孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド洋・南太平洋島しょ国で地政学的に注目される総選挙がふたつ モルディブとソロモン諸島

2024-04-24 23:37:50 | 国際情勢

(ソロモン諸島の遠隔地に投票箱を運ぶ支援をするニュージーランド軍の部隊【4月19日 ロイター】)

【インド洋のモルディブ 親中国の与党が圧勝】
世界各地で“勢力圏”維持・拡大を目指す大国間の綱引きが日々行われていますが、先週・今週はインド洋のモルディブ、南太平洋のソロモン諸島という島しょ国で注目される選挙が行われました。

いずれも小さな島国ではありますが、地政学的な重要性から、選挙結果が国際的に注目されています。

先ず、インド洋の島国、モルディブは伝統的に影響力を行使してきたインドと、近年進出が著し中国の争い。
選挙前の時点では、昨年末に就任した親中国派の大統領が駐留インド軍の撤退を求める一方で、議会は親インド派の野党が最大勢力でした。

****中国接近強める大統領就任後初の総選挙、モルディブ親中与党の過半数獲得が焦点…駐留インド軍は撤退始める****
インド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで21日、総選挙(一院制、定数93)の投票が行われた。中国への接近を強めるモハメド・ムイズ大統領が昨年11月に就任してから初の総選挙となる。少数与党だったムイズ氏率いる人民国民会議(PNC)が過半数を取れるかどうかが焦点だ。
 
モルディブはインド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝で隣国インドや中国が選挙結果を注視している。
ムイズ氏は昨年秋の大統領選で「駐留する印軍の撤退」を掲げ、野党モルディブ民主党(MDP)を率いる親インドの現職を破って大統領に就任した。

1月には歴代大統領の慣例を破ってムイズ氏がインドより先に中国を訪れ、習近平シージンピン国家主席と経済面などでの連携強化を確認した。3月には、中国が無償でモルディブに軍事援助する内容の協定に両国が調印した。海洋監視などを担っていた印軍は3月に撤退を始めた。
 
改選前の最大勢力は42議席を持つMDPで、与党のPNCは16議席にとどまっていた。ムイズ氏の大統領就任後は、閣僚任命などを巡って国会が空転した。
 
モルディブでは中国の融資によるインフラ(社会基盤)整備が進む。PNCは単独過半数を獲得し、事業を加速させたい考えだ。ただ、ムイズ氏を支持してきた大統領経験者が昨年11月に新党を設立したため、PNCの思惑通りにならないとの見方がある。【4月22日 読売】
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結果は・・・親中国派の与党が3分の2超の議席を獲得する圧勝でした。
中国支援によるインフラ開発の利益に対する国民期待が大きかったと指摘されています。

****モルディブ総選挙、親中大統領率いる与党が大勝…インフラ整備で対中債務が膨張する懸念も****
インド洋の島国モルディブで21日に投開票された総選挙(一院制、定数93)で、親中国のモハメド・ムイズ大統領が率いる与党・人民国民会議(PNC)が単独で3分の2超の議席を獲得し、大勝した。複数の地元メディアが22日報じた。対中接近がさらに進みそうだ。
 
地元メディアは、少数与党だったPNCが改選前の4倍超の65議席以上を獲得すると報じた。一方、親インドの野党モルディブ民主党は11〜13議席にとどまり、改選前の3分の1を割り込む見通しだ。
 
ムイズ氏は、中国に接近した2013〜18年のアブドラ・ヤミーン政権でインフラ(社会資本)整備の担当閣僚を務め、中国の融資を受けて首都マレと空港島を結ぶ橋や、首都周辺の高層住宅の建設を主導した。今回の選挙戦でもPNCはインフラ整備推進を掲げており、外交筋は「政権が約束する開発の利益実現を国民が期待したのではないか」と分析する。
 
ただし、中国の融資でインフラ整備がさらに加速した場合、債務の膨張が懸念される。モルディブは今年2月、国際通貨基金(IMF)に「大幅な政策変更がなければ、対外債務に窮するリスクを今後も抱えるだろう」と警告を受けた。
 
インドの影響力はさらに低下しそうだ。昨年の大統領選でムイズ氏が掲げた公約に従い、海洋監視などのためにモルディブに駐留していたインド軍の撤退が進んでいる。インド洋の安全保障の観点からインドはモルディブを重視しており、主要紙タイムズ・オブ・インディアは「モルディブがさらにインドから離れる」と危機感を示した。
 
一方、中国外務省報道官は22日の記者会見で「モルディブの人々の選択を尊重し、各領域における交流や協力を拡大させる努力をする」と述べ、ムイズ政権との関係強化の方針を示した。【4月22日 読売】
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【南太平洋のソロモン諸島 与野党ともに過半数獲得できず連立協議が焦点に】
南太平洋のソロモン諸島は旧日本軍が攻防戦を戦ったガダルカナル島を中心とした島しょ国ですが、近年は台湾と断交した親中国派の首相のもとで中国と安全保障協定を結び、中国の南太平洋島しょ国への進出のモデル事例・橋頭保ともなっています。

一方、中国に対抗してこの地域での影響力維持拡大を目指すアメリカ・オーストラリアは、ソロモン諸島が中国の軍事拠点となるのではないかと警戒を強めています。

****ソロモン諸島で総選挙の投票始まる 台湾と断交し中国と関係深める“現政権継続か”が最大の焦点に****
南太平洋の島国、ソロモン諸島で17日、総選挙の投票が始まりました。台湾と断交して中国との関係を深める現政権が継続するかが最大の焦点です。

オーストラリアの北東、およそ1600キロに位置する人口70万人あまりのソロモン諸島で現地時間の朝7時、総選挙の投票が始まりました。

前回、2019年の総選挙で、4度目の首相に就任したソガバレ氏はその年に、台湾と断交して中国との国交を樹立。中国資本による開発を急ピッチで進めるなど、経済的な結びつきを強めています。

また、2022年には中国と安全保障協定を締結し、安全保障の分野でも関係を強化していて、ソロモン諸島に近いオーストラリアなど西側諸国は、中国の軍事拠点ができるのではと警戒しています。

ロイター通信によりますと、ソガバレ氏はソロモン諸島では前例のない2期連続での政権運営を目指し、親中路線を継続する姿勢を鮮明にしています。

一方の主要野党は、ソガバレ政権が過度に中国に依存していると批判し、中国との安全保障協定の破棄など関係見直しを訴えています。

南太平洋の島国では今年、ナウルが台湾と断交して中国と国交を樹立するなど、中国の影響力が強まっています。オーストラリアメディアは、今回のソロモン総選挙は「南太平洋地域の将来を左右する可能性がある」とも指摘しています。

総選挙の結果が判明するのには1週間程度かかるとみられ、新政権の発足は、来月初旬ごろになる見通しです。【4月17日 日テレNEWS】
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こちらの結果は、親中国路線の与党は過半数を失いましたが、野党も単独過半数には至らず、連立協議が注目されています。親中派のソガバレ首相は議席を維持しています。

****ソロモン 親中ソガバレ大統領派は過半数確保できず 議会選結果確定 連立協議へ****
南太平洋のソロモン諸島で24日、議会(定数50)選挙の結果が確定した。親中派のソガバレ首相が率いる与党OUR党の獲得議席は15にとどまった。単独で過半数の議席を確保した政党はなく、与野党の連立協議が始まった。

急速な中国接近を進めるソガバレ氏が続投するかが焦点で、米国や中国、オーストラリアが協議の行方を注視している。

選挙は17日に行われた。地元メディアによると、野党連合が13議席、別の野党の統一党が7議席を獲得した。このほか、少数政党や無所属候補が15人当選しており、各党が取り込みを進めている。

選挙戦でソガバレ氏は中国支援によるインフラ整備を政権の実績としてアピールしたが、中国接近に反発する一部有権者が野党支持に回ったようだ。議会選と同時に行われた地方議会選挙では親中派として知られた東部マライタ州首相、フィニ氏が落選した。

ソガバレ氏は2019年の前回選挙で4度目の首相に就任。同年、台湾と断交し中国と国交を樹立した。22年には中国軍の寄港を可能とする安全保障協定を結ぶなど、急速に中国との関係を深めた。

連立協議について米ブルームバーグ通信は「ソガバレ氏が敗れれば、中国の太平洋における戦略的野心を後退させるだろう」と指摘した。【4月24日 産経】
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【激化する南太平洋島しょ国をめぐる米豪・中国のせめぎ合い】
こうした状況を睨みつつ、南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではないとも発言しています。

****南太平洋地域、大国間の対立の場となるべきではない=中国外相****
南太平洋パプアニューギニアを訪れた中国の王毅外相は20日、南太平洋地域は大国間の対立の場となるべきではなく、域内の国々への支援に政治的条件はないと述べた。

パプア外相との共同記者会見で「中国の南太平洋島しょ国への関与と協力は地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」と語った。

その上で、中国はパプアとハイレベルの交流を維持し、自由貿易協定の交渉をできるだけ早く開始する用意があるとした。

また、中国国営の新華社通信によると、王氏は全ての当事者が太平洋島しょ国ソロモン諸島の人々の選択を尊重し、内政干渉を控えるべきだと述べた。(後略)【4月22日 ロイター】
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もちろん外交的建前であり、米豪からすれば「対立を持ち込んでいるのは中国だ」という話にもなります。

****中国は「要衝」島嶼国の取り込み注力 米国とのせめぎ合い激化****
中国の習近平政権は太平洋島嶼(とうしょ)国の取り込みに力を入れている。経済力を背景に台湾と外交関係を持つ国の切り崩しを進めているほか、治安維持部門の協力をテコに影響力拡大を図っている。

南太平洋は海上交通路(シーレーン)の要衝であり、米国とのせめぎ合いも激しくなっている。

1月、ナウルが台湾との外交関係を解消して中国と国交を樹立した。同月の台湾の総統選では、中国が「台湾独立派」と敵視する民主進歩党の頼清徳副総統が当選しており、民進党政権への圧力の一環とみられる。

1月にはツバルの総選挙でナタノ首相が落選した。在任中は台湾との外交関係を続ける姿勢を堅持しており、ツバルの新政権の動向に注目が集まる。19年にはソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交し、中国と国交を結んでいる。

中国は昨年2月、太平洋島嶼国担当の特使を新設し、18年から駐フィジー大使を務めた銭波氏を任命した。太平洋地域での経済、軍事的な影響力を拡大させることにつなげる狙いがある。

今年1月にはパプアニューギニアが中国と警察協力について交渉中であることが明らかになった。ソロモンは22年に中国軍駐留を可能とする安全保障協定を締結しており、中国は他の島嶼国にも同様の協定を結ぶよう打診している。

中国にとって同地域は戦略的に重要な意味を持つ。台湾有事の際に米海軍の接近を阻止する防衛ライン「第2列島線」上に位置するためだ。ハワイやグアムの米軍基地をにらんだ戦略的拠点を確保する狙いもある。

米国にとっても戦略上の要衝であり、中国の影響拡大を阻止するための対応を進めている。米国は22年に島嶼国との第1回首脳会議を開き、安全保障面などで連携を強化する「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。23年にソロモンとトンガに大使館を開設するなど関与を強化してきた。【2月8日 産経】
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パプアニューギニアのトカチェンコ外相は2月7日、「われわれが中国と安全保障協定を結ぶ手続きを前に進めることは絶対にない」と述べています。トカチェンコ氏は1月末、中国から安保協力の提案があったことを認めていましたが、協定締結を明確に否定した形となっています。【2月7日 時事より】

前出の王毅外相のパプアニューギニア訪問は、こうした動きを踏まえたものでもあります。

【中国が進める警察協力】
経済支援と並行して中国が進めるのが警察協力。

ソロモン諸島は22年に中国と安全保障協定、23年に警察協力協定を締結し、中国から財政支援を受けています。
バヌアツにも23年に中国が警察の専門家グループを派遣。警察物資を提供し、警察の能力向上やインフラ整備について協議しています。

****キリバスで中国警察が活動、米国務省が懸念表明****
米国務省報道官は26日、太平洋島しょ国が中国の警察から支援を受けることに懸念を示した。

ロイターは先週、太平洋島しょ国のキリバスで中国の警察官が現地の警察とともに活動していると報道。中国の警察官が地域の警備や犯罪データベースプログラムに関与している。

同報道官はこの報道について「中華人民共和国から警察隊を受け入れることが太平洋島しょ国の助けになるとは思えない。むしろ、地域の緊張や国際的な緊張をあおるリスクがある」と発言。

世界各地への警察署の開設など、中国の「国境を越えた弾圧の取り組み」を容認しないとし「中華人民共和国との安全保障協定や安保関連のサイバー協力が、太平洋島しょ国の自治に及ぼす潜在的な影響を懸念している」と述べた。

キリバスはハワイに比較的近く、太平洋で350万平方キロメートル以上の排他的経済水域(EEZ)を有するため戦略的に重要な国家と見なされており、日本の衛星追尾用のレーダーステーションもある。【2月27日 ロイター】
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****中国、トンガにサミット警備支援申し出 「勢力圏拡大には関心なし」****
中国は12日、南太平洋の島国トンガに対し、同国で8月26日に開催される太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)の警備支援を申し出たと明らかにする一方、南太平洋での中国の影響力をめぐる西側諸国からの懸念を一蹴し、「勢力圏拡大に関心はない」と主張した。

人口11万人に満たないトンガは、サミット開催には支援が必要だと訴えている。だが、西側諸国は、特に安全保障を中心に南太平洋での中国の影響力拡大を懸念している。

在トンガ中国大使館はAFPの取材に対し、トンガ警察がサミットに対応できるよう、バイク20台と「車列警護訓練」の提供を申し出たと述べた。

さらに、「中国は地政学的競争や、いわゆる『勢力圏拡大』には関心がない」とし、中国はトンガの主権と独立を「全面的に尊重」していると説明。支援を希望する他の国々とも喜んで協力すると補足した。 【4月13日 AFP】
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一方フィジーでは、軍事クーデターで実権を掌握した前政権とオーストラリアやニュージーランドとの関係が悪化し、前政権は中国と接近、2011年には中国と警察協力協定を結び、中国の警官派遣を受け入れ、フィジーの警官を中国で訓練させるなどしてきました。

しかし、2022年12月の総選挙結果を受けて首相に就任したランブカ首相は中国との関係の見直しを進め、今年3月末、自国に駐在する中国人警察官を中国に送還したことを明らかにしています。

中国・王毅外相の「地政学的な利己心を排し、共通の発展を達成するための相互支援・援助に尽くしている」という建前と裏腹に、米豪との勢力争い、台湾排除をめぐって熾烈な争いが続いています。

米豪・中国といった「大国」にすれば、島しょ国のような経済的に困難な「小国」はオセロの石のようにひっくり返しやすいという話もあるのでしょう。

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パプアニューギニア  警察ストで暴動 米豪と中国の影響力拡大競争

2024-02-05 22:21:29 | 国際情勢


(1月10日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、商店の略奪が起きる中、商品を持って走る人々【1月11日 時事】)

【太平洋島しょ国で繰り広げられる米中の陣取り合戦】
かつては太平洋島しょ国はアメリカ・オーストラリアの影響力が強い地域でしたが、近年は中国がこの地域への影響力拡大を図っており、中国と米豪の対立が激しくなっていることはこれまでも取り上げてきました。

中国進出の橋頭保的な役割を担っているのがソロモン諸島。下記は11月19日ブログでも引用した記事です。

****ソロモン諸島で総合競技大会開幕 裏では地域内の影響力争い顕著****
南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」が19日、ソロモン諸島で開幕した。

首都ホニアラのメインスタジアムなど七つの関連施設を中国の援助で建設。警備のために中国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ警察官を派遣するなど、大会裏で起こる地域内の影響力争いに注目が集まっている。

サッカーやラグビーなどの試合が行われる同大会は1963年に始まり、4年に1度開かれる。今回は12月2日まで24カ国・地域から集まった約5000人のアスリートが競う。19日は1万席あるメインスタジアムで開幕式があり、多くの観客が集まった。

同スタジアムを巡っては2017年、ソロモン諸島と当時外交関係があった、台湾の援助で建設することで合意した。しかしソロモン諸島は19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立。スタジアムの建設も中国に取って代わった。

豪州や日本も援助をしているが、大会運営にかかる直接費用2億2000万ドル(約331億1670万円)のうち、半分以上を中国が援助しているとみられている。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語電子版)によると、スタジアムは、南太平洋島しょ国における中国の最大規模のインフラ支援。今年8月の引き渡し式で、李明・駐ソロモン中国大使(当時)は「(スタジアムは)中国とソロモン諸島の友情のシンボルだ」と表明。同地域における中国の存在感を象徴するものとなった。

またソロモン諸島は10月末、今大会の警備に向け、国内にいる中国の警察官が増員されると発表した。人数は明らかにしていないが、中国から金属探知機や制服も提供されたという。

これに対し、中国の影響力拡大に懸念を示す豪州はソロモン諸島に駐在する警察部隊を100人増員。ニュージーランドも治安部隊を90人増派するなど、大会を巡り地域内の影響力争いが激しくなっている。【11月19日 毎日】
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【パプア「中国と安全保障協議せず」 中国からの融資受け入れにも慎重に】
そして今、米中のはざまで揺れているのが、これまで米豪の影響力が強かったパプアニューギニアです。
昨年末段階では、中国のアプローチにもかかわらず、安全保障でも経済でも米豪との関係を重視する姿勢を見せていました。

****パプアニューギニア「中国と安全保障協議せず」 豪と協定締結****
パプアニューギニアのマラペ首相は11日、中国とは安全保障について協議していないと述べた。パプアは先週、オーストラリアと安全保障協定を締結。5月には米国との防衛協力協定に署名している。

マラペ氏はシドニーに開催された資源投資に関する会合で、パプアは透明性が高いと発言。今年、自身が閣僚と共に中国を訪問し中国指導部と会談した際「安全保障に関する話はなかった」とし「経済分野に限って話をした。安全保障については伝統的な安全保障パートナーと連携している」と述べた。

オーストラリアとの安全保障協定は警察官の増員や司法の強化など国内の安全保障を重視しており、米国との協定は対外的な安全保障を考慮したものという。

米中の対立が強化する中、パプアは経済活性化に向け海外投資と貿易の促進を目指している。中国は昨年、ソロモン諸島と安全保障協定を締結した。

パプアは中国との自由貿易協定(FTA)を協議中。中国はすでにパプアの輸出品の半分を購入している。

マラペ氏は安全保障の改善は海外投資家にとって重要だとの認識を示した。

パプアは液化天然ガス(LNG)など主に資源・エネルギーを輸出している。【2023年12月11日 ロイター】
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****中国からの融資受け入れに慎重に パプアニューギニア首相****
パプアニューギニアのジェームズ・マラペ首相は11日、AFPの取材に応じ、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の下での資金借り入れについて、外国からの融資に「軽率に」依存することはしないと語り、慎重に対応する姿勢を示した。

