孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリスの「ウイズコロナ」へ向けた取り組みの現況  フランスでは「ワクチン接種証明書」への抗議行動

2021-08-25 23:02:23 | 疾病・保健衛生
(英中部リバプールで、マスクもソーシャルディスタンスもなしで音楽ライブに熱狂する観客。イベント開催の在り方を検証する政府の実験の一環【8月23日 ニッポン放送】)

【「ウィズコロナ」のもとでの“普通の生活”に向けて踏み出したイギリス】
イギリス(人口は日本の約半分)が1日5万人ほど(日本で言えば10万人ほど)の新型コロナ新規感染者がありながら、ワクチン接種の進展によって死者数などは一定に抑制されているとして、今後は国家が個人の生活に介入するという“異常事態”から脱し、リスクは個人の責任で判断することを前提に、大半の行動規制を撤廃して「ウィズコロナ」のもとでの“普通の生活”に向けて踏み出したことはこれまでも取り上げてきました。


****イギリス 規制撤廃で“ウィズコロナ”模索 死者数割合 日本の5分の1****
感染対策が叫ばれる日本とは対照的に、イギリス政府は、新型コロナウイルス対策の規制を全面的に撤廃した。

感染者数が増える中でのジョンソン首相の決断。
2020年から続いたロックダウンで、小売店や飲食店からは悲鳴が上がっており、大規模緩和の実行は、ジョンソン首相にとって最重要課題の1つだった。

イギリスの1日あたりの感染者数はおよそ4万5,000人、日本の15倍ほどと桁違いの中、大規模な緩和を可能にしたのが、順調に進むワクチン計画。

すでに成人の70%近くが2回目の接種を受けているイギリスでは、感染者数に対する死者数の割合は0.1%未満と、日本の5分の1程度に抑えられている。

こうしたワクチン効果を武器に、「コロナとともに生きていく」という新しい時代を作ることがジョンソン首相の狙い。

ただ、経済活動の再開を歓迎するムードがある一方で、世論調査では66%の人が「何らかの規制は残すべき」と答えている。ウィズコロナの新しい生活様式の模索は始まったばかりと言える。【7月20日 FNNプライムオンライン】
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行動規制撤廃から1か月後の段階では「急拡大は見られない」との評価で、社会・経済の正常化が続けられています。

****感染高止まりの英、コロナ対策さらに緩和…社会・経済の正常化急ぐがリスクも****
ロンドンなど英国のイングランド全域で、新型コロナウイルス感染対策の規制がほぼ撤廃されてから19日で1か月となる。

インド由来の変異ウイルス「デルタ株」の影響で感染は高止まりしているものの、英政府はさらに規制を緩和し、社会・経済の正常化を急いでいる。

イングランドでマスク着用義務などの規制が取り払われる直前の7月中旬、英国全体の1日の新規感染者数は5万人を超えた。8月は3万人前後で推移する。免疫学が専門の英キングス・カレッジ・ロンドンのティム・スペクター教授はデルタ株感染者が増えている現状に警鐘を鳴らしつつ「急拡大は見られない」と言う。イングランドを見習い、ウェールズやスコットランドも大半の規制を撤廃した。

感染が予想されたほど急拡大していないのは、人同士がじかに交わる交流が減ったためだ。ロンドン大学の衛生・熱帯医学大学院によるイングランドでの調査では、1人が接触する1日当たりの平均的な人数は、7月中旬は「3・7人」だったのに対し、8月上旬は「3・1人」に減った。感染対策が個人に委ねられる形となって、外出を控えるなどの対策に自発的に取り組む人が増えたとみられる。

学校が夏休みに入って子供同士の接触が減ったほか、7月中旬にサッカー欧州選手権が閉幕し、街中で若者らの大騒ぎが減ったことも影響しているようだ。

英国ではワクチン接種を2回終えた成人が77%に上る。専門家は「集団免疫の獲得に近づいている」と述べる。

英政府は、残る規制も次々と撤廃している。16日からは、2回接種を完了していれば、濃厚接触者に認定されても10日間の自主隔離が免除されている。海外渡航から帰ってきた時の隔離要件も大幅に緩和された。

ただ、デルタ株は侮れない。ワクチン接種完了者でも感染する例が少なくないからだ。秋には職場や学校が再開され、人の交流が活発化する。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は、9、10月に「感染の巨大な波が来る可能性がある」と注意を呼びかける。【8月18日 読売】
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上記記事から1週間経過して、感染者は増加傾向が続いています。死者数もさすがにひと頃よりは増えています。

8月22日の新規感染者は約3万2千人、死者は49人。
再びこのまま増加するのか・・・それでも死者数の抑制が続くのか・・・。

【大規模イベント開催で実証実験】
リスクばかりに注目して、すぐに責任追及に走りがちな日本の世論・風潮からは考えにくいところもありますが、イギリス政府は敢えて人流が集中する大規模イベントを許可することで、その影響を客観的に観察・実証しようと試みています。

****イギリスの「新型コロナ実証実験」が示すこと ~サッカーヨーロッパ選手権で6400人の感染が判明****
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月23日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が出演。イギリスで行われたサッカーの試合などでの新型コロナウイルスの実証実験について解説した。

イギリス、新型コロナ実証実験
イギリス政府が6月から7月にかけて行った新型コロナウイルスの実証実験で、サッカーのヨーロッパ選手権8試合に入場した観客合計35万人のうち、およそ6400人の感染が明らかになった。 

飯田)イギリス政府が8月20日に発表した報告書で明らかになっています。大規模イベントの再開に向けて実態を調べるという名目でありました。こういうことができてしまうのですね。 

細谷)最初に聞いたときは驚きました。ある意味、人体実験ですよね。実際にどのくらい感染が拡大するかということを、わざと大規模なイベントで確認する。この結果を受けて、これから対策を練るということだと思うのですが、イギリスらしいという気がします。 

飯田)テニスのウィンブルドン選手権でもやっていたということです。 

細谷)イギリスはコロナ禍が始まったときに、ジョンソン首相が、何も対策をせずに感染拡大しても、約7割が免疫を獲得すれば止まるだろうという「集団免疫戦略」をやろうとしたのですが、医療崩壊するということで、急遽、転換しました。イギリスは常に斬新な、さまざまな方法を用いて、失敗しながら修正しているという感じがします。(中略)

飯田)イギリスでは2回ワクチン接種をした方が大半にのぼるということもあって、この実験ができるということもあったのでしょうか? 

細谷)イギリスは現実主義的ですから、少なくとも、いまは感染者数をほとんど気にせずに、あくまで重症化率、致死率などを見て対策を練っていると思います。確実に言えることは、2回接種した場合は、ほとんど重症化や死者が出ていないということです。それによって、次にどういう対策を練るかと。

日本はその一歩手前、とにかく感染者を拡大させないというところで止まっていますので、なかなか次のもう一歩が進めない状況だという気がします。 

飯田)今回の実験でも、準決勝と決勝で感染した人がほとんどだったということで、密な状況、大声で叫ぶ人も多かったという分析もされているようです。逆に言うと、望むべき行動も炙り出されて来るわけですね。 

細谷)そうですね。やはりマスクをつけて大声を出さない、密にならないという行動変容と、人流抑制です。これに効果がないということではないと、もうわかっているわけです。 

飯田)あとはデルタ株のような感染力の強いものが入って来ると、また変わって来るということになるのでしょうか? 

細谷)さらに変異が起きるだろうと言われていますから、これから苦しい対応が続いて行くのだと思います。

 飯田)結局、クリアカットな正解というより、常に経済とのバランスを取りながら微修正という形になって来るのですか? 

細谷)そうですね。特にイギリスの場合、ちょうどEU離脱とも重なっていまして、数百年に1度の経済状況の悪化が指摘されています。そういうこともあって、日本よりもはるかに経済への配慮をせざるを得ない状況にある。経済へ配慮したときに、感染を完全に止めるのではなく、ある程度、それを許容しながら両立させる方法を模索していると思います。【8月23日 ニッポン放送】
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こうした“実証実験”によって、イギリス政府は大規模イベントは安全と評価しています。

****大規模イベントは安全と英政府=感染リスク、会場外と変わらず****
英政府は20日、スポーツなど大規模イベントでの新型コロナウイルス感染リスクの調査結果を公表した。延べ35万人以上が訪れた7月の自動車F1シリーズ英国グランプリ(GP)をはじめ、調査対象の37イベントについて、開催中の会場外の地域感染率とおおむね同水準か、それを下回った。ダウデン文化・スポーツ相は「大規模なスポーツ・文化イベントを安全に再実施できることが示された」と述べた。
 
ただ、ダウデン氏は「ファンの人々にはワクチンの接種を強く求める。それがイベントを再び全面再開する最も確実な方法だ」と指摘し、注意を怠らないよう訴えた。
 
英政府は過去数カ月間にわたり、GPのほか、延べ約30万人が観戦したテニスのウィンブルドン選手権(6〜7月)、サッカーやゴルフの国際試合、クリケット、ビジネスイベントといった大規模な催しについて感染状況などを調べた。【8月21日 時事】 
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「安全」と言うのは「感染者が出ない」ということではありません。

****イギリスの音楽フェスで4700人感染の可能性****
新型コロナ規制がほぼ撤廃されたイギリスで、今月中旬に行われた音楽フェスティバルに関連して4700人が感染した可能性があることが明らかになりました。

地元メディアによりますと、イギリスで新型コロナ陽性が確認された人のうちおよそ4700人が、今月11日から15日にかけて南西部コーンウォール地方で行われた音楽フェスティバル「ブロードマスターズ・フェスティバル」に参加していたということです。うち4分の3は16歳から21歳で、また4000人近くがコーンウォール地方の外からきた観客でした。

開催場所を含むイングランドでは先月19日に新型コロナ関連の規制がほぼ撤廃されていましたが、フェスティバル主催者は入場者に対して二度のワクチン接種を完了していることの証明、あるいは簡易検査で陰性となった証明を求めていました。

主催者と協議しながら感染対策を立案してきた地元保健当局は、国のガイドラインを超える対策をとってきたとしつつ、感染例が出るのは「予想されていたこと」と述べています。

ブロードマスターズ・フェスティバルは、サーフィンの名所、ニューキーで行われ、ゴリラズやフォールズなど人気バンドが出演、5万人の観客を集めました。【8月24日 TBS NEWS】
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ワクチン接種完了、あるいは陰性証明を前提にしても5万人ほどが密集すれば4700人の感染者が出る・・・そのあたりを「予想されていたこと」とする冷静さが日本とは全く異なります。

別のイベントでも。

****英で野外フェス参加者1000人が後に陽性 参加条件はワクチン接種か陰性証明****
イギリスで7月に開催された野外フェスに参加した人のうち、1000人以上が後に新型コロナウイルス陽性となったことが、政府統計で明らかになった。
政府のCOVID-19対策の実験イベントの一つとして開催された「ラティチュード・フェスティバル」には、7月21〜24日の開催期間中、1日当たり約3万7000人が訪れた。

参加者は全員、ワクチン接種を完了しているか、検査での陰性証明が必要だった。しかし、政府の最新発表によると、フェス参加者のうち432人がフェスの時点でおそらく、他人にウイルスをうつし得る状態だったとみられている。(中略)

(開催地サフォークの公衆衛生局の)キーブル氏は、「サフォークがロックダウンを解除し、大勢が混雑するイベントや娯楽施設へ行くようになった中、他人を気づかってマスクを着用したり、適切に距離を取る施策を続けることが大切だ」と話した。

また、大半の人がワクチン接種を完了している状態でも、「感染後のその人が非常に具合が悪くならないという保証はない」と述べた。

オリヴァー・ダウデン文化相は、政府の実験イベントの結果、「大規模なスポーツや文化イベントを安全に再開できることが分かった」と述べた。「しかし、混雑した場所に入る際には、引き続き慎重になってもらうことが重要だ」【8月25日 BBC】
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「感染後のその人が非常に具合が悪くならないという保証はない」・・・問題視されているのは感染者の数ではなく、重症化事例のようです。

“日本とは違う”という点では、日本では感染者2万数千人レベルで「医療崩壊」と大騒ぎしていますが、国営医療サービスNHSを基盤とするイギリスでは“「一日の感染者5万人」でも英国が「医療崩壊の心配ゼロ」の理由”【8月22日 JBpress】という医療体制の違いもあります。そのあたりは長くなるので、また別機会に。

【日本でもワクチン接種前提の有観客の試みも】
オリンピックも、昨日から始まったパラリンピックも原則無観客となっていますが、日本でもワクチン接種などを条件に観客を入れる試みも始まっています。

****ワクチン2度接種かPCR陰性でソフトバンク戦チケット発売 無観客予定4試合****
ソフトバンクは25日、観戦日までに新型コロナウイルスワクチンを2度接種した人や、観戦日1週間以内のPCR検査の結果が陰性の人に限定した観戦チケットを発売すると発表した。球団によると、ワクチン接種など限定のプロスポーツ興行は日本初という。
 
対象試合は9月2日の楽天戦、同3~5日のオリックス戦の計4試合で、会場はいずれもペイペイドーム。いずれの試合も動員上限は5000人。またチケット購入者のPCR検査については、希望者には無料で球団が提供するとした。
 
これまでと同様にマスク着用などの観戦スタイルついての変更はない。
 
球団では福岡県などに9月12日まで発令されている緊急事態宣言中に、ペイペイドームで開催する試合などについては、原則無観客で開催するとしていた。(後略)【8月25日 西日本スポーツ】
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「ウィズコロナ」社会では、今後はこうした対応が増加するものと思われます。

【フランス ワクチン接種証明書前提の生活への抗議行動】
フランスではワクチン接種証明書提示が飲食店や病院などの利用にも拡大され、実質的なワクチン接種の強制だとして激しい反対運動も起きています。

****仏、反ワクチンデモに17万人 「打たない自由認めて」****
新型コロナウイルスのワクチン接種が進むよう、外食や通院の際に接種証明か陰性証明の提示を義務づけているフランスで、「自由の侵害だ」として反発するデモが収まらない。

マクロン大統領は未接種者を「エゴイストだ」と断じて義務化を正当化しているが、ワクチンへの拒否感は政府不信も一因なだけに、両者の溝は深まる一方だ。
 
フランスでは21日、全国200カ所以上でデモが行われ、約17万6千人(内務省推計)が参加した。前週に比べて約4万人減ったものの、デモはバカンスシーズンにもかかわらず6週続いている。
 
パリで参加したグラフィックデザイナーのエルベ・ゴチエさん(53)は「金持ちや大企業を優先する政権に不信を持っている。ワクチンはまだ実験段階なのに強制するとは無責任だ。お年寄りでない限り、コロナはインフルエンザのようなもの」と憤る。

劇場照明係のエマニュエル・エダンさん(23)は「私は健康で持病もない。コロナより交通事故で死亡する確率の方が高い。政府はワクチンがなぜ必要か、きちんと説得もせず強制している。こんなやり方はおかしい」と訴える。デモ参加者には接種済みの市民も多く、「打たない自由は認めるべきだ」と訴えている。
 
フランスでは9月15日から医療や介護施設で働く全職員に接種が義務づけられるほか、今月9日からは映画館や美術館に加え、飲食店や病院の利用(緊急時をのぞく)でも、接種や陰性結果を記録した「衛生パス」の提示が義務づけられた。

23日に公表された世論調査では、34%がデモを支持し、54%が不支持だった。若い世代ほど、「衛生パス」への反発が強い傾向にある。
 
フランスの1日の感染者数は1週間平均で約2万人。仏政府の分析では、5月31日〜7月11日に国内で感染して死亡した926人のうち、78%にあたる720人が未接種だった。
 
来年4月に大統領選を控えるマクロン氏にとっては、感染の制御は再選戦略の一環でもある。10月からはPCR検査を有料に切り替え、さらに接種圧力をかける方針だ。【8月25日 朝日】
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“お年寄りでない限り、コロナはインフルエンザのようなもの”かどうか。インフルエンザの致死率は約0.1%程度と言われています。

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その根底には、ワクチン接種率が上がるにつれて致死率がインフルエンザ並みに落ちているという分析の存在がある。(中略)

だがその一方で、新型コロナはインフルエンザの比較対象ではないという反論もある。新型コロナはインフルエンザとは異なり、完治後もさまざまな後遺症がある上、インフルエンザは感染者1人が1.4人を感染させるのに比べ、デルタ変異株は5人を感染させるほど感染力が強い。

「ウィズ・コロナ」時代に入った英国で感染者が再び増え、致死率が0.15%から0.35%に上昇していることも不安要素だ。【8月23日 朝鮮日報】
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数字はワクチン接種者と非接種者で分けて見る必要もあるでしょう。
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台湾  国産ワクチンの使用開始 緊急使用認可に批判も 日本の開発状況 早ければ年内??

