記事は、自動車業界のリーディングカンパニーであるトヨタが14日に「ついに重い腰を上げて、EV開発計画の発表を行った」とし、豊田章男社長が2030年のEVの世界販売台数見通しを従来の200万台から350万台にまで拡大し、北米、欧州、中国ではレクサスブランドの自動車を全てEVとし、同社の最新技術を駆使することを発表したと伝えた。
また、同社は30年までにバッテリーに2兆円、車両本体の開発に2兆円の計4兆円を投資することを打ち出したと紹介。日本企業にとってこれほどの規模の投資は久しぶりであり、技術開発や新製品に取り組む一方で設備投資に消極的だった日本企業の印象が、トヨタの変化に伴って変わるかもしれないと評した。
一方で、14日のトヨタの発表は「奥歯に物が挟まった物言いだった」とも指摘。海外のメディアや環境保護団体から「新エネルギー車の発展を阻害している」「環境保護に消極的」と評される中で、トヨタが依然として「全方位戦略」路線を変更せず、化石燃料車も戦略の中に組み込んでいたことを理由に挙げた。
その上で、トヨタがもしリソースをEVに集中させなければ、今後トヨタの経営は巨大な困難に直面し、ブランドの影響力は大きく低下するだろうと予測。
記事によると、中国第一汽車集団は19日、自社の高級ブランド「紅旗(ホンチー)」の日本初の販売店を大阪・なんばにオープンした。当面はハイブリッド車など計4車種を販売する予定で、550万円から1150万円台の高級セダンも取り扱う。主に欧州市場に輸出する製品ラインアップだという。来年夏からは電気自動車(EV)のスポーツ用多目的車も投入する。また、来年には東京にも販売店をオープンさせる計画という。
別の中国車メーカー・東風汽車集団はすでに日本の物流大手SBSホールディングス(HD)にEV小型トラック1万台を供給した。記事は「トヨタやホンダなど日本車業界のEV対応が遅れているため、日本企業は低価格の中国車を選んでいるようだ」と分析している。
比亜迪(BYD)もEVトラックの価格を40%ほど下げる計画で、5人乗り中型セダンEVトラックの販売も開始した。日本の企業と自治体が対象となる。さらに、日本の主要都市への販売代理店構築を検討するため、日本法人に新たな組織も新設したという。
記事は「日本の自動車市場は長年“輸入車の墓場”と呼ばれており、韓国の現代自動車も過去に進出し、数年で撤退している。現在も輸入車の割合は10%ほどにすぎない」とした上で、「中国車の日本市場進撃はそうした意味で、競争力を確保した合図と解釈できる」と伝えている。(後略)【12月23日 レコードチャイナ】
電気自動車(EV)の心臓とされる動力電池は、現在はリチウムイオン電池が主流だが、将来的には全固体電池へと変わっていくことが予想されている。中国証券報系ニュースサイトの中証網はこのほど、将来的には「全固体電池」を舞台に激しい競争がぼっ発することは必至だと指摘する一方、「日本は全固体電池の分野で中国より5年は進んでいる」とする記事を掲載した。(中略)
なかでも、トヨタは2020年代前半に全固体電池の実用化を目指し、まずはハイブリッド車に搭載する予定のほか、日産も2028年に実用化する計画だと記事は紹介した。欧米の自動車メーカーも全固体電池への投資を強化しているという。しかし、中国企業は海外企業と比べると全固体電池への投資意欲が小さいそうだ。
記事は、将来的に全固体電池が実用化されれば電池市場における市場シェアは大きく変わるかもしれず、日本や韓国、欧米のメーカーにも大きなビジネスチャンスが広がっていると主張した。全固体電池にはまだ解決すべき課題も多いと言われているが、日本の技術力で問題を克服し、市場をリードすることに期待したい。【12月23日 Searchina】
菅首相 「最大の目標というのは、邦人を保護することでありました。そういう意味では良かったというふうに思ってます」
政府はきのう、アフガニスタンからの自衛隊による退避任務について、アメリカ軍の撤収により空港の安全確保が困難となることなどから終了し、撤収することを決めました。これまでに日本人1人を含む15人を隣国に出国させましたが、菅総理は退避任務の最大の目標は邦人保護にあり、出国希望の日本人を全員退避させられたとして、任務を評価しました。
アフガニスタンにおける大使館機能をめぐっては、アメリカも現地の大使館を一時的に閉鎖し、ドーハに拠点を移したことを明らかにしています。【9月1日 NHK】
(川崎重工が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」(神戸港)【6月16日 WSJ】
【水素に賭ける日本 2050年までに水素や関連燃料で発電電力の10%を供給】
「脱炭素」に向けた世界的流れが加速する中で、日本が石炭火力の全廃に踏み切れずにいることは、これまでもしばしば取り上げてきました。
また、再生可能エネルギーの安定性やコストなどの日本的問題もあって、今後も原子力に頼る構造になっていることは周知のところ。
一方、自動車産業に関しては、中国などがEVにひた走るなかで、トヨタは水素を利用した燃料電池車や水素エンジンにこだわりをもっているようです。
上記のような状況のなかで、日本が将来的なエネルギーの方向性をどのように考えているのか判然としない・・・と思っていたのですが、日本は「水素に賭けている」そうです。そうなの?
****水素に賭ける日本、エネルギー市場に革命も****
「2050年に排出ゼロ」達成には水素燃料が不可欠 高価で非現実的とみる向きも
日本は輸入した石油やガス、石炭をエネルギー源とする産業基盤を軸に世界第3位の経済を築いた。
だが今、そのエネルギー源の大きな部分を水素に移行する計画を進めている。水素エネルギーは長年、コストがかかりすぎて効率が悪く、現実的ではないと一蹴されてきたが、日本は世界で最も大きな賭けの一つに打って出ている。
日本は今後30年間で事業活動に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにするという目標を掲げており、そうした移行はその達成に不可欠だ。この賭けが成功すれば、世界のサプライチェーンの基礎作りにもなり、ようやく水素がエネルギー源として台頭し、石油や石炭が一段と脇に追いやられる可能性があると専門家らは話す。
水素は過去にも大きな話題を呼んできたが、まだ経済的にも技術的にも克服すべき課題がある。日本のアプローチは何年もかけて化石燃料から徐々に脱却する段階的なプロセスになる可能性が高く、当初はCO2排出量を急激に減らすことにはならないだろう。また、輸入エネルギーへの依存もすぐには解消されない。当初は主に輸入化石燃料から生産する水素を使用する計画だからだ。
しかし、多くの国と同様、日本も太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでは2050年までに排出ゼロを達成するのは不可能なことに気づき始めている。水素は使用時に主要な温室効果ガスとされるCO2ではなく、水蒸気を排出する。再生可能エネルギーが十分に機能しない産業で化石燃料の代わりに使用できる可能性がある。
日本政府は2019年までの2年間で、水素関連の研究開発予算を2倍以上の約3億ドル(約330億円)に拡大したが、この数字には民間企業が投資した数百万ドルは含まれていない。
12月には、2050年までに水素や関連燃料で発電電力の10%を供給するほか、海運や鉄鋼生産など他の用途のエネルギーの大部分をまかなうことを求めた暫定的なロードマップを発表(水素と関連燃料による発電電力は現在ほぼ0%)。政府は今、最終的なエネルギー計画を詰めており、それには水素開発に関する公式目標や概算コストが含まれる可能性がある。
政府は最終的に、補助金制度やCO2を排出する技術の利用を抑制する策を設ける見通しだ。日本の工業大手は、水素を日常生活の一部にしようと船舶やガスターミナルなどのインフラの構築に取り組んでいる。
日本最大の発電会社であるJERAは、石炭火力発電所で水素化合物のアンモニアを石炭に混ぜて燃やすことでCO2排出量を削減することを計画しており、供給の開発に向けて5月に世界有数のアンモニア生産会社と覚書を交わした。
日本の商社は、アンモニアや水素の調達先を探している。また日本郵船などの海運会社は、そうした燃料で稼働する船を設計している。
神戸港には世界初の液化水素運搬船――青と黒で「LH2」と書かれた全長約113メートルの船舶――が、約9000キロメートル離れたオーストラリアに向けた試運転に備えて停泊している。
「事態は一変する可能性がある。日本で突破口が開かれ、日本市場に供給できるようなバリューチェーンを全体的に構築すれば、(世界的に水素が)急速に普及するだろう」。米電力大手NRGエナジーの元最高経営責任者(CEO)でJERAの取締役を務めるデビッド・クレイン氏はこう話す。
水素には大きなメリットがある。一つは、石炭やガス、石油を使用する既存の発電所や機械を改良して使用できることだ。そのため、将来、新エネルギーに移行する際、何十億ドルものレガシー資産を廃棄せずに済む。
また、水素が使用される燃料電池は蓄電池(バッテリー)と比べて同じスペースにより多くの電力を詰め込める。そのため、長距離を移動する飛行機や船舶には水素がうってつけだ。
さらにもう一つのメリットは、水素は日本が主導可能な技術であり、中国への依存を軽減できる可能性があることだ。中国は代替エネルギー大国として台頭し、太陽光パネルやバッテリーの供給量で世界一となっている。(中略)
米国では、一部の州や企業が燃料ステーションなどの水素プロジェクトに投資しているが、まだ散発的な取り組みにとどまっている。
欧州連合(EU)は昨年、独自の水素戦略を導入し、2050年までに水素産業への投資が数千億ドルに達する可能性があるとの試算を明らかにした。ロイヤル・ダッチ・シェルやBPをはじめとする欧州の一部石油会社は、新たな水素プロジェクトを支援している。欧州航空機大手エアバスは今年、水素燃料飛行機3種類の開発構想を明らかにした。
アジアでは、現代をはじめとする韓国のコングロマリットの連合が3月、2030年までに380億ドルの水素関連の投資を行うことを発表した。中国は2022年初頭の北京冬季五輪に向け、数百台の水素バスを準備する計画だ。
だが重要な問題の一つは、水素は自然界には存在しないため、水や化石燃料などの化合物から抽出する必要があることだ。その作業にはエネルギーが必要だ。純粋な水素を製造するために必要なエネルギーは、その水素を消費するときに得られるエネルギーよりも多い。
また、天然ガスや石炭から水素を抽出する最も一般的な製造方法では、大量のCO2が発生する。長期的には、再生可能エネルギー電力を利用した「グリーンな」方法で水素を製造することを目指しているが、現在のところ、その方法は高くつく。
さらに、水素を貯蔵して運ぶのも大変だ。水素はとても軽く、標準温度では非常に大きなスペースを取るため、効率的に輸送するには圧縮または液化する必要がある。水素を液化するには、セ氏マイナス253度まで冷やさなければならない。
だが日本のプランは世界で最も重要なものの一つになり得る。アンモニアを使用するという大胆なアイデアを採用しているためだ。窒素と水素の化合物であるアンモニアもCO2を排出しない。アンモニアは純粋な水素よりも製造にはコストがかかるが、輸送や貯蔵ははるかに容易なため、取引しやすい。また、主に肥料として、既に世界中で大量に生産されているため、水素の問題点の一部を解決できる。
水素やその関連燃料にはその労力に見合うだけの価値がないという批判もある。一部の試算によると、日本で純粋な水素を使用した発電は現在、天然ガスや太陽光を使用した場合の約8倍、石炭を使用した場合の約9倍のコストがかかる。
環境保護団体グリーンピースは、日本のアンモニアを使用した発電計画を酷評している。3月の分析リポートで、この構想は依然として温室効果ガスを排出し、再生可能エネルギーを使用した発電よりも高くつくため、「コストの高いグリーンウォッシュ」だと結論づけた。
フォルクスワーゲン(VW)は、水素を使用した電気自動車(EV)は、バッテリーを使用したものに比べて3倍ものエネルギーを使用すると推計している。米EV大手テスラのイーロン・マスクCEOは、自動車向けの水素燃料電池をばかげていると断じた。
しかし、日本の状況では選択肢が限られている。使用エネルギーのほぼ9割を輸入に頼っているほか、太陽光や風力発電設備の設置余地も限られている。また、2011年の東日本大震災による福島第1原発事故を受け、ほとんどの原発を停止しており、国民は依然として原発におおむね反対している。
経産省が12月に発表した排出ゼロに向けたロードマップでは、数百万トンのアンモニアの輸入を必要としている。
アンモニア戦略を主導する経産省資源エネルギー庁資源・燃料部の南亮部長は、「すごいチャレンジ」だとし、「まだ世界では行われていない取り組みを日本がスタートする」と述べた。
JERAの初期のテストでは、年間約50万トンのアンモニアを必要とする。これは、日本が現在、消費している量の約半分だ。経産省と燃料アンモニア導入官民協議会の予測によると、2050年には日本の年間消費量はアンモニアが3000万トン、水素が2000万トンになる可能性がある。現在、世界で取引されているアンモニアの量は約2000万トンだ。
それだけの供給を開発する手だてを見いだすのは、日本が現在使用している燃料や化学品の多くを輸入している三菱商事や三井物産のような企業の役目だ。
最大の課題は価格だ。政府当局者や業界幹部の推計によると、電力会社が20%のアンモニアを混ぜた場合、石炭を燃やすだけの場合よりも発電コストが24%ほど高くなる。この価格差は、政府の支援やインセンティブがあれば対処可能だと業界幹部は話す。
三井物産は、サウジアラビアが最も安価な調達先になると判断し、同国に大規模なアンモニア工場を新設する可能性を検討している。三菱商事は、北米、中東、アジアのサプライヤー候補と交渉中のほか、日本の複数の海運会社と大型アンモニア運搬船の建造について協議している。
日本郵船は、アンモニアを燃料とする巨大なアンモニア運搬タンカーの予備承認を求めており、2028年までに納入することを目指している。
一方、純粋な水素の使用を加速するための投資も行われている。トヨタ自動車をはじめとする日本の自動車やトラック、重機メーカーは、水素燃料車を推進している。現在のところ、価格の高さや燃料補給ステーションの少なさから、普及は限定されている。(後略)【6月16日 WSJ】
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水素に賭ける・・・非常に野心的な方向性です。その妥当性は素人にはわかりかねますが、敢えて日本が挑戦するというのであれば、失われた二十年だか三十年だか、日本社会・経済が内向き志向になっていることを考えると応援したくもなります。
【燃料電池の航空機利用】
なお、水素を酸素と結合させて電気を取り出す燃料電池は、自動車よりは航空機などの方が現実性があるとも指摘されています。
****しぼむ燃料電池車への期待、空で羽ばたくか****
かつて自動車の燃料として期待が高まっていた水素は、航空機への応用の方が未来があるのだろうか。答えはイエスだ。だが、航空業界が定めた排出ガス削減目標の達成には間に合わないだろう。
ここ1年の動きは、航空業界にとって水素がクリーンな将来へのカギとなるとの考えに一定のお墨付きを与えた。欧州航空機大手エアバスは昨秋、2035年までに水素を燃料とする旅客機の実用化を目指し、コンセプト機3種を発表。
最近では、英スタートアップ企業ゼロアビアが2400万ドル(約26億2400万円)の資金調達ラウンドの一環として、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)から出資を受けた。エアバスの元幹部、ポール・エレメンコ氏が率いるユニバーサル・ハイドロジェンも、米格安航空会社(LCC)ジェットブルー・エアウェイズやトヨタ自動車傘下のベンチャーキャピタル部門など大手から、2100万ドルを調達した。
水素は数十年にわたり、将来の有力な自動車の動力源になると考えられていた。だが、業界では環境対応車としてバッテリーが主流になりつつあり、水素は米ニコラなど新興勢が進めているトラックや鉄道など、別の分野への応用が模索されている。(中略)
航空業界は当初、電気自動車(EV)革命に強い関心を寄せていた。だが、重いバッテリーを乗せて飛行するのは極めて短距離でない限り、採算が合わないとの認識が幹部に広がり、期待が後退した。
再充電可能リチウムイオン電池の出力エネルギーは、重量1キロ当たり9メガジュール(MJ/Kg)どまりで、ジェット燃料の40 MJ/Kgに比べて大きく見劣りする。
一方、水素は140 MJ/Kgと、目を見張る水準だ。比較的成熟している技術である点も心強い。ユニバーサル・ハイドロジェンやゼロアビアが軽量・小型機に改造している燃料電池(FC)は、キロワット当たり40ドルと、2006年からコストが68%下がった(バーンスタイン調べ)。この水準は自動車にとっては高いが、飛行機ではそうではない。(後略)【5月17日 WSJ】
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もちろん航空機利用にしても技術歴問題は多々あり、実用化はこれからの話です。
【グリーン水素開発競争】
発電にしろ燃料電池にしろ、水素の基本的な問題のひとつは、“天然ガスや石炭から水素を抽出する最も一般的な製造方法では、大量のCO2が発生する。長期的には、再生可能エネルギー電力を利用した「グリーンな」方法で水素を製造することを目指しているが、現在のところ、その方法は高くつく。”ということ。
そうした問題をクリアすべく、化石燃料を使わずにつくられる「グリーン水素」開発も進んでいるようです。
この分野でも中国は意欲的なようで、場合によっては中国が支配する太陽光パネルやバッテリー同様の結果になる可能性も。
****過熱する「グリーン水素」開発競争 行きつく先は?****
温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の達成を競うレースで、ミッシングリンク(失われた環)と見なされている「グリーン水素」。化石燃料を使わずにつくられる「グリーン水素」は、世界中の報道発表や投資計画で盛んに使われるキーワードとなっている。
とりわけ欧州は、この新しくてまだ高価な燃料を使いこなすことを切望している。中国が牛耳っている太陽光と蓄電の技術で後れを取ったためだ。
クリーンな水素(燃焼で生成されるのは水蒸気)は、汚染物質を排出している重工業をよみがえらせる可能性がある。(中略)
世界の最富裕国は「グリーン水素」の生産に太陽光発電や風力発電を利用するなど、さまざまな戦略を発表している。原子力発電の利用を計画している国もある。
■アジアの支配?