パプアニューギニアは2018年、太平洋諸国として早期に一帯一路に参加した。しかし、翌19年のマラペ首相就任後は対米関係を徐々に強化し、今年に入ってからは米国と防衛協力協定を締結している。

エネルギー関連の会合に出席するため豪シドニーを訪問中のマラペ氏は、中国が提供する融資を無条件に受け入れる考えはないと強調。「仮に一帯一路の下でのプロジェクトについて、財務省が定めた要件に合わない場合は公正な検討がなされる」と語った。また、「われわれは軽率ではない。投資は確かな見返りがあるものに対して行う」と述べた。

中国は一帯一路を通じて開発途上国に過度の貸し付けを行い、返済が困難な状態に陥らせる「債務のわな外交」を展開していると批判されている。同じ太平洋の島国トンガは、中国輸出入銀行(中国輸銀)に対し、国内総生産のほぼ3分に1に相当する約1億3000万米ドル(約190億円)の債務を負っている。 【12月11日 AFP】
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なお、中国の「一帯一路」については、従来は米豪のように上から目線で民主主義を「説教」することなく資金を気前よくバラまいてきた感がありますが、最近は資金的に余裕がなくなったのか、太平洋島しょ国に関しても重点投資に切り替えたようだ・・・ということについては、前回11月19日ブログでも取り上げました。

【警官ストに乗じた略奪・放火】
話をパプアニューギニアに戻すと、2003年からコロナ禍前の19年までは経済のプラス成長が続いていましたが、その一方で経済格差が広がり、犯罪も深刻化しています。国連児童基金(ユニセフ)の22年の報告によると、人口約1030万人の40%が貧困ライン以下で暮らし、子どもの41%が貧困に苦しんでいるとのこと。

そうした経済状況も背景にあって、今年1月には給与減額問題で警察がストライキを行い、それに乗じて略奪・放火が起こるという社会混乱がありました。

****略奪・放火で数十人死傷 警察「スト」の隙突く―パプア****
太平洋の島国パプアニューギニアで10日から11日にかけ、商店への略奪や放火が相次いで発生し、死傷者が数十人規模に上った。給与が減額された警察官らが事実上のストライキを起こし、その隙を突く形で犯行が広がった。パプア政府は国軍部隊も投入し、治安回復を急いでいる。

直近の給与が事前の通告なく最大80米ドル(約1万2000円)減額されたことを受け、首都ポートモレスビーで10日午前、多数の警察官が抗議行動を繰り広げ、任務から離れた。

その後、首都や第2の都市ラエでスーパーや家電量販店などが次々と襲撃され、盗みや放火が続発。現地報道によると、11日午後までに少なくとも16人が死亡、数十人が負傷した。【1月11日 時事】
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政府は警察の抗議に対し、「給与計算システムの技術的問題」が原因で、修正するとしています。
暴動は11日夕までに沈静化したようですが、11日報道によれば、オーストラリアに対しては“治安維持や警察活動を支援しているパプア政府からの支援要請は現時点でない。”【1月11日 ロイター】とのことでした。

【中国は再度安全保障と警察の協力をパプアに提案 アメリカ「中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴う」】
この暴動を受けて、中国は安全保障と警察の協力を再度提案しています。パプア側も中国との交渉を認めています。

****中国、パプアに安保協力提案=暴動受け親米政権揺さぶる****
中国が太平洋の島国パプアニューギニアに対し、安全保障と警察の協力を提案していることが分かった。パプアのトカチェンコ外相は30日、中国と交渉していると認めた。

パプアのマラペ政権は安保面で米国との協力を進めてきたが、今月起きた暴動で国内基盤が不安定化しており、中国が揺さぶりをかけている形だ。

トカチェンコ氏は30日、声明を出し、「中国は警察分野で訓練や機材提供の支援を申し出ており、われわれは慎重に検討している」と説明した。

中国側の最初の提案は昨年9月。パプアで今年1月、給与を巡る警察官のデモで警備が手薄になったことが暴動を誘発し、中国系企業も被害に遭ったのを受け、働き掛けを強めているもようだ。【1月30日 時事】
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これに対し、アメリカはパプアに対して中国との協定を拒否するよう求めています。

****米、パプアニューギニアに中国との安保協定拒否求める****
バーマ米国務副長官は、パプアニューギニアが中国から安全保障・警察活動で協力するとの申し出を受けたと表明したことを受け、パプアに対して協定を拒否するよう求めた。中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴うと警告した。

バーマ氏は、5日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドとのインタビューで「われわれは、中国が防衛や投資に関与すると高い代償が伴うことを見てきた。それをパプアニューギニアに伝えたい」と述べた。

パプアのトカチェンコ外相は先週、中国から警察に対する訓練や装備、監視技術の提供を打診され、安全保障や警察活動での協力に関する協定を結ぶ可能性を協議しているとロイターに明らかにした。

米国とオーストラリアは過去数10年にわたり太平洋地域を自国の影響が及ぶ圏内と見なし、2022年に中国とソロモン諸島が安全保障協定を結んだことを受け、島しょ諸国と中国による安全保障協定締結を阻止するよう取り組んでいる。

バーマ氏は、南太平洋に続いてオーストラリアを先週訪問し、これは資源が豊富な(太平洋)地域の影響力を巡る競争で、「われわれは積極的に競争していかなければならない」と述べていた。【2月5日 ロイター】
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実際はいろんな話がなされているのでしょうが、上記記事だけ読めば、“中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴う”云々というアメリカの言い様も、随分と一方的というか、恫喝に近いような響きも。

いずれにしても、太平洋島しょ国をめぐる米豪と中国の綱引きはしばらく続きそうです。
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自国の負の歴史への向き合い方 イギリス、オランダ、ドイツ、フランス、そしてオーストラリアの場合

2023-11-03 23:21:59 | 国際情勢

(訪問先ケニアで、地域住民たちと一緒に座り、言葉を交わすチャールズ国王)

【イギリス チャールズ国王、ケニア訪問で「深い悔恨」の意を表するものの、公式謝罪はせず】
自国の負の歴史への向き合い方は各国固有の事情がありますし、その対応も様々。微妙な政治情勢も絡んでくることもあって難しいものがあります。

イギリス チャールズ国王
「過去の悪行について、最大の悲しみと深い後悔の念を抱いています。ケニアの方々に対し、忌まわしく不当な暴力行為がありました」

イギリスのチャールズ国王が10月31日、アフリカのケニアを公式訪問しました。12月にケニアが独立から60周年になるのを前に現在の「両国の温かい関係」をたたえるのが目的。

イギリスの植民地だったケニアでは、1952年から1960年にかけてイギリス統治への反乱が弾圧され、1万人以上が死亡したとされています。

植民地時代の残虐行為や奴隷貿易などを巡っては、チャールズ国王に対し、「国を代表した謝罪」を求める声も上がっていました。

チャールズ国王はイギリスが植民地支配下で行ったケニア人への弾圧行為を認め、「弁解の余地はない」と語りましたが、公式謝罪はありませんでした。

****英国王、旧植民地時代のケニア弾圧「深い悔恨」 公式謝罪はせず****
英国のチャールズ国王は10月31日、公式訪問中のケニアの首都ナイロビで開かれた夕食会であいさつし、英植民地時代に英側による弾圧で多数のケニア人が死亡したことについて「深い悔恨」の意を表した。

欧州では近年、過去の人種差別や植民地支配を巡り国家元首らがどこまで踏み込んだ謝罪をするかが注目されているが、今回は公式謝罪はなく、一部のケニア人を「失望させたかもしれない」(英BBC放送)と報じられている。

国王は「いまわしく不当な暴力行為だった。弁解の余地はない」と語り、「最大の悲しみと深い悔恨」の意を表した。

ケニアは1963年に英国から独立したが、52〜60年の独立闘争では英側の弾圧で1万人以上が死亡したとされる。2013年に英政府は5000人以上に2000万ポンド(約36億円)の補償金支払いを表明したが、謝罪や補償が十分でないとの声も根強かった。

今回、明確な謝罪が見送られた背景には、「立憲君主制」による制約もあるとみられる。王室に詳しいユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのヘザー・ジョーンズ教授はBBCに「国王が個人的に謝罪を試みても、政府の承認が必要になる。立憲君主国の王として、公の場で発言できることには制約がある」と指摘した。スナク首相は謝罪に消極的と報じられている。

オランダでは今年7月、国王が過去の奴隷貿易について人道に対する罪と公式に認め、「皆さんの王として謝罪する」と述べた。同じ欧州の王室による公式謝罪を受け、英王室の姿勢が注目されていた。

近年は、米国で始まった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ、BLM)」運動を受け、人種差別や過去の植民地政策を巡る議論が活発化している。【11月1日 毎日】
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日本を含め多くの列強が植民地支配を行っていますが、植民地支配で最大の利益を得たのは“大英帝国”イギリスでしょう。しかし、故エリザベス女王は一度もそのことで謝罪は行っていません。

“初代のエリザベス女王と違って、故エリザベス2世に国政を動かす権限はなかった。しかし英連邦諸国への度重なる訪問を通じて、女王がイギリスという国とそのシステムを体現する存在だったことは事実。そして過去の植民地支配を一度もわびなかったことも事実だ。”【2022年9月20日 “植民地支配の「罪」をエリザベス女王は結局、最後まで一度も詫びることはなかった” Newsweek】

【オランダ ルッテ首相に続き、国王も奴隷貿易関与を謝罪 ルッテ首相、インドネシアに対しても謝罪】
前出記事にあるオランダ国王の奴隷貿易に関する謝罪は以下のようにも。

****オランダ国王、奴隷制関与を謝罪 「人道に対する罪」****
オランダのウィレムアレクサンダー国王は1日、オランダが過去に奴隷制度に関与したことや、その影響が現在も続いていることを謝罪した。

旧植民地を含むオランダの奴隷制度廃止から160周年となるのを記念してアムステルダムで行われた式典で「オランダの奴隷制の歴史を思い起こすこの日、私はこの人道に対する罪について許しを請う」と述べた。その上で、オランダ社会における人種差別は問題として残っているとの認識を示した。

ルッテ首相も昨年12月、オランダが過去の大西洋奴隷貿易に責任があり、そこから利益を得ていたと認めて謝罪していた。

オランダ王室は同月、植民地の歴史における王室の役割について独立調査を委託しており、2025年に結果がまとまる予定だという。【7月3日 ロイター】
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なお、オランダ・ルッテ首相は2022年2月17日、インドネシア独立戦争(1945~49年)においてオランダ軍が拷問などを「頻繁かつ広範囲」に行っていたとの調査結果を受け謝罪。「オランダ政府を代表してインドネシアに深く謝罪する」と述べています。

【ドイツ 大統領がタンザニアで植民地時代の犯罪を謝罪 ユダヤ人虐殺に関する責任では、イスラエルに対する“負い目”になっている側面も】
11月1日には、東アフリカ・タンザニアでドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領が「ドイツ人があなた方の祖先にしたことに許しを請いたい」と謝罪しました。

****ドイツ大統領、植民地時代の犯罪の「許し」請う タンザニア****
ドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領は1日、訪問先の東アフリカ・タンザニアで、自国が植民地支配中に犯した犯罪を「恥じる」と述べるとともに、その残虐行為に関する自国民の認識を高めていくと約束した。
独領東アフリカの一部だったタンザニアでは、1905〜07年に植民地史上最大の流血の惨事といわれるマジマジ反乱が起きた。専門家によるとこの反乱の際、独軍によって20万〜30万人の先住民が虐殺された。

シュタインマイヤー氏は、反乱の歴史を伝える南部ソンゲアのマジマジ博物館を訪問。独軍による虐殺を「恥」だと明言し、「ドイツ人があなた方の祖先にしたことに許しを請いたい」と述べた。

また「ここで起きたことは、われわれが共有する歴史だ。あなた方の祖先の歴史であり、ドイツにおけるわれわれの祖先の歴史だ」と述べ、さらに「われわれドイツ人は、あなた方が心を休めることのできない未解決の答えを共に探していくことを約束したい」とし、過去の「共同処理」に取り組む用意があると述べた。

シュタインマイヤー氏は前日の10月31日、ダルエスサラームでサミア・スルフ・ハッサン大統領と会談した際、植民地時代にタンザニアから略奪された「文化財や遺骨の返還」に関し、国として協力する姿勢を示していた。

英国のチャールズ国王も同日、訪問先のケニアで、植民地時代の独立運動を英国が弾圧したことについて「忌まわしく、正当化できない暴力行為」があったと認め、「過去の過ちについて最も深い悲しみと遺憾」を表明した。 【翻訳編集】
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ドイツの場合、ユダヤ人に対するホロコーストの歴史がありますが、これについては明快にその責任を認めています。

単に過去の反省・謝罪だけでなく、現在の国際関係にもその影響は及んでいます。

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2008年3月18日、メルケル首相(当時)は、クネセト(イスラエル議会)で約24分間にわたって演説した。イスラエルが建国60周年を迎えたことに敬意を表わすためである。(中略)

そして彼女は、「このドイツの歴史的な責任は、ドイツの国是の一部です。ドイツ首相である私にとって、イスラエルの安全を守ること、これは絶対に揺るがすことができません」と断言した。

この言葉によって、ドイツはイスラエルが紛争に巻き込まれた場合、原則としてイスラエル側に立つというメッセージを全世界に送った。【10月20日 新潮社Foresight】
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これを受けて、今回のイスラエル・ハマスの戦闘にあっても、10月8日にショルツ首相が発表した声明の中に、「イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」という言葉があります。

****ナチスの犯罪に対する負い目****
ショルツ首相は、メルケル前首相の路線を継承して、ハマスによる大規模テロという危機的な事態において、イスラエル支持の姿勢を改めて打ち出した。ドイツのイスラエル寄りの姿勢の背景には、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺に対する「負い目」があるのだ。

(中略)ドイツ政府は、イスラエルに対する軍事支援にも踏み切る。ドイツ国防省の10月12日付の発表によると、同国のボリス・ピストリウス国防大臣は10月12日、「イスラエルからリースされている2機の「ヘロン」型ドローンを返還する他、軍事資材や医療物資も供与する」と語った。

同国の緑の党の議員たちの間からも、イスラエルに対して武器を供与するべきだという意見が出ている。同党のアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「イスラエルは自衛する権利がある」と語った。(後略)【10月20日 “ハマス大規模テロ――なぜドイツはイスラエルを支持するのか”新潮社Foresight】
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【フランス アルジェリア植民地支配・弾圧への明確な謝罪なし】
フランスは広大な植民地をアフリカなどに有していましたが、特に本国と関係が深ったのがアルジェリア。

マクロン仏大統領は2018年9月13日、1957年にアルジェリアでフランス軍に拘束され行方不明となったモーリス・オダンの死について、軍の責任を認め、未亡人に謝罪しました。
ただ、アルジェリア植民支配・弾圧については未だ明確な謝罪発言はなされていません。

****仏マクロン大統領、慰霊祭初参加 60年前のアルジェリア人弾圧、謝罪発言はなし****
フランスと北アフリカの旧植民地アルジェリアが独立戦争中だった1961年10月17日、パリで起きたアルジェリア系移民の弾圧から60年となるのを前に、マクロン大統領が16日、現職大統領で初めて慰霊祭に参加した。大統領府は「許されない犯罪」との声明を出したが、マクロン氏自身からは謝罪の発言はなかった。

マクロン氏はパリ郊外のセーヌ河畔の橋で行われた慰霊祭で黙とうをささげ、遺族らに声を掛けた。

大統領府は、アルジェリア系移民のみに課された夜間外出禁止令への抗議で集まった約2万5000人が弾圧され、数10人が死亡し遺体がセーヌ川に投げ捨てられたことを認めた。死者数は従来の公式見解で3人とされてきたが、数百人規模と指摘する識者もいる。

禁止令を出した当時のパリ警視総監は、第2次世界大戦中の親独ビシー政権で多くのユダヤ人を強制収容所へ送ったとして戦後に裁かれ、実刑判決を受けたモーリス・パポン氏(故人)。大統領府の声明は「パポン体制下で行われた許されない犯罪」とする一方、弾圧の実行者が警察官であるとは言及しなかった。

マクロン氏は初当選した大統領選中に、アルジェリアの植民地化を「人道に対する罪」と糾弾していた。慰霊祭の参加について、パリ郊外ナンテールの市民団体「記憶のための連帯10月17日」のアフメド・ジャマイさん(55)は「フランスが虐殺を認める日のために30年活動してきたのに、大統領の直接の言葉が聞けないとは」と嘆いた。

両親が当時、パリでの抗議行動に参加していた同団体のマメド・カキさん(60)は「虐殺の記憶があまりにむごく、アルジェリア人の多くは子どもに語るのをタブー視してきた」と指摘。マクロン氏に対し「新しい歴史のページをめくる好機を逃した」と残念がった。

歴代仏政権が弾圧の事実と向き合ってこなかったことは、アルジェリア独立後も両国対立の背景の一つとなってきた。今月以降、マクロン氏自身の歴史認識を巡る発言を機に激化していた対立が緩和に向かう可能性もあるが、仏国内では右派系野党から「反仏プロパガンダに屈した」などと批判も出ている。【2021年10月17日 東京】
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【オーストラリア アボリジニへの歴代首相の謝罪に続き、憲法改正を試みるも大差で否決】
オーストラリアで問題になっている過去の歴史は先住民アボリジニの殺戮・差別。
2008年2月13日、ケビン・ラッド首相が議会で演説、過去のアボリジニに対する差別的政策について公式に謝罪。
2021年2月15日、スコット・モリソン首相も議会で「事実を認め、これまでの首相の言葉を繰り返す。申し訳ない」とあらためて謝罪。

アルバニージー首相は更に一歩進め、「アボリジナル・ピープルおよびトレス海峡諸島民を『最初のオーストラリア人』と認め、その意見を議会に届ける諮問機関ボイスを創設する」とする憲法改正を国民に問いましたが、当初は賛成の世論が多数だったものの、野党の反対もあって、次第に反対の世論が増え、国民投票では反対が6割を超える大差で否決されました。

