭から交渉を再開し、早ければ1月末から2月初旬にも再び首脳会議を開いて合意を得たい構えだ。

■EU内で進む「ハンガリー・オルバン首相対策」 “コーヒー休憩で退席”に続く「プランB」とは?
2023年12月に開かれたEU首脳会議実は、ウクライナなどのEU加盟交渉について、オルバン首相は同意していなかった。政治ニュースサイトの「ポリティコ」によると、首脳会議でも他国の説得にオルバン首相は耳を貸さず、反対の姿勢を貫いていたといい、「全会一致」での合意に向けて、ある“秘策”が行われたという。

それは、ドイツのショルツ首相が、オルバン首相に対して「会議場の外で、コーヒーでも飲んで休憩されたらいかがですか?」と水を向けたというもの。オルバン首相がこれを受け入れ、会議場を後にしたところで、ハンガリー抜きで採決を行い、「全会一致」での合意を演出したというのだ。

こうした形を含む「オルバン首相対策」はEU内で水面下で進められている。ハンガリーが予算案に対して拒否権を行使し続けることを想定し、再び“コーヒー休憩”などを装う形でオルバン首相に退席を促し、形式上はハンガリーが賛成することなく「全会一致」での承認を目指すという報道も…。

一方、24年初頭から再開するという予算承認に向けた交渉では、ハンガリーの反対を織り込み済みの「プランB」が調整されているという。複数の欧米メディアによると、「プランB」はハンガリーを除く加盟26か国が、それぞれウクライナと二国間の協議のもとで支援を続けるというもので、「ハンガリーが反対を続けるのであれば、24年の初頭は一旦、この案で乗り切るのだろう」という見方が出てきている。(後略)【12月30日 日テレNEWS】
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“アメリカのCNNも、アメリカ軍高官の話として「アメリカなどの支援が停止した場合、最悪のケースでは24年夏までにウクライナの大幅な後退や敗北もあり得る」と報じるなど、戦況へ影響が出る恐れを指摘する声が上がり続けているのが現状だ。”【同上】

ゼレンスキー大統領と軍トップのザルジニー総司令官の不協和音など、政権内部の揺らぎも報じられるなか、ウクライナ・ゼレンスキー大統領にとっては厳しい1年になりそうです。

北欧2ヶ国のNATO加盟、ロシアの権威失墜など長期的・総合的にはロシアは多大な犠牲を払うことになった、ロシアはすでに負けている・・・とは言うものの、ロシアの侵略を認める形の停戦ということになれば、日本を含めた国際社会にとって今後に禍根を残すことにもなります。
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英米で急騰する家賃 増加するホームレス

2023-12-27 23:38:01 | 欧州情勢

(【12月26日 NHK】 急騰するイギリス・ロンドンの家賃)

【1人当たり名目GDPでG7最下位になった日本だが・・・】
日本経済が低迷を続けていることは今更の話です。

****日本の1人当たりGDPがG7最下位に、OECD加盟国中でも過去最低順位に―台湾メディア****
2023年12月26日、台湾メディア・信伝媒は、日本の1人当たり国内総生産(GDP)が先進7カ国(G7)中で最下位になったことを報じた。

記事は、内閣府が25日に22年の1人当たり名目GDP(ドル建て)が3万4064ドルだったと発表したことを紹介。G7中で最も少なく、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中でも21位と比較可能な1980年以降で最も低い順位になったとした。

また、日本のGDPが世界に占める割合も2021年の5.1%から4.2%に減少したと伝えた。

そして、日本の1人当たりGDPは台湾の3万2625ドル、韓国の3万2423ドル、中国の1万2732ドルと周辺のアジア諸国・地域に比べると依然として高いものの、米国の7万6291ドルをはじめ、欧米の先進国に比べるとはるかに少なかったと指摘。日本がG7の中で最下位になるのは08年以来のことで、大幅な円安と日本の経済地位の後退が大きく影響しているとの見方を紹介した。

また、日本の22年の名目GDPは4兆2600億ドルで世界3位をキープしたものの、米国の25兆4400億ドル、中国の17兆9600億ドルに大きく水を開けられたとし、国際通貨基金(IMF)の予測によると23年にはドイツに抜かれて世界3大経済大国の座から転落する見込みだと伝えている。【12月27日 レコードチャイナ】
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もちろん、生活の質とか暮らしやすさというのは決して経済指標だけで決まるものでもなく、社会・文化といった総合的環境のなかで決まるものでしょう。

経済的側面だけをとっても、単に“1人当たりGDP”といった数字だけは把握できないものもあります。

別に、だから「日本はやっぱり素晴らしい」と言うつもりもありませんし、上記の事実は真摯に向かい合う必要がありますが、必要以上に卑下する必要もないのかも。(ただし、“ジリ貧”という言葉から連想するように、今のような状況が続けが、やがては経済以外のいろんな面で、今はうまくいっているような面でも問題が表面化してくることはあるでしょう)

【イギリス 高騰する家賃 増加するホームレス】
イギリスでは昨年後半から今年前半にかけて、二桁を超える消費者物価上昇が続いていましたが、今年後半、ようやく落ち着いてきたようです。

****イギリス11月の消費者物価3.9%上昇 2年2か月ぶりの低水準****
イギリスの11月の消費者物価指数は去年の同じ月と比べ3.9%の上昇となり、伸び率は2年2か月ぶりの低水準となりました。

イギリス統計局が20日に発表した11月の消費者物価指数は、去年の同じ月と比べ3.9%の上昇となりました。伸び率は前の月の4.6%から0.7ポイント縮小し、2021年9月以来、2年2か月ぶりの低い水準となりました。

エネルギー価格の下落で燃料費などを含む「輸送」が前の月から2ポイント下がりマイナス1.5%となったほか、「食品や飲料」が0.9ポイント下がり9.2%の上昇となったことなどが影響しました。

イギリスの中央銀行、イングランド銀行は3回連続で政策金利を5.25%に据え置くと発表していて、2%の物価目標を達成するため当面は現在の高い金利水準を維持する姿勢を示しています。【12月21日 TBS NEWS DIG】
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もちろん、上昇率が小幅になったということで、物価が下がった訳でもありませんので生活苦は続いています。
ハント財務相はインフレ率の発表を受けて「健全で持続可能な成長への道筋が戻りつつあるが多くの家庭は依然として物価高に苦しんでいる」とコメントし、引き続きインフレ対策に優先して取り組むと強調しました。

すべてが値上がりしたなかでも、生活を直撃しているのが家賃の上昇。

****家賃が47万円!? ロンドンで「家が借りられない」 いま何が?****
「えっ、1か月の家賃が平均およそ47万円!?」 これはイギリスの首都、ロンドンの実際の話です。今、ロンドンでは家を借りられないだけでなく、住まいを追われる人も急増しています。「賃貸クライシス」に揺れる霧の都。いったい何が起きているのでしょうか。

1人暮らしなんて無理!さらに…
「家賃が高すぎて、1人暮らしなんて、手が届きません…」 こう嘆くのは、ロンドン中心部に住むジョセフ・スパナーリさん(31)です。

ジョセフ・スパナーリさん医療機関に勤めるスパナーリさん。緊急時に病院に駆けつける必要があるため、職場の近くで4人暮らしのシェアルームを借りています。

1人部屋の広さは6.5畳ほど。それでも家賃は日本円で月およそ14万円(1ポンド=180円 / 2023年12月22日時点)です。4人で割っていることを考えれば、単純計算でこの物件の家賃は56万円にもなります。

スパナーリさんが借りているシェアルームそれでもロンドン中心部にある立地の良さをみれば、家賃は“手ごろ”とも言えるそうです。以前、1部屋空きが出たときには、なんと220人から内覧の申し込みがあったといいます。

シェアルームを出て本当の1人暮らしを夢見て、スパナーリさんは節約の日々を送っています。料理は週末に作り置き。外食もほぼしません。土曜日も仕事をしてお金をためています。

しかし、スパナーリさんはため息まじりに打ち明けてくれました。 最近、1人暮らしができる部屋を探したところ、1500ポンド(日本円でおよそ27万円)以下の物件は、まったく見つからなかったといいます。

さらに、今住んでいる所も、いつまで住めるのか分からないといいます。「シェアルームの大家からは、近く『家賃を値上げする』と言われています。賃料がどのくらい上がるか分からず、不安でいっぱいです」

賃貸物件の不足、コロナ明けで拍車
もともと慢性的な住宅不足問題を抱えるロンドン。なかでも今、深刻化しているのが賃貸物件の不足です。

根強いインフレが続くイギリスでは金利が上昇しています。その結果、銀行から資金を借りている賃貸物件のオーナーが返済に困り、物件を手放すケースが相次いでいるのです。

また、コロナ禍が収束したことで、住宅の“都心回帰”ともいえる動きが拍車をかけました。ロンドン中心部の住宅への需要が高まり、2023年10月の時点で、賃貸が可能な物件の数は、コロナ禍前と比べて3割以上減少。手ごろな部屋を見つけることは、より困難な状況になっているのです。

この結果、何が起きているのか。
こちら(冒頭グラフ)は、ロンドンの賃貸住宅の家賃の推移について変化率で示したものです。2021年以降、急上昇しています。

また、イギリスの不動産会社によりますと、ことし7月から9月の賃貸住宅の家賃の平均は月2627ポンド、日本円でおよそ47万円。2022年の同じ時期より、12%値上がりしたとしています。(中略)

“家がない”ホームレス17万人!?
家賃の高騰が続くロンドン。賃貸物件を借りられるだけましともいえる状況にまでなっています。コロナ禍、そして長引くインフレで、ホームレス※が急増しているのです。

その1人だった、キラーン・オブライアンさんです。
キラーン・オブライアンさんいまでこそ、慈善団体の支援をうけて住まいをみつけ、バリスタとして働けるようになりましたが、かつては路上生活を余儀なくされていました。仕事もなく、部屋を探すことなんて夢のまた夢だったといいます。

「住宅の数が少ないので競争が激しく、何度も挑戦しましたが借りられませんでした。失業している場合、シェアルームを含め選択肢は市場の5%に限られ、競争が激しいのです。サポートを得られなければ、私はまだホームレスだったでしょう」

キラーンさんを支援したロンドンにある慈善団体では経営するカフェでホームレスの人たちに職業訓練を行い、一時的な住まいの手配も行っています。

ホームレスの人たちに職業訓練を行うカフェ現在、生活に困窮していると相談を寄せてきた人は、およそ1500人。2年前に比べると、3倍になっているといいます。

「これまでホームレスでなかった人たちが、生活費の高騰やインフレなどが重なって、ホームレスになってしまう。今、私たちはホームレスになって間もない人たちを見つけ、仕事を通じてホームレス状態から立ち直る手助けをしています。しかし市場に出回る物件が減って、ホームレスが利用できる住宅が少なくなっています。今のような状況は見たことがありません」

ロンドンの自治体などを取りまとめる団体「ロンドン・カウンシルズ」はことし8月、家がなく、一時宿泊施設に入るなどの支援を受けている人は、推定で子ども8万人を含めておよそ17万人にのぼると発表しました。

政治や行政はどう対処?政党間の対立も
家賃の記録的な高騰に、ホームレスの急増…。 こうした現状を悪化させている理由の1つに、ある法律の存在が指摘されています。

この法律は「セクション21」と呼ばれるもので、大家が「賃貸契約を終了する」と借り手に正式に通知すれば、家賃滞納などの問題がなくても、立ち退かせることができるというものです。言ってしまえば借り手側の都合は関係なく、貸し手側の大家の事情が優先されるというわけです。

ロンドン市は、週に平均して290人が立ち退き通知を受けているとしています。政治や行政はこうした現状にどう対処しようとしているのでしょうか。

この法律を廃止しようという改正案はことし中に、議会に提出される見込みでしたが、10月に提出の延期が決まりました。支持者に大家が多い与党・保守党の議員の反発を受けたことが理由の一つだと伝えられています。

ロンドン市長は、法律の改正が来年に延期された場合、さらに数千人がホームレスになるおそれがあるとして、一刻も早い改正を訴えています。

住宅を無償提供 企業から支援の手も
(中略)

解決策は?どうする
解決策はあるのでしょうか。
その1つの動きとして、民間企業による賃貸住宅の建設の取り組みがあります。ロンドンの不動産会社「Savills」のアナリストによりますと、過去10年で4万2000戸の賃貸住宅が新たに建設され、すでに市民が入居を始めているということです。

また、日本の大手住宅メーカー「大和ハウス」もことし8月、ロンドンで分譲マンションの開発に乗り出すと発表しています。

さらに政治にも動きが出てきています。この住宅問題は2024年にも行われる総選挙の争点の1つとして、与野党が公約でその解消策を打ち出しています。

このうち、与党・保守党は不満を抱える若い層の支持率の低下を防ごうと、スナク首相がことし7月、手頃な価格の住宅を新たに100万戸建設するという政策を発表しました。

これに対して最大野党・労働党も10月の大会で、市営・公営住宅に重点的に投資して、5年間で150万戸を建設することを公約に掲げました。

ただ、解決は簡単ではありません。背景として2020年のEU離脱の影響があります。離脱によって働くためのビザの要件が厳しくなり、経済を支えてきたEU各国の労働者が帰国したことから建設関連の労働力が不足しているのです。

さらに、イギリスの建設業界では長年生産性の向上が課題となっているほか、住宅の建設許可が煩雑であることなども指摘されています。

賃貸住宅の不足がこのまま続いた場合、国の経済へ影響が及ぶと懸念されています。その一つが、労働力の流動性の硬直化です。というのも、1人暮らしができず親と同居する若者が増えると、通勤できる範囲が限定され、企業側の人材採用も難しくなることなどが指摘されているのです。

すでに「賃貸住宅の不足がイギリス経済低迷の主な要因」だと指摘するシンクタンクもあるほどです。「衣食住」の1つで、生活に最も身近な住まいの問題に、具体的な解決策を見いだせるのか、ロンドン市民の1人として、注視していきます。(11月2日 キャッチ!世界のトップニュースで放送)【12月26日 NHK】
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賃借人の権利が一定に保護されている日本からすれば、「セクション21」というのは随分乱暴な法律に思えます。1988年に制定されたもののようですが、どういう経緯で出来たものでしょうか。

1人暮らしができず親と同居する若者が増えると、通勤できる範囲が限定され、労働力の流動性が硬直化するというのは「なるほど・・・」という指摘です。

またEU離脱の悪影響がここでも・・・という話のようです。

上記にもあるように、こうした家賃高騰によってホームレスが急増しています。

****英イングランド地方部でホームレス急増 生活費高騰などで****
英イングランドの地方部で、ホームレスの数が5年で40%増加したことが分かった。地方部で活動する慈善団体が26日、明らかにした。
 
英国では生活費の高騰が深刻化。食費、光熱費、家賃、住宅ローンの金利が上がる中、会計が苦しくなった人も多い。

2022年10月には、インフレ率が11%と過去41年で最高を記録した。今年11月には3.9%まで下がったが、主に10年前に比べ福祉手当が減額されていることや住宅不足などから、食料を買えない人やホームレスが増加している。

イングランドの地方部で手頃な住宅の供給を訴えている慈善団体CPREによると、地方のホームレスの数は2018年には1万7212人だったが、2023年には2万4143人に増加した。多くの自治体において賃金が上がっていないことと住居費の値上がりが背景にあるという。

同団体によると、イングランドで最もホームレス率が高い地方自治体は、ロンドンの北東に位置するボストンだった。10万人当たりのホームレスの数は全国平均では15人だが、最新データがある今年9月時点で、ボストンでは48人に上った。

次いで、ロンドン北部ベッドフォードが10万人当たり38人、イングランド南西部ノースデボンは29人となっている。

CPREは、「都市部と違い、地方のホームレスは目につかないことが多い。野山で野営したり、農場にある建物で雨露をしのいだりしている」としている。またこうした人々は「支援を受けていないことが多い」ため、実際の数は政府統計を利用した今回の分析を上回ることはほぼ間違いと指摘した。

同団体によると、イングランド地方部では30万人が公営住宅への入居を待っている。 【12月27日 AFP】
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【アメリカも同様】
状況はアメリカでも同様で、ロンドンが家賃47万円なら、ニューヨークの1DKの平均家賃は4,000ドル(約60万円)!【11月16日 Tokyo fm plus 「NYの1DKの平均家賃約60万円!物価高騰に苦しむニューヨークZ世代の節約法とは?」より】

しかも、外食費など全てが値上がりしていますので、“巷では「$100 bill is news $20 bill(今の100ドルは、ついこの間までの20ドル)」と言われ始めています。”【同上】という状況。 映画館の売店で、水1本が7ドル(約1000円)といった話も。

