孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア・アチェ州  急増するロヒンギャ難民船 同情的対応から一変して、高まる反難民感情

2023-12-28 23:26:18 | 難民・移民

(インドネシア西部アチェ州の州都バンダアチェで、ロヒンギャ難民が一時保護されている施設前に集まり抗議する学生たち(2023年12月27日撮影)【12月28日 AFP】)


(ロヒンギャ難民=2023年12月27日、インドネシア(REUTERS)【12月28日 The News Lens Japan】)

【「忘れてしまっていても、問題はなくならない」】
世界の目がコロナ、ウクライナ、そしてパレスチナに向く中で、ミャンマー国軍の民族浄化を目論む虐殺・暴力・放火・レイプ等によって西部ラカイン州を追われたイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる状況は改善していません。

70万人以上が隣国バングラデシュに避難したとされますが、それまでのロヒンギャ難民を合わせると100万人規模にもなるバングラデシュの難民キャンプの環境は劣悪です。しかし、国軍支配が続くラカイン州の状況は安全が保証されず、帰還も進みません。

****“世界最大の人道危機”ロヒンギャ難民問題 100万人生活の難民キャンプ、新たな問題に直面****
世界最大の人道危機とされるロヒンギャ難民問題。100万人が生活するロヒンギャの難民キャンプでは、避難が長引く中、新たな問題に直面しています。

■スマホを売り買い、教育や収入を手にする機会も
南アジア・バングラデシュ。ミャンマーとの国境近くに広がるのは「ロヒンギャ」と呼ばれる人々が暮らす難民キャンプです。

女性「ミャンマーでは、私たちには人間としての権利がありませんでした」
彼らは、ミャンマーの少数派イスラム教徒・ロヒンギャ。2017年、ミャンマー軍などによる武力弾圧が行われ、これまでに、およそ100万人がバングラデシュに逃れてきました。

大規模な難民キャンプの誕生から6年。私たちが目撃したのは…。
店員「1日に3〜4個売れます」 キャンプ内でスマートフォンが売り買いされている光景でした。
さらに…。

青年「このイヤホンは、お兄さんが僕のために買ってきてくれたんです。ここでは学校に通えるし、スポーツをすることもできます」 ミャンマーでは得ることのできなかった教育や収入を手にする機会が得られ、笑顔を見せる人々もいます。

■自由を求め脱出する人が急増、暴力を受けて脱出した子どもも
しかし、いまある問題が浮上。

記者「難民キャンプから車で1時間ほどの漁港です。キャンプを出た女性たちも働いています」
ここ数年、身体的・金銭的な自由を求めて、キャンプを脱出する人が急増しているのです。

ある女性は、1か月半前にキャンプを脱出。娘の結婚資金を得るため仕事を求めて脱出を決断したといいます。
女性「キャンプの中には娘も親戚もいます。でも、お金を稼がなければいけないので、ここに来ました」

水産物を加工する作業で得られるのは、月におよそ2万5000円。難民キャンプでの生活と比べれば破格の待遇といえます。

女性「難民キャンプは、たくさんの人が閉じ込められている牢屋(ろうや)みたいです。ここは自由で良い場所です」

さらに、やむをえない事情でキャンプから逃れてきた子どもも。
男の子「キャンプには戻りたくない。あそこは好きじゃないです。お兄さんから暴力を受けていたので、ここに逃げてきました」

7人兄弟から暴力を受けていたと打ち明けた男の子。4か月前、難民キャンプから、ひとりで脱出し、ストリートチルドレンの集団に合流したといいます。ゴミ山で一日中、プラスチックを集めても、1日に300円ほどにしかなりません。

■「忘れてしまっていても、問題はなくならない」
現地で支援を続ける日本人職員は。
UNHCRコックスバザール事務所・赤阪陽子所長「新しいエマージェンシー(緊急事態)、ウクライナやアフガニスタンなどに、ドナー(支援者)の関心がいってしまう。忘れてしまっていても、彼らが直面している問題はなくならない」

難民キャンプでは近年、治安の悪化も問題に。ふるさとに戻るメドが立たず、長引く避難生活が難民の心に影を落としています。

それでも懸命に生きる人々の姿も。
女性「ここに来て、もう怖くなくなりました。これまで知らなかったことが分かるようになりました。いまは私ひとりで、どこにでも行けます」

100万人のロヒンギャ難民をどう救うか。国際社会には息の長い支援が求められています。【4月8日 日テレNEWS】
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【インドネシア・アチェ州 急増するロヒンギャ難民船】
過酷な現状、希望のない明日・・・難民キャンを脱出して粗末なボートで海外に逃れようとする難民も増加します。
また、ミャンマー国軍の弾圧が続くラカイン州からも、状況が悪化しているバングラデシュではなく、海上へ出る人々も。

しかし、周辺国にとってロヒンギャ難民は“厄介者” 従来から漂着した周辺国ではろくに水も食糧も与えず難民船を海に押し返す・・・といった対応が横行していましたが、特に新型コロナが拡大した期間は、更に受入れが厳しくなりました。

****ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く****
(中略)
今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。

しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。

こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。

海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。

国際機関などはロヒンギャ族難民の受け入れを国際社会に求めているが、マレーシアのようにコロナ感染防止対策や過激派組織の上陸回避のため、積極的な受け入れが実現していない実情がある。(後略)【2022年12月27日 大塚智彦 Newsweek】
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上記のような事情(イスラム教徒が大半を占めるインドネシアはロヒンギャに同情的で、特にイスラムが重視される北部アチェ州ではその傾向が強い)もあって、インドネシア・アチェ州へのロヒンギャ難民船漂着が急増しています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によれは、11月中旬からの約1カ月間で1543人のロヒンギャ難民がアチェ州に漂着したとのことです。今年のアチェ州へのロヒンギャ密航1700人余りの大半がこの1カ月間に集中していることになります。なお、難民の約8割が女性や子どもだとのこと。
(この時期に集中しているのは、海流の影響もあるのかも。そのあたりはよく知りません)

****ロヒンギャ約400人、インドネシア漂着 大統領は人身売買に言及****
インドネシアのアチェ州に10日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ400人余りが新たにボートで漂着した。地元の漁業関係者が確認した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先に、インドネシアに漂着したロヒンギャが11月以降、1200人に達したと発表した。

漁業関係者によると、10日午前にアチェ州の2地区にボートが各1隻漂着し、いずれも約200人が乗っていたという。

ジョコ大統領は8日声明を発表し、最近のボート漂着急増の背景に人身売買が存在する疑いがあるとの見方を示し、国際機関と協力して対応に当たると述べた。

インドネシアは国連難民条約に署名していないが、沿岸に漂着した難民を受け入れてきた歴史がある。【12月11日 ロイター】
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イスラム重視のアチェ州では、かつては当局がコロナを理由に難民受入れを拒否しても、地元住民が反発して難民を上陸させるといったこともありました。

****ロヒンギャ難民81人、マレーシアに上陸拒否され113日漂流 インドネシアで救出へ****
<コロナ禍やクーデターなどで世界の関心は減ったが、難民たちは今日も生き延びようとしている>
(中略)

アチェ州はロヒンギャ族難民拒否せず
バングラデシュのロヒンギャ族難民キャンプはほぼ飽和状態で政府による人道支援はあるものの、食料は慢性的に不足。医療事情が悪くコロナ感染防止が不十分であること、さらに居住区では顔役による暴力や物品の奪取などがあるとされ、必ずしも平穏なキャンプ生活が維持できないのが実状といわれている。

こうした状況から逃れるために多くのロヒンギャ族難民が新たな生活拠点を求めて、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシア、地理的に近いタイなどを目指して船で脱出を図るケースが絶えない。

当初はロヒンギャ族の難民船を受け入れていたマレーシアやタイは自国のコロナ感染拡大もあり、海上で発見した場合、最近は食料や水を与えて受け入れ上陸を拒否するケースが増えているという。

これに対し、ロヒンギャ族難民が漂着することが多いインドネシアのアチェ州は住民の多数が厳格なイスラム教徒で唯一イスラム法(シャーリア)に基づく統治が認められていることもあり、同じイスラム教徒であるロヒンギャ族難民を原則として受け入れてきた。

2020年6月にはコロナ感染を懸念するあまり、ロヒンギャ族の漂着を拒否したアチェ州当局の判断に地元アチェ人漁民が反発して、独自に難民を上陸させる事態も起きている。

アチェ州にはロヒンギャ族を収容する施設もあり、多数が収容されているものの、なぜか最終的にはマレーシアを目指すロヒンギャ族難民が多く、知らない間にマラッカ海峡を横断してマレーシアに密航するケースも増えているという。インドネシア人の密航請負人が船を用立ててこうした密航を支援しているとされている。(後略)【2021年6月7日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【かつての同情的対応から一変、高まる反難民感情】
しかし欧州のシリア難民でもそうでしたが、当初は受入れに同情的でも、急増して受け入れ側の負担が大きくなると事情が変わります。インドネシアにあっても特にイスラム重視のアチェ州でも、そのあたりは同様のようです。

****学生デモ隊、ロヒンギャ難民を強制排除 インドネシア****
インドネシア最西端アチェ州の州都バンダアチェで27日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ難民100人以上が収容されている一時保護施設に大学生数百人が押しかけ、ロヒンギャを強制的に立ち退かせた。

アチェ州沿岸には11月中旬以降、1500人以上のロヒンギャがボートで漂着しており、国連は過去8年間で最多の流入だと指摘している。地元住民に拒絶されたり、海に押し戻されたりしたケースもあるという。