****豪、先住民巡る改憲否決 国民投票で反対6割超える****
オーストラリアで14日、アボリジニなど先住民を巡る憲法改正の是非を問う国民投票が実施され、反対多数で否決された。先住民の指導者は15日、遺憾の意を示し、1週間にわたり先住民の旗を半旗にする方針を表明した。

国民投票では、先住民を「最初のオーストラリア人」と認めることや、先住民が影響を受ける問題を政府に諮問する組織「議会への声」設立の是非が問われた。

改憲には賛成が全国で過半数を占め、さらに全6州のうち少なくとも4州で過半数に達する必要があったが、全州で反対が多数を占め、全国では反対派が60%以上に上った。

先住民の指導者は「この大陸に来てまだ235年しか経っていない人々が、この地を6万年以上にわたって故郷としている人々を認めることを拒否するとは道理を超えている」と述べた。

今回の結果は先住民社会との和解に向けたオーストラリアの取り組みに大きな痛手となり、先住民問題への対応における同国のイメージも損ねるものとなる。【10月16日 ロイター】
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****オーストラリア、先住民の権利向上をめぐる国民投票「否決」...甘すぎた政府の理想と現実****
<アボリジニの未来のため、白豪主義の過ちを償おうとする首相の訴えは理想論としては完璧だったが、誤算と失策に悩まされる結果に>

10月14日、オーストラリアで先住民の権利をめぐる国民投票が行われ、否決された。是非が問われたのは、「アボリジナル・ピープルおよびトレス海峡諸島民を『最初のオーストラリア人』と認め、その意見を議会に届ける諮問機関ボイスを創設する」ための憲法改正案だった。

否決自体は想定内だったが、その規模は予想をはるかに超えていた。60%もの有権者が政府の改憲案を拒否したのだ。

この結果は人々に内省を促した。否決は先住民に対する国民の姿勢の表れなのか。それとも単に反対派の戦略がうわてだったのか。

多くの疑問が渦巻くが、確かなことが1つある。昨年5月の政権発足以来、改憲に取り組んできた労働党のアンソニー・アルバニージー首相にとって、敗北は甚大な打撃だ。

国民投票を実施したアルバニージーの気骨は称賛に値する。憲法で自分たちの存在を明文化し、諮問機関を設立することを先住民が求めた2017年の「心からのウルル声明」を尊重するという公約を、彼は守ろうとした。

先住民がよりよい未来を築けるようにその6万5000年の歴史を認め、白豪主義の過ちを償おうと、アルバニージーは訴えた。これは理想論としては完璧だったが、いざ改憲を実現しようとすると誤算と失策に悩まされた。

説明不足と先入観も敗因
まず、実現に課したハードルが高かった。改憲には全国の有権者の過半数が賛成票を投じ、なおかつ全6州のうちの4州以上で賛成票が過半数に達する必要がある。(中略)

一方、今回問われたのは理念だった。政府はボイスがどんな機関になるのか具体的な構想を示さず、有権者の承認を得た暁には議会がそうした決定を下すとのみ説明した。

先住民の声を政策に反映しやすくする機関の創設は既に国民の理解を得ていると信じたのも、失敗だった。確かにこの数十年で、裁判や調査が先住民迫害の衝撃的実態を明らかにした。歴史は再検証され、国民の意識も変わった。それでも有権者に改憲への賛同を取り付ける段になると、政府は説得力を欠いた。

22年の総選挙で労働党を圧勝させた民意が再び味方してくれると思い込んだのも、間違いだった。

先住民の大半はそんな変化を求めていないとの主張
具体的な構想を示さない政権のやり方に、22年に惨敗した野党・保守連合(自由党、国民党)は目を付けた。有権者の心をつかむのに苦心していた保守連合にとって、国民投票は千載一遇のチャンスだった。「分からないことにはノーと言おう」のスローガンを武器に、野党は有権者の心に疑いの種をまいた。

先住民の指導者であるジャシンタ・ナンピジンパ・プライス上院議員と先住民の実業家で元政治家のウォーレン・ムンディーンも担ぎ出した。先住民の大半は政府が提案するような変化を求めていないと、2人は主張した。

改憲案に込められた大義は、国民投票の否決により致命傷を負った。先住民を代弁するはずだったボイスは、目先の利益しか考えない政治家の手で封じられたのだ。【11月2日 Newsweek】
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パレスチナ・ウクライナだけでなく・・・アフガン・ミャンマー・コンゴでも

2023-10-11 23:32:18 | 国際情勢

(地震により倒壊した自宅の中庭で、猫を抱いているアフガニスタンの少年=10月8日 )

【相次ぐ地震で2400人以上が死亡】
イスラエル・パレスチナに関する報道は連日山のように。それに隠れた感もある(戦線がやや膠着していることもあるでしょうが)ウクライナに関する報道もそこそこに。

ただ、言うまでもないことですが、パレスチナ・ウクライナ以外でも世界各地で悲惨な出来事が起きています。
そうした出来事をいくつか。

アフガニスタンでは7日に発生した相次ぐ地震で2000人以上が亡くなっています。****

****アフガニスタン地震 タリバン暫定政権“2000人以上が死亡”****
アフガニスタン西部で7日発生したマグニチュード6.3の地震で、現地で実権を握るイスラム主義勢力タリバンの暫定政権は、これまでに2000人以上が死亡したと明らかにしました。現地では倒壊した建物に取り残されている人の救助活動が続けられています。

USGS(アメリカの地質調査所)によりますと、日本時間の7日午後、アフガニスタン西部を震源とするマグニチュード6.3の地震が2回発生し、その後も複数回、地震が観測されました。

現地で実権を握るタリバンの暫定政権は8日、これまでに2053人が死亡し、けが人は9000人以上にのぼると明らかにしました。

また、地震で1300の住宅が全壊したということで、取り残されている人も多くいるとみられていて、救助活動が続けられています。

被災した地域では地震のあと、電話がつながりにくい状態が続いているほか、道路の状況も悪化していることなどから、救助活動への影響が懸念されています。

被害はイランと国境を接するヘラート州に集中しており、この地域ではれんがや土でできた簡素な住宅が多く、被害が拡大したとみられています。

アフガニスタンではこれまでにも地震による被害が相次いでいて、去年6月に東部のホスト州で発生したマグニチュード5.9の地震では1000人以上が死亡しています。

上川外相「必要な支援を迅速に」
上川外務大臣は8日夜、談話を発表し(中略)「この困難を乗り越えるにあたり、日本は国際機関と連携しつつ、必要な支援を迅速に提供すべく尽力する。アフガニスタンの国民との連帯を表明するとともに、人道状況の改善に向け引き続き取り組んでいく」としています。【10月8日 NHK】
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タリバン暫定政権の幹部も現地入りし、被災者支援に全力を挙げる姿勢をアピールしているようですが、救助に関する能力は限定的でしょう。

ロイター通信によると、これまでに確認された死者は2400人超。ただ、倒壊した建物の下敷きになったままの人がいるとみられ、犠牲者は増える恐れがあります。

同じヘラート州では、11日にも再び大きな地震がありました。

****アフガン西部で新たにM6.3の地震****
アフガニスタン西部ヘラート州で11日午前5時10分(日本時間同9時40分)ごろ、マグニチュード6.3の地震が発生した。米地質調査所(USGS)が明らかにした。同地域では7日にもM6.3の地震が発生し、死者数は2000人を超えている。
USGSによると、震源は浅く、州都ヘラートの北方約29キロの地点。 【10月11日 AFP】
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被害の拡大が懸念されます。
同地域はヒマラヤ造山帯に位置しています。

****アフガン西部地震 M6規模相次ぎ発生 二つの地震のメカニズム****
アフガニスタン西部ヘラート州で2000人以上が死亡した7日のマグニチュード(M)6・3の地震では、発生から30分後に数キロ南で同規模の地震が相次いで起きたことが被害を拡大させた。専門家は二つを「一連の地震だった」とみる。

東京大地震研究所の岩森光教授(地球ダイナミクス)によると、二つは東南アジアからユーラシア大陸を横断する「アルプス・ヒマラヤ造山帯」で起こった。インドプレートまたはアラビアプレートが、北にあるユーラシア大陸に衝突したり沈み込んだりする動きに伴って地震が起きたと考えられる。

二つはいずれもほぼ南北方向に圧縮された逆断層型で、造山帯の一部であるヒンズークシ山脈から東西に伸びる活断層の西縁で起きたとみられるという。

アフガンでは2022年6月にも東部で1000人以上が死亡する地震(M6・1)があった。岩森教授によると、今回地震の起きた西部は、東部に比べ地震活動は少ないという。

米地質調査所(USGS)によると、1920年以降、今回の地震の震源から250キロ以内でM6以上の地震は他に7回起きているが、いずれもイラン国内だった。1997年5月にはM7・3の地震で1500人以上が死亡した。【10月11日 毎日】
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壮大な地球の営みと言えばそうも言えますが、亡くなった方だけでなく、家を失った多数の住民の厳しい冬を迎えるこれからが危惧されます。

欧米・日本など国際社会とタリバン政権の溝が救援・支援活動を制約することになるであろうことも懸念されます。

今回の人道支援でその溝が多少でも埋まり、タリバン政権の国際社会への歩み寄りがあればいいのですが、多くは期待できないかも。

【ミャンマー 国軍の空爆被害が拡大】
ミャンマーでは国軍による少数民族武装勢力の拠点への攻撃が続いています。

****ミャンマーの避難民キャンプを国軍が攻撃 子ども含む32人が死亡****
ミャンマーの避難民キャンプが国軍による攻撃を受け、子どもを含む少なくとも32人が死亡しました。

現地メディアなどによりますとミャンマー北部のカチン州で9日、避難民キャンプが攻撃を受けました。国軍のドローンによる空爆とみられています。 この攻撃で、13人の子どもを含む少なくとも32人が死亡し、50人以上がけがをしたということです。

被害にあった避難民キャンプは国軍と対立する少数民族武装勢力の拠点の近くにあり、衝突の巻き添えになった可能性があります。【10月10日 ANNニュース】
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上記に限らず、国軍による空爆被害が拡大しており、国連人権高等弁務官事務所は「軍事作戦が民間人に対して組織的に行われてきた」と国軍を非難しています。

****ミャンマー国軍の空爆「23年7月末までに988回」 国連が非難****
クーデターを起こした国軍が実権を握るミャンマーで、空爆被害が深刻化している。

国連人権高等弁務官事務所が9月に公表した報告書によると、クーデターが起きた2021年2月から23年7月末までに計988回の国軍による空爆を確認。死者は少なくとも281人にのぼる。

ターク人権高等弁務官は26日、「軍事作戦が民間人に対して組織的に行われてきた」と国軍を非難し、海外からの武器調達を阻止すべきだと訴えた。
 
報告書によると、被害が最も大きかったのは、北部ザガイン地域で4月11日にあった空爆で、子供35人と女性19人を含む150人が犠牲になった。

軍用機が爆弾を投下した後にヘリコプターからの攻撃があり、銃創が確認された人もいたという。民主派武装組織の関連施設の開所式を狙ったとされ、国軍は直後に「空爆で武器庫が爆発し、武装勢力が死亡したとの報告を受けた」と説明していた。
 
一方で、報告書は民主派の「国民統一政府(NUG)」など反軍政勢力に対しても、民間人への人権侵害が確認された場合は厳正に対処するよう求めた。

NUGが組織した国民防衛隊(PDF)や少数民族武装勢力と国軍の衝突が続く中、軍政への抵抗として職務放棄する「不服従運動」に参加しない公務員らが攻撃されているという。6月にはヤンゴンにある税務署でゲリラ集団が関与した爆発があり、職員と一般市民の計6人が負傷した。【9月29日 毎日】
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なお、拘束中のスー・チー氏については、その体調が懸念されています。

****アウン・サン・スー・チー氏、医師の診察受けられない状態…歯周病悪化で一時は歩行困難に****
ミャンマー国内の刑務所に収監されているアウン・サン・スー・チー氏(78)について、民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」のソー・バ・ラ・ティン駐日代表は28日、医師の診察を受けられない状態が続いていると明かした。
 
スー・チー氏は持病の歯周病が悪化して刑務所外の医師の診察を求めたが、国軍は認めず、一時は歩けなくなるまで容体が悪化したという。

同代表は「国軍はスー・チー氏を大病にしようとしている。クーデターから2年以上たっても国内を統治出来ない焦りの表れだ」と非難した。

スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)も14日、「命の危険にさらしている」と国軍を非難する声明を出した。【9月28日 読売】
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【コンゴ ノーベル平和賞あ受賞者の医師のデニ・ムクウェゲ氏が大統領選立候補 ルワンダのコンゴ侵攻を批判】
続いては、アフリカ中部のコンゴ

****ゾウ殺され食べられる 国立公園から逃走―コンゴ****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)にある世界遺産「ビルンガ国立公園」から逃げ出したゾウ1頭が、武装集団に殺された上、現地住民に食べられたことが分かった。コンゴ自然保護協会(ICCN)などが9日明らかにした。

コンゴ東部では1990~2000年代に地域紛争が激化し、過去30年にわたり武装勢力が活動。「動物の聖地」として世界的に知られるビルンガ国立公園は、紛争地帯の中に位置する。
 
ICCNによれば、若者たちが数週間前、国立公園を囲む電気柵を破壊。9日に2頭のゾウが逃げ出し、うち1頭が殺された。住民らがゾウの肉を分け合って食したという。

コンゴは人口の3分の2が1日2.15(約320円)未満で過ごす世界最貧国の一つ。【10月10日 AFP】
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多くの武装勢力が跋扈し、暴力が蔓延し、住民は貧困に苦しむコンゴ・・・・ゾウを食べたくて食べたのか、ほかに食べるものがなく食べたのか・・・そこらは知りません。

そのコンゴの大統領選挙にノーベル平和賞を受賞した医師のデニ・ムクウェゲ氏が立候補しています。

****ノーベル平和賞受賞の医師 コンゴ民主共和国大統領選立候補へ*****
アフリカ中部のコンゴ民主共和国で、長年、紛争下での性暴力の被害者の治療に当たり、ノーベル平和賞を受賞した医師のデニ・ムクウェゲ氏がことし12月に行われる大統領選挙に立候補すると表明しました
ムクウェゲ医師は、武装勢力が衝突や襲撃を繰り返しているコンゴ民主共和国東部で、長年にわたって性暴力を受けた人々の治療に当たり、2018年にノーベル平和賞を受賞しました。

ムクウェゲ医師はその後も医療活動を続けていましたが、2日、首都キンシャサで開かれた会合で演説し、ことし12月に予定されている大統領選挙に立候補することを表明しました。

この中でムクウェゲ医師は「私が立候補するのは、祖国を救い、国を正し、人々の尊厳を取り戻すためだ」と述べ、治安の回復や政府の統治能力の強化に取り組む姿勢を示しました。

コンゴ民主共和国は、電気自動車のバッテリーなどに使われるコバルトや金などの鉱物資源が豊富に産出される一方、経済は低迷し、国民の半数以上が極度の貧困に陥っているとされて、12月の大統領選挙には、現職のチセケディ大統領らも立候補するとみられていて、政治的な実績はないものの国際的な知名度の高いムクウェゲ医師がどこまで支持を伸ばすか注目されます。【10月3日 NHK】
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昨年の会議でデニ・ムクウェゲ氏は「ロシアによるウクライナ侵攻と同様に、コンゴ民主共和国も隣国、特にルワンダによって侵攻されている。その侵攻からもうすぐ30年が経つ」と語っています。

ルワンダの侵攻・・・・ルワンダが支援しているとされるツチ族主体の武装勢力M23をさしています。

ルワンダ・カガメ大統領は支援を否定し、あくまでもコンゴの国内問題としています。また、カガメ大統領は「アメリカを含め皆はいつもルワンダを責めるが、コンゴ東部在住のルワンダ反政府勢力については沈黙しているではないか」とも

M23については以前も取り上げたことはありますが、最近の状況については、パレスチナやウクライナと違って、日本国内ではほとんど情報を目にしません。

下記は昨年12月と今年2月のもの。

****コンゴ民主共和国で政府とM23の対立激化、和平交渉は難航****
コンゴ民主共和国(DRC)東部の北キブ州において、DRC政府と反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」間の対立が再び激化している。

事態を受け、11月23日にアンゴラの仲介で関係国が和平交渉のための会合(ルアンダ・プロセス)を開催。11月28日~12月6日にはケニアの首都ナイロビにおいて、東アフリカ共同体(EAC)が主導する3回目の和平交渉(ナイロビ・プロセス)が行われた。報道によると、こうした努力にもかかわらず、その後も断続的に戦闘が続いており、和平プロセスは難航している。

M23は、DRC政府軍から離脱した反政府勢力で、2012年4月に活動を開始したとされる。2013年11月には停戦を宣言するも、その後も断続的な攻撃が続き、2021年11月にM23による大規模な戦闘が発生したことで、以降、情勢は深刻化している。(中略)

なお、DRCは、隣国ルワンダがM23を支援していると主張している。DRC情勢については、米国のアントニー・ブリンケン国務長官が2022年12月4日、ルワンダのポール・カガメ大統領と会談を行い、和平プロセスへの支持を表明した上で、締結された諸協定について実効性を持たせることを求めた。

加えて、ルワンダによる支援を含め、M23に対するいかなる支援について、ただちに終了させる必要があるとした。なお、ルワンダはかねてM23への支援を否定している。【2022年12月09日 梶原大夢 JETRO】
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****コンゴ東部でM23をめぐる紛争続く****
(中略)M23をめぐる紛争については、アンゴラのロウレンソ大統領がアフリカ連合(AU)および南部アフリカ開発共同体(SADC)から委任を受けて仲介役を務めており、同時にケニヤッタ元ケニア大統領が東アフリカ共同体(EAC)のファシリテーターとして調停にあたっている。

昨年7月、ロウレンソがチセケディとカガメを首都ルアンダに招き、和平に向けた合意を得たが、停戦は続かなかった。9月以降、ケニアのイニシャティブでコンゴ東部にEAC軍が展開されたが、抑止力としては機能していない。
 
この間、コンゴとルワンダの関係は悪化を続けている。M23の攻勢はルワンダの支援によるものだというコンゴ側の主張と、コンゴの国内問題だというルワンダ側の主張が平行線をたどっており、チセケディとカガメは相互に非難を繰り返すだけで、直接対話もできなくなっている。
 
国際社会のスタンスは、ルワンダにM23への支援を止めるよう求めるものだ。それに対してカガメ大統領は、M23はコンゴ国内の問題であり、問題はコンゴのガバナンスだと繰り返し、国際社会へのいらだちを隠していない。

