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(パキスタン北西部 フンザから望むヒマラヤ氷河 “flickr”より By GothPhil
http://www.flickr.com/photos/phil_p/2079086251/)
【「今を生きるわれわれ世代の責任」】
麻生太郎首相は10日、「地球温暖化の防止は、今を生きるわれわれ世代の責任なのです。」と述べたうえで、2020年までの日本の温室効果ガス削減目標(中期目標)について「05年比15%減」(90年比8%減)とする方針を表明しました。
以前から“14%”という数字が取り沙汰されていましたが、高めの目標を主張する公明党への配慮で1%の“政治加算”が上積みされたとのことです。
****温室効果ガス:中期目標「05年比15%減」 90年比では8%--首相会見****
麻生太郎首相は10日、首相官邸で記者会見し、2020年までの日本の温室効果ガス削減目標(中期目標)について「05年比15%減」(90年比8%減)とする方針を表明した。日本はすでに「2050年までに現状比60~80%減」との長期目標を打ち出しているが、首相は中期目標達成により、「30年には約4分の1の減(25%減)、50年には約7割減(70%減)につながる」との見通しも示した。
政府は、比較する基準年は直近の「05年比」とした。日本の場合、同じ削減努力でも、「90年比」より削減率が大きく見える効果がある。
中期目標を決めるに当たっては、六つの選択肢(05年比4%減~30%減)を設定。このうち世論調査で最も支持が多かった「05年比14%減」(90年比7%減)を軸に検討したが、政府内の調整の結果、最終的に1%分を加算した。
「05年比15%減」の目標について、麻生首相は「低炭素革命で世界をリードしたい。太陽光発電の大胆な上乗せなどにより、さらに削減幅を大きくする」と説明した。(中略)
■中期目標達成に必要な主な政策
・太陽光発電を、現状(05年)の142万キロワットから、20倍に引き上げ
・ハイブリッド車など次世代自動車の新車販売に占める割合を、現状1%から50%に高め、保有台数の20%に
・新築住宅に占める省エネ住宅の割合を、現状の約40%から約80%に高める
・風力発電を、現状の168万キロワットから500万キロワットに拡大(10万キロワット×34基を新設)
・高効率給湯器を2800万台に
・原子力発電所を9基新設。現状6割の設備利用率を8割に
(日本エネルギー経済研究所などが政府に提出した資料などを元に作成)【6月11日 毎日】
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「05年比15%減」は後述するように、国際的には期待した水準からは程遠いと批判されていますが、その15%にしても、上記記事最後の必要政策を見ると、その達成のためには相当の努力・画期的な政策転換が必要です。
今回の目標策定は、産業界への影響配慮に軸足を置いているとも言われますが、そうした対応では15%達成すら危ぶまれます。
なお、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、最近の温暖化は人間活動が原因とほぼ断定し、温暖化被害を最小限に抑えるには、先進国全体で温室効果ガス排出量を20年までに「90年比25~40%減」と試算しています。
今後は、12月にコペンハーゲンで開かれる「気候変動枠組み条約第15回締約国会議」(COP15)で各国の対応が協議され、合意形成がはかられます。
【「今日の化石賞・特別賞」受賞】
さて、今回の麻生総理の中期目標発表について、環境団体などからは厳しい批判が出ています。
****「化石賞」日本は2位=中期目標「見劣り」と批判-NGO****
ドイツ・ボンで開かれている国連気候変動枠組み条約特別作業部会の会場で10日、環境非政府組織(NGO)が交渉への取り組みに消極的な国に贈る「きょうの化石賞」の2位に日本を選出した。(中略)
1位には、中期目標をまだ定めていないロシアを選んだ。【6月11日 時事】
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****「ジョージ・W・アソウ」に「化石賞」、環境団体が日本の削減目標を非難*****
2009年06月11日 11:02 発信地:ボン/ドイツ
国連の気候変動枠組み条約の特別作業部会が開かれているドイツ・ボンで10日、環境保護団体らが、日本の「05年比15%削減」という2020年の温室効果ガス削減目標は「悲惨なほど小さい」として厳しく批判した。
