(12月10日 COP17で深夜に及ぶ交渉を続ける各国参加者 “flickr”より By DECCgovuk http://www.flickr.com/photos/deccgovuk/6491338979/ )
【ロードマップに合意するも、「悲愴な現実」】
南アフリカ・ダーバンで開催中の国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第17回締約国会議(COP17)は、各国の主張が対立し、会期が2日間延びるという過去最長の締約国会議となりましたが、11日、すべての主要排出国が参加する新たな法的枠組みを2015年までに採択することを目指すロードマップ(行程表)に合意しました。発効は20年からとされています。
一方、2012年末で期限が切れる京都議定書は延長することで合意されました。17年までの5年間が想定されている延長の期間など詳細は来年のCOP18で決めるとされています。
日本は議定書延長への参加を拒否しており、13年以降は削減義務のない、自主的な削減目標を掲げて取り組む「空白期間」に入ることになります。
****法的拘束力を持った温暖化対策の形骸化*****
・・・・議定書で削減義務を負っている先進国の温室効果ガス排出量が世界全体で占める割合は現在、26%にすぎない。さらに13年以降、日本とロシア、カナダが不参加となり、EUなどだけに限定され、15%程度まで落ちこむ。環境NGOは「悲愴(ひそう)な現実」と嘆き、法的拘束力を持った温暖化対策の形骸化は誰の目で見ても明らかだ。
現在、数十カ国以上が国連に20年時点の自主的な排出目標や対策を提出し、日本は90年比で25%削減を掲げている。新枠組みが遠のき、各国の掲げた温暖化対策遂行を信じるしかない状況になった。【12月11日 毎日】
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【中国:「議論に同意する」】
一連の議論のなかで、従来温室効果ガス削減義務につながる議論を拒んできた、最大の排出国である中国が、新枠組み交渉に応じる姿勢に方針転換しています。
****COP17:新枠組み「議論に同意」…中国、方針を転換****
中国で温暖化交渉団トップを務める解振華・国家発展改革委員会副主任(閣僚級)が4日、国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)会場内で記者団の取材に応じた。解氏は、20年以降と想定される京都議定書以降の温暖化対策の新枠組み(ポスト京都)について「議論に同意する」と述べ、交渉に応じる姿勢を鮮明にした。中国はこれまで、将来の温室効果ガス削減義務につながる議論を強硬に拒んでおり、明確に方針転換した格好だ。(後略)【12月5日 毎日】
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削減義務受け入れを示唆しながらも、「我々は途上国であり、削減義務より、先進国から資金と技術の支援を受けるのが先」(解振華・国家発展改革委員会副主任)との中国の本音に対し、アメリカは「彼らの姿勢は何ら変わらない」(トッド・スターン国務省気候変動担当特使)と、中国の本音としての消極姿勢を批判しています。
しかし、会議の流れは米中の消極姿勢を批判する方向に動きました。
****米中、本音は削減義務回避 ****
削減義務を負っていない2大排出国の中国と米国。互いをにらみながらも、新体制で義務を負う確約を避けようと、EUと三つどもえの交渉を展開した。
COP中盤で中国は、20年以降の新体制について「議論することに同意する」と発言し、削減義務を受け入れることを示唆。一定の積極姿勢を見せることに成功した。
すると、会場では米国の交渉姿勢を批判するムードが高まった。8日、閣僚級会合の演壇に立った米国のスターン気候変動担当特使に向かい、傍聴席の女性が「アメリカは交渉で何もしていない!」と叫ぶ一幕があった。会場から大きな拍手がおこり、約1分間、鳴りやまなかった。
同日の記者会見でスターン氏は「米国が交渉を妨害している」と詰め寄られると、「とんだ思い違いだ。条件が合えばEUの行程表も支持できる」と感情をあらわにした。この発言以降、EUと妥協点を探るようになった。
この結果、混乱しながらも議論が前進することへの期待も高まっている。環境NGO気候ネットワーク東京事務所長の平田仁子さんは「交渉を妨害したという批判をかわそうと、各国は互いを非難するのをやめ、実質的な枠組みづくりを進めようという姿勢が見える」と指摘する。【12月11日 朝日】