ルワンダが何らかの形でM23への支援を行っていることは、国連専門家委員会が認めるところである。一方、コンゴ側のガバナンスに深刻な問題があること、そして紛争の中で民兵組織を利用してきたこともまた事実である。

ルワンダを締め上げれば問題が解決するわけではない。こうした状況下、戦闘の意思と能力を持つM23に引きずられる形で、紛争が拡大している。【2月4日 現代アフリカ地域研究センター】
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1998年の国連人権委員会の特別報告者による報告書で、ルワンダがコンゴ侵攻当初の1996〜1997年、フツ系ルワンダ難民らに対するジェノサイド(集団虐殺)に関与していた可能性が指摘されています。

ジェノサイドの被害者とされるツチ族指導者のカガメ大統領が、一方でフツ族へのジェノサイドを行っていた・・・という話にもなります。

コンゴ領内でフツ族武装勢力と戦ってきたツチ族M23へのルワンダの支援を公の場で問題視すれば、上記のルワンダ・カガメ政権によるジェノサイドにもかかわってきて、国際政治上微妙な問題になります。

カガメ大統領は、PKOからの撤退などに言及し国連に圧力をかけています。そうした「微妙」な事情があって、報告書は国連では議論されていません。

一般的イメージでは、ルワンダ(ツチ族によるカガメ政権)はジェノサイドの被害者、フツ族は加害者、コンゴは自らの統治能力のなさで混迷しているという認識になっています。

ムクウェゲ氏のルワンダによるコンゴ侵攻を糾弾する発言は、ロシアは非難されるのに、どうしてルワンダは非難されないのか・・・という国際社会・メディアの二重基準に対する怒りがあると思われます。
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米中関係  濃密に続く両国協議 進むバイデン・習近平会談の実現に向けての地ならし

2023-10-04 23:21:31 | 国際情勢

(サリバン米大統領補佐官(左)と握手する中国の王毅共産党政治局員兼外相=17日、マルタ(中国外務省のホームページより、共同)【9月17日 共同】)

【相次ぐ米高官訪中 中国も米へ秋波 サリバン・王毅両氏 マルタ島で12時間に及ぶ協議】
互いに対抗姿勢を強めながら安全保障・外交戦略を展開しているアメリカと中国ですが、一方で対話を求める動きも頻繁に行われています。

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米中関係は2月に発覚した中国の偵察気球の米本土飛行を契機に冷却化したが、バイデン政権は6月以降、ブリンケン国務長官、イエレン財務長官、ケリー大統領特使(気候変動問題担当)、レモンド商務長官を相次ぎ訪中させた。

バイデン氏は11月のAPEC開催に合わせ習氏と会談する強い意向を持っている。

習氏自身はインドで今月開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に欠席。経済問題の対処に苦慮しているとみられ、APEC出席の見通しも現時点では不透明だ。

一方で中国の対外的な威圧行為に緩む気配はなく、米高官の派遣にも実質的な成果は乏しく、「対話ありき」の姿勢には野党共和党から批判が上っている。【9月18日 産経】
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当面のイベントとしては、G20では実現しなかったバイデン大統領と習近平国家主席の会談をどのようにセットするかが焦点となっています。

****中国首相「米中は交流を密にすべき」とバイデン氏に訴え****
中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は11日の記者会見で、李強(り・きょう)首相がインドでバイデン米大統領と「短く交流した」と明らかにした。

毛氏によると、李氏はバイデン氏に「中国の発展は米国にとって挑戦ではなくチャンスだ」と述べた上で「中米両国は交流を密にすべきだ」と訴えた。

李氏とバイデン氏は、インドで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の会場で会った。毛氏は、李氏が会場で「バイデン氏ら多くの国の指導者と簡単で短い交流を行った」と説明した。

これまで中国はG20サミットにはトップである国家主席が出席し続けてきたが、習近平国家主席は初めて参加を見送った。今回のG20サミットに合わせて習氏とバイデン氏による米中首脳会談の開催が取り沙汰されていた。

11月に米サンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で習氏とバイデン氏による米中首脳会談が実現するかが次の焦点となる。【9月11日 産経】
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アメリカのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国の王毅外相が地中海の島国マルタで9月16日から17日にかけて12時間に及ぶ会談を行ったことも両国サイドから発表されています。

ホワイトハウスと中国外務省の声明によると、双方は「率直で実質的かつ建設的」な話し合いを行ったとのこと。

****米中高官が協議、首脳会談探る マルタで12時間****
バイデン米政権は17日、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と王毅共産党政治局員兼外相が16、17日に地中海マルタで会談したと発表した。高官級の意思疎通を深め、11月に米国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせたバイデン大統領と習近平国家主席との会談実現につなげる考えとみられる。

ホワイトハウスの声明は「率直かつ実質的、建設的な議論が行われた」としている。米高官によると、2日間で約12時間に及んだ。

サリバン氏は、台湾周辺で中国軍用機や艦船の動きが活発化していることに懸念を示し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調。ウクライナに侵略を続けるロシアに中国が軍事支援を行わないようくぎを刺した。

両者は米中間の重要課題に対処するため戦略的な対話チャンネルを維持することで一致。英紙フィナンシャル・タイムズによると、王毅氏は来月にもワシントンを訪問する見通しという。(後略)【9月18日 産経】
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中国からはアメリカとの対話に“秋波を送る”ようにも思える反応も。

****習主席「米中は平和的共存実現を」、元米義勇軍隊員の書簡に返信****
中国の習近平国家主席は第2次世界大戦中に中国を支援した米義勇航空部隊「フライング・タイガース」の退役軍人に対し、中国と米国は平和的共存を実現しなければならないとの考えを示した。国営メディアが19日報じた。

退役軍人2人からの書簡に返信し、中米両国民は旧日本軍との戦いで同じ敵を共有し「深い」友情を築いてきたと述べた。

「中国と米国は将来に向けて世界の平和、安定、発展により重要な責任を負っている」と指摘。「両国は相互尊重、平和的共存、ウィンウィンの協力を実現しなければならない」と強調した。

フライング・タイガースは1941年から42年にかけて日中戦争で蒋介石が率いる中国国民党軍を支援した米国の義勇軍。【9月19日 ロイター】
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****中国副主席「米と共に繁栄」 首脳会談へ具体的行動も要求****
中国の韓正国家副主席は18日、ブリンケン米国務長官とのニューヨークでの会談で「両国は互いに成功し、共に繁栄できる」と強調した。首脳会談を実現するため「具体的な行動を取り、有利な条件をつくり出す」ことを米側に要求した。中国外務省が19日発表した。台湾問題や米主導の対中包囲網を巡り、中国側の対米不信は根強い。

中国外務省によると、韓氏は「中国の発展は米国にとってチャンスだ。利益であり、リスクではない」と主張。同盟・友好国を巻き込んで「デカップリング(経済切り離し)」や「デリスク(リスク回避)」を進めようとするバイデン政権をけん制した。【9月19日 共同】
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「中国の発展は米国にとってチャンスだ」というのは事実です。中国にとってアメリカも同様。両国は現在でも経済的には深く結びついており「デカップリング(経済切り離し)」などできない関係にあります。

対抗する米中両国・・・とは言っても、そうした相互依存関係が存在することがかつてのアメリカ・ソ連の「冷戦」とは全く異なるところです。

単発の高官レベルの会談だけでなく、定期的な会合の枠組み作りも進んでいます。

****米中、経済・金融作業部会を発足 高官レベルの対話ラインに****
米財務省は22日、中国との間で経済・金融作業部会を発足させたと発表した。次官レベルで定期的に会合を開き、米国側はイエレン財務長官、中国側は経済政策を担当する何立峰副首相に結果を報告する。

バイデン政権による先端半導体の対中輸出規制などで米中関係は悪化しており、高官レベルの対話のラインを設置することで対立激化を避ける狙い。

米財務省は「経済・金融政策に関し率直に議論し、マクロ情勢に関して情報交換するための継続的な対話チャンネルを設ける」と説明した。

イエレン氏は7月、北京を訪問して李強首相や何氏ら中国政府高官と会談。「より頻繁に意思疎通を図るようになると確信している」と対話の継続に意欲を示していた。【9月22日 毎日】
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【北朝鮮の越境米兵追放にも中国の働きかけが】
9月27日に、北朝鮮は越境米兵の亡命を認めず追放したことが報じられ、米兵はアメリカの保護下に置かれました。

****北朝鮮、拘束米兵を追放=米国が保護下に****
北朝鮮は、拘束していた米軍のトラビス・キング2等兵の調査を終え、「領内に不法侵入した」として追放した。米政府高官は27日、キング氏を米国の保護下に置いたと明らかにした。

朝鮮中央通信によると、キング氏は北朝鮮の調査に対し、「米軍内での非人間的な虐待と人種差別に対する反感、不平等な米国社会への幻滅」を理由に、北朝鮮側に渡ったと説明した。キング氏は亡命を希望していたとされるが、北朝鮮は認めなかった。

キング氏は7月18日、板門店の共同警備区域(JSA)のツアーに参加していた最中に軍事境界線を越えて北朝鮮側に渡った。韓国に駐留していたが、米韓のメディアによると、韓国で暴行の疑いで拘束された後、米国への移送中に空港から抜け出していた。【9月27日 時事】
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北朝鮮の今回措置の背景には、北朝鮮との国交がないアメリカに代わって、北朝鮮と国交を持ち、平壌に大使館も有するスウェーデンが窓口になったと報じられています。

また、アメリカ政府高官は米兵移送に関して、引き渡し場所となった中国が「建設的な役割」を担ったとしています。

中国は単に引き渡しルートに協力しただけでなく、北朝鮮への働きかけも行ったようです。
北朝鮮の対応は、越境米兵を政治的に利用することなく、不思議なぐらいに淡々としたものでしたが、その背後にそうしたアメリカとの関係改善を念頭に置いた中国の思惑もあったようです。

そうしたこともあって、バイデン・習近平会談に向けて気運が高まっているようです。

****米中、首脳会談実現へ協議に弾み=関係者****
中国の習近平国家主席の訪米およびジョー・バイデン米大統領との首脳会談の実現向けた両国間のハイレベル協議に弾みがついている。

複数の関係者によると、習氏の側近で経済政策トップの何立峰・中国副首相がワシントンを訪問する方向で協議が進められている。実現すれば、バイデン政権発足以来で最も高位の中国当局者の訪米になる。米中首脳会議の準備のため王毅外相が10月にワシントンを訪問する計画も進められている。

北朝鮮は今週、韓国から越境した米兵を国外に追放したが、米当局者によると、背後には中国の働きかけがあった。ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は10日前の王氏との会談で、米兵の越境問題を取り上げていたという。

米中の間で緊張が高まる中、両国は関係の安定化を図っている。両政府の動きを踏まえると、11月にサンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に習氏が出席する可能性が高まったようだ。

バイデン氏と習氏は直近では昨年11月、インドネシア・バリ島での20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて会談した。

中国政府は米国とその同盟国に対抗しようと、ロシアとの連携を強化している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は来月北京を訪問し、習氏の推進する広域経済圏構想「一帯一路」の首脳会議に合わせて習氏との会談に臨む予定だ。複数の関係者によれば、一帯一路の会議は10月17、18の両日に開催される。

ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所の中国センターのディレクターでオバマ政権時代に国家安全保障会議(NSC)中国部長を務めたライアン・ハス氏は「中国高官によるこうした訪問が実現すれば、首脳級会合の確率は高まり続ける」と話した。

王氏は26日、北京での記者会見で今年のAPEC首脳会議について「対立を招く争いの場ではなく、協調を促す大舞台にするべきだ」とした上で「米国は開催国としての責任を認識し、開放性、公平性、寛容、責任感を示し、円滑な会議運営に向けて環境を整える必要がある」と語っていた。

中国大使館は、米中両政府が「二国間の取り組みとやり取りについて連絡を取り合っている」と述べた。米財務省はコメントを避けた。米国務省のマット・ミラー報道官は27日、米中首脳会談実現の可能性についてのコメントを避けつつ、「首脳同士の対話に代わるものはない」と語った。【9月29日 WSJ】
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【アメリカの超党派訪中議員団も】
その後も「建設的協議」が続いています。

****米中外交官がワシントンで会談、対話維持へ「建設的協議」=米政府***
米国務省は28日、ダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)と中国の孫衛東外務次官がワシントンで会談し、「率直で綿密かつ建設的な協議」を行ったと発表した。

ここ数カ月、米高官が相次いで訪中し、対話維持に向けた取り組みを続けている。

最近では、ブリンケン国務長官がニューヨークで中国の韓正副主席と会談、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)がマルタで中国の王毅外相と会談した。

国務省は「米中双方は、オープンな連絡手段を維持するための継続的な取り組みの一環として、地域問題に関して率直で綿密かつ建設的な協議を行った」と発表。

クリテンブリンク氏が「台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を再確認した」ほか、ミャンマーや北朝鮮、海洋を含む他の地域問題についても協議が行われたと説明した。【9月29日 ロイター】
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更には、アメリカからの超党派の議員団訪中も。

****中国が歓迎 アメリカ超党派議員団が訪中へ****
中国政府は4日、アメリカの超党派議員団が近く中国を訪問することを認めたうえで「歓迎する」とのコメントを発表しました。

アメリカのブルームバーグ通信は2日、与党・民主党の議会上院トップのシューマー院内総務が来週、超党派議員団を率いて中国を訪問し、習近平国家主席との面会も模索していると伝えていましたが、中国外務省は4日、コメントを発表し「訪問を歓迎する」としました。

コメントでは、「今回の訪問がアメリカ議会の中国に対する客観的な理解を深め、両国の立法機関の対話と交流を促進し、両国関係の発展にプラスとなる要素をもたらすことを望む」としています。

アメリカと中国は対立する一方で、6月のブリンケン国務長官訪中など対話を活発化させつつあり、中国としても今回の訪問歓迎で対話への意欲を示した形です。

米中をめぐっては、来月、アメリカで開かれるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議にあわせて、バイデン大統領と習主席の会談が実現するかが焦点となっていて、今回の議員団の訪中が米中首脳会談の地ならしとなるか注目されます。【10月4日 TBS NEWS DIG】
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このように最近の両国の動きを並べると、随分に親密なようにも思えます。
表向きの「言うべきことを言う」関係も重要ですが、同時に、こうした関係維持に向けた動きも重要です。

日本は処理水をめぐって中国とやりあっていますが、中国側にはそろそろ落としどころを探すような雰囲気も。水面下で日中間での協議・接触が行われている・・・のでしょうか? 米中関係を見れば、日中間でももっと高官レベルの接触があってもいいようにも思えます。
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“陣取り合戦”の様相を呈している国際社会 有利な陣形を作るべくグローバルサウスに働きかける米中

2023-09-20 23:28:34 | 国際情勢

(15日、キューバの首都ハバナで開幕した「G77プラス中国」首脳会議=ロイター【9月16日 読売】)

【「陣取り合戦」の時代に入った国連】
現在の国際社会は、欧米と中ロの対立によって国連安保理での決定ができない状況で、いかに多数の支持国をあつめて「有利な状況」をアピールするか・・・という陣取合戦のような様相を呈しています。

****中国とロシアのコンセンサスがなければ国連憲章は改正できない 「陣取り合戦」の時代に入った国連***
(中略)
ロシアのウクライナ侵略以来、機能しなくなった国連安全保障理事会 〜「自分がいい形勢をつくらなければいけない」というゲームの時代に入った
秋田浩之氏(日本経済新聞コメンテーター))(中略)2022年から国連総会の意味が激変してしまったと思います。(中略) 国連安全保障理事会という中枢の場所で、侵略しているロシアとそれを支持している中国が拒否権を握っているという意味では、国連安全保障理事会は機能しなくなっているのです。(中略)

そんな国連に出て何をするかと言うと、理想的には「みんなで協力して一致点を探る」ことも行うべきだとは思います。それ以上に、囲碁や将棋のような盤上にみんなが出かけて行き、「自分がいい形勢をつくらなければいけない」というゲームの時代に入ったのでしょう。何かが決まるのではなく、国連とはそのような場所だということです。(中略)

今後は国連が機能しないまま、陣取り合戦の時代がずっと続いていくかも知れません。

グローバルサウスの国々をどのようにして西側に引き寄せるか
(中略)
秋田)国連総会でみんなが一斉に投票すると、どれだけロシアに批判的な票が増えたか、どれだけ支援する国があるのかがわかる。それが何かの決定につながるわけではないのですが、「悪いことはできない」という圧力にはなります。その意味では、グローバルサウスと言われる途上国や新興国を、どう西側に引き寄せるかが重要だと思います。

グローバルサウスをどのようにこちら側に引き寄せるのか 〜中国・ロシアの周りを陣取りして、自分たちに有利な陣形をつくるために途上国・新興国を引き寄せていく
(中略)
秋田)私は先週まで旧ソ連のジョージアのトビリシに行き、その後は大西洋を越えてニューヨークを訪れ、それぞれの国際会議に出ていました。(中略) トビリシの方はウクライナ問題が中心でした。ニューヨークの方はイギリスのシンクタンクが主催した会議で、アングロサクソン系の元高官や識者が多く参加していました。「2泊3日で世界の問題を討論する」という合宿形式で、50人くらいの少人数で行いました。(中略)

印象的だったのが、「グローバルサウスをどうやってこちら側に引き寄せるのか」という内容が重要なテーマとしてあり、そこに議論が集中していたことです。なぜかと言うと、世界のいまの国際政治は「碁」です。陣取り合戦のような状態になっていて、中国やロシアと交渉しても、いまは戦争になってしまっているから、なかなか埒が明かない。ですから、碁のように周りを陣取って、自分たちに有利な陣形をつくるために途上国・新興国を引き寄せていく。(後略)【ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【「G77プラス中国」首脳会議 2014年以来9年ぶり、114か国の首相や閣僚らが出席】
そうした流れで、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる、これまでは“その他大勢”的な立場にあった国々の意向注目され、外交戦略としてそれらの国々の支持取り付けが重要になっています。

「大国」を常々アピールする中国は、こうした場面では“途上国の一員”を主張して、途上国の代表者のようにふるまいます。

****「G77プラス中国」首脳会議、9年ぶり開催…キューバが呼びかけ114か国の代表出席****
新興・途上国でつくるグループ「G77プラス中国」の首脳会議が15日、キューバの首都ハバナで開幕した。

構成国は「グローバル・サウス」と呼ばれ、世界的な食料や燃料価格の高騰への結束した対応を確認する見通しだ。

G77は1964年に77か国で発足し、その後、参加国が134に増えた。首脳会議は2014年以来、9年ぶりとなる。経済危機に直面する議長国キューバが呼びかけ、114か国の首相や閣僚らが出席した。