これでは最低賃金(最低時給は7ドル25セント(約1,000円)、ニューヨークは15ドル(約2,250円))では到底暮らせませんし、年収1000万円でもギリギリの生活になります。

結果、“米国のホームレス数が65万人に急増、コロナ対策支援の終了が背景に”【12月19日 Forbes】といった事態に。

(ロサンゼルス【同上】)

そうしたアメリカの状況はまた別機会に。

単に“1人当たりGDP”といった数字だけは把握できないものもあるという話でした。

また、自分が生活するのに精一杯という状況では、難民・移民など他者への配慮をする余裕がなくなり、とにかく自分第一主義になりやすいというのも無理からぬところがあります。
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ウクライナ情勢  成果が出ない反転攻勢、欧米の支援疲れ、米の混迷 強まる「停戦」に向けた流れ

2023-11-30 23:09:02 | 欧州情勢

((左)ボリス・ジョンソン前英国首相(2022年ウクライナ訪問)【11月28日 テレ朝news】 当時ウクライナ・ロシア間で停戦に関する交渉が行われていましたが、「この時キーウに来ていた英国のボリス・ジョンソン首相(当時)が、いかなる文書にもサインせず、『ただ戦え』とアドバイスした」(停戦交渉にあたったウクライナ側代表ダヴィド・アラハミヤ氏)とのこと。 しかし今、“潮目”は変わったようにも)

【ゼレンスキー大統領、ロシア軍撤退まで停戦せず G7はウクライナ支援で結束・・・というものの・・・】
ウクライナ情勢については、期待されたようには進まないウクライナの反転攻勢、戦争の長期化に伴って露呈し始めた政権内部での不協和音、広がる欧米諸国の「支援疲れ」、パレスチナ問題などによるウクライナへの国際的関心の低下・・・といった、ウクライナにとって厳しい状況が強まっていることは、11月5日ブログ“ウクライナ  戦局は膠着 ウクライナ内部の不協和音も 欧米には支援疲れ、関心低下で和平協議の声も”でも取り上げました。

ゼレンスキー大統領は、ロシアがウクライナから部隊を撤退させない限り停戦に応じないと戦争継続の姿勢を崩していません。

****ロシア軍撤退まで停戦せず ゼレンスキー大統領会見****
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、共同通信などアジアの一部メディアと首都キーウ(キエフ)の大統領府で会見し、ロシアがウクライナから部隊を撤退させない限り、停戦に応じないと明言した。

欧米では停戦を探る動きもあるが、ゼレンスキー氏は否定。中東パレスチナ情勢が緊迫し、侵攻への関心が低下していることへの懸念を示した。来年2月に東京で開かれる日ウクライナ経済復興推進会議の成果に期待を示した。

ゼレンスキー氏はロシア軍が撤退しないままの停戦は「紛争の凍結」に過ぎず、ロシアは時間を稼いで戦力を回復した後、領土を奪うため再び攻撃を仕掛けてくると主張。「ロシアは平和を望んでいない」と述べた。

欧米で広がりつつある停戦論に関しては「手を切り落として他人に渡すような案」しか見たことがないと批判し、領土を割譲してまで和平を求める考えはないと断言した。

ロシアのプーチン大統領については「貪欲で常に飢えている」「ソ連がかつて有していた影響力を取り戻すことを目標としている」と分析した。【11月30日 共同】
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欧米・日本も、日本が議長国となったG7外相会合などで表向きはこれまでどおりのウクライナ支援で結束を示しています。しかし、水面下では「支援疲れ」やウクライナ国内での不協和音が露呈し始めています。

****G7、ウクライナ支援は「決して揺らがない」 東京での外相会合で声明****
G7外相会合で議長を務めた上川陽子外相は、各国がウクライナ支援で結束したと述べた
主要7カ国(G7)の外相会合が8日までの2日間、東京であり、中東情勢が緊迫するなかでもウクライナへの支援は「決して揺らぐことはない」とする共同声明を発表した。(中略)

各国の外相らは、ウクライナを侵攻しているロシアが長期戦に備えているとの認識を共有。ウクライナを経済的にも軍事的にも支援していくと強調した。(中略)

「ウクライナ疲れ」への懸念
(中略)アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、G7が「ロシアの戦争に対する非難で結束している」と述べた。だが、そうした強い言葉は、戦争の長期化の影響を受けるウクライナの現状を覆い隠すものとなっている。

ウクライナは、西側諸国の「ウクライナ疲れ」が、ロシア軍に対抗する戦闘力を低下させることを懸念している。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、600億ドル(約9兆円)規模のウクライナへの追加支援の承認を議会に求めているが、共和党議員の反対によって保留されている。米政府関係者によると、現在の支援は数週間以内に底をつき、ウクライナ軍に破滅的な結果をもたらす可能性があるという。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は先週、ウクライナでの戦争に関する「疲労」が強くなっており、「出口が必要だと誰もが理解する瞬間が近づいている」と、アフリカ連合関係者になりすましたロシア人からのいたずら電話で述べ、話題になった。

先月就任したばかりのスロヴァキアのロベルト・フィツォ首相は、政権を発足させると同時にウクライナへの武器供与を停止した。

ウクライナ国内でも揺らぎ
ウクライナ国内でも結束に揺らぎがみられる。軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は先週、戦況について「行き詰まり」だと述べ、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領との見解の違いが表面化した。ゼレンスキー氏は「内紛で溺れないよう」国民に訴えた。(後略)【11月9日 BBC】
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【混迷するアメリカのウクライナ支援 トランプ復活を待つプーチン大統領】
ウクライナにとって死活的に重要なのはアメリカの支援ですが、短期的にはウクライナ支援を含んだ予算案への米議会の抵抗、より長期的には、バイデン政権の継続か、あるいはウクライナ支援に消極的でロシア寄りともとられるトランプ前大統領の復権か・・・という問題があります。

ゼレンスキー大統領は「アメリカの支援なしでもわれわれは戦う」とは言っていますが・・・

****「支援がなければ自分たちで戦う」 欧米“支援疲”とゼレンスキー大統領の苛立ち****
■「あなたたちの支援なしでわれわれは戦う」
ゼレンスキー大統領の危機感と焦燥は日増しに強くなっているようだ。
11月8日のロイターとのインタビューで、「もし来年トランプが大統領に返り咲いたらどうするか」と聞かれたゼレンスキー大統領は、苛立った様子でこう答えた。「もし米国議会やホワイトハウスがウクライナ支援策を変更するなら、こう言おう――わかった、それならあなたたちの支援なしでわれわれは戦う」。

ガザでの悲惨な状況が連日のように伝えられ、世界の関心はパレスチナにシフトしている。東京で開かれたG7外相会議ではウクライナへの支援継続が確認されたが、いまや各国でウクライナ戦争への関心は薄れ、支援の成り行きはますます不透明になっている。

■「支援の96%は使い果たした」
米国のカービー国家安全保障会議戦略広報調整官は、ロシアの侵攻開始以降、ウクライナ支援に当てられた600億ドル(約9兆円)の財政手段のうち、バイデン政権はすでに96パーセントを使い果たしたことを明らかにした。

これは軍事だけでなく財政・経済、人道支援を含んでいる。軍事支援に限ってもすでに90%は支出済みで、ペンタゴンに残るのは11億ドル(約1650億円)のみだと言う。

ホワイトハウスのジャン・ピエール報道官によれば、大統領が決断すれば実施可能な支援であるPDA(緊急時大統領在庫引き出し権)で残っているのは1億250万ドル(約187億円)、武器の生産を発注できるUSAI(ウクライナ安全保障支援イニシアチブ)は3億ドル(約450億円)にすぎず、「USAIは底をつく。PDAも小出しに使っていくしかない」と危機感をあらわにした。

にもかかわらず、バイデン政権が10月20日に議会に提出したウクライナとイスラエルへの新たな支援パッケージ、総計1060億ドル(約15兆円)の支援策は、共和党が多数を占める下院で骨抜きにされ、イスラエルへの143億ドル(約2兆2000億円)緊急支援法案のみが採択された。

これに対して11月7日、上院で多数を占める民主党がこのイスラエル緊急支援法案を否決した。この米国議会の党派的分断によって、結局、イスラエルへの支援もウクライナへの614億ドル規模(約9兆2000億円)の支援も滞っているのが現状だ。

もともと共和党の古参議員は「反ロシア」の機運が強いために超党派でのウクライナ支援が続いてきたのだが、トランプ支持派は、新たなウクライナ支援を拒否する姿勢を打ち出している。【11月11日 テレ朝news】
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与野党の対立からウクライナ支援を含む予算案が決まらないアメリカでは、必要最小限の「つなぎ予算」でなんとかやりくりしていますが、その「つなぎ予算」も失効する11月17日の直前、15日にアメリカ上院は新たな「つなぎ予算」をようやく可決。

これで政府閉庁といった最悪の事態は免れていますが、新たな「つなぎ予算」は一部の予算を来年1月19日まで、残りを2月2日まで確保するもので、対立の要因となっているウクライナ支援などは盛り込まれていません。

こうした事態を歓迎しているのはロシアのプーチン大統領。トランプ前大統領の復権を待っている状況で、それまでは和平合意など新たな動きは示さないのでは・・・とも見られています。

****プーチン氏、米大統領選の結果前に和平で合意せず=米高官****
米国務省高官は28日、ロシアのプーチン大統領は、2024年11月の米大統領選の結果を確認するまではウクライナと和平で合意することはないと述べた。

米大統領選を巡っては、共和党の有力候補と見られているトランプ前大統領がウクライナへの支援を批判している。

同高官は、北大西洋条約機構(NATO)外相会合後に記者団に述べた。個人的な見解かそれとも米政府の見解かと記者から質問された際、「広く共有されている認識だ」と述べ、「それが28日のNATO会議で全ての同盟国がウクライナへの強い支持を表明した背景だ」と説明した。

トランプ氏に言及したり、米大統領選の結果がウクライナ支持にどう影響するかは明言しなかった。【11月29日 ロイター】
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【広がる停戦に向けた転機に入ったとの見方 領土の線引きと戦後ウクライナの安全保障が最大の焦点】
こうした状況を受けて、ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道にもウクライナ反転攻勢の失敗、アメリカの対応の失敗、ロシアのウクライナ領占領という現状での停戦といったウクライナにとって不都合な面に言及するような“潮目の変化”が起きています。

****ロシア・ウクライナ戦争の潮目が変わった?――領土割譲で停戦という「不都合な選択」****
「支援疲れ」に中東情勢の緊迫も加わり、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道に潮目の変化が起きている。

ウクライナ軍の反転攻勢の失敗や兵員不足に多くが言及、バイデン政権の対応にも批判が集まる。現状でロシア側が占領地域を手放すことは考えにくい。このまま停戦交渉に向かった場合、ウクライナが領土割譲という苦渋の選択を強いられるとの見方が台頭している。

ロシア軍の全面侵攻から1年9カ月を経たロシア・ウクライナ戦争は、ここへ来て潮目が変わりつつある。
ウクライナ軍の反転攻勢は成果を得られず、政権内の亀裂が伝えられる一方で、ロシアは長期戦に持ち込み、兵力を増員しながら有利に展開している。

イスラエル・ハマス戦争も、欧米諸国のウクライナ支援に影を落とした。

欧米側がヴォロディミル・ゼレンスキー政権に対し、和平交渉の検討を打診したとも報じられた。ゼレンスキー政権は依然徹底抗戦の構えだが、今後、停戦の動きが浮上する可能性も出てきた。
「力による現状変更は許されない」(岸田文雄首相)としてウクライナ支援を続けた西側諸国にとって、憂鬱な展開となりかねない。

「反攻は失敗、突破口なし」
10月末以降、ウクライナ側の「不都合な真実」(米誌『タイム』)を伝える欧米の報道が相次いでいる。

ウクライナのワレリー・ザルジニー総司令官は英誌『エコノミスト』(11月1日)とのインタビューで、「ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で17キロしか前進できていない」「われわれは膠着状態に追い込まれた。これを打破するには大規模な技術的飛躍が必要だが、突破口はないだろう」と苦戦を認めた。

ウクライナが6月4日に反転攻勢を開始して5カ月を経たが、ロシアが制圧するウクライナ領土の約20%のうち、奪還できたのは0.3%にすぎないとの報道もあった。

国民的人気の高い総司令官は、「ウクライナ軍はロシアが構築した地雷原に足踏みし、西側から提供された兵器も破壊された。指揮官らの交代もうまく機能しなかった」と述べた。ウクライナ軍高官が戦況の膠着や苦戦を公然と認めたのは初めて。

『タイム』誌(10月30日号)はゼレンスキー政権の内幕を報道し、「ゼレンスキー大統領は肉体的な疲労からか精神的にも疲弊し、メシア的妄想と精神病的な第三次世界大戦の恐怖を煽っている」とし、「ウクライナはロシアとの消耗戦に敗れつつあり、大統領の命令に従わない兵士も出ている」と伝えた。兵員不足で高齢兵士の招集をせざるを得ず、現在の軍部隊の平均年齢は43歳まで老化しているという。

『タイム』は昨年末、国家と国民を統率し、勇気ある抵抗を示したゼレンスキー大統領を「パーソン・オブ・ザ・イヤー」(今年の人)に認定したが、カバーストーリーを書いた同じ筆者が今回、政権内部の亀裂を列挙している。

欧米が水面下で停戦説得
こうした中で、米NBCニュース(11月3日)は、欧米諸国の政府高官がロシアとの和平交渉の可能性について、ウクライナ政府と水面下で協議を始めたと報じた。

米当局者によれば、これは10月に開かれたウクライナ支援国会合の際に話し合われ、ウクライナ側が協定締結のために何をあきらめるかについて概要が討議されたという。NBCは、欧米側の和平提案は、戦況の膠着や欧米の援助疲れ、中東紛争激化という新展開を受けて示されたとしている。

NBCによれば、ジョー・バイデン大統領はウクライナの兵力が枯渇していることに強い関心を寄せている。米当局者は「欧米はウクライナに兵器を提供できるが、それを使える有能な軍隊がなければ、あまり意味がない」と話した。

これらの報道に対し、ゼレンスキー大統領は記者会見やNBCテレビとの会見で、「戦争が膠着状態とは思わない」「年末までに戦場で大きな成果を挙げる」「ロシアと交渉するつもりはない」と反論し、抗戦方針を確認した。

米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「米国は引き続きウクライナを強力に支援する。交渉も含め、将来の決定を決められるのはウクライナだけだ」と述べた。戦争継続か和平かの決断を、ゼレンスキー政権が下す構図は変わらない。

一方で、ロイド・オースティン米国防長官とウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官が11月20日時点でキーウを訪問中だ。バイデン政権屈指のロシア通といわれるバーンズ長官の訪問はサプライズで行われたが、今後の展開などをめぐり重要協議が行われた可能性がある。

バイデン外交への批判噴出
一連の報道を受けて、欧米では、ロシア・ウクライナ戦争が転機に入ったとの見方が相次いでいる。

ドイツのニュースサイト、『インテリニュース』(11月6日)は、「ウクライナ戦争の終わりの始まり?」と題する記事で、「西側のウクライナ疲れは半年前から始まっていたが、反転攻勢への期待があったため、抑えられた。しかし、反攻が何ら進展をみなかったことで、停戦論が浮上している」「ゼレンスキーが昨年4月に和平に持ち込むことを検討したことは正しかった。今、クレムリンに交渉を持ち掛けても、一蹴されるだろう。時はロシアに味方する」と分析した。

英紙『テレグラフ』(11月4日)は、「ウクライナの現在の軍事力では、ロシアが厳重に構築した防衛網を突破する見込みはなく、反攻作戦は萎縮している。ロシアは間違いなく、消耗したウクライナ軍に対して再攻勢を準備している」とウクライナ軍が悲惨な状況に追い込まれかねないと指摘した。

同紙は、米国が長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与を10月まで実施しなかったり、F16戦闘機の供与を遅らせるなど、優柔不断な対応を続けたことが反転攻勢不調の理由だとし、「現状では、プーチンが勝利を手にする。これを打破するには、ウクライナに制空権、戦闘技術、強力な大砲を与えることだ」と強調した。

米紙『ワシントン・ポスト』(11月5日)も、ウクライナ軍が今後、突破口を開く可能性は低いとし、昨年11月にロシア軍が南部ヘルソン市から撤収した時点が交渉のチャンスだったが、バイデン政権は何もしなかったと指摘。「長距離ミサイルの供与の遅れも含め、バイデン政権はウクライナで確固たる対応を取らなかった。官僚的な惰性や、戦況がエスカレートするリスクへの懸念があった」と分析した。