膨大なエネルギー需要と輸入化石燃料への重度の依存のため、中国や日本、韓国といったアジアの工業大国は「グリーン水素」に大きな期待をかけている。(中略)
中国が取り組んでいる水素生産モデルは、増えつつある原子炉での発電を当て込んだものだ。だが、現在は石炭を燃料とした電力を使用し、大量の二酸化炭素を大気中に放出している。
エネルギー分野のデータ分析・調査会社ライスタッド・エナジーのジェロ・ファルッジョ氏によると、中国の経済の脱炭素化に対する意欲と低コスト化能力が意味するのは、電気で水を水素と酸素に分解する電解槽の製造を、中国が支配するようになる可能性があるということだ。
だが、欧州もまだ諦めたわけではない。(中略)
■水素開発がもたらす道
業界が熱を帯びる中、すでに具体化しつつある新たな提携や相互依存で、水素は世界のエネルギー地図を一変させる可能性がある。
仏名門ビジネススクールHEC経営大学院で教壇に立つミカ・メレド氏は、今後10年間の問いは、水素の開発の結果、分散化がもたらされるのか、それとも石油輸出国と消費国のような新たな依存関係がつくり出されるのかだと指摘している。 【5月17日 AFP】
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こうしたなかで、日本向けグリーン水素供給として動き出しているのがオーストラリア。
****日本向けグリーン水素供給、予想より早期実現も=豪電力会社****
オーストラリアのクィーンズランド州が所有する電力会社スタンウェルのスティーブン・キルター執行ゼネラルマネジャーは26日、生産に再生可能エネルギーを使う「グリーン水素」を日本に供給するプロジェクトが、現状予想しているよりも早く実現する可能性があると表明した。オーストラリア・エネルギー週間の会合で発言した。
スタンウェルは岩谷産業と組んで、2026年から液化グリーン水素を日本に輸出するプロジェクトを進めている。生産能力3ギガワット(GW)の電解槽を使用し、30年までに生産量を年間28万トンに増やす目標にしている。(中略)
オーストラリアでは今月、ノルウェーの肥料会社ヤラ・インターナショナルとフランス公益事業大手エンジーが、グリーン水素から「グリーン・アンモニア」を製造するプロジェクトで当局の承認を得た。ヤラは発電所へのグリーン・アンモニア供給計画で、東京電力ホールディングスと中部電力が出資する発電会社JERAとも協力している。
化石燃料に頼らないグリーン水素製造は、広大な土地やふんだんにある陽光や風力に恵まれるオーストラリアに向いているとして、企業からの注目が集まっている。ただ化石燃料に対する競争力を得るためには、電解槽や製造に用いる再生可能エネルギーの高コストや、輸送上の技術的障害を克服する必要があるとの指摘も多くの関係者から出ている。【5月28日 ロイター】
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アメリカも開発競争に意欲をみせているようです。
“バイデン米政権、クリーン水素の生産コスト引き下げで目標提示”【6月8日 ロイター】
こうした流れで各国がしのぎを削れば、コストも低下し、水素利用の現実性も増してくる・・・というのは何も知らない素人の楽観的期待です。
(台湾で最も高いビル「台北101」の外壁に6月4日夜、「台湾♡日本」などの文字が点灯された。【6月5日 HUFFPOST】)
【蔡英文総統も「その深い友情に、心から感謝します。」】
これまで欧米に比較して新型コロナ感染を最小限に封じ込めてきた「優等生」の台湾やベトナム、そしてマレーシアなどアジア諸国での感染拡大が相次いでいます。
このうち台湾については、ワクチン確保の遅れ及び中国との関係という特殊性によって、中国のワクチン攻勢にさらされるという事態になっていることは、5月27日ブログ“台湾 ワクチン確保に苦慮 中国が独企業との契約妨害?”で取り上げたとおり。
この事態に、日本政府は国内で現在使う予定のないアストラゼネカのワクチンを台湾に支援するという、日本にしては比較的早い決断・実行を示し、124万回分が4日午後、台湾北部の桃園国際空港に到着しました。
台湾側も概ねこれを歓迎しているようです。
****台湾への日本からのワクチン提供に台湾の蔡英文総統もコメント 「友情に感謝」=台湾メディア***
日本からの台湾へのワクチン提供について発表され、台湾メディアの中時新聞網もこの件を報じている。提供されるのは、英アストラゼネカ製。ワクチン不足に悩む台湾を支援するための措置で、この支援について台湾の蔡英文総統からも、コメントが寄せられている。
蔡英文総統は、SNSでコメントしたが、コメントは日本語で寄せられている。「台日の絆は、ワクチンが人々に免疫力を与えるように、民主主義国家同士が協力を通じてお互いのガバナンスを強化できることを示しています。困難な時代を、支え合ってともに切り抜けようという姿勢がこれまでにも増して鮮明になったとうれしく思っています。その深い友情に、心から感謝します。」
こうした支援について、日本側からも「今回の支援は、世界保健機構(WHO)が提唱する、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、つまり“すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられるようにする”という方針を受けて決定したもの」と説明した。
一方、こうした支援に対して、日台両国のネット民も反応している。「こうした支援により、過去の東日本大震災の際に、台湾が日本に行った支援活動への感謝を表せる」とのコメントも見られた。
台湾からは、東日本大震災の際に200億円という多額の義援金が届いたこともあり、今でもそのことを覚えている人もいるようで、「これまでの日台関係に基づき、台湾を支援すべき」との意見も出ている。さらに、「日本も台湾も大国の脅威にさらされている点で共通している。互いに助け合うべき」という意見も寄せられていた。【6月1日 Searchina】
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“4日付の台湾各紙は、日本政府が台湾に新型コロナウイルスの英アストラゼネカ製のワクチンを提供することを「日本の124万回分が今日台湾到着」との見出しで1面トップに掲載し、日台の友情を改めて証明したと報じた。”【6月4日 時事】
****「日本は気概を示した」 台湾、ワクチンを歓迎****
日本政府が台湾に提供した英製薬大手アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチン124万回分が4日午後、台湾北部の桃園国際空港に到着した。台湾のテレビ局が飛行機の到着を実況中継するなど高い関心が示され、歓迎の声が広がった。
蔡英文総統はフェイスブックで「自由と民主主義という同じ価値観を共有するパートナーからの迅速な支援に感謝する」と表明した。外交部(外務省に相当)の欧江安報道官も「日本の友人からの温かいご支援は永遠に心に留めておく」とのコメントを発表した。
台湾のメディアは「ありがとう、日本!」などとワクチン到着を大きく報道。大手紙、自由時報は「中国の脅しに直面しながら日本は気概を示した」と見方を示した。インターネット上には「日本こそ真の友人だ」などの書き込みが相次いだ。
ワクチンの到着に先立ち、南部・台南市の黄偉哲(こう・いてつ)市長は3日夜、フェイスブックで、日本に対する感謝の気持ちを表すために、台南在住の日本人にワクチンを優先的に接種する考えを表明し、大きな話題となった。
台湾では5月に入り、新型コロナの感染が急速に拡大する一方、ワクチン調達が中国の妨害などにより大幅に遅れていた。日本からのワクチンが到着するまで約2300万人の人口に対し、確保したワクチンはわずか約85万回分だった。【6月4日 産経】
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中国側は“中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は4日の記者会見で、日本が新型コロナウイルスワクチンを台湾に援助したことを受け、「政治パフォーマンスに固執するな」と日本を牽制した。”【6月4日 産経】と不快感を示しています。
また、中国ネットでも“日本が台湾に「自国で使わないワクチン」を提供と中国メディア、ネット「これ善意?」「あくどい」”【6月4日 レコードチャイナ】といった反応もあるようです。
今後については、“台湾メディアの情報として日本政府が最終的には1000万回分のワクチンを台湾に提供する見込みである”【同上】とも。
また、アメリカは“国際枠組み「COVAX(コバックス)」を通じ、台湾を含むアジアに700万回分を提供する”【6月4日 共同】とも報じられています。
アメリカが前面に出ると米中関係を強く刺激するため、アメリカに代わって台湾とのつながりが強い日本政府が前面に出る形で日米の調整がなされた・・・ということでしょうか。全くの想像です。
いずれにしても台湾の窮状を考えると、今回の日本による支援はタイムリーな決定であり、台湾の動揺を防ぐことができること、併せて、親日国台湾との絆を強化できることで、日本にとってもメリットの大きい対応でしょう。
【日本、感染拡大のベトナムにも支援 “意地とプライド”ながら中国産ワクチン承認も】
台湾と並ぶ「封じ込め優等生」ベトナムも。
****ハイブリッドの変異ウイルス、ベトナムで拡大か…「封じ込め優等生」が危機に直面****
新型コロナウイルスの感染拡大を抑えてきたベトナムで、5月以降、新規感染者が急増している。インド型(デルタ型)と英国型(アルファ型)が混ざったハイブリッドの新しい変異ウイルスが感染拡大に影響している可能性がある。
1か月で2・5倍
米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、2日の新規感染者数は245人で、5月上旬の2桁台から大幅に増えた。昨年来の累計の感染者数も5月末で7432人と、2928人だった4月末から1か月で2・5倍になった。
首都ハノイに近い北部バクザン省の工業団地や南部ホーチミンのキリスト教施設で、インド型などのウイルスによる大規模クラスター(感染集団)が相次いで発生している。グエン・タン・ロン保健相は1日、「適切な対策を講じなければ、危機的な状況に陥る」と訴えた。
各自治体は、飲食店の営業停止や外出制限を徹底した上で、感染者数の早期把握に向けて検査を増やす取り組みを始めた。ホーチミンでは、医大生を動員し、1日の検査数を5万件から10万件に倍増させる。
両方の特徴
ベトナムはこれまで、入国制限や隔離対策を厳格化して感染者数を抑え込み、コロナ対策の「優等生」とされてきた。今回の感染急増の要因が特定されない中、5月29日に政府が発表した新たな変異ウイルスの発見が注目を集めている。
ロン保健相は政府の会合で、「このウイルスはとても危険だ」と警告した。政府系ニュースサイト「VNエクスプレス」によると、ウイルスは複数の感染者の遺伝子解析から見つかり、英国型とインド型の両方の特徴を持ち、感染力が強いという。
接種率1%
感染急増を受け、政府はワクチンの確保に本腰を入れ始めた。共同購入・分配の国際的枠組み「COVAX(コバックス)」などから年内に計約8000万回分を調達する予定が遅れているためだ。
英オックスフォード大などが集計するアワー・ワールド・イン・データによると、ベトナムの5月31日現在のワクチン接種率は1%で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国中で最低となっている。
グエン・スアン・フック国家主席はバイデン米大統領とロシアのプーチン大統領に書簡を送り、ワクチン入手への協力を求めた。一方で、「ワクチン外交」を展開する中国からは供給を受けていない。南シナ海で領有権を争うなど対立を深めていることが背景にあるようだ。【6月4日 読売】
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ベトナムも中国との関係においては、台湾ほど死活的ではないものの、同じ社会主義国家であるにもかかわらず安易に中国に頼れない事情があります。
単に、昨今の南シナ海での対立というより、侵略・戦争を繰り返してきた長年の歴史的関係というべきでしょう。
”中国の歴代の王朝は何度も東南アジアへの侵略を試みたが、ラオス、ミャンマーとの国境は山岳地帯にあり大軍を動かすことができない。それゆえに中国はベトナムの海岸沿いからのルートで侵略を試みた。しかし、その度にベトナムの激しい抵抗によって退けられている。それだけではない。900年ほど前には、ベトナムの英雄である李常傑が大軍を率いて広東省に攻め込んだこともある。中国にとってベトナムはなんとも厄介な相手なのだ。”【4月13日 川島 博之氏 JBpress】
そうした歴史的国民感情、昨今の南シナ海での他率に加え、中国製品に対する“安かろう、悪かろう”不信感も根強いようです。
そのベトナムは国産ワクチン開発に取り組んでいますが、まだ実用化されていない現段階では、独自に購入契約を結んだ欧米メーカーからの供給も進んでおらず、ASEAN最低の接種率という現実もあります。
****「中国製ワクチンはいらない」ベトナムが見せる意地とプライド****
(中略)
中国製ワクチンを購入しないASEAN唯一の国
中国は現在「ワクチン外交」を世界中で展開しているが、優先度を最も高くしていたのはASEAN(東南アジア諸国連合)の国々だった。実際に中国製ワクチンが流通する前から、中国政府はベトナム、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジア、フィリピンのASEAN5カ国に対して優先的にワクチン支援を行うと表明していた。インドネシアやシンガポール、マレーシアもすでに中国製ワクチンを購入している。
一方、ベトナムは中国からの購入を拒み続けてきた。今年(2021年)2月26日、ベトナム外交部のスポークスマンは、「中国製ワクチンを買う計画はあるのか」という質問に対し、「ベトナムは世界の、その他のパートナーと交渉して、国内の需要を満たすつもりだ」と回答した。
こうしたベトナム外交部の発言に、中国では「なぜベトナムは拒絶するのか」と物議を醸した。一部の中国メディアは、中国のワクチン開発の経験の浅さが原因ではないかと推測する。
確かに、中国は国際的なワクチン供給において“新参者”である。主要メーカーの仲間入りをするのは新型コロナワクチンが初めてだ。未知数の高い中国産ワクチンに対してベトナムの国民が安全性や有効性を疑っている可能性はある。
しかし、原因はもっと根深いところにあった。
今なお残る中国製品アレルギー
ベトナム国民はなぜ中国製ワクチンを信頼できないのか? その理由について都内在住のグエンさん(仮名)は次のように話す。
「ベトナムでは中国製ワクチンに対する反対の声が非常に強い。というのも、ベトナム国民は、“安かろう、悪かろう”の中国製品に今までさんざんな目に遭わされてきたからです。なにしろバイクも自動車も中国製は2〜3年ですぐに壊れてしまいます。トラクターなどの農機具も同じです。修理もできず捨てるしかない。こうした経験をした人がたくさんいて、みんな中国製品に不信感をもっているんです」(中略)
想像以上に根深い中国への反感
「一帯一路」は、中国製品の販路を世界に拡大する巨大物流構想だと言えるが、中国はこれまで築いた物流ルートを、「健康のシルクロード」として、新型コロナワクチンを送り込むためにも活用しようとしている。