キューバのミゲル・ディアスカネル大統領は「貧困や飢餓などに最も苦しんでいるのは南の国の人々だ」と強調した。中国共産党政治局常務委員の李希リーシー中央規律検査委員会書記は、「中国は常に発展途上国の家族であり、グローバル・サウスの一員だ」と述べた。【9月16日 読売】
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会議の内容としては、“先進国主導の国際秩序がもたらす不公平に「グローバルサウス」と呼ばれる国々が「深い懸念」を表明、是正を求める声明を採択して閉幕した。”【9月17日 共同】とのこと。

2014年以来9年ぶり、114か国の首相や閣僚らが出席・・・・あまり大きな扱いはされていない会議ですが、“陣取り合戦”の様相を呈している現在の状況からすれば、また、“プラス中国”と言う形で中国が影響力を行使できる場であるということなどで、以前に比べて重要性が増しているように思えます。

【アメリカ 太平洋島しょ国との首脳会議】
一方、中国に対抗するアメリカも動いています。

****バイデン氏、太平洋島しょ国との首脳会議を25日開催****
米政府は、バイデン大統領が太平洋島しょ国で構成する「太平洋諸島フォーラム(PIF)」の首脳をホワイトハウスに招き、来週25─26日に第2回首脳会議を開催すると発表した。地域への関与を強めて域内で影響力を高める中国をけん制する狙いがある。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官によると、バイデン氏は会議で地域における共通の優先事項に対処する米国の決意を再確認し、さまざまな分野で島しょ国との協力を深める意向。

気候危機への取り組み、経済成長の促進、持続可能な開発の推進、健康安全保障の強化、違法漁業対策、人と人とのつながりの拡大などの分野が含まれるという。 第1回首脳会議は昨年9月に開かれた。【9月20日 ロイター】
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南太平洋島しょ国は、その地政学的重要性もあって、米中の陣取り合戦の主戦場のひとつともなっています。

****米中が太平洋島しょ国をめぐって勢力争い 太平洋戦争で日米が戦った地域が、なぜいま注目を集めるのか****
かつて太平洋戦争で、日米が激戦を繰り広げた太平洋の島々。いま、この島々をめぐって、アメリカと中国の勢力争いが激しさを増しています。なぜ、米中両大国がこの地域に注目しているのか、そして、日本は、この地域にどう関与していくべきなのでしょうか。

(いま、なにが起きているのか)
太平洋島しょ国は、赤道を挟んで位置する島々で構成される14の国と地域です。
地域最大の国はパプアニューギニアで、人口はおよそ1000万人。そのほかの国は人口が100万人に達しない比較的小規模な国です。これまでは、アメリカ、オーストラリア、日本などとの関係が深く、中国の足がかりは小さいとみられていました。

激震が走ったのは、去年4月、ソロモン諸島が中国と安全保障協定を結んだことです。両国政府は協定の内容を明らかにしていませんが、オーストラリアのメディアは、▼ソロモン諸島が中国に軍や警察の派遣を求めたり、▼中国の船舶がソロモン諸島を訪問して、補給を行ったりすることができる内容が盛り込まれていると報じました。

ことし7月、中国の習近平国家主席は、北京で、ソロモン諸島のソガバレ首相と会談し、日本政府の関係者は、会談の中では、安全保障協定の運用に向けた協議も行われたとみています。

こうした安全保障面での関係強化が影響したとみられる、日本にとっては心配な事案が起きています。
(中略)外務省によりますと、日本政府は事前に、すべての国に直接、出向いて(処理水放出について)説明を行い、これまでのところ、13の島しょ国からは明確な反対の声は出ていません。その一方で、ソロモン諸島のソガバレ首相は、「放出は、人々や海洋、経済、暮らしに影響を与えるもので、強く抗議する」という声明を出し、中国と足並みをそろえる形となりました。

中国は、国交のあるそのほかの国々にも、ソロモン諸島と同様の安全保障協定の締結を働きかけています。
こうした状況にアメリカは危機感を強めていて、巻き返しに出ています。

バイデン大統領は、去年9月、この地域の14の国と地域の首脳などを招いた初めての会議を開き、中国に対抗していくため、8億1000万ドル、日本円にして、1100億円あまりの支援を表明しました。

また、ことし5月、ブリンケン国務長官は、ソロモン諸島の隣国、パプアニューギニアを訪れて、防衛協力協定に署名しました。協定は、現地政府が認める施設や区域を、アメリカ軍が使用できるというもので、海軍基地や空港、港湾施設などが候補にあがっています。

7月には、オースティン国防長官も現地を訪れて、協定について協議を行い、期限が15年であることや、9月にもアメリカ軍が使用できる施設について具体的な調整を始めることなどを明らかにしました。

(なぜいま、島しょ国なのか)
太平洋島しょ国をめぐって、なぜいま、米中が勢力争いをしているのでしょうか。
一連の動きの引き金となったのは、中国がソロモン諸島をはじめ、地域への関与を強めたことですが、これについて、日米の当局者は、中国軍が、この地域の軍事戦略上の利点を2つの面から着目したからだとみています。(後略)
【8月31日 NHK 梶原崇幹解説委員】 
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【ロシアの“裏庭”で存在感を増す中国 アメリカも働きかけ強める】
旧ソ連の中央アジアはもともとはロシアの“裏庭”的な存在でしたが、昨今はロシアがウクライナで手一杯なこともあって、中国の影響力拡大が目立ちます。

****中国、中央アジア5か国と首脳会議…ウクライナ問題で「12項目の提案」支持取り付け狙う****
中国と中央アジア5か国による首脳会議が18日、西安で開幕した。中国の 習近平シージンピン 国家主席は先進7か国首脳会議(G7サミット)開催をにらみ、中央アジア各国との連携を誇示しつつ、ウクライナ情勢を巡る国際世論にも影響力を及ぼそうとしている。

対面での開催は初めてとなる。習氏は19日に各国首脳との共同記者会見に臨む。中央アジアとの関係強化に関する演説も行い、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた経済協力や投資の強化を提唱する。ロシアによるウクライナ侵略が主要議題となるG7サミットに対抗する形でウクライナ問題も議論する。中国が掲げる「12項目の提案」への支持取り付けを図る見通しだ。

中国外務省によると、習氏は17、18の両日、各国首脳との個別会談もこなした。強権的手法が指摘されるカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領には「カザフが国情にかなった発展の道を歩むことを支持する」と述べた。中国が「内政に干渉している」と批判の矛先を向ける米欧を意識した発言となる。

ロシアとのつながりが深い中央アジアには日米欧が取り込もうと動き、中国側は「地政学的な駆け引きの戦場にしてはならない」( 秦剛チンガン 国務委員兼外相)と警戒する。中央アジアは習氏が重視する一帯一路の起点でもあり、鉱物資源も豊富で、経済面での要衝でもある。

ロシアは中国との連携を重視する一方、「勢力圏」と位置づけてきた中央アジアで中国の影響力が強まることを警戒している。プーチン露大統領は9日、モスクワでの旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日の式典に中央アジア5か国の首脳全員を招待。演説で「ソ連の人々すべてが共通の勝利に貢献した」と一体感を強調した。しかし、中央アジア各国には、ウクライナ侵略を受けて、ロシアと政治的に距離を置く動きも見られる。【5月19日 読売】
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アメリカも、こうした中国の影響力拡大に対抗。

****アメリカ、中央アジア5カ国と初の首脳会議 中国・ロシアけん制****
バイデン米大統領は19日、米国と中央アジア5カ国の協議枠組み「C5プラス1」による初の首脳会議をニューヨークで開いた。バイデン政権は、旧ソ連構成国だった5カ国とウクライナに侵攻するロシアとの関係にくさびを打つとともに、中央アジアで影響力を強める中国をけん制したい考えだ。

中央アジア5カ国はカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン。ホワイトハウスによると、バイデン氏は中央アジアの豊富な鉱物資源を開発し、その供給網を守るためにC5プラス1による「重要鉱物に関する対話」の立ち上げを提案。欧州からトルコ、カスピ海を経由して中央アジアを抜ける「中央回廊」と呼ばれる物流ルートへの投資と開発を促進するとした。

ロシアは経済的な結びつきが強い中央アジア5カ国を勢力圏と捉えている。ただし、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降は、各国のロシアと距離を置く動きも指摘されている。また、中国もこの地域を巨大経済圏構想「一帯一路」の重要な沿線として重視。習近平国家主席は5月には5カ国の首脳を中国に招き「中国・中央アジアサミット」を開催している。

バイデン政権は2月にブリンケン米国務長官をカザフスタンに派遣。C5プラス1の閣僚会議を開くなど関与を強める動きを見せていた。首脳会議はニューヨークで開催されている国連総会の「ハイレベルウイーク」に合わせて開かれた。【9月20日 毎日】
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アメリカと中ロはそれぞれ岩盤支持層とも言うべき関係国を有していますが、そのどちらにも属さない中間層の国々をめぐって、今後“陣取り合戦”が更に激しさを増すと思われます。

一方、対象となる国の側では、米中を両天秤にかけて、自国にとって最大の利益を引き出そう・・・といった動きもあるのでしょう。
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アメリカ主導でインド・中東・欧州を結ぶ回廊の構想 10年経過の中国「一帯一路」 伊は離脱の方向

2023-09-09 23:01:57 | 国際情勢

(G20サミットでバイデン米大統領(左)を迎えるインドのモディ首相=9日、インド・ニューデリー【9月9日 共同】)

【インドと中東を結び、更に欧州へ アメリカ版「一帯一路」】
アメリカ・バイデン大統領は、中国の「一帯一路」に対抗して、インドと中東地域を鉄道・港湾網で結ぶインフラ投資構想を明らかにしています。

****インドと中東に「交通回廊」 バイデン政権がインフラ整備構想、中国に対抗****
バイデン米政権は9日、インドと中東地域を鉄道・港湾網で結ぶインフラ投資構想を明らかにした。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席のためインドを訪問中のバイデン米大統領が、インドやサウジアラビアなど関係国・地域と同日にも覚書を締結。中東・南アジアでの影響力を強める中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがある。

構想は、インドと中東のサウジやアラブ首長国連邦(UAE)などを港湾や鉄道で結び、最終的には欧州地域にまで至る「陸海交通の回廊」を整備する内容。近年、港湾整備などを通じてパキスタンやイランとの関係を強化している中国への対抗軸を打ち出した。

ファイナー米大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)は9日、記者団に、構想は関係国・地域に「商業やエネルギー、データの流れ」を生み、各国間のインフラ面での格差を埋める効果もあると説明。バイデン政権が掲げる世界的なインフラ投資の「新たなモデル」になると強調した。

構想には、地中海に面するイスラエルの将来的な参加も見込まれる。バイデン政権は現在、サウジとイスラエルの国交正常化に向けた仲介に乗り出しており、こうしたインフラ投資を中東戦略に組み込むことで域内での影響力回復を図る狙いもありそうだ。【9月9日 産経】
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中東域内を鉄道で結び、海路でインドにつなげる構想のようです。
地中海に面したイスラエルも参加すれば、インド~中東 ~欧州をつなぐ、まさにアメリカ版「一帯一路」ともなります。

9日、アメリカとインド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、EUの各国・地域首脳らが中東経由でインドと欧州を鉄道網や航路で結ぶ大規模な交通インフラ整備計画に関する覚書に署名しました。

ただ、イスラエル参加には高いハードルも。
“バイデン政権は、アラブの「盟主」を自任するサウジとイスラエルの国交正常化に向けた仲介の動きを積極的に進めている。ハードルは高いとみられているが、正常化すれば、イスラエルもインフラ建設計画に参加する可能性もあるという。”【9月8日 毎日】
もっとも、下記のように、もともとはイスラエルが持ち込んだ構想のようです。

このニュースを目にして疑問に感じたのは、鉄道建設のノウハウはどうするのか? という点。
自動車立国アメリカは鉄道後進国で、横断鉄道も相当にガタがきている状態。

これに関してはインドが鉄道建設ノウハウを担うとか。
“インフラ建設計画の構想は、2021年に設立された米国、インド、イスラエル、UAEの協力枠組み「I2U2」で協議されてきた。イスラエルが昨年に、インドの鉄道建設のノウハウを活用して中東域内を鉄道で結ぶ構想を提起し、バイデン政権がサウジの参加を促したという。”【9月8日 毎日】

確かに鉄道網の長さや国民の“足”として活用されている点で、インドは世界有数の「鉄道大国」ではあります。
ただ、施設は老朽化し、事故が絶えないことも周知のところ。

****延長64,000㎞以上。日本より長い歴史を誇る「鉄道大国」インド****
13億人を超えるインド国民にとって、鉄道は日常の移動を支える“足”だ。インド国有鉄道がインド全土に張り巡らせた鉄道網は総延長64,000㎞以上。日本の鉄道の総延長は27,000㎞強であり、国土面積の違い(インドの国土面積は約329万㎢で日本の約8.7倍)を考えると日本の方が“密度”は高いものの、インドが世界有数の「鉄道大国」であることに異を唱える人は少ないだろう。

インドの鉄道の歴史は古く、1853年には当時インドを植民地としていたイギリスが綿花・石炭・紅茶の輸送を目的としてボンベイ-ターネー間約40kmの路線を開業している。日本の鉄道は1872年、新橋-横浜間なので、インドの鉄道は日本より長い歴史を持っていると言える。

インドの鉄道というと、TVの紀行番組などで放映された、古い客車に入りきらない乗客がぶら下がっているような映像を思い浮かべる人も多いだろう。

現在でもこのような状況が十分改善されているとはいえず、例えばインド最大の都市で、周辺都市を含めた都市圏人口が2,300万人近くに及ぶムンバイを走る列車は、毎日、600万人を超える人を市中心部まで運んでおり、通勤・通学のラッシュ時の乗車率は250%にも及ぶとのことだ。

このような状況の中で鉄道事故も後を絶たず、死亡事故が起きることも日常茶飯事となっている。ちなみに最大の事故原因は、混雑のため車両に乗り込めず、車両の端につかまって移動している乗客が落下してしまうことであり、鉄道当局の事故防止対策もなかなか功を奏さない状況が続いている。

また、鉄道設備の老朽化や整備不良による事故も多発しており、2016年11月には北部のウッタル・プラデーシュ州で線路の整備不良による急行列車が脱線し、120人以上が死亡する事故が起きている。【グローバル マーケティングラボ】
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今年6月2日にも、インド東部のオディシャ州で3本の列車が関連する衝突事故が起き、290人超が死亡する今世紀最悪の事故となっています。

インドは中東での鉄道網建設を行う前に、自国の鉄道網の改善に務めた方がよいように思うのですが・・・

鉄道建設のノウハウと言えばやはり日本でしょう・・・と言いたいところですが、日本の“完璧主義”は海外ではいささか問題視されるかも。

中東砂漠地帯の鉄道建設など劣悪な条件を考えると、実績があるのはやはり中国でしょう。ただ、中国の手を借りる訳にもいきませんので・・・。

【10年の節目にあたる「一帯一路」 イタリアが離脱の方針 中国は引き留めに躍起】
一方、本家「一帯一路」の方は開始から10年の節目にあたります。

*****10月の「一帯一路」首脳会議、90カ国が参加表明=中国****
中国政府は7日、10月に北京で開催される広域経済圏構想「一帯一路」首脳会議に90カ国が出席を表明したと発表した。同会議の開催は3回目で今年は発足10周年に当たる。

中国国営メディアはセルビアのブチッチ大統領やアルゼンチンのフェルナンデス大統領らが出席すると伝えた。

ロシアの国営通信タス通信はプーチン大統領が10月に訪中する予定との側近の発言を報じた。

新華社によると、中国はこれまでに150以上の国と30以上の国際機関との間で「一帯一路」協力文書に署名した。【9月7日 ロイター】
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その「一帯一路」で最近繰り返されているのが、イタリア首脳の一帯一路離脱発言。
これは単にG7で唯一の「一帯一路」参加国イタリア単独の動きではなく、欧州全体に中国との関係を見直す流れがあり、そうした流れのひとつと言えそうです。

****「さらば一帯一路」イタリアが中国に冷や水...メローニ首相の強硬姿勢***
<専門家は「中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」と指摘している>

ヨーロッパへの影響力拡大を目指してきた中国にとっては大打撃だ。イタリア政府が中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱に向けて動き出したのだ。イタリアは2019年、G7(主要7カ国)で初めて一帯一路に参加していた。

13年に習近平(シー・チンピン)国家主席が一帯一路構想を提唱して10年という節目の年に、中国はメンツをつぶされた格好だ。「中国にとっては非常に屈辱的なこと」だと、米スティムソン・センターの中国プログラム部長、孫韻(スン・ユン)は言う。中国はヨーロッパの国、とりわけ西ヨーロッパの国が参加していることを誇りにしていたのだ。

これまでヨーロッパは、アメリカほど強い姿勢で中国に臨んでこなかった。特に経済面のデカップリング(切り離し)を強硬に推し進めてきたとは言い難い。しかし、風向きが変わり始めたようだ。

一帯一路は、中国のインフラ輸出を後押しし、さらには中国が地政学上の影響力を拡大させる手だてになってきた。
現在までに東欧諸国を中心にEU加盟国の3分の2が一帯一路に参加して、中国からの投資を呼び込み、自国経済のテコ入れを図ろうとしてきた。これらの国々の多くは、イタリアと同様、経済の不振にあえいでいて、中国からの投資が自国経済に大きな恩恵をもたらすと主張していた。

ところが、イタリア経済は一帯一路によって期待どおりの恩恵に浴せていない。中国側は総額28億ドルのインフラ投資を約束したが、イタリアに好景気は訪れなかった。

「19年当時は非合理な期待が高まっていた」と振り返るのは、米コンサルティング会社ローディアム・グループのノア・バーキン上級アドバイザーだ。「この取引は大きな恩恵をもたらさなかった」。バーキンによると、イタリアの対中輸出はほとんど増えず、中国からイタリアへの直接投資は大幅に減っている。

イタリア政府は、中国に厳しい姿勢で臨むようになっている。ドラギ前首相は昨年、中国への技術移転にストップをかけ、中国企業によるイタリア企業の買収もたびたび阻止した。

メローニ現首相は、もっと強硬だ。イタリアのタイヤメーカー、ピレリに対する中国企業シノケムの影響力を制限する措置を講じたり、台湾への支持を明確に表明したりしている。