2021-08-23 22:09:43 | 疾病・保健衛生
(メディジェン社の国産ワクチンを受ける蔡英文総統【8月23日 BBC】)

【台湾 緊急使用認可で国産ワクチンの使用開始】
台湾は従来新型コロナ感染をほぼ抑えてコロナ対策の「優等生」とみなされていましたが、今年5月中旬から市中感染が拡大、5月末には1日に新規感染者が500人を超える状況に急激に悪化しました。

この時期、確保・接種が遅れていたワクチンに関し、中国からの中国製ワクチン供与の“揺さぶり”もあり、これに対抗する形で、日本からの緊急供与も行われことも記憶に新しいところです。

その後、外食全面禁止などの厳しい規制により抑え込みに成功、6,7月は減少局面に入り、8月20日は9人(!)と、現在は再び封じ込んだ状態になっています。
(ロイター COVID-19 TRACKER )
ただ、デルタ株の感染が拡大し、ワクチン接種が遅れていることから、全土で4段階のうち厳しい方から3番目の警戒レベルを当面継続する方針です。

こうした状況で、不安材料はやはりワクチン確保でしたが、蔡英文政権は日本などの支援も受けつつ、自国開発を目指してきました。

その自国開発ワクチンの使用が、蔡英文総統が最初に接種する形で始まっています。
ただ、野党からは急ぎ過ぎの開発に批判も出ています。

****台湾、自主開発ワクチンの接種開始 批判の声も****
台湾で23日、自主開発した新型コロナウイルスワクチンの接種が始まった。このワクチンをめぐっては、認可手続きが簡略化されたとして批判も集まっている。

保健当局は7月、臨床試験がまだ終わっていないにもかかわらず、医薬品メーカー「メディジェン(高端疫苗生物製剤)」が開発したワクチンの緊急使用を承認した。

台湾では供給の遅れや市民の忌避感情から、ワクチン接種事業が滞っている。
蔡英文総統はこの日、メディジェンのワクチンを接種し、市民にも接種を呼びかけた。

台湾では米モデルナ製と英アストラゼネカ製のワクチンが承認されているが、蔡総統はメディジェン製が完成するまで接種を待っていた。

蔡総統の接種の様子はフェイスブックで配信された。不安かと聞かれた総統は「いいえ」と答えた。
同ワクチンは28日の間隔を空けて2回の接種が必要。これまでに70万人が接種を予約している。

「皆さんに保証できる」
メディジェンのワクチンは緊急使用が許可された際、臨床試験の第3相が終了していなかった。
これについてメディジェンは、大きな安全性への懸念はなく、生成される抗体も英アストラゼネカ・オックスフォード製ワクチンと「遜色ない」ものだと説明していた。

今年後半にはパラグアイでの治験の最終段階が完了する予定だ。

メディジェン製ワクチンは、米ノヴァヴァックス製と同じ組み換えたんぱく質ワクチン。

ノヴァヴァックスのワクチンは、免疫系を刺激するため、ウイルスのスパイクたんぱく質の一部を再生成するという、より伝統的な手法で作られている。

陳燦堅最高経営責任者(CEO)はロイター通信の取材で、「我々は多くの実験を行い、誰もがこのワクチンの安全性を確認している。副反応は少なく、熱もほとんど出ない。皆さんに保証できると思う」と話した。

しかし、このワクチンには批判も集まっており、接種事業の先行きは不透明だ。最大野党・中国国民党は、このワクチンは安全ではなく、流通が急がれたと非難している。

同党の著名議員2人は、試験結果不足を理由に、緊急使用の認可を取り消すよう裁判所に要請。うち1人は、台湾市民を「研究所のマウス」のように扱う必要はないと訴えた。

接種完了は5%
台湾では現在、1日10人程度の新規感染が報告されている。COVID-19抑制に成功した国のひとつとされている。
しかし5月に起きたアウトブレイク以降、感染力の高いデルタ株の侵入が懸念されている。

人口2350万人に対し、政府は500万回分のワクチンを発注している一方、ワクチン接種を強制することはないとしている。

これまでにワクチンを1回接種した市民は約40%で、接種が完了した市民は5%に満たない。【8月23日 BBC】
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「組み換えたんぱく質ワクチン」は、
“ウイルスを構成する成分のうち、感染にかかわる部分のみを培養細胞などを使って増やしたのち、精製したものを接種する方法です。生ワクチンや不活化ワクチンに比べ、ウイルスそのものを使用しないので、副反応が起こりにくいとされています。

一方、精製されたワクチン成分の免疫を起こす力が弱いことが多く、ヒトの免疫システムがうまく働かない、変異したウイルスには効果を示さなくなるなどの問題点もあります。百日咳ワクチンや破傷風トキソイドで実用化されています。”【福山市医師会HP】

第3相臨床試験(フェイズⅢ)とは、少人数で安全性を確かめる第1相、比較的少人数で効果・副作用などを確かめる第2相に対し、数百から数万という大きな規模の患者さんを対象に、実際の治療での使用に近い形で治験薬を投与して、第Ⅱ相試験よりも詳細な情報を収集し、治験薬の有効性・安全性を調査するものです。

この第3相試験の段階で予期せぬ副作用などが見つかって、開発が断念されるケースも珍しくありません。
台湾のワクチンは、この第3相をパラグアイで行うようですが、結果はまだ出ていません。

パラグアイは南米で唯一、台湾と外交関係を結んでいる国ですが、ワクチン供給を巡って中国との間でトラブルも報じられていました。

****ワクチン供給「中国が破棄」 台湾との外交理由か―パラグアイ****
南米パラグアイのボルバ保健相は、アラブ首長国連邦にある中国医薬集団(シノファーム)子会社が、パラグアイへの100万回分の新型コロナウイルスワクチン供給契約を一方的に破棄したと明らかにした。1日付の地元紙ウルティマオラなどが伝えた。パラグアイは南米で唯一、台湾と外交関係を結んでいる。

同紙によると、ボルバ氏は7月31日の地元テレビのインタビューで「不可解な理由で、われわれは(ワクチン供給)契約の一方的取り消しを通告された」と説明。

その上で「(契約破棄はシノファーム側の)生産能力とは全く無関係だ」と述べ、国交問題が絡んでいることを強く示唆した。契約は4月に結ばれ、5月下旬に25万回分が到着。破棄分の代金は返却されたという。
 
保健省は、シノファーム製ワクチンの半分は2回目のために取り分けてあるため、接種計画に大きな影響はないとしている。
 
パラグアイでは3月、中国関係者を名乗る業者がワクチン提供の条件として台湾との断交を要求したと報じられた。その後、台湾はパラグアイのワクチン獲得を後押ししている。
 
南米ではブラジルでも、右派のボルソナロ大統領が5月に反中国的な発言をした直後、中国がワクチン原料の出荷を突然停止。現地での生産・供給が一時混乱した。【8月3日 時事】
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【日本の国産ワクチン・治療薬開発状況】
台湾製ワクチンの有効性・安全性に関しては上記のような一般的情報しか知りませんが、こういう話を聞くと、「日本はどうなってるの?」という疑問も。

****ヤマ場迎えた新型コロナウイルス「国産ワクチン」 第一三共など最終治験へ=前田雄樹****
新型コロナウイルスに対する「国産ワクチン」の開発がヤマ場に差し掛かっている。

第一三共や塩野義製薬が最終段階の治験に入る準備を進めているほか、武田薬品工業は米ノババックスが開発したワクチンを国内で製造し、年内の供給開始を目指している。

日本は現在、国内で使用するワクチンのほとんどを輸入に頼っているが、今後、国内で製造されたワクチンが選択肢として順次加わってくる見込みだ。  

現在、日本で主に公的接種に使われているワクチンは、米国のファイザーとモデルナが開発した二つのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。国内メーカーが開発した「純国産ワクチン」はまだない。

英アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、原液の製造をJCRファーマが、バイアル充填(じゅうてん)などの製剤化を第一三共と明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクスが、それぞれ国内で行っており、8月から40歳以上を対象に公的接種での使用が可能になった。

コロナ禍が長期化し、変異株の脅威が高まる中、国産ワクチンを望む声は根強い。 

◇武田は年内供給へ  
国内では現在、アンジェス、塩野義製薬、第一三共、KMバイオロジクス、武田薬品工業──が国産ワクチンの治験を進めている。このうち、現段階で実用化に最も近い位置にいるのが武田だ。

同社が開発しているのは米ノババックスが創製した「組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれるタイプで、遺伝子組み換え技術を使って作ったコロナウイルスのスパイクたんぱく質をワクチンとして接種する。武田はノババックスから製造技術の移転を受け、山口県光市の自社工場で年間2億5000万回分の生産を計画している。  

ノババックスが米国などで行った最終治験では、変異株を含む新型コロナウイルスに対して90%を超える有効性が確認された。日本では2月から武田が成人200人を対象に初期の治験を行っており、海外治験のデータとあわせて承認申請を行う方針。通常の冷蔵庫の温度で保存でき、扱いやすさの点からも期待が大きい。
 
武田に続くのが、塩野義、第一三共、KMバイオロジクスの3社だ。塩野義は昨年12月から、第一三共とKMバイオロジクスは今年3月から、国内で初期の治験を行っている。

塩野義が開発しているのは、2019年に買収したUMNファーマが持つ昆虫細胞を使ってたんぱく質を作る技術を活用した組み換えたんぱくワクチン。製造は協力会社のUNIGENに委託し、年内に年間6000万人分の生産体制が整うとの見通しを明らかにしている。

 第一三共はmRNAワクチンを開発しており、年内にも最終治験に入る方針だ。

毒性をなくしたウイルスを使う「不活化ワクチン」を開発中のKMバイオロジクスも、年内の最終治験開始を目指すとともに、並行して半年で3500万回分を生産できる体制を整備。

創薬ベンチャーのアンジェスや、医薬品開発支援のアイロムグループの子会社IDファーマも開発を進めている。

◇塩野義、最速で年度内  
先行するファイザーやモデルナのワクチンが普及する中、国内メーカーは大規模治験の実施という困難に直面している。

接種が進んだことで未接種の治験参加者を集めるのが難しくなっている上、すでに有効なワクチンが使えるのにプラセボ(偽薬)を接種することには倫理的な問題もある。  

こうした課題をクリアするため、プラセボを使わない臨床試験の方法が各国で議論されており、すでに実用化されたワクチンと中和抗体の量を比較して有効性が劣らないことを確認する「非劣勢試験」などが検討されている。

ファイザーやモデルナはプラセボを使った数万人規模の治験で発症予防効果を確認したが、中和抗体を指標とする比劣性試験なら数千人規模の治験で承認への道が開かれる見込みだ。

塩野義や第一三共は、この方法で承認取得を目指しており、塩野義は最速で21年度中、第一三共は22年中の実用化を目標にしている。  

国産ワクチンの開発を巡っては製薬企業から、一定の要件を満たした医薬品に認められる「条件付き早期承認制度」の対象をワクチンにも広げるよう求める声も上がっている。

同制度は、重篤かつ有効な治療法が乏しく、患者数が少ない疾患に対する医薬品を対象とした特例的な制度。適用された場合、中間段階までの治験で一定の有効性・安全性が確認されれば、市販後の調査でそれらを再確認することを条件に早期に承認を得ることができる。この制度がワクチンにも適用されれば、最終治験と並行して使用を始めることも可能になる。

◇安全保障面で重要な国内生産  
海外頼みの供給にはリスクがあり、安全保障の観点から国内でワクチンを生産できるようにしておくことは重要だ。コロナワクチンの開発を通じて新技術を蓄積しておけば、いつ起こるかわからない将来のパンデミックへの備えにもなる。

しかし、最終治験の結果を待たずに承認を可能とするような動きには、医療従事者を中心に疑問の声も上がる。高い有効性と安全性が確認されたワクチンが使用可能な状況で、特例を使ってまで国産ワクチンの承認を急ぐ必要があるのか、という指摘だ。(中略)

◇軽症用治療薬を初承認
コロナを克服して日常を取り戻すためにはワクチンだけでなく、治療薬も欠かせない。これまでは主に、ほかの疾患で承認されている既存薬を転用する形で開発が行われてきたが、最初から新型コロナへの効果を狙った新薬の開発も進んでいる。

厚生労働省は7月19日、中外製薬が6月に申請していた新型コロナ治療薬の「抗体カクテル療法」(製品名・ロナプリーブ)を特例承認した。

中和抗体である「カシリビマブ」と「イムデビマブ」を組み合わせて投与する治療法で、米リジェネロン・ファーマシューティカルズが開発した。中外は国内での販売を担う。  

海外で行われた臨床試験では、基礎疾患を持つなどリスクの高い軽症~中等症の患者に投与することで、入院や死亡のリスクを70%低下させた。在任中のトランプ前米大統領への治療に使われたことでも知られ、米国では昨年11月に緊急使用許可(EUA)が出されている。  

国内でコロナ治療薬として承認されている薬剤は四つとなったが、軽症・中等症の患者を対象とした薬剤は初めて。田村憲久厚生労働相は「治療法としては大きな前進」と話し、ワクチン接種が進み、軽症患者の増加が予想される中で新たな薬剤が使用可能となったことに期待を示した。  

コロナ向け抗体の開発はほかの企業も行っており、米イーライリリーは「バムラニビマブ」と「エテセビマブ」の二つの抗体を併用する治療法のEUAを米国で取得。

米バイオベンチャーのヴィル・バイオテクノロジーズと英グラクソ・スミスクラインが共同開発した「ソトロビマブ」にもEUAが出されている。

アストラゼネカも抗体カクテル療法「AZD7442」の最終治験を進める。  

抗体医薬はコロナ治療の新たな武器として期待されるが、基本的には重症化リスクの高い患者が対象で、日本では入院患者に使用が限られる。軽症者が自宅で服用できる飲み薬の開発は重要な課題だ。

米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと共同で、経口の抗ウイルス薬「モルヌピラビル」を開発中。日本を含む世界で最終治験に入っており、順調に進めば9~10月にデータを得られる見込みだという。米国などでは年内にも実用化される可能性があり、日本でも早期の承認が期待される。

スイス・ロシュも米アテアから開発権を取得した経口抗ウイルス薬「AT─527」を開発している。海外では近く最終治験に進む見通しで、日本では国内販売を担う中外が開発を進める。

ファイザーも経口抗ウイルス薬の開発を行っており、年内の実用化も視野に入れている。 

◇日本勢も経口薬を開発  
国内メーカーでは、塩野義製薬やバイオベンチャーのオンコリスバイオファーマが経口抗ウイルス薬を開発中で、塩野義は7月に日本で初期の治験を始めた。

ペプチドリームは富士通などと創薬ベンチャーのペプチエイドを設立し、アミノ酸が連なった「ペプチド」をコロナ治療薬として開発中。富士通のデジタル技術を活用することで開発期間を短縮し、早期の承認取得を狙う。  

既存薬の転用では、有効性や安全性を示せず開発が頓挫したものも少なくない。小野薬品工業は、抗ウイルス効果が期待された膵(すい)炎治療薬「フオイパン」について、国内で行った最終治験で有効性を証明できず開発を中止。

第一三共は、同「フサン」を新型コロナ向けに吸入製剤として開発していたが、安全性への懸念から開発を中止した。富士フイルム富山化学の新型インフルエンザ治療薬「アビガン」は、厚生労働省の審議会で承認が見送られ、現在、別の臨床試験で有効性の証明を試みている。 【8月16日 前田雄樹氏・AnswersNews編集長 エコノミストOnline】
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国産ワクチンに関しては、武田が「年内供給」とのことですが、製造技術を提供したノババックスが2021年中に米食品医薬品局に緊急使用許可を申請する見通しということのようですから【8月20日 M&AOnline】、武田のワクチンを日本で実際に使用できるのは、更にその先になるのでは・・・。

スピード感を持って処理して欲しいと個人的には思いますが、石橋を叩いて、叩いて、叩き壊してしまう日本ですから・・・というか、誰も責任・リスクをとりたがらず、責任逃れの「安心・安全」を呪文のように唱える国と言うべきか。

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豪NZ 「感染者1人」でロックダウン措置も 仏米はワクチン接種証明書で「ウィズコロナ」

2021-08-17 23:01:40 | 疾病・保健衛生
(オーストラリア)
(ニュージーランド)
(中国)

【ロイター COVID-19 TRACKER 】

【日本 個人の行動規制法整備が議論に】
日本では、感染拡大が続くなかで、国民の間では“コロナ慣れ”“コロナ疲れ”が強まっており、従来の自粛要請では効果が上がりにくい状況ともなっています。

こうした状況に基本的対処方針分科会では、個人の行動制限、つまり法的根拠を持った強制措置としてのロックダウン・外出制限といったものを求める意見も出されています。

****「個人の行動制限法整備を」分科会で複数の専門家****
新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象地域拡大などを議論した17日の基本的対処方針分科会で、複数の専門家が、個人の行動制限に関する法的枠組みの整備を政府に求めた。

終了後に西村康稔経済再生担当相が記者団に明らかにした。

西村氏は「多くの専門家から、今の感染状況やクラスター(感染者集団)の状況などを見て『個人の行動制限に関する法的仕組みについてもぜひ、検討を進めてほしい』『特措法をはじめ、運用改善でできるものがあれば、早く取り組んでほしい』といった多くの意見をいただいた」と語った。【8月17日 産経】
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****分科会 尾身会長“一般の人々への行動制限の仕組みづくりを”****
「基本的対処方針分科会」の尾身茂会長は会合のあと報道陣の取材に応じ、緊急事態宣言に関する政府の方針を了承したと述べました。
その上で「これまで飲食店など、事業者に対していろいろな制限をかけてきた一方で、一般の人々に対する行動制限は完全にお願いベースで行ってきた。

感染状況がここまでくると、分科会のメンバーの一致した見解として、個人についても感染リスクの高い行動を避けてもらえるよう、保障するようなことが可能になるような新たな法律の仕組みをつくることや、あるいは現行の法律で対応できるならその活用をお願いしたいと考えている。

これまで医療機関や医療従事者にお願いベースで行ってきたコロナ対応への協力要請も同じだ。単に協力をお願いするだけではこの事態を乗り越えられないことを想定し、法的な仕組みの構築や現行の法律のしっかりした運用について、早急に検討してほしいという強い意見が出た」と説明しました。(後略)【8月17日 NHK】
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個人的には、政府のワクチン接種への取り組みの失敗、医療システム全体でコロナに対応する態勢がとられてこなかったことなどの結果、個人・一部業種への負担がますます重くなる・・・という印象があって、違和感を感じる議論です。

【豪NZでは「感染者1人」でロックダウン】
諸外国では強制力を持ったロックダウン(都市封鎖)・外出制限が多くみられますが、最近の報道で印象的だったのは、感染レベルはそう高くないオーストラリアや、ほとんど完全に封じ込んできたニュージーランドの“感染者1人でロックダウン”という厳しい対応です。

****豪首都キャンベラ、急きょロックダウン 1年ぶりの陽性者****
豪首都キャンベラは帰国者ではない新型コロナウイルス陽性者1人が約1年ぶりに確認されたことを受け、現地時間12日午後5時から1週間のロックダウンに入ることになった。感染経路が明らかでないため、約40万人が住むオーストラリア首都特別地域の全域が対象になる。

ロックダウン期間中、対象地域の住民は不要不急の外出が認められない。
ロックダウン開始に向けて、スーパーなどでは住民が行列しているという。

オーストラリアでは感染抑制に苦慮しており、二大都市シドニーとメルボルンではロックダウンが続いている。シドニーのあるニューサウスウェールズ州の大部分がロックダウン中で、ヴィクトリア州でもメルボルンに少なくともあと1週間は行動制限が続く予定。

ニューサウスウェールズ州政府は、シドニーでのロックダウン実施を徹底するため、軍の投入を追加する可能性もあると話している。シドニーではすでに非武装の兵約580人が、行動制限の実施徹底のために配備されている。

オーストラリアではワクチン接種率が人口の25%に達していない。累計感染者数は3万7377人、死者は945人と、大半の先進国に比べて少ない(米ジョンズ・ホプキンス大学の集計、日本時間12日午前9時時点)。

一方、ロックダウンの規制に反発する人たちが、シドニーなど各地で抗議デモを繰り返している。【8月12日 BBC】
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オーストラリアでは6月頃までは1日の新規感染者を10人前後に抑えていましたが、7月.8月に急増し、8月13日の新規感染者は492人。ただ、欧州・アメリカはもちろん、日本と比べても桁違いに少ない状況です。

オーストラリア以上に少ない「ゼロコロナ」を実現していたのがニュージーランド。

そのニュージーランドでは、2月末以降始めての市中感染者があり、しかも感染力が強いデルタ株と推定されることから、全土でロックダウンの措置に。

****ニュージーランド、感染者1人確認で全国ロックダウン デルタ株の疑い****
ニュージーランドのアーダーン首相は17日、国内で新型コロナウイルスの感染者が約半年ぶりに1人確認されたとして、全国で感染警戒レベルを最上位の「4」に引き上げ、ロックダウン(都市封鎖)措置を導入すると発表した。

アーダーン氏によると、検出されたウイルスのゲノム解析はまだ完了していないが、感染力の強いデルタ株と推定される。

保健省のブルームフィールド長官によれば、最大都市オークランドに住むワクチン未接種の58歳の男性が検査で陽性反応を示した。男性は最近、同じ北島のコロマンデル半島を訪れた旅行歴があり、国境とのかかわりが判明している。

アーダーン氏は、17日午後11時59分から3日間、全国にレベル4の警戒態勢を敷くと宣言した。市民の外出を禁止し、必需品を扱うスーパーや薬局以外の店舗を閉鎖する。同国でレベル4が適用されるのは1年ぶり。オークランドとコロマンデル半島では1週間継続する可能性が高い。