中国政府は、「公共財」として新型コロナワクチンを無条件で提供するとし、特に東南アジア諸国を優遇する態度を示してきたが、ベトナムは中国の“厚意”を受け入れない。それほど中国を信用していないのだ。
もっとも、ベトナムと中国の間には、南シナ海の領有権問題が存在する。度重なる国境紛争もあった。“同じ共産党国家の兄弟”と言われながらも、私たちの想像以上にベトナム人は中国に反感を抱いている。
2020年、中国の名目国内総生産(GDP)は14兆7000億ドルに達したが、ベトナムは3400億ドルにとどまった。中国の背中ははるか先だ。そんなベトナムが自力でワクチン開発に挑んでいる。その姿からは、「弟分」に甘んじるのをよしとせず、中国の影響力から自立しようとする強い意地とプライドが滲み出ている。【5月25日 姫田 小夏氏 JBpress】
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こうしたベトナムに対しても、台湾同様、日本政府は支援の動きを見せています。
****ベトナムにもワクチン提供を検討 6月中の輸送目指す 政府****
新型コロナウイルスワクチンの海外への提供をめぐり、政府は、4日、台湾におよそ120万回分を無償提供したのに続き、接種が遅れているベトナムに対しても、ワクチンを提供する方向で検討に入りました。
新型コロナウイルスワクチンをめぐって、政府は、国内の接種に必要な量を上回る分については、海外に供給する方針で、4日、台湾に対してアストラゼネカのワクチン124万回分を無償で提供しました。
これに続き、政府は、接種が遅れているベトナムに対しても、ベトナム側からの要請を受けて、ワクチンを提供する方向で検討に入りました。(中略)
政府は、早期に届けられるよう、国際的な枠組みは経由せずに直接、ベトナム側にワクチンを提供したい考えで、早ければ今月中の輸送を目指し、検討を急ぐことにしています。【6月5日 NHK】
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もっとも、前出記事では“意地とプライド”との指摘がありましたが、ベトナムは一方で「現実主義」の国で、中国との関係についても、過熱しないようにコントロールしながらという対応をこれまで見せてきました。地続きで、1979年にも戦火を交えた関係にあることから、当然のことでしょう。
今回のワクチンについても、中国製ワクチンを急遽承認したようです。
****ベトナム、中国シノファームのコロナワクチン承認=報道****
ベトナムは、中国国有製薬大手の中国医薬集団(シノファーム)が開発した新型コロナウイルスワクチンを承認した。オンラインメディアのVNエクスプレスが4日報じた。
英アストラゼネカ製、ロシアの「スプートニクV」に次いで3例目の承認となる。【6月4日 ロイター】
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このことが、日本からのワクチン支援に影響するのか、しないのか・・・は知りません。
【中国ワクチン外交に対抗 マレーシアに月内にも無償で提供する方向で調整】
マレーシアでも感染が拡大しています。
****新型コロナ、アジアで続く「負の連鎖」、今度はマレーシアで感染急拡大、1日から都市封鎖****
マレーシアで新型コロナウイルス感染症が急拡大している。人口当たりの新規感染者数は5月末、インドを超えた。事態を重視した政府は1日から2週間、全国で経済や社会活動を停止するロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。ワクチン接種が進み、日常が戻りつつある欧米とは対照的にアジアでは「負の連鎖」が続いている。
多くの海外メディアが引用する米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、マレーシアの累計感染者数は1日現在、57万9462人。感染者が急増した結果、人口100万人当たりの7日間の平均新規感染者数は5月26日の時点で211人となり、インドの165人を大きく上回る深刻な状況となった。累計死者数は人口3200万人に対し約2800人だが、5月だけでその40%以上を占めている。
AFP通信はイスラム教徒が大多数を占めるマレーシアで、変異株に加えて感染拡大の要因となったのは「5月12日に終わった断食月ラマダン(Ramadan)と、その終わりを祝う大祭「イード・アル・フィトル(Eid al-Fitr)」期間中の集まりだ」と報道。「こうした集まりでは新型コロナ対策の規則が守られないことが多い」とも伝えた。(後略)【6月5日 レコードチャイナ】
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日本のワクチン支援構想には、このマレーシアも入っています。
****ワクチン提供、ベトナム・マレーシアにも…米とも連携して中国に対抗****
日本政府は、国内での使用を見合わせている英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンの一部を、感染が急増しているベトナムとマレーシアに月内にも無償で提供する方向で調整に入った。ワクチンの海外供与は、台湾に続いて2例目となる見通しだ。(中略)
日本政府は、すでに両国の保健当局がアストラゼネカ製のワクチンの使用を許可していることから、日本国内で当面使用予定のない同社製のワクチンを提供しても問題がないと判断した。国際機関を通さず、直接供与する方向だ。数量は今後、決定する。
また、太平洋の島嶼とうしょ国への提供も検討している。日本政府が今月下旬にテレビ会議方式で開催する島嶼国首脳らによる「太平洋・島サミット」で、菅首相が表明する方向だ。国際機関を通じた支援となる見通しだ。
ワクチンの提供を巡っては、日本政府は2日に開催したワクチンサミットでアストラゼネカ製ワクチンを念頭に3000万回分を海外に提供する方針を表明し、4日に台湾に124万回分を無償供与した。
中国は国産ワクチンを80か国以上に供給するなど、積極的な「ワクチン外交」を展開している。日本政府としては、米国などと連携して中国に対抗する狙いがある。【6月5日 読売】
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中国に対抗云々は別にしても、日本国内で当面使用予定のないワクチンを支援に回すことは有意義なことと考えます。
ただ、「国内でもワクチン接種が進まない状況で、外国支援をしている場合か!」いった批判があるかも・・・と思ったのですが、そういう声は今のところ大きくないようです。良く言えば“物分かりのいい”、悪く言えば”おかみのやること従順・盲目的”ということでしょうか。
(名古屋出入国在留管理局の施設収容中に死亡したウィシュマ・サンダマリさんの遺影を持つ妹のワヨミさん=16日午後 (葬儀で)あいさつした妹ワヨミさんは「誰が責任を取るのか、私たちも分からない。死亡してから2カ月たつが、なぜ亡くなったのか、答えがない。お姉さんが大好きだった国でこんなことになり、信じられないです」と声を震わせた。【5月16日 共同】)
【入管施設で衰弱死したスリランカ人女性の監視カメラ映像開示で折り合いがつかず廃案へ】
国会で審議が行われていた在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案については、政府は今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めました。
****入管法改正案が廃案へ、「人権侵害」と野党や国内外から批判****
在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案を巡り、野党の反対や国内外の批判を受け、政府は18日、今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。
同法案は、難民申請をしている外国人でも強制的に母国に送還されることや、退去命令に従わない人に罰則を設けるなどの点が難民条約違反、人権侵害であるとして弁護士団体や学者など国内外から批判を浴びていた。
入管法に詳しい児玉晃一弁護士は「たくさんの声が集約され、入管法の改悪が阻止された。SNSやネットニュースを通じていろいろな人に声が届き、みんなの声が勝ち取った成果」と述べた。
国会では、法務委員会で野党議員が法案の問題点を指摘、修正協議も行われていた。しかし、入管施設で3月、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)に関し、遺族に監視カメラ映像を開示するよう野党が求めたのに対し、出入国在留管理庁がこれを拒否、野党側は法務委員長の解任決議案を提出して与野党間の対立が深まった。
このため与党は18日、今国会での成立を断念することを決めた。ある与党幹部は「国際社会の批判もあり、強行採決はメリットがない」と語った。
昨年8月から不法滞在で名古屋出入国在留管理局に収容されていたウィシュマさんは、今年になって体調を崩し1月下旬から嘔吐を繰り返し吐血もしたが、入院などの措置はとられず3月6日、職員が死亡しているのを発見した。
支援団体と遺族は5月16日午後、名古屋市でウィシュマさんの葬儀を行い、約80人が参列した。支援団体は国会前で断続的に抗議活動を行い、法案の廃案とウィシュマさんの死亡についての真相究明を訴えてきた。
上川陽子法相はウィシュマさんの遺族と18日午後に面会することを明らかにした。
2019年末時点で、全国で収容されていた外国人は1054人。本来、収容所は退去強制令書を発出された人が退去するまでの間一時的に収容される場所だが、実際には1054人のうち約400人が6カ月超収容されていたという実態がある。
国連の「恣意的拘禁作業部会」は20年9月に、日本の入管収容制度における長期収容について、申し立てを行った被収容者2人の事案は国際法に違反し「恣意(しい)的」であるとし、日本政府に意見書を送付し必要な措置をとるよう求めた。
こうした長期収容の問題を改善するために政府は同改正法案を策定したが、内容について理解を得られなかった。【5月18日 ロイター】
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入管施設での長期収容が国際的に問題視されるなかでの「改正案」でしたが、(ほとんど難民申請が認められない日本の現状において)難民申請3回以降であれば母国への強制送還を可能にするといったような内容に問題があること、入管施設での収容者対応に人道上の問題があるように思われることなどについて、これまでもこのブログで取り上げてきました。
4月2日ブログ“国際的にも問題視される日本入管制度の過酷な実態”
4月29日ブログ“国会審議が始まった入管難民法改正案 入管庁の収容者衰弱死に関する「隠蔽」も問題視”
改正案の問題点などに関しては上記ブログと重複しますので、今回はパスします。
政府・自民党も改正案の内容については一定に野党側主張に歩み寄った形でしたが、上記【ロイター】にもあるように、入管施設での不適切な対応で亡くなったのではないかとも指摘されているスリランカ人ウィシュマさんの監視カメラ映像開示で折り合いがつかなかったようです。
4月29日ブログでも取り上げたように、ウィシュマさんの「仮放免」の必要性を指摘した医師の診断内容が中間報告書に記載されていないということで、入管庁側は彼女の衰弱死の経緯を隠蔽しようとしているのではないかとも思われる工作もあり、政府はどうしてもこの問題に触れたくないようです。
****入管法、遺族迎え野党引かず=自民なお歩み寄り模索****
自民党は17日、衆院で審議中の入管難民法改正案の採決強行を回避するため、立憲民主党など野党側と歩み寄りを探った。
しかし、入管施設収容中に死亡したスリランカ人女性の映像開示に当面応じられないとの立場は崩さず、協議は平行線に終わった。スリランカ人女性の遺族が来日し、死亡経緯の解明を訴える中、立憲は安易な妥協には応じない姿勢を見せており、先行きは不透明だ。
自民党の森山裕国対委員長は17日、立憲の安住淳国対委員長と国会内で会談し、改正案採決への理解を求めた。安住氏はスリランカ人女性の映った監視ビデオの映像について「遺族が日本にいる間に、まず遺族に開示したらどうか」と提起した。
会談後、安住氏は記者団に「1ミリも前進していない」と説明。「真相解明はわが国にとって必要だ。譲るつもりは全くない」と語った。
立憲、共産、社民3党の議員はこれに先立って、スリランカ人女性が収容されていた名古屋市の入管施設を遺族とともに視察。遺族と並んで記者会見した立憲の中川正春元文部科学相は「入管法改正に厳しい態度で臨む」と語った。遺族は18日に国会を傍聴する予定だ。
立憲は先週、ビデオ映像の即時開示を求めるとともに、難民認定審査中でも申請3回目以降なら強制送還できるようにする規定の削除など10項目の修正を要求。自民は修正には大筋で応じる姿勢を示したが、映像開示は受け入れなかった。
これを受け、立憲、共産、社民3党は採決阻止に向け、義家弘介衆院法務委員長(自民)の解任決議案を提出した。解任決議案は18日の衆院本会議で採決される予定。立憲は改正案の採決を阻むため、上川陽子法相の不信任決議案などの提出も検討している。【5月18日 時事】
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結局、映像開示に応じない政府が廃案の選択をしたことは、前出【ロイター】のとおり。
【“外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか”という議論が必要】
改悪が見送られたことは歓迎すべきことですが、入管施設で何が行われているのか・・・・日本の入管はいわば“ブラックボックス”であることの問題、更には、問題の根底にある“なぜ日本はこんなに難民認定が少ないのか”という問題、そうした基本的な問題は今後も継続して議論していく必要があります。
****日本の外国人制度の根底に“長く定着して欲しくない”という考え方が? 見送られた入管法改正案から考える****
(中略)
■“半永久的に送還できない人が増えてしまう”という危機感か
現行法では、難民申請の手続き中の外国人については本国へ送り返されることはなかったが、それを逆手にとり申請を繰り返す外国人もいたことから、入管施設での収容が長期化する問題が浮上していた。与党はこの点を踏まえ、3回目以降の難民申請者については原則、国へ送り返すことを可能にしようとしていたのだ。
18年にわたって入国管理局に勤務、現在は「未来入管フォーラム」代表を務める木下洋一さんは次のように話す。
「基本的には“オーバーステイ”が発覚すれば強制送還されることになっていて、現時点で約8万人が該当している。ただ、多くの場合はオーバーステイが発覚すれば自分で帰国するし、結婚して家族を持っているような人などに関しては入管の裁量による“在留特別許可“の制度で“正規在留者”として認定されるケースもある。
一方で、約3000人が“帰国すれば迫害される”などとして送還を拒んでいるといわれていて、この人達を入管では“送還忌避者”と呼んでいる。
僕自身は難民の認定業務に直接携わったことはないが、窓口などで申請の受付をしていると、切実な事情を抱えた方もいる一方、申請すれば6カ月後には働くことができるという規定があるので、“難民じゃないけど仕事がしたいから”という方もいらっしゃる。
入管側に言わせると、難民申請をしている限りは送還されない“送還停止効”という制度を使うことによって、半永久的に送還できない人が増えてしまうという危機感があった。そこで回数を決めて送還できるようにしようという発想になっていったのだと思う。