パレスチナとウクライナの二つの戦争への対応をめぐり、米国内でバイデン外交への批判が高まりつつある。

ただし、首都キーウの外交筋は、一連の報道について、「長期戦がロシアを利する要素はあるが、ウクライナ軍内部に乱れはなく、反転攻勢は続く。ザルジニ―総司令官らの発言は、航空戦力、地雷撤去など西側に支援の足りない部分を列挙したものだ。ドイツ政府も援助の倍増を決めた」と述べ、誇張が多いと指摘した。

バルダイ会議で「西側との戦争」を強調
ロシアの通信社は、ウクライナの苦境を伝える欧米の報道を細大漏らさず転電し、ロシアの優位を印象付けている。ウラジーミル・プーチン大統領は10月のバルダイ会議で、「6月に開始されたいわゆる反攻作戦で、推定9万人以上のウクライナ兵が死傷した。作戦は失敗に終わった」と強調した。(中略)

10月のバルダイ会議では、「西側は何世紀にもわたり、植民地主義と経済的搾取で途上国を蹂躙した」「この戦争は、より公平な国際秩序を作るための戦いだ」と述べ、BRICS諸国とともに、新国際秩序を目指すと強調した。ロシア側のナラティブ(物語)は、限定軍事作戦から「西側との戦争」へと変質しており、長期戦の構えのようだ。

停戦交渉について、プーチン大統領は「ウクライナが東部・南部の4州をロシア領と認めることが停戦の条件」としてきた。バルダイ会議では、「ロシアは世界最大の領土を持つ国であり、これ以上新たな領土は求めない」とも述べた。

ロシアの独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン大統領が4州確保を前提に停戦を提案すれば、70%が支持すると回答しており、ロシア世論にも戦争疲れの兆しがみられる。

中国が仲介に登場との予測も
これに対し、ゼレンスキー大統領は昨年11月のビデオ演説で、ロシアとの和平交渉再開の条件として、①領土の回復②国連憲章尊重③損害賠償④戦争犯罪者の処罰⑤ロシアが二度と侵攻しないという保証――の5項目を要求した。

この基本方針は1年後の現在も変わっていないが、反転攻勢の不調、欧米の支援疲れ、国内の疲弊といった新情勢の下で、今後停戦交渉に乗り出す可能性もないとは言えない。「すべての領土奪還まで戦争遂行」を支持する国内世論は、昨年前半は90%に達したが、最近は60%台に低下している。

仮にロシア・ウクライナ間で和平交渉が行われるなら、領土の線引きと戦後ウクライナの安全保障が最大の焦点になろう。

ロシアは既に、クリミアと東部・南部4州をロシア領と憲法に明記しており、占領地を手放すことは考えられない。ただ、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は新しい国境線について、「東部ドネツク、ルハンスクは州全体がロシア領。南部ヘルソン、ザポリージャ両州の境界は住民と協議して決める」と述べたことがあり、南部2州で一定の譲歩を行う可能性もある。

いずれにせよ、和平交渉に応じるなら、ウクライナ側は領土割譲を受け入れるかどうか、苦渋の選択を強いられそうだ。

戦後の安全保障では、ウクライナは既にNATO加盟を申請している。ロシアは停戦によって時間稼ぎをし、再度侵攻する可能性があるだけに、安全確保にはNATO加盟が最も有効だ。しかし、ロシアはこれに猛反発するほか、NATO内部に反対論、慎重論もある。

仮に和平交渉が始まっても、交渉は難航し、長期化しそうだ。和平工作に際しては、「欧米とロシアはウクライナ戦争で疲弊しており、中国が満を持して仲介に登場し、超大国としての台頭を狙う」(エドワード・サロ米アーカンソー州立大准教授、『ナショナル・インタレスト』誌、11月7日付)との予測も出ている。【11月21日 新潮社Foresight】
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「停戦交渉」をめぐるさまざまな憶測が欧米各国で出始めた現在、ウクライナ・ゼレンスキー大統領からすれば、「欧米はウクライナを見捨てた」ということにも。
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スウェーデンNATO加盟で続くハンガリー・トルコの抵抗 加盟したフィンランドへは露が難民送り付け

2023-11-24 22:55:26 | 欧州情勢


(近頃の難民は自転車でやってくる?──フィンランドに入ろうとする「難民」はロシア国境警備隊の支援を受けているという主張も(11月21日、国境検問所があるフィンランド北部のサッラ)【11月22日 Newsweek】)

【スウェーデンNATO加盟へのハンガリーの抵抗 EU補助金をめぐる駆け引きか】
ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアへの警戒感を強める北欧フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を新たに申請した件に関しては、フィンランドについては3月末にハンガリー・トルコが承認し正式加盟に至っていますが、スウェーデンについては未だにハンガリー・トルコ両国の批准が得られていません。

スウェーデンの新規加盟については、主にクルド人反政府勢力の扱いに反発するトルコ・エルドアン大統領の動向が国際的に注目されてきましたが、上記のようにロシア寄りの姿勢を隠さないハンガリー・オルバン首相も(当初は“ほどなく同意する予定”とも見られていましたが)未だに同意していません。

****スウェーデンのNATO加盟、ハンガリーが批准先延ばし…ぎりぎりまで抵抗して譲歩引き出す戦術か****
スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡り、ハンガリーが承認手続きを先延ばしにしている。ぎりぎりまで抵抗して譲歩を引き出す戦術とみられるが、NATOとしては、今月末に「32か国体制」とする計画が頓挫しかねず、懸命の説得を続けている。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は8日、ブリュッセルでハンガリーのノバーク・カタリン大統領と会談。共同記者会見で「ハンガリー議会は、これ以上遅れることなく批准を決議すべきだ」と強く求めた。

スウェーデンの加盟実現に向けて残された手続きは、トルコとハンガリーの議会批准のみだ。最大のネックと目されてきたトルコは、タイップ・エルドアン大統領が10月23日に加盟を認める議定書に署名し議会に送付した。批准確実とみたNATOはスウェーデンの正式加盟を決定する場として今月28〜29日の外相理事会開催で調整に入った。

ところが、トルコに追随するとみられていたハンガリーの議会は10月24日、ビクトル・オルバン首相率いる与党フィデスが採決を拒否した。

オルバン政権の強権政治に懸念を示すスウェーデンへの不満が表向きの理由だが、法の支配に懸念があるとして凍結された欧州連合(EU)補助金の支給に向けた交渉材料にするのが本音との見方が強い。

ハンガリーの物価上昇率(前年同月比)は9月、EU平均の4・9%を上回る12・2%を記録し、経済対策の財源が必要という背景もある。

ハンガリーは「自国第一」を掲げ、NATOやEUに加盟しながら、中露との協力も重視する。ウクライナへの侵略開始後もロシアから天然ガスの輸入を続けてきた。その一方で、EUの対露制裁案に当初は反対しつつも最終的には同意し、補助金凍結の一部解除につなげるなどしたたかな外交を展開する。

ノバーク大統領はストルテンベルグ氏との共同記者会見で、批准の時期を明言しなかった。外相理事会までに決着するかどうかは未知数な状況だ。【11月11日 読売】
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ハンガリー・オルバン首相がEU指導部の西欧的・リベラルな民主主義価値観に反発し、独自の“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

その一方で、ハンガリーはEUからの補助金の受益者でもありますが、国内の人権問題などから凍結もされており、スウェーデンのNATO加盟批准はそこらをめぐる駆け引きの材料にもなっているようです。

オルバン首相は、スウェーデンのNATO加盟だけでなく、ウクライナのEU加盟問題でも反対姿勢を崩しておらず、EU指導部の頭痛の種になっています。

オルバン首相のウクライナへの反感の背景には、単にEU内部での価値観・人権・移民問題をめぐる対立、ロシアとの緊密な関係、エネルギー政策での国益第一主義だけでなく、(表向きの議論ではあまり言及はされませんが)ハンガリーの歴史的事情、ウクライナに暮らすハンガリー系住民の存在もあることは、4月30日ブログ“ハンガリー・オルバン首相  ロシア制裁・ウクライナ武器供与に反対する独自路線”でも取り上げました。

****ハンガリー首相、EUに変化必要と訴え ウクライナ加盟交渉に反対****
ハンガリーのオルバン首相は18日、自ら率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」の大会で、同国は欧州委員会が設計した現状の欧州モデルを否定しなければならず、欧州連合(EU)には変化が必要だと述べた。

首相は、ウクライナのEU加盟交渉に反対する政府の姿勢を改めて表明。「ウクライナはEUからはるかに遠い位置にあり、欧州委が加盟交渉開始を約束したとの誤解を正すのもわれわれの責務だ」と指摘。ハンガリーに移民を送り込もうとするEUの試みを阻止していくとも述べた。

ウクライナは2022年2月のロシアによる侵攻から数日後にEU加盟を申請し、これを最優先課題に据えている。来月のEU首脳会議では、加盟交渉を開始するかどうかが議題となっている。

ただEU高官は17日、ハンガリーの抵抗がEUの一致した足並みを乱す恐れがあるなどの理由から、加盟交渉のためウクライナを首脳会議に招請する決定が「リスクにさらされている」との見方を示した。【11月20日 ロイター】
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EU指導部も保留されていたハンガリーへの資金拠出を認めることで、オルバン首相の懐柔を試みているようです。

****欧州委、ハンガリーへの資金拠出承認 対ウクライナ支援で前進も****
欧州連合(EU)欧州委員会は23日、ハンガリーへの9億ユーロ(10億ドル)資金提供を承認した。これによりEUのウクライナ支援が実現に前進する可能性がある。

欧州委は、ハンガリーの汚職やオルバン政権の民主主義後退的政策への懸念から、コロナ禍後の支援対象から外した。これを受け、ハンガリーはEUとしての500億ユーロ規模の対ウクライナ経済支援や、ウクライナのEU加盟交渉開始に待ったをかけていた。

今回、ハンガリーへの実施が承認されたのは、コロナ禍後の支援策の一つで脱化石燃料を支援する「REPowerEU」からの拠出。EUの金融支援では「法の統治」に関する条件を満たす必要があるが、8億ユーロはその条件が付かない方式で実行する。【11月24日 ロイター】
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(欧州・EUにとって問題を残す対応ではありますが)こうした形でEUから資金を引き出すことができれば、スウェーデンのNATO加盟についても、オルバン首相の姿勢も和らぐ・・・・のでしょうか。

【トルコの対応も一進一退】
一方、スウェーデンNATO加盟に関するトルコ・エルドアン大統領の対応については、10月、ようやく・・・といった動きもありました。

****スウェーデンのNATO加盟 トルコ大統領が承認し議会に提出****
トルコ大統領府は23日、エルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟を認める議定書に署名し、トルコ議会に提出したと明らかにしました。これで議会は批准の手続きに入りますが、詳しい日程などは明らかになっていません。

スウェーデンは2022年5月、NATOに加盟申請しましたがイスラム教の聖典「コーラン」が燃やされるデモが起きたことなどにトルコが反発し、話し合いが続いていました。そして2023年7月、エルドアン大統領はNATOの首脳会議で、自国での加盟承認手続きを進めることで合意したと発表しました。

NATOの加盟にはすべての加盟国の批准が必要ですが、ハンガリーも手続きが終わっていません。(ANNニュース)【10月24日 ABEMA TIMES】
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しかし・・・一進一退のようです。

****トルコ議会外交委、スウェーデンNATO加盟法案の採決延期****
トルコ議会の外交委員会は16日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟批准に向けた法案について、一段の討議が必要として採決を延期した。

議会外交委員長は、数時間にわたる討議後に記者団に対し「全議員がスウェーデンのNATO加盟を承認するには、十分に納得しなければならない。次回の委員会会合で討議を重ねる」とし、必要ならスウェーデン大使を招いて議員に対する説明を求めることもできると述べた。

来週にも討議が再開可能性があるとしながらも、具体的な日程は示さなかった。

スウェーデンのNATO加盟批准に向けた法案は、外交委員会の承認を経て議会全体で採決にかけられ、可決されればエルドアン大統領が署名して成立する。(後略)【11月17日 ロイター】
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【NATO加盟を果たしたフィンランドへのロシアの嫌がらせ 難民送り付け】
スウェーデンより一足先にNATO加盟を果たしたフィンランドに関しては、難民を送り付けるというロシアの“いやがらせ”が表面化しています。

****フィンランド、ロシア国境の一部検問所閉鎖を決定 難民流入阻止****
フィンランドのオルポ首相は16日、ロシアから増加している難民申請希望者の流入を阻止するため、ロシアとの国境にある9カ所の検問所のうち4カ所を18日に閉鎖すると発表した。

隣国ノルウェーも、必要になればロシアとの国境を閉鎖するとしている。

フィンランド政府は前日、ロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいると非難し、大規模な難民流入を阻止して国家安全保障を確保するために必要な措置を講じると表明。オルポ首相は「これらの人々が(ロシアの)国境警備隊に手助けされたり、誘導されたりしているのは明らかだ」と述べていた。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「ロシアによる移民の利用は恥ずべきことだ」と非難。「フィンランドが決定した措置を全面的に支持する」と述べた。

フィンランド国境警備隊によると、イラク、イエメン、ソマリア、シリアなどの国からの難民申請希望者は秋の初めは1日平均1人程度だったが、今週に入ってからはロシア経由で毎日数十人が到着している。【11月17日 ロイター】
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フィンランドでは難民不法入国への懸念から、ロシアとの国境付近に高さ3メートル、全長およそ200kmのフェンスの建設も進められています。

****フィンランド、ロシアとの国境検問所1カ所除き閉鎖へ 難民流入阻止へ****
フィンランドのオルポ首相は22日、ロシアとの国境の最北端1カ所を除き全ての検問所を24日から閉鎖すると発表した。ロシア経由での難民申請者の流入を食い止めることが目的。

月初から、イエメンやアフガニスタン、ケニア、モロッコ、パキスタン、ソマリア、シリアなどの第3国から600人超の難民申請者がロシア経由でフィンランドに入国しており、フィランドはすでにロシアとの国境にある9カ所の検問所うち4カ所を閉鎖している。

オルポ首相は「東部国境の状況が悪化している兆候が増大している」とし、さらなる国境閉鎖を決定したと述べた。

フィンランド政府はこれまでにロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいると非難。ロシア側は否定しており、ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は20日、フィンランドによるロシアとの国境の検問所の一部を閉鎖する決定を「非常に遺憾」に思うと述べた。【11月23日 ロイター】
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ロシアのこうした動きに、ノルウェーやエストニアなども神経を尖らせています。

****ヨーロッパに「鉄のカーテン」が復活──ロシアの新種の嫌がらせに、たまらず国境閉ざすフィンランド****
<NATO加盟の報復に「自転車難民」を送り込んでくる?ロシアの新種の攻撃を防ぐには、人権保護に厚いフィンランドも壁を築くしかない>

フィンランドは、ロシアとの国境からの入国制限を強化している欧州諸国の一つだ。際限なく続く亡命希望者は、フィンランドを弱らせるためにロシアが送り込んでいる「武器」だと非難している。

ある専門家は本誌の取材に対し、ロシアは、NATO加盟でアメリカと軍事同盟を組んだフィンランドの決意を試そうとしていると語り、状況はさらに悪化する可能性があると付け加えた。(中略)

この動きを見たノルウェーのエミーリエ・エンゲル・メヘル法務大臣は、ロシアからノルウェーへの越境者が急増した場合、極北にあるロシアとの国境を閉鎖する用意があると警告した。

越境阻止に動く近隣諸国
一方、バルト三国のエストニアでは、ソマリアからの移民8人が国境都市ナルバを経由してNATOおよびEU加盟国に入国しようとする事件があり、必要とあればロシアとの国境通過点をすべて閉鎖すると発表した。

エストニア政府は、東部ナルバにあるロシアとの国境に、対戦車用の「竜の歯」という障害物を設置するよう命じた。ラウリ・ラーネメッツ内相は、ロシアが「理由もなく」亡命希望者を国境に向かわせていると非難した。エストニアは、書類も許可もなしに国境を越えようとする人々を全員送還した。

ヨーロッパ各国のロシアとの国境における緊張を如実に物語るのが、ニイララ国境駅でのフィンランド国境警備隊と移民の対立を撮影した動画だ。ソーシャルメディア上で共有された画像には、自転車で国境に集まった難民たちの姿が写っている。