アーダーン氏は会見で、これまでデルタ株が見つかっていなかったのは世界でもまれなケースだと指摘。ニュージーランドは諸外国の経験から、どんな対策に効果があって何が無効かを学べる立場にあると強調した。

さらに「デルタ株は(感染の流れを変える)ゲームチェンジャーと呼ばれてきたし、実際にその通りだ。ということはつまり、拡大を食い止めるには強く、素早く行動する必要がある。制圧できなければどうなるか、私たちはすでに外国の状況を見てきた。チャンスは1度だけだ」と訴えた。

同国はこれまで厳しい国境管理で感染拡大を抑え、市民はほぼ通常の生活に戻っていた。ただしCNNの集計によると、ワクチン接種を完了した人は人口の2割未満にとどまっている。【8月17日 CNN】
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感染力が強いデルタ株、ワクチン接種率が低いという現状を考慮しての政治決断のようです。

なお、オーストラリア・ニュージーランド両国はともに感染が封じ込めているということで、隔離なしの両国間の往来を認めるトラベルバブルが4月から取られてきましたが、前述のようにオーストラリアにおける感染拡大を受けて、この「バブル」も停止されています。

****豪NZ間の「バブル」しぼむ=隔離なし往来を停止―新型コロナ****
ニュージーランド(NZ)政府は23日、オーストラリアの新型コロナウイルス感染拡大を受け、到着後に隔離不要の相互往来を一時停止すると発表した。往来はコロナ感染抑制を前提とした特別措置で「トラベルバブル」と呼ばれるが、インド由来のデルタ株の流行によりバブルがしぼんだ格好だ。

停止期間は(7月)23日深夜から少なくとも8週間。豪州では3州でロックダウン(都市封鎖)が導入され、外出規制の対象が豪国民の半数以上に及んでいる。アーダーンNZ首相は声明で「自国民への健康リスクが高まっている」と強調した。

豪州とNZは4月に自由な相互往来を再開していた。NZ政府は今後7日間で、豪州に残された自国民の帰国を進める。【7月23日 時事】
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【収束に向かう中国】
ニュージーランドの「ゼロコロナ」に近い状態を維持していた中国が最近の感染拡大で外出制限や市民一斉PCR検査といった対応をとっていることは、8月12日ブログ“中国  人民・大手IT企業、更にはウイルスさえも管理・統制する習近平指導部”で取り上げましたが、その甲斐あってか、感染状況は収まってきたようです。

****中国、新規のコロナ国内感染者が3日連続減 7月30日以来の低水準****
中国国家衛生保健委員会は、12日の新型コロナウイルスの新規の国内感染者数が47人だったと発表した。新規国内感染者は3日連続で減少し、7月30日以来の低水準となった。

7月20日に江蘇省南京で始まった直近の感染拡大局面が、落ち着きつつあることが示された。

国営メディアによると、コロナ感染予防で最も厳しい規制が課せられる「高リスク」地区は13日現在、27カ所で変わらなかった。

一方、「中リスク」地区の数は、今週付けたピークの210超から127に減少した。「中リスク」地区は、新規の国内感染者が14日間発生しないと、「低リスク」に分類が変更される。

国家衛生保健委の当局者は会見で「感染が確認された48都市中、36都市以上は5日以上、新たな感染が報告されていない。全国的な大規模な流行のリスクは小さい」と述べた。

ただ同委員会は13日、屋外の人が多く集まる場所でのマスク着用を義務付けた。

中国は8月31日まで夏の行楽シーズン。そのピークで起きた感染拡大は旅行や対面サービスなどのサービス業に打撃を与えた。エコノミストは、旅行関連の消費が減速するとみて、第3・四半期の成長率予想を引き下げている。

国家衛生保健委によると、同国でコロナワクチンの接種が完了した人の数が12日時点で7億7700万人超となった。【8月13日 ロイター】
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【欧州・アメリカ ワクチン接種証明書で「ウィズコロナ」】
一方、欧州やアメリカなど感染者がすでに蔓延している国では、「ウィズコロナ」な方向で、ワクチン接種証明書で日常生活を再開させる流れにあります。

****仏で「衛生パス」提示義務を飲食店などに拡大…「事実上の接種強制だ」と反発の声も****
フランス政府は9日から、新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する「衛生パス」の提示義務を飲食店などに拡大した。「ワクチン接種の事実上の強制だ」と反発の声も出ている。
 
衛生パス提示は美術館などですでに導入されており、9日からは航空機や長距離鉄道の乗客らにも対象が拡大された。違反者には135ユーロ(約1万7000円)の罰金が科される。ただ、政府は今後1週間は経過措置として厳しい取り締まりは行わない方針だ。
 
インド由来の変異ウイルス「デルタ株」の感染がフランス国内でも拡大しており、仏政府は都市封鎖(ロックダウン)を回避するための措置として衛生パスの活用拡大を決めた。
 
7日にはフランス全土で衛生パス反対のデモが行われ、仏メディアによると約24万人が参加した。【8月9日 読売】
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「自由の国」フランスですから当然に強い反対はありますが、それなりに定着する様相もあるようです。

****飲食店での“ワクチンパス”提示義務化 「面倒くさい」の声も徐々に定着 同時に反対デモも大きく 仏****
フランスで9日から、カフェやレストランへの入店の際に、ワクチンの接種完了や陰性を証明する、いわゆる“ワクチンパスポート”が義務となった。提示しない客は135ユーロ(約1万7000円)の罰金が課されるほか、確認を怠った店も業務停止となる可能性がある。

ワクチンパスポート提示義務化への人々の反応について、ANNパリ支局の金指光宏支局長は「皆さん席につくと、店員さんに聞かれなくてもスマホを開いてQRコードを提示していたり、テラス席でもパスがいるかどうかを聞くおばあちゃんもいたが、その人も紙のパスを持っていたりして、すでにフランスの中でワクチンパスは定着してきている印象を受ける。お客さんに聞くと、コーヒー1杯を飲むのにもパスの提示が必要ということで、『ちょっと面倒くさい』という声はあがっている。ただ、コロナ禍を考えれば、ワクチンパスの制度は『致し方ないんじゃないか』という声が多い」と説明する。

では、ワクチンを接種していない人はお店に入ることができないのか。フランスでは、薬局などでPCR検査や抗原検査を受けることができ、そこで陰性が証明されればパスとして使えるため、大きな混乱などは起きていないという。

また、映画館はすでに7月21日から提示が義務化されているが、金指支局長が取材したところによると、「お客さんがガクッと減ったと。最初の頃は7、8割減ってしまって、若干戻ったが、5割ぐらいになっているようだ。映画館は気軽に行けるところなのに、いちいちパスを用意していくというところで抵抗感が出ているのではないか、と担当者は分析していた」とのことで、経済の面で影響が出ているようだ。

そんな中、ワクチンパスポートに反対するデモが、ここ4週間連続で土曜日に行われている。参加者らの主張は、「自分の体に何を入れるかは、自分の判断でやりたい」「コロナ禍とはいえ、それを強制されるのはおかしい」といったもので、義務化に対する反発が大きい。

これに対して、マクロン大統領は「接種しないという自由のせいで他人を感染させるなら、それは自由ではなく無責任だ」と強気の姿勢を示している。

また、フランス国民であればPCR検査や抗原検査は無料(外国人の抗原検査は25〜30ユーロほど)だが、政府は秋にはフランス国民でも有料化する方針を示していて、有料の検査よりも無料のワクチンを受けるように強く促している形だ。

8月30日からは従業員側のパスの提示の義務化、9月30日以降は提示義務化の対象が12歳以上に拡大される。金指支局長は、「毎週行われているデモも、当初に比べて参加者が2倍になっていて、どんどん反対する人の声は大きくなっている印象はある。パスを持っている人と持っていない人で明らかに差ができてしまっているので、『それは差別だ』と訴える気持ちもわかる」とした。【8月11日 ABEMA TIMES】
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マクロン大統領は「私たちは社会生活において、ともに協力し、頼りながら生活しています。自由というのは、一人だけのものではなく、みんなが持っているものです。他人を思いやり、他人の自由も尊重した上で、個人の自由が成り立ちます。ワクチン接種や検査を受けること。それが、責任を伴う自由であり、国民としての自由であるのです」【8月16日 FNNプライムオンライン】と。

もっとも、イスラム風刺画に対するイスラム諸国の反発に、マクロン大統領は「冒涜する自由」を主張していましたが、そのあたりと整合性がとれるのか?

アメリカ・ニューヨークでも。

****罰金10万円以上 ワクチン接種証明義務化 ニューヨーク屋内施設で****

アメリカ・ニューヨーク市では、新型コロナウイルスワクチンの接種証明の提示義務化に向け、初回の罰金は日本円でおよそ11万円以上であることなどが明らかにされた。

ニューヨークのデブラシオ市長は16日、飲食店やジムなどの屋内施設を利用する際、接種証明の提示を義務づける命令に署名した。

完全に施行される9月13日以降は、初回の違反で1千ドル、日本円でおよそ11万円の罰金が科され、違反回数が増えるごとに金額が上がる。

マンハッタンではレストランが対応を始めていた。
店のオーナー「これまで市や州から多くのガイドラインが出され、全て従ってきたし、今回もそうする。個人的には義務化はよくないと思う」

ワクチン未接種の客「僕みたいに時間がなくてワクチン未接種の人は、時間をつくって受けにいこうという後押しになるかな」

変異ウイルスが猛威を振るう中、ニューヨーク市は「接種がカギ」だと強調している。【8月17日 FNNプライムオンライン】
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新型コロナワクチンの国際「格差」 先行国の3回目「ブースター接種」についてWHOは「強欲」と批判

2021-08-10 23:15:29 | 疾病・保健衛生
(COVAXワクチンの第1便を受け取るタンザニアの閣僚ら=タンザニア・ダルエスサラームで7月24日【8月6日 毎日】)

【COVAXへの依存度が高いアフリカでは深刻なワクチン不足】
欧米諸国に比べて非常に遅れている日本のワクチン接種率は、8月9日時点で少なくとも1回接種が46.9%、2回接種が34.0%(日経集計 NHKでは43.40%と33.13% この差が何なのかは知りません)と、ようやく一定のレベルまで上がってきたようです。

65歳以上の高齢者では81.6%が2回摂取を終了(日経)ということで、このたりが最近の感染爆発にもかかわらず、死者数があまり増えない状況の背景にあるのではとも思われます。
(【ロイター】)
ただ、1日あたりの接種回数は、一時は150万回ぐらいまで増加した後、最近はその半分レベルにまで低下してきているのが心配されるところです。

(【日経】)

世界を見渡すと、アフリカなどの途上国ではワクチン獲得の資金力がなく世界的な配布枠組み「COVAX(コバックス)」に頼っていますが、その接種は全く進んでいません。

*****COVAX、ワクチン供給遅れで苦境に アフリカで接種進まず*****
世界保健機関(WHO)などが主導する新型コロナウイルスワクチンの世界的な配布枠組み「COVAX(コバックス)」が苦境に立たされている。

当初は7月までに途上国を中心に8億7000万回分を配布する計画だったが、実際の供給量はその2割にとどまる。COVAXへの依存度が高いアフリカでは深刻なワクチン不足が続いている。
 
COVAXには日本を含む世界約190カ国・地域が参加。複数のメーカーからワクチンを一括・大量購入して途上国などに平等に配布することを目指している。

供給は2月に始まり、当初は年内に約20億回分の配布を見込んでいた。だがこの半年間で配布できたのは1億8000万回分(計138カ国)にとどまっている。
 
誤算だったのはワクチン製造大国のインドで3月以降、デルタ株が猛威を振るったことだ。感染者急増を受けてインド政府は国内での接種を優先し、輸出を制限。COVAXはインド製造分で計11億回分を確保する計画だったため、供給に大きな遅れが生じた。
 
特に影響を受けているのが、COVAXからの供給に頼るアフリカ諸国だ。英オックスフォード大の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ」によると、アフリカで1回以上接種を受けた人の割合は8月4日現在で3・8%にとどまっている。

アフリカでもデルタ株による感染拡大が続いており、WHOによると8月に入り1週間当たりの死者が過去最多を更新した。

ジンバブエの首都ハラレに住む男性(47)は毎日新聞の取材に「近所の診療所で接種できると聞いて朝6時から昼まで並んだが受け付けてもらえなかった。並んでいる間に感染するリスクもあり、怖い。早く接種を受けたい」と話した。ジンバブエは政府が中国から独自調達するなどして一般への接種を始めたが、絶対量が不足している状況だ。
 
ただ、COVAXからの供給は今後改善するとの見方もある。COVAXの担当者は7月6日のWHOの会合で、ワクチンの安定確保に向けて仕入れ先の多様化に努めていると説明し、「今年第4四半期にかけて提供できるワクチンが非常に増える」との見通しを示した。
 
南アフリカ・ウィットウォーターズランド大の研究者で、アフリカ連合・疾病対策センター(アフリカCDC)のワクチン配送計画にも携わるサフラ・アブドル・カリム氏は、自国での接種が一段落した先進各国が余剰分をCOVAXに寄付するなど改善に向けた動きがあることを挙げ、「次の段階でより成功を収める可能性がある」と指摘する。

ただ、途上国ではワクチンの低温保存や配送態勢が依然として不十分なため、受け入れの準備をさらに進める必要があるとしている。
 
一方、途上国のワクチン入手の懸念材料となっているのが、一部の先進国による「3回目接種」だ。イスラエルは8月から3回目の接種を開始し、ドイツも9月からの実施を決めた。

こうした状況が続けば途上国分が圧迫される恐れがあり、WHOも3回目接種の一時停止を求めている。カリム氏は「アフリカで医療従事者の接種も終わっていない中で、富裕国が3回目接種を行うことは非倫理的で人権の侵害だ」と批判する。
 
日本政府もCOVAXを通じたワクチン寄付を表明しており、これまでにカンボジアに約33万回分、イランに約110万回分、バングラデシュに約25万回分などを送っている。【8月6日 毎日】
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【供給余力のある中国は品質に疑念 アメリカは供給戦略がない】
欧州も日本、そして比較的高評価のスプートニクVを持つロシアも自国の対応で精一杯というのが実情で、供給余力があるのはアメリカと中国。

中国・習近平国家主席は8月5日、中国が主導し、23カ国がオンラインで参加した「ワクチン協力国際フォーラム」において、「中国は世界、特に発展途上国へのワクチン提供と生産協力を積極的に進めている。今年は世界に年20億回分を提供する」と発言、また、“国際的枠組み「COVAX」への1億ドル(約110億円)の資金拠出も発表。王毅国務委員兼外相が「中国は100カ国以上に7・7億回分のワクチンを提供した」と、世界への貢献をアピールした。これには有償提供も含まれる。”【8月8日 朝日】と「ワクチン外交」を加速させる構えです。

ただ、中国製ワクチンに関しては信頼性に不安も。

****「中国頼み」の国々で起きた惨状****
インドネシアの首都ジャカルタ。過去一年以上、何とか感染爆発を抑えてきた国が七月、最大の危機を迎えた。一日の新規感染確認が五万人を超え、世界的ホットスポットになってしまった。首都ではインドと同様、酸素ボンベ不足が深刻化した。
 
ジャカルタの病院では、誰もがある変事に気づいていた。ワクチン接種を済ませた医療スタッフが次々と新型コロナで倒れ、死んでいった。

在ジャカルタ外交筋によると、「民間団体のまとめでは、インドネシア全土の医師の死者数は六月で約五十、七月は中旬までに百十を超えた」という。
 
死亡した医師は全員、感染前に中国のシノバック製ワクチンを二度接種した。二ヵ月足らずで、ワクチン接種完了の医師がこれだけ多く死亡するのは、尋常なことではない。インドネシア政府は七月上旬になって、米モデルナ社のワクチンを「三回目ワクチン」として導入すると決めた。

同じ現象はタイでも起きた。シノバック製ワクチンを二回接種した医療従事者の死者数が、七月上旬までの非公式推計で約六百人に達した。タイ政府は七月、英国アストラゼネカ製ワクチンを、やはり「三回目ワクチン」として投与することを決めた。
 
タイのプラユット首相、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領の二人は、「親中」で知られている。
新型コロナ禍では、中国の強い働きかけもあり、早々に中国製ワクチン導入を決めた。タイの反政府派は「何もかも中国頼みにした失政だ」と批判した。
 
インド洋の島国セーシェル、南米のチリでも中国製ワクチン接種が進んだ後で、感染拡大が起きた。韓国紙のあるコラムニストは、「中国製は水ワクチンか」と、きつい皮肉を飛ばした。
 
シノバックのワクチン製造では、同じ中国のシノファームと同様、不活化ウイルスを使う。新型コロナの前から、試されたワクチン製造手法だ。これに対し、米国のファイザー、モデルナ両社は「メッセンジャーRNA(mRNA)」を利用する、画期的新技術を使った。

世界保健機関(WHO)など各種の治験データでは、シノバック製の発症予防効果は五〇%程度で、米二社の九〇%以上に比べると、見劣りがする。世界各地のワクチン接種状況を見ると、米ワクチンが次々と、中国ワクチンとの差を示している。
 
中国外務省は、この種のワクチン比較を「悪質な誹誇」と非難する。だが、東南アジア各国にとっては、政治問題ではなく、国民の生命に関わる重人事案なのだ。
 
中国ワクチンは七月までに百か国以上に供給された。南米大陸と東南アジアの大半、アフリカ大陸の多くが供給先だ。今回のような事態は今後も頻発するだろう。【「選択」9月号 “世界混沌の「ワクチン分配”】
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一方、アメリカも自国のワクチン接種がトランプ前大統領の支持者が多い南部を中心に「壁にぶつかった」状況にあり、また、ワクチン供給を戦略的に進める中国に対し、アメリカは世界へのワクチン供給に関する戦略がないとも指摘される状況。

【WHOは3回目「ブースター接種」の一時停止を要請も、欧米・イスラエルは従わない姿勢】
こうした状況で“COVAXからの供給は今後改善する”【前出 毎日】と楽観視できる状況でもなさそうですが、問題は【毎日】でも指摘されている一部の先進国による「3回目接種」。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は7月12日の記者会見で「ワクチン供給は著しく不公平になっている」と述べ、地域間の供給格差に懸念を示し、医療従事者や高齢者への新型コロナウイルスワクチン接種が進んでいない国がある中で、富裕国が3回目接種を検討していることは良識のない「強欲」だと強く非難しています。

****WHO、ワクチン追加接種の一時停止を要請 9月末まで****
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は4日、スイスのジュネーブで記者会見し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)を少なくとも9月末まで停止するよう求めた。

テドロス氏は会見で、追加接種の一時停止を求める理由について、「各国の人口の少なくとも10%がワクチン接種を受けられるようにするため」と説明。「これを実現するには、ワクチンの世界供給網を支配する一握りの国や企業をはじめ、あらゆる人の協力が必要になる」と述べた。

テドロス氏はさらに「億単位の人々がいまだ1回目の接種を待つ一方で、一部の富裕国は追加接種の実施に向け動いている」とも指摘。これまでに世界で40億回分以上のワクチンが投与されたが、その80%以上は世界人口の半分に満たない高所得国や高中所得国に供給されたと述べた。