活動家らは、削減目標を発表した麻生太郎首相の顔写真を、温暖化対策に前向きではなかったジョージ・W・ブッシュ前米大統領の顔写真と合成した、「ジョージ・W・アソウ」の巨大写真を披露。温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「今日の化石賞・特別賞」に日本を選んだ。
国際環境団体グリーンピースは、麻生首相が設定した低い目標値は重工業界にへつらったものだと非難。日本の削減目標は、結果的に地球の平均気温を3度上げることに繋がるとの試算を発表した。【6月11日 AFP】
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こちろん、環境団体と国民生活全般に責任を持つ政府とでは立場が違いますので、彼等の主張を全て受け入れる必要もないですが・・・。
【中国も批判】
COP15での合意形成には、中国など新興国への規制適応が問題となりますが、その中国も今回の「05年比15%減」(90年比8%減)を批判しています。
****日本の温室ガス削減目標、必要水準を大幅に下回る=中国の気候変動大使****
麻生太郎首相が2020年に国内の温室効果ガスを2005年比で15%削減することを目指す中期目標を表明したことについて、中国の気候変動交渉担当の于慶泰特別代表は、気候変動に責任を負うよう求められる水準を「かなり下回っている」と述べた。
気候変動に関する会議に参加するため当地を訪れた代表は、ロイターに対し「(同数値目標は)日本が負うべきかつ必要とされる水準に近いとは考えていない。国際的な気候変動への取り組みに相応の貢献をするには何をすべきかを日本は真剣に検討すべきだ」と語った。【6月11日 ロイター】
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日本からすれば、最大のCO2排出国となりつつある中国など新興国が規制を受け入れようとしないことこそけしからん・・・ということになるのですが、現在のCO2増加は先進国がもたらした結果であり、そのために新興国・途上国の経済活動が制約されるのはおかしいではないか・・・という議論もわからなくはありません。
【気候移民】
先進国がこれまでの結果に責任を持ち、新興国・途上国もこれからの活動については規制を受け入れるという常識的な合意形成が望まれます。
互いに相手を非難しあうなかで、状況は次第に悪化していきます。
****気候変動による「水ストレス」で移民急増も、研究報告****
ドイツ・ボンで開催中の気候変動交渉で10日、気候変動により数千万人が移住を余儀なくされ、社会・政治・治安面にこれまで予期されなかった問題が生じる可能性があるとする報告書が発表された。(中略)
温暖化はヒマラヤ山脈の氷河の溶解を加速し、洪水が頻発することが予想される。また、ヒマラヤを水源とする主要な川の水量にも影響し、農業が甚大な被害を受ける可能性があるという。(中略)
報告書は、移住は、貧困国から裕福な国へというよりは、貧困国内部、つまり田舎から都市部への移動が多く行われており、都市部のインフラに益々負担がかかるようになると予想。各国政府に、気候変動による移住の危機に直面しそうな地域とその人口を特定するためのツールを開発するよう要請している。
また、将来的に世界各国が参加する条約のもとで集められる気候変動対策の資金は、貧しい気候移民に向けられるべきだと指摘している。【6月12日 AFP】
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冬の降雪で氷河が大きくなる欧州アルプスなどと違って、ヒマラヤは夏のモンスーン期に0度より少し高い気温の中で、雪が降ります。
そのため温暖化でわずかでも気温が上がれば、雪が雨に変わり、氷河を拡大するどころか、逆に解かしてしまいます。実際、ヒマラヤ氷河は急速にやせ細っていることが報告されています。
その影響は、最初には氷河湖決壊という形で現れます。
また、氷河が溶けると、はじめは河川の流量が増えて広範囲で洪水が起こります。その後、数十年で状況は変化し、今度は河川の水位が下がります。
ヒマラヤの氷河は、アジアの7つの大河(ガンジス川、インダス川、ブラフマプトラ川、サルウィン川、メコン川、長江、黄河)に注いでおり、インド亜大陸と中国に暮らす数百万人の水需要を満たしています。
氷河から流れ出す川の流量が減少すれば、水力発電の可能性が下がって工業に影響がでると考えられ、また、灌漑が滞って、穀物生産が低下する可能性もあります。
ヒマラヤ氷河の水源に依存する人口は13億人とも言われています。