フィンランドはロシアと1340キロに渡る国境を接している。

フィンランドのペッテリ・オルポ首相は、ロシアがフィンランドのNATO加盟に報復しようとしていると主張し、ロシアからの難民は「ロシアの国境警備隊の助けを借りて国境まで護衛されたり、移送されたりしている」と非難した。

シンクタンク英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアソシエイトフェローでヘルシンキ大学の客員研究員サリ・アルホ・ハブレンは、ロシアはフィンランドのNATO加盟と10月に発表されたアメリカとの防衛協力協定(DCA)の両方に反応していると述べた。

「フィンランド当局は、こうしたロシアの圧力に断固として対応する用意があると言っているが、状況は緩和されるどころか、悪化する可能性がある」と彼女は本誌に語った。フィンランドは今も国際人権協定を遵守し、正当な亡命希望者の申請手続きを進めているというが、ロシアはそれを逆手に取っている可能性もある。

ロシアはフィンランドに圧力をかけるために亡命希望者を利用している、とハブレンは言う、「冬の気候を考えると、国境地帯に集まった人々はとても厳しい状況にある」

「今や、フィンランドに住むロシア人までが、国境を開放し続けるよう要求し始めている。事態の根本的な原因はロシア政府の攻撃的な政策にある」と、彼女は言う。「ロシアが次にどんな行動を計画しているのか、推測するしかない」

巧妙な難民利用作戦
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、フィンランドが移民問題でロシアと対立するのは「大きな過ち」だと述べ、ロシア外務省は「移民を武器化している」というフィンランドの主張を否定。「非常に奇妙」な非難だと表現した。

移民の武器化といえば、ロシアから数千人の移民がロシアの同盟国ベラルーシ経由でEU加盟国のポーランドとリトアニアに入国した2021年のケースが有名だ。EUはベラルーシの指導者アレクサンドル・ルカシェンコがEU圏を不安定化させようとしていると非難した。

フィンランドのタンペレ大学の研究員ペッカ・カッリオニエミは、ロシアはベラルーシとともに、軍備と難民の「ハイブリッド攻撃作戦」をEUに仕掛けていると本誌に語った。

「ロシア政府は、この作戦からさまざまな面で利益を得ることができる。国内のプロパガンダに利用できるだけでなく、フィンランドを亡命希望者を不当に扱う国に仕立て上げることもできる」【11月22日 Newsweek】
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フィンランドでは4月の総選挙で、マリン首相率いる中道左派「社会民主党」が敗れて緊縮財政を訴えた中道右派野党の「国民連合」が第1党になりました。また、極右野党「フィン人党」も第2党に躍進。この結果を受けて、「国民連合」のペッテリ・オルポ党首を首相とする極右勢力「フィン人党」を含む右派連立政権が発足しています。

移民・難民問題に関する右派連立政権のスタンスはよく知りませんが、政権交代・極右台頭の背景には移民・難民への厳しい世論も影響しているのではないでしょうか。流入が急増する難民の問題が大きな政治・社会問題になることは容易に想像できます。

難民を政治的な道具として送り付ける手法は、リベラルな価値観と急増難民がもたらす軋轢という現実問題の間の齟齬という「弱点」をつく有効な手段として、近年、上記記事にもあるベラルーシや、あるいはアメリカ国内における南部州からニューヨークなどへのバス移送など頻用されています。
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ポーランド  ウクライナとの穀物、トラック輸送問題、移民排斥・・“国境を超える市場経済への戸惑い”

2023-11-22 23:23:56 | 欧州情勢

(ポーランドとウクライナの国境付近に駐車されているウクライナのトラック=ポーランドで2023年11月19日、ロイター 【11月22日 毎日】)

【ウクライナ産穀物をめぐるウクライナとの対立】
ポーランドはソ連による衛星国としての事実上の支配の歴史から、NATO諸国のなかにあってもバルト3国と並んでロシアの脅威を強く意識する国であり、ロシアのウクライナ侵攻への批判では急先鋒に立つ国です。

軍事支援を含むウクライナへの支援額で見ても、決して経済規模が大きいい国ではないにもかかわらず、アメリカやドイツ、日本などに次いで7位となっています。(キール世界経済研究所調査)

そのウクライナ支援を重視する姿勢は基本的には今も変わりませんが、いわゆる「支援疲れ」的な現象も見られます。ワルシャワ大の研究者らが5~6月に実施した調査によると、「ポーランドはウクライナを支援するべきだ」と答えた人の割合は、今年1月の62%から42%に大きく減少しています。

背景には、多くのウクライナ難民を受け入れた結果、家賃などの物価が上昇して市民生活が困窮するなかで、ウクライナ難民に対しては手厚い保護が与えられているという国民の不満があります。

更に、後述するウクライナ産穀物をめぐるウクライナとの対立もあって、10月15日に行われた総選挙を前にした9月、与党・モラビエツキ首相がウクライナへの武器供与を停止すると発言する状況にもなりました。(首相発言後、ドゥダ大統領は9月21日、波紋が広がっている首相の発言について「最悪の形で解釈された。最新鋭の武器を供与するつもりはない」という意味だったと軌道修正してはいます。)

ポーランド(及び中東欧諸国)とウクライナの間で対立の火種となっているのが、ウクライナ産穀物の輸入規制問題です。

ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの中東欧5カ国は、黒海経由に代わるウクライナ産穀物の輸出ルートとして、関税が免除された安価なウクライナ産穀物の国内通過を認める一方、(単に通過するだけでなく、通過国の市場に流れ出すことなど)安価なウクライナ産穀物の流入による自国農業への打撃を懸念し、ウクライナ産の小麦やトウモロコシなどの国内での販売を禁止しました。

EUは5カ国による輸入規制を9月15日まで認めていましたが、東欧5カ国は少なくとも年末までの期限延長を求めていました。

結局、EUは期限通りで規制を撤廃。しかし、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの3カ国はEUの規制撤廃後も、独自の輸入規制措置を継続。これにウクライナが強く反発、WTOに提訴することにも。

****ウクライナ、穀物禁輸のポーランド・スロバキア・ハンガリーをWTOに提訴…軍事支援の中東欧と亀裂****
ウクライナ政府は(9月)18日、同国産穀物の禁輸を続けるポーランド、スロバキア、ハンガリーの3か国の措置は不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。ユリヤ・スビリデンコ第1副首相兼経済相が発表した。ロシアの侵略を受けるウクライナと、ウクライナを軍事面などで支援する中東欧諸国との亀裂が浮き彫りになった。

3か国が加盟する欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は15日、ブルガリア、ルーマニアを含む中東欧5か国を対象にウクライナ産穀物の輸入規制を認めてきた異例の措置を打ち切った。

これを受け、ポーランド、スロバキア、ハンガリーは15日、禁輸を独自に続ける方針を発表した。ルーマニアは今後の輸入量によっては禁輸延長を検討、ブルガリアは禁輸を解除する方針だ。

スビリデンコ氏は声明で、ウクライナ国内の穀物輸出業者は多大な損失を被ってきたと指摘。通商政策はEUの排他的権限に属し「加盟国の一方的行動は容認できないはずだ」として3か国の措置は「国際義務違反だ」と主張した。

ウクライナ産穀物を巡っては、EUが昨年春、経済支援の一環として関税を免除した結果、中東アフリカ向け産品が中東欧諸国の市場に流入し各国で価格が下落した。ポーランドなどは自国農業保護のため国内の通過は認めつつも自国市場では受け入れない措置を打ち出していた。【9月20日 読売】
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このウクライナ産穀物への規制をめぐる対立は、10月にウクライナがWTO提訴を中断したことで、一応は棚上げ状態にもなっています。

****東欧3カ国のWTO提訴中断=穀物紛争「解決の見通し」―ウクライナ****
ウクライナのカチカ通商代表は5日、訪問先のブリュッセルで、同国産穀物の輸入を独自に規制した東欧3カ国に対する世界貿易機関(WTO)での訴訟手続きを中断すると発表した。ロイター通信がウクライナメディアを引用して報じた。

カチカ氏は記者団に「この問題は数週間から数カ月で解消する見通しだ」と述べた。ポーランドとハンガリー、スロバキアは、国内農家への悪影響を懸念し、ウクライナ産穀物の受け入れを拒否。ウクライナ側は、欧州連合(EU)のルールに反するとして、WTOに提訴していた。

ロシアの侵攻を受けるウクライナを強力に支えてきた東欧諸国の間では、このところ「支援疲れ」が鮮明となっている。ウクライナは穀物を巡る緊張を和らげ、支援のつなぎ留めを図る考えだ。【10月5日 時事】
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ウクライナとスロバキアとは規制撤廃に向け穀物取引に免許制を導入することで合意しているますが、ポーランドに対してはウクライナが譲歩した形です。
しかし、ポーランドはWTO提訴の「中断」ではなく「取下げ」を求めています。

カチカ通商代表の「解決の見通し」という発言は、少し違うかも。互いに不満はくすぶっています。

なお、ポーランド、ウクライナ両政府は10月3日、ウクライナ産穀物をポーランド経由で第三国に輸出する際、(ポーランド国内に滞留しないように)鉄道輸送を迅速化する合意を結んだと発表しています。

【今度はトラック輸送をめぐって対立】
そして今度はトラック輸送がウクライナ・ポーランドの間で問題化しています。

****ウクライナ国境、仕事奪われたポーランド運転手がトラック数珠つなぎで封鎖…3000台が足止め***
ポーランドのトラックが隣国ウクライナとの国境付近の道路を10日以上にわたって封鎖している。ウクライナへの特別配慮でトラック運転手の仕事が奪われたことへの抗議行動だ。ロシアの侵略を受けるウクライナと、ウクライナを支援するポーランドとの間で、穀物問題に続く摩擦となっている。

ロイター通信によると、トラック運転手らは今月上旬から、ウクライナ国境3か所につながる道路に数珠つなぎでトラックを止めて渋滞を作る形で道路を封鎖している。ウクライナ側は19日時点で約3000台が国境で足止めになっているとしており、両国政府は事態の打開に向けて協議に乗り出した。

ロシアによるウクライナ侵略後、欧州連合(EU)は、ウクライナの運送業者の入域許可を免除。コストの安いウクライナの運送業者に輸送業務を奪われたことが、ポーランドのトラック業界の不満の原因だ。

ロシアの黒海封鎖で海上輸送が鈍った影響で陸路の物流は活発化しているが、陸上輸送の大半はウクライナの業者が請け負っているという。隣国スロバキアのトラック運転手らにも同調する動きが出ている。【11月21日 読売】
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上記記事にもあるように、混乱はスロバキアにも拡大

****東欧 ウクライナ国境を車体で「封鎖」相次ぐ トラック運転手ら不満****
(中略)報道によると、スロバキア東部の国境付近で21日昼ごろに道路の封鎖が始まった。運送業者の組合は関与しておらず、少数の運転手らによる独自の動きだとみられる。封鎖された道路は、スロバキアとウクライナの間で大型車両が通過できる唯一の検問所につながっており、一部を除いて越境が妨害されている。

ポーランドやスロバキアの運送業者らは、ウクライナ側に対する特例措置の一部制限などを求めている。東欧諸国では、ウクライナ産穀物の流入による農業への打撃についても不満がくすぶっている。【11月22日 毎日】
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【移民・難民の流入に対して厳しい一方で、最大の移民送り出し国 “国境を越えて自分たちをのみ込む市場経済への戸惑い”】
ポーランド国内の政治情勢については、10月24日ブログ“ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か”でも取り上げたように、10月15日の総選挙結果を受けて、司法やメディアへの介入で強権的な色合いも濃い独自の政治体制で、これまでEU指導部と対立することが多かった保守政党「法と正義(PiS)」政権から、親EU的な政権への交代が実現する運びとなっています。

保守政党「法と正義(PiS)」はこれまで、移民・難民らを敵視し、敵対する勢力から国民を守るとの構図を作った上で、自国民優先の姿勢を鮮明にして支持を集めるポピュリズム的手法を駆使し、欧州難民危機を受けた2015年総選挙ではその手法が奏功して政権を獲得していました。

欧州では、イタリアでは右翼政党を率いるメローニ首相が就任。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率で2位に浮上するなど、移民・難民に厳しい姿勢を見せる右傾化の流れが強まっていますが、そうしたなかでポーランドが“踏みとどまった”形にもなっています。

ただ、ポーランドの移民・難民への対応は二つの側面があります。ひとつは上記のような(ウクライナ難民以外の)流入する移民・難民への厳しい政策ですが、もうひとつ、ポーランド自身が対EUでは最大の移民送り出し国であるという側面もあります。

****移民と国家 ポーランドの戸惑い=岩佐淳士(ブリュッセル)****
ポーランドは欧州きっての移民の送り出し国だ。2004年の欧州連合(EU)加盟後、多くが職を求めてより豊かな欧州の国に渡った。その数は延べ300万人以上とされる。

3年前に公開された映画「アイ・ネバー・クライ」は、そんなポーランド社会を題材にしている。監督のピョートル・ドマレフスキさんは、多くの移民を送り出すポーランド北東部の出身。「この映画は私自身の経験を反映したものです」と語る。

主人公は17歳の少女オラ。ある日、アイルランドで出稼ぎをしている父親が事故で死んだとの知らせを受ける。彼女は遺体を引き取るため、一人アイルランドに向かう。離れて暮らす父のことは、ほとんど知らない。生活費を送ってくれるだけの存在だ。

オラは、アイルランドで父が自分に残したお金はないか、と父の職場の同僚や愛人を尋ね歩く。そこで目の当たりにするのは、自由だが無慈悲なグローバル市場の現実だ。アイルランドではポーランド人など東欧からの移民労働者がその底辺に置かれていた。それでも彼女は悲観しない。たばこをふかし、悪態をつきながら、強く生きようとする。

ポーランドは国外に移民を送り出しながら、外国からの移民受け入れには極めて消極的だ。自国民が流出する代わりに外国人が流入すれば国家のアイデンティティーが失われると不安を抱くためだ。それは1989年に共産圏を脱して以降、国境を越えて自分たちをのみ込む市場経済への戸惑いとも重なる。

ドマレフスキさんは、国内に広がる排他的な国家主義には批判的だ。「オラは国家から自由で、独立しています。それが新しい時代の生き方だと思うのです」

ポーランドで移民受け入れは政治的にタブー視されるが、生産年齢人口は減少しており、経済を維持するために外国人労働力の必要性は増している。ドマレフスキさんはこう言う。「資本主義の原理がすべてを解決するのではないでしょうか。ただし、それが良いことか悪いことかは分かりませんが……」

映画では地元の教会に忠誠を尽くすオラの母親や、重い障害を抱えた兄弟も登場する。自由に土地を離れることのない家族とのつながりも、そこに描かれている。【11月22日 毎日】
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“1989年に共産圏を脱して以降、国境を越えて自分たちをのみ込む市場経済への戸惑い”・・・これまでの強権的な「法と正義(PiS)」政権、ウクライナ産穀物をめぐる対立、そして今回のトッラク輸送問題・・・それらもそうした“戸惑い”のひとつのようにも見えます。

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ドイツとフランス  イスラエル・パレスチナへの異なる対応 

2023-11-11 23:02:56 | 欧州情勢

(ドイツ 政府がイスラエル寄りの姿勢を一貫して示していることに対して反発するデモ 【11月10日 NHK】)

【ドイツ ホロコーストへの反省、あるいは「負い目」から「イスラエルの安全はドイツの国是」】
ユダヤ人に対するホロコーストの歴史があるドイツがその責任を認めて、単に過去の反省・謝罪だけでなく、現在のイスラエルとの関係にもその影響は及んでいること、見方によっては“負い目”ともとれるような関係があることは11月3日ブログ“自国の負の歴史への向き合い方 イギリス、オランダ、ドイツ、フランス、そしてオーストラリアの場合”でもとりあげました。

****ハマス大規模テロ――なぜドイツはイスラエルを支持するのか****
(中略)2008年3月18日、メルケル首相(当時)は、クネセト(イスラエル議会)で約24分間にわたって演説した。イスラエルが建国60周年を迎えたことに敬意を表わすためである。(中略)

そして彼女は、「このドイツの歴史的な責任は、ドイツの国是の一部です。ドイツ首相である私にとって、イスラエルの安全を守ること、これは絶対に揺るがすことができません」と断言した。

この言葉によって、ドイツはイスラエルが紛争に巻き込まれた場合、原則としてイスラエル側に立つというメッセージを全世界に送った。(後略)【10月20日 新潮社Foresight】
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これを受けて、今回のイスラエル・ハマスの戦闘にあっても、10月8日にショルツ首相が発表した声明の中に、「イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」という言葉があります。