ドイツや英国、イスラエルはすでに、高齢者に追加接種を行う計画を発表している。

テドロス氏は変異株「デルタ株」から自国民を守りたいという各国政府の考えに理解を示しつつも、「世界の最も感染リスクの高い人々が依然として感染から守られていない中、すでに世界のワクチン供給の大半を使用した国がさらに多くのワクチンを使用することは受け入れられず、受け入れるべきでもない」と述べた。

テドロス氏は5月、各国が9月までに国民の少なくとも10%にワクチンを投与できるよう、世界に支援を求めていた。この目標日までの折り返し地点を過ぎたが、達成が見込める状況ではないという。

目標の発表時、高所得国は人口100人あたりのワクチン接種回数が約50回だったが、現在はその数字が倍増し、同100回近くに上る。一方で、低所得国では供給不足のため、100人あたり1.5回の接種にとどまっている。【8月5日 CNN】
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しかし、当然と言えば当然ながら、各国とも「自国優先」の姿勢。

****独仏、9月にワクチン3回目「ブースター接種」実施へ WHOの先送り要請従わず****
ドイツとフランスは9月から新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)を実施する。世界保健機関(WHO)は追加接種を最低でも9月末まで見送るよう呼び掛けているが、それには従わない方針だ。

フランスのマクロン大統領は高齢者や感染リスクの高い人々に対する3回目のワクチン接種を9月から実施することに取り組んでいると表明。自身のインスタグラムのアカウントで「全ての人にすぐにというわけではないが、いずれにしても高齢者や感染リスクの高い人には3回目の接種が必要になるだろう」と述べた。

一方、ドイツ保健省は9月から免疫不全の患者や高齢者、介護施設の居住者に追加接種を行うと発表。「国内の感染リスクの高いグループに予防的な3回目のワクチン接種を提供すると同時に、世界のできるだけ多くの人々のワクチン接種を支援する」とし、少なくとも3000万回分のワクチンを貧困国に寄付するとした。

フランスとドイツでワクチンを少なくとも1回接種した国民の割合はそれぞれ64.5%、62%。2回目のワクチンを接種した割合はそれぞれ49%、53%となっている。

こうした中、イスラエルのベネット首相は、政府が先月、追加接種キャンペーンを開始したことに触れ、高齢者の感染リスクを強調。「60歳以上でまだ3回目の接種を受けていない人は6倍も重症化しやすく、死亡する確率も高い」と述べ、追加接種を行うよう促した。【8月6日 Newsweek】
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3回目「ブースター接種」をすでに開始しているイスラエル・ベネット首相は下記のような「弁解」も。

****イスラエル首相、3回目に理解を 接種で「知見で世界に貢献」****
新型コロナのワクチンの3回目接種を巡り、既に開始したイスラエルのベネット首相は5日、「接種効果に関する知見で世界に貢献する」と述べた。ワクチン公平供給の観点から世界保健機関(WHO)が3回目接種の一時停止を訴える中、理解を求めた。
 
ベネット氏は、フェイスブックで発表した映像声明で「イスラエルが利用する数は少なく、全体のワクチン数に大きく影響しないが、知見は十分価値がある」と語った。
 
世界有数の速さで接種を進めるイスラエルでは、1日から60歳以上の市民を対象に本格的に3回目接種を開始した。【8月6日 共同】
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やはり3回目「ブースター接種」を検討しているアメリカは、WHO要請に「やるべきことはやっている」という趣旨の反論。

****ブースター接種「用意ある」=WHOの自制要請に反論―米****
サキ米大統領報道官は4日の記者会見で、新型コロナウイルスのワクチン接種を終えた人に対する追加の「ブースター接種」について「食品医薬品局(FDA)が(必要だと)勧告すれば、その用意がある」と述べた。FDAや疾病対策センター(CDC)は、現時点で勧告を出していない。
 
ブースター接種をめぐっては、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が9月まで自制するよう呼び掛けたが、サキ氏は「(自制は)間違った選択だ」と主張。

テドロス氏が自制の理由とした低所得国とのワクチン格差拡大に関しても「わが国は1億1000万回分以上のワクチンを世界に提供しており、これは他国の提供分をすべて合計したより多い」と反論した。【8月5日 時事】 
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日本も3回目「ブースター接種」実施の検討を始めています。

****ワクチン22年の追加接種を検討 政府が確保進める、変異株を懸念****
政府は6日、新型コロナウイルスワクチンについて、2回の接種を終えた人に対する2022年の追加接種の検討を始めた。時間の経過に伴いワクチンの効果が低下する可能性が指摘されることや、感染力が強い変異株への対応を念頭に置く。

既にメーカーとの間で来年分を確保する契約などを進めており、感染状況や諸外国の動向を見ながら判断する。
 
政府は7月、米モデルナ製の新型コロナワクチンについて、22年初頭から5千万回分の追加供給を受ける契約を同社などと締結。米バイオテクノロジー企業ノババックスのワクチンも同年初頭から1億5千万回分の供給を受けるように武田薬品工業と協議している。【8月6日 共同】
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自分自身についても、5月に2回の接種を終え、半年以上が経過する来年初頭には3回目「ブースター接種」を受けたい・・・というのが本音。

【求められる生産拡大】
限られた供給量ではパイの奪い合いで無理がありますので、現実的な解決策としては日本を含めた世界各国がワクチン生産を大幅に拡大することでしょう。

これまでの生産体制については、以下のようにも。

****中国、2カ月で工場 米、2兆円投資****
外交だけでなく、ワクチンの開発でも、米中は国を挙げて急速に進めた。
 
中国では、習氏が昨年2月、「大学や研究所、企業を動員してワクチン研究と開発のスピードを速めよ」と指示。2カ月で年産1億2千万回分の能力を持つ工場を完成させ、同年7月には緊急使用が始まった。
 
米国では、トランプ前政権が180億ドル(約2兆円)を投じ、官民一体で開発を進めた。昨年3月に臨床試験を開始。同年12月には米食品医薬品局(FDA)から緊急時使用許可を得た。

米国はもともと、ワクチン開発を安全保障の一環としてとらえてきた。米国防総省の傘下にある国防高等研究計画局(DARPA)は2013年、モデルナに2500万ドル(約27億円)超の資金を提供していた。
 
一方、日本は開発で出遅れた。国産ワクチンは、第一三共などが臨床試験(治験)を進めているが、実用化は来年以降になりそうだ。
 
国内のワクチン産業は以前から停滞していた。感染症はいつ起きるかわからず、製薬会社はリスクの高いワクチン開発を敬遠した。1970年ごろから、天然痘のワクチンの予防接種後に死亡するなど社会問題化。厚生労働省は安全性を重視する一方で、政策立案や投資には消極的になった。
 
政府は7月、経済産業相、防衛相らが加わる関係閣僚会議を発足。安全保障や産業育成の観点も踏まえ、ワクチンの製造拠点の整備など、長期戦略づくりを進める。【8月8日 朝日】
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こうした生産体制を更に拡充・加速する必要があります。
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イギリス  ジョンソン首相の“賭け”は吉? 行動規制撤廃でも感染者減少 死者数も一定に抑制

2021-08-05 22:22:03 | 疾病・保健衛生

(【ロイター COVID-19 TRACKER】イギリスのコロナ新規感染者と死者の推移) 

【行動規制撤廃でもピークを越して減少に転じた感染拡大 大きくは増えていない死者数】
イギリスでは、新型コロナ感染が急拡大するなかで、ワクチン接種進展による重症者・死者が増えていないことを理由に、多くの科学者の反対・懸念を押し切る形で7月19日、ジョンソン首相は大部分の行動規制を撤廃しました。

その後の状況は冒頭グラフに見るように、感染力の強いデルタ株によって感染者は急増しましたが、ここにきてその感染者も減少に転じ、死者数も一定に抑制されています。

新規感染者は規制撤廃した7月19日の直前17日には5万4千人に達しましたが、その後減少し、今は3万人を切って2万人に近づくレベルになっています。

一方、死者数の方は、数人あるいは十数人の状態から、最近はさすがに数十人レベルに増加はしていますが、以前のような1日に数百人、あるいは千数百人が亡くなる状況ではありません。

ジョンソン首相の“賭け”は“今のところ”は“吉”のようです。

****ワクチンが効いているから? イギリスではデルタ株の感染者が急増も、死者は増えず****
デルタ株がイギリスの新型コロナウイルスの新規感染者数を急増させている。それは多くの国や地域と同じだ。 
ただ、イギリスではこれまでの感染拡大期に見られたような死者数の急増は起きていない。(中略)

感染力の強いデルタ株が世界各地で新型コロナウイルスの感染者数を急増させている。 ただ、人口の71.8%がワクチン接種を完了しているイギリスでは、これまでの感染拡大期に見られたような死者数の増加は起きていない。 

イギリス政府の新型コロナウイルス・ダッシュボードは、日々の新規陽性者数と死者数をまとめている。そのデータを比較すると、"感染"と"死"の関係が時間とともにどう変化してきたかが分かる。 

7月のイギリスの陽性者数に対する死者数の割合 ── 死亡率 ── はパンデミックが始まって以来、これまでのどの時点よりも大幅に低い状態が続いた。 

昨春の感染第1波の初期には、この死亡率は急激に上昇した。昨冬の感染が拡大した時にも、死亡率は再び上がっていた。 

イギリスの直近の感染拡大は6月に始まった。7月1日までの1週間平均の新規感染者数は、6月1日に比べて6倍近くに増えた。この感染拡大の新たな波で、1日の新規感染者数は1月の水準と同じくらいまで増えた。ただ、死者数はそれほど増えていない。 

この死亡率の低さは恐らく、ワクチンのおかげだろう。新型コロナウイルスのワクチンは重症化や入院、死亡を防ぐ効果が高いとされている。 

イギリスのある研究では、国内で主流となっているデルタ株による有症状の新型コロナウイルス感染症を防ぐ効果は、ファイザーのワクチンを2回接種した場合で88%、アストラゼネカのワクチンを2回接種した場合で67%となっている。 

モデルナとジョンソン・エンド・ジョンソンも、臨床試験で自社のワクチンがデルタ株に対して高い有効性があることを示したとしているが、現実世界での有効性に関する査読付き論文はまだ発表されていない。 

全体的に見て、イギリスの死亡率が時間とともに低下していることからワクチンの効果は明らかだ。2月初めの時点で、イギリスでは人口の1%が2回のワクチン接種を完了し、約25%が1回のワクチン接種を済ませていた。この頃の死亡率は平均して5%だった。

今では人口の71.8%が2回のワクチン接種を完了し、88.4%が1回のワクチン接種を済ませている。そして、死亡率はゼロに近い。【8月3日 BUSINESS INSIDER】
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【「集団免疫」の獲得の指摘も ションソン首相は慎重姿勢崩さず】
この状況の説明として、「集団免疫」の獲得に近づいていると指摘する声も出ています。

****英、行動規制撤廃後に感染減 「集団免疫」獲得近いとの声も****
首都ロンドンを含むイングランドで新型コロナウイルス対策の行動規制をほぼすべて撤廃した英国で、新規のコロナ感染者数が減少傾向となり、専門家の間で議論を呼んでいる。

学校が夏休みに入ったために子供たちの間での感染拡大が止まったことなどが理由として推測される一方、大規模なワクチン接種の展開により、人口の一定程度が免疫をつけることで感染拡大が収束する「集団免疫」の獲得に近づいていると指摘する声も出ている。
 
(中略)(5月中旬以降)感染者数が急増する中、新規死者数は4月以降、おおむね1桁〜2桁台と比較的低く推移している。このため、ワクチン接種の進展が奏功していると判断した英政府は7月19日に、人口の85%近くが集中するイングランドで残っていた行動規制をほぼすべて撤廃。

この英政府の判断に対し、世界各国の専門家が連名で英医学誌ランセットに「危険で非倫理的な実験に乗り出している」と批判する書簡を寄せ、再考を促した。
 
しかし、増加してきた新規感染者数は7月17日を境に下降。27日には2万4000人を切るまで減少した。その後、若干の増加はあったものの、30日段階では2万9622人(死者数は68人)と、ピーク時と比べて低い基調が続いている。
 
「インフルエンザのように、コロナの存在を受け入れ、対処法を見いだしていかねばならない」と規制撤廃への理解を求めてきたジャビド保健相は7月上旬、規制撤廃後に1日当たり10万人程度まで新規感染者数が増える可能性にも言及。感染者の増加が危ぶまれていたため、規制撤廃後の感染者数の減少は「科学者たちを当惑させている」(英紙タイムズ)状況だ。
 
英メディアによると、感染者数減少の理由について専門家の間ではさまざまな意見があり▽学校が夏休みに入り、子供たち同士の接触が減った▽観戦者らが大勢集まり、感染を広げたとの指摘があるサッカー欧州選手権が閉幕(7月11日)した▽PCR検査などの実施件数が減った――ことなどが推測されると言う。
 
また、減少と免疫獲得の広がりを関連付ける声もある。英紙デーリー・テレグラフは、デルタ株流行の収束には人口の93%が免疫を獲得する必要があり、現段階で英人口の87%が免疫を獲得しているとするユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのグループの分析結果を報じ、「集団免疫にかなり近づいている」とするブリストル大のデービッド・マシュー准教授(ウイルス学)のコメントなどを伝えた。
 
英国家統計局によると、イングランドでは成人の約92%が、感染かワクチン接種を通じて新型コロナの抗体を持っていると見積もられている。
 
一方、英紙ガーディアンは、免疫獲得を主要因にするには、感染者の減り方が急激すぎると、疑問視する見方も紹介した。【7月31日 毎日】
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学校の夏休みやサッカー欧州選手権閉幕という“時期的”な現象かもしれない可能性もあるなかで、“ジョンソン首相も感染者が減少した現象について「早まった結論を出さないことが非常に重要だ」とし、国民に油断せず感染に気をつけて過ごすよう呼びかけた”【8月4日 産経】とのこと。

【感染拡大による濃厚接触者増加で人出不足による食品物流支障も】
また、感染者が減少に転じてはいますが、未だ1日2~3万人の高いレベルにあることから、10日間の自主隔離を求められる濃厚接触者が多数にのぼり、人出不足から食品物流に支障をきたす事態ともなっています。

****規制解除の英、人手不足苦難 追跡アプリ通知で自主隔離急増****

24日、ロンドン北部のスーパーの棚では一部商品の補充がなく、空いた棚が目立った=和気真也撮影

新型コロナウイルス対策の大胆な規制解除に踏み切った英国が、深刻な人手不足に慌てている。濃厚接触者の自主隔離が急増し、接触追跡アプリの通知音から「ピンデミック」と呼ばれる事態になった。

英政府はワクチン接種で重症化は防げると感染拡大を容認し、経済を回す道を選んだが、「コロナとの共生」の難しさが露呈した。

ロンドン北部のスーパーで24日、がらがらの棚の前で、客が困った様子で立っていた。棚には「全国的な供給問題で、全ての商品を取りそろえることができません」の表示。水を求める親子連れに在庫を尋ねられた店員は「いまあるので全部。次に入るメドもわからない」と謝った。
 
商品不足を生んだのが、コロナの追跡アプリによる「感染者との接触通知」。7月は1日当たりの感染報告が5万人を上回った日もあり、今月14日までの1週間に濃厚接触したとしてアプリ通知で自主隔離を求められた人がイングランドで60万人を超えた。1カ月前の15万人から急増した。
 
隔離のために職場に行けなくなった人が続出したとみられ、食品の物流が停滞。英メディアは、ガソリンスタンドの営業休止や交通機関の乱れも生じていると報じている。
 
英政府は19日、人口の8割超を占めるイングランドでロックダウン(都市封鎖)の法的規制をほぼ解除。残った規制の一つが、感染者と接触した人が10日間、自主隔離するルールだ。8月15日まで続く。
 
産業界は困惑し、異口同音に政府に対応を求めた。英産業連盟のダンカー事務局長は22日の声明で「今のやり方では、経済を開くどころか閉ざしてしまう。政府の狙いとは反対のはずだ」と主張。「2回のワクチン接種をした人に自主隔離を免除すれば、ピンデミックは終わる」と訴えた。
 
慌てた政府は23日夜になり、食品物流など生活インフラに関わる労働者らは、ワクチンの2回接種などを条件に自主隔離の対象外とする方針を発表。ただし、全ての従業員ではなく、事業所ごとに政府が「指名した人」のみとなる。
 
8月16日には全員が対象外となるが、それまで大きな改善は見込めず、混乱が続くとの見方が強い。(後略)【7月30日 朝日】
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このまま新規感染者が減少を続け、ワクチン接種完了者を自主隔離対象からはずず形になれば、そして、それによって感染が再拡大しなければ、この混乱も一定に収束するものと予想されます。

ジョンソン首相の政治家としての品格は問題も多々あり、EU離脱の判断も個人的には賛成していませんが、ブレグジットにしろ、今回の規制撤廃にしろ、“流れを読む”感覚は秀でたものがあるようです。

また、今回規制撤廃のように政治リスクをとって決断する姿勢も評価すべきでしょう。(菅首相の五輪開催決断もリスクをとった判断だったとは思いますが、国民へのアピールが下手ですね)
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フランス  医療従事者に対するワクチン接種義務化 飲食店・娯楽施設などでワクチンパスポート必要に

2021-07-27 22:37:15 | 疾病・保健衛生

(仏西部レゼペスの歴史テーマパーク「ピュイ・デュ・フー」で、来場者の「衛生パス」を確認する従業員(2021年7月21日撮影)【7月22日 AFP】 今のところ「衛生パス」って「紙」のようですね・・・)

【義務化に抗議も 仏保健相「自由というのは、脱税や高速道路の逆走をすることでも、飲食店内で喫煙することでも、自分と他者を同時に守るワクチン接種を拒否することでもない」】
フランスでは5月、6月には新型コロナ感染者が減少し屋外でのマスク着用義務や夜間外出禁止令を解除するに至りましたが、7月に入ると再び急増する第4波の状況となっています。

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フランスでは1日当たりの新規感染者が7月初めの4000人前後から徐々に増加し、先週には2万2000人を上回った。入院者数も増加している。

他の多くの欧州諸国と同様、インドで最初に確認された感染力の強いデルタ株への対応を迫られている。

25日時点でワクチン接種を完了した人は人口6700万人の49.3%で、一部の専門家が「集団免疫」獲得と考える水準にはなお遠い。

仏パスツール研究所は今年、成人の90%以上がワクチンを接種すれば、感染再拡大を引き起こすことなく制限を撤廃できる可能性があるとの見解を示している。【7月26日 ロイター】
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こうしたなか、マクロン大統領は12日、医療従事者に対する新型コロナウイルスワクチン接種の義務化と、レストランや映画館入館時などにワクチン接種または新型コロナ陰性の証明書の提示が必要となる新規則を発表。

一部には、ワクチン接種を望まない人の選択の自由を侵害するものだと抗議も起きています。

****仏、映画館や美術館で「衛生パス」提示義務付け始まる****
フランスで21日から、映画館や美術館、スポーツ施設などへの入場に際し、新型コロナウイルスのワクチン接種を完了しているか検査で陰性だったことを証明する「衛生パス」の提示が義務化された。流行の第4波の真っただ中にあるフランスだが、いわゆるワクチンパスポートの導入は論争を呼んでいる。
 