さまざまな大学の校章が付いたジャケットを着た学生たちは、ロヒンギャ137人が収容されていた公営ホールに突入した。

AFPが確認した映像によると、学生たちは地元の入国管理局に対し、ロヒンギャを退去させミャンマーに強制送還するよう要求。「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」とシュプレヒコールを上げた。中には難民の持ち物を蹴る学生もいた。

涙を流すロヒンギャの女性や子どもや、顔を伏せ祈る男性の姿も映っていた。

現場にいたAFPの記者によると、デモ隊と、おびえるロヒンギャを警護していた警官隊とのもみ合いになったが、警官隊は最終的にデモ隊によるロヒンギャの排除を許可した。

デモ隊はタイヤを燃やし、ロヒンギャを移動させるためのトラックを用意したという。AFP記者によると、警察はロヒンギャをトラックに乗せるのを手伝った。ロヒンギャは近くにある別の政府施設へ移送された。

AFPはバンダアチェ警察にコメントを求めたが、回答は得られていない。

国連難民高等弁務官事務所は、この出来事は難民に衝撃とトラウマを残したと批判した。
インドネシアは国連の難民条約に未加盟で、ミャンマーからの難民を受け入れる義務はないと主張。近隣諸国に対し、受け入れの負担を分かち合い、沿岸に到着したロヒンギャを再定住させるよう求めている。 【12月28日 AFP】
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当局の受け入れ拒否に反発して、独自に難民を上陸させた日から3年半ほど。
アチェの社会で一体何が変わったのか・・・。
「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」と叫ぶ学生たちを突き動かすものが何なのか?

****インドネシア、ロヒンギャ難民が急増 国際社会に責任を共有するよう呼びかけ****
バングラデシュやミャンマーから逃れ、インドネシア・アチェ州に漂着するイスラム教徒の少数派、ロヒンギャの人たちが急増し、地域社会の資源不足を招くとして地元では反ロヒンギャ感情が高まっている。そのため、インドネシア政府は難民条約加盟国および国際社会に対し、難民問題の解決に向け、より多くの責任を果たすよう求めている。

AP通信やインドネシアのオンラインニュースメディアTempo.co、中東の衛星テレビ局アルジャジーラの報道では、インドネシア当局は12月12日、11月以降イスラム系少数民族であるロヒンギャ難民1500人がボートでインドネシアのアチェ沿岸に到着したと発表し、国際社会に支援を求めているという。

インドネシアやタイ、マレーシアなどの東南アジア諸国は、1951年の難民条約に署名しておらず、難民を受け入れる義務はないが、タイやマレーシアに比べれば、インドネシアはバングラデシュやミャンマーからロヒンギャを受け入れており、一時避難所として難民キャンプを設置している。

しかし、難民の増加によってインドネシア国内の反ロヒンギャ感情が高まっており、政府は対策を取るよう迫られている。

インドネシア外務省のムハンマド・イクバル報道官は12月12日、ジャカルタで記者会見を行い、難民問題への対応、特に再定住が非常に遅れていると述べ、「それゆえ我々は、難民条約の加盟国や国際社会に対し、ロヒンギャ難民問題の解決にいっそうの責任を果たすよう求めている」と強調した。

イクバル報道官はまた、インドネシア政府は難民問題を解決するために国際機関、特に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)と協力し続けると述べ、UNHCRは施設の提供及び難民の再定住への解決策を検討することを約束したと付け加えた。

UNHCRは現在、難民がアチェに到着した後に発生する犯罪行為、すなわち人身売買や密輸を防止し、根絶することに重点を置いていると強調した。

**バングラデシュとミャンマーからのロヒンギャ難民
2017年、ミャンマー軍による弾圧から逃れるため、74万人のロヒンギャの人々が続々と隣国バングラデシュに流出した。 

しかし、近年、バングラデシュでは難民キャンプにおいてギャングが増え、犯罪率が上昇するなど環境が悪化し、ロヒンギャがバングラデシュに逃れるのは困難になりつつある。また、ミャンマーのクーデター後も軍事政権によるロヒンギャへの弾圧が続いており、その結果、インドネシアのアチェ州に多数のロヒンギャの人たちが上陸している。

外務省のイクバル報道官は「インドネシアは難民条約には加盟していないが、国際組織犯罪防止条約には加盟しており、ロヒンギャ難民を受け入れる義務はないが、人身売買と密輸の防止と撲滅に参加する義務がある」と述べ、問題の根源はミャンマーで続く紛争であり、それを解決しなければならないと強調した。

反ロヒンギャ感情が高まる地域社会
12月10日には、アチェ州サバン島の難民一時避難所に100人以上の抗議デモ参加者が集まり、ロヒンギャ難民の再定住(つまり、インドネシアから第三国への出国)を訴えたという。

「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」とデモ参加者の1人はアルジャジーラに訴えた。

更にもう1人も「私たちはロヒンギャを拒否します。一刻も早く別の場所に移してほしい。彼らが運んでくる病気に感染したくない」と語った。

UNHCRのファイサル・ラフマーン准難民保護官は「我々は、地域住民が安心するよう懸命に取り組んでいる」と述べた。一方、ラフマーン氏は増え続ける難民に対し、指定シェルターの収容能力がもはや対応できなくなっていることを認めた上で、「到着する難民の数が非常に多いため、政府はシェルター提供のため懸命に努力しているところだ」と述べた。【12月28日 The News Lens Japan】
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「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」・・・・昨日ブログ最後にも書いたように、自分たちの生活が苦しいと、他者への寛容さも失われるのが現実です。
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移民急増が西側諸国共通の政治問題に 各国とも対応に苦慮

2023-12-17 23:32:53 | 難民・移民

(人口に占める年間純移民数の割合【12月15日 WSJ】)

【アメリカ 大統領選挙における最大の争点 バイデン再選戦略を危うくする】
アメリカでは移民流入が大きな問題となっており、移民に対する厳しい姿勢をとるトランプ前大統領の支持率を押し上げ、比較的寛容な民主党・バイデン大統領の再選戦略を危うくしています。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
(中略)ジョー・バイデン米大統領の再選の可能性をインフレよりも大きく損ないかねない問題がある。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新の世論調査によると、来年の大統領選挙における最大の争点として移民問題を挙げた回答者の数は、インフレと答えた人の2倍に上った。国境管理に関するバイデン氏の不支持率は支持率を37ポイント上回った。インフレに関してはその差は36ポイントだった。(中略)

米国では、移民反対派は、年齢が高めで保守的な白人有権者に集中している傾向がある。だが、テシェイラ氏は、多くのヒスパニック系有権者も不法移民の急増に衝撃を受けていると指摘した。

ドナルド・トランプ前大統領は移民に対して暴言を吐くことが多く、厳しい政策を取ったが、それにもかかわらず彼を支持する人がこれほど多い理由の一つはここにある。

皮肉なことだが、世論調査会社ギャラップによれば、トランプ氏の大統領在任中、移民の増加に対する国民の支持はおおむね上昇していた。バイデン氏が大統領になり、不法入国が急増した後、その支持は消えてしまった。このことは、国境の危機の解決が、バイデン氏の政治的な先行きだけでなく、移民政策そのものの将来にとってプラスになることを示している。【12月15日 WSJ】
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【フランス 左右両サイドからの批判で移民法案が審議されないまま否決】
移民問題への対応で苦慮しているのはアメリカだけでなく、欧州各国、カナダ、オーストラリアなど、いわゆる西側先進国も同様です。

フランスでは、政府が提案した新たな移民法案が議論されないまま否決される異例の事態が起きています。
不法移民への対応を厳格化する一方、外国人労働者の受け入れを進める法案で、外国人の犯罪者や難民申請が認められなかった不法滞在者の国外退去を迅速化するとともに、建設や飲食など人手不足の産業で働く不法移民に滞在許可を与えて労働者として受け入れる内容。

マクロン大統領が昨年の再選時から実現を公約として掲げていたものですが、その中道的な内容が右からは「手ぬるい」、左からは「移民を犯罪者扱いしている」と反対を受けたことで、審議前に却下されました。

****移民法案、国民議会で議論されないまま否決****
リュマニテ紙は「Défait(負けた)」、リベラシオン紙は「却下されたダルマナン(内相)」と一面に。

ダルマナン内相が国民議会に提出した新しい移民法案が、昨晩(12月11日)、審議されないまま却下された。エコロジー党(EELV)が提出した事前否決動議が賛成270票と反対265票で法案が否決となった。(中略)

ダルマナン内相の法案は、極右・右派からは規制のゆるさが、また左派からは、この国は移民を受け入れてきたゆえの豊かさがあることや、移民なしにはコロナ禍で国を動かなかったことを忘れ犯罪者扱いする差別的な見方が批判され、否決動議への賛成票が多くなった。

ダルマナン内相はマクロン大統領に辞任を申し出たが、大統領は拒否。政府は今日12日、国民議会議員7人と元老院議員7人で構成される委員会Commission mixte paritaire に付す意向を示している。【12月12日 Ovni】
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【イギリス 不法移民のルワンダへの移民強制移送法案 何とか下院通過したものの、「不十分」と与党内に不満】
イギリス・スナク政権は入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案で難しい対応が続いています。

最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、ルワンダと新たな条約を締結するなど補強対策を講じたうえで下院での可決には漕ぎつけましたが、保守党内部には「これでは不十分」との不満が残っています。

****英下院でルワンダへの移民移送法案可決、スナク政権はひとまず窮地脱出****
英議会下院で12日、入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案が可決された。より厳格な移民規制を求める与党保守党の右派による造反の懸念が広がっていた中で、スナク首相にとっては否決により政権が大打撃を受ける事態はひとまず回避された形だ。