****ナチスの犯罪に対する負い目****
ショルツ首相は、メルケル前首相の路線を継承して、ハマスによる大規模テロという危機的な事態において、イスラエル支持の姿勢を改めて打ち出した。ドイツのイスラエル寄りの姿勢の背景には、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺に対する「負い目」があるのだ。

(中略)ドイツ政府は、イスラエルに対する軍事支援にも踏み切る。ドイツ国防省の10月12日付の発表によると、同国のボリス・ピストリウス国防大臣は10月12日、「イスラエルからリースされている2機の「ヘロン」型ドローンを返還する他、軍事資材や医療物資も供与する」と語った。

同国の緑の党の議員たちの間からも、イスラエルに対して武器を供与するべきだという意見が出ている。同党のアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「イスラエルは自衛する権利がある」と語った。(後略)【同上】
********************

このドイツ政府の立場は今も変わっていません。

11月9日、「水晶の夜」として記憶される日から85年を迎えました。

「水晶の夜」は1938年11月9日から10日に、ナチスの扇動で全国のユダヤ人の商店やシナゴーグ(礼拝所)が焼き打ちに遭い、多くのユダヤ人が殺害された事件です。破壊された家々のガラスの破片が月明かりに輝いたことから名付けられました。その後のユダヤ人600万人が犠牲になったとされるホロコーストの前兆となった一夜でした。

****「二度と繰り返さない」 独首相、ユダヤ人保護表明*****
ドイツのオラフ・ショルツ首相は9日、イスラエルとイスラム組織ハマスの一連の衝突を受けて反ユダヤ主義が高まっている事態は「国辱」だとし、ユダヤ人の保護を表明した。

この日は1938年のユダヤ人迫害事件「水晶の夜」から85年に当たり、ショルツ氏は、先月火炎瓶2本が投げ込まれたベルリンのシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で行われた追悼式典で演説した。(中略)

ショルツ氏は、「これは1945年以来、数十年にわたって(ドイツが)約束してきた『二度と繰り返さない』という誓いを守ることにほかならない」と主張。

「二度と繰り返さない」とは、ナチスの残虐行為の記憶を生かし続け、「テロのプロパガンダ」を拒否し、そして国民と移民に対して等しく、多様性と尊重を要求・保証するドイツの「自由で民主的な秩序」を確実に重んじるようにさせることだと続けた。

さらに、ドイツが過去に犯した罪の重さを考えると、国内における反ユダヤ主義の高まりは「国辱」であり、「憤慨し、深く恥じている」と述べた。 【11月11日 AFP】
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反ユダヤ主義を許さないというのは正しい主張ですが、それは国家としてのイスラエルの行動を支持するということとはまた別物であるとも思います。

しかし、ドイツはそうした過去の歴史体験を踏まえて、「イスラエルの安全はドイツの国是」という認識から、イスラエルの自衛権を制限する「停戦」に慎重な立場を取っており、国際関係におけるイスラエル支持という立場をとっています。

【ドイツの姿勢はEUの行動にも影響 アラブ諸国などからは批判 国民世論はガザ攻撃には否定的】
こうしたドイツの姿勢はEUの対応にも影響しています。

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(ドイツは)ガザ地区の民間人は守られるべきだという立場は示すものの、イスラエルにはハマスのテロ攻撃に対する自衛の権利があるとして、攻撃をやめることまでは求めてはいません。

そして、人道物資の搬入を目的とした戦闘の休止は支持していますが、国連などが求める人道目的での停戦については否定的な姿勢を示し続けています。

このドイツの姿勢はEU=ヨーロッパ連合の対応にも影響を与えていて、先月の首脳会議で加盟国には停戦を求める声もありましたが、最終的には人道目的の戦闘の休止を呼びかけるにとどまりました。【11月10日 NHK】
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ドイツの反ユダヤ主義への強い姿勢・イスラエル支持姿勢はアラブ諸国などから批判を浴びています。

****国連でドイツに批判集中 ガザ紛争めぐる姿勢で****
国連人権理事会は9日、スイス・ジュネーブでドイツについての普遍的定期的審査(UPR)を実施した。イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区の紛争について、イスラエル支持を明確に打ち出す一方、国内でパレスチナ支持派の抗議活動を禁止するドイツの姿勢に対し、主にイスラム教国から非難が相次いだ。

UPRは国連加盟国(193か国)の人権状況を評価するもので、すべての国が4年ごとに審査を受ける。

ドイツは今回、断固として人権を尊重する姿勢を広く評価されたが、ガザ紛争をめぐる立場については異例ともいえる批判を浴びた。

エジプト代表のアハメド・モハラム氏は「パレスチナ人の権利に関して、ドイツが取っている好ましくない立場を深く遺憾に思う」と述べた。ヨルダン代表はドイツの「不均衡な立場」を非難した。

トルコはドイツに対し、「イスラエルが戦争犯罪や人道に対する罪に使用する可能性のある軍事物資や軍装備品の提供を停止する」よう求めた。

ドイツ連邦議会人権政策・人道支援委員長で、代表団長を務めるルイーズ・アムツベルク氏は「ドイツにとって、イスラエルの安全保障と生存権については交渉の余地がない」と述べ、イスラエルの自衛権を繰り返し擁護した。

ドイツのUPRが行われた9日は、1938年に同国で起きたユダヤ人迫害事件「水晶の夜」から85年目に当たる。(中略) アムツベルク氏はこの歴史を念頭に「ユダヤ人の生活を守ること、そして 『2度と繰り返さない』というわが国の誓いは譲れない」と主張。この1か月で急増している反ユダヤ主義的な行為について「ユダヤ人はもはや安全だとは感じていない」「これを受け入れることはできない」と懸念を表明した。

また「ドイツ国民はガザ、そしてパレスチナ自治区の民間人のことも当然憂慮している」と強調した。

イスラエル代表のアディ・ファルジョン氏は、「反ユダヤ主義の惨劇にドイツが向き合い、国内および多国間で講じている措置」を称賛した。

カタールの代表は「ドイツ国内でガザ住民を支持するデモの参加者に対する制裁などの措置」に懸念を表明。レバノン代表はドイツに対し、「自国民の表現と集会の自由をめぐる権利の尊重し、守る」よう求めた。

アムツベルク氏は「ドイツでは誰もが自由に意見を表明し、平和的にデモを行う権利がある」「(だが)犯罪行為に関しては制限がある。テロリズムを称賛すべきではない」と答えた。 【11月10日 AFP】
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もっとも、ドイツ国内においても国民世論はイスラエル支持では同調するものの、「停戦」に関しては政府の立場とはまた少し違うようです。

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有力紙ウェルトが先月中旬に行った世論調査では、政府がイスラエル寄りの姿勢を明確に示していることについて、▼66%が「正しい」▼16%が「正しくない」▼18%が「わからない」と答えました。

一方、公共放送ARDが先月下旬から今月上旬に行った最新の世論調査で、市民の犠牲を伴うイスラエルの軍事行動についての意見を聞いたところ、「正当化できない」と答えた人が61%で、「正当化できる」の25%を大きく上回り、イスラエルが続ける激しい攻撃に懸念が広がっていることも伺えます。【11月10日 NHK】
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ドイツでは停戦などを求めるデモが相次いでおり、4日にベルリンであったデモには約9千人が参加しています。

【フランス 民間人の命を危険にさらすガザ攻撃には反対 欧州最多のイスラム教徒を抱える国内事情も】
一方、イスラエルのガザ攻撃に批判的姿勢を示しているのがフランス。

フランスは、10月27日に行われた国連での「敵対行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案において、イスラエル・アメリカの反対、日本や欧州諸国の棄権に対し、ロシア・中国・アラブ諸国などとともに賛成に回っています。

****仏マクロン大統領がイスラエル訪問 連帯示したうえで「戦いに容赦はいらないが、ルールはある」****
フランスのマクロン大統領は24日、イスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルを訪問し、連帯を改めて示したうえで、ガザへの地上侵攻の準備が進む中、国際人道法の順守を求めました。(中略)

その後、ネタニヤフ首相と会談し、ハマスを「テロ集団」と非難。会見で「テロ組織の打倒が最優先事項だ」とイスラエルへの連帯を示しました。

そのうえで、シリアやイラクでの過激派組織「イスラム国」の掃討に向けた有志国連合の活動をハマスとの戦いにも広げることを提案しました。

一方で、「戦いに容赦はいらないが、ルールはある」と述べ、ガザへの攻撃において国際人道法を尊重することの重要性を指摘。また、「イスラエルの安全保障は、パレスチナ人との政治プロセスの再開なしに維持はできない」と和平交渉に向けた対応の必要性も訴えています。

マクロン大統領はこの後、ヨルダン川西岸のラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長とも会談しました。

その後の会見で、アッバス氏は「事態の悪化を招き、地域または世界を戦争に巻き込む軍事的な解決は受け入れられない」と停戦を要請。

一方のマクロン大統領は「ガザで起きていることは人道的な大惨事であり、ハマスとパレスチナの人々が同一視されるのは政治的な大惨事だ」と述べました。【10月25日 TBS NEWS DIG】
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マクロン大統領は(フランス外交の伝統にも沿って)独自の立場を主張し、仲介役として国際政治におけるフランスの存在感をアピールしたい思惑もあるようです。

****仏、ガザ病院支援へ船派遣 大統領「大規模介入誤り」****
フランスのマクロン大統領は25日、エジプトを訪問し、シシ大統領と会談した。マクロン氏は会談後の共同記者会見で、パレスチナ自治区ガザの病院に支援物資を届ける海軍の船を派遣すると明らかにした。

マクロン氏はエジプト出国前、イスラム組織ハマスを標的にした地上戦は認めるが「民間人の命を危険にさらす大規模介入は誤りだ」と述べ、イスラエルに人道的対応を求めた。

フランス海軍の船のほか、医療機器を積んだ航空機が26日にフランスからエジプトに到着し、ガザへの輸送を目指すという。マクロン氏は記者会見で「状況は深刻だ」と指摘した。【10月26日 共同】
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****仏大統領、即時の戦闘休止を要求 パリでガザ人道支援会議****
イスラエル軍による攻撃で民間人に多数の犠牲が出ているパレスチナ自治区ガザへの人道支援を協議する国際会議が9日、パリで開かれた。

会議を呼びかけたフランスのマクロン大統領は冒頭演説で、民間人を守るため即時の戦闘の「人道的休止」を要求、より長期の停戦に向けても努力するべきだと訴えた。

欧米や日本、中東諸国の閣僚級やEU、国連パレスチナ難民救済事業機関など計約80の国・組織の代表が出席した。イスラエルは招待されず、パレスチナから自治政府のシュタイエ首相が参加した。

マクロン氏はイスラエルに自国防衛権があると認めた上で「民間人は守らなければならない。交渉の余地がないことだ」と強調した。【11月9日 共同】
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ただ、「人道的な休戦」を強調するものの、イスラエルへの直接的な非難は避るということで、アラブ諸国などとは温度差があります。

****仏大統領、イスラエルに民間人への攻撃停止要求 「禍根」残す****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は10日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区の民間人を攻撃して多数の死者が出ている事態について、「正当性」はなく、「禍根」を残すだけだとして、停止するよう強く求めた。

マクロン氏はパリで行われた国際平和フォーラムの傍らで行われた英BBCのインタビューで、10月7日にパレスチナのイスラム組織ハマスの攻撃を受けたイスラエルの自衛権を認める一方、「乳児や女性、高齢者が爆撃を受け、殺害されている」「理由も正当性もない。イスラエルに対し停止するよう強く求める」と表明した。

マクロン氏は、10月7日のハマスによる前例のない越境攻撃について「(フランスは)明確に非難する」とも述べた。イスラエル当局によると、この攻撃で民間人を中心に1200人が死亡、240人が拉致された。(中略)

マクロン氏は「われわれは(イスラエルの)痛みを確かに共有している。テロを根絶したいという思いも間違いなく共有している」「フランスでテロリズムが何を意味するかも知っている」と述べる一方、それでも民間人に対する攻撃に「正当性はない」と強調。

「すべての命が重要だと認識」するのは「われわれ皆にとって極めて重要だ。われわれの原則だから、われわれは民主主義国だからだ」とし、「中長期的にも、イスラエルの安全保障にとっても重要だ」と訴えた。

イスラエルは国際法に違反しているかとの質問に対しては、「私は裁判官ではない。国家元首だ」と回答。国家元首としてはイスラエルと「パートナーや友人」でありたいとの考えを示した。

さらに、イスラエルが自国を守る最善手は「ガザへの大規模空爆」という考えには同意できないとした上で、こうした考えは中東に「禍根と反感」を残すだけだと述べた。 【11月11日 AFP】AFPBB News
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北アフリカからの移民が多いフランスは、イスラム教徒が人口の8.8%を占める(日本公安調査庁HP)と欧州でも最も高い割合となっていますので、他の欧米諸国に比べイスラエルに厳しい立場をとるというのは、そうした国内事情への配慮もあるのかも。

【フランス国内で反ユダヤ主義行為 ロシアの関与?】
そのフランス国内では、反ユダヤ主義的行為も目立つようになっています。

****パリの建物に「ダビデの星」落書き ユダヤ人をマークか パリ市が刑事告発****
フランス・パリでイスラエルの国旗に描かれている「ダビデの星」の落書きが各所で見つかり、パリ市は反ユダヤ主義的な行為だとして刑事告発しました。

パリで31日朝、建物にユダヤ教やユダヤ人の象徴とされ、イスラエルの国旗にも描かれている「ダビデの星」が落書きされているのが数十カ所でみつかりました。

「ダビデの星」を巡っては、第二次世界大戦中にナチスドイツがユダヤ人を迫害した際、目印のためにユダヤ人の服に黄色い星を縫い付けさせていました。

近隣住民:「ショッキングだし、心配です。(イスラエルとハマスが紛争中の)現在の状況を考えると、近隣のユダヤ人をマークしている気がする。危険です」

パリ市は「ダビデの星」の落書きが反ユダヤ主義的な行為だとして検察に刑事告発しました。【11月1日 テレ朝news】
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こうした動きへのロシアの関与を疑う向きもあるようです。

****仏、ロシアの「干渉」非難 ダビデの星の落書きで****
フランス外務省は9日、首都パリ市内の建物数十軒に「ダビデの星」が落書きされた問題で、ロシアが落書きの写真をインターネット上で拡散させ、内政に干渉したと非難した。

同省は声明で、ロシアのネットワーク「RRN/ドッペルゲンガー」が「国際的危機を悪用し、フランスおよび欧州に混乱の種をまき、公の議論に緊張を生み出す」狙いで、「ロシアの新たなデジタル干渉作戦」を遂行していると主張した。

RRN/ドッペルゲンガーはこれまでにも、フランスを標的にした偽情報キャンペーンを行ってきたとされる。

問題をめぐっては、モルドバ人2人が先週逮捕され、第三者の指示で落書きに及んだと供述。これを受け、予審判事が行為の意図を調査することになっている。

こうした動きから、フランス当局がロシアを念頭に調査を進めているとの臆測が広がっていた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は9日の会見で、こうした非難は「ばかげた完全なナンセンスで、ただただ見苦しい」と反発。「フランスにおける反ユダヤ主義の拡大は国内に起因する問題ではないと見せ掛けようとする、フランス当局、もしくはその特殊部門によるもくろみだ」と批判した。 【翻訳編集】AFPBB News
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ホロコーストの歴史を持つドイツ、9%近いイスラム教徒を抱えるフランス・・・イスラエル・パレスチナへの関りは日本と比べるとはるかに強いものがあります。

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ウクライナ  戦局は膠着 ウクライナ内部の不協和音も 欧米には支援疲れ、関心低下で和平協議の声も

2023-11-05 23:06:24 | 欧州情勢

フォンデアライエン欧州委員長㊨とゼレンスキー・ウクライナ大統領(4日、キーウ)

欧州連合(EU)フォンデアライエン欧州委員長は4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談し、同国のEU加盟問題について協議した。フォンデアライエン氏は共同記者会見で「多くの成果があった」とウクライナの取り組みを評価。「改革が完了すれば、加盟プロセスの次の段階に進める」と述べた。
ゼレンスキー氏も会見で、EU加盟に向けて汚職対策の強化といった改革を進める考えを表明した。【11月4日 日経】

「支援疲れ」が広がる中でEUの結束、ウクライナ支援をアピールした形ですが、現実問題としては汚職まみれの国ウクライナのEU加盟には高いハードルがあります。

10月6日、スペイン南部グラナダで開催されたEU首脳会議では、フォンデアライエン欧州委員長は首脳会議後の記者会見で「加盟手続きは実力に基づき、近道はない」と。

EUのミシェル大統領は首脳会議前、ドイツ誌シュピーゲル(電子版)に、ウクライナの課題などが解決すれば「30年までに(ウクライナの加盟を)認めることは可能だ」との見通しを示したが、首脳宣言は時期について言及しなかった。【10月7日 産経より】