衛生パスの提示は、50人以上が集まる場所やイベントで義務付けられた。エッフェル塔も対象だ。8月からは飲食店やショッピングセンターにも適用が拡大される。
 
フランスの21日の新規感染者数は2万1000人で、5月上旬以来の多さとなった。ジャン・カステックス首相は、新規感染者のほとんどがワクチン未接種者だと指摘し、衛生パスの導入を擁護。

仏TF1テレビで「わが国は第4波の中にいる」と述べ、衛生パスの目的は4回目のロックダウン(都市封鎖)を回避することだと説明した。
 
オリビエ・ベラン保健相は、ワクチン接種の選択の自由を政府が侵害しているとして接種を拒否する人々を非難。「自由というのは、脱税や高速道路の逆走をすることでも、飲食店内で喫煙することでも、自分と他者を同時に守るワクチン接種を拒否することでもない」と議会で訴えた。
 
パリ郊外ロニースーボワで映画館に入ろうとした女性は、ワクチンを2回接種済みだったのに入館を拒否されたことに驚いたと述べ、2回目の接種から1週間以上が経過していなければならないという条件について「ばかげている!」と主張した。
 
新型コロナワクチンに懐疑的な人々は、エマニュエル・マクロン大統領の政策を「ワクチン独裁」だと批判し、抗議デモを展開している。
 
特に、飲食店経営者らは、客にサービスを提供する前にワクチン接種の有無を確認するよう求められていることに憤慨している。カステックス氏は22日、規則導入から1週間は違反した飲食店を罰さない方針を示した。だが、その後は経営者に最高1500ユーロ(約20万円)の罰金が科され、2回目以降は罰金額が上がる。 【7月22日 AFP】******************

****仏政府のコロナワクチン義務化・推進規則に全土で抗議デモ、自由訴え****
フランスで17日、医療従事者に対する新型コロナウイルスワクチン接種の義務化と、レストランや映画館入館時などにワクチン接種または新型コロナ陰性の証明書の提示が必要となる新規則に反発し、10万人以上が抗議デモを行った。

マクロン大統領は12日、感染者急増への対策としてこの規則を発表したが、デモ参加者らはワクチン接種を望まない人の選択の自由を侵害するものだと抗議している。

内務省によると、全土で行われたデモは137件、参加者は約11万4000人に達した。このうち1万8000人がパリでデモを行ったという。

これより先、規則発表を受けてより小規模なデモが行われ、警察が催涙ガスで解散させる事態が起きていた。

クリステルと名乗るパリのデモ参加者の一人は、「すべての人は自分の体に対する主権がある。フランスの大統領に私の健康について決定する権利は絶対にない」と語った。【7月19日 ロイター】
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「冒涜する自由」があるなら「ワクチン接種しない自由」も・・・。

議会は26日、大統領発表に沿った法案を可決。8月からはレストランやバーの入店、長距離の鉄道・航空便の利用にもいわゆるワクチンパスポートが必要となります。

****フランス、飲食店・娯楽施設などで接種証明必要に 法案可決****
フランス議会は26日、人が集まるさまざまな場所で新型コロナウイルスのワクチン接種や検査での陰性を証明する「健康パス」の提示を義務付ける法案を可決した。医療従事者のワクチン接種も義務化する。

フランスはコロナ感染第4波に見舞われており、美術館や映画館、プールを利用する人は既に、健康パスを提示しなければ入場を拒否される。大規模なフェスティバルやクラブでもパスの提示が求められている。

8月からはこれに加え、レストランやバーの入店、長距離の鉄道・航空便の利用にもパスが必要になる。

法案に盛り込まれた措置は、11月15日まで適用される。発効には憲法裁判所の最終承認が必要になる。(後略)【7月26日 ロイター】
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****未接種の医療従事者は給与停止に フランスで「ワクチンパス」法案可決****
(中略)医療従事者には接種が義務化され、未接種の場合、当初、解雇処分が検討されていたが、給与停止に変更された。

「ワクチンパス」への抗議が拡大する中で、大規模な商業施設での義務化は県ごとの判断とするなど世論にも配慮した形となった。【7月27日 ABEMA TIMES】
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【アメリカ 地方レベルでワクチン接種義務化 連邦レベルでは抵抗も】
フランス同様に、7月に入って再び感染拡大の様相を呈しているアメリカでも、地方レベルでワクチン接種義務化の動きが出ています。

****米NY市 全職員にワクチン接種義務づけへ****
新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大を受け、アメリカ・ニューヨーク市は、市の職員全員に原則、ワクチンの接種を義務づける方針を明らかにしました。

ニューヨーク市のデブラシオ市長は26日、警察官や教員などを含む市の職員全員にワクチン接種か週に1度の感染検査を義務づける方針を明らかにしました。市内の学校で新年度がはじまる9月から実施する予定です。

また、ワクチンを接種していない職員には、来月2日から屋内でのマスク着用を義務付けるということです。

一方、ニューヨークのクオモ州知事は、州内の1日あたりの新たな感染者数が先月から6倍近く増加しているとした上で、接種率が低い地域での接種を促進させるための活動に1500万ドル、日本円で16億5000万円あまりを投入する考えを明らかにしました。

一方、カリフォルニア州でも、来月から州の職員や医療従事者に接種の証明が求められ、接種していない人は、検査が義務づけられると発表されています。【7月27日 日テレNEWS24】
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ただ、連邦レベルでは、バイデン大統領はワクチン義務化はこれまでのところ否定しています。
ワクチン接種が分断を深める政治問題化するのを避ける意図のようにも思われます。

ただ、ワクチン接種の進捗が壁にぶつかっているバイデン政権としては、なんとか接種を進めたいところ。
連邦レベルで言えば、まずは軍への対応が考えられますが、軍内部にも義務化には反対論があるようです。

****米軍へのワクチン接種義務化に内部から反対の声、その理由は****
米国のバイデン大統領は、7月4日の独立記念日までに新型コロナウイルスのワクチン接種によって集団免疫を獲得し、ウイルス感染からの「独立」を達成することを政策目標に掲げていた。

実際、3月頃までの接種人数は急速に増加していった。しかし、4月半ばを過ぎた頃には、感染力が強い変異株に対抗するには総人口の80~85%の人々へのワクチン接種を完了させなければ集団免疫を獲得することはならないとの予測がなされ、集団免疫の獲得は極めて厳しい状況になった。

そのためバイデン政権は、集団免疫の達成は困難だとしても、重症化や死者を抑えるため、独立記念日までに総人口の70%がワクチン接種を完了することを新たな目標に設定した。

ところが、アメリカ中にワクチンがふんだんに行き渡り、IDさえ持参すれば誰でもいつでも接種できるような状態になったにもかかわらず、ワクチン接種のスピードは低下しはじめた。

ワクチン接種率が予想をかなり下回って頭打ちになってしまったため、バイデン大統領は独立記念日までに人口の70%の人々が少なくとも1回目のワクチン接種を終えていることを新たな目標として掲げ直した。

様々な州などでは、1年分のレストランでの飲食券、航空券、州立大学の学費免除、散弾銃やライフル、そして1億円などが当たるクジ付きの接種勧誘キャンペーンが開始された。

しかしながら、いくら景品でワクチン接種を加速させようとしても政府の思惑どおりにワクチン接種者は増えず、頭打ちの状態が続いている。結局今年の独立記念日までに少なくとも1回の接種を済ませたのは総人口のおよそ55%にとどまり、バイデン大統領の目標は達成されなかった。

とはいっても、迅速なワクチン接種によってウイルスの脅威から脱却し、経済活動を可及的速やかに再開させることを公約しているバイデン政権としては、ワクチン接種の努力を諦めるわけにはいかない。そうした中で白羽の矢が立てられたのが、米軍関係機関である。

バイデン政権の意向を受けた国防総省首脳や各軍首脳陣は、新型コロナのワクチン接種の義務化に関する検討や準備を開始した。

7月に入ると、米陸軍当局は9月1日から原則として全ての陸軍関係者たちにワクチン接種を義務化する方針を打ち出し、陸軍内の各司令部に対して、接種義務化に向けての準備を始めるように命令を発した。陸軍に引き続いて、空軍や海軍などにおいてもワクチン接種義務化へ向けた検討が始められている。

この義務化は、現役の軍人のみならず軍属や軍関係の取引業者それに退役軍人までをも対象にすることが検討されている。

こうした軍当局の動きに対して、一部の軍関係者たちからは、かなり強硬な反対意見が聞こえてきている。
筆者が耳にしている反対意見は主として、大佐レベル以上の現役・退役高級将校や、感染症やウイルスに知見の深い科学者を含む軍関係機関の研究者、それに軍事研究に関与している高等教育機関の学者などからだ。(中略)

中には陰謀論に近いような反対意見もないわけではない。(中略)しかし、より軍人的ともいえる政治哲学的な反対意見として、以下のようなものもある。

現在アメリカ国内で使用されているワクチン(米ファイザーと独ビオンテック、米モデルナ、米ジョンソン・エンド・ジョンソンがそれぞれ開発した3種類)はいずれもFDA(食品医薬品局)による正式承認を得ていない。

それらは全て「緊急時使用」が許可になっている状態であり、いまだに治験中の医薬品である。すなわちアメリカにおいて12歳以上の希望者に実施されているワクチン接種は、大規模集団治験という実験的医療行為にすぎない。

そのような実験的医療行為を軍隊に対して「強制」しようとしているバイデン政権は、新疆ウイグル自治区やチベット自治区で人権弾圧をしている中国共産党政府と、何ら変わりがないと考えざるを得ない、という批判だ。

彼らは、「そもそもアメリカの軍隊は『アメリカの敵』と戦って、アメリカを守るために存在している。アメリカの敵とは、アメリカの政治システムである民主主義、アメリカの経済システムである資本主義、それぞれの根本に横たわっている自由主義をないがしろにする勢力である」と考える。

そして、「軍関係の個々人の自由意思を無視して、ワクチンを強制的に接種させるという行為は、自由主義の原則を踏みにじることにほかならない。もちろん公共の福祉のために私権の制限を容認せざるを得ない場合もあるが、今はまだ集団治験に過ぎないワクチン接種に強制参加させることは、自由主義そして民主主義国家における公共の福祉とは相いれない」と批判する。

「アメリカの敵」と戦い勝利する義務を負っているアメリカ軍人ならば、自由主義を守り抜くというアメリカ軍存立の根幹を揺るがすような政治的命令に対しては敢然として反対の立場を貫かなければならない――。そんな声が渦巻いているのだ。こうした反対の声がある中で、米軍内でのクチン接種の義務化はどう進んでいくのか、今後の動きを注視している。【7月19日 GLOBE+】
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「自由というのは、脱税や高速道路の逆走をすることでも、飲食店内で喫煙することでも、自分と他者を同時に守るワクチン接種を拒否することでもない」(フランス・オリビエ・ベラン保健相)

ワクチンへの抵抗感がない私個人的には同意しますが、「自由」とらえ方はというのは立場によって様々。
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イギリス  コロナ規制を廃止するジョンソン首相の「賭け」 19日は「自由の日」 日本でも必要な議論

2021-07-12 23:07:37 | 疾病・保健衛生



(【ロイター COVID-19 TRACKER】イギリスのコロナ新規感染者と死者の推移)

【ワクチン接種普及で、新規感染者は増えても重傷者・死者は抑えられる】
新型コロナに関しては、日本・東京の感染状況に加えて、イギリスの感染状況を示す上記グラフに注目しています。

イギリスでは感染力の強いデルタ株の広がりによって6月以降、新規感染者は再び急増していますが、今のところ死者数はさほど増えていません。

これをワクチン普及の効果として、ジョンソン首相が感染者増加の中での規制廃止という決断を下していることは、7月6日ブログ“イギリス ワクチン接種進捗、死者激減を背景に規制撤廃し「コロナとの共生」に”でも取り上げました。

イスラエル政府は先週、デルタ株に対する米ファイザー製ワクチンの感染防止効果は64%、重症化や入院を防ぐ効果は93%と発表しています。

この情報が正しければ、ワクチン未接種もいますので新規感染者は増えるにしても、重症化して死亡に至る事例は相当に制御できるということにもなります。

****デルタ株拡大の影響、イスラエルと英国の前例から分かることは*****
米国で新型コロナウイルスの変異株「デルタ」の感染が拡大するなか、数週間前からデルタ株が優勢となっているイスラエルと英国の前例を基に、専門家らはワクチン接種の重要性を指摘している。

デルタ株はインドで最初に見つかった変異株で、感染力の強さが指摘される。
イスラエルではすでにデルタ株が新規感染の9割を超えた。国内で最初にデルタ株が確認された4月中旬と比べ、1日当たりの新規感染者数は2倍に増えている。

一方で死者数は、当時の1日当たり5人を下回る状態が続き、5月の最終週以降は平均2人未満にとどまっている。
英国では5月中旬にデルタ株が確認された時と比べ、新規感染者も死者も増加した。ただし感染者が約12倍と急増したのに対し、死者数は2倍前後だ。

死者数は感染者数より2〜3週間遅れて増加する傾向がある。これを考慮した比較でも、3週間前の感染者数は最新の死者数より急激なペースで増えていたことが分かる。

イスラエルと英国の例から、デルタ株の感染拡大によって、必ずしも従来のように死者が急増するわけではないと主張する専門家もいる。

特に注目されるのは、イスラエルの死者が少ない点だ。これは同国でワクチン接種が進んでいるためだと、専門家は指摘する。

英統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると、イスラエルではデルタ株が確認された時、国民の約56%が接種を完了していた。一方、英国の接種完了者はデルタ株確認の時点でわずか2%。数日前にようやく50%に到達した。

イスラエル政府は先週、デルタ株に対する米ファイザー製ワクチンの感染防止効果は64%、重症化や入院を防ぐ効果は93%と発表した。

米ノースカロライナ大学の疫学者、ジャスティン・レスラー教授は、デルタ株への効果は従来株よりわずかに低下する程度だと指摘。これを考えれば、米国内での見通しも比較的明るいとの立場を示す。(後略)【7月12日 CNN】
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新型コロナ対策では手回しのいいイスラエルでは、念のため3回目の追加接種も始まっています。

****イスラエル、ワクチンの3回目接種開始 リスク高い成人対象に****
イスラエル政府は11日、新型コロナウイルスのワクチン接種について、免疫力の低い成人を対象に米ファイザー製のワクチンの3回目の接種を開始すると明らかにした。一般成人の3回目接種は検討中という。

イスラエルでは変異ウイルス(デルタ株)の感染が急速に拡大しているため、ここ1カ月で1桁台だった1日当たり感染者数は450人前後に増加している。そのため、ワクチン接種率も再び上昇しており、政府はファイザー製ワクチンの次回出荷を早めることにした。

ホロヴィッツ保健相は公共ラジオ番組で、ファイザーのワクチンを2回接種し、免疫力が低下している成人は、直ちに3回目の追加接種(ブースター接種)を受けることができると説明した。

一般人へのブースター接種については「まだ検討中で、最終的な答えは出ていない」と語った。

ファイザーのミカエル・ドルステン最高科学責任者は8日、同社が独ビオンテックと開発した新型コロナウイルスワクチンについて、3回目の追加接種の許可を来月中に米食品医薬品局(FDA)に申請する方針を明らかにした。

2回目の接種から半年経過すると再感染リスクが高まる証拠が出てきたことや、感染力の強いデルタ株の広がりを理由として挙げた。【7月12日 ロイター】
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【「自由の日」に向けたションソン首相の「賭け」】
でもって、イギリス・ジョンソン首相は19日におおかたの行動規制を解除し、経済活動を再開させる方針です。

前回ブログでも触れたように、よいことだけでなく、病気・禍も基本的には個人の責任で向き合うものという価値観というか、社会生活に関する基本理念みたいなものが前提にあって、現在のように個人の生活を政府が規制する「異常事態」を終わらせ、各自が自分で判断する通常の生活に戻ろうというもののようです。

“政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐよう訴えた”【7月6日 AFP】

その場合、ある程度の犠牲は受け入れなければならないとの覚悟も。
「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」(ジョンソン首相)【同上】

****デルタ株でコロナ感染リバウンドでも規制全面解除 英首相ジョンソンの「賭け」****
ジョンソン英首相は、ロンドンを含めたイングランド地域で新型コロナウイルス感染対策として実施しているロックダウン(都市封鎖)を19日に全面解除し、経済活動を再開させる方針だ。しかし、実行に移せば、これまで首相が従っていた助言を提供してきた科学者の一部から、不安視する声が出てくるのは間違いない。

英国は世界で最もワクチン接種が進んでいる国の1つだが、新たな感染拡大にも直面している。そこでジョンソン氏は、人々の活動を止める代わりにウイルスとの共生を目指すという「賭け」に出た。これは、感染力の強いインド由来の変異株(デルタ株)からワクチンが人々をどれぐらい守れるかを探る世界初の試みでもある。

ジョンソン氏は、デルタ株の急速な浸透で何千人も死者が増える恐れがあると警告した後、行動規制をほぼ全て撤廃するいわゆる「自由の日」を既に4週間先送りし、ワクチン接種率を高める努力をしてきた。そして、足元では成人人口の86%超が1回目の接種を終え、2回とも完了した割合も3分の2近くに達したため、19日を行動制限の最終日に定めたのだ。

ただ、インペリアル・カレッジ・ロンドンの伝染病学者アン・コリ氏は、ロイターに対し、英国が増加を続ける感染者とともに日常を過ごせると宣言するのは早過ぎると警告。規制解除を再び遅らせるのが有益だろうとの見方を示した。コリ氏がかかわっている統計モデルは、ジョンソン氏が「自由の日」をいったん延期する決定を下した際の判断要素の1つになった。

コリ氏は「規制解除延期は時間稼ぎになると思う。われわれにはウイルスの感染力を低下させる介入手段がある」と述べ、追加接種やまだ、英政府が実施を決めていない子どもへの接種などに言及している。

また、100人余りの科学者は医学雑誌・ランセットへの寄稿で、ジョンソン氏の行動規制全面解除方針を「危険で時期尚早」と批判し、高水準の感染者数を容認するのは「反倫理的かつ非合理的」と訴えた。

これに対してジョンソン政権側は、考慮に入れるべき要素は単に伝染病学の視点だけにとどまらないと反論するとともに、新型コロナウイルスで死者が増えても、それを甘受する姿勢だ。

ジャビド保健相は、新型コロナ以外の医学や教育、経済上の問題がパンデミックを通じて蓄積されており、感染者数が1日当たり10万人に達したとしても、社会を正常に戻す必要があると述べた。

英国内では学校が夏休みの今こそが、今年で最も規制解除に望ましい時期だと唱える向きが存在する。この考え方とジョンソン氏が新たな過ちを犯そうとしていると考える向きの間で激しい論争が勃発した。

ジョンソン氏は昨年、ロックダウン導入が遅きに失し、英国の新型コロナ死者数が世界有数に増加したとして批判を浴びた。

デルタ株の場合、ワクチンは感染予防よりも死亡と重症化を食い止める面で効果を発揮しているように見える。その結果、英国の新規感染者は急増しながらも、死者数の増加ペースはそれほどではない。

具体的には、1日当たり新規感染者数は現在2万5000人超と5月半ばの10倍以上に膨らんでいる半面、死者数は4月半ば以降ずっと1日当たり30人未満で推移。これはワクチンが生命を救っている証拠だ、と科学者は指摘する。