スナク氏はX(旧ツイッター)への投稿で「わが国に誰がやってくるのかを決めるのは犯罪組織でも外国の裁判所でもなく、英国民であるべきだ、というのがこの法律の趣旨だ」と述べた。

英政府は昨年、小型ボートで英仏海峡を渡る密入国者への対策として、不法移民を亡命希望者としてルワンダに受け入れてもらう取り決めを結んだ。

ところが英最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、スナク氏はルワンダとの間で移民を安全ではない第三国に送還しないよう保証することを柱とする新たな条約を締結。さらにルワンダを「安全な国」と定義して移送できるようにする法案を下院に提出した。

ただ保守党の右派は、この法案では不法移民の移送を阻止する目的で訴訟などの法的手段を行使された場合、十分に対抗できないと主張し、反発を強めていた。

法案は賛成313人、反対269人で承認。保守党議員350人は賛成票を投じるよう党議拘束がかけられたが、約40人は投票しなかったもよう。

採決直前に右派議員の1人は、右派グループ全体として法案に賛成するのを控え、投票を棄権することを決めたと明かしていた。

この議員は、昨年6月に欧州人権裁判所が移民移送の差し止め命令を下した事態を挙げて、そうした形で移送が阻止されない確実な仕組みが法案に盛り込まれない限り、今後の議会手続きにおいて反対姿勢を続けていくと強調。

来年予定される総選挙を控え、野党労働党に支持率で大きく水をあけられている保守党が内部の足並みの乱れを解消する見通しは立たず、スナク氏も厳しい政権運営が続きそうだ。【12月13日 ロイター】
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【ドイツ 移民排斥の右翼政党支持率が急速に高まる】
ドイツでは、ナチス・ドイツの犯罪を矮小化し、イスラム教徒、黒人らを中傷し、排外主義を標榜して難民対応で厳しい姿勢をとる右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、連立与党各党は支持率が低下しています。

****ドイツで右翼政党支持率急上昇 難民政策・経済政策への不満が後押し****
独右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、来年の3つの州議会選挙で勝者となる可能性が出てきた。「ナチスの過去との対決」を地道に続けてきたドイツで右翼政党が躍進する理由は、市民の現政権の難民政策・経済政策への強い不満だ。

約1年半で支持率が10ポイント増加
ドイツの世論調査機関アレンスバッハ人口動態研究所(中略)が今年10月6日〜19日に1010人の市民を対象に行った世論調査によると、AfDの支持率は19%で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の34%に次いで第2位だった。

AfDの支持率は、去年5月の9%から今年10月までに10ポイントも増えた。

逆にオラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)の支持率は、同じ時期に24%から17%に7ポイント下落した。緑の党の支持率も、同時期に20.5%から13%に7.5ポイント減った。連立与党の一党・自由民主党(FDP)への支持率も同時期に8%から5%に下がった。(中略)SPD、緑の党、FDPの三党の支持率を合計しても35%にしかならず、過半数には達しない。

AfDの支持率は、特に旧東ドイツで高い。(中略)このためドイツの論壇では、「来年9月の3つの州での州議会選挙で、AfDが最も多い得票率を確保して勝利する可能性がある」という見方が出ている。(中略)

AfDの躍進の主な理由は、二つある。それは、難民急増に対する市民の不安・不満の強まり、ショルツ政権の経済政策・環境政策への不満だ。

(中略)問題は、EU(欧州連合)に入った多くの亡命申請者が、まるで磁石に引き寄せられるように、ドイツを目指す点だ。EU統計局によると、今年上半期にEU域内で初めて亡命を申請した外国人の数は51万9000人(前年同期比で28%の増加)だった。この内約30%がドイツで亡命を申請している。

2022年にはEU全体で約88万人が亡命を申請したが、その内約22万人がドイツで亡命を申請した。EU加盟国の中で最も多い数だ。EUでの亡命申請者数のほぼ4人に1人がドイツにやって来るのだ。

なぜドイツは、亡命申請者の間で人気があるのか。この国の亡命申請規定は他の国に比べて寛容であり、到着後の待遇も比較的良い。この国では基本法(憲法)の中で亡命権が保障されている他、亡命が認められた場合に支払われる援助金などの金額が、他の国に比べて多い。長期間にわたって仕事が見つからないと、地方自治体が住宅を斡旋してくれる。生活保護の他に、家賃や健康保険などの社会保険料も国が払ってくれる。

難民たちはそのことをよく知っているので、イタリアやギリシャからEUに入域しても、結局ドイツへ行って亡命を申請する傾向が強い。

ドイツ政府は、外国人が「亡命を希望する」と言った場合、審査する間とりあえずその外国人の滞在を許さなくてはならない。EUではダブリン協定によって、最初に到着した国で亡命を申請しなくてはならないことになっている。だが欧州大陸では、ほとんどの国がシェンゲン協定に基づいて国境検査を廃止しているので、亡命申請者は自由に国から国へと移動できるのだ。

悲鳴を上げる地方自治体
亡命申請者のために寝泊まりする場所や食事などを用意するのは、地方自治体である。市町村からは、「もうこれ以上亡命申請者を受け入れるのは、不可能だ」という声が強まっている。(中略)

ドイツ南部のアウグスブルクに住むドイツ人の年金生活者は、「難民問題の根っこにあるのは、庶民の妬みだ」と言った。彼は、「多くのドイツ人が、家賃が安いアパートを見つけられずに困っている。だが難民たちは、国にアパートを見つけてもらい、家賃まで払ってもらえる。インフレのために、市電やバスの切符の値段もどんどん高くなっている。しかし難民たちは、公共交通機関の切符も国から支給される。このため、人々が難民に対して悪い感情を抱くのだ」と語る。

(中略)難民の中には、働かなくても4人家族で毎月約2800ユーロ(44万8000円・1ユーロ=160円換算)の援助金を国から支給されている人もいる。これは、ドイツの最低賃金で働く市民の毎月の収入約3000ユーロと大して変わらない。援助金が潤沢だと、必死で仕事を見つけようとする意欲も減る。これでは、額に汗して働く庶民が亡命申請者を妬むのも無理はない。(中略)

このためショルツ政権は11月7日に16の州政府首相たちとの協議の結果、亡命申請者への援助金などの削減や国境検査の強化、亡命申請が却下された外国人の国外退去の促進、州政府への難民対策援助金の増額などの対策を発表した。

政府は難民に現金を支給するのをやめて、商品などを買えるクーポン券に切り替える。外国人が、祖国の家族に送金するためにドイツに来るのを防ぐためだ。

外国人のドイツ到着後に亡命申請を審査すると、長い時間がかかるので、ショルツ政権は各国と協議して、外国人が欧州に到着する前に、域外で亡命申請を審査する制度が可能かどうかについて検討することも約束した。

亡命申請者は、原則としてドイツ到着後最初の3カ月間〜9カ月間は労働を禁止されているが、今後は法律を改正して、労働を奨励する。

しかしCDUのフリードリヒ・メルツ党首は、「政府の措置は不十分だ」と厳しく非難。AfDのアリス・ヴァイデル共同党首も、「これらの措置では、今ドイツが目指している亡命申請者数の大幅な削減を実現することはできない。亡命申請制度を根本的に変えることが不可欠だ」と発言した。

AfDは、憲法で保障されている亡命権の廃止を要求している。緑の党などのリベラル勢力は、亡命権の廃止に反対している。緑の党は、亡命申請者の権利の急激な制約については、批判的だ。このことが、市民の間で緑の党への支持が減る一因となっている。(後略)【11月22日 新潮社Foresight】
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【オーストラリア、カナダでも対応に苦慮】
“オーストラリアでは、昨年発足した労働党政権が移民受け入れの目標を引き上げた後、入国者が急増し、世論の不支持率が急上昇した。政権は今週、ビザ(査証)発給要件を厳格化し、「移住者を持続可能な水準に戻す」と表明した。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

****豪、留学生・低技能労働者のビザ規則厳格化 移民受け入れ半減へ****
オーストラリアは11日、留学生と低技能労働者のビザ規則を厳格化すると明らかにした。豪政府は同国の移民制度は「崩壊した」との認識を示しており、今後2年間で移民受け入れ数を半減させることを目指す。

新たな政策の下では留学生は英語テストでより高い点数を得る必要があり、2回目のビザ申請にはより厳しい審査が課されることになる。

オニール内相は会見で「新政策により移民の数は正常に戻る」と説明。「数字だけの問題ではない。わが国の未来に関わる話だ」とした。

アルバニージー首相は週末に、移民の数を「持続可能なレベル」に戻す必要があると述べ、「システムは崩壊している」と主張していた。

オーストラリアでは移民数(ネットベース)が2022─23年に、過去最多の51万人に達したと予想されている。新型コロナウイルス禍後の人手不足を補うため移民の受け入れを増やしたが、急激な移民増加で家賃が高騰しホームレスが増えるなど、弊害も指摘されている。【12月11日 ロイター】
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“カナダの自由党政権は移民を経済成長の支えとしてきたが、同様に世論の反対が強まり、支持率は急低下している。政権は新規の移民の受け入れ目標を引き上げるのをやめるとともに、先週には「パピーミル(利益追求のために劣悪な環境で犬を大量繁殖させる悪質業者)」のようだと称される学校を厳重に取り締まると約束した。こうした学校は低い基準で卒業証書を出すことで外国人学生を集めている。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

【西側共通の政治問題に 移民流入スピードのコントロールが重要】
各国ともそれぞれの事情・背景があっての問題ですが、“最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている”ということで、排斥に走るのではなく、対応がとれるように流入スピードのコントロールが重要でしょう。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
米英豪などで抑制できない政府に反感
(中略)
移民には、迫害や貧困から逃れてきた人々に安らぎを与えたり、受け入れ国の社会を豊かにしたりするなど、数量化できないメリットがある。