加盟が認められるにしても相当先の話です。 戦争後の復興対策にはなりますが。

【戦局は「膠着状態」】
ウクライナでは戦局が膠着し、ウクライナ軍の反転攻勢は夏以降ほとんど前進が見られていません。

****ロシア軍の防衛線・人海戦術に苦戦、拠点都市の奪還進まず…ウクライナの反転攻勢5か月****
ウクライナ軍がロシアに占領された南・東部の領土奪還を目指す大規模な反転攻勢の着手から4日で5か月となる。

ウクライナ軍は主戦場と位置付ける南部ザポリージャ州一帯の戦線で、露軍の防衛線と人海戦術に手を焼き、戦況は膠着こうちゃく状態に陥っている。

東部では露軍が犠牲をいとわぬ攻勢に転じ、反攻の阻害要因になっている。

ウクライナ軍は2日、ザポリージャ州の補給拠点都市メリトポリ方面で「敵の人員と装備に損害を与えた」と発表し戦果を強調した。

ただ、ウクライナ軍の足踏みは長期化している。ウクライナ軍が反攻でメリトポリ奪還の起点から約15キロ・メートル南方のロボティネに到達したのは8月だ。それ以降、ほとんど前進できていない。ロボティネからメリトポリまで約75キロ・メートルある。

ウクライナ軍の反攻は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアと露本土の間にある拠点都市を奪還し、クリミアを孤立させる狙いだったが、年内の実現は不可能な情勢だ。露軍がウクライナ領の約17%を占領している状況は5か月前からほぼ変化がない。

ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は、英誌エコノミストとの最近のインタビューで、戦況が「膠着状態にある」と述べた。総司令官が率直に苦境を認めたのは、米欧から迅速に高性能兵器の支援を受けなければ戦局を打開できないとの危機感があるためとみられる。

ウクライナ軍は10月中旬以降、南部ヘルソン州ドニプロ川東岸の露軍占領地域への渡河作戦を実施して、拠点を維持しているとみられるが露軍は抵抗している。

対する露軍は10月10日頃から東部ドネツク州アウディーイウカで攻勢に出ている。ウクライナ軍は一帯での露軍側の死傷者が5000人を超えたと主張する。露軍の損失は記録的な水準に拡大しているとされるが、露軍は部隊の追加投入を続けている。露軍がプーチン大統領の出馬が有力視される来年3月予定の大統領選に向け「戦果」を得ようとしているとの見方が根強い。

英国防省は、露軍による巡航ミサイルを使った攻撃が減少している点に注目し、ウクライナのエネルギー施設を攻撃するため温存している可能性があるとの見方を示している。【11月3日 読売】
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【ウクライナ政権内部、軍との関係で不協和音】
ウクライナにとって懸念されるのは、戦線が膠着状態にあることによって、国内的な不協和音が表面化してきていること。
そして、国際的には「支援疲れ」が進行し、ロシア軍の領土支配を許した状況で和平協議を求める声が強まることです。

上記記事でウクライナ軍のザルジニー総司令官が「膠着状態にある」と述べたありますが、ゼレンスキー大統領は「膠着状態ではない」と否定しています。

****ウクライナ政権と軍に不協和音 大統領、求心力低下を警戒****
ロシアの侵攻を受けるウクライナの政権と軍の間で、対外発信や幹部人事に関して不協和音が生じている。十分な意思疎通を欠いていることがうかがわれ、失態が続けば政権の求心力低下につながる恐れもある。ゼレンスキー大統領は神経をとがらせているとみられる。

ウクライナ軍のザルジニー総司令官は英誌エコノミストへの1日の寄稿で「戦争は新たな段階に入りつつある。第1次世界大戦のような、変化の少ない消耗戦だ」と述べ、ロシアに有利な状況が生まれていると指摘した。

この発言について、大統領府高官はウクライナメディアに「私が軍にいたら、前線で起きていることや今後の選択肢について報道機関に話したりしない」とけん制。軍最高司令官を兼ねるゼレンスキー氏も4日の記者会見で「膠着状態ではない」と述べ、ザルジニー氏の戦況分析を否定する形となった。

ゼレンスキー氏が3日発表した特殊作戦軍の司令官人事では、交代となった前司令官が「理由が分からない。報道で(交代を)知った」と暴露した。【11月5日 共同】
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客観的に見て「膠着状態」にあるのは否定しようがないように思われますが、これを認めないゼレンスキー大統領及びその周辺には「焦り」「苛立ち」みたいなものも感じられます。

一般に、勢いがあるときは多少の対立は隠されますが、事態がうまくいかなくなると内部の不協和音も表面化してきます。

****ゼレンスキー政権内不和か 米誌タイム報道、波紋広がる****
ウクライナのゼレンスキー大統領が対ロシア戦勝利に固執し、新たな戦略や方向性を打ち出すのが難しくなっているとの匿名の政権高官発言を米誌タイムが報じ、波紋を広げている。

侵攻が長期化し、国際社会の支援継続が不透明さを増す中、政権内部の不和を示唆する内容。側近は火消しや発言者捜しに躍起になっている。

記事は10月30日に公開された「ゼレンスキーの孤独な戦い」。ロシアやウクライナでの取材経験が豊富な記者によるゼレンスキー氏本人や複数の政権関係者へのインタビューを基にしている。

ゼレンスキー氏は「私ほど勝利を信じている人間は誰もいない」と訴えたが、側近の一人は「大統領の頑固さが、戦略や方向性を示そうとする政権の努力に水を差している」と指摘。全土奪還にこだわるゼレンスキー氏に早期の停戦交渉入りを持ちかけることはタブー視されているという。

また、ある高官は、侵攻当初に作戦会議で冗談を飛ばし周囲を和ませていたゼレンスキー氏が、最近は報告を聞き命令を出すと、すぐ退室するようになったと明かした。【11月3日 共同】
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新たな戦略や方向性を打ち出すのが難しくなっているかどうかはわかりませんが、そういう話が漏れてくるあたりに“うまくいっていない状態”がうかがえます。

【欧米で拡大する「支援疲れ」】
国際支援が生命線のウクライナにとって、関係国の「支援疲れ」は死活的に重大な事態です。そうした「支援疲れ」を表面化させないためにも反転攻勢で明確な成果が欲しかったところですが、それが出来ない。そうしたことへの「苛立ち」が上記の不協和音にもなるのでしょう。

アメリカでは共和党主導の下院の予算審議でウクライナ支援を除外する案が可決されています。

****米議会、イスラエル支援の予算審議難航 ウクライナ除外、政権は反発****
米連邦議会ででイスラエル、ウクライナ支援を巡る予算審議が難航している。バイデン大統領が両国への支援を盛り込んだパッケージ型の予算を求めたのに対し、野党・共和党がウクライナ支援を除外し、直接関係のない歳出削減までも意図した法案を下院で可決させたためだ。与野党対立が激しさを増し、両国支援のあり方に影響を及ぼしている。(中略)

法案を主導したのは、10月下旬にマッカーシー前下院議長の後任に決まったジョンソン議長(共和党)。(中略)
下院案は、共和党の一部の保守強硬派が反対するウクライナへの軍事支援も盛り込まなかった。市民が戦闘に巻き込まれているパレスチナ自治区ガザ地区への人道支援も除外した。

上院民主党トップのシューマー院内総務は、「ひどい欠陥のある提案だ」と述べ、下院案を上院では審議しない考えを示した。バイデン氏も拒否権を発動する考えを示している。

(中略)ウクライナ支援と一体化させた法案でなければバイデン氏が認めない可能性が高く、調整は難航必至だ。【11月4日 毎日】
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パッケージにしないとウクライナ支援単独では議会承認が難しい・・・というのもアメリカの実態です。

イタリアでは偽電話でメローニ首相が「本音」を吐露

****ウクライナ戦争「みんな疲れている」 メローニ伊首相が偽電話で「本音」ポロリ****
ロシアの侵略が続くウクライナ情勢を巡り、イタリアのメローニ首相が「みんなが疲れている」と欧州の「本音」を漏らした音声会話がインターネット上に流出した。アフリカ首脳を装ったロシア人コメディアンのいたずら電話で語ったもので、伊首相府は1日、偽電話の被害にあったことを認めた。

メローニ氏は会話の中で、ロシアに対するウクライナの反攻は「期待したようにいかないだろう。紛争の行方を変えなかった」と発言。「解決策を見つけないと(紛争は)何年も続くとみんなが気づいている」として、調停の必要性に触れた。

国営イタリア放送協会(RAI)によると、首相府は会話は9月18日のもので、アフリカ連合(AU)首脳を装った偽電話だったと説明した。ロシア人は「ボバンとレクサス」の名前で知られる2人組で、これまでにカナダのトルドー首相、ポーランドのドゥダ大統領らが偽電話の被害にあっている。【10月2日 産経】
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【国際的関心は中東へ】
ウクライナ・ゼレンスキー大統領にとっては、国際的関心がイスラエル・ハマスの戦闘に移ってしまっていることも不運と言えば不運。ただ、常に新たな出来事は起こりますので・・・

****「中東に注目移っている」 ゼレンスキー氏、関心低下に懸念****
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に関して「中東での戦争に(世界の)注目が移っているのは明らかだ」と述べ、ロシアのウクライナ侵攻への関心低下に懸念を示した。首都キーウ(キエフ)を訪問した欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長との共同記者会見で語った。英BBC放送が報じた。

報道によると、会見でゼレンスキー氏は、ウクライナ情勢への関心低下は「ロシアの狙いの一つだ」と指摘した。

一方、ウクライナ軍のザルジニー総司令官が英誌エコノミストへのインタビューで戦況の「行き詰まり」を認めたことへの見解を問われ、ゼレンスキー氏は「誰もが疲弊しており、異なる意見もある。しかし、現況は『行き詰まり』ではない」と訴えた。

また、米欧の当局者がウクライナ政府に対し、ロシアとの和平協議に関する議論を持ちかけたとする米NBCの報道にも言及し、「ロシアとの交渉の席に着くよう圧力をかけている米欧の指導者はいない。こんなことは起きない」と否定した。

ロシアは2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始した。ウクライナは23年6月から南部ザポロジエ州などで反転攻勢を始めたが、ロシアによる3段構えの防御線の一つ目を一部で突破するにとどまっている。一方、ロシアが10月から東部ドネツク州で仕掛けた攻勢も、大きくは進展していない。【11月5日 毎日】
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【欧米からは和平協議の声も 譲らないロシア ウクライナにとっては難しい判断】
上記記事にあるように、戦局の膠着、支援疲れ、関心の低下を受けて欧米はウクライナにロシアとの和平協議を持ちかけたとの報道があります。

****欧米当局者、ウクライナに停戦交渉の可能性について協議もちかけ “何を諦めるか”大まかな概要含む 米NBC報道****
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、さらに、中東情勢の緊迫化で関心も低下する中、アメリカのNBCは4日、アメリカ政府高官らの話として、欧米の当局者がウクライナに対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について協議をもちかけていたと報じました。

NBCによりますと、この中には停戦のために、ウクライナが何を諦めなければいけないか、大まかな概要が含まれていたとしています。

協議の一部は、先月開かれたウクライナ支援のための会合で行われたということです。

ロイター通信によりますと、この報道に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、今はロシアと停戦について交渉するときではないという姿勢を改めて示しました。【11月5日 日テレNEWS】
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“NATO=北大西洋条約機構がウクライナの安全保障に関与することで、ロシアによる再侵攻を抑止する案も浮上しているとされる”【11月5日 FNNプライムオンライン】

ただ、和平協議と言ってもよほどの事がない限りロシアは今の支配地域を放棄はしないでしょう。ウクライナ・ゼレンスキー大統領が現状を呑むのも難しいところ。

なお、ロシアでは一定に戦争停止を求める世論もありますが、領土の返還を条件とした戦争の停止は、例えプーチン大統領の決定があったとしても支持されていません。

****ウクライナ戦争の停止、露国民7割が支持 露世論調査****
「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止を決めた場合、その決定を支持するか」とロシア国民に尋ねたところ、70%が「決定を支持する」と回答したことが、露独立系機関「レバダ・センター」の10月の世論調査で分かった。プーチン政権は従来、「国民の大多数がウクライナでの軍事作戦を支持している」と主張してきたが、今回の調査結果は露国民内での厭戦(えんせん)機運の高まりを示唆した。

レバダ・センターは10月19〜25日、18歳以上の露国民約1600人を対象に世論調査を実施。結果を31日に公表した。

それによると、冒頭の質問に対し、37%が「完全に支持する」と回答。「おおむね支持する」とした33%を合わせると計70%が戦争停止を支持した。一方、「あまり支持しない」は9%、「全く支持しない」は12%で、9%は「回答困難」とした。

レバダ・センターは同時に「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止と、併合したウクライナ領土の返還を決めた場合、その決定を支持するか」との質問でも世論調査を実施。

この質問形式の場合、「完全に支持する」「おおむね支持する」とした回答者の割合は計34%まで低下した。反対に「あまり支持しない」「全く支持しない」との回答は計57%に上った。残りは「回答困難」だった。

半数超の露国民が領土の返還を条件とした戦争の停止は支持できないと考えていることが明らかになった形だ。【11月2日 産経】
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ウクライナ、ロシアのどちらが譲歩するのか・・・どちらも譲歩せず膠着状態が続くのか・・・どこまで欧米はウクライナを支援するのか・・・いろいろと難しい判断を要する時期にさしかかっています。
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ウクライナ  国際支援に二つの懸念 スロバキア新政権とアメリカ新下院議長

2023-10-28 23:23:54 | 欧州情勢

(スロバキア・スラビンには第2次世界大戦においてスロバキア首都ブラチスラバ解放で倒れた6,278人のソビエト兵士が埋葬されています【英語版ウィキペディアより】)

【膠着状態のウクライナ戦局】
連日圧倒的な量の情報が報じられているパレスチナ情勢の一方で、先日までメディアの中心的な関心事であったウクライナ情勢に関しては目立った情報をめにしなくなりました。

それはメディアの関心がパレスチナに向いているということに加えて、東部でのロシア、南部でのウクライナ双方の攻勢が相手側の抵抗にあい、戦況が膠着状態にあるためでしょう。

****露軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州****
ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデエフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。

シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。

ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデエフカへの攻勢を強化。露軍は同州バフムトの制圧後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデエフカの突破を狙っているとみられる。

ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデエフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。

一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着(こうちゃく)の度を増している。【10月26日 産経】
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【スロバキア新政権はウクライナへの武器供与停止を発表】
戦況は膠着状態ですが、ウクライナにとって生命線である国際支援については懸念すべき材料も生じています。

ひとつは欧州にあって、スロバキアにおいてロシア寄りの主張を掲げて9月の総選挙を制した政権が誕生したこと。

****ウクライナ支援疲れ、浮き彫りに 東欧で足並み乱れ拡大も****
ウクライナの隣国スロバキアで9月30日実施の国民議会選挙で、ウクライナへの軍事支援停止を訴えた左派スメルが第1党になり、物価高騰などに直面する有権者の支援疲れが浮き彫りとなった。ポーランドでも10月、総選挙が予定され、東欧で支援を巡る足並みの乱れが拡大する可能性がある。

スロバキアはウクライナ支援では、旧ソ連製の戦闘機や旧ソ連時代に開発された地対空ミサイルシステムを供与するなど積極的だった。

一方、近年はコロナ感染拡大などの難局に直面。「ウクライナ人が優先されている」との不満が高まった可能性がある。スメルはこうした声を取り込んだとみられる。

ポーランドでは侵攻後、東欧経由の陸送拡大で通過する安価なウクライナ産穀物が自国内に流入。市場価格は侵攻前の3分の1に下落したとされ、農家が強く反発する。

総選挙を控え、政権を率いる保守与党は支持基盤である農家の保護優先を強調。モラウィエツキ首相は「自国の利益が最も重要だ」との主張を繰り返し、ウクライナへの武器供与停止にも言及している。【10月2日 共同】
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上記記事にあるポーランドに関しては、10月24日 ブログ“ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か”でも取り上げたように、EUと歩調を合わせる野党による政権ができる流れですが、スロバキアの方は早くもフィツォ新首相が「もうウクライナに武器は送らない」と明言しています。

****ウクライナへの武器供与停止=スロバキアが正式表明、人道支援は継続****
東欧スロバキアのフィツォ新首相は26日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を停止すると正式に表明した。AFP通信が伝えた。人道支援や財政的な援助は継続する方針。