一方で、幾つか警戒すべき兆しも出ている。例えば、今の新型コロナ感染による入院者数は1日約350人と、過去の感染の波に比べれば格段に少ないとはいえ、直近7日間で45%も増加している。

英国とともに世界で接種ペースが最速クラスのイスラエルでは、最近の感染増加を受けて、重症者や死者が少ないにもかかわらず、政府が一部規制の再実施を検討しているところだ。

実験の行方
キングス・カレッジ・ロンドンの伝染病学者、ティム・スペクター氏は、国民が新型コロナウイルスとの共生を学ぶべきだという政府の認識を歓迎する一方、マスク着用義務撤廃の表明などには疑問を投げ掛けた。マスク着用は経済的なコストがほぼゼロである上に、重症化リスクのある人々を守るだけでなく、若者が感染して長引く後遺症に悩まされるのを予防する効果があるからだ。

新型コロナウイルス感染症の症状研究に利用するアプリ「ZOE」を運営するスペクター氏は「経済に影響を与えずに、われわれができることはある。それが十分に強調されているとは思えない」と首をひねった。

英政府は12日、インペリアル・カレッジ・ロンドンとウォリック大学、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院が提供するモデルの更新版を公表する予定。イングランド主任医務官のクリス・ウィッティ氏は、モデル分析結果に基づくと、今回の感染ピークは今年1月に見られたほどの重圧をもたらさないとの見解を示した。

ケンブリッジ大学の「ウィントン・センター・フォー・リスク・アンド・エビデンス・コミュニケーション」を主宰するデービッド・スピーゲルハルター氏は、ロイターに「これ(規制全面解除)は実験だ。そう呼ばざるを得ないと思う」と語り、規制解除に動くなら今が最適だとするウィッティ氏らの判断を尊重するとしながらも、微妙な状況にあるのも確かだとの認識を示した。【7月11日 Newsweek】
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EU離脱といい、今回の「自由の日」といい、ジョンソン首相は性格でしょうか、「賭け」がお好きなよう。

EU離脱の方は、離脱実現という序盤の賭けには勝ちましたが、その結果どうなるのか・・・という本来の勝ち負けの判定はもう1,2年、あるいは数年待つ必要があります。

「自由の日」の方は、白黒決着は早いでしょう。

【もう少し「慎重さ」の配慮は必要】
****英ワクチン担当相、コロナ規制解除に自信 屋内はマスク着用義務****
英国のザハウィ・ワクチン担当相は11日、イングランドで19日から計画している新型コロナウイルス感染規制の解除に自信を示す一方で、屋内では引き続きマスクの着用が必要になるとの見通しを明らかにした。

ジョンソン首相は先週、マスクの着用や社会的距離、在宅勤務などに関する一連の規則撤廃に向けた詳細な案を発表。12日に最終的な実施許可を出すとみられている。

専門家や政府に批判的な人たちの間には、感染者が増える中で規制解除に動くことに懸念の声が出ている。政府はこれに反論。ワクチン接種が進み、感染と重症化・死亡との関連がおおむね断ち切られてきたとしている。

ザハウィ氏はスカイ・ニュースに対し、「(規制撤廃の)第4段階に進めると確信している。ただ慎重に警戒を続けるのは重要で、明日発表する指針には屋内の閉ざされた場所でのマスク着用義務など、こうした姿勢が反映される」と述べた。(後略)【7月12日 ロイター】
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“ただ慎重に警戒を続けるのは重要”としつつも、大胆な「実験」も。

****英・6万人超がマスクなし観戦 「大規模イベント再開に向けた実験」サッカー欧州選手権決勝****
東京オリンピックがほとんどの会場で無観客となる一方、イギリスでは、6万人を超えるサポーターが、サッカー・ヨーロッパ選手権の決勝をマスクなしで観戦した。

イングランド対イタリアとなった決勝戦は、6万人を超える観客の入場が認められた。
入場の条件として、ワクチン接種などが求められたが、マスクの着用は義務付けられなかった。

観戦に来た市民「僕はもうワクチンを打った。(この決勝は)一生に一度のことだから、このあと10日間隔離になっても構わない」

また、各地でパブリックビューイングも実施され、大勢の市民がイングランド代表に声援を送った。
イングランド代表は、PK戦で敗れたが、試合後も多くの市民が街に繰り出し、選手をたたえる姿も見られた。

イギリス政府は、今回の試合を「大規模イベント再開に向けた実験」と位置づけられていて、さらに19日からは大幅な外出制限の緩和に踏み切る方針。【7月12日 FNNプライムオンライン】
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試合後の街での大騒動の様子を見ると、19日以降の「慎重な警戒」はほとんど意味を持たないのでは・・・という不安も。

【新規感染者増減に一喜一憂するばかりの日本】
そうした不安もありますし、もう少し「慎重さ」が必要ではないかとも思いますが、日本でも、感染者増加に一喜一憂するのではなく、「コロナとの共生」のあり方について、また、イギリスのような判断について冷静に検討していいのではないかと思います。(その前提となるワクチン接種がここにきて迷走している現実もありますが)

****橋下徹氏、東京へ4度目の「緊急事態宣言」に「感染者数ばっかりに注目するのは違う」****
(中略)橋下氏は、東京への4度目の緊急事態宣言に「僕はさっぱり分からないという立場です」とした上で「イギリスは、今、1日あたり2万7000人、2万8000人の感染者数です。それでも社会経済活動は完全に再開していこうという発想なんです。ジョンソン首相がそういうふうに舵を切りました。

それは死者数とか重症者数がすごい抑えられているんです。ワクチンの効果によって。だから、僕は、日本でもそういう議論を専門家にしてもらいたい」と提言した。  

さらに「その辺の情報は、はっきり分からないんです。日本の重症者数、死者数がどうなのか。特に感染者数のうち65歳以上の高齢者数の割合が1割切っているという報道も聞いてますから、重症者化リスクがそんなに伸びないんだったら、ある意味、感染者数は容認していかないと」と指摘した。  

続けて「例えばインフルエンザなんかは、普通は毎年、1千万人の感染者数が出ている。でも大騒ぎしないのは死者も重症者もワクチンとか薬で抑えられているからなんです。だからそのあたりの議論を専門家でやってもらいたい。感染者数ばっかりに注目するのは違うんじゃないかと思うんです」とコメントしていた。【7月8日 スポーツ報知】
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****橋下徹氏 感染者ゼロ目標は違う「政治家が言わないと」ワクチン普及で重症者減少****
(中略)橋下氏は日本、特に東京での感染状況は、新規感染者が急増傾向にあるが、一方で「(感染する)重症者の数とか、感染者数のうち高齢者の割合も少なくなってきてる」と指摘。

「ワクチン接種が普及しても、イギリスなんて1日あたりの感染者数、3万人ですよ。ワクチンがどれだけ普及したって、感染者ゼロにならないんですよ。死者だってゼロにならないんですよ」と説明し、「じゃあ、どこまでのリスクを許容するのかっていうのを、これ、ものすごい批判の出る判断、メッセージか分からないけど、やっぱり政治家が言わないと」と感染者ゼロを目指すのでなければ、政治家が明確にその“目標”をはっきりと国民に伝えるべきだと提言した。  

その上で「ワクチンいくら普及したって、あのイギリスとかアメリカでも(新規感染者)ゼロになってないんですから」とワクチンの普及が進み、重症化リスクの高い高齢者の感染が減少する中、ゼロリスクを目指すのは違うとの考えを示した。  

橋下氏は「医療側の人は一生懸命頑張っていただいて、敬意を表さなければいけないけど」と断った上で発言に及んだ。【7月12日 デイリー】
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ジョンソン首相の「賭け」には賛否あるとは思いますが、「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」という発言は指導者としての冷静な判断だと思いますし、そういう発言が許されない風土があるということが日本政治の欠陥だと思います。

「一人の感染者も、犠牲者も出してはならない」みたいな精神論に近いような議論はそろそろ終わりにしないと。

私は橋本氏と意見が一致することは多くはないのですが、今回は意見が一致したようです。



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イギリス  ワクチン接種進捗、死者激減を背景に規制撤廃し「コロナとの共生」に

2021-07-06 23:14:20 | 疾病・保健衛生

(新型コロナウイルスによる観客数制限が緩和され、テニスを観にウィンブルドンに戻ってきた観客(7月5日)【7月6日 Newsweek】)

 

【「政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐ」「さらに死者が出ることを受け入れなければいけない」】

イギリスのジョンソン首相は5日、ロンドンを含む南部イングランドで、早ければ19日から新型コロナの行動規制をおおかた撤廃する方針を表明しました。

 

公共交通機関内でのマスク着用の義務を含む一連の法的規制を撤廃、「ウイルスと共生」しながら社会・経済活動の再生を模索する方針です。

 

イギリスでは、インド由来の変異株が急速に広がっており、5日発表の新規感染者数は2万7330人を記録。ジョンソン首相は「終息はほど遠い」と警告しつつも、ワクチン接種が進んだことで、入院患者数や死者数が流行のピーク時ほど増えていないと判断したとのこと。【7月6日 共同より】

 

****英イングランド、マスク義務など解除へ 自己責任のコロナ対策訴え*****

ボリス・ジョンソン英首相は5日、イングランドで新型コロナウイルス対策として導入されているマスク着用義務やソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)などの規制の大半を今月19日に解除すると発表した。政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐよう訴えた。

 

規制の全面解除は当初6月21日に予定されていたが、感染力の強いデルタ株の感染拡大を受け延期されていた。英国では現在までに、デルタ株が新規感染のほぼすべてを占めるまで拡大。新規感染者が急増し懸念を生んでいる一方で、大規模なワクチン接種が奏功し、入院患者や死者の急増には至っていない。

 

ジョンソン氏は「このパンデミック(世界的な大流行)は終わりには程遠い。19日までに終わることは決してない」と警告。「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」と述べた。

 

英国の成人のうち、新型ウイルスワクチンの1回目接種を済ませた人の割合は約86%、2回目接種を終えた人は63%となっている。ただ、自己責任での対策を強調する政府の姿勢に対しては科学者から懸念の声も上がっており、デルタ株の拡散や新たな変異株の出現により医療機関が再び逼迫(ひっぱく)する恐れが指摘されている。 【7月6日 AFP】

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政府が何もしなくなる訳でもありません。

 

“ジョンソン首相は1メートル以上の社会的距離政策、結婚式や葬式など集会や飲食店の制限、リモートワークを解除するとともにナイトクラブも解禁する方針を明確にした。マスク着用は法的義務ではなくなったものの、「3密」状態で普段会わない人に接触する時はマスク着用を勧める政府のガイダンスが示される。現在の厳格な渡航制限は維持される。”【7月6日 Newsweek】

 

“英政府は迅速検査やPCR検査、抗体検査に加えてゲノム解析も実施して変異株の流行に目を光らせており、検査や接触追跡アプリで感染者や濃厚接触が疑われる人をあぶり出して、自己隔離を求め感染拡大を防ぐ方針だ。”【同上】

 

今回のジョンソン首相の判断に関して、いろんな意味で、日本とは違うものを感じます。

 

形式的な話では、今回決定は「イングランド」におけるもの。

イギリスは周知のようにイングランドウェールズスコットランド北アイルランドという歴史的経緯に基づく4つのカントリー(「国」)の「連合王国」ですが、イングランド以外のカントリーにおける同様の判断を決定するのはジョンソン英首相でしょうか? それとも州政府でしょうか?

 

本質的なところでは、“政府の命令ではなく、個人の自己責任により感染を防ぐよう訴えた”・・・今のように個人の生活を政府が規制する「異常事態」を終わらせ、各自が自分で判断する通常の生活に戻ろうというもののようです。

 

今回の決定の根底には、よいことだけでなく、病気・禍も基本的には個人の責任で向き合うものという価値観というか、社会生活に関する基本理念みたいなものがあるようです。

日本の場合、このあたりが曖昧で、なにかも「おかみ」にすがる、委ねる、あるいは要求する傾向もあるようにも。

 

そうした個人と政府に関する基本理念の前提があっての「悲しいことながらも、新型ウイルス感染症によりさらに死者が出ることを受け入れなければいけない」・・・日本の首相がこれを言ったら、責任放棄との猛批判を浴びて退陣でしょうか。

 

私は個人的には納得できる考えです。

生きていくうえでは、災いはコロナだけではありません。コロナだけにひきずられていては、他の面倒・災いが襲ってきます。コロナのリスクを判断して「まあ、このくらいなら仕方あるまい。」という判断があっていいと考えます。

 

もちろん、その判断の前提となるのは、“1回目接種を済ませた人の割合は約86%、2回目接種を終えた人は63%”という、日本(1回目接種を済ませた人の割合は約25%、2回目接種を終えた人は14%に比べたら圧倒的なワクチン接種の進捗です。

 

“自然感染やワクチン接種による抗体保有者は35歳以上で92.7%に達している”【7月6日 Newsweek】

 

そして、その結果としての、新規感染者が増加しても入院患者や死者の急増には至っていない現実です。

 

“イングランド公衆衛生庁によると、米ファイザー製ワクチンを2回接種すれば入院や重症化を防ぐ有効性は96%、英アストラゼネカ製ワクチンの入院・重症化防止の有効性も92%だ。”【同上】

 

【なぜ今なのか?】

もちろん、こうした判断への批判が科学者などから出ているのは上記記事にもあるところですが、そうした批判があるにもかかわらず、いつかは今の「異常事態」を終わらせなければならないにしても、なぜジョソン首相は「今」その決定に踏み切ったのか?

 

“ジョンソン首相は「このパンデミックは終わりには程遠い。警戒を怠るわけにはいかない。ワクチンが効かない新たな変異株が出てきた時は社会を守るためにいかなる手段であっても講じる必要がある。しかし、寒くなる秋に正常化するのを想像することは困難だ」と学校が休みになる夏に正常化する理由を述べた。”【同上】

 

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英イーストアングリア大学ノリッジ医学部のポール・ハンター教授は「コロナが消えてなくなることは決してない。それほど遠くない将来、コロナは毎年大人より子供がひく一般的な風邪になるだろう。コロナに繰り返し感染することが避けられない場合、問題はすべての制限を解除するのが安全か否かではなく、いつ解除するのが最も安全かということだ」と指摘する。

 

「秋まで解除を先延ばしすると、学校が再開されるので感染が増え、秋の3回目接種に先立ってワクチンによる免疫が弱まるとともに季節性呼吸器感染症が増え始めるかもしれない。

 

コロナに感染する前後にインフルエンザにかかった場合、死亡するリスクは約2倍になる。おそらく今年か来年の冬にインフルエンザが流行り、被害を広げる恐れがある」という。【同上】

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ただ、「今」規制を解除した場合、秋に解除するのに比べて、秋・冬の被害を少なくすることになるのか・・・よくわかりません。

 

注目すべき点は「秋の3回目接種」がすでにスケジュールに組み込まれているところ。

1回目接種すらままならない状況の日本と異なるところです。

 

【コロナによる死もインフルエンザと同じように日常の光景になっていくのかも】

****7月19日に正常化するイギリス 1日5万人の感染者も許容範囲内 「コロナとの共生」を模索****

<「パンデミックは終わりには程遠い」と言いつつ「正常化」に踏み切ろうとするジョンソン英首相がよって立つ根拠とバランス感覚>

 

[ロンドン発]デルタ(インド変異)株が猛威をふるうイギリスで新規感染者数が2万7千人を超える中、ボリス・ジョンソン首相は5日「ワクチン接種が進み、感染と死亡の関係を断ち切ることができた。コロナと共生する新しい方法を見つけなければならない」と19日に正常化する見通しを確認した。しかし、その"コロナ自由記念日"には感染者は1日5万人に達するという。

 

イギリスの"コロナ自由記念日"は当初、6月21日に設定されていたが、デルタ株の大流行に対してワクチン展開の時間を稼ぐため4週間延期された。12日に最新データを確認した上で最終決定するという。(中略)

 

科学者の意見は二分

しかし7月19日に法的制限を解除して、個々人の自発的な感染防止策に委ねることを懸念する声もある。科学者の意見も二分している。

 

英インペリアル・カレッジ・ロンドンのリチャード・テダー教授(医療ウイルス学)は「ワクチンは現在、感染を防ぐのではなく、発症を防ぐために使用されている。行動制限を解除すれば、ワクチンに対してさらに耐性を持ち、より感染力のある変異株を生む非常に現実的なリスクを伴う。感染しても発症率が低いことを強調するのは危険だ」と指摘する。

 

英リーズ大学医学部のスティーブン・グリフィン准教授は「焦って制限を解除すると、デルタ株による感染者数を劇的に増やし、不必要な害をもたらす恐れがある。感染と重症化の関連性はワクチン接種で弱められているが、なくなっていないことはほぼ確実だ。若者やワクチン未接種者の入院が増え、重症化や長期コロナ感染症がみられるだろう」と警戒する。

マスク着用が法的義務ではなくなったことについて、英ブリストル大学コンピューターサイエンス学部のローレンス・エイチソン講師(機械学習・計算論的神経科学)は「私たちの調査では、全員がマスクを着用した場合、コロナの蔓延は約25%減少する。人々はマスク着用に慣れてきた。通常の活動を再開する一方で、マスクを着用することはリスクを管理するために誰にでもできる簡単なことだ」という。

 

イギリス医師会(BMA)公衆衛生医学委員会のピーター・イングリッシュ前議長は「デルタ株は空気中を伝わって感染する。集会の規模が大きくなるほどリスクは高くなるが、適切な換気によってリスクを軽減できる。次善の策はマスクだ。店内や公共交通機関などでのマスク着用は邪魔にはならない」と語る。

 

「インフルエンザと同じように途中で犠牲者が出る」

(中略)

英レスター大学のジュリアン・タン名誉准教授(臨床ウイルス学)は「経済と教育を再開するためには制限を解除する必要がある。しかしデルタ株に感染して入院する人が徐々に増加している。ワクチンや自然感染による免疫が長期コロナ感染症やさまざまな変異株に効くかどうか分からない。感染の拡大により新たな変異株が生まれてくる」と解説する。

 

「こうした事情を考えると、自発的なマスク着用などある程度の個人的な制限を維持することは感染を遅らせる上で賢明かもしれない。しかし、これらはすべて"ウイルスと一緒に暮らすことを学ぶ"プロセスの一部だ。インフルエンザと同じように残念ながら途中で犠牲者が出るだろう」

 

英イングランドではインフルエンザによる死亡は2016年度で約1万5千人、17年度には約2万2千人にのぼった。コロナではこれまでに15万2606人が死亡している。因果関係が分からないものがほとんどだが、ワクチン接種後に亡くなった人も1403人に達する。これから2度目の冬に向け、死者はどれぐらい増えるのだろうか。

 

コロナによる死もインフルエンザと同じように日常の光景になっていくのかもしれない。【7月6日 Newsweek】

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“コロナ自由記念日”というのは、いささか不適切な名称だとは思いますが、そのとき予想される感染者は“1日5万人”・・・イギリスの人口は日本の半分ほどですから、日本に置き換えると“1日10万人”(現在の日本の感染者は1日千数百人レベル)・・・それでも規制を廃止するという判断です。

 