テクノロジーをめぐる中国と西側の対立が激化するなかで、ほかのヨーロッパ諸国も中国との経済関係を見直すようになっている。

7月には、西側の対中輸出規制への報復として、中国が半導体素材のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を打ち出した。こうした緊張関係の下、EUもアメリカと同様に、対中関係での「デリスキング(リスク回避)」に向けて動き始めている。

もっとも、具体的な措置については西側諸国の間でも足並みがそろっていない。「どれくらい大々的な措置を講じるべきかでは、明らかに考え方の違いがある」と、米外交問題評議会のリアナ・フィックス研究員は指摘する。

一帯一路が習の政治的なレガシーに不可欠な要素であることを考えると、イタリア政府の一帯一路離脱の方針が両国関係に影響を及ぼすことは避けられない。

スティムソン・センターの孫は言う。「中国の人々は、一帯一路を習の看板外交政策と見なしている。中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」【8月9日 Newsweek】
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こうしたなか、イタリア外相が訪中、中国との協議が注目されました。

****イタリア外相「期待した成果ない」 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」離脱検討****
イタリアの外相は2日、参加する中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「期待した成果をもたらさなかった」と語り、離脱を検討していることを改めて明らかにしました。

イタリアのタヤーニ外相は2日、北部・チェルノッビオで開かれた経済フォーラムに参加し、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「期待した成果をもたらさなかった」「われわれは改めて評価をし、議会は参加を続けるかどうかを決断しなければならない」と述べました。

タヤーニ外相は3日から3日間の日程で中国を訪問する予定で、一帯一路についても議論するものとみられます。

イタリアは2019年、EU懐疑派のコンテ政権がG7=主要7か国として唯一、一帯一路への協力の覚書を結びましたが、その後、経済的な恩恵が乏しいと国内で不満が高まっていました。

覚書の期限は来年3月で、メローニ政権は年内に離脱の是非について結論を出す考えです。【9月2日 TBS NEWS DIG】
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中国側はなんとかイタリアを引き留めたいところ。

****中国、伊の一帯一路引き留め躍起 成果強調も離脱なら習氏に痛手****
中国外務省は4日夜、王毅共産党政治局員兼外相がイタリアのタヤーニ副首相兼外務・国際協力相と北京で同日会談したと発表した。

王氏は、両国が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」で「大きな成果を上げた」と強調した。イタリアは一帯一路からの離脱を検討しており、中国は引き留めに躍起になっている。

一帯一路は習近平国家主席の提唱から今年で10年を迎え、中国政府は関係国首脳らを集めた国際会議を10月に北京で開催する予定。イタリアは先進7カ国(G7)で唯一、中国と覚書を結んで一帯一路に参画しており、離脱すれば習氏に痛手となる。

中国外務省の発表は、タヤーニ氏が一帯一路に言及したかどうかには触れなかった。会談でタヤーニ氏は「中国との長期的で安定した関係の発展を重視している」と述べたという。

王氏は、過去5年間で両国の貿易額が大幅に増え、イタリアの対中輸出は約30%増えたと主張。今後も「開放的な協力を堅持すべき」と訴えた。

イタリアは2019年に当時のコンテ政権が経済回復を狙って一帯一路に参画した。【9月5日 共同】
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イタリアの意向は固く、両国は「穏健な離脱」を模索しているとも。

****中伊外相、関係維持を強調=一帯一路「穏健な離脱」探る****
中国の王毅共産党政治局員兼外相は4日、北京を訪れたイタリアのタヤーニ外相と会談した。イタリアが中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を検討する中、王氏は「相互信頼と対等な対話の堅持」を強調。

イタリアの引き留めは困難な情勢だが、両国とも経済面などでのつながりを維持したい思惑で一致しており、穏健な形での離脱を模索しているもようだ。【9月5日 時事】 
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【巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へ】
10年を迎えた「一帯一路」ですが、「債務の罠」等の欧米からの批判もあるなか、中国の姿勢も経済合理性重視の方向に変わってきていることは、これまでも度々取り上げてきたところです。

“巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へと変化しつつある”との指摘も。

****中国の「一帯一路」はどう変わったのか―仏メディア****
2023年9月4日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、開始から10年を迎えた中国の「一帯一路」が巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へと変化しつつあると報じた。

記事は、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が政権発足間もなかった2013年9月にカザフスタンのアスタナで「一帯一路」構想を発表、その内容は経済的にも政治・外交的にも野心的な戦略で、49年までに70カ国以上でコンソーシアムを形成するというものだったと紹介した。

そして、「一帯一路」がパートナー国における道路、鉄道、港湾の広大なネットワークの建設を通じて中央アジアを統合し、中国とヨーロッパを経済的に結ぶというインフラ戦略だったと指摘。

資源へのアクセスを確保し、販路を作り、建設会社を立ち上げ、稼働させるという中国にとってこそ非常に大きなメリットを持つプロジェクトであるものの、習氏は「世紀のプロジェクト、世界の意思」として大々的に宣伝し、パートナー国を納得させるだけでなく、中国がゲームの中心となるグローバリゼーションの新たなビジョンを作り、それを正当化しようとしたと伝えた。

また、不干渉とウィンウィンを強調する「一帯一路」のストーリーには欧米による植民地的、帝国主義的な支配への対抗意識がにじみ出ているものの、その現状はパートナー国に対して内部的な犠牲を強いる結果になっていると指摘。

指導部が「一帯一路」構想の成功を強調するのとは裏腹に、多くの貧しい国々が中国の多額債務者となっていることから、西側のメディアや専門家からは「債務外交」「債務のわな」「腐敗の輸出」「新植民地主義」などと評されていると紹介した。

記事は、「一帯一路」が10年の間に大きな挫折を次々経験し、その威力は大きく損なわれているとともに、中国自身も世界における威信の面でも経済の面でも大きな挫折を味わっていると指摘。

その中で、日本のメディアが中国の「一帯一路」関連の海外投資構造に異変が生じつつあり、大規模なインフラプロジェクトが減っていると報じたことを紹介した。

そして、中国共産党の公式メディア・人民日報も先月、「一帯一路」では農業、医療、貧困緩和などといった「小さいながらも美しいプロジェクト」が進んでいるとする評論記事を掲載し、国務院新聞弁公室も「小さいながらも美しいプロジェクト」がデジタル、医療、環境保護などの分野で日増しに浸透しているとの見解を示したことを伝えた。

その上で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「一帯一路」について、この10年でより多くの国を中国側に引き込むことに成功したことから中国が「一帯一路」を完全に撤回する可能性は低いとする一方で、中国がパートナー国への融資をより慎重なアプローチに切り替えた場合、一部の国にとっては魅力が低下する可能性があると論じたことを紹介した。【9月7日 レコードチャイナ】
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北極海  氷の消失による利用価値増大 ウクライナ後の国際情勢を受けて“地政学的戦場”へ

2023-08-28 23:11:19 | 国際情勢

(世界最強の原子力砕氷船であり、LK-110Ya級原子力砕氷船の旗艦でもある「ロシア」の建造が、ロシア極東のズヴェズダ造船所で 6日、開始した。ルスアトムフロート(ロスアトムの子会社)が発表した。竣工は2027年を予定している。最大4メートルの氷の厚さにも対応し、北極海航路を通年航行可能な世界初の砕氷船となる。【2020年7月7日 SPUTNIK】 従来の砕氷船と異なり、随分スマートな外観です。)

【早ければ2030年代にも北極海の夏の氷が消失】
温暖化の進行によって北極海の氷が縮小し、航路や資源開発で北極海の重要性が国際的に注目されていることは以前からの話ですが、ロシア及びロシアと協調する中国と欧米の対立がウクライナをめぐり鮮明になるなかで、北極海をめぐるロシア・中国と欧米の対立もまた露わになり、おそらく今後ますますその緊張はたかまることが予想されます。

****北極海の氷、30年代に消失も 融解が加速、国際研究チーム分析****
地球温暖化によって北極海で氷の融解が加速し、夏に消失する事態が早ければ2030年代に起こる可能性があるとの分析を韓国・浦項工科大などの国際研究チームが6日、発表した。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新予測では、夏の海氷は50年までになくなる可能性が高いとされていたが、今回の分析は早期に消失する恐れを指摘した。

海氷に覆われなくなると熱を吸収しやすくなって温暖化がさらに進むほか、人の生活や生態系に被害が生じると懸念される。チームは「温室効果ガスの排出が北極に深刻な影響を与えている」と警告した。

北極海の氷の縮小はここ数十年間で急速に進み、今世紀に入り特にペースが速まっている。チームは今後の温暖化の進行度合いを4パターン想定し、北極海で氷がなくなる時期を分析した。

すると、温室ガスの排出を積極的に減らし産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える場合を含め、全てのパターンで、夏の海氷消失が30年代〜50年代に初めて起こるとの結果が得られた。【6月7日 共同】
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北極海の氷が縮小することで、真っ先に現実化するのが北極海航路の活用です。北極航路の活用は日本にとっても大きなメリットのある話です。

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ちなみに、これ(北極海の氷が早ければ30年代に消失)はあくまで夏の間の話であり、1年を通じて北極航路を安定的に使えるようになるのは、早くても今世紀末頃だと言われてきたが、この予想も早まるかもしれない。

北極航路が使用可能になること自体には大きなメリットがある。日本から欧州に至る南回り航路はスエズ運河経由で約2万1000キロメートルであり、欧州主要港へはコンテナ船で約30日以上かかる。

だが、北極航路はこれより30~40%短い約1万3000キロメートルであり、そうなれば、日数短縮のみならず船舶の温暖化ガス排出も削減できる。

ただ、問題もある。現在の北極航路は、概ねロシア沿岸に限られ、かつ、砕氷能力が必要だ。国際戦略研究所(IISS)によれば、砕氷船の数でロシアは他国に比べ群を抜いており、原子力船7隻とディーゼル船約30隻を保有している。

一方、米国、中国ではそれぞれディーゼル船2隻が就航しているに過ぎない。それもあり、北極航路を航行する商業船舶の多くはロシアの砕氷船による水先案内に頼っており、これはロシアにとって大きなメリットとなっている。【7月5日 WEDGE】
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【ウクライナ問題で北極海でも高まるロシア対NATOの緊張】
しかし、ウクライナを巡る緊張に伴って、ロシアと欧米の対立に加えて、北極海に面していない中国の関与強化もあって、北極海をめぐる緊張も高まっています。

****ロシアとNATOが対峙する北極 是々非々の協調は可能か****
6月5日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「北極の寒気;中露の浸透の恐れ」とのRichard Milne同紙北欧・バルト特派員の解説記事を掲げ、ウクライナを巡る緊張に乗じて、中国とロシアが北極・天然資源への影響力を強める恐れがあると指摘している。

西側諸国は、中露が北極を巡る地政学的緊張に乗じ、北極とその豊富な天然資源への影響力伸長を試みるのではないかと懸念している。

北極評議会の西側加盟国は、ロシアのウクライナ侵攻後、対露協力を停止してきた。北極評議会議長を5月にノルウェーに引き継いだロシアは、次の議長国の間にロシアが行事に招待されなければ脱退の可能性もあると発言した。

北極を巡って中露は伝統的には緊張関係にあったが、ロシアのウクライナ侵攻後、状況は変わりつつある。3月の習近平訪露の際、両国は「北極海航路」開発の共同機関創設を発表した。北極は最も急速に温暖化が進む地域で、各国は石油・ガスからレアアースに至る豊富な鉱物資源に注目している。

北極評議会メンバーは、地政学的摩擦が北極に影響を及ぼさないよう努め、全ての問題は共同でのみ解決されると強調してきた。しかし、ここ数年ロシアは北極での軍事的プレゼンスを強化し、デンマークやノルウェーなどは防衛施設構築で応じてきた。

中国は、北極地域に面しないが北極評議会にオブザーバーで参加している。2018年に北極シルクロード計画を発表し、北極への影響力を強めてきた。中国国営企業のグリーンランド空港建設計画は米国がデンマークに反対を働きかけ、2019年に中止された。(中略)

ノルウェーは、他の加盟国(米、カナダ、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)と共同で北極評議会活動を続けながら、ロシアの孤立化に努めている。しかし、ロシアの事実上の排除は明らかなジレンマで、一方で北極の40%を占めるロシアの参加なしには意味をなさないが、他方で今はロシアとは協力できない。

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(中略)北極航路を航行する商業船舶の多くはロシアの砕氷船による水先案内に頼っており、これはロシアにとって大きなメリットとなっている。

環境問題が生じれば長期的影響も
もう一つの問題は環境問題だ。北極海は米国の約1.5倍という広大な海域だが、海水の外海との入れ替わりは限られると言われる。そうなると、何らかの理由で汚染が発生した場合には、その影響は長期にわたり北極海と沿岸国にとどまることになる。今後、今以上に資源開発が進むことになれば、リスクは一層重大だ。

更に、北極地域で特にロシアによる軍事利用増強が見られる。正に現在、北大西洋条約機構(NATO)を中心とした軍事演習が北極圏で行われているのも偶然ではない。北極沿岸の40%を占めるロシアは、こと北極に関しては、軍事基地の数などにおいてNATOに対し優位を持つ。

以上のように、最近世界的な注目を浴びている北極圏だが、今後の活用を考えれば、ロシア抜きの対応はやはり現実的ではないだろう。ロシアはロシアで、現在の北極評議会を脱退して他国と別の組織を作るとしても、意味のある協力相手は中国以外おらず、先の展望は限られている。

翻れば、ロシアと同室で議論し、実際、共同で対応している懸案も多々あるという現実に鑑みれば、困難な決断ではあるが、北極を巡る仁義なき闘いを招くのではなく、是々非々で可能な範囲で協調していくべきだろう。【7月5日 WEDGE】
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ロシアは北極海における軍事面を強化しています。
“この10年間で、ロシアは北極圏で既存の軍事基地および飛行場の拡大や近代化を進めてきました。さらに、北極圏で少なくとも3つの基地を新設しています。 また、2021年1月1日から、ロシアの北方艦隊が軍管区に格上げされました。”(石原敬浩氏(海上自衛隊幹部学校教官)【8月12日 JBpress】

【北極海への関与を強める中国 後追しするロシア】
“ロシアと是々非々で可能な範囲で協調していくべき”というのはもっともですが、現実問題としてはウクライナ問題に伴うフィンランド、スウェーデンのNATO加盟、ロシアと中国の関係強化によって、ロシア・中国対NATO・欧米という対立構図は先鋭化しつつあります。

****新たな“地政学的戦場”になろうとしている北極海 中国の野心を後押しするロシア****
米中対立や台湾有事、ウクライナ戦争など世界は再び大国同士が対立する時代に回帰している。そして、これまでその対象地域とは認知されてこなかった場所が新たな戦場となろうとしている。(中略)

周知のように、世界のあらゆる地域に先行して北極海は地球温暖化の影響を強く受け、海氷面積が著しく縮小し、ホッキョクグマが生活できる場所がなくなるなど北極の生態系が破壊されつつある。一方、それによって北極海航路の開拓、北極海に眠る資源へのアクセス(世界で未発見の石油の13%、天然ガスの30%があると言われる)が現実味を帯び始め、エネルギー資源欲しさに国家間の競争が激しくなっている。

冷戦以降、北極海の管理については1996年のオタワ宣言に基づき、その沿岸8カ国(米国、カナダ、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシア)が主体的な役割を担ってきた。

中国が台頭するにつれて北極海への関与を強めることに、沿岸国の間では懸念が拡がっていったが、そこには共同で北極海を管理しようという多国間協力があった。しかし、中国が2018年1月に初めて北極白書を発表し、その中で経済的利権を獲得するため「氷上のシルクロード」構想を打ち出すなど米中間の亀裂が深まり、ロシアがウクライナに侵攻したことで状況は一変した。

その後、ロシアは欧米諸国からの経済制裁に遭い、多くの欧米企業がロシアから撤退するなど、グローバルサウスの諸国が安価になったロシア産エネルギーを購入する動きが拡がっているが、ロシアの中国への経済依存は強まっている。

それは北極の資源が欲しい中国にとっては都合がいい話で、今後北極開拓を強化すべく、中国のロシアへの投資はいっそう拡大するだろう。両国は今年4月、北極海の沿岸警備で協力を強化することで合意し、最近では両国の艦船が米国アラスカ州のアリューシャン列島付近の海域で大規模な哨戒活動を行った。中国は経済と安全保障両面から北極海への関与を強めている。

ロシアが中国の北極海への関与を後押しすることになり、北極海は新たな地政学的戦場になろうとしている。これまで北極海の管理で主体的役割を担ってきた北極評議会は、既に機能不全に陥っている。それどころか、ウクライナ侵攻直後の昨年3月、ロシアを除く北極評議会の7カ国は、ロシアとの協力を停止することを発表した。

今年4月にはロシアと1000キロ以上にわたって国境を接するフィンランドがNATOに加盟したが、今後スウェーデンも加盟することから、それによって北極評議会ではロシア以外は全てNATO加盟国となる。

北極に眠る資源の獲得や航路開拓を巡って、中国の北極海への関与はいっそう強くなろう。しかし、それを巡って米国はこれまで以上に懸念を強めており、米中露を中心とする北極海を舞台とする地政学的戦いはいっそう激しくなるだろう。【8月26日 治安太郎氏 まいどなニュース】
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【ロシア 中東などグローバルサウスを北極海航路に引き込む動き】
ロシアは欧米の厳しい経済制裁に対して、中国との関係強化に加え、北極海とグローバルサウスの国々をむつびつけることで活路を見出そうとしています。

****ロシアの生存戦略 北極海とグローバルサウス****
北極海航路はアジアとヨーロッパを結ぶ最短航路で、スエズ運河周りのルートよりも30%以上距離が短くなります。北極圏で生産した液化天然ガスなどがこの航路ですでに運ばれています。

北極の氷が温暖化の中で減少する中で、ロシアは海洋国家としての未来を北極海航路の実現にかけています。ウクライナの軍事侵攻によって、ロシアとほかの北極海の沿岸国、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどとの対立は激化、しかしロシアは、北極海航路の実現を計画通り進めるとして、2035年までに輸送量を今の4倍以上の2億7千万トンにするとの強気の姿勢を崩していません。

その中核となっているのが、国営の原子力企業ロスアトムです。ロスアトムが北極海で担うのは、洋上船舶型の原子力発電所を配備するなどして沿岸のインフラを整備すること、将来的には15の洋上原子力発電所を北極海航路に沿って配備するとしています。