フィツォ氏は国民議会の議員らに「もうウクライナに武器は送らない」と明言した。ロシア寄りの左派政党「スメル(道標)」を率いる同氏は、軍事支援の停止やウクライナ和平推進を訴えて9月の総選挙に勝利。今月25日に首相に就任した。【10月26日 時事】
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ポーランドは最近のウクライナ産穀物をめぐる問題、そこから派生するウクライナ支援に関する不協和音は別として、欧州でも最もロシアに対する警戒感が強い国で、従来からウクライナ支援では先頭に立つ国でした。
そのウクライナ支援・ロシア批判という点では、現政権も今後成立する新政権も基本的には同じでしょう。

ということは、ウクライナ支援に関して言えば、欧州はこれまでのハンガリーに加えてスロバキアという反対勢力が増えた形になります。そのあたりは早速表面化しています。

EU首脳会議は27日、ウクライナに対する「強力な財政的、経済的、人道的、軍事的、外交的支援を提供し続ける」ことで大筋合意しましたが、詳細を決定していくうえではハンガリー・スロバキアの抵抗が予想されます。

****EU、ウクライナ支援で亀裂 ハンガリーとスロバキアが難色****
欧州連合(EU)はウクライナに向こう4年間で500億ユーロ(530億ドル)を支援する案を大筋で支持したが、全会一致が必要となる12月の詳細合意を前にハンガリーとスロバキアが難色を示し、EU内に亀裂が生じていることが明らかになった。

EUはブリュッセルで開催された首脳会議2日目に「ウクライナとその国民に必要な限り、強力な財政・経済・人道・軍事・外交支援を提供し続ける」と明記する声明を採択した。EU欧州委員会は6月、2024─27年にウクライナに500億ユーロを支援することを提案している。

ドイツのショルツ首相は首脳会議後「ウクライナの財政安定のために必要なことが決定されると予想している」とし、「部分的に異なるアセスメントが決定に影響するとは考えていない」と述べた。

アイルランドのバラッカー首相は2日目の協議前「ウクライナに追加の資金が必要だという強い意見があり、その点はほぼ一致している」とした上で「ただ、資金をどこから捻出するかについては、効率性を除いてほとんど意見が一致していない。12月までに合意できると思う」と述べていた。【10月27日 ロイター】
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【スロバキアの親ロシア感情】
スロバキアの親ロシア感情については、“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”という歴史の一面(もちろん、チェンバレン、ヒトラー、スターリンにはそれぞれの思惑があっての「結果」ではありますが)が影響しているとの指摘も。

****共産党支配に苦しんだ国のはずなのに...スロバキアで体感した「親ロシア」の謎****
<旅行中に偶然居合わせたスロバキア総選挙では、親ロシアを掲げる政党が第1党に。旧ソ連兵を大事にまつり、欧米に反発するスロバキアの背後にある複雑な事情とは>

(中略)さらに偶然に、僕はブラチスラバ最初の朝を、大いに意味のある場所から始めていた。良い天気だったし外で朝食を取りたいと思った僕は、ホテル近くの丘の上に大きな緑地があることを地図で知った。スラビンというところだ。ここが1945年にブラチスラバを解放したソビエト赤軍の戦死者を称えた記念碑であることは、着いてから初めて知った。

その場所が完璧に維持管理されていて、街を一望できる目立つ場所にあり、そして「赤軍の犠牲への敬意」がそこかしこに記されている点に僕は驚いた。旧ソ連圏の国々のほとんどでは、ソ連時代の記念碑は破壊されるか軽視されるかしていた。あるいは少なくとも、共産主義支配の「罪」のほうも忘れないために、という狙いで残されていた。

でもスラビンの記念碑は汚れ一つないだけでなく、スターリンが事実上ヒトラーに代わって新たな占領者になっただけだという意味合いは全く匂わせず、2015年に改良工事まで行われていた。もちろん解放70周年記念の年ではあったのだが、ロシアがクリミア半島に侵攻した翌年でもあった。ロシア軍をあえて記念しようとするには奇妙なタイミングだ。(中略)

ヒトラーを倒すために多くの戦いを担い、多くの犠牲を生んだのはソ連軍兵士であったことは、西側にとってもきまりの悪い公然の秘密だ。人類の自由と国家の主権にとって、ソ連は恐ろしい敵だったという僕自身の考えはそのままに、彼らの犠牲には敬意を払うべきだと僕は感じた。

それでも、スロバキアの市民が彼ら「解放者」に感謝よりも怒りを感じないでいられるのは、理解し難かった。チェコスロバキア(当時)の発展は数十年も停滞した。スロバキアの共産党指導者アレクサンデル・ドゥプチェクが自由化を図ろうと「プラハの春」を進めると、ソ連はただもう単純に侵攻して自由化を阻止し、あらゆる反対派をつぶした(1968年)。

イギリスによって「売り渡された」歴史
(中略)僕はオーストリア国境に向かって、ブラチスラバ郊外の森の中へと足を踏み入れた。奥深くには、第1次大戦後にチェコスロバキアが成立した当時に建てられたバンカーが数多く残されていた。(中略)

重要なのは、これらが重大な要塞の数々だったのに、イギリス史上最も恥ずべき瞬間の一つである1938年のミュンヘン協定によって、その重要性が失われてしまったことだ。ヒトラーのドイツ(既にオーストリアを併合していた)はチェコスロバキアのいわゆる「ズデーテン地方」をドイツに割譲するよう求めていた。多くのドイツ系が居住していた地域だ。

戦争を回避するために、イギリスのネビル・チェンバレン首相は「協定」を交渉し、そのなかでチェコスロバキアはこの領土を割譲するよう強いられ、そのうえ戦わずして国境地帯の要塞を全て放棄しなければならなくなった。

その翌年、当然ながらヒトラーは無防備になったチェコスロバキアの残りの地域に軍を向かわせ、征服した。事実上イギリスは、ドイツとの戦争を回避しようとの無駄な努力によってチェコスロバキアの主権を売り渡したことになる。

明らかに、今のスロバキアにおける親ロシア政治には、歴史的背景以上の理由がある(LGBTの権利や移民問題など、ある種の「リベラルな価値観」への反発もあるだろう)。

でも僕は、イギリスが自らの保身のためチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ロシアが大きな犠牲を払ってヒトラーを追い出したと考えるのは理にかなっていると思う。だから「西側は善、東側は悪」という単純な物語は、スロバキア市民にとっては必ずしもそう単純ではないのだ。【10月12日 Newsweek】
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“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”といった認識を是とするかどうかは議論があるところでしょうが、西欧と中東欧では歴史も認識も異なるものがあるということは留意すべきことでしょう。

私のような年代の者にはチェコスロバキアと言えば東京オリンピック(1964年)で活躍した女子体操のチャスラフスカ、彼女も関与した「プラハの春」(1968年)が想起されますが、このソ連への抵抗と弾圧の「プラハの春」にしても、欧米的な理解とスロバキア国内での理解・評価にはズレもあるのかも・・・。

【アメリカ下院新議長 ウクライナへの追加支援に難色か】
ウクライナにとって、今後の支援に関し懸念すべきもうひとつの材料は、死活的に重要な最大の支援国アメリカの動向です。

周知のようにアメリカでは異例の大混乱の末、ようやく下院議長が決まりましたが、マイク・ジョンソン新議長はtトランプ前大統領に近く、これまでロシアの侵攻を受けるウクライナへの追加支援に反対するなどバイデン政権と対立してきた人物です。

“トランプ前大統領の周辺の人たちは、ウクライナ支援を続けることに反対の立場です。11月半ばにつなぎ予算が切れたあと、アメリカがどんな姿勢を示すかは、ウクライナ戦争の結果に大きな影響をもたらします。”【10月27日 ニッポン放送NEWS ONLINE】

****ウクライナとイスラエルの支援策を分割すべき=米下院新議長****
ジョンソン米下院新議長は26日、ウクライナとイスラエルへの支援策は別々に扱うべきだと述べ、バイデン大統領が要請している両国支援を盛り込んだ1060億ドル規模の予算案を支持しないことを示唆した。

議長はFOXニュースのインタビューで、大統領とこの日会談し、ホワイトハウス側に両国の問題を分ける必要があるというのが下院共和党のコンセンサスだと伝えたと語った。

ジョンソン氏は「ウクライナ(支援)での最終目的は何かを知りたい」とし、「ホワイトハウスはそれを示していない」と述べた。

バイデン氏は、予算案にイスラエルと移民への支援を含めることでウクライナへの追加支援に慎重な共和党下院議員を説得したい考えだ。

予算案にはイスラエル向け支援が143億ドル、ウクライナ向けが610億ドル盛り込まれている。【10月27日 ロイター】
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次期大統領選挙でバイデン大統領が敗れてトランプ前大統領が復活する事態になれば、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の命運も尽きる可能性が濃くなりますが、それ以前にジョンソン新下院議長という厄介を抱えることにもなっています。

ゼレンスキー大統領としては、欧州・アメリカの“ウクライナ支援疲れ”的な動きが表面化する前に戦況において大きな成果を得て、支援継続を確固たるものにしたかったところですが・・・思いどおりには行っていないようです。
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ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か

2023-10-24 22:30:34 | 欧州情勢

(ポーランドの野党連合「市民連立」を率いるドナルト・トゥスク氏【10月16日 BBC】 極右勢力、ポピュリズムの台頭に悩むEUにとっては、ポーランドでの親EU政権樹立は(まだ確定ではありませんが)珍しく明るい話題になりそうです)

【西欧的価値観に抗うEUの“異端児”ポーランドとハンガリー】
EUないにあって、ポーランドとハンガリーはいわゆる西欧的価値観とは異なる価値観を前面に出し、言論の自由への弾圧や司法への介入、移民受入れ・性的少数者の権利の問題での消極姿勢など、EUの方針に反対する“異端児”的な存在となっています。

****EU内部での価値をめぐる戦い****
(中略)冒頭で述べたとおり、ロシアへの対応をめぐりEU加盟国間の足並みの乱れがある。自国経済への影響を考慮したことが大きな理由の1つとされるが、EUの結束の乱れは経済的な理由だけに起因するものではない。

EU内部には民主主義や法の支配を中心とした価値観をめぐる相違が以前から根強く存在しており、現在も対立は続いている。

例えば、ハンガリーのオルバーン首相が「民主主義は必ずしもリベラルであるわけではない」と持論を述べた2014年の「非民主主義」演説は、欧州ではよく知られており悪名高い。

実際、政府に対して批判的な言論への統制は年々厳しさを増しており、今年行われた2022年4月のハンガリー議会選挙において、国営放送では野党に許された発言時間はわずかであった。

オルバーン派は、影響力のある独立系メディアの経営権を掌握する動きも同時に進めており、選挙が定期的に行われていると言うことはできても公平な選挙が行われているとは言えない状況である。

また、EU基金の不正利用や利益相反といった組織的な汚職疑惑が多いにもかかわらず、起訴率はほかのEU諸国と比べて低い水準にとどまっており、オルバーン首相とその周辺による公的資金の私物化が進められていると言える。

ポーランドも、政府にとって都合の悪い裁判官に対して定年引き下げや懲罰制度などを通じた介入を試みており、法の支配と司法の独立性が脅かされつつある。

EU内の現実を目にして、期待は失望に
民主主義と法の支配はともにEU憲法条約の第2条においてEUの基本的な価値と記されている。EU加盟の際には「コペンハーゲン基準」をクリアする必要があり、その条件の中には民主主義や法の支配も含まれているため、ポーランドやハンガリーでも導入が進められた。

しかし、加盟後はそうしたテコが使えず、代わりにEU憲法第7条を根拠としたEU基金の停止を新たなテコとして両国の状況改善を求めている。

それにもかかわらず、両国はEUの基本的な価値の書き換えに向けた試みを続けている。

EU加盟当初、ポーランドとハンガリーはEUのメンバーとなることで西欧諸国や中欧のオーストリアと同レベルの豊かさを享受できると期待していた。そうした期待は厳しい市場競争や経済格差というEU内の現実を目の当たりにして、EUへの失望に変わってしまった。

この失望は両国の保守派の間で、冷戦終結以後に推し進めてきた民主主義や法の支配の確立といった取り組みへの反発をもたらした。

さらには、両国はEUからの政治的な抑圧を受けており自律的な意思決定が妨げられているという、ドイツをはじめとした欧州の大国およびEUに対する不満も増大させた。

こうした反発や不満をもとに、ハンガリーのオルバーン政権やポーランドのモラヴィエツキ政権は、「自国ファースト」の政治を進めるとともに、EUの民主主義や法の支配を、人権への配慮などの要素を含んだ「厚い」理念ではなく、手続き的な意味だけに狭めた「薄い」理念に狭めようとしているのである。(後略)
【2022年11月21日 石川雄介氏 東洋経済オンライン「ポーランドとハンガリーの反発に映るEUの揺らぎ」】
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【ポーランド総選挙の結果、親EU野党への政権交代となる見込み】
そうした“異端児”の一画、ポーランドで政権交代が実現しそうです。(実際の政権確定は今後の議会内手続き後になりますが)

****ポーランドで総選挙、与党は過半数確保できず、政権交代の公算大****
ポーランド議会の総選挙(上院100議席、下院460議席)が10月15日に行われた。8年ぶりに政権交代する可能性がある。上下両院の投票率はそれぞれ74.31%と74.4%となり、ポーランドが民主主義へ体制転換した1989年以降、初めて70%を超えた。

国民選挙管理委員会(PKW)が10月17日に発表した最終集計結果によると、政権3期目を狙っていた保守与党「法と正義(PiS)」は下院で194議席を獲得した。

PiSが第1党となったが、欧州理事会(EU首脳会議)の前常任議長であるドナルド・トゥスク元ポーランド首相率いる「市民連立(KO)」が、中道の「第3の道」および「新左派」と合わせて248議席となり、野党勢力が多数派を形成できる見込み。

仮にPiSが18議席を獲得した極右野党「同盟」(注1)と連立を組んだとしても、過半数には届かない。

10月24~25日に、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領が、国民議会入りした各党の代表と個別に協議を行う予定だ。同大統領は選挙期間中にも、勝利した政党が支持する候補者に政権樹立の使命を託すことを示唆していたことから、地元メディアは、同大統領が(現与党)PiSのマテウシュ・モラビエツキ現首相に政権樹立を一任する予定だ、と非公式に報じている。

新首相は、任命の日から14日以内に活動計画を国民議会に提出し、信任投票を得る。現地メディアは、この投票はおそらく否決され、現野党が政権を樹立することになる、と予測している。

PiSは2015年に政権の座に就いて以来、「法の支配」や、移民、LGBTなど性的少数者の権利を巡ってEUと対立してきた。国内の経済専門家は、政権交代すれば、EUとの関係が改善し、「法の支配」などを巡って凍結されているEUの復興基金の拠出が開始されるという見通しを示している。

上院では、PiSは34議席しか獲得できず、野党が2023年2月に結んだ上院議員選挙協力協定、いわゆる「上院協定」(注2)「に圧倒的に敗北した。

国民投票の結果は拘束力を持たず
今回の議会選挙と同日に、国民投票も実施された。その内容は、(1)国家資産の外国企業への売却、(2)定年の年齢引き上げ、(3)ベラルーシ国境の壁の撤去、(4)不法移民の受け入れ、の4点の是非を問うものだった。

国民投票に参加した国民の大多数は、各議題に反対票を投じた。ただし、今回の投票率は40.9%で、ポーランドの憲法で定められている50%に達しなかったことから、拘束力を持たない結果となった。

議会選挙の投票率は過去最高を記録したものの、国民投票の投票率が低かったのは、野党が国民投票を「与党の政治ゲーム」とし、ボイコットを呼びかけた結果とみられる。

(注1)正式名称は「自由と独立同盟」。
(注2)「上院協定」とは、2023年2月に野党により締結された、2023年10月15日の議会選挙において上院議員統一候補を立てる協力協定のこと。(後略)【10月23日 JETRO】
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【対ハンガリー制裁決議に拒否権を発動してきたポーランドの政権交代はハンガリーやEU結束にも影響】
この政権交代は単にポーランドだけでなく、ポーランドと並んでEU方針に抵抗してきたハンガリーにも影響が及びます。そして当然にEUの結束にも。

****EUの未来を左右するポーランド総選挙 ~反EU政権が倒れ、親EU政権が誕生へ~****
(中略)
政権続投を目指した(現与党)PiSは、(野党指導者)トゥスク氏をベルリン(ドイツ政府)やブリュッセル(EU)の操り人形で、ポーランドの独立を脅かし、イスラム諸国からの大量の移民流入を招くと批判、影響力を持つ国有メディアを使って選挙戦を有利に進めようとした。