ウイルスと一緒に暮らす以上はある程度の犠牲者は避けらない。それが一定範囲に収まる見込みがあれば、社会生活を「正常化」させ、その犠牲も受入れていこう・・・という判断です。

 

最初にも触れたように、今の個人生活が規制された状態は「異常」であり、どこかで終わらせなければならないという考えにたった判断であり、マスク着用や自粛を違和感なく受け入れる日本社会とは異なります。

 

もっとも、日本でも「緊急事態宣言」とか「まん延防止」とか対策をとっても、人の動きは以前ほど変化しない現実も生じています。

 

「規制疲れ」「慣れ」とか言っていますが、政府・メディアは口にはしないものの、人々の間で「まあ、こんなものだろう」という「ウイルスとの共存」に関する認識が一定に広まっている結果ではないでしょうか。

 

【「闘いが終わったわけではない」が「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている」】

事情はアメリカもイギリスと似ています。

独立記念日、ホワイトハウスのパーティーでバイデン大統領は「「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている」「アメリカは戻ってきた」と社会の正常化をアピールしました。

 

****「アメリカは戻ってきた」専門家から懸念も****

ワクチン接種が進むアメリカは、独立記念日を迎えました。ホワイトハウスにはおよそ1000人が招待され、マスクなしの密集状態でパーティーが開かれました。(中略)


■アメリカ ホワイトハウスの庭でパーティー…批判の声も
(アメリカ 感染者3371万7574人 死者60万5526人 米ジョンズ・ホプキンス大 5日午後5時時点)

世界最多の3300万人以上が感染したアメリカ。

ホワイトハウスの庭では、1000人が招待されたバーベキューパーティーが開かれました。市内では花火も打ち上げられ、市民はお祝いムードに包まれていました。

独立記念日を迎えた4日、バイデン大統領は─。

バイデン大統領
「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている。ただ、ウイルスとの戦いは終わっていない。まだやるべきことが多くある」

「アメリカは戻ってきた」と社会の正常化をアピールしました。

ワクチン接種が進むアメリカでは、CDC(=疾病対策センター)が5月、マスク着用の指針を緩和し、ホワイトハウスでは、およそ1000人がマスクなしの密集状態でパーティーが開かれました。

アメリカの人は―
「こんなに大勢の人と過ごすのは(パンデミック以降)初めてです」

一方で、大統領は、この日までに18歳以上の7割の接種を目標に掲げていましたが、1回の接種を終えたのはおよそ67%に留まっています。

ただ、ある専門家が「ウイルスからの独立を祝うことが、まだ接種していない人へ誤ったメッセージに」と懸念を示すなど、ホワイトハウスのイベント開催には、批判の声も挙がっています。(後略)【7月5日 日テレNEWS24】

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****米バイデン大統領 独立記念日演説 コロナ対策「闘い終わらず」****

アメリカのバイデン大統領は独立記念日の4日、ホワイトハウスで演説し、新型コロナウイルス対策が進み、社会が正常化に近づいていると強調する一方「闘いが終わったわけではない」と述べ、ワクチンの接種を改めて呼びかけました。

 

バイデン大統領は独立記念日の4日、ホワイトハウスに招待した医療従事者や軍の関係者らおよそ1000人を前に演説しました。

この中で、バイデン大統領は「この国やあなたが1年前にどういう状況だったかを思い出してください。感染拡大がもたらした孤立、痛み、愛する人を亡くすつらさなどの暗闇から、われわれは抜け出しつつある」と述べ、感染対策によって社会が正常化しつつあると成果を強調しました。

そのうえで「新型ウイルスとの闘いが終わったわけではない。強力な変異ウイルスも出てきている。最大の防御はワクチンを接種することだ」と述べ、国民に改めて接種を呼びかけました。

アメリカでは、ワクチンの接種が進んでいることを受けて経済や社会の活動を再開する動きが広がっていて、首都ワシントンの中心部にある広大な緑地帯「ナショナル・モール」ではこの日、大勢の人がマスクを着用せずに集まって独立記念日を祝うなど、日常が少しずつ戻ってきています。

しかし、バイデン大統領が掲げていた、この日までに18歳以上の70%がワクチンを少なくとも1回接種するという目標は実現しておらず、1日当たりのワクチンの接種回数はピーク時のおよそ6分の1とペースの減速が顕著になっていて、感染対策にはまだ多くの課題が残っています。【7月5日 NHK】

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「ウイルスからの独立宣言にかつてないほど近づいている」と「闘いが終わったわけではない」のどちらに重点があるのか・・・・気分としては前者でしょうか。

 

とにもかくにもワクチン接種を進めないと話にもなりません。(ワクチン接種で十分という訳ではありませんが)

日本も1日120万回ペースにもなり、(致命的に遅すぎたものの)ようやくエンジンがかかったかな・・・と思っていたら、ここにきて職域・大規模接種の抑制・中断という息切れ状態は周知のところ。

 

やれやれ・・・って感じです。

 

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途上国・貧困層の多くが亡くなるなかでも大手製薬会社の特許権は守られるべきか? コロナで議論再燃

2021-05-05 23:37:08 | 疾病・保健衛生

(インドの首都ニューデリーの火葬場で、新型コロナウイルスによる死者の遺体を火葬する準備をする親族ら(2021年5月2日撮影)【5月4日 AFP】  

インドの一日の新規感染者は35万人レベルとされていますが、しかし、研究者が計量モデルで分析した結果、1日当たりの感染者数の実数は100万人単位に達している可能性が高いとも)

 

【医薬品の特許権をめぐる問題 エイズの教訓】

現在の国際交易においては知的所有権の保護が中心課題となっています。

 

知的所有権には、芸術的学術的表現保護する「著作権」、技術的発明保護する「特許権」、アイデア保護する「実用新案権」、物品デザイン保護する「意匠権」、商品サービスマーク保護する「商標権」などがあります。

 

要するに、特許権などで開発者の利益を保護し、違法なパクりなどによる権利侵害を防ぐということです。

 

一般論としては正当な主張です。

ただ、往々にして問題となるのは医薬品特許の問題。

 

いろんな治療薬が開発されたこともあって、最近では話題になることが少なくなりましたが、一時期世界中を震撼させたのがエイズ。

 

2000年前後、確かにエイズ治療薬は開発されたものの、特許権で保護された欧米製薬会社の治療薬は高価で、エイズがまん延していた南アフリカなどの途上国・貧困層は現実的には利用できませんでした。

 

途上国の立場からすれば、製薬会社の利益を守るために、自国民を見殺しにすることにもなります。

そのため、南アフリカ政府は1997年、インドからの安価なコピー薬輸入を承認、これに反発する欧米製薬会社との間で訴訟になりました。

 

欧米製薬会社からすれば、開発者の利益が保護されなければ、今後有効な新薬開発が行われなくなり、長期的には人々の命にも関わる・・・というスジ論になります。

 

この訴訟は、ブランドに傷が付くのを恐れた製薬会社の意向もあって、2001年に南アフリカ側に有利な条件で和解が成立しました。

 

医薬品の直接的な製造原価などは微々たるものです。医薬品の価値の大半は、開発までに注ぎ込まれた時間・資金にあります。

 

この問題は、貧困層の命と製薬会社のカネのどっちが大事なのか・・・という単純な話ではなく、製薬会社の「スジ論」が意味があるのは、医薬品の開発には10年から15年といった長い年月が必要で、その過程で多くの試験的な薬は開発が断念され、実際に製品化されるのは極めて少数のものに限られるという医薬品の特性があります。

 

まさに、社運を賭けた開発になることも。

この長期にわたる多大な投資のもとでの開発の利益が保護されなければ、誰も新薬の開発など行わず、人類の健康の改善がストップするいうことにもなります。

 

【新型コロナワクチンをめぐり問題再燃】

そして現在、世界を脅かしていてるのが新型コロナウイルス。

 

一応、対応ワクチンはいくつかできました。しかし、その大半は富裕国に囲い込まれ、多くの途上国には行き渡らない現実があります。

 

****WHOと仏大統領、コロナワクチンの不平等な配分を非難****

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は23日に発表した報告書で、新型コロナウイルスワクチンは依然として最貧国に到達していないと述べた。

新型コロナなどのワクチンを低所得国にも供給することを目指す国際的枠組み「COVAX(コバックス)」は発足1周年を迎える。テドロス局長は「世界で約9億本近いワクチンが接種されているが、高・中所得国がその81%を占める一方、低所得国はわずか0.3%にとどまっている」と指摘。会見ではインドでの感染拡大に懸念を示した。

また、フランスのマクロン大統領は欧州では6人に1人、北米では5人に1人がワクチンを接種しているが、アフリカでは100人に1人しか接種していないとし、「受け入れがたい」と語った。

南アフリカのラマフォサ大統領は、製薬企業に対し、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに関する技術を「知的財産権を巡る制限なく」中・低所得国に移転するよう要請。ワクチンナショナリズムに対抗し、知的財産権の保護が人命を犠牲にすることがないよう呼び掛けた。【4月23日 ロイター】

**********************

 

上記にもあるように、再び新型コロナワクチンをめぐる「知的財産権の保護」が問題となっています。

下記はスイス公共放送の記事。

 

****コロナワクチンの特許、一時停止すべき?ジュネーブを中心に議論****

新型コロナウイルスのワクチン技術の特許について、保護義務の一時的免除を要求する動きが広がっている。スイスなどの富裕国が抵抗する一方で、ワクチン獲得競争から取り残されている発展途上国はジュネーブの国連機関で圧力を強めている。

 

史上最大のワクチン接種キャンペーンによって、昔からの議論が再燃している。世界的な危機において、技術の独占は理にかなっているのか?つまり、何百万人が亡くなっても知的財産を守る必要があるのか、という議論だ。

 

インドと南アフリカは昨年10月、世界貿易機関(WTO)で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の抑制に役立つすべての製品について、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が定める特許の保護義務を一時的に免除する案他のサイトへを提起した。ワクチンの他に、検査薬、医療機器、将来の治療法が対象となる。もし、同案が採択されれば、免除は義務になる。

 

世界中の研究所がワクチン技術を利用して、ジェネリック医薬品(後発薬)を生産できるようになるという考えだ。同案の提案国によると、ワクチンのコスト削減と世界的な生産拡大が可能になる。

 

同案は数カ月の間に、100以上の国の支持を集めた。しかし富裕国は、パンデミックはWTOルールを破る理由にはならないとして反対している。交渉は続いているものの膠着状態に陥っている。

 

続く圧力

その一方で、中国とアフリカ諸国が世界保健機関(WHO)で、ワクチンの技術移転と国内生産を強化するための措置を盛り込んだ別の決議案を提起した。swissinfo.chが入手した決議草案によると、署名国には特許を所有する企業に技術を移転するよう少なくとも道義的圧力を掛ける義務がある。

 

特許権者は企業なので、実際には難しいかもしれない。しかし、スイスの非政府組織(NGO)のパブリック・アイが指摘するように、コロナワクチンに携わる企業のほとんどは政府から補助金を受け取っている。

 

同NGOの最近の調査によると、世界中の産業界がワクチン開発のために受け取った財政的リスクのない資金は、千億ドル(約11兆700億円)を超えるという。

 

WHOの決議案も交渉中だが5月のWHOの世界保健総会で採決される見込みだ。欧州連合(EU)諸国と日本がすでに、いかなる技術移転も自発的でなければならないという条項を強く要求している。同決議案に関するスイスの立場はWTO交渉で採った路線と同じだ。しかし、最終的な立場は提出される決議の文言による。

 

スイスの抵抗

富裕国の中でスイスだけが反対しているのではない。(中略)スイスの主張はこうだ。

 

新型コロナワクチンは複雑で、新しい製造工程や設備を必要としたり、既存の設備を広範に別の目的で利用したりする。現行の特許制度だけが、ワクチンの開発者と製造者が協力するインセンティブを与え、支援や技術・ノウハウの移転を可能にする。だから、特許保護の一時停止がすぐにコロナワクチンの世界的な供給につながると考えると「誤解を招く」と述べる。(中略)

 

製薬業界の立場を反映

連邦政府の立場は製薬業界の立場にも反映されている。ジュネーブに本部を置く国際製薬団体連合会(IFPMA)のトーマス・クエニ事務局長は「(グローバルな対応は)非常に困難な挑戦だが、これまでのところ、予想以上に上手く進んでいる」と述べた。「しかし、今後は、富裕国が連帯して他国を支援することがカギになるだろう」

 

同氏によると、「知的財産権がパンデミックへの対応を妨げているという主張がある」が、このパンデミックで国内外の知的財産(IP)の枠組みを弱めることは逆効果だという。

 

「研究開発やアクセスを加速させることにはならず、これまで十分に機能してきたIP制度への信頼を損なうことになる。IP制度のおかげで、産業界は学界、研究機関、財団、その他の民間企業と安心して提携し、世界の多くのアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない病気に対する医療ニーズ)に対処するために医薬品の研究開発を大幅に促進することができた」と同氏は語った。

 

道義的侵害

WHOと国連合同エイズ計画(UNAIDS)は当初から、特許の保護義務を免除し、技術共有の新しいモデルを摸索するという提案に支持を表明してきた。

 

両機関は昨年10月に行われたWTOの会合で、「新型コロナの予防・診断・治療に関する医療技術へのアクセスと移転を容易にするためには、(特許の保護義務の)免除が、取引費用が削減し、研究開発サイクルやサプライチェーンの主要な障壁を撤廃することになるだろう」と述べた。

 

UNAIDSは、国際社会は初期のエイズ対策の「つらい教訓」を繰り返してはならないと主張した。当時、比較的豊かな国の人々には医薬品が手に入る一方で、発展途上国の何百万の人々は取り残された。「これは人権の問題だ。各国政府が通常の実務のように現在のパンデミックに対処することはできない」

 

半年経っても議論は平行線のままだ。WHOのテドロス事務局長は、ワクチンの不公平な分配を「道義的侵害」と呼び、各国と産業界で行き詰まりの打開策を見つけるよう提案している。【4月15日 SWI swissinfo.ch 】

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大手製薬会社の本拠地であり、主要生産国であるアメリカ国内でも議論が高まっています。

 

****バイデン政権、ワクチン特許で板挟み 途上国の放棄要求に米産業界反発****

新型コロナウイルスワクチンの特許権をめぐり、バイデン米政権が、放棄を求める発展途上国から圧力を受けている。途上国は米企業が握る特許を使い、自国生産を加速させて感染を押さえ込みたい考えだ。

 

一方、開発に巨費を投じた米製薬業界は、収益確保の観点から特許放棄へ安易に応じないよう働きかけている。

 

(中略)すでに米人口の44%が少なくとも1度の接種を受けた。一部先進国では英国が51%となるなど接種が加速。対照的に新興国は遅く、感染拡大に見舞われるインドが9%、ブラジルが14%。南アフリカなどの途上国は1%未満にとどまる。

 

格差の背景には、自国民向けの確保を優先する「ワクチン・ナショナリズム」がある。欧州連合(EU)が輸出規制に乗り出し、米国も余剰分を輸出に回す姿勢をとっており、ワクチンの囲い込みが進んだ。

 

こうした中、インドや南アは昨年秋、世界貿易機関(WTO)にワクチンの特許を一時放棄するよう提案。WTOの「貿易関連知的財産権協定(TRIPS)」の規定適用の猶予を求め、大多数の国が支持したが、米国やEUが同意せず結論には至っていない。

 

米国では民主党左派が特許放棄に賛同しており、WTOと協議を継続している米通商代表部(USTR)のタイ代表が、米製薬企業と相次ぎ会談。米政治メディア「ポリティコ」によると、先月30日のWTOの会合で途上国側が提案を修正する方針を表明するなど、関係者が妥協点を探っている。

 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は今月3日、「勇気づけられる進展」があったと述べた。

 

医薬品の特許をめぐる先進国と途上国の摩擦は、抗エイズウイルス薬などで繰り返されてきた。厳格な特許保護が、生産に乗り出したい途上国での普及で障害になれば、感染が拡大して人道的な問題を生じる。

 

バイデン政権は、途上国へのワクチン外交を活発化させている中国に対抗するためにも、ワクチン普及で指導力を発揮したい意向とみられる。

 

ただ、特許だけで比較的簡単に作れるジェネリック医薬品(後発薬)と違い、ワクチンの工程は複雑だ。ウイルス変異の対応などでも、開発者と製造者の密接な協力が必要になる。

 

ワクチン開発に漕ぎつけた米製薬業界はさらに、利益を生み出す特許の放棄を迫られれば新薬開発に向けた資金が集まらなくなるとの立場も主張し、「米政府や米議会に強力なロビー活動を展開」(米メディア)しているという。

 

特許放棄するより「生産を加速させて途上国に分配する方が役立つ」とも主張。自国の産業競争力を重視するバイデン政権は、板挟みとなっている。【5月4日 産経】

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“政治サイトのポリティコによると、知的財産権放棄を支持する民主党議員はバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員をはじめ、約100人にのぼる。

特許放棄はこのほか、多くの慈善団体やWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長、ローマ教皇フランシスコらも支持している。一方、トム・コットン率いる共和党上院議員グループは、知的財産権はイノベーションを促進するものだとして、バイデンに特許放棄を支持しないよう求めている。”【4月14日 Forbes】

 

民主党vs共和党というだけでなく、民主党内部の急進派からの突き上げがあってバイデン大統領を苦慮しています。

 

こうした議論のなかで、米政府が特許権の放棄に前向きとの報道も。

 

****ワクチン特許放棄、米政府が前向き 製薬会社は反発****

米政府が新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の放棄に前向きな姿勢をみせている。途上国が生産を増やす手段として要請を強めているためだ。

 

ワクチン外交を繰り広げる中国やロシアへの対抗の側面もあるが、技術流出を懸念する製薬会社は猛反発している。【5月4日 日経】

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中心企業ファイザーの売上高見通しは上方修正とか。

 

****ワクチン売上高見通し2.8兆円 米ファイザー、上方修正****

米医薬品大手ファイザーは4日、ドイツのバイオ企業ビオンテックと開発した新型コロナウイルスワクチンについて、2021年12月期の売上高見通しを上方修正し、従来予想と比べて約1.7倍に当たる260億ドル(約2兆8千億円)程度になることを明らかにした。

 

4月中旬までの契約に基づき、年内に16億回分の供給を見込んでいることを反映した。ワクチンの売上高はファイザー全体の3分の1以上を占める規模に拡大する見通しだ。

 

ファイザーは設備増強などを進めており、ワクチンの年間生産量を最大25億回分に引き上げることを目指している。【5月4日 共同】

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前述のように製薬会社の主張にも配慮すべき点は多々ありますが、ただ、多くの人々が亡くなっていく現状を前にして、「それでも、特許権を守ることが、今後の開発にとって重要」という議論は、そのままではいささか受け入れがたいものがあります。

 

特に、一部富裕国がワクチンを囲い込み、国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」が十分に機能していない現状にあっては。

 

何らかの調整が必要ですが、あくまでも特許権を守るというのであれば、最低限、「COVAX(コバックス)」を格段にぺーズアップするための富裕国側の身を切る「犠牲」が必要でしょう。

 