しかし、移民受け入れの通常の理由は経済的なものだ。企業は、労働力不足緩和のために外国人労働者を求めている。

しかし近年は、受け入れ国の一般市民にとっての経済的利益が、それほど明確ではなくなってきている。連邦準備制度理事会(FRB)当局者らは、移民によって労働力の供給が増え、賃金が抑制されたことが、今年の米国のインフレ抑制に役立ったとしている。しかし、米国生まれの労働者がそれを歓迎するだろうか。

一方、豪州では、移民が住宅不足を悪化させているとの不満が国民の間で広がっている。ニュージーランドの中央銀行は、移民の流入で住宅価格に上昇圧力がかかっているため、利上げが必要になるかもしれないとしている。カナダの世論調査会社レジェ・マーケティングの調査によると、カナダ人の75%は移民が住宅市場を圧迫していると考えている。医療と学校を圧迫しているとみている人の割合はそれぞれ73%と63%だった。

特定技能を持つ移民に対しては、国民からの支持がより高くなるのが常だ。それは、こうした移民が既存労働力の生産性を高めるからだ。豪州とカナダは、切実に必要な技能を持つ移民をターゲットにすることで、長い間移民への支持を維持してきた。だが、両国とも、移民の内訳は逆方向へと動いている。

豪政府が今年公表した報告書によれば、同国には就労が認められている一時滞在ビザ保有者が180万人いるが、その多くは低賃金の仕事にしか就けておらず、家族に合流するため、あるいは人道的プログラムにより永住が認められた移民も同様だという。

国民の「高技能移民に対する支持は強い」が、低賃金労働者の移民に対する支持は「そこまで明確ではない」と同報告書は指摘している。米国への不法移民は一般的に、米国生まれの国民より教育レベルも英語力も低い。

人口構造の変化は本来ゆっくりと起きるものだが、多くの人にとって、最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている。カナダ、豪州、英国への移民流入はいずれも過去最高となっている。(後略)【12月15日 WSJ】
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移民問題の「アウトソーシング」 オーストラリア、イギリス、イタリアの場合

2023-11-15 23:35:25 | 難民・移民

(【2022年11月15日 NHK】オーストラリアへの難民申請を求める人たちを移送・収容する南太平洋の島国ナウルの施設)

【オーストラリアの「パシフィック・ソリューション」】
多くの国が難民・不法移民の扱いには、人道的観点を重視して共生を目指すのか、受入れによって国内で惹起される様々な難題を重視して排除を原則とするのか苦慮していますが、排除の立場から、外国(多くは途上国)に資金提供して収容施設を建設し、そこに移送・収容するという、移民問題を「アウトソーシング」するような方策をとる国もあります。

オーストラリアが取っている「パシフィック・ソリューション」もその一つです。

****パシフィック・ソリューション****
2001年8月、オーストラリア政府は、400人以上の難民認定を求める人たち(多くはアフガニスタン人)を乗せた船が国内の港に入ることを拒否。乗船者の健康状態が悪化する中、オーストラリア政府は、ナウルとニュージーランドに移送することを決定した。船の名前にちなんで「タンパ号事件」として知られている。

これを機に、オーストラリアは、難民申請を求める人たちを上陸させず、他国で難民審査を行うため、2001年9月にナウルと、翌10月にパプアニューギニアと協定を結んだ。オーストラリアのこの措置は「パシフィック・ソリューション」と呼ばれるようになった。

こうした政策の導入について、当時のオーストラリア政府は、「オーストラリアは寛容で開かれた国であり、世界でも最も多くの難民を受け入れている国の1つである」とした上で、「私たちには誰が、そしてどのように来るのかを決める権利がある」と主張した。

「パシフィック・ソリューション」では、国際移民機関(IOM)がナウルとパプアニューギニアにおける施設の運営を担い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も初期の一部の難民審査に関わるが、その審査体制の透明性や施設の環境・人々の管理体制について、人道上の観点からUNHCRを含む国内外からの懸念や批判が絶えず、2008年に一度は解体された。

しかし、施設の閉鎖後、再び海からの不法入国者が急増したことで、2012年9月からナウル共和国への移送、2012年11月からパプアニューギニアへの移送を再開。

これに対して再び批判が高まり、パプアニューギニアの施設は2016年4月にパプアニューギニアの最高裁判所から「違憲状態にある」との判決が出される。2017年6月にはオーストラリア政府もこれを認めて収容された人に対して慰謝料を払うことを発表。施設は2021年末に完全に閉鎖された。

一方、ナウルとは、2021年9月「永続的な施設の維持を構築する」とする覚え書きを交わした。【2022年11月15日 NHK】
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【収容された人々には「自殺願望」「あきらめ症候群」】
こうした施設に収容された人々は「先が見えない状況」に長期間置かれることで、精神的に追い詰められることが多いことが報告されています。

****生きることをあきらめる人たち 絶望が招く「あきらめ症候群」*****
寝たきりになり、食べ物を食べなくなり、トイレにも行かなくなる。 そして、昏睡状態になって、痩せ細っていく。 安全な地で、人として当たり前の暮らしをしたい。 そう願って祖国を離れた人たちに待ち受けていたのは、“絶望”だったのかもしれません。

子どもが自殺願望を口にする、小さな島
「診察した患者のうち、60%に自殺願望がみられ、30%が未遂を起こしました。9歳の子どもですら“自殺”を口にして、実際に未遂をしていた状況は、あまりにも恐ろしかったです」
当時の状況をこのように話すのは、ニュージーランドの精神科医、ベス・オコナーさんです。

オコナーさんは「国境なき医師団」のメンバーとして、2017年の秋から約1年にわたり、南太平洋の小さな島国ナウル共和国に滞在しました。(中略)

難民認定を求める人たちの行き先は…
ナウルにあったその施設は、難民認定を求める人たちを収容する「ナウル地域処理センター(Nauru Regional Processing Centre)」という施設です。 そこで暮らしていたのは、オーストラリアでの難民認定を求めて、イラン、アフガニスタン、スリランカなどからボートで海を渡って来た人たち。

なぜ、オーストラリアでの難民認定を求めた人たちが、ナウルにいるのか? その理由は、オーストラリア政府がナウルと2001年に交わした「パシフィック・ソリューション」という措置です。

オーストラリア政府は、難民認定を求める人たちが密航業者などを通じて、危険な行路で海を渡る行為を根絶することを目的に、ボートでやってきた人たちをナウルなどへ移送・収容し、そこで難民申請などの手続きを行うとしたのです。

オーストラリア政府は、移送や滞在に必要な経費を負担するだけでなく、ナウルに対して追加の開発援助も行うことを表明。 ナウルの当時の大統領も「友が我々に頼んだ。我々は友人を助けることを決めた」と述べて、運用が始まることになりました。

これによって、ナウルに収容されたのは、最も多いときの2014年8月には、1233人に上りました。ナウルの人口1万人余りの10%近くに上る人数でした。

プライバシーのない暮らし
(中略)大人から子どもまでいた収容された人たち。診察した208人のうち75%が、施設に来る前に母国や旅の間で、何らかの精神的な苦痛を受けていたといいます。ナウルに到着したあとで、身体的な暴力を受けていた人もいたということです。

また、診察した人たちの約6割に中度から重度のうつ症状が見られ、心理的な安全を感じることができる環境が必要だったといいます。

しかし、収容された人たちは名前ではなく”番号”で呼ばれ、施設内では狭い場所に密集し、プライバシーのない状態だったということです。 長い人では4年以上も、そうした状況で暮らしている人もいたそうです。

収容された人たちは難民申請が認められれば、オーストラリアなどで暮らすことになっていましたが、いつ認められて施設を出られるのか、基準も明らかになっていなかったともいいます。

自殺を考え、生きることをあきらめる人たち
オコナーさんたちがヒアリングする中で特に驚いたのが、収容された人たちの多くに自殺願望がみられたことでした。

6割の人たちに自殺願望がみられ、3割が実際に未遂を起こしていたのだといいます。自殺未遂を起こした人の中には9歳の子どももいたということです。

オコナーさんたちは、自分の人生を自分で決めることが許されず、毎日が単調に過ぎていく中で、将来に絶望した人たちが、そうした願望を抱いてしまったと考えました。

さらに精神状態が悪化した子どもや大人の中には、ある症状が現れていたとオコナーさんは話しました。 それは「あきらめ症候群(生存放棄症候群)」と呼ばれるものでした。 

オコナーさんたちが現地で活動中「あきらめ症候群」の症状が出たのは、10人の子どもと2人の大人だったといいます。

ある子どもは、時間がたつにつれて引きこもるようになり、その後寝たきりになって食事もとらなくなったそうです。話しかけても言葉を返さず、寝ている場所で失禁するようにもなったといいます。

昏睡状態になり、鼻からチューブを入れて胃に直接栄養を送る必要がありましたが、高度な医療を行う設備がなかったことから、法廷に訴えることで、なんとかオーストラリアの病院に移送することができたということです。(中略)

詳しい原因は分かっていませんが、心の傷を抱えた人が、何年にもわたり先の見えない状況に置かれることで、生きることをあきらめたような状態になると考えられています。(後略)【同上】
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【イギリス ルワンダ移送を計画 最高裁は違法判断】
オーストラリアのパシフィック・ソリューションと似たような制度を導入しようとしているのがイギリスです。