入管法の一番の問題は、役所に巨大な裁量権を与えていることだ。半世紀ぐらい前、ある法務官僚が“外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由だ”と言って国会で問題になったことがあるようだが、現実は本当にフリーハンドで外国人のビザを左右することができるし、それを統制するシステムもない。
非常に慎重な手続きを取る刑事手続きと違って、人を収容、つまり身柄を拘束するのにも裁判所の令状が要らない。主任審査官という入管の職員が発布するだけで、収容から送還に至るまでの司法も第三者機関も全くタッチしない。完全にブラックボックスだ。
それでも入管職員に人権感覚がないとか、決してそういうわけではないと思う。私のかつての同僚たちも、みんな優秀な人たちだったし、多かれ少なかれ問題意識は持っていたと思う。しかし公務員である以上、入管法に従うというのが役目だ…」。
■入国の管理をする役所が難民保護も担う現状
政府与党の改正案について立憲民主党の安住淳国対委員長は「対象になっている外国人の方々が3回目には強制的にこの国を出されるんじゃないかという恐怖心を持っている。この恐怖心を持たせたところに、この法案の核心がある」と指摘。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も「非常に重大な懸念を生じさせる様々な側面がある」との声明を発表。
また、日本在住のクルド出身者たちも先月、改正案への抗議集会を開き、母国に送還されれば“反体制派”として迫害され、命の危険に曝される恐れがあると懸念を示し、「迫害や差別を受けて逃げてきたのに、強制送還されたらどう思いますか?」「本国に帰ったら人生は終わりです」と訴えていた。
木下さんも「特にクルドの人たちに関しては、今まで1人も難民として認められていないという状況があるので、繰り返し申請をしてきたというケースがある。改正案が通ってしまえば、3回以上の申請として本国に送り返される可能性があるということで、大きな恐怖感を覚えていたと思う」と話す。
「日本の難民認定のハードルが非常に高いと言われているのは、命からがら逃げてきた人に対して、“自分は難民だ”ということについての立証を求めるからだ。加えて“個別把握論”といって、“反政府組織に属しているからといって、リーダー的な存在じゃないなら帰国しても迫害の恐れはないのではないか”などと評価しがちなところがあるといわれる。
もちろん日本も難民条約に加盟をしている以上、条約上の難民は保護しなければいけない。ただ、国によって難民認定のシステムには違いがあって、日本には独立した難民審査機関のようなものが存在していない。
だから基本的には入国の管理をする役所であるはずの入管が、難民認定や難民保護の役割も行っているということだ。それが同じ組織で行われていることについては、どうかと思う」。
■“あまり長く定着して欲しくはない”という考え方が?
難民問題について取材を続けるジャーナリストの堀潤氏も「まずその人が難民であるかどうかを調査するための体制を作ってから、どのような人について申請を認めるのか、という議論がされるべきなのに、一足飛びに回数で切って送還するというのは、政府の不作為ではないか」と指摘する。
「“私たちの仲間たちが次々と拘束され殺害されているので日本にやってきた”と説明したトルコ出身の方に対し、“あなたが銃口を向けられたわけではないですよね”と詰問をされたと聞いた。厳しすぎると思う。
あるいは“大学院に所属していました”というシリア出身の方に、“証明はありますか。取り寄せられますか”と言ったというケース。まさに爆撃が行われていて、指導教員が生きているかさえどうかわからないのに」。
作家の乙武洋匡氏は「どうしても、“はいはい、またいつもメンバーが賛成して、またいつものメンバーが反対しているのね”で終わってしまいがちだが、そうではない。一昨年の外国人労働者の受け入れ問題を思い出してみると、自民党は支持者のために“いやいや、外国人を入れるつもりはない”。でも経済界の要請も聞き入れないといけないから“これくらいの期間ならオッケーだ”という、玉虫色の決着をしてしまった。
人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか、ちゃんと議論しようよという骨太の議論をしなければならない」と訴えた。
木下さんは「国としては外国からの労働力が欲しいはずだ。しかし日本の移民政策、外国人政策の根底には、“あまり長く定着して欲しくはない”“定着しない人ならウェルカムだ”という考え方があるのではないか。それが技能実習生制度によく表れていると思う。
あれも3年、長くても5年居たら、後は帰ってくださいと、短い期間だけ日本で頑張って働いてください、というような制度の立て付けだ。
難民についても、ずっと長く日本に定着する予定の人に関してなので、厳格な姿勢で臨んでいるという部分があるのかもしれない」との見方を示した。【5月18日 BEMA TIMES】
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乙武洋匡氏が言うように、“人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか”という問題でしょう。
“外国人を定着させたくない”という内向き姿勢で、グローバル化した世界で日本は生きていけるのか?という疑問を感じます。
(日本の人口の中で少なくとも一回のワクチン接種を受けた割合は0.96%で、1%未満となっている。【4月20日 YAHOO!ニュース】 グラフでは、日本は横軸にへばりついている一番下の赤い線です)
【先進国では最下位、世界平均より一桁少ない、あのミャンマーにも劣る日本のワクチン接種状況】
緊急事態宣言が延長・拡大されたことは周知のとおり。
既定方針どおりで、日本国民全員にとって特に驚きなどはない決定ですが、個人的に言えば“期限延長はやむを得ない”(菅首相)と言う前に、日本はやるべきことをやっていないのではないかとの強い不満を感じます。
その不満は、大きく分けて二つ。
ひとつは、絶望的なほどに遅れているワクチン接種状況。
ワクチン接種拡大という出口戦略なしに、また、そうした事態となっている「失敗」の反省・謝罪・対策なしに、「自粛をもっと頑張れ」「感染拡大が止まらないのは自粛努力が足りないせいだ」みたいなこと言われても、「筋違いだろ!」という感も。
もうひとつは、現在の危機的状況の根幹にあるとされる「医療崩壊の危機」というのは本当なのか?という疑問。
もちろん、東京・大阪などの受入れ医療機関の状況がひっ迫しているのは事実で、関係者が多大な苦労を強いられているのも事実ですが、日本全国、多くの民間病院を含め「総合的・俯瞰的」に見たときどうなのか?という疑問です。
そこに問題があるとしたら、その問題に手を付けずに一部の業種などに廃業を決意させるほどの制限をかけることは、これまた「筋違いだろ!」ということにも。
まずワクチン接種状況。日本はいわゆる先進国OECD37か国中、最下位です。
****日本のワクチン接種率1.1%で「OECD中最下位」…なぜ?=韓国報道****
日本の新型コロナウイルスワクチン接種率が他の先進国に比べ顕著に低いことがわかった。
27日(現地時間)ブルームバーグ通信によると、日本のワクチンン接種率は人口全体の1.1%に過ぎない。米国の36%や英国の35%と比較されており、これは 経済協力開発機構(OECD)加盟国37か国の中でも最も低い数値だ。
アジア内では中国、インド、シンガポール、韓国よりも遅れている。フィリピンやタイなどの低所得国よりはやや進んでいる状態だ。
(中略) 医療関連のL.E.Kコンサルティングの藤井礼二氏は、ワクチン接種の遅延が菅内閣のおろそかな準備のためだと明らかにした。 藤井氏は、「ファイザーのワクチン供給が遅いことや、日本のワクチン確保が不十分なことだけではない」とし、「流通不良や準備不足のため」だと指摘した。
日本のワクチン接種率が低調なもう1つの理由は、日本の製薬会社らがワクチン開発に乗り出さずにいるという点だ。(中略) 駐日米国商工会議所・医療委員会のカールソン共同委員長は、「日本が新技術の採択や革新開発の脈略でどれだけ発展したのか疑問を持つ」と話している。
主要7か国(G7)の回復競争が始まったとしても、日本の遅いワクチン開発は日本経済の足を引っ張るだろうと、ブルームバーグ通信は伝えた。【4月28日 WOW!Korea】
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OECDどころか、世界平均より“一桁”少なく、国軍による市民への武力弾圧が続くあのミャンマーよりも少ない状況です。
****日本、ワクチン接種率OECD37カ国で最下位――東京五輪よりもコロナ対策に専念を***
日本の新型コロナウイルスのワクチン接種率が、先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中でダントツの最下位に陥っている。世界182カ国中でも131位にとどまっている。世界と比べても、日本のワクチン接種の少なさが際立っている。
英国のオックスフォード大学運営の「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」の4月19日時点のデータによると、日本の人口100人あたりの接種回数は1.53回で、世界平均の11.61回より一桁も少なく、大幅に下回っている。国軍による市民への武力弾圧が続くミャンマーの1.91回よりも少ない。
(中略)筆者は2021年2月2日、「緊急事態宣言」を延長する菅首相の記者会見で「なぜ日本のワクチン接種が遅れているのか」と質問した。
これに対し、菅首相は、ワクチン接種が遅れている事実を認めたものの、「日本はワクチンの全量確保が早かった」と強調。「ワクチン接種の体制ができて、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい」と述べた。
しかし、その菅首相の言葉とは裏腹に現実には日本は依然、国際的に後れを取り続けている。
菅首相への筆者の質問当時の2月初め、OECD加盟国37カ国中、日本のほか、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビアの4カ国がまだ接種を開始していなかった。その後、日本とコロンビアが2月17日に接種を開始。続いて、ニュージーランドが2月20日、オーストラリアが2月22日、韓国が2月26日にそれぞれ接種を開始した。しかし、今では日本は、こうして遅れて接種を開始した国々にも逆転され、接種率はOECD加盟国で最下位に陥っている。(中略)
- 集団免疫を早く獲得した国が「勝ち組」
なぜ各国とも競うようにして国民へのワクチン接種を急ぐのか。それは集団免疫を獲得し、コロナ禍を一刻も早く終息させるためだ。集団免疫の確立で後れを取れば、国際的に人流・物流のフル再開の機運が生まれた時に、日本が締め出される懸念がある。結果として、貿易立国の日本は他国に比べ、経済回復も出遅れてしまう。
米英は感染者数や感染死者数では「負け組」だったが、ワクチン接種では先行し、早期のコロナ危機克服と景気回復では「勝ち組」になる可能性が高まっている。ワクチンというゲームチェンジャーを手にし、一発逆転劇を期している。
- 日本のPCR検査数はOECD加盟国37カ国中36位
日本が後れを取っているのはワクチン接種だけではない。国際統計サイト「Worldometer」の4月19日時点のデータによれば、日本の新型コロナウイルスの人口100万人当たりのPCR検査数は8万6543回となり、世界210カ国中145位にとどまっている。OECD加盟国37カ国では36位となっている(最下位はメキシコ)。
ワクチンのみならず、検査数の低さも国際的に際立っている。(後略)【4月20日 高橋浩祐氏 YAHOO!ニュース】
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普段、なにかといがみ合っている日本と韓国ですが、ワクチン接種状況でその韓国(韓国国内ではワクチン確保で日本にも後れを取っていると強い批判がありました)にも追い抜かれ、日本のスポーツ紙が韓国専門家の日本の「遅れ」に関する指摘を掲載するまでに。
****韓国の専門家が指摘する日本のワクチン接種遅れ「3つの理由」****
(中略)日本では他国と比べてワクチン接種が遅々として進まないが、そうした状況を韓国メディアが糾弾。韓国紙「京幾日報」が、朴成彬アジア日本政策研究センター長による見解を掲載した。
(中略)朴教授は最初にこう指摘する。 「まずワクチンの供給不足だ。日本は、米国、英国などの欧米諸国とは異なり、まだ自国でワクチン開発に成功していない。独自のワクチン開発に失敗しても海外から十分に輸入できれば問題は解決するが、米国などでワクチンの自国優先主義が強まりワクチン輸入が遅れている」。
また、日本のワクチン認可における制度の問題点も挙げ「海外での臨床とは別に、日本で独自の臨床試験を進めていることが遅れの理由だ。海外で開発されたワクチンの自国臨床を省略し、すぐにワクチン許可手続きを進めれば供給不足の解決に役立つだろう」。安全面を重視するあまり、緊急時のスピード感の欠如が供給遅れを招いているとの指摘だ。
「次に、ワクチン接種システムの問題がある」と朴教授は続ける。 「日本政府の役割はワクチンを調達して自治体に送ることまでで、実際のワクチン接種は自治体が実施する。最近、日本政府は接種の速度を高めるために東京と大阪に大規模接種センターの設置を決定したが、それでも接種は自治体が担う。
政府は急いで接種管理データベースを構築しているが、自治体のシステムとの連携がスムーズではない。つまり、ワクチン接種率を上げるには接種者の管理のデータ化、デジタル化が重要である」とデジタル化の遅れがそのままワクチン接種にも影響が出たというわけだ。
(中略)これまで感染対策においては韓国のほうが成功している感は否めないだけに、検討すべきポイントになりそうだ。【5月4日 東スポ】
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【逆転を狙う「1日100万回」 足を引っ張る「慎重」「安全第一」「着実に」という責任回避の風潮】
こうしたワクチン接種遅れへの批判に危機感を感じたのでしょう、菅首相は「1日100万回」を目指すそうです。
****ワクチン1日100万回、首相「先頭に立って実行」…東京五輪「対策徹底で実現可能」****
(中略)新型コロナワクチンの65歳以上の高齢者向け接種を巡っては、「私自身が先頭に立って加速化を実行に移す」と強調し、1日100万回の接種を目指す方針を表明した。(後略)【5月7日 読売】
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「インフルエンザのワクチン接種は平均で1日60万回くらいできていると報告を受けている。体制としては今回の方がはるかに広く取っているので、接種を始めて本格的になり、慣れてくるとそういうことも十分可能だ。」【5月7日 NHK】とも。是非ともそうあってほしいと願っています。
ワクチン接種の遅れ、供給不足、そこに至った政府責任・・・言いたいことは山ほどありますが、一番問題なのは、昨今の日本の官民含めた「慎重すぎる」風潮(それは「責任逃れ」でもあります)。
「安全第一」を名目に何もしなければトラブルも起きず、責任も問われない。しかし、その遅れによる犠牲者の増加というリスクを考えているのか?