すでに余裕がでてきたアメリカ・イギリスはそれでも大きな問題はないでしょうが、途上国並みのワクチン接種状況の日本は・・・という話はありますが。

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日本の「自粛」という規範に基づくコロナ対策の限界 今後のデジタル活用とその問題点 中国との比較で

2021-04-15 22:58:10 | 疾病・保健衛生

(江蘇省常州市の住宅街に入るため、ボランティアに健康コードを提示する市民(2021年3月2日撮影)【3月29日 AFP】)

 

【厳格なルールとは異なる日本的な内在化された規範意識に基づくコロナ対策の限界】

日本は新型コロナの感染拡大の第4波に入っているようですが、中国は依然として感染拡大を封じ込めています。

 

****中国人が考える、日本に新型コロナの新しい波が来る理由**** 

中国のポータルサイト・百度に8日、日本で新型コロナウイルスの第四波が発生しつつあり理由について考察する記事が掲載された。

記事は、(中略)感染のリバウンドを招いた理由を3点挙げている。

まず、今回リバウンドを招いた最大の理由として「変異株」の出現を挙げた。(中略)


次に挙げたのは、日本政府による感染コントロールがあまりにも緩く、大規模かつ厳格な管理方式を取れていないことだ。

 

強制力を持った感染対策措置が不足しており、実効力のある対策が取れていないとし、その一例が個人情報保護関連法律という大きな壁により感染経路の確定がままならず、感染源の根本的な遮断ができていない点だと論じている。

そして、3つめの理由は、日本社会が「長期化した自粛の限界」状態にあることとした。第一波が到来した際には日本国民は「ルール」を十分に守り、国が定めた政策を自覚的に履行していたものの、この状況は長時間にわたって耐えられるものではなかったと説明。

 

先日始まった聖火リレーでも一部で観衆が密集する状況が見られることからも、市民の「緩いがまん」が限界に近付きつつあることがうかがえるとした。

記事は、7月の東京五輪開幕まであと3カ月ほどに迫る中で起きつつある第四波の到来に「五輪を一体どうやって開催するつもりなのか、本当に心配だ」と伝えている。【4月9日 Searchina】

***********************

 

二点目の「強制力」云々は、強制力を持った強い措置をとるべきかどうかの議論はありますが、日本と中国との「違い」という視点で見れば、そうも言えるでしょう。

 

三点目の「自粛の限界」「がまんの限界」は、次第に大きな要因となりつつあります。

(なお、私見を付け加えれば、日本が今後も第4波、第5波・・・に襲われることを危惧しなければいけない状況で、「がまんの限界」が表面化しているのは、ワクチン接種の遅れという「失敗」によるものだと考えています)

 

****規範の日本、ルールの中国。規範に基づくコロナ対策は限界が見え始めた****

<内面化された規範と、厳格なルール。日中社会の好対照はコロナ対策にも反映されている。日本と異なり、中国は感染を制圧しているが、魔法のような監視技術があるわけではない>

 

「日本は本当に素晴らしい国です。日本人はみんな礼儀正しいし、ルールを守る国民なので、居心地がいい。ただ1つ、不思議なのが車の運転です。誰も制限速度を守りませんよね? 交通ルール通りのスピードで走っていると、追い抜かされたりクラクションを鳴らされたり。車に乗ると、日本人は性格が変わるんでしょうか」

 

素朴な疑問をもらしたのは、中国人の郭宇さん。昨年、日本に移民してきたばかりだ。趣味の温泉巡りのため、毎週末は車でドライブしているが、いつも不思議に感じているという。

 

彼の母国・中国の交通事情はと言うと、誰も制限速度なんて守らない混沌としていた時代から、近年大きく変化している。変化をもたらしたのは監視カメラだ。

 

主要都市の中心部には監視カメラが張り巡らされており、速度超過や車線変更、路上駐車などの交通違反を自動的に認識し、罰金を請求するシステムが導入されている。

 

AI(人工知能)の進化により細かな動きですら認識できるようになり、運転中の携帯電話通話にまで即座に罰金が科される。新たなテクノロジーによって、劇的に交通環境が変わったわけだ。

 

もっとも、人々のマナーが変わったわけではない。監視カメラがある都市内ではジェントルな運転をしていたタクシードライバーが、郊外に出るやいなや爆走し始めるのはよくある話だ。

 

一方、日本人は規範を内面化している人が多い。警官や監視カメラによって見張られていなくても、ルールを守る人が大半だ。

 

というわけで、日本人と中国人の規範意識は好対照と言える。(中略)ただし、内面化された規範は厳格なルールとは異なる。

 

法律で決められた制限速度はあっても、「だいたい10キロオーバーまでは許容範囲」「ここの道路は広いから少し速度を上げてもいい」といった、法律で定められたルールとは異なった、ぼんやりとしたラインしか存在しない。

 

日本人の「ここまでは許される」ラインが変化してきた

ルールと規範をめぐる日中社会の好対照は、新型コロナウイルスの対策にも反映されている。

 

緊急事態宣言にせよ、まん延防止等重点措置にせよ、日本のコロナ対策は強制力が弱く、しかも人々が対策を守っているのかをチェックする仕組みは極めて少ない。社会の規範に基づく、人々の自発的な行動に多くを依存している。

 

それでもコロナ対策は一定の成果を上げてきたのだから、大したものという見方もあるだろう。一方で厳格なルールではないため、状況の変化に伴い、人々の「ここまでは許される」というラインがぼんやりと変化してきているのも事実だ。

 

今年3月まで一部地域で発令されていた2度目の緊急事態宣言では、感染者数の減少によるものか、人々の「自粛」が次第にゆるんでいたことが、データから明らかとなっている。

 

一定の抑え込みまでは日本的な規範で可能であっても、ゼロコロナを目指すような厳格な対策は難しいというわけだ。一方、中国では厳格なルールベースの取り組みによって、感染者数を限りなくゼロに近づけることに成功した。

 

もっとも、それは交通違反の摘発とはだいぶ様相が違っている。というのも、制限速度違反をチェックする技術とインフラは整っていても(といっても、都市部などごく一部の地域だけだが)、人々の日常的な行動をチェックする、魔法のような監視技術は存在しない。

 

では、彼らはどうしたのか? その手法は日本にも応用できるのか? そこに問題点はないのか?(後略)【4月14日 高口康太氏 Newsweek】

**********************

 

【中国の「デジタル」の実態 デジタル活用では日本も同じ方向に 権力の暴走を防ぐためには】

上記問いかけを受けての記事が下です。

 

****コロナに勝った「デジタル」の正体****

コロナを抑え込めたのは監視国家だから・・・・なのか データ共産主義の実態と日本への教訓を探る

 

「想像できますか? 日本のコロナ感染統計は全部手作業って」 

これは中国紙・新京報の今年2月19日付記事のタイトルだ。日本では委託を受けた事業者が各都道府県のウェブサイトを目で見て、新型コロナウイルスの新規感染者数、死亡者数を集計していると政府が認めた。あまりのアナログつぷりは海を越えて、遠く中国でも話題となった。

 

統計問題だけではない。コロナ対策全般で日中の実績は好対照を描く。3月31日時点での累計感染者数は日本が約47万人に対し中国は約9万人。しかも、この差は今後さらに拡大するだろう。中国は昨年3月以後、ほぼ抑え込みに成功している。

 

なぜ中国はコロナを抑え込めたのか? デジタル監視国家だからとの解説をよく見掛けるが、デジタル技術はなにも魔法ではない。

 

「デジタル先進国」中国のコロナ対策を伝えるニュースは多い。

 

(ドローンの活用だろう。ロックダウン(都市封鎖)期間中に拡声器付きのドローンで空中を巡視

し、外出している市民に自宅に戻るよう警告したというエピソードもあれば、農業用ドローンを活用しての消毒といった話もある。

 

もう少しひねったニュースはバーチャル・リアリティー(VR=仮想現実)の活用だろうか。(中略)

 

もっとSFチックな噂もささやかれている。中国全土に張り巡らされたAI(人工知能)監視カメラ網は、H億人民の一挙手一投足を全て見張っている。誰と誰が会っていたのか、全ては記録されている。感

染経路を追跡することなど、いともたやすいことだ、と。

 

だが、こうしたエピソードの多くは実際よりも「盛られて」いることが多い。ドローンが使われたのはごくごく一部の地域だけ。VRの採用例はもっと少ない。AI監視カメラ網は特定の指名手配犯を探し出す力は持っていても、14億人民を全て監視するほどの力はまだない。

 

実際の対策はもっと地味で、シンプルなものだ。それは「大動員」と「デジタルによる効率化」という2つのキーワードから説明できる。

 

400万の組織で動員した

感染が広がるか縮小するかは、結局のところ人間の接触機会の多寡で決まる。中国は徹底的な接触機会の減少に取り組んだ。最大のチャレンジは、最初の流行地となった武漢市を含む湖北省の封鎖だろう。

 

昨年1月、6000万人の住民が住む巨大自治体が封鎖された。たまたま湖北省に滞在していた人が離れられなくなる、逆に省外にいた人が自宅に戻れなくなるなど多くの混乱をもたらした。

 

あまりに乱暴で人権を軽視したやり方は人々に大きな負担を強いるため、必ずやはころびが出るはずだ・・・・。海外からはそうした批判的な見方が強かったが、今では評価は逆転している。

 

湖北省の封鎖に加え、1~2月には封鎖式管理と呼ばれる外出制限が中国全土で実施された。都市では社区(壁で囲まれた敷地内に複数のマンションが集まった基層コミュニティー)、郊外では農村を単位として外部からの立ち入りを禁じ、住民の外出も極力控えるように指示された。

 

地域封鎖や外出制限は他の国でも導入された施策だが、問題は徹底できるか否か。なぜ中国は徹底できたのか。その秘密は大動員にある。

 

(中略)(天津市に住む日本人駐在員Y氏が)居住する社区には3つの入り□があったが、1つに限定された。その入り口では、外部から立ち入りがないか検査され、住民であっても臨時の通行証を持っているかを確認され、体温を測られた。湖北省など外地からの帰還者はいないかなど、社区内部でも頻繁に調査が繰り返されたという。

 

封鎖式管理の実務を担ったのは都市では居民委員会、農村部では村民委員会という基層組織だ。もとは1950年代に整備された組織で、コミュニティー内でのけんか、もめ事を仲裁したり、迷信・邪教の禁止といった政府キャンペーンヘの協力を任務とする中国版町内会であったが、コロナ禍という大災害を機に引っ張り出されてきた。

 

加えて、マンパワーの供給源となったのが中国共産党だ。2019年末時点で党員数は9191万人、中国全土に468万もの基層組織を持つ。彼ら居民委員会や村民委員会、共産党員が自粛するよう14億人民を説得し、監視した。

 

一例を紹介しよう。湖北省孝感市にある農村、袁湖村の共産党書記の奮闘について、中国ウェブメディア・稜鏡が取り上げている。 

 

村に通じる道路は土砂を積んで封鎖したが、強引に突破する者がいたためセメントで補強した。法事を予定していた14世帯を一軒ずつ回って中止するよう説得した。街に住む孫に食べ物を送り届けたいという老人をなだめ、プロパンガスが切れたという家には数日だけたき火で我慢してほしいと諭す。

 

400万以上の基層組織一つ一つでこうした涙ぐましい活動が繰り広げられていた。

 

日本と異なるアプリ設計思想

魔法とは対照的な泥くさい活動、地味な接触機会の削減、それを監督するマンパワーが、中国のコロナ対策の成功をもたらした。

 

大動員は効果的な一方で、物心両面に多大な負担をもたらす。そこで登場するのが、デジタル技術による効率化だ。

 

デジタル技術の中でも、最も大々的に利用されたのが「健康コード」というスマートフォンアプリだ。その役割は2つ、直近の滞在地の証明と、訪問先の記録である。

 

前者については主に携帯電話の基地局記録を参照。どこに滞在していたかを証明する極めて強力な手段となる。

 

後者は訪問した建物ごとにQRコードを読み込むことで、その場所を訪れたという記録を取るチェックイン機能だ。

 

筆者は昨年2月下旬にコロナ取材のため、広東省深川市を訪問したが、当時は紙に名前と電話番号と体温を記録するというアナログな形式で記録していたづ記録を残しておけば、もし感染者が見つかっても、同じ時間にその場所にいた人を見つけ出すことができる。

 

健康コードならば、QRコードの読み込みだけで同じ記録が収集できるほか、最初からデータ化されているため集計の手間が省ける。さらに高速鉄道や飛行機などの搭釆記録と組み合わせることによって、より詳細な滞在場所の記録をデータベース化することができる。

 

「誰が、いつ、ここを訪問したのか。その時に発熱はあったのか」 記録する情報は極めてシンプルで政府のグラウトに記録されているため、チェックイン機能は拡張がしやすい。昨年春にはテンセント(騰訊)などのITベンダーから、健康コードと連動する顔認証タブレットが販売された。

 

(中略)スマホのアプリを使わずともチェックインできるのが、中国が監視国家たるゆえんだろう。中国人には身

分証と呼ばれる国民IDが付与されている。14億人民の一挙手一役足を全て見張ることはさすがに不可能だが、政府機関が保有している顔写真データを使えば、カメラに映し出された人物が誰かを確認できる。

 

本人確認さえできれば、スマホがなくても政府の保有しているデータで、健康コードの安全確認は可能。だから顔認証だけでのチェックインが実現できる。

 

さらに興味深いのが、他国で導入された接触確認アプリとまるで設計思想が異なる点だ。(中略)健康コードは精度こそ低いものの、どこに滞在していたのかという情報を確実に把握できる。

 

感染者と近い距離にいたかどうかは把握できないが、同じ場所にいた人間を全て隔離、検査すればよいという割り切りだ。

 

情報の収集、統合、表示という仕組みはさらに拡大を続けている。PCR検査やワクチン接種の記録も身分証番号に基づき記録され、オープンデータとして公開されるようになった。

 

中国で配車アプリや出前代行を使うと、ドライバーの情報がアプリに表示されるが、名前と共に「ワクチン接種済み」というアイコンが表示される。

 

先進国は国民IDに失敗

大動員とそれを支えるデジタル技術は、中国のみに見られるものではない。

 

韓国では大規模なPCR検査、調査スタッフを増員しての感染経路追跡という動員に加え、国民IDである住民登録番号に基づき、出入国履歴やクレジットカード、交通カードの利用履歴、携帯電話の位置情報など各種情報の統合、さらに監視力メラ映像の活用まで行っている。(中略)

 

コロナ対策の成功例として知られる台湾でも同様で、03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行をきっかけに、動員体制と国民IDである身分証統一番号の活用を含めた情報収集、統合の仕組みが整えられている。

 

一方、日本は1960年代以後、何度か国民IDの導入を試みてきたが、いずれも失敗に終わった。現行のマイナンバー制度も普及率は低い。

 

「世界的に見ても、導入を実現したのは韓国、台湾、エストニアなどの後発福祉国家ばかり」と、羅講師は指摘する。「アメリカやイギリス、ドイツ、日本などの先発福祉国家は失敗している」(中略)

 

後発福祉国家では、既存の住民番号を流用する形で新規の社会保障サービスが導入され、複数の行政情報を統合する国民IDが形成されてきた。中国の身分証も、80年代に導入された仕組みが、その後多くの行政サービスに活用されるという形で発展してきた。

 

一方、先発福祉国家では、行政サービスごとに個別の管理体系が構築されている。日本では戸籍、住民票、健康保険、納税などの事業ごとに番号が分かれ、それを管理する主体も異なる。

 

それらの統合にはコストがかかる上、市民にとってメリットに乏しいため受け入れる動機が弱い。羅講師は「福祉行政の向上をもたらさない形での国民ID導入は今後も難しい」と予測する。

 

日本も中国と「同じ方向」へ

近年の急激なデジタル技術の発展は、福祉の向上だけではない、多くのメリットをも生み出している。その最先端を走る中国では、国民IDを軸としたデータ統合により、行政効率が大きく向上した。

 

結婚や住宅ローン申し込みなどのたびに、無数の役所を駆けずり回らなければならないのが中国人民の不満のタネだったが、近年ではスマホーつで完結することも多い。一部地方では離婚届までスマホで提出できるという徹底ぶりだ。

 

中国政府は「データを走らせよ、市民の足を引っ張るな」をスローガンに、行政デジタル化は国民の利益に資するものとして強烈に推進している。(中略)

 

データ活用はコロナ対策にとどまらず、大きな価値をもたらす。となれば、その基盤となる国民IDの導入にこれまで後ろ向きだった先進国で変化が生まれるのではないか。

 

「日本も基本的には中国と同じ方向に向かっている」

情報化社会や監視社会を研究する慶慮義塾大学の大屋雄裕教授(法哲学)は言う。日本の未来戦略である「ソサエティー5.0」の構想を見ると、中国との共通点は多い。(中略)

 

抑止的手段をどう組み込むか

一方で、権力の暴走にもつながりかねないとの危惧もある。この点でも、中国は「先進国」だ。

 

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは19年に「新疆で稼働する大規模な監視システム」と題した報告書を発表した。海外在住の親族はいないか、ファイル交換ソフトを使用していないか、出国歴はあるかといった複数のデータを統合することで、「危険思想予備軍」を選び出し、予防的に拘束していると指摘した。

 

既に100万人を超えるウイグル人住民が収容施設に拘束されるなど、デジタル技術が人権侵害のツールとして活用されている。

 

データの統合と活用にメリットががある手法を取っていないかを事後的にチェックしていく制度をセットにする必要がある」と、大屋教授は指摘する。

 

データの統合ができないような仕組みづくりによって、悪用できないようにするのがこれまでの日本だった(善用もできなかったが)。今後は監視の目を光らせながらも運用を認めてあるとしても、権力の暴走というデメリットをいかに防ぐのかが問われている。データの統合を認めつつも、問題いく形へと、政府と社会の関係性を変えなければならないと説く。 

 

政府に権力を与えた場合でも、過剰な人権の制限や国家の暴走を許さないよう、事後的にコントロールできるか。この点について日本人の多くは自信を持っていないようだ。

 

昨年4月、ギャラップーインターナショナルーアソシエーションが世界18力国を対象に実施した国際世論調査がある。「ウイルスの拡散防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」という設問に、「そう思う」と回答した比率で、日本は最低の40%。先進民主主義国でもアメリカは68%、ドイツは89%と大きく懸け離れている。

 

「個人情報が取られるのは『なんとなく』怖いという不安が忌避感につながっている」。筆者と共著で『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、19年)を執筆した神戸大学の梶谷懐教授は、茫漠とした不安では監視社会化の歯止めとしては脆弱だと危惧する。

 

そもそも、先進国で監視社会化抑止のよりどころとなっていた人権やプライバシーといった理念は、生存が保障された状況でより良き社会を目指すための主張であり、コロナのような命そのものが脅かされる状況では分か悪い。

 

梶谷教授は「中国の成功を見れば、日本を含む西側諸国の市民が『民主的』に監視社会化を望むようになるまで、あと一歩だろう」と指摘。データの収集と統合は不可避の趨勢だとしても、同時に、市民の積極的な関与などの抑止的手段を組み込む必要があると警告する。

 

日本のデジタル行政改革は雪崩を打つたかのように進んでいる。そのなかで、中国型の監視社会とは異なる道を歩むために何をなすべきかが問われている。【4月20日号 Newsweek日本語版 高口康太氏】

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