また、PiSの支持基盤が強固な地方の投票所や投票所に向かうバス路線を増やしたほか、総選挙と合わせて、退職年齢、ベラルーシとの国境管理、EUの移民受け入れ割り当て、国有企業の民営化を巡る4つの国民投票を実施し、与党支持者の投票率を高めようとした。

対する野党勢は、与党が司法やメディアを支配していると批判、与党政権の続投がポーランドのリベラル民主主義を脅かすと主張、今回の選挙が共産党体制崩壊後のポーランドにとって最も重要で、EUの未来を左右すると訴えた。与党のスキャンダル発覚や野党の主張がEU再接近を求める若者の投票率上昇につながり、逆転勝利につながった。(中略)

(野党指導者)トゥスク氏はEUとの関係改善、司法介入などを巡って凍結されている欧州復興基金の拠出開始を目指すとしている。また、現政権が進めた中絶反対を撤回する可能性も示唆している。

経済政策面では、個人所得の非課税枠の倍増、住宅の新規購入や改修時の補助金、3歳未満の子育て中の母親の職場復帰時の補助金、公共部門の20%の賃上げなどを主張しており、現政権以上に拡張的な財政運営を計画している。

なお、近年、ポーランドとともにEUとの対立を繰り返してきたハンガリーは、これまでポーランドの拒否権発動で重要な制裁決議などを免れてきた。ポーランドで親EU政権が誕生することで、ハンガリーとEUとの対立がどう展開するかにも注目が集まる。【10月16日 田中理氏 第一生命経済研究所】
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【ハンガリー・オルバン首相 「EUは旧ソ連のパロディ」】
一方、ハンガリー・オルバン政権には、多くの事案で全員一致を必要とするEUも手を焼いています。
ウクライナ支援に反対するハンガリーをなだめるべく補助金凍結の解除を検討しています。

****EU、対ハンガリー補助金凍結の解除を検討 ウクライナ支援模索****
欧州連合(EU)は、ウクライナのEU加盟協議開始を含むウクライナ支援に関してハンガリーの同意を得るため、ハンガリーへの補助金の凍結を解除することを検討している。複数のEU高官が明らかにした。

ハンガリーは他のEU諸国よりもロシアと緊密な関係を築いており、EU加盟27カ国の全会一致を必要とするウクライナの加盟協議を開始するかどうかの決定に関して反対する可能性が高いとみられている。

また、EUの行政執行機関である欧州委員会は、ウクライナ支援を拡大するため加盟国にEUへの拠出を増やすよう求めている。この決定にも全会一致が必要だ。

EU高官の1人はロイターに対し、ハンガリーの同意を得るために、EUはハンガリーの補助金の状況について検討するだろうと語った。ハンガリーへの補助金は現在、オルバン首相が裁判所の独立性を制限したとして、法の支配への懸念から凍結されている。この高官は「まず凍結された補助金に対する解決なしに、ハンガリーが同意するとは考えられない」と述べた。

もう1人の高官も、ハンガリーへの補助金交付と、加盟国拡大や予算協議など全会一致を必要とするEUの計画との間に関連性があることを認めた。

3人目のEU高官は、約130億ユーロ(136億ドル)が検討されていると述べた。

ただ関係者らは、結論は既定ではなく、国内の景気停滞と財政赤字の拡大に直面しているオルバン氏によるところがかなり大きいことも強調した。【10月4日 ロイター】
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こうしたハンガリー・オルバン政権の対応が、「パートナー」ポーランドの政権交代・親EU路線への変更で、どのように影響を受けるかは今後の話です。

そのハンガリー・オルバン首相のロシア接近にはNATOも懸念を示しています。

****NATO、ハンガリー・ロシア首脳会談に懸念****
北大西洋条約機構加盟国とスウェーデンの在ハンガリー大使は19日、同国の首都ブダペストでハンガリーがロシアとの関係を深めていることへの懸念が高まっていることについて協議した。在ハンガリー米大使館がAFPに明かした。

NATO加盟国であるハンガリーのオルバン・ビクトル首相は同日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国・北京で会談した。両首脳の対面での会談は、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて。オルバン首相は、ウクライナ侵攻後もロシアとの緊密な関係を維持している。

米大使館の報道官によれば、協議の主要議題はこの首脳会談だった。
米国のデービッド・プレスマン駐ハンガリー大使は米国が出資するラジオ・フリー・ヨーロッパに対し、「ハンガリーがこのような形でプーチン氏と関わるのを選択したことは、憂慮すべきだ」と語った。

また「プーチン氏がウクライナに仕掛けた戦争を表現する際に、オルバン首相が使った言葉も同様だ。どちらも議論に値する」と批判。

「ロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛けているさなかに、ハンガリーの首相がプーチン大統領と会談したことをわれわれ全員が懸念している」と強調し、「安全保障上の正当な懸念があれば、同盟国に伝え、真剣に受け止めてもらうことを期待する」と付け加えた。

一方、ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は放送局ATVに対し、「米大使にハンガリーの外交政策を決定する権限はない。それはハンガリー政府の仕事だからだ」と語った。 【10月20日 AFP】
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なお、オルバン首相はEUを旧ソ連の「パロディー」だと批判しています。

****EUはソ連の「パロディー」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は23日、旧ソ連軍の撤退を求めてハンガリー市民が蜂起した「ハンガリー動乱」の日に合わせて行った演説で、欧州連合を旧ソ連の「パロディー」だと批判した。

ハンガリーはEU加盟国だが、オルバン氏は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後も、ウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持している。

西部べスプレームで演説したオルバン氏は「歴史は時に繰り返す。幸いなのは、1度目は悲劇だったものが、2度目はせいぜい茶番に終わることだ」と発言。

その上で、「モスクワ(ソ連)は悲劇だったが、ブリュッセルはまずい現代版パロディーだ。モスクワが口笛を吹けば、われわれは踊らないわけにいかなかった。ブリュッセルも口笛を吹くが、われわれは好きなように踊ればいいし、躍りたくなければ踊らなくても済む」と述べた。

ただしオルバン氏は、EUは「まだ絶望的ではない」と補足。「モスクワは修復不能だったが、ブリュッセルとEUは修復が可能だ。欧州にはまだ選挙がある」と述べ、来年6月に予定されている欧州議会選挙に言及した。

オルバン氏は司法や報道の独立性、移民問題、性的少数者(LGBTなど)の権利をはじめ、さまざまな課題をめぐってEUと頻繁に対立しており、以前から欧州議会でポピュリスト政党が躍進し、EUに方針転換を迫ることを望むと語っている。 【10月24日 AFP】
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面白い批判ではありますが・・・旧ソ連とEUの決定的違いは、旧ソ連から勝手に抜けることはできませんが(反抗すればハンガリー動乱のようなことにもなります)、EUはイギリスのように抜けることができます。

「そんなにEUが嫌いなら、EUから出ていけばいいのに・・・」と思うのですが、出ていきません。
これまでハンガリーなど東欧諸国はEUから巨額の補助金を受け取っています。そのあたりの話でしょうか。

なお、多くの権威主義政治家がそうであるように、オルバン首相も、かつては“民主化の旗手”でした。

“1989年6月、ハンガリー動乱で失脚、処刑されたナジ・イムレの再埋葬式で、「共産主義と民主主義は併存し得ない」と社会主義政権打倒を訴える演説を行い、民主化の旗手として名を高めた。”【ウィキペディア】
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コソボ  セルビア系住民の武装集団が警察官を襲撃 繰り返す衝突

2023-09-27 22:33:54 | 欧州情勢

(【9月26日 FNNプライムオンライン】 記事に画像説明がないので定かではありませんが、今回のセルビア系武装集団による警官襲撃事件で押収された武器でしょうか。 もし、そうだとしたら警官襲撃といったレベルではないですね・・・画像左端は指向性対人地雷)

【コソボ北部セルビア人居住地域で繰り返される衝突】
欧州にあって対立・衝突を繰り返しているのが、一昨日ブログでも取り上げた南カフカス地方のアルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフをめぐる争い、もうひとつがバルカン半島のセルビアとコソボの問題。

後者では、コソボ領内北部にセルビア人居住地域があって、コソボ政府との衝突を繰り返しています。
ユーゴスラビア解体、コソボのセルビアからの分離独立をめぐる戦争に起因する対立です。

セルビアの自治州だったコソボでは90年代、多数派のアルバニア系住民がセルビアによる自治権の縮小に反発。独立を目指すコソボ側の武装組織と、セルビア側の治安部隊との紛争が激化しました。

ユーゴスラビア解体の過程で、アルバニア系住民を主体とするコソボは2008年にセルビアからの分離独立を宣言。
激しい戦闘となりましたが、NATOがコソボを軍事支援したこともあって、コソボは実質的に独立。しかし、(欧米から“悪者”扱いされ、NATOによって激しい空爆までされて敗戦に追い込まれた)セルビアはこれを承認していません。

世界約110カ国がコソボの独立を認めているものの、セルビアのほか、ロシアや中国、EU加盟国ではスペイン、ギリシャ、ルーマニア、スロバキア、キプロスが独立を認めておらず、コソボは国連にも加盟していません。
(国内に分離独立運動を抱えている国は、コソボの独立を容認できないという問題があります)

仇敵の関係にあるセルビアとコソボですが、ともにEU加盟を目指しており、加盟実現のためには関係正常化が条件となるということで、国家間の対立については一応は矛を収めた形にはなっています。

****関係正常化へEU計画履行に合意 対立続くセルビアとコソボ****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は18日、対立が続くセルビアとコソボの関係正常化に向けたEUの計画をどのように履行するかについて、両国が暫定合意したと発表した。AP通信が伝えた。

北マケドニア(旧マケドニア)のオフリドで、セルビアのブチッチ大統領、コソボのクルティ首相と協議したボレル氏が、記者会見して明らかにした。セルビアの自治州だったコソボは、紛争を経て2008年に独立を宣言。セルビアは認めておらず、両国の対立は続いている。
 
ロイター通信によると、ブチッチ氏は「いくつかの点で合意したが、全てではない。最終合意ではない」と述べた。【3月19日 共同】
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しかし、実際には冒頭にも書いたように、コソボ(国民の90%を占めるアルバニア系に対し5%がセルビア系住民)領内北部のセルビア人居住地域で衝突が絶えず、このセルビア人の抵抗をセルビアが支援(とコソボ側が主張)、これにコソボが反発するという形で、両国の関係も改善しません。

2022年8月には、自動車のナンバープレートの扱いから騒動に。
“コソボは今年(2022年)、北部のセルビア系住民に対し、コソボがセルビアの一部だった1999年以前の古いナンバープレートを付け替えるよう要求。これに反発した住民が暴力的な行動を取るなどしていた。また、判事や検察官、警官などの公職に就く人が抗議のため今月一斉に辞職する事態に発展していた。”【2022年11月24日 ロイター】

この問題はEU仲介で“セルビアはコソボの都市名を冠したナンバープレートの発行をやめ、コソボは車両の再登録に関するさらなる措置を停止する。”【同上】という形で一応合意。

しかし、合意直後の2022年12月、セルビア系の元警官が他の警官に暴行したとして逮捕されたことがセルビア系住民の抗議行動を惹起。

釈放を求めるセルビア系住民が警察と銃撃戦を繰り広げ、逮捕された元警官の首都移送を防ぐために道路に10カ所以上のバリケードを築く事態に。

緊張緩和を求めるアメリカとEUの仲介で、“元警官が検察当局の要請により拘束を解かれ、自宅軟禁状態に置かれた”【2022年12月29日 ロイター】とのことで22年年末に道路封鎖は解除されました。

このあたりの経緯は2022年12月29日ブログ“繰り返す対立  コソボとセルビア アルメニアとアゼルバイジャン”で取り上げました。

しかし、上記ブログ記事で“今回の緊張状態はいったん収まったとしても、今後何らかの問題で再び緊張が高まる事態になりうることは容易に想像できます。”と書いたように、基本的な対立が緩和された訳ではなく、火種が残ったままですから何度でも同じような衝突が起きます。

今年5月には、北部のセルビア系が多数派の地域でセルビア系住民が市長選をボイコットし、アルバニア系の市長が誕生したことから、緊迫した状況になりました。

****コソボで治安部隊とデモ隊が衝突 アルバニア系市長の誕生で民族対立が激化****
旧ユーゴスラビアのコソボで、少数派のセルビア系住民のデモ隊と治安維持部隊が激しく衝突し、少なくとも25人が負傷した。

群衆が治安部隊に激しく殴りかかり、辺りでは催涙弾や閃光弾が飛び交っている。

ロイター通信によるとコソボ北部の街で29日、セルビア系住民と治安維持部隊が衝突し、治安部隊側だけで少なくとも25人が負傷、うち3人が重傷した。

コソボは2008年に独立を宣言したものの、国民の90%を占めるアルバニア系に対し5%のセルビア系住民が、独立を認めず対立が続いている。

こうしたなか、4月、北部の市長選挙で、アルバニア系市長が誕生したことをきっかけに両民族の対立が激化し、NATO=北大西洋条約機構の治安維持部隊が鎮圧に乗り出す事態となっている。【5月30日 FNNプライムオンライン】
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****NATO、コソボに700人追加派遣=衝突で隊員30人負傷****
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は30日、ノルウェーの首都オスロで記者会見し、コソボ平和履行部隊(KFOR)に新たに700人を派遣すると明らかにした。コソボ北部でセルビア系住民のデモ隊と警察が衝突するなど緊張が高まり、KFORの隊員30人が負傷していた。【5月31日 時事】
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“フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は今月1日、欧州政治共同体(EPC)の首脳会合に参加するため訪問したモルドバで、コソボとセルビアの両大統領との4者会談を行い、セルビア系住民も参加して選挙をやり直すよう求めた。”【6月4日 毎日】

6月22日には、EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表がEU本部のあるブリュッセルで、コソボのクルティ首相、セルビアのブチッチ大統領とそれぞれ数時間にわたる緊急協議(両氏が対面協議を拒んだため、ボレル氏が別々に会談)を行いました。

その後どうなったのか・・・情報を目にしていませんのでよくわかりませんが、少なくとも暴力的衝突の報道もないので、“それなりに”収まったのでしょうか。

【セルビア系住民の武装集団が警察官を襲撃】
そして今度は・・・

****コソボ北部でセルビア武装集団が警官殺害、反首相派の犯行か****
コソボとセルビア当局によると、コソボ北部で24日、セルビア系住民の武装集団が警察官1人を狙撃して殺害し、逃走した。武装集団側も3人が死亡した。

コソボ北部ではセルビア系住民が自治組織設立を要求し、コソボのクルティ首相がこれを拒否している。セルビアのブチッチ大統領は今回の犯行をクルティ氏に対する反乱だと評しつつ、コソボのセルビア系住民には冷静な対応を呼びかけた。

襲撃があったのはセルビア人が多数派を占める地域。バニスカという村の入り口にかかる橋上に十数人とみられるセルビア人武装集団がトラック数台で乗り付け、近づいてきた警察官を銃撃。1人を殺害した。その後、近くのセルビア正教会修道院に夜間まで立てこもった後、姿を消した。

セルビアとコソボは対立を続けており、欧州連合(EU)は双方との協議を行っていたが、前週に行き詰まった。

コソボ側は自治組織を認めれば国が民族ごとに分割されるとみる。セルビア側は公式にはコソボを領土の一部と見なすものの、争いを激化させるとの見方を否定。ただ、少数派セルビア系の人権が抑圧されているとコソボ側を批判している。【9月25日 ロイター】
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“襲撃には少なくとも30人が関与していて、手りゅう弾や対戦車兵器などが使われたという。警察が制圧に乗り出し、襲撃グループのメンバー6人を拘束したほか、3人が死亡した。”【9月26日 FNNプライムオンライン】


コソボのクルティ首相は襲撃者について「コソボに戦いに来た組織されたプロの一団」だと指摘しセルビアが支援したと主張しています。【9月25日 共同より】

一方、セルビアのブチッチ大統領は24日の会見で、「コソボ北部で起きることの全ての責任はクルティ(コソボ首相)にある。襲撃犯はコソボのセルビア人である。」として、セルビアの責任を否定しています。【9月26日 FNNプライムオンラインより】

部外者の私などは正直なところ、「どうしてそんなに憎しみあうのか・・・いいかげん別の道、和解の道を探ったらいいのに・・・」とも思いますが、おそらく今後も同じような衝突を繰り返すのでしょう。
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