****英政府、不法移民の対策に苦慮 ルワンダ移送計画は難航****
英政府が増加する不法移民・難民への対応に苦慮している。小型ボートで英国に入る密入国者は2018年から150倍以上に増え、受け入れ施設の費用などで財政を圧迫。

スナク政権はアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を推し進めたい考えだが、英控訴院は移送は違法との判決を下した。国連や人権団体、司法が計画に待ったをかけており、円滑な実現は困難とみられている。

英政府によると、英仏海峡を小型ボートで渡ってきた密入国者は22年に4万5700人を超え、前年の約2万8000人を大きく上回った。18年(299人)以来最も多い。

政情が不安定なイラクやシリアなどからの不法移民が増えたほか、バルカン半島のアルバニアからも仕事を求めて若者が殺到。犯罪組織が金銭を受け取り小型ボートを手配しているとの情報もある。

英国は受け入れ施設の費用などで年間約30億ポンド(約5440億円)を負担しているとされ、財政を圧迫。スナク首相は「不法移民の流入を阻止することは優先事項だ」と断言する。

スナク政権はルワンダに1億2千万ポンド(約218億円)を投資する代わりに、英国に密入国した亡命希望者を受け入れてもらう計画の実現を目指す。英国での居住を容認しない方針を明示することで密航を抑止する狙いがある。政権は今月、不法移民らの英国への難民申請を認めないとする法を成立させた。

ルワンダへの移送計画をめぐっては、ジョンソン政権が不法移民の増加は「医療や福祉の負担となる」とし昨年4月に掲げた。ジョンソン元首相は当時、1990年代の大虐殺を乗り越えて高度成長を遂げ、リビアなどから難民を受け入れたルワンダを「世界で最も安全な国の一つ」と強調した。

英政府は難民の生命や自由が脅かされない国を「安全な第三国」と定義している。移送された移民らはルワンダで亡命申請手続きを行い、申請が受理されれば、最長で5年間の教育や支援が受けられる。

しかし、国連や人権団体は計画を受け継いだスナク政権に厳しい目を向ける。グランディ国連難民高等弁務官は難民条約上の責任を他国に押しつけることは「国際的な責任分担に反する」と批判した。

強権的とされるカガメ大統領の下、ルワンダで難民が虐待されたとの報告もあり、メイ元英首相が移送による不法移民の人権状況の悪化を懸念するなど与党・保守党内でも計画に否定的な発言が目立つ。

英控訴院は6月29日、ルワンダを「安全な第三国」とみなせないとし、移送は違法との判決を下した。スナク政権は上訴の意向を表明したが、司法での争いは数年間続く可能性がある。

一方、スナク政権は非正規なルートで渡航した亡命希望者ら約500人を英南西部の港に係留させたバージ船に入居させる計画も準備。1日600万ポンド(約11億円)の宿泊費を削減できるが、この計画に対しても人権団体が亡命希望者らを船に閉じ込めるのは「残酷だ」と非難しており、「円滑に入居が進むかは不透明」(元議員)という。【7月30日 産経】
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イギリスで密入国者が増加した背景にはEU離脱もあります。
イギリスはEUから離脱したことで、フランスとの関係が悪化、。これまでフランス側で留め置いてもらっていた難民たちが、一気に海峡を渡ってきた・・・ということもあります。

EUからの移民急増を防ぐことを目的の一つに掲げたEU離脱の結果、逆に不法移民が急増することにもなっています。

上記記事にもあるように、グランディ国連難民高等弁務官は昨年6月、責任を「輸出」することは難民条約の考えに反すると指摘。イギリス政府の政策を「完全に間違っている」と非難する声明を発表しています。

イギリスのルワンダ移送計画に対する司法判断は、一審は「合法」としましたが、二審は拷問や非人道的な扱いを禁じる欧州人権条約(ECHR)に違反すると判断。イギリス政府は最高裁に上訴するとともに、ECHRからの脱退も辞さない強硬な姿勢を見せてきました。

そして、さきほど報じられている情報によれば、最高裁は15日、違法と判断しました。

****不法移民のルワンダ移送は「違法」 英最高裁が判断****
英最高裁は15日、難民申請をするために英国にたどり着いた不法移民を東アフリカのルワンダに移送する英政府の計画を違法とする判断を全員一致で下した。

厳格な移民政策をとってきた保守党のスナク政権に大きな打撃となるのは確実で、来年にも実施される総選挙で移民流入の阻止を公約に掲げる同党の選挙戦略にも影響を与えそうだ。

(中略)最高裁はこの日、「ルワンダで移民らが迫害を受ける恐れがある」と指摘して2審の判断を支持した。
最高裁は一方で「(計画では)迫害のリスクが取り除かれる必要がある」としており、英政府が今後、改訂版の移送計画を出す余地も残された。

スナク英首相は判断を受け「不法移民の阻止に向けてあらゆる手段を講じる」との声明を発表した。【11月15日 産経】
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【イタリア・メローニ政権 対岸のアルバニア移送で合意】
一方、移民・難民の最終目的がイギリスなら、その玄関口となっているのがイタリア。
そのイタリア・メローニ政権もイギリスと同様の政策を計画しています。移送先はアドリア海対岸と地理的にも近いアルバニア。

****伊、アルバニアに移民収容施設 「保護受ける権利侵害」と批判****
「不法移民排斥」を掲げるイタリアのメローニ政権が今月、同国の船が海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表した。送還に向けた対策強化が狙いで、移民らは難民申請の審査中、施設に留め置かれる。支援団体からはEU域外への移送について「保護を受ける権利の侵害」と批判の声が上がる。
 
「EU加盟国と非加盟国の協力のモデルになる」。メローニ首相は6日、アルバニアのラマ首相とローマで記者会見し、両国政府が合意した協定の重要性を強調した。来春までに二つの施設を開設予定で一度に最大3千人を収容可能。年間では最大3万6千人の手続きを処理できると見込む。【11月10日 共同】
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イタリアは南伊都市のバーリ近郊であるアルバニアのシェンジン港と内陸20キロのジャデル地区を使用し、イタリアから送還された移民を管理するコンピテンスセンター2つを建設する予定だ。2024年春より稼働開始を目標としている。

センターが建設される地域はアルバニアが無償で供与するが、センターの建設はイタリアの責任の下、建設費用も全額イタリアの自腹。

アルバニアのセンターに必要な医療サービスを保証するための医療体制を確立するのもイタリア当局の責任となる。
センター内の秩序と安全は、境界線と移動はアルバニアによって制御および管理されるが、管轄はイタリア当局になるので、イタリア法および欧州の関連法に従うという。【11月9日 Newsweek】
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メローニ政権は極右とも評される右寄り政権ですが、国内左派系野党は「本当の意味での国外追放だ」「イタリアのグアンタナモ収容所ってことだな」などと猛反対しています。

欧州委員会は書類を検討中であるとのこと。
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パキスタン 170万人超のアフガン不法移民を国外退去に  中国 脱北者を北朝鮮へ強制送還

2023-11-01 22:10:33 | 難民・移民

(パキスタン・チャマンのアフガニスタン国境で列をつくるアフガニスタン人難民を乗せたトラック(2023年10月31日撮影)【11月1日 AFP】)

【パキスタン政府 「不法移民」全員に国外退去命令 タリバン政権から逃れてきたアフガニスタン人も】
パキスタンはテロに関与しているとして、不法移民を11月1日を期限として全員国外退去させる方針を打ち出していますが、これには隣国アフガニスタンからの170万人を超える不法移民も含まれます。

****パキスタン、「不法移民」全員に国外退去命令 アフガン人も対象に****
イスラマバード(CNN) パキスタン当局は3日、国内の不法移民全員に対し、今月末までに国外へ退去するよう命じた。

暫定政府のブグティ内相は記者会見で、来月1日までに退去しない場合はあらゆる法執行機関によって追放すると述べた。

期限後には不法移民の事業や財産を没収し、不法に営業したりそれに加担したりした者は訴追すると予告した。
不法移民をかくまった国内の市民や企業も、「厳しい法的措置」の対象になるという。

偽の身分証明書や偽文書に基づく違法建築物を取り締まるプロジェクトチームも設置された。国家データベースと登録機関には、偽の身分証明書を失効させ、疑わしい例はDNA鑑定で確認するよう指示が出た。

国外退去の対象者には、隣国アフガニスタンから1979年のソ連の侵攻や、2021年のイスラム主義勢力タリバンの復権に伴って流入した173万人も含まれている。このうち数百人は、今年すでに国外へ追放されたとの情報もある。

ブグティ氏は会見で、今年国内で発生した大規模なテロ24件のうち、14件はアフガン人が実行したと指摘し、「証拠はある」と強調した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2日、タリバンの迫害を恐れてパキスタンへ逃げた多くのアフガン人が、同国で恣意(しい)的な拘束や追放の脅威にさらされているとして、深い懸念を示す声明を出していた。【10月4日 CNN】
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パキスタン政府は全アフガニスタン人の国外退去を望んでいるとのことで、不法移民だけでなく、滞在許可証を所有している者も強制退去させる考えのようです。

****パキスタン、アフガン不法滞在者を国外退去に****
(中略)国連の最新の統計によると、パキスタン国内には難民登録をしているアフガニスタン人が約130万人いるほか、88万人が滞在許可を得て暮らしている。

だが、移民問題を担当するシャーゼーン・ブグティ内相は、これに加え170万人のアフガニスタン人が不法に滞在していると主張した。

アフガニスタンでは、イスラム主義組織タリバンが復権した2021年8月以降、推定60万人がパキスタンに避難した。

国営通信APPは、ブグティ氏が会見で「パキスタンに居住する不法移民と不法滞在者に与えられた期限は11月1日だ」「出国しないのなら、州や連邦政府の法執行機関を総動員して強制退去させる」と述べたと伝えた。