そしてもう一つは、原子力砕氷船の配備を特に氷の厚い東側で進め、北極海航路の通年運航を実現することです。今は7隻ですが2026年には9隻に、2030年代には13隻まで増強する計画です。

(中略)ロスアトムは世界最大の原子力企業で、ウランの濃縮から発電、再処理、そして核廃棄物の貯蔵まですべてを行う能力を持つ国営企業です。ソビエト時代は中型機械省といわれ核兵器の開発、生産にも深く関与しています。ロシアが占領したウクライナのザポリジェ原発の運営もロスアトムが行っています。

しかしロスアトムは企業としては、アメリカや日本などの制裁リストには入っていません。それは世界の原子力発電の原料である濃縮ウランの生産はロスアトムが世界の45%程度を占めていて、アメリカも含めて世界の原子力発電はロスアトムの濃縮ウランに依存しているからなのです。

アメリカは今もロシアから濃縮ウランの輸入を続け、十億ドルをロスアトムに支払っています。プーチン政権としては、北極海航路の主体となる企業をロスアトムとしているのは、欧米からの制裁を受けにくい体質を利用しようとしているのかもしれません。

今、ロシアとロスアトムが北極海航路に引き込もうとしているのは中東などいわゆるグローバルサウスの国々です。先月、プーチン大統領の故郷、サンクトペテルブルクで国際経済フォーラムが開催されました。かつてはエネルギーを中心にロシア市場への投資や参加を狙う欧米や日本の企業が大挙して参加していまいた。

しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻で欧米企業の姿は消えました。その会場で今年目立ったのは中東やアフリカなどグローバルサウスからの参加者です。中でも中東のUAE・アラブ首長国連邦はフォーラムのメインゲストとして大挙して代表団を派遣しました。

アラブ首長国連邦はほかの中東諸国と同様、ロシアに対する経済制裁には参加していません。欧米や日本の航空会社がロシアへの就航を取りやめる中で、首都アブダビはロシアと世界をいまだにつなぎ、人と物の行き来を支える拠点となっています。

ロスアトムは、UAEの政府系の世界的な貨物輸送会社・DPワールドと、経済フォーラムで北極海航路を利用した貨物輸送や投資で協力するという協定に調印しました。DPワールドは世界各地で貨物の輸送や港のターミナルの運営も行っており、アフリカにも拠点を拡大し、カスピ海を通じたロシアや中央アジアからインド洋にいたる南北の物流の拡大にも取り組んでいます。(中略)

DPワールドとしては、欧州とアジアを結ぶ最短ルートである北極海航路に早めに関与することで、将来的な競争力を高める思惑があるでしょう。

一方ロスアトムは、欧米との対立と厳しい制裁の中で、インドや東南アジア、中東、そしてアフリカなどグローバルサウスの国々へ主要な輸出品、エネルギーなど資源や食料の輸出を増やすとともに、北極海沿岸の開発を進めるためにも世界的なDPワールドのネットワークを利用して、グローバルサウスから北極海航路の開発に必要な物資や技術、資金を取り入れようという思惑があるものとみられます。

4日 上海協力機構の首脳会議がインドの議長で、オンラインで開催され、イランが正式加盟国となりました。イランの加盟には、北極海航路や中国の進める一帯一路など東西の回廊にロシアからカスピ海、中央アジア、イランを経由してインド洋にいたる南北の回廊を結び付けようという中ロの思惑もあるでしょう。

ただインドが初めての上海協力機構の議長国であるにもかかわらず、対面ではなく、オンラインにしたように、グローバルサウスの国々も欧米の対ロ制裁には同調しないもののどこまでロシアに関与するのか、ウクライナへの軍事侵攻が続く限り、その関与には限界があることを示したともいえるでしょう。

北極海航路は温暖化で北極海の氷の面積が減少したことが一つのきっかけとなっていますが、もう一つは冷戦が終結して、壁に閉ざされていた東西の物流が開かれたということも大きな契機となりました。しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、欧米とロシアが厳しく対立し、北極海航路の実現に強気の姿勢を示すロシアですが、北極海航路をめぐる地政学的な状況は厳しくなったといえるでしょう。
 
米ロの核兵器が最短距離で向かい合うのも北極海です。冷戦時代から氷に覆われた北極海は、米ソの原子力潜水艦がお互いに追尾しあう場です。今は氷が解けて、海上でもロシアとアメリカやカナダ、ノルウェーなどNATO加盟国の対立の最前線という軍事的な性格を強めています。

国際協力が必要な問題も話し合う場だった北極評議会はロシアとアメリカの対立の中で機能不全に陥っています。

微妙なバランスの上に成り立つ北極海の自然環境の保護や温暖化対策そして少数民族の保護など、国際協力が必要な問題は山積みしています。地球全体に影響を与える北極海を守るためにもどのようにロシアと対話を継続していくか、難しい課題となっています。【7月6日 石川一洋 専門解説委員 NHK】
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アメリカなど欧米とロシアの対立が深まる中で、“アメリカも含めて世界の原子力発電はロスアトムの濃縮ウランに依存している”というのは興味深い現実です。

温暖化の進行による北極海の利用価値の増大は、ウクライナ侵攻に伴う国際的対立によって、また厄介な問題を惹起しつつあります。

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スウェーデン  コーラン焼却事件でイスラム諸国に広がる反発 表現の自由と宗教的価値観の衝突

2023-07-23 23:27:17 | 国際情勢

(20日、ストックホルムのイラク大使館前で、イスラム教の聖典コーランを手にするイラク難民サルワン・モミカ氏(EPA時事)【7月22日 時事】)

【ストックホルム警察 “集会を開くことに許可を与えるのであって、集会の中で行われる活動に許可を与えるのではない】
スウェーデンでのイスラム教の聖典コーランを焼却するという抗議行動が、イラク・イランなどのイスラム世界の反発を惹起しています。

イスラム諸国は、単に“燃やす”だけでなく、そうした行為が当局によって許可されたことに対して、スウェーデン政府への批判を強めています。

コーラン焼却はこれまでもあったことですが、6月末というスウェーデンのNATO加盟をめぐってトルコの賛同を必要としていた時期だけにその影響が懸念されました。

****モスク前でのコーラン焼却デモを許可 スウェーデン警察****
スウェーデン警察はイスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の3連休初日に当たる28日、首都ストックホルムの主要モスク(礼拝所)の前でイスラム教の聖典コーランを燃やすデモを許可したと発表した。

焼却に伴う治安上のリスクが懸念されるものの「現行法下で(デモ)申請の却下を正当化できる性質のものではない」としている。

スウェーデンでは今年1月にトルコ大使館の前でコーランが焼かれたことをきっかけに、数週間にわたる抗議デモが発生。スウェーデン製品のボイコットが呼び掛けられたり、トルコ政府の態度硬化で北大西洋条約機構加盟プロセスのさらなる停滞が生じたりした。

警察はその後の2月、治安上のリスクを理由に、トルコ大使館とイラク大使館の前で計画されていた個人と団体による二つのコーラン焼却デモを禁止した。しかし控訴裁判所は2週間前、この決定を退けた。

28日のデモを申請したのは、2月に個人によるデモを却下されたサルワン・モミカ氏で、申請書には「ストックホルムの大モスクの前で抗議し、コーランに関する自分の意見を表明したい。コーランを破って燃やす」と記している。【6月28日 AFP】
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火を付けたのはイラクから数年前に逃れてきた難民の男性でサルワン・モミカ氏(37)、コーランの内容を批判していたとされています。

スウェーデン警察は7月に入ると、ユダヤ教の聖典トーラーなどを燃やす行為含む抗議デモも許可しています。
“集会を開くことに許可を与えるのであって、集会の中で行われる活動に許可を与えるのではない”とのこと。

****スウェーデン警察、ユダヤ教の聖典燃やすデモを許可****
スウェーデン警察は14日、首都ストックホルムにあるイスラエル大使館前でユダヤ教の聖典トーラーなどを燃やす行為を含む抗議デモを許可したと明らかにした。イスラエルやユダヤ系団体は猛反発している。(中略)

今回のデモは15日に予定され、ユダヤ教のトーラーと聖書を燃やすとされている。警察への許可申請書によると、コーランを燃やすデモへの対抗措置で、言論の自由への支持を表明するものになるという。

ストックホルム警察はAFPの取材に対し、同国の法律に従って公共の場で集会を開くことに許可を与えるのであって、集会の中で行われる活動に許可を与えるのではないと強調。担当者は「警察は、さまざまな宗教文書を燃やす許可を与えているわけではない。公共の場で集会を開き、意見表明することを許可しているにすぎない」「重要な違いだ」と述べた。 【7月15日 AFP】
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【イスラム諸国に広がる反発】
そして、6月28日にモスク前でコーランを焼却した男性が、再びコーラン焼却デモを20日に計画、当局はこれを許可。
反発するイラクではスウェーデン大使館が放火される混乱になりました。

****スウェーデン大使館に放火、コーラン焼却デモ計画に抗議 イラク****
イラクの首都バグダッドにあるスウェーデン大使館が20日未明、同国がイラク大使館前でイスラム教の聖典コーランを燃やすデモを許可したことに抗議するデモ隊により放火された。AFP特派員が伝えた。

スウェーデンの首都ストックホルムでは、コーランやイラク国旗を燃やす予定のデモが20日に計画されている。
これに対し、イラクでは反発が拡大。イスラム教シーア派指導者ムクタダ・サドル師の支持者が、バグダッドでの抗議デモを組織した。デモに参加した若者は「朝まで待たず、夜明けにスウェーデン大使館に火を放った」と語った。

一方、スウェーデン外務省はAFPに対し、大使館員は「無事」だが、大使館や外交官に対する攻撃は「ウィーン条約の重大違反に当たる」と非難した。イラク外務省も放火を非難し、治安当局に実行者の特定を要請した。(後略)【7月20日 AFP】
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イラク首相府は20日、スウェーデン国内でイスラム教の聖典コーランが燃やされた場合、「国交を断絶する必要がある」とスウェーデンに通告したと明らかにしましたが、20日行われたデモでは、参加者がコーランを踏み付けたものの、火を付けずに終了しました。

サルワン・モミカ氏は“今月20日のデモの後も、フェイスブックに「私はイスラム教のイデオロギーと対峙し続ける」と書き込んだ。地元紙の取材には、スウェーデンで政治家になる夢も口にした。「移民排斥」を掲げ、現政権に閣外協力している極右スウェーデン民主党から出馬したいと希望している。”【7月22日 時事】とのこと。

スウェーデン政府は、大使館の職員と業務を一時的にストックホルムに移すことを発表。

****スウェーデン、イラク大使館員を一時的にストックホルムへ移動****
イラクの首都バグダッドでスウェーデン大使館がデモ隊に襲撃されたことを受けて、スウェーデン外務省の報道官は21日、安全上の理由により大使館の職員と業務を一時的にストックホルムに移したと発表した。(後略)【7月21日 ロイター】
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イスラム世界の反発はトルコやイラン、更にエジプト、サウジアラビアにも拡大しています。

****「聖典への卑劣な攻撃」=トルコ、スウェーデンのデモ非難****
トルコ外務省は20日、声明を出し、スウェーデンの首都ストックホルムで同日行われたイスラム教の聖典コーランを蹴るなどしたデモについて「聖典への卑劣な攻撃だ」と強く非難し、スウェーデン政府に「ヘイトクライム(憎悪犯罪)を防ぐための断固たる方策」を取るよう呼び掛けた。【7月21日 時事】 
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****イランのハメネイ師、コーラン冒涜問題でスウェーデン非難****
イランの最高指導者ハメネイ師は22日、イスラム教の聖典コーランを冒涜した者は「最も厳しい罰」を受けるべきであり、スウェーデンはそうした者を支援することで「イスラム世界との戦争に向けた戦闘態勢に入った」と述べた。(中略)

スウェーデン当局はこうした行為を非難しているが、言論の自由の原則の下で阻止することはできないと表明している。

イラン国営メディアによると、ハメネイ師はスウェーデンに対し、責任者の引き渡しを要求。その後ツイッターに「彼らは全てのイスラム諸国とその政府の多くに憎悪と敵意の感情を植え付けた」と投稿した。(後略)【7月23日 ロイター】
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詳細は不明ながら、スウェーデン同様の事態がデンマークでも起きたとして、イラクでは抗議デモが。

****デンマークで聖典コーラン侮辱か イラク非難声明、デモも****
イラク外務省は22日、北欧デンマークの首都コペンハーゲンにあるイラク大使館前で、イスラム教の聖典コーランとイラク国旗が侮辱される事案があったとして非難声明を出した。

中東メディアによるとイラクの首都バグダッド中心部では22日未明、抗議のデモ隊がデンマーク大使館に押しかけようとする騒動があった。

デンマーク公共放送によると、地元警察は21日午後にイラク大使館前で「本」が燃やされたことを確認したが、コーランかどうかは不明とした。イラクなどでは、デンマークの極右団体がイラク大使館前でコーランを燃やしたと報じられた。【7月22日 共同】
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【表現の自由と宗教的価値観の対立】
スウェーデン政府を始めとして欧米諸国は、コーランを焼却するような行為そのものを是認するものではないものの、表現の自由を制約することはできないという立場ですが、イスラム諸国においては宗教的価値観が優先します。

その立場の違いは、大きな外交問題に発展しています。

****イスラム諸国と欧米で深まる溝 聖典めぐる抗議デモ、外交問題に発展****
スウェーデンでイスラム教の聖典コーランを巡る抗議デモが相次ぎ、イスラム諸国との関係が悪化している。7月中旬にはイラク政府が国内に駐在するスウェーデン大使の国外退去処分を発表し、外交問題に発展した。

欧米はデモの行為に懸念を示しつつも、表現の自由は守られるべきだという立場で、イスラム圏との溝が深まっている。(中略)

ストックホルムでは20日、イラク出身の難民男性らによるデモが予定通りに実施され、ロイター通信によると、男性らはコーランとみられる書物を蹴ったり破いたりした。男性らは燃やす行為には及ばなかったが、翌21日にもバグダッドで抗議集会が開かれたほか、イランの首都テヘランでも同日、スウェーデン大使館前に市民らが集結。「コーランは譲れない一線だ」と書かれたプラカードなどを掲げた。

スウェーデン政府は対応に苦慮している。警察は、治安を不安定化させるとしてコーランを燃やすデモの申請をたびたび却下したものの、司法当局が表現の自由は憲法に関わる問題として警察の判断を覆した。政府は事態の沈静化に向け法律の修正も検討している。

ストックホルムのデモを主導した難民男性は6月下旬、コーランに火を放ち、イラクのほかエジプト、サウジアラビアなどのイスラム諸国が反発していた。

トルコのエルドアン大統領は当時、「イスラム教徒の価値を侮辱することは表現の自由とは別問題だ」とし、デモを容認し続ければ、スウェーデンが目指す北大西洋条約機構(NATO)加盟で「トルコの支持は得られない」と警告した。エルドアン氏は7月中旬のNATO首脳会議の直前、スウェーデンの加盟を承認する意向を示したが、国会での批准手続きは今秋に始まる見通しだ。

表現の自由と宗教を巡っては2020年、フランスの週刊紙に掲載されたイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を巡り、表現の自由の立場から同紙を擁護したマクロン政権への抗議集会が中東などのイスラム圏で広がったことがある。

難民男性がコーランに火を放った6月下旬のデモを受け、国連人権理事会(47理事国)は7月中旬、宗教に起因する憎悪行為を非難する決議を賛成多数で採択した。ただ、イスラム諸国を含む28カ国が賛成したものの、表現の自由を重視する英米独仏など12カ国が反対し、立場の違いが浮き彫りになっている。【7月22日 産経】
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【繰り返す衝突】
この種の表現の自由を重視する欧米的価値観とイスラムの宗教的価値観を重視するイスラム諸国の対立・衝突は、今回だけでなく、これまでも繰り返されてきました。

2005年には、今回同様にデンマーク・スウェーデンの北欧におけるムハンマド風刺漫画が大きな問題になり、イスラム世界全体に反発が拡大しました。

****ムハンマド風刺漫画掲載問題****
2005年9月にデンマークの日刊紙に掲載されたムハンマドの風刺漫画を巡り、イスラム諸国の政府および国民の間で非難の声が上がり外交問題に発展した事件をさす。イスラム教を風刺する内容であった。同様な問題が、2007年8月18日にスウェーデンでも発生した。(中略)

デンマークで最多の発行部数を誇る高級紙であり一般的に保守的な論調を有しているとされるユランズ・ポステンは、2005年9月30日の紙面にムハンマドの風刺画を掲載した。この風刺画はムハンマドの12のカリカチュアからなり、それらの中にはターバンが爆弾に模されているなど、イスラーム過激派を連想させるものがあった。(中略)

欧州とイスラムの対立
デンマークのアナス・フォー・ラスムセン首相は「いかなる宗教であれ冒涜するのは許されない」と述べ、問題の解決の為、最大限の努力を払うと述べている。

しかし、右派政権を率いるラスムセン首相は、これまでも移民やイスラム圏に強圧的な態度を示して国民に人気を博しており、2005年の風刺画問題発生時に、断固デンマークと西洋の価値観を通すことで外圧に強いという政治的イメージを国民に与える意図から、イスラム教徒やアラブ諸国からの議論に応じなかった。(中略)

リビア、サウジアラビア、シリアの在デンマーク大使は本国に召還された。イランはこれを受け、デンマークとの一切の通商を断絶すると発表した。

2006年2月6日にはイランの首都テヘランのオーストリア、デンマーク両大使館にデモ隊が殺到し、火炎瓶などを投げつけた。アフガニスタンやパキスタン、リビア、ナイジェリアなどのデモでは、鎮圧する警察などとの間に激しい争いがおき、死者が出る騒ぎになったほか、キリスト教教会も襲撃された。(後略)【ウィキペディア】
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この事件は、その後も遺恨を残しています。
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2010年1月3日、風刺漫画を描いた漫画家クルト・ベスタゴーの自宅に、斧で武装した男が押しいったが、駆けつけた警察官に取り押さえられた。

2010年12月11日、スウェーデン・ストックホルムでストックホルム爆破事件が発生、二人負傷。スウェーデン外相は自爆テロと声明を発表。犯人はイラク系スウェーデン人。警察に送った電子メールで犬に模したムハンマドを制作した風刺画制作者を非難していた。【ウィキペディア】
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2015年にはフランス・パリでシャルリー・エブド襲撃事件が起きました。

****シャルリー・エブド襲撃事件*****
2015年1月7日11時30分にフランス・パリ11区の週刊風刺新聞『シャルリー・エブド』の本社にイスラム過激派テロリストが乱入し、編集長、風刺漫画家、コラムニスト、警察官ら合わせて12人を殺害した事件、およびそれに続いた一連の事件。