自治体にワクチンが届いているのに、副反応のアレルギー症状が出た際の医療体制が準備できないので、接種開始は2週間後・・・そんなニュースも。
平時では尊重されるべき「慎重さ」ですが、ウイルスとの戦い、時間との勝負にあっては、多少の混乱・トラブルは覚悟の上で、万難を排して進める馬力、「走りながら考える」姿勢が必要でしょう。
【都道府県単位にとらわれた対応、民間医療機関の責任回避で起きている「医療崩壊の危機」】
二つ目の「医療崩壊の危機」の問題。
これについては、森田洋之医師の指摘に納得がいきます。
****コロナ「医療逼迫」に「国民が我慢せよ」は筋違い****
森田洋之医師が語る「医療の不都合な真実」
(中略)北海道夕張市立診療所長としての体験などから日本の医療制度や実態を調査し、『日本の医療の不都合な真実』の著書もある森田洋之医師に話を聞いた。森田医師は「医療逼迫」「医療崩壊」の原因は日本の医療制度にあり、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言によって国民の活動を制限するのは筋違いであると指摘する。
日本の医療では「市場の失敗」が起きている
――(中略)問題は日本の医療制度のほうにあるとのことですね。詳しくお話しください。
まず、日本の感染者数は現在も、人口比で欧米のほとんどの国々よりも1桁少ない。一方で、1人当たりで見た病床数は世界で最も多く、医師の数も欧州主要国よりはやや少ないけれども、アメリカとは変わらない。
それでなぜ医療逼迫が起きるのか。日本の医療システムは、医療提供を国で管理するのではなく各病院の自由に任せているため、経済学で言う「市場の失敗」が起きているのです。患者数という需要側にもまして、医療の提供という供給側に問題があるのです。
今、大阪府で感染が増えて医療逼迫の状態にある、このままでは医療崩壊が起きると吉村洋文知事は訴えています。たしかに大阪だけを見ればそうなのかもしれませんが、一歩下がって全体を俯瞰すると別の景色が見えてきます。
厚生労働省が発表している全国の重症者数や病床数を見てみましょう。4月14日時点の発表で、(中略)となりの鳥取県では47病床のうち重症者ゼロ、島根県も25床あって重症者ゼロ、岡山は43病床のうち4人重症者がいますが、広島は48あってゼロ、山口県は重症者向けの確保病床数が124と兵庫よりも多いのですが、重症患者はゼロです。
こういう状況ならヘリコプターで患者を隣県に運んでもいいし、逆に応援として、医師や機材が他県から来てもいい。ところが、そんな話にはまったくならない。
日頃から病院同士は競争関係にあるので、協力関係になれないからです。都道府県の間はおろか、隣の病院とも協力関係にはなれません。まったく融通が利かない状態です。
病床も機材も新型コロナには数%しか使われていない
――そもそも新型コロナ患者を受け入れる病院が少ないですよね。今年に入って、国は新型コロナの重症患者1人受け入れに1500万円の支援金を出し、自治体からの支援金も上乗せされています。ですが、いっこうに受け入れは増えませんでした。
全国の日本の病床数は150万もあります。そのうち、新型コロナ患者を受け入れている病床数は6万で4%しかない。これでも実は増えてきたほうで、1年前の感染第1波で緊急事態宣言を行ったときには、0.7%しか使っていませんでした。
日本の病院の経営上の理由から常時満床を目指しています。そこには、本人の望む人生かどうかを別にして慢性疾患や終末期の高齢者を病院に収容しているという大問題があります。
だから、病院の多くは新型コロナのために病床を空けたがらない。感染症は波があるので、患者数が急激に増えて、また、急激に減る。それに対応していたら、経営が成り立たないからです。
重症患者に使われる人工呼吸器の数は全国推計で4万5000台ですが、学会の公表データによると、そのうち4月18日時点で新型コロナでの利用は414台、1%弱しか使われていません。
今回の新型コロナではECMO(エクモ)と呼ばれる人工肺のようなものが知られていますが、これは全国2200台のうち、新型コロナに対しては44台が稼働中で、大阪府で11台使っています。新型コロナ患者への使用率は2%です。
これだけ日本中で大騒ぎしている新型コロナですが、人工呼吸器やECMOを使うような重症者でさえも日本の医療提供能力の数%しか使っていないということです。
欧米は日本の何十倍も感染者・死亡者がいたのですから、医療負荷はもっともっとかかっていたでしょう。それでもなんとか持ちこたえていました。なぜ、これで日本は医療崩壊と騒がれるのでしょうか。しかも、持っている機材の数が推計値なのは、病院が独自に機材の調達を行っているからで、正確な数を国として把握していないのです。
政治が医療を管理できず、国民に責任を転嫁
海外の先進国ではどうか。欧州では病院といえばほとんどが国立・公立で、国が全体を管理しているので、病床の融通ができるんです。EU(欧州連合)ですから、国をまたいだ患者搬送もあった。欧米の場合、新型コロナによる病床の使用率は状況に応じて大きく増えたり減ったりしている。減らすことも大事なんです。緊急事態で空けさせるわけなので、急がない手術などを延期していますから。
つまり、多くの先進主要国では病院を警察や消防と同じ国の安全保障として位置づけているのに、日本では病院の自由に任せている。競争原理によって医療提供をコントロールしようとしているのです。だから、第1に協力関係ができない、第2に緊急事態に迅速に対応できないという「市場の失敗」が起きてしまう。
都道府県単位で悩んでいること自体おかしいでしょう。感染症の拡大は国としての安全保障と考えるべきです。それなのに、九州によその国から敵が攻めてきたら、本州は知らんぷりしてるみたいな、そんな馬鹿な話になっているんです。日本全国で機動的に対応すれば医療逼迫でも何でもない。医療崩壊ではなくて医療資源も医療システムも管理できていないだけの話です。
最前線の現場で歯を食いしばって懸命に働いていらっしゃる医師・看護師の方々の尽力に報いるためにも、人員や物資などの医療資源を適切に配備する後方支援システムを早急に立て直すべきなのです。
ですが、医療業界が各病院の自由を原則にした市場原理を基本に構築されているため、国も地方自治体もまったく動きが取れないというのが現状なのです。(中略)
医療業界はリソースのほとんどを新型コロナに割いていない。一方で、政府は外出するなとか外食するなとか3密を避けろとか、国民にばかり我慢を強いて活動制限を行っている。責任の所在が国民にあるかのようにすり替えているんです。
自分の専門領域のみの視点で語る医者の意見、専門家の意見に政治家が頼っていることが大きな問題です。最前線の医療現場で対応している専門家の方々の頑張りは本当に貴重でその意見は尊重すべきですが、かといって最前線の兵士が全体の戦況を把握し、国全体の未来を見通した戦略をたてられるか、というとそれは別の話です。
国として全体の武器弾薬に相当する医療設備や医療機器や薬を把握し、さまざまな知見を総合して指揮を執る指揮官がいないといけない。
テレビや新聞はコロナ対応の病院だけを報道
――(中略)公立病院がブラック勤務といわれる一方で、開業医の多くは「熱のある方は電話でご相談ください」と張り紙して保健所に回してしまっています。
本当に、おかしなことです。皆、全体像をちゃんとみていません。テレビや新聞は新型コロナに対応しているごく一部の病院、対応に追われている病院の医師や看護師さんの苦境だけを報道しているので、国民の多くが誤解してしまう。最前線の現場で頑張っていらっしゃる医療従事者の方々には本当に頭が下がりますが、それが医療業界全体のイメージとして報道されていることにはたいへん違和感があります。(中略)
「医療全体主義」が日本を支配してしまっている
――ところが、与党以上にゼロコロナ志向のテレビや新聞、さらに野党が、新型コロナの被害や専門家の活動制限を主張する言葉ばかりを並べ立てる。国民を脅して、与党を国民に活動制限を強いる方向へ駆り立てているのが実態です。
コロナ禍の前から、医療偏重という問題がありました。過剰診療や生活の質を無視した苦しい延命治療など、医療に人間の生活や人生までもが支配されてしまうという問題です。
今まではそれが病院の中にとどまっていました。しかし、今回の新型コロナをきっかけに医療偏重が社会全体に広がった。医療界が「命を守る」「○○しないと死ぬ」と脅して、そうした恐怖で人々や世界を動かせることが証明されてしまった。まさに「医療全体主義」が日本を支配しているのです。【4月22日 東洋経済ONLINE】
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(大幅に「中略」した関係で、真意が伝わりにくくなっていますので、原文にあたってください)
民間医療機関の「コロナ患者受け入れは、人員・設備的に難しい」という主張がとおる一方で、飲食業などは休業を余儀なくされるというのは、「筋違い」の感がします。
「専門家」の医療という狭い領域の視点ではなく、社会・経済を止めることのリスクを含めた社会全体にとって何が大事かという判断が政治家に求められています。
(菅義偉首相の「ぶら下がり」会見。メディアが官邸サイドの機嫌を損ねることを恐れているのも過剰に尊敬語を使う背景だという 【4月21日 AERAdot.】)
【報道の自由度、67位】
世界には北朝鮮・中国のように「報道の自由」など最初からない国も少ないですし、香港やミャンマーのように急速な悪化が懸念されている国もあります。
****警察批判番組制作者に有罪、香港 記者協会「報道の自由への弾圧」****
香港で2019年に抗議デモ参加者が襲撃された事件を巡り警察を批判的に報じた公共放送RTHKのドキュメンタリー番組制作者が、事件関係車両の所有者を割り出そうとナンバー照会をしたことが「道路交通条例」違反に問われた問題で、裁判所は22日、制作者に罰金6千香港ドル(約8万円)の有罪判決を言い渡した。
香港記者協会は、ナンバー照会は通常の取材手法だとして、制作者の摘発は「報道の自由への弾圧だ」と批判している。
有罪判決を受けたのは、フリーの番組プロデューサー、蔡玉玲氏。昨年11月にこの問題で逮捕された後、番組制作から外されている。【4月22日 共同】
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****ミャンマーで邦人記者拘束 軍政批判、自宅近くで連行****
国軍がクーデターで全権を握ったミャンマーで18日夜、同国在住のフリージャーナリスト北角裕樹さん(45)が最大都市ヤンゴンの自宅近くで治安当局に拘束された。地元メディアが報じた。北角さんはクーデターに抗議するデモの取材を続け、SNSで情報を発信し、日本のメディアにも寄稿していた。
国軍は2月1日のクーデター以降、外国人記者を含めジャーナリストを相次いで拘束し、メディアに対する告発や免許剥奪で言論弾圧を強化。インターネットの利用も大幅に制限している。北角さんは元日本経済新聞記者。2月26日にもデモ取材中に拘束されたが、同日中に解放されていた。【4月19日 共同】
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そうした国々に比べて、日本は「報道の自由」が保証されている・・・・というのが、私を含めて一般的日本人の感覚だと思いますが、国際NGO「国境なき記者団」が毎年発表しているランキングでは、日本の報道自由度はあまり芳しい評価ではありません。
****報道の自由度、67位 「菅氏は改善へ何もしていない」****
国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は20日、2021年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち日本は67位(前年66位)だった。
日本の状況について、政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」と批判した。
クーデターで国軍が権力を握り、批判的なメディアの免許が取り消されているミャンマー(140位)については、治安部隊による大規模な拘束を逃れるため、事実を伝えようとする記者が隠れて働くことを強いられていると指摘した。
1位は昨年と同じノルウェーで、4位までをフィンランドなど北欧諸国が占めた。米国は44位(昨年45位)で、日本は主要7カ国(G7)の中で最下位。中国は昨年と同じ177位だった。【4月20日 朝日】
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この手の指標は、「幸福度」にしても「ジェンダー格差」にしても、複雑な事象が絡み合い、いろんな側面がある現実に対し、あくまでも一定の基準で構成された「指標」ですから、その数値・順位がどこまで全体像を反映しているかは、当然ながら限界はあります。
ただ、その指標による評価が低いということであれば、その原因について検討し、改善の参考にすべきものでしょう。
「国境なき記者団」は例年、記者クラブ制度が「フリーランスや外国人の記者を差別し続けている」ことを指摘していますが、この点は、一般人にはいまひとつピンとこない問題にも思えます。
上記記事があげている、“政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」”ということに関しては、わかる部分も。
【欧米の先進諸国と同水準だった時期も 福島第一原発事故以後、「発表ジャーナリズム」の問題が顕在化】
日本のランキングは、もとからこんな低かった訳ではなく、以前は欧米の先進諸国、アメリカやイギリス、フランス、ドイツと変わらない中堅層やや上位を保ち、最高順位は11位だったそうです。
それが低下したのは、東日本大震災と福島第一原発事故の発生後の報道事情の変化を受けたもののようです。更に特定秘密保護法の成立が。
下記記事は、そのあたりを解説した2015年の記事です。
*****「報道の自由度」ランキング、日本はなぜ61位に後退したのか?*****
(中略)
日本の評価は?