政府筋がAFPに語ったところによると、政府は全アフガニスタン人の国外退去を望んでいる。「第一段階では不法滞在者、第二段階ではアフガニスタン国籍の人、第三段階では滞在許可証を持っている人が追放される」という。

在パキスタン・アフガニスタン大使館は3日、過去2週間で1000人以上のアフガン人が拘束されたとXに投稿した。うち半数がパキスタンに合法的に滞在しており、警察によるアフガニスタン難民に対する嫌がらせだと非難した。

ブグティ内相はまた、11月1日からは有効なパスポートを持ったアフガニスタン人のみ入国を許可するとしている。
アフガニスタン人は長年、パスポート代わりに同国の身分証明書で入国が認められていた。

アフガニスタンでは現在、パスポートの発行申請が殺到しており、取得までに長期間かかる。パキスタンの入国ビザ取得にはさらに数か月かかることもある。

ブグティ氏は取り締まりを実施し、アフガニスタン人の不法滞在者が所有する不動産や企業を没収すると警告している。 【10月4日 AFP】
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不法移民だから国外退去・・・もっともらしいですが、実質的には、戦乱を逃れてきた難民、タリバン政権の報復を恐れた亡命者などです。

またすでに何十年もパキスタン憎らし、生活基盤が完全にパキスタンになっている者も多く含まれます。

こうした者をアフガニスタンに強制退去させて、その者の安全はどうなるのか? 暮らしはどうなるのか? 大きな懸念があります。

****パキスタン 不法移民の強制送還 アフガニスタン人の安全に懸念****
イスラム主義勢力タリバンから逃れたアフガニスタン人が多く暮らすパキスタンの政府は、すべての不法移民を来月から強制送還する方針を示しました。国際的な人権団体などからは、本国に送還されるアフガニスタン人の安全への懸念が強まっています。

パキスタンにはおよそ40年前の旧ソビエトのアフガニスタン侵攻以降、戦禍を逃れた多くのアフガニスタン人が暮らしていて、おととしのタリバンの復権以降は、弾圧を恐れた前政権の関係者や人権活動家などが移り住みました。

こうしたなか、パキスタン政府はビザの取得や更新などの手続きを経ずに滞在しているすべての不法移民について、今月中に国外に退去するように求め、従わない場合は、来月から強制送還する方針を示しました。

パキスタン政府は、アフガニスタンからの不法移民は170万人に上るとしていて、今回の決定について、国内で発生するテロにアフガニスタン人が関わっている疑いがあるためだなどと主張しています。

首都イスラマバードでは地元当局がアフガニスタン人が暮らす一部の家を「不法な占拠を解消するため」などとして取り壊し、住民から非難の声が上がっています。

国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が強制送還の方針について「アフガニスタン人を迫害の危険にさらす」として中止を求めるなど、本国に送還されるアフガニスタン人の安全が脅かされることに懸念が強まっています。【10月29日 NHK】
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“アフガニスタンで実権を握る「タリバン」から逃れた移民も多く、国連機関は「強制送還されれば、人権侵害の重大な危機にさらされる」として中止を求めています。”【11月1日 TBS NEWS DIG】

パキスタン政府の強硬姿勢を受けて、すでに14万人超が出国したとも報じられています。

****パキスタンからアフガン不法移民ら14万人超出国、強制送還控え****
パキスタン当局は1日、アフガニスタン人を中心とする14万人以上の不法移民が既に出国したと明らかにした。2日からは国内に滞在する全ての不法移民を強制送還する方針を示している。

アフガンと国境を接する州の高官によると、この2週間で約10万4000人のアフガン人がイスラム主義組織タリバンに支配されている祖国に戻った。30年以上もパキスタンに不法滞在していた者もいたという。

一方、パキスタン内務省は不法移民の出国者数を14万0322人としている。(中略)

人権団体はパキスタンに強制送還措置の再考を求めている。 ただ、パキスタン政府は国内での武装攻撃にアフガン人が関与していると主張し、強硬姿勢を崩していない。【11月1日 ロイター】
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11月1日が期限ということで、国境には多くのアフガニスタン人が殺到しているようですが、タリバン政権も今回措置を批判しています。

****不法滞在のアフガン人、帰国期限迫り国境に殺到 パキスタン****
パキスタンに約170万人いる不法滞在のアフガニスタン人に対し、自主的に帰国しなければ強制送還するとした政府の期限が迫る中、10月31日には3万人近くが国境検問所に列をつくった。

パキスタンには、アフガニスタン人数百万人が暮らしている。そのうち、推定60万人が、イスラム主義組織タリバン(Taliban)がアフガニスタンの実権を再び掌握した2021年8月以降に避難してきた。

パキスタン政府は11月1日から、帰国を拒否する不法滞在のアフガニスタン人を、新設した収容施設に移送し、強制送還の手続きをすると発表していた。

パキスタンのサルフラズ・ブグティ内相は動画で、11月1日までは自主的な出国が認められるが、2日からは強制送還を行うと宣言した。

政府高官によると、カイバル・パクトゥンクワ州の国境では10月31日午後に少なくとも1万8000人が7キロにも及ぶ列をつくった。

入管当局によると、南部バルチスタン州の検問所には約5000人が押し寄せた。

タリバン暫定政府のモハマド・ヤクーブ国防相は、パキスタンの方針は「残酷で野蛮」だと非難している。

ペシャワルに住むアフガニスタン人の少女(14)はAFPに、滞在に必要な書類はないができるだけ長くパキスタンに残るつもりだと話した。
「アフガニスタンでは教育が受けられなくなるから私たちは故郷には帰らない」「父には、もし自分がパキスタン当局に逮捕されても帰るなと言われている。アフガニスタンには人生がないから」と語った。

首都イスラマバードでは、複数のアフガニスタン人学校が10月31日から休校している。教師らはAFPに、生徒が家族と一緒に身を隠しているからだと説明した。

市内では警察と政府関係者の立ち会いの下、貧しいアフガニスタン人が住んでいた、泥で造られた違法建築の取り壊しが行われていた。

難民の両親の元にパキスタンで生まれた男性(35)は自宅がブルドーザーに崩されるのを見ながら、「もうたくさんだ。道を教えてくれればきょうにも車を手配して出て行く。こんな屈辱には耐えられない」と嘆いた。

■前例のない取り締まり
パキスタンは、アフガニスタン人の強制送還は国の「福祉と治安」を守るためだとしている。
アフガニスタン難民の長期的な滞在が、パキスタンのインフラに大きな負担となっており、今回の方針は国民から幅広い支持を得られていると強調している。

弁護士や人権活動家らは、今回の取り締まりは前代未聞の規模だと指摘。当局に対し、アフガニスタン人が尊厳を持って去ることができるよう、もっと時間を与えるよう訴えてた。帰国を迫られている人の中には、数十年間パキスタンに住んでいる人もいる。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は10月31日、パキスタン政府は「脅迫、暴力、拘束」を用いて帰国を強制していると指摘した。【11月1日 AFP】
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【中国 脱北者を北朝鮮に強制送還 待ち受ける過酷な運命】
一方、中国でも北朝鮮からの脱北者の強制送還が問題となっています。

韓国の人権団体「北韓正義連帯」は10月11日、中国で収監されていた脱北者約600人が10月9日夜に北朝鮮へ強制送還されたと発表しました。  北朝鮮は8月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国境封鎖を緩和し、海外からの自国民帰国を認めていますので、今回送還はこれに伴う動きとみられています。

****中国が「多数の」脱北者を強制送還、韓国政府が遺憾を表明****
韓国は(10月)13日、中国が北朝鮮からの亡命者を「多数」、強制送還したと発表した。

人権団体らはこれに先駆け、少なくとも600人の北朝鮮国民が中国から送還されたと報告していた。韓国政府は、この報告が真実だという可能性があると述べたものの、送還された人数については明らかにしなかった。

人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」は、脱北者の多くは女性で、送還後に投獄されたり、性暴力を受けたり、殺される可能性があると指摘した。

中国の情報筋は、9日夜に数百人がトラックに乗せられ、収容施設から北朝鮮に送られたと報じている。

韓国統一省の具炳杉(クビョンサム)報道官は、「韓国政府は、いかなる状況においても、在外北朝鮮人を本人の意思に反して強制送還してはならないという立場を取っている。意思に反する強制送還は、国際規範のノン・ルフールマン原則に反する」と述べた。ノン・ルフールマン原則では、迫害される可能性のある難民や亡命希望者を追放・送還することを禁じている。

具報道官は、韓国は中国に抗議し、あらためて立場を表明したと述べた。一方、それ以上の詳細は明かさなかった。

国連のエリザベス・サルモン北朝鮮人権状況特別報告者によると、中国には違法入国した約2000人の脱北者が拘束されているという。

中国は脱北者を難民と認定せず、「経済移民」だとしている。外国政府や人権団体はこの立場を再考するよう促しているが、中国は脱北者を送還する政策を敷いている。

中国外交部の汪文斌報道官は12日、強制送還の報告について尋ねられると、「中国にはいわゆる『脱北者』というものは存在しない」と述べた。ロイター通信によると、汪氏は、経済的な理由で中国に不法入国した北朝鮮人に対して、政府は「責任ある態度」をとっていると述べた。

HRWは、北朝鮮が8月に国境を解放して以降、脱北者の強制送還への懸念が高まっているとしている。2021年7月以来、170人近くが強制送還されたことが確認されている。