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【多様化する各国の主張 構図の変化】
こうした流れで、各国の主張が多様化し、従来の「先進国」対「途上国」という構図が変化しています。
とりまとめ役不在のまま混沌とした状態が続き、会議が延長期間に入るとともに予定を変更できずに帰国する閣僚もいる異例の事態となり、会議をいったん閉じて数カ月後に再開すべきだという先送り論も出て難航しました。
****COP17難航 米中の消極姿勢が影響 各国主張も多様化****
国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)の協議難航は、多様化する各国の主張の中で妥協点を見いだすのに時間がかかったためだ。
特に排出量が世界1、2位の中国、米国の新枠組み交渉に対する消極姿勢は交渉の行方に大きな影響を与えた。
中国は今回、20年以降に温室効果ガスの削減義務受け入れを示唆したが、「我々は途上国であり、削減義務より、先進国から資金と技術の支援を受けるのが先」(解振華・国家発展改革委員会副主任)と本音を漏らした。
これを見透かした米国は「彼らの姿勢は何ら変わらない」(トッド・スターン国務省気候変動担当特使)と喝破、一時は事実上、新枠組みの交渉開始を拒否。
欧州連合(EU)は米中間の動きを批判、議定書延長受け入れをカードに「米中も新枠組みに加われ」と迫り続け、交渉での柔軟性を失っていた。
さらに、温暖化被害が特に顕著な島しょ国やアフリカなどの途上国は、単に先進国に議定書の延長を求めるだけでなく、「新枠組みは20年以降」とする米中にも「遅すぎる」と早期の新枠組みづくりを迫った。「先進国」対「途上国」という図式が成り立たなくなったのも今回の交渉の特徴だ。(後略)【12月11日 毎日】
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【大半の途上国は雪崩を打ってEU提案に賛同】
混迷するCOP17で合意へ向けた軸をつくったのは、温暖化対策の柱である排出量取引制度を守りたいという思惑が働くEUでした。
****低開発国がEUに同調 対決の構図一変 ****
・・・・混迷するCOP17の対立軸をつくったのは、欧州連合(EU)だった。
9日朝、温暖化被害を受けやすい島国、低開発国の交渉グループと共同声明を発表。EU交渉団を率いるヘデゴー気候行動担当委員は「多くの国々が、我々の行程表に賛同している。ダーバンでの時間は残り少ない。会議の成否は、残る少数の国の手中にある」と拳を振り上げた。主要排出国の米国、中国、インドを念頭に置きながら、会議決裂に備え、予防線を張った。
EUが攻勢に出た背景には、温暖化対策の柱であるEU域内の排出量取引制度を守りたいという思惑が透ける。国際的な義務がなくなれば、削減へ向けた加盟27カ国の一体感が弱まり、取引市場が壊れかねない。
市場を続けさせるには、削減義務に切れ目が生じてはならない。ただ、先進国だけに削減を課す京都議定書は、2012年末で義務の期限が切れる。一方、すべての国が参加する温暖化対策の新たな国際体制に向けた議論は、米中など主要排出国の反対で進まない。
ところが、途上国の間で温度差が生まれていた。京都議定書の延長には、すべての途上国が賛成する。ただ、島国や低開発国など多くの途上国は、先進国だけでなく、中国やインドの排出量が急増していることに脅威を感じ始めている。さらに、先進国からの支援の仕組みができつつある新体制への移行を望む声が高まっていた。
そこへ、EUが切り崩しにかかった。「新体制への行程表に合意すること」を条件に、議定書延長を受け入れることを表明した。大半の途上国は雪崩を打ってEU提案に賛同し、これまでにない対立構図ができあがった。【12月11日 朝日】
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EUの思惑が排出量取引制度にあるのは事実でしょうが、何らかのインセンティブがないと、単に善意や使命感だけでは現実を変革する動きにつながりませんから、それはそれで・・・といったところでしょう。
COP17は難産でしたが、問題は山積しているものの、一定の合意は得ることが出来ました。
従来の「先進国」対「途上国」という硬直した構図がほぐれてきたようにも見えるのは、大きな成果ではないでしょうか。