日本のランキングは2002年から2008年までの間、20位代から50位代まで時代により推移してきたが、民主党政権が誕生した2009年から17位、11位とランキングを上げた。
2008年までの間は欧米の先進諸国、アメリカやイギリス、フランス、ドイツと変わらない中堅層やや上位を保っていたが、民主党政権誕生以降、政権交代の実現という社会的状況の変化や、政府による記者会見の一部オープン化もあり、2010年には最高の11位を獲得している。
しかしながら、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の発生の後、2012年のランキングでは22位に下落、2013年には53位、2014年には59位を記録した。
そして今年2015年にはついに過去最低の61位までランキングを下げる結果となった。自由度を5段階に分けた3段階目の「顕著な問題」レベルに転落した状況である。
なぜ日本の順位は後退したのか?
世界報道自由度ランキングのレポートでは、日本の順位が下がった理由を解説している。ひとつは東日本大震災によって発生した福島第一原発事故に対する報道の問題である。
例えば、福島第一原発事故に関する電力会社や「原子力ムラ」によって形成されたメディア体制の閉鎖性と、記者クラブによるフリーランス記者や外国メディアの排除の構造などが指摘されている。
戦争やテロリズムの問題と同様に、大震災や原発事故などの危機が発生したときにも、その情報源が政府に集中することにより、「発表ジャーナリズム」という問題が発生する。
政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する姿勢である。
また、同様に戦場や被災地など危険な地域に自社の記者を派遣しないで、フリー・ジャーナリストに依存する「コンプライアンス・ジャーナリズム」の問題も重要である。メディアとしての企業コンプライアンスによって、危険な地域に自社の社員を派遣できないという状況から、危険な地域に入るのはフリー・ジャーナリストばかりになるという構造的問題である。
このような日本のメディアの状況下で一昨年に成立した特定秘密保護法の成立が日本の順位下落に拍車をかけた形である。
特定秘密保護法の成立により、戦争やテロリズムに関する特定秘密の存在が自由な報道の妨げになるという評価である。
日本が置かれる国際状況や、日本国内の政治状況が大きく変化している現在こそ、日本のメディア、ジャーナリズムに自浄作用と改革が求められている。【2015年7月15日 日本大学大学院新聞学研究科】
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【政府や総理の機嫌を損ねることを極端に恐れているメディア】
政府が記者会見で発表した情報をそのまま鵜呑みにして報道する姿勢「発表ジャーナリズム」が生んでいる、政権とジャーナリズムが癒着し、ジャーナリズムが政権におもねる空気感を示すものが、下記記事が指摘するような日本的雰囲気でしょう。
****「総理がおっしゃる」テレビの過剰な尊敬語に違和感 メディアと「対等」なのになぜ?****
テレビの報道番組や情報番組では政府や総理大臣に尊敬語がよく使われる。背景にはメディア側の萎縮のほかに、ツイッターなどSNSの影響もある。AERA 2021年4月26日号で掲載された記事を紹介。
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「『総理がおっしゃっている』って、平気でテレビで言うようになったのはなぜだろう」
今年1月、ツイッターにこう投稿したのはテレビユー福島の記者、木田修作さん(35)だ。このところ、テレビの報道番組や情報番組でキャスターや司会者、コメンテーターなどの出演者が政府や総理大臣に言及する際、「尊敬語」を使うことが常態化していることに大きな違和感があるという。
確かに多い。たとえば、「総理がご判断されるのでは」「大臣はこうお考えになっておられる」などの言い回しがテレビからよく聞こえてくる。これは以前にはなかったことだ。木田さんは言う。
「私たちメディアの大事な仕事は『権力の監視』です。政治家に過剰に尊敬語を使う必要はなく、『総理が話していました』で十分なはずです」
これはメディア側の問題にとどまらず、視聴者である私たちにも無関係ではないと、木田さんは懸念する。
「総理大臣や政府を尊敬の対象にしてしまうと、政治や政策に対する意識、声を上げる姿勢にも当然、影響があります。コロナ禍で特別定額給付金について番組で言及する際の『給付金をもらう』も同じ意味で気になります。税金が財源ですから、『もらう』ではなく『受け取る』が正しいはず。私たちの意識への負の影響という点で、過剰な尊敬語と根っこはつながっていると思いますね」
メディアの尊敬語に同様の違和感を持つのは、戦史研究家の山崎雅弘さん(54)だ。
「総理と『対等だ』という認識がメディアにないと、そもそも権力監視なんてできません。怖いのは、私たちの側も尊敬語に慣れてしまい、『国民は政府や総理よりも下なんだ』と刷り込まれてしまうことです」
■戦う前から負けている
権力の監視どころか、メディアが戦う前から負けている──。そんな状況は2012年12月に始まった第2次安倍政権からだと、山崎さんは考えている。
14年6月、NHKのニュースでキャスターが「政府がおっしゃいましたけど」と話すのを聞き、「40数年この国で生きてきて、政府に敬語を使うニュースキャスターを初めて見た」とツイッターに投稿している。
「驚きました。感じるのは、政府や総理の機嫌を損ねることをメディアが極端に恐れているということです。メディアは第2次安倍政権以降、『権力と対等』でなく、『殿様と下僕』のような主従関係に安住するようになりました。官邸側に完全に仕切られてしまっている現在の総理会見もその象徴です」
これに加え、山崎さんが「気持ち悪い」と話すのが、「させていただく」という言葉の氾濫(はんらん)だ。本来そこまで言う必要はないのに、「上の人の機嫌を損ねてはいけない」「自分が謙虚であることをアピールしないと」という「萎縮の心理」が社会全体に広がっていると、山崎さんは見る。
「そんな萎縮の状況と、政府に尊敬語を使うことは根っこがつながっています。加えて、『権力を監視するための批判は、与党への攻撃だ』という勘違いをする人が増え、本来の仕事を果たすメディアに対し、『偉そうだ』などと筋違いの批判をしてしまう。メディアの萎縮には、国民の側にも責任の一端があるんです」
■怖いSNS上での批判
それはツイッターなどSNSの影響も大きいのではと考えているのが、政治記者として30年以上の経験があり、テレビの報道番組などでコメンテーターとしての出演も多い毎日新聞専門編集委員の与良正男さん(63)だ。自身はテレビでコメントする際、政府や総理に尊敬語は使わず、かつ必ず「菅さん」と呼ぶ。
「私もたまにエゴサーチ(インターネット上で自分の名前を検索)すると、『なんで与良は一国の総理にさん付けなんだ。何様だと思ってる!』と。そういう声はテレビ局にも山ほど来るんです。それをアナウンサーやコメンテーターがすごく気にする結果、『尊敬語を使って、リスペクトしているふりをしておいたほうが無難だ』となる。そんな意識は間違いなくあると感じています」(後略)(編集部・小長光哲郎)※AERA 2021年4月26日号より抜粋【4月21日 AERAdot.】
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【実像を伝えていない政治メディア】
“政府や総理の機嫌を損ねることをメディアが極端に恐れている”“、『権力と対等』でなく、『殿様と下僕』のような主従関係に安住する”という政権とメディアの関係は、“政治メディアは実像を伝えていない”ことにも。
“政治メディアは実像を伝えていない”ということ自体、ものごとには公にできないこと、されないこともあるというのは昔からあることでしょうが、メディアが萎縮・忖度する状況で、その弊害が増幅されているようにも。
****『菅義偉とメディア』著者は元菅長官番の現役記者 永田町で感じた違和感、赤裸々に****
元新聞記者で、いま大学でジャーナリズムとアフリカ研究を教える筆者による新連載。第1回は記者会見での突っ込みが足りないなどと批判が絶えない政治取材の現場について、楽屋裏を明かす本を著した現役記者に直撃インタビューしました。
菅政権の発足から3カ月後の2020年12月、日本政治に関する1冊の本が出版された。『菅義偉とメディア』(毎日新聞出版)。筆者は毎日新聞の秋山信一記者。
2017年4月から3年半にわたって政治部に在籍し、このうち2019年10月からの1年間は、安倍政権の官房長官だった菅氏に「番記者」として張り付いた。
(中略)私はこのほど秋山氏にインタビューし、出版の背景や日本の政治メディアについての考えを聞いた。秋山氏の言葉から見えてきたのは、現場で取材している記者の「個」が欠落した日本の政治報道の病弊である。(中略)
■政治部を「取材」した
白戸 取材対象の政治家との癒着、番記者の横並び体質、生ぬるい批判精神――。近年、国政を取材する日本の政治メディアに対し、そうした批判が数多く寄せられています。しかし、批判の多くは政治部の外の世界から寄せられているものであり、政治部の記者、しかも官房長官番のような政治部の中心に位置する記者自身の肉声が実名で公にされることはまれです。なぜ、このような本を書こうと思ったのですか。
秋山 エジプトから帰国し、政治部に配属された初日から、政治部の仕事の仕方に強い違和感を抱きました。記者になって14年目にして初めて政治部に配属されたのですが、それまでの地方支局、社会部、海外特派員の仕事では感じたことのないストレスでしたね。
それで、以前政治部に在籍したことのある記者たちに「政治部っておかしくないですか」などと愚痴を言っていたのですが、実は多くの元政治部記者が、私と同じような違和感を政治メディアに抱いていたことを知りました。
そこで、希望して政治部に配属されたわけでもなかったので、政治家を取材するだけではなく、政治記者そのものを観察対象にすることにしたのです。政治部は観察対象としては大変興味深い組織でした。
白戸 どのような違和感、ストレスでしたか?
秋山 一番の問題は、取材をした現場の記者が自分の言葉で記事を書けないことです。社会部での事件取材でも海外特派員の仕事でも、自分で歩き、人に話を聞き、自分で考えて記事を書いてきました。
ところが、政治部では、記者として当たり前だと思っていた、そういうことが全くできなかった。現場の若い記者は取材して膨大な情報を持っているにもかかわらず、それを積極的に書かないし、また、上の人間は彼らに書かせようともしない。
記者は膨大な情報を集めているのですが、いざ記事を書いてアウトプットしようとすると、とにかく政治部内にハードルが多過ぎて、結局、読者の目に触れる段階では、ありきたりの内容で構成された定型的な記事になってしまうのです。
政治部の記者たちは、どのタイミングでどのような記事を書くかということまでも自分たちで決めてしまっており、その結果、自縄自縛に陥り、取材した政治家や政界の出来事の実像を世の中に十分に伝えきれていないと思いました。
■取材したことを伝えていない?
白戸 政治メディアは実像を伝えていない、ということですか。
秋山 政治部の世界では、若手記者が永田町の現場で政治家を取材していますが、彼らは原稿を書くのではなく、政治家の言ったことをメモにしてキャップやデスクといった上司に報告し、キャップやデスクは、そのメモを基に作文します。
キャップやデスクといったベテラン記者は、記事の中で使う語句や言い回し、記事の書き方のパターンを知っているので、メモの中から言葉を選んで定型的な文章を作文し、それが読者の目に触れているわけです。(中略)
秋山 政治部の取材では、キャップやデスクが、現場の若い記者から上がってきたメモに基づき、定型的な作文を書くようなことを続けているので、記者が現場で感じたことや生々しい体験が、記事になった段階では全く反映されなくなることが日常化しているのです。
現場の記者が取材を通じて「これを書きたい」「これは書かなければならない」との思いを抱き、その思いに基づいて記事を書かなければ、現場で起きている本当のことは読者に伝わりません。(中略)
■集めた情報、もっと国民に発信を
白戸 政治メディアはこれからどうしたらよいと思いますか。
秋山 いま、政治部記者の記者会見での質問の仕方が生ぬるい、などという批判があります。追及の甘さは問題ですが、きつい口調で政治家を問い詰めていけば真実が出てくるのかというと、そんな単純な話ではない。問題は、先ほどお話しした通り、情報をアウトプットしていくプロセスにあると思います。ジャーナリズムは取材して情報を積み上げて、それを伝えていくということの繰り返しですが、政治部は国民に向けて、あまりにも情報を出していません。記者はそもそも報道するために情報を集めているはずです。
永田町という狭い空間に、これほど大勢の記者が密着している日本メディアの政治部のような組織は、世界にも例がないように思います。政治部記者たちは実に様々な情報を持っており、面白いことをたくさん知っています。もっと取材した現場の人間に原稿を書かせないとだめだと思います。現場で取材している若手記者の裁量を増やすとともに、若手記者が取材したことを上手に表現できる力量を向上させることも大事だと思います。【4月22日 白戸圭一氏 GLOBE+】
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(【2月9日 ロイター】政府備蓄米 新型コロナ禍で食事に困窮する者が増加 日本政府は備蓄米放出に踏み出したが・・・)
【新型コロナで急増する極貧層】
周知のように、新型コロナによって、貧困層はリモートなどの防御対策が難しい職種にについていること、居住環境の衛生上の問題などによって、健康上の被害を受けやすい立場にありますが、同時に、経済的にも失業や景気悪化の影響を被りやすい立場にあります。
****新型コロナで来年末までに1.5億人が極貧となる可能性=世銀****
世界銀行は7日、隔年リポート「貧困と繁栄の共有」を発表し、新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)により、2021年末までに1億5000万人が極度の貧困に陥る可能性があるとの見解を示した。そうなれば、過去3年以上にわたる貧困撲滅努力が無に帰すことになる。
リポートは、今年中に1日の生活費が1.90ドルを下回る極貧人口が8800万─1億1500万人増加すると推定。2021年には、その人口はさらに1億1100万から1億5000万人に膨れ上がる可能性があるとしている。
予想の通りになれば、今年極貧状態に陥る人口は世界全体の9.1─9.4%となり、2017年の9.2%とほぼ同水準となる。その場合、約20年間で初めて極貧率が上昇することになる。
2019年の極貧率は推定8.4%程度で、新型コロナウイルス感染拡大前には、2021年までに7.5%に低下すると予想されていた。
リポートは、迅速かつ持続的な政策が講じられなければ、2030年までに極貧率を3%に抑制する長期目標は達成不可能になるとみられるとした。
世銀のマルパス総裁は声明で、「新型コロナと世界的な景気後退(リセッション)により、世界人口の1.4%が極貧状態に陥る可能性がある」と指摘。「これは開発の進展と貧困撲滅における深刻な後退だ」と警告した。【2020年10月8日 ロイター】
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上記は昨年10月時点の記事ですが、その後のワクチン接種の開始などで、状況は好転したのでしょうか?