また、今回強制送還された人々が、強制労働キャンプに収容される「深刻な危険性」があると指摘。さらに、拷問や強制失踪、処刑の可能性もあると述べている。

人権団体は、各国政府に「今回の中国の強制送還を非難し、将来的な強制送還を止めるよう呼びかけてほしい」と訴えている。

中国政府対しても、脱北者を難民認定するか、韓国など他国への安全な道筋を与えてほしいと要求している。【10月14日 BBC】
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脱北者の場合、中国当局から北朝鮮当局へ直接引き渡されますので、その後は完全に北朝鮮当局の管理下に置かれます。 脱北者がどのような境遇に置かれ、どのような処分を受けるか・・・想像に難くないところです。

****脱北者「看守は拷問のプロ」 中国での拘束・送還体験語る 今後も数百人規模か****
中国で拘束されていた多数の脱北者が、10月8日まで中国浙江省杭州市で開かれていた杭州アジア大会の前後に北朝鮮へ強制送還された。

過去に送還を経験した脱北者は、自らが体験した拷問などの人権侵害が繰り返されることを懸念する。今後も送還が続くとの見方もあり、韓国内からは中国政府に送還の停止を求める声が出ている。

◆「収容所で殴られ側頭部が陥没」
「強制送還という言葉がいかに恐ろしいかは、皆さんには想像できないでしょう」。23日にソウルで記者会見した脱北者の池明希チミョンヒさん(59)が、自らの経験を基に語った。

最初に脱北を試みたのは2010年7月。ブローカーを頼り、中国吉林省長春市に潜伏していた同年10月、中国当局に逮捕され、約3カ月後に北朝鮮両江道リャンガンドの収容所に送られた。

看守は韓国とのつながりを自白させるため、毎日池さんの顔が腫れるまで殴った。陥没した池さんの側頭部は今も治らない。
独房では自由にトイレに行くのも許されず、ズボンの中で排せつさせられたこともあった。

池さんは「看守は訓練を受けた拷問のプロだ。目も顔も真っ赤で、あえぎながらこん棒を振り上げて殴る。今も恐ろしい顔を忘れられない」と話した。

◆人権侵害に国際的な注目を
脱北は中国での出稼ぎ目的だと言い張って解放された。3回目でようやく脱北に成功し、16年から韓国に住む。強制送還は「中国政府の非人道的行為」だとして、「二度と起きないよう国際的な注目と支援をお願いしたい」と呼びかけた。

一緒に会見した脱北者支援団体の理事長で弁護士の金泰勲キムテフン氏は、今後さらに数百人が北朝鮮に送還される恐れがあると指摘する。

アジア大会閉幕翌日の10月9日には脱北者約600人がまとめて強制送還されたとされるが、中国で逮捕された脱北者女性から伝わった情報では、吉林省の収容施設では9日以降も脱北者170人程度が拘束されていた。金氏は同様の施設が中国に5カ所あるとみる。

別の支援団体は、中国で拘束されていた脱北者全員の約2600人がアジア大会前後にすでに強制送還されたとの見方を示している。

一方、金氏は女性の情報などに基づいて、一連の強制送還はまだ終わっていないと分析している。

北朝鮮は、中国で新型コロナウイルスが広まった20年1月から続けてきた国境封鎖を今年8月末に解いた。中国国内ではこの間に拘束された多数の脱北者が滞留していたが、中国側は大規模な送還が国際的な批判を受け、アジア大会に支障が出ることを避けるため、大会閉幕を待ったとみられる。

◆韓国側、中国に「懸念」
尹錫悦ユンソンニョル政権は脱北者の問題を重視しており、韓国統一省は10月19日、在韓国の各国大使館や国際機関の関係者を集めた説明会を開き、強制送還を防ぐための協力を要請した。アジア大会で習近平しゅうきんぺい国家主席と会談した韓悳洙ハンドクス首相は「懸念を伝えた」と説明している。

脱北者らで運営するラジオ局「自由北韓放送」代表のキム・ソンミン氏は「署名活動や大使館前でのデモなどできることは全てやった。後は尹大統領自身がメッセージを発信するしかない」と話した。【11月1日 東京】
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中国は脱北者の強制送還を巡り国際社会から人権軽視だと批判されていますが、北朝鮮との外交関係を優先し、残る脱北者についても追加的に強制送還する準備を進めているとのことです。


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イタリア最南端ランペドゥーザ島で急増する移民 ポーランド・ベラルーシ国境で再び「移民の武器化」か

2023-09-18 23:33:26 | 難民・移民

(ランペドゥーザ島で伊本土への移送を待って列に並ぶ移民たち【9月16日 CNN】 人口7千人未満の島に2日間で7千人が到着したとも)

【移民・難民急増でイタリア・メローニ首相、「持続不能」】
欧州を目指す不法移民・難民の問題は欧州にとっては社会不安を惹起し、政権を揺るがしかねない大きな問題ですが、最近北アフリカからイタリア最南端ランペドゥーザ島に到着する移民・難民が急増しています。

****不法移民、過去最多の上陸=1日で5100人―伊最南端島****
北アフリカから海路で欧州を目指す不法移民らの上陸地として知られるイタリア最南端ランペドゥーザ島に12日、密航船110隻で計5100人余りが到着した。1日の人数としては過去最多。ANSA通信が13日伝えた。
 
ランペドゥーザ島には13日午前も移民ら約1300人が上陸。同日未明には生後5カ月の乳児が船から転落し、水死した。母親は西アフリカ・ギニア出身の少女で、親族らと共に北アフリカのチュニジアを出港したという。
 
イタリアに上陸する移民らはこのところ急増。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年は9月10日までに計11万5200人と、前年同期の2倍近くに達している。【9月14日 時事】 
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1日で密航船110隻というのは想像しがたい数字です。

以前から多くの者が利用していた密航ルートではありますが、ここにきて急増している背景には、天候が密航に適していること、従来の危険な木造船に代わって金属製ボートが使用されるようになったこと、トルコやバルカン半島を通過する陸上ルートが「壁」の建設などで利用が難しくなっていること・・・などがあるとも報じられています。

この事態に、イタリアのメローニ首相は「持続不可能だ」として、EUに対応を求めています。

メローニ首相は移民・難民に厳しい極右政党を率いています。これまでのところは「極右」としての突出した対応は報じられていませんが、まだ移民・難民が急増していなかった4月に非常事態を宣言し「強制送還」の方針を示しています。

****イタリア首相、EUに対応要求=移民問題、もう「持続不能」*****
イタリアのメローニ首相は15日、中東や北アフリカから不法移民が大挙して押し寄せている現状に一国で対処するのは「持続不可能だ」と述べ、密航船の阻止など問題解決に向け、欧州連合(EU)に積極的な関与を求めた。X(旧ツイッター)に投稿した動画で語った。

移民急増の背景には、アフリカの貧困や治安悪化、自然災害、クーデターなどの政情不安があると指摘される。

動画でメローニ氏は、ミシェルEU大統領に書簡を送り、10月のEU首脳会議で移民対策を議題とするよう求めたと明らかにした。フォンデアライエン欧州委員長には、海路で欧州を目指す移民らの上陸地として知られるイタリア最南端ランペドゥーザ島を共に訪れ、実態を直視するよう提案したという。【9月16日 時事】
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上記メローニ首相の要請を受けて、フォンデアライエン欧州委員長がランペドゥーザ島を視察、対策強化を発表しています。

****イタリア南部の島で移民が急増 EU委員長、対策強化を発表 アフリカ諸国への資金援助を加速****
イタリア南部のランペドゥーザ島で、アフリカからの移民が急増していることをめぐり、EU(=ヨーロッパ連合)のフォンデアライエン委員長が17日、島を訪問し、移民対策の強化を発表しました。

イタリアでは今年に入り、去年と比べて2倍にあたる、およそ12万6000人の移民が到着しているほか、南部のランペドゥーザ島では先週、島の人口よりも多い、およそ7000人の移民が押し寄せ、大きな問題となっています。

こうした中、AP通信によりますと、EU(=ヨーロッパ連合)のフォンデアライエン委員長が17日、イタリアのメローニ首相とともにランペドゥーザ島を視察し、10項目からなる移民対策の計画を発表しました。

計画では、違法に入国する移民の取り締まりを強化する一方、チュニジアなどアフリカ諸国への資金援助を加速させることで、急増する移民を抑制するとしています。

イタリア政府は今年4月、急増する移民について、非常事態を宣言し、違法に入国する移民を強制送還する方針ですが、国連は「イタリアなど最前線の国だけが移民を受け入れるのではなく、周辺国が歩み寄って解決する必要がある」として、各国に移民受け入れへの協力を呼びかけています。【9月18日 日テレNEWS】
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【ポーランド・ベラルーシ国境で再び「移民の武器化」か】
欧州を目指す移民・難民に関するもう一つのニュース。

ベラルーシ・ルカシェンコ大統領の強権支配とそれを批判する欧州諸国の対立を背景に、2021年10月、11月頃、ベラルーシが移民・難民を意図的にポーランドに送り込み、政治状況を悪化させようと試みている、これを阻止しようとするポーランド当局との間で移民・難民は蹴られるボールかピンポン玉のように翻弄されている、そして寒さで生命の危機も・・・という案件がありました。


いったんは沈静化していましたが、また同じような動きがあるようです。

****ポーランド ベラルーシからの違法越境が急増で警戒強化****
ポーランドでは、ことしに入って隣国のベラルーシから国境を違法に越えようとする人たちが急増していて、ポーランド政府は、ベラルーシが移民を意図的に越境させ国境地帯を不安定化させようとしていると警戒を強めています。

ポーランドはベラルーシとおよそ400キロにわたって国境を接していて、2年前、ベラルーシ側にヨーロッパを目指す中東やアフリカの人たちが大勢集まって越境しようとし混乱に陥りました。