テロリズムに抗議し、表現の自由を訴えるデモがフランスおよび世界各地で起こり、さらに報道・表現の自由をめぐる白熱した議論へと発展した。【ウィキペディア】
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アメリカでも2010年ごろ、コーラン焼却が大きな問題にもなりました。
アメリカの場合はイラクやアフガニスタンに軍を駐留させていましたので、イスラム教徒を刺激する事件は駐留米兵の安全を脅かすものともなりますので、当局は対応に苦慮しましたが、なすすべがない・・・というのが実態。

****米国、コーラン焼却に打つ手無し 「言論の自由」が壁****
米フロリダ州ゲーンズビルにあるキリスト教福音派の教会が、米同時多発テロから9年目を迎える11日にイスラム教の聖典コーランを焼却するイベントの計画を宣言した問題に揺れる米社会。

しかし、米社会にはイベントを事前に中止させる手段がないのが現状だ。米憲法が言論の自由を保障しているからだ。

■米国旗や十字架の焼却をも認める
米憲法修正第1条は、米市民が自由に意見を表明し平穏に集会する権利を制限する法律の制定を禁じている。

これに基づき米最高裁は、たとえ一般社会に不快感を呼び覚ます行為や言論であっても、脅迫を意図したり暴力的なものでないかぎり政府は介入できないとの判断を何度か下している。

たとえば、米国民にとって米国旗を焼くという行為は非常に神経を逆なでされる行為だが、米最高裁は1989年、5対4の評決で、48州に米国旗を焼く行為を禁じる法律の廃止を命じた。

ウィリアム・ブレナン最高裁判事(当時)は、「修正第1条の根底にある原則によれば、政府は社会的に不快だとか、同意できないというだけの理由によって、ある考えの表明を禁じるべきではない」と書いている。

最高裁は、米国旗を燃やした人を守る判断を下したことさえある。白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)が十字架を燃やす権利さえ保障されている。最高裁は2003年、KKKが公共の場で十字架に火を付ける行為に脅迫の意図はないとして、バージニア州がこの行為を禁じた州法を違憲と判断した。

■コーラン焼却も「言論の自由」
こうした事情から、ダブ・ワールド・アウトリーチ・チャーチのテリー・ジョーンズ牧師らによるコーラン200冊を公開焼却する計画に対して怒りや懸念の声が高まっていても、米当局には強制的に計画を中止させる手段がない。

当局にできるのは、火が手に負えなくなった時など、コーランに火をつけた事後に介入することだけだ。

消防署は屋外で火を燃やしたいという教会側の許可申請をすでに却下しており、教会側は自治体の条例に違反にすることになるが、あくまで軽罪。警察はだれも逮捕できず、せいぜい警告するか、出頭命令を出す程度で、科される罰金も250ドル(約2万1000円)ほどと見られている。【2010年9月9日 AFP】
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上記のように、これまで多くの軋轢・衝突を繰り返し、ときに多くの犠牲者を出してきた問題ですから、明快な答えなどはなく、立場によって考えが異なるとしか言い様のないところです。

もし、中国・韓国で日の丸や天皇の写真が焼かれたら、多くの日本人は憤りを感じるでしょう。外交的に強硬な対応を求める声も広がるでしょう。
ただ、そうした行為を「禁じる」となると、話は別の問題を引き起こします。
なんとも悩ましいところです。
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インドと中国  陸の国境紛争でも、海上でも緊張状態続く 互いに記者追放

2023-06-01 22:45:02 | 国際情勢

(インドのシン国防相は27日、中国の李尚福国防相とニューデリーで会談し、両国関係の改善は国境係争問題で「平和と静寂」が戻るかが鍵を握ると指摘した。写真は会談の様子。ニューデリーで撮影。インド国防省提供【4月28日 ロイター】)

【20年の国境衝突以来初めての国防相会談 握手交わさず】
ともに今後の世界経済で中核的役割を果たすことが期待され、政治的にもその影響力が注目されるインドと中国が国境問題を抱えて衝突を繰り返していることは、これまでも何度も取り上げてきました。

両国国防相は4月27日、ニューデリーで会談し、対立が続く国境地帯の問題を巡り協議が行われました。緊張緩和を図ることが目的ですが、会談の冒頭両国国防相は握手を交わさず、会談でもインド側から厳しい指摘も飛び出すなど、溝の深さが改めて浮き彫りとなりました。

****中印国防相が会談、20年の国境衝突以来初めて 溝の深さ改めて****
国際会議に出席するためインドの首都ニューデリーを訪問している中国の李尚福国務委員兼国防相は27日、シン国防相と会談した。

中国国防相の訪印は、2020年6月にヒマラヤ山脈近くの国境係争地域で起きた両軍の衝突後、初めて。ただ、インドメディアによると、両氏は握手を交わさず、双方の溝の深さが改めて浮き彫りになった。

インド国防省によると、シン氏は「印中の関係発展は国境地帯の平和と安定が前提になっている」と指摘した。衝突では45年ぶりに死者が出ており、その後は緊張が少し和らいだものの、両軍は国境地帯での軍配備を続けている。4月上旬には中国が係争地の山などに自国の地名を命名し、インドが反発していた。シン氏はこうした情勢も念頭に「2国間関係の基盤を損なう」とくぎを刺した。

これに対し李氏は「中印は違いよりも共通の利益の方がはるかに多い」と強調。「双方は両国関係と相互の発展について、包括的、長期的、戦略的に捉えて、世界と地域の平和と安定に共同で貢献すべきだ」と呼びかけた。中国国防省が発表した。

中国側としては、米国主導の対中包囲網に対抗するため、国際社会で存在感を増すインドを自陣営に引き寄せたいとの思惑がある。ただし領土問題で譲歩するわけにはいかず、難しい対応を迫られている。李氏は「両軍の相互の信頼感を高められるよう共に努力することを望む」と述べた。

一方、28日には中露印などが参加する上海協力機構(SCO)国防相会合が実施された。シン氏は「我々は文化的、文明的なつながりを持っている。時代の変化とともに、つながりを強化するために努力していく」と訴えた。(後略)【4月28日 毎日】
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こうした中国を警戒視するインドを日米はQuad(クアッド)に取り込んで、中国包囲網を形成しようとしており、中国はこれを警戒してインドとの関係改善を模索している・・・という構図です。

【インドにとっての上海協力機構(SCO)】
そのインドはアメリカ主導のQuadに参加する一方で、中国・ロシアが主導する上海協力機構(SCO)にも参加しています。

インドにとってSCOは、やはりSCOに参加する宿敵パキスタンに対抗する場であり、関係を強める中国・パキスタン・アフガニスタンの動きについて情報を収集し、監視し、妨害する場でもあります。

****インドにとって上海協力機構が価値あるものである理由****
(中略)
パキスタン対策としての上海協力機構
インドにとって、上海協力機構は、安全保障面でとても役立つ潜在性がある。インドにとって安全保障面の課題は、中国とパキスタンに対応することだ。特にパキスタンは、イスラム過激派をインドに送り込んでくる。(中略)

2001年に創設された上海協力機構は、中国やロシア、中央アジア諸国によって構成されている。イスラム過激派の情報を共有するのに適しているのである。ただ、問題がある。パキスタンがそれに加盟する可能性があったことだ。
中国はパキスタンを長年支援してきた。そしてパキスタンが上海協力機構に入ることを模索した。(中略)

インドも上海協力機構に参加し、パキスタンの主張に反論しなければならない。だから、15年、インドとパキスタンは、両方が同時に、上海協力機構に加盟することになったのである。(中略)

懸念される中国―パキスタン―タリバン連携
ただ、中央アジアでは、インドにとって心配される動きが続いている。特に、今、心配されるのは、中国―パキスタン―タリバンが一帯一路構想を通じて協力する動きが出ていることだ。

中国は、パキスタンと協力して、タリバン政権下のアフガニスタンにおいて、一帯一路構想によるインフラ開発プロジェクトを進め、アフガニスタンの鉱物資源を獲得するとともに、貿易ルートの開発を進めるつもりである。そのため、中国がパキスタンと共にタリバンを擁護する姿勢が目立ってきている。(中略)

実はインドも、アフガニスタンから米軍が撤退し、タリバン政権が成立するまでは、インドと中央アジアをつなぐ貿易ルートの開発を計画していた。イランのチャーバハール港を建設し、インドからパキスタンを海路で迂回してイランに物資を運び、そこから陸路でアフガニスタンやトルクメニスタンに物資を運ぶ貿易ルートを開発していたのである。

そうすれば中央アジアを通る貿易ルートにインドは関与して経済的な利益を上げることができるし、イランー旧アフガニスタン政府と連携してパキスタンを包囲することもできる。そうすると、上海協力機構は、これらの国と交渉する上で有用だった。

しかし、それは、アフガニスタンにタリバン政権ができると、難しくなった。タリバン政権は、パキスタンと関係が深く、インドと戦ってきた政権だからだ。

インドとイランの関係も、インドが米国に接近するにつれてより複雑なものになり、うまくいっていない。だから、インドにとっては、このルート建設のために、上海協力機構の枠組みを使って交渉を進めることもなくなってきた。

このようにみてみると、インドにとって上海協力機構は、協力するだけでなく、中国―パキスタンの動きに関して情報を収集し、監視し、妨害する場でもある。だから価値があるのである。(後略)【5月16日 WEDGE】
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上海協力機構(SCO)首脳会議は、当初、議長国インドの首都ニューデリーで対面形式で開催される予定でしたが、オンライン形式に変更されました。

ウクライナからの子どもの拉致にかかわったとして国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領が出席する場場合の扱いを考慮しての変更かと思いましたが、下記記事では“領土問題をめぐるパキスタンや中国との関係悪化が影響した可能性”が指摘されています。

なお、インドはICCには加盟していませんので、プーチン大統領は参加できなくもありませんが、国際社会の厳しい視線をモディ印政権がどう受け止めるか・・・という問題があります。

****上海協力機構の首脳会議、オンライン形式で 中パ領土問題影響か****
中国とロシアが主導する「上海協力機構(SCO)」の首脳会議について、議長国のインド政府は30日、7月4日にオンライン形式で開催すると発表した。

当初は首都ニューデリーで対面形式で開催する方向で調整していた。領土問題をめぐるパキスタンや中国との関係悪化が影響した可能性がある。(中略)

インド政府はオンライン形式にした理由を明らかにしていないが、インドメディアは「ここ数日の協議」で、急きょ決まったと報じている。

SCO首脳会議を巡っては、インドの伝統的な友好国であるロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻後初めて訪印する機会となることから注目を集めていた。SCO外相会合はインド南部ゴアで5月5日に対面形式で実施され、中国の秦剛国務委員兼外相とパキスタンのブット外相も出席していた。【5月31日 毎日】
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話が横道にそれますが、8月に南アフリカで開催される新興5カ国(BRICS)首脳会議(サミット)については、南アはICC加盟国であり、プーチン大統領への対応に苦慮しています。開催国をICC非加盟国の中国へ変更することも取り沙汰されています。 現実味がないと思われたICCのプーチン大統領への逮捕状ですが、それなりの影響があるようです。

【インド洋でも中印の対立が進行】
話を中印関係にもどすと、両国はかねてからの国境紛争だけでなく、最近は中国の海洋進出をめぐっても緊張が高まっています。

中国は近年、「真珠の首飾り」と呼ばれるインド洋での港湾拠点の確保に動き、インド包囲網を形成しつつあります。

インドの切り札は戦略拠点アンダマン・ニコバル諸島の軍事施設ですが、中国はこれに対抗する形で拠点建設を進めています。

****中国船「海上民兵」の洗礼を浴びたインド 印中軍事対立は日本にとって対岸の火事ではない****
FIPIC(インドと太平洋諸島フォーラム)の首脳会談が数年ぶりに開催された理由
(中略)モディ氏がオーストラリアを訪問した狙いは、台頭する中国への警戒感を背景に、安全保障と経済の両面で同国との連携を強化することだ。

モディ氏は5月22日、オーストラリア訪問に先立ち、パプアニューギニアで開催された「インドと太平洋諸島フォーラム(FIPIC)」の3回目の首脳会談にも出席した。

14の島嶼国との協力枠組みであるFIPICは、モディ氏が2014年11月、インド系の住民が約4割を占めるフィジーを訪問した際に設立されたものだが、2015年にインドで2回目の会合が開かれて以降、空白期間が続いていた。

インドが改めてFIPICに注目した理由として、太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に、島嶼国への関与を強める狙いが指摘されている。(中略)

インド周囲で圧倒的な存在感を放つ中国海軍
5月19日から21日にかけて開かれたG7(主要国首脳会議)広島サミットでも話題の中心にいたモディ氏だが、悩みの種は中国との間で高まる軍事的な対立だ。

インド海軍はASEAN諸国とともに5月7日から2日間、海上演習を実施したが、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)で活動していた際に、海上民兵を乗せた中国船が急接近する事案が発生した(5月9日付ロイター)。

中国政府は海上民兵の存在を否定しているが、「漁船に乗った中国の退役軍人らが当局と連携しながら南シナ海で政治的な活動をしている」というのが一般的な見解だ。

台湾やフィリピン、ベトナムなどは既に海上民兵の脅威にさらされているが、インドも今回、その洗礼を浴びたのだ。

「アクト・イースト(東方重視)」政策を掲げ、太平洋への関与を強めるインドにも「中国の影」が見え隠れするようになったわけだが、最大の懸案は自国を取り囲むインド洋で中国海軍の存在感が圧倒的になっていることだ(5月17日付ニューズ・ウィーク)。

2009年以来、中国海軍がインド洋で活動している。そのきっかけは海賊対策だった。当時、インド洋北西部に位置するジブチやソマリアの沖合で身代金目的の海賊行為などが横行していたため、国際社会はその対策に乗り出した。この取り組みに参加した中国は2017年、海軍の補給支援を行う目的でジブチに人民解放軍初の海外基地を2017年に建設した。

中国はその後も基地の整備・拡大を続けたことから、ジブチでは現在、全長300メートルにわたる係留ドックが整備され、空母や潜水艦、揚陸艦などが入港可能になっている。

中国は近年、「真珠の首飾り」と呼ばれるインド洋での港湾拠点の確保に動き、インド包囲網を形成してきた。このため、米海軍や日本の海上自衛隊が目を光らせている西太平洋とは異なり、インド洋は中国海軍にとって安心して活動できる海域となっている。

中国の潜水艦や調査船の行動が、インド沿岸近くで日増しに活発になっていることから、「自国の安全保障が脅かされている」との危機感を募らせるインド政府は対抗措置を講じざるを得なくなっている。

インドと中国の対立が海でも発生すると日本にも影響
ミャンマー西部ラカイン州のシットウェーで5月9日、インド政府が支援する港湾が開港した。ラカイン州で拠点を整備している中国の動きを牽制する目的だが、中国はインドの対抗手段を無力化する企みを準備しているようだ。

最新の動きとして注目されているのは、中国がインド洋に浮かぶミャンマー領ココ諸島で監視基地の建設を進めていることだ(5月6日付日本経済新聞)。

インド軍関係者は「東部での軍事活動が中国側に筒抜けになる」と警戒しており、監視基地の建設によってインドがさらに劣勢に立たされる展開が懸念されている。

ココ島諸島はインドが複数の軍事施設を展開するアンダマン・ニコバル諸島のすぐ北に位置する。アンダマン・ニコバル諸島は、東アジアと中東、欧州を結ぶシーレーンのチョークポイント(戦略的に重要な海上水路)の1つであり、ここを押さえることはインドの対中国戦略にとって最重要課題となっている。

だが、中国がココ諸島に戦略的な足場を築けば、インドの戦略は大幅な見直しを余儀なくされる。インドと中国との間で軍拡がエスカレーションするような事態になれば、日本にとっても「生命線」といえるインド洋のシーレーンの安全確保が危うくなってしまう。

さらにインドと中国は、ヒマラヤ山中の未画定の国境を巡って長年対立している。(中略)

陸での軍事的対立は「対岸の火事」かもしれないが、その対立が海へと飛び火する可能性が排除できなくなっている。日本にとっても一大事になってしまうのではないだろうか。【5月30日 藤和彦氏 デイリー新潮)】
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【互いに記者追放する緊張状態】
上述のように、陸の国境問題でも、海の拠点確保でも、対立がある中印両国ですが、そうした対立を背景に両国関係は想像以上に緊張した状況にあるようです。

****中印が互いに記者追放、インド駐在の中国政府系記者はゼロに―独メディア****
2023年5月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、対立を深める中国とインドがそれぞれ記者を追放する動きをみせており、インドには中国政府系メディアの記者がいなくなったと報じた。

記事は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが31日に情報筋の話として、インド政府が5月に新華社と中国中央テレビの記者各1人のビザ更新を認めず、2人がビザ期限切れによりすでに中国へ帰国したと報じたことを紹介。これにより少なくとも1980年代以降で初めて、インド国内に中国政府系メディアの記者が1人もいなくなったと伝えた。

また、中国に滞在するインドメディアの記者もほぼ「絶滅」状態にあり、4月にはインドの大手紙ザ・ヒンドゥーと国営テレビ局プラサール・バラティの記者計2人が中国への再入国を認められなかったと報じられたほか、ヒンドゥスタン・タイムズの記者も5月に記者証が無効になったと紹介している。

その上で、両国が互いの記者を排斥する背景として、両国関係が2020年6月の国境地域での軍事衝突発生以降緊張していること、米国を首班として中国の包囲、けん制を目指す日米豪印戦略対話(クアッド)に積極的に参加していること、インドがデータセキュリティーを理由にショート動画配信アプリのTikTokなど中国製モバイルアプリ数十件の使用を禁止していることなどを挙げた。

さらに、今年4月には中国が中印国境にあるアルナーチャル・プラデーシュ州(中国名は蔵南地区)にある山や川など11カ所の名称を変更したことに対し、インドが強い不満を示したことも紹介。先週には両国の係争地であるカシミール地方で開かれたG20観光ワーキンググループ会合を中国がボイコットする事態も発生したと伝えた。

記事は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが今回の件について、両国関係を一層緊迫化させ、核を保有する隣国同士の交流が減り、先行きが見通せなくなる状態を招くと評したことを紹介している。【6月1日 レコードチャイナ】
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前出のように国防相会談やSCOでの接触など、“核を保有する隣国同士の交流が減り”というまでの状態でもありませんが、互いに相手を意識した緊張状態にあることは間違いありません。
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