ワクチン自体が先進国間の争奪戦で、貧困層の多い途上国には十分に供給できない状況ですので、あまり期待はできないのかも。
【先進国・日本の相対的貧困層も更に困窮】
新興国や途上国に多い絶対的貧困だけでなく、先進国にも存在する相対的貧困も新型コロナで状況は悪化しつつあります。
****先進国、コロナで広がる貧困****
(中略)
■世界の貧困人口、一転増加見通し 「最悪の場合、来年7.3億人」
貧困は新興国や途上国だけの問題ではない。先進国でも格差が広がり、「相対的貧困」として問題になっている。
相対的貧困の状態にあたるのは、手取り収入を世帯人数で調整した等価可処分所得を高い順に並べた時に、中央の半分よりも低い額で暮らす人たちだ。困窮していることに気付かれず、支援が届きにくいことが多い。
「先進国クラブ」ともいわれる経済協力開発機構(OECD、37カ国)の加盟国では、平均で11・7%(2016年)の人々が相対的貧困の状態にある。
厚生労働省によると、日本は平均よりも高い15・8%(18年)。シングルマザーなどひとり親世帯では48・2%に上っており、不安定な雇用にある人や女性など立場が弱い人ほど困窮している。
国際労働機関(ILO)は、新型コロナの影響で、今年の4~6月に世界で労働時間の17%(4億9500万人分のフルタイムの労働時間に相当)が失われたと推計。先進国を含む全ての地域で1~3割の減少となったとみる。
世界のフードバンク団体でつくるグローバル・フードバンキング・ネットワーク(本部・米国)が5月、世界44カ国にある47のフードバンク団体に実施した調査では、全団体で緊急支援の需要が増加しており、「91%以上増えた」と答えた団体が37%に上った。先進国でも英国やニュージーランドでは需要が8割以上増えていた。(中略)
貧困は飢餓につながるだけでなく、医療や教育を受けられない人が増えたり紛争のきっかけになったりもする。女性や立場の弱い人への影響が大きく、世代を超えて格差が固定化することも問題だ。
東京都立大の阿部彩教授(貧困・格差論)は「新型コロナの影響で先進国でも貧困率が上がることが危惧されている。日本では非正規雇用の人が雇い止めにあったり、労働時間が減らされたりして、賃金の差以上に格差が広がるだろう」と指摘する。
「コロナ禍で命を守るという言葉がよく使われるが、食料やライフラインは命を守ることそのものだ。緊急時のために、まずは平時のセーフティーネットを強化しなくてはいけない」【2020年10月18日 朝日】
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【日本の「見えにくい」貧困 権利を行使しづらい「非常に日本的な仕組み」も 直撃するコロナ禍】
日本は従前から、経済的格差が比較的小さい平等社会だと言われています。そのことは、日本が世界に誇るべき優れた点でしょう。
中国メディアも日本社会のそうした特性をしばしば指摘しています。
“どうして日本は、世界が羨むほど貧富の差が小さいの?”【2月5日 Searchina】が取り上げている中国ポータルサイト・百度の記事は、その背景として、教育、医療制度、農村・農業対策、各種福利厚生制度などを取り上げています。
しかし、そうした日本にあっても非正規雇用の拡大、ワークングプアやシングルマザーの増加など、厳しい経済環境に置かれる者は増加しており、新型コロナはそうした経済弱者に更に大きな試練をもたらしています。
最も先端的な事象としては、昨年の自殺者の増加にも、そうした新型コロナ禍に襲われた貧困層の実態が反映していると思われます。
****コロナ禍で見えてきた「豊かな日本」の隠れた貧困*****
新型コロナウイルスの感染拡大のため貧困に陥る日本人が増えている。そんな人々が東京で開かれた支援イベントに集まり、食料品を受け取った。
「仕事がない。まったくない」。列の中にいた男性がAFPの取材に答えてくれた。「ゆういちろう」とだけ名乗り、最近まで建築作業の仕事をしていたという。寒い冬の首都の路上に立ち、握り締めた小さなビニール袋には生活必需品が詰まっていた。
「(日本は)表面的には助けているようにはなっているかもしれないですけど、本当に困っている人は駅とか段ボールで寝ていたり、(数は)多いです」と言う。「マスコミには報道されていないけれど、だいぶ餓死して大変なことになっています」
世界第3位の経済大国・日本では、新型コロナウイルスの感染拡大ペースはこれまでのところは比較的穏やかだ。死者数は(2月1日時点で)およそ5800人、他国で行われているような厳格なロックダウン(都市封鎖)は実施されてこなかった。失業率も3%以下で、社会のセーフティーネットが盤石という評判のある日本は、コロナ禍の経済面での影響を難なく乗り切ると見られている。
しかし民間支援団体は、経済的に最大の弱者の困窮は続いていると指摘する。統計からは、高い不完全雇用率や低賃金の非正規雇用者の苦難をくみ取るのが難しい。
「コロナの影響で失業した人や、収入が減った人が増えている」と語るのは、反貧困NPO「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長だ。「その中で、もともとぎりぎりでやっていた人、ワーキングプア(働く貧困層)の人が直撃されている」
就業者の40%前後が、低賃金で契約を簡単に解除できる「非正規」の仕事に就いている。しかし、生活保護を受ける資格がある人々の中には、福祉制度を利用することへの抵抗感や偏見に悩まされている人が多数いる。
ゆういちろうさんは、役所をたらい回しにされた揚げ句、援助の対象となるのは子どものいる人だけだと告げられたと話した。
「大人は結構、ご飯を食べられてない人がいっぱいいます」
■「綱渡りの綱がコロナで切れた」
日本では、200万円以下の年収で生活する人が1000万人を超え、6人に1人は「相対的貧困」に該当する。これは、所得が国内の等価可処分所得(手取り収入などを世帯人数で割って調整したもの)の中央値の半分(貧困線)に満たない状態のことで、国の一般的な生活水準と比較したときの困窮者人口の割合を示す指標だ。
経済学者によると、過去6か月で50万人が失業している。その波及効果が国内に広がっていると市民団体は指摘する。
NPO法人「TENOHASHI」は、東京の副都心・池袋でホームレスの人々などに食事や衣類、寝袋の他、医療援助を提供している。
同NPOの清野賢司代表理事は、すでに困窮していた人々は綱渡りの状態にいたが、コロナ禍で「その綱が切れた」と言う。
経済的苦境は、昨年末にかけて見られた自殺数の増加の一因と思われると専門家らは警告している。
日本では失業率が1%上昇すると、年間の自殺者がおよそ3000人増える、とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は指摘する。
特に経済的困難に直面しているのが女性たちだ。多くの女性は、小売り・飲食・宿泊業など、コロナの打撃を受けている業界で非正規雇用で働いている。
清野氏のNPOが援助している人々のうち、女性の割合は20%以下だという。だが、援助を望みながら踏み出せずにいる女性はもっと大勢いるとみている。福祉を受けると「子どもが胸を張って生きられなくなる」と感じる女性もいると清野氏は述べた。
■「非常に日本的な仕組み」
統計によると、公的な援助を申請する人の数は増えている。しかし、サポートセンター「もやい」の大西理事長によると、「恥ずかしさやスティグマ(不名誉)の問題」で多くの人が福祉制度の利用をためらっている。
日本の規則では、公的援助を受ける前に、親族による扶養が優先して行われるべきとされている。そのため、福祉の利用を申請すると、本人の親族にその旨が伝えられる。
「非常に日本的な仕組み」だと大西氏は断言。誰にでも福祉を利用する法的権利があるのに、社会がそれを認めるとは限らないのだと続けた。
日本の貧困レベルが先進国を含む他の国と比べてはるかに低いのは、専門家も指摘するところだ。だが、その統計は、食料と避難所を必要とする個人にとっては何の意味も持たない。
池袋で援助を受けていたある男性は、建設現場で得る月給が2万円を切り、手元の現金はあと1回の家賃で消えると話した。「路上(生活)はさすがに。今は寒いと思います」と匿名条件で語った。「(これから)どうするか。まだ、ちょっとはっきりしないです」 【2月4日 AFP】
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上記にもあるように、日本の貧困は「見えにくい」という特徴があります。
****貧しさ、見せない、見ない日本 ロバート・キャンベルさん(日本文学研究者)****
(中略)米国は「持てる者」と「持たざる者」がはっきり分かれた社会です。ただ、所得で住む地域が違って、近くにお金持ちがいなかったので格差は感じませんでした。
一方で、日本の貧困の特徴は「見えない」ことだと思います。私は日本に来て35年ほどになります。留学した福岡から1990年代に東京に引っ越した頃、メディアは「十分に食べられない子どもがいる」と伝えているのに、そんな子がどこに暮らしているのかわからないと強く感じました。
お金がないことを知られると、子どもが学校でいじめられたり、就職で不利になったりするのではないか。そんな不安を感じさせる社会空間で、人々は貧しさを見せないし、あえて見ないようにもしているのでしょう。
この春から、コロナ禍で人々の視界が少しずつ狭くなっているように感じます。生活が安定した人たちはいいかもしれませんが、何かあったら立ちゆかなくなる人もいます。そんな人たちの声が届かなくなり、存在がさらに見えなくなってしまうのではないかと危惧しています。【2020年10月18日 朝日】
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【「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」】
「見えにくい」だけに、行政に当たる者は「耳を澄まし、目を凝らす」必要がありますが、現実はその逆。
明らかに見えている問題すら「あえて見ないようにもしている」ようにも。
****コロナ禍で「1日1食」、増える困窮者 備蓄米開放も不十分****
新型コロナウイルス禍の長期化で収入が減り、その日の食事にも困る人が増えている。支援団体が無償提供する食事の利用者はこの1年で倍増、日本政府は備蓄米の開放に動き出した。
それでも行政の動きはまだ鈍く、食を巡るこの国のセーフティネット(安全網)のぜい弱さがコロナであぶり出された格好だ。
<食糧支援の利用者、1月は高止まり>
都内の大学に通う4年生のあゆみさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は昨年の夏以降、1日1食の生活を続けている。
弟や妹の学費がかかる実家の負担を減らそうと、約10万円の自身の生活費はもともと飲食店でアルバイトをして賄ってきた。しかし、このコロナ禍で外食需要は激減、勤務先は閉店した。清掃のアルバイトを見つけたものの、できる限り切り詰めて生活している。
「飲食業で生活を賄う友人も多く、収入減で生活ぎりぎりとなっている例も少なくない」と、あゆみさんは話す。
こうした状況を受け、日本最大のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」は、複数の大学で食事の無償提供を始めた。あゆみさんたちも、月に1回利用できるようになったという。
昨年初めにコロナの感染が拡大し始めてから、この1年で日本社会は様変わりした。コンサートやスポーツ競技など大型イベントは次々と中止に追い込まれ、飲食業や観光業は利用客が激減。
帝国データバンクによると、コロナに関連した倒産は1年間で1000件に達した。生活困窮者は以前から増えつつあったものの、コロナ禍で職を失ったり収入が減り、その日の食事にさえ困る家庭や人々が急増した。
東京の足立区では生活資金の相談に区役所を訪れる住民が増え、昨年末12月にはおよそ400件、前年比3割増の問い合わせが舞い込んだ。
生活保護の条件には当てはまらないまでも、生活に不安のある人々が相談に訪れているという。区内のハローワークでは飲食や旅行業界で働いていた求職者が増え、失業給付の申請件数は昨年秋に前年比約2割程度、11都府県に緊急事態宣言が再発令された今年1月には同3割程度それぞれ増加した。
セカンドハーベスト・ジャパンによると、個人向けの無償提供件数はコロナ前の2倍以上に増えた。昨春に増えた後、夏はいったん減少したが、昨年の秋以降は増加傾向となり、今年1月は高止まりしている。
政策提言担当マネジャーの芝田雄司氏は「昨年夏ごろまでは政府の特別定額給付金の効果もあったようだが、その後に生活資金が底をついた人たちが増えたと思われる」と話す。非正規就業者やひとり親世帯などに加えて、正社員も残業代がなくなり、4人家族で生活するために食費だけでも節約したいといった事情の人も訪れているという。
<備蓄米開放、1日分にも満たず>
政府も動いている。しかし、就労支援や給付金という制度はあっても、食事ができないというすぐ目の前にある危機に対処する正式な枠組みは、子ども向けとしては存在するが、成人向けにはない。
農林水産省は昨年5月、政府備蓄米の一部を無償提供し始めた。これまで食育用として学校給食向けには交付していたが、コロナ禍を受けて提供対象を広げた。
ところが、その量は1つの支援団体につき年間60キロ、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供するコメの1日分にも満たなかった。およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる。
転売などを防ぐ必要があるとして、炊飯で提供する原則も維持したため、使い勝手が悪いとの批判が相次いだ。そこで今年2月、子どものいる低所得家庭に食材を届ける民間支援団体(こども宅食など)を対象に加え、新たに1団体につき年間300キロまで提供することにした。精米を供給することも可能になった。
ただし、こうした備蓄米提供の目的はあくまで「食育」。ごはん食の重要性を子どもに理解してもらうためであって、生活に苦しむ大人はこの安全網には引っかからない。
厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、いわゆる貧困層に当たる人々の割合は人口の15.4%を占めている。およそ1900万人に上るとみられ、直近の所得に当てはめると、日本人の平均可処分所得の半分である「貧困線」にも満たない年間127万円未満の所得しかない世帯だ。
セカンドハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトン最高経営責任者(CEO)は、「およそ2000万人弱が貧困線以下で生活している実態がある中で、備蓄米の放出を1団体年間300キロという量は侮辱行為だ」と、さらなる放出を求めている。「この国では備蓄米は相当な量だ」と主張する。
<不十分な食の安全網>
一方で、農水省は「備蓄米の交付条件の緩和は難しい」(穀物課)とする。備蓄米はもともと、不作に備えるための制度として作られた。十分に流通している中で備蓄米を大量に提供すると、市場に影響を与える恐れがあると説明する。また、今回の備蓄米提供は「食育」のためであり、貧困対策として実施しているものではないと話す。
困窮者対策を担う厚生労働省も、「現物支給という形での支援は行っていない」(社会・援護局)とする。あくまで地域の実情に応じた困窮者対策として、自治体単位で相談窓口の設置や就労サポートという形の後方支援にとどまる。
米国では、政府の低所得者向け食料補助対策として「フードスタンプ制度」がある。米農務省によると、20年末時点で全人口の1割以上に当たる3570万人程度が受給する。(中略)それでも、その日の食料に事欠く人たちの公的なセーフティネットとなっている。
日本には生活保護という最後の安全網はあるものの、その利用のハードルは高い。緊急避難的に「その日の食事」に困った場合の駆け込み寺は、もっぱらフードバンクやNGO(非政府組織)など民間任せとなっており、公的な「食の安全網」は十分とは言えない状況だ。
「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」と、セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトンCEOは指摘する。【2月9日 ロイター】
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血が通った行政・政治にはほど遠い実態があります。
(フェースシールドをつけて飲食する人たち(15日、大分市で)【5月16日 読売】)
【マスクに関するハムスター実験って・・・】
今日一番笑ってしまったのが、下記のニュース。
笑ったのは、記事内容ではなく、自分の勘違いに対してです。
記事の「ハムスター実験」という表題を見て、私はてっきりハムスターにマスクを着けた実験かと勘違いし、そのユーモラスな状況を想像して笑った次第です。
****マスクのコロナ感染抑制効果、ハムスター実験で明らかに 香港大****
香港大学の研究チームは17日、ハムスターを使った実験で、多くの人がマスクを着用すれば新型コロナウイルス感染拡大抑制につながることが示されたと発表した。
これは、マスク着用が新型コロナウイルスの感染拡大防止に効果があるのかを調べた、世界でも草分け的な研究の一つだ。
香港大学の微生物学者で、コロナウイルスの世界的専門家である袁国勇教授率いる研究チームは、人工的に新型コロナウイルスに感染させた複数のハムスターを入れたケージを、健康なハムスターを入れたケージの隣に置いた。
2つのケージの間に医療用マスクを設置し、感染したハムスターから健康なハムスターのケージに向けて空気を流したところ、マスクが感染を60%以上削減できる可能性のあることが明らかになった。
マスクが設置されていない場合は、1週間以内に健康なハムスターの3分の2がウイルスに感染したという。
一方、感染させたハムスターのケージにマスクを取り付けた場合、感染率は15%をわずかに超える程度にまで下がった。健康なハムスターのケージにマスクを取り付けた場合、感染率はおよそ35%下がった。また、この実験によって感染したハムスター体内のウイルス量は、マスクありの場合の方が少なかった。
袁氏は17日、記者団に対し、「特に無症状の場合は──症状がある場合でもそうだが──感染者がマスクを着用すれば効果があるのは明白だ。これが何よりも重要なことだ」と述べた。
袁氏は、コロナウイルスの一種である重症急性呼吸器症候群ウイルスを発見した微生物学者の一人。2003年に発生したSARSの流行では香港で約300人が死亡した。当時の経験から、袁氏は新型コロナウイルス流行の早い時期から香港の住民にマスクを着けるよう呼び掛け、多くの人がそれに従った。
人口約750万人の香港はおおむね新型コロナウイルスの封じ込めに成功しており、感染者は1000人余り、死者は4人と比較的少数にとどまっている。専門家らは、マスク着用に加え、効率的な検査、感染者の追跡、治療が行われていることが香港で成果を挙げていると指摘している。 【5月18日 AFP】
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マスクにどれだけ効果があるかについては、以前から議論があるのところで、コロナ初期の否定的な見解から、マスク着用が徹底しているアジア各国の被害が少ない現実を見て、最近では欧米でもマスクを重視するようになったのは周知のところ。
ただ、マスク不足の混乱を含めて、これだけ注目されているマスクに関して明確な科学的検証がなされていないのは驚くべきことで、上記のハムスター実験が「草分け的な研究」とのこと。
常識的に考えて、「感染者がマスクを着用すれば効果がある」のはわかりますが、知りたいのは罹患を防ぐ予防効果でしょう。
予防効果に関しては、実際にマスクを着用した場合、(医療用でなければ)両サイドなど、顔とマスクの間に隙間ができることなどを踏まえた検証が必要でしょう。
私自身は、予防効果には懐疑的なこと、何より暑苦しいマスクが大嫌いなこともあって、必要と考えられる場合だけに着用しています。(それもウイルス対策というより、「コロナ自警団」的風潮における人目対策のことが多いですが)
私の暮らす地域(ド田舎)は、県単位でこれまでの感染者が「累計」で10名しかいないことから市中感染は起きていませんので、すれ違う人もほとんどない(密集は皆無な)通りでは「はずして」いることが多いですが、たまに数m離れたところをすれ違う人は、それでも着用している人がほとんどでした。
過去形なのは、緊急事態宣言が解除されたここ二日ほどは、ややマスクなしで歩いている人が増えたように思えるからです。
今後、「ウィズ・コロナ」の「新しい生活様式」を続けていくうえで、マスクの科学的検証が望まれます。
【大真面目な笑える実験 「新しい生活様式」の飲み会は?】
「ウィズ・コロナ」の「新しい生活様式」ということで、大分県が行った「飲み会」の実験をTVで観たときは、その内容に笑ってしまいました。
口に食べ物・飲み物を持っていくとき以外はマスクを着用したままのグループ、フェースシールドを着用して飲食するグループ、「新しい生活様式」として推奨されている横に並んだ形で着席したグループなどに分かれて県職員が「飲み会」を実際にやってみる・・・といったものでした。
****“新しい生活様式”での飲み会とは? 大分 ****
政府が求める新型コロナウイルスの感染予防を意識した「新しい生活様式」を実践しながら、どうやって、飲食店での食事や飲み会をするのか。大分市で、ある試みが行われました。
新型コロナウイルスの感染拡大を長期的に防ぐために政府が求める「新しい生活様式」を実践しながら、飲食店での食事や飲み会の在り方を探ろうと大分県などが15日の夜に開きました。
会場となった大分市中心部の居酒屋には、最大40人が入れる宴会場に20人ほどの県職員などが集まりました。
参加者たちはテーブルごとに、マスクの着用を徹底するグループや、対面を避けるグループなどに分かれました。
飲み会の恒例ともいえる冒頭の乾杯では、お互いのグラスを接触させないようにしていました。
フェイスシールドをつけたグループでは、シールドと顔の間から食事を口に運んだりお酒を飲んだりしていて、ふだんとは違う形の飲み会を楽しんでいる様子でした。
参加した男性は「テーブルの端と端どうしでの会話が難しいが、飛まつの心配も少なく安心して楽しめた。感染対策を徹底しながら飲み会をしたい」と話していました。
県では催しの様子をホームページに掲載し、県民に参考にしてもらいたいということです。【5月16日 NHK】
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中国でも話題になったようです。
****日本の「新しい生活様式」での飲み会、中国でも話題に****
新型コロナウイルスの感染予防を意識した「新しい生活様式」を実践した日本の飲み会が中国でも注目されている。
NHKによると、緊急事態宣言が解除された大分県は15日、国の専門家会議が提言した「新しい生活様式」の内容に沿った飲み会を実践する試みを行った。
冒頭の乾杯ではお互いのグラスを接触させないように注意。県職員らは、クリアファイルで手作りしたフェースシールドを着用して飲食したり、会話や食事の際はハンカチを持ち口に当てたり外したりするなどして、普段とは違う形の飲み会を楽しんだという。
中国メディアの毎日経済新聞などが17日、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)への投稿で、この様子を動画で紹介すると、中国のネットユーザーからは、「そこまでするか」「不便だけど、高い安全意識を醸成する取り組みだと思う」「日本の飲み会文化の根深さを物語っている」「変態ではないかと思えるほど真剣」「中国国内でこれをやったら笑われるだろう。でも日本だとなぜか自然に感じられてしまう」「疲れない?」などのコメントが寄せられていた。【5月18日 レコードチャイナ】
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「中国国内でこれをやったら笑われるだろう」・・・・いや、日本でも・・・
TVで実験の様子を見て、「これは冗談だろうか?」と思いましたので。
「変態ではないかと思えるほど真剣」・・・・ほんとに・・・
でも、TV画像で見ると、(しばらく時間が経過したあたりでしょうか)なんだか実験そっちのけで、適当に飲み食いしているような雰囲気・印象も。あくまでも「印象」ですので、最後まできちんと実験されたということなら「申し訳ありません」
それにしても、食べ物を口に運んだあとすぐにマスクする様子、飲み食いするときフェースシールドが邪魔そうな様子、最後の晩餐のように横に並んだ様子・・・いずれも笑えます。でも、笑っている場合ではありません。大分県も真剣です。(なお、マスクしながら・・・というのは、飲み食いのとき「あごマスク」にするのはアウトです。マスクが汚染されます)
【ソーシャルディスタンスが意味するものは?】
「新しい生活様式」に関するもう一つの実験
****ガラガラだけど「これで満席」 ある劇場の“問題提起”に反響****
「ソーシャルディスタンス(社会的距離)をシミュレート。これでコンサートは成立するのだろうか」−。
ガラガラの劇場の写真とともに会員制交流サイト(SNS)に投稿された宜野座村文化センターがらまんホールの問い掛けが反響を呼んでいる。本来の座席数の15%で「満席」となったホール。「ちょっと笑えない未来」などのコメントが寄せられた。
管理責任者の小越友也さんは「劇場や映画館など、『3密』が当たり前だった施設は今後どうあるべきなのか、社会全体に問題提起したかった」と説明する。
ホールは4月7日から新型コロナウイルス感染拡大防止のため休業中。予定していた舞台なども全て中止になった。
小越さんは今だからできる劇場ならではの情報発信の方法はないかと考え、「ちまたでよく言われる『ソーシャルディスタンス』を再現することで劇場の現状や課題を視覚的に訴えられるのではないか」と思い付いた。
398席あるホールで、小越さんのほか、スタッフの佐久間恵美さんと村職員の3人で前後約2メートルの間隔を空け、席を変えながら繰り返し撮影。社会的距離を保つと60席が限界だった。合計20枚の写真を合成してできた1枚は、SNSに投稿すると拡散されて反響を呼んだ。17日までにツイッター上のリツイート(転載)は2万5千件を超えた。
コメント欄には「思わず笑ってしまったが、ちょっと笑えない未来」「自由な発想で問題提起していて面白い」など、さまざまな意見が寄せられた。
佐久間さんは「こんなに多くの人の目に留まるとは思わなかった」と驚いた様子。小越さんは「今後も劇場からしかできない発信方法や芸術の伝え方を模索していきたい」と話した。【5月18日 沖縄タイムス】
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ひとつはっきりしているのは、ソーシャルディスタンスをとって収容人員を減らす以上、チケット料金はこれまでより数倍にしないとやっていけない・・・ということでしょう。
つまり演劇・コンサート・スポーツの現場での観戦は貧乏人には手が届かない富裕層の楽しみになるということ。
貧乏人はオンライン配信で。
【「ウィズ・コロナ」では一定の感染者・死亡者は不可避であることを政府・国民も容認すべき】
「飲み会」にしても「コンサート」にしても、「新しい生活様式」を実践するうえで、重要なことが欠けているように思われます。
それは「ウィズ・コロナ」の理念です。
「ウィズ・コロナ」ということは、感染を皆無にすることはできない、つまり「ある程度」の感染者・死亡者が出るのはやむを得ないことですが、しかし、それは現在でも多くの病気で大勢が罹患し、死亡していることと変わらない現象であると国民が「容認」することでしょう。
常に言われるように、通常のインフルエンザでも毎年千人、二千人の方が死亡しています。
それ以外にもたくさんの病気で大勢がなくなります。
世の中には病気以外にもたくさんの災害・事故など厄介ごとがあります。
交通事故で毎年何千人が死亡しますが、それでも皆車に乗っています。
新型コロナも、不幸にして、そういう厄介ごとがひとつ増えたということで、それ以上でも、以下でもないと認め、感染者が発生したからといって大騒ぎしないことが重要でしょう。
政府はそのことを国民に明言し、理解を求めるべきです。
大規模な感染状況調査を行えば、無症状者を含めた致死率はさほど高くないことが明らかになり、上記のような考えも受け入れやすくなるでしょう。
今後、治療薬・ワクチンが開発されれば、抵抗感は更に軽減するでしょう。
そうした考えのもとで「新しい生活様式」を考えるべきで、そうでなければ上記の「飲み会」のような「笑える話」になってしまいます。