その後、ポーランド政府は国境地帯のあわせて190キロにフェンスを設置しました。

国境警備隊によりますと、ことし1月から先月までの越境の件数は、未遂も含めて2万件を超え、去年1年間をすでに5000件近く上回っています。

国境地帯には川や沼などでフェンスがない場所も広範囲にわたり、国境警備隊は数十機のドローンを使って上空からのパトロールを強化しています。

国境警備隊の広報担当者は、NHKの取材に対し、監視カメラの映像などから、ベラルーシ軍が移民を車で運び越境しやすい場所を教えるなど越境を支援している証拠があると主張しています。

さらにポーランド政府が懸念しているのは、ベラルーシが受け入れたとされるロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員の存在です。

ポーランド政府は戦闘員が越境しようとする人に紛れて何らかの工作活動を行うことを懸念していて、先月、国境警備を増強するため、新たに1万人規模の兵士の派遣を決めました。

ポーランド政府の主張についてベラルーシのルカシェンコ大統領は否定しています。

「ハイブリッド攻撃」のおそれも
2年前、ポーランドとベラルーシの国境にヨーロッパを目指す中東やアフリカの人達が大勢集まって越境しようとし、混乱に陥りました。

この事態をめぐり、ポーランドを含むEU=ヨーロッパ連合は、ルカシェンコ政権が偽情報の拡散やサイバー攻撃など非軍事的手段も組み合わせて相手国の不安定化を狙う「ハイブリッド攻撃」に移民を利用したと非難しました。

欧米メディアでは「移民の武器化」などとも呼ばれました。

ポーランド政府は、ことし、違法な越境が急増していることを受け、ベラルーシが再び移民を利用しようとしていると警戒しています。

さらに、モラウィエツキ首相は、ことし7月、ロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員がポーランドとの国境地帯に向けて移動しているとの情報があるとし、戦闘員が「ハイブリッド攻撃」に利用されるおそれがあると懸念を示しました。

ポーランド政府は、ロシアが同盟関係にあるベラルーシの背後で国境地帯の不安定化を画策しているとみていて、先月、ブワシュチャク国防相は「軍事的に見ればベラルーシがロシアの一部であることは周知の事実だ。『ハイブリッド攻撃』がロシア側で調整されていることは間違いない」と述べ、ロシアをけん制しました。

一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、移民の利用を否定していて、先月末、ワグネルの戦闘員についての懸念に関しても「根拠がなくばかげたことだ」と述べるとともに、ポーランドが国境周辺へ軍を派遣して緊張を作り出していると批判しました。

安全保障の専門家「ロシア 突きつける脅威とみるべき」
ポーランド政府が国境警備を強化していることについて、安全保障政策に詳しいポーランドのシンクタンクのヤロスワフ・コチシェフスキ氏は「ポーランドは選挙モードに入っている。政府は国境の問題を利用しようとしているように見える」と話し、来月の議会選挙を前に国の安全に取り組む姿勢をアピールするねらいがあると指摘します。

その一方、「『ハイブリッド攻撃』だけでは他国を侵略することはできないが、弱体化させることはできる」とも話し、ベラルーシ側の動きには対応する必要があると説明します。

そして、「大局的に国境地帯で起きていることは、ロシアがヨーロッパの中部と東部に突きつける脅威とみるべきだ。ロシアがウクライナにとどまらず活動を広げようとするならば、ベラルーシを利用する。ポーランドやバルト三国はそれを懸念している」と話し、NATO=北大西洋条約機構に加盟するポーランドなどとロシアの同盟国ベラルーシが国境を接するこの地域の情勢に注視する必要があると強調します。【9月17日 NHK】
***********************

ポーランド側の国内政治事情も関係しているとの指摘もあり、実態がどれほどのものになっているかは定かではありません。ポーランド側は、ベラルーシ当局が移民・難民にフェンスを超えやすい場所を教え、はさみや梯子も与えていると主張しています。

なお、差別的政策やメディア規制でEU内にも批判があるポーランドの下院選挙は10月15日予定です。

****ポーランド、10月に下院選 8年の保守政権に審判****
ポーランドのドゥダ大統領は8日、下院(定数460、任期4年)選挙を10月15日に実施すると発表した。約8年政権を維持する保守与党「法と正義(PiS)」に審判が下される。愛国主義を掲げるPiSは法の支配を巡り欧州連合(EU)との溝を深めており、結果次第でEUとの関係改善につながるかどうかも注目される。

ロイター通信などによると、世論調査でPiSが中道の最大野党「市民連立」をわずかにリード。PiSは子育て世代への補助や年金増額などの政策で人気を集めてきたが、メディア規制やLGBTなど性的少数者に対する差別的な政策などへの反発も強い。【8月9日 共同】
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“現時点では与党がわずかにリードするものの、景気減速で支持は伸び悩み、野党が追い上げる構図”【9月17日 Kabutan】とも。接戦のようです。

【人道支援における“格差” 人道とは言っても善意でなく、やはり戦略的、政治的なもの】
移民・難民に関しては、以前から欧米の支援対応に“格差”があることが指摘されています。
端的に言えば、ウクライナ難民に関心があつまる一方で、アフリカの難民の窮状は無視される・・・・といった現実。

****【支援の“格差”】ウクライナへの支援が集まる一方で多くの難民は過酷な環境に… 人道支援の実態とは?****
ロシアの侵攻によりウクライナ避難民には各国から支援が集まっている。一方で、同じように紛争から逃れてきたのにも関わらず、数多くの人たちが中々支援が受けられないでいる。大阪大学大学院国際公共政策研究科教授・GNV編集長のヴァージル・ホーキンス教授に人道支援の課題を聞いた。

<<以下、ホーキンス教授インタビュー全文>>
――紛争は世界各地で起きているのに、ウクライナとそれ以外の地域で支援に大きな差があるのはなぜか。
人道支援は、人道と呼ばれてはいるものの、人命を中心に決められるものでもない。国が支援を出すということ自体が、善意でやってるというのではなく、やはり戦略的、政治的なもの、もしくは、自国のあるいは自分の政権のイメージアップを図るためのものである場合が多い。

ウクライナはわりとわかりやすい。ロシア=ウクライナ戦争がヨーロッパで起きてるわけで。世界において影響力の大きい西側諸国たちの関心が非常に強い。

さらに、冷戦の時から敵視してきたロシアという強敵があるので、“とにかくロシアを止めないといけない”というような政治的な利益は、西ヨーロッパにもアメリカにもある。つまり、これらの国の利益に非常に大きく一致している。日本ももちろんその中に入る。

一方、“世界最悪の人道危機”といわれるイエメンは、実は政治的利益が絡んでいるが、逆のパターン、つまり注目したくないパターンだ。

サウジアラビアがイエメンに攻撃を仕掛け、イエメン全国を囲んで、人道危機を引き起こしているが、アメリカも日本もサウジアラビアを支援する側に立っている。つまり、侵攻する側、人道危機を引き起こしている側、攻撃を仕掛けている側を支援しているので、目をつぶった方が得ということだ。

アフリカになると、逆にその戦略的な政治的な関心が低くなってしまう。政権をどうしても守らなくてはいけないなどのような側面があまりないので、戦略的な価値が低く見られる。

――紛争の被害国の状況と世界の支援状況には、どれほどギャップがあるのか。
アメリカがウクライナに出している支援だけで見ても、全世界のすべての国がほかのすべての国に国連を通して出している人道支援の額を上回っている。

ウクライナで苦しんでる人は当然たくさんいて、人道支援が必要なのは間違いないが、そこでたくさんの人が飢え死にしているわけではない。一方で、イエメン、南スーダン、コンゴ民主共和国、マリでは、多くの人々が飢え死にしている。

人道的なニーズが全く違うにも関わらず、お金が集まっていない。今の世界の支援の状況と、紛争による被害の状況、その人道的なニーズは、どう見てもバランスがおかしい。

さらにいえば、国連が人道支援を集める際に、これぐらいのお金が必要だ、というニーズを発表するが、これも実は実態とはズレている。つまり、ニーズそのものではなくて、どれぐらいが集まりそうか、ということを考慮して設定することがある。

例えば、約20年前にアメリカがイラクに侵攻した際、アフリカの紛争の人道的なニーズの方が大きかったのにも関わらず、イラクに対する国連が出す人道的なニーズの金額の方が圧倒的に多かった。それはアメリカが国としてのイメージ回復のために資金をたくさん出すだろうと想定されたからだ。

今回もウクライナは大きく注目されていて、多額の支援金を出す国が複数あるなかで、ニーズは高く設定されている。しかし、逆にコンゴ民主共和国に対しては、どう頑張っても十分には集まらないと分かっているため、ニーズ自体も低く設定されているのが現状だ。

――メディアが注目していないけれど、規模でみると大きな人道危機が起こっている地域は、どのような理由で注目されないのか。
コンゴ民主共和国、南スーダン、イエメンなどメディアが注目していない地域というのも、国からの視点で考えると、やはり政治的、あるいは戦略的な価値が低いとみられるようなところだ。

国民側の視点から考えると、その被害者たちにどれほど共感ができるのか、というところだ。この共感できる要因については様々な側面があるが、ひとつの側面は、やはりその生活水準だ。

ウクライナにいる人たちが自分とちょっと似たような暮らしをしていそうだ、車に乗っている、アパートなどに住んでいる、といった考えだ。一方、南スーダンの農村部に暮らす人たちの生活には、あまり共感ができない、という側面がある。

また、日本のメディアはアメリカのメディアにも影響を受けているので、アメリカが重要視していることを日本も重要視する傾向がある。色々な要素が複雑に絡み合っている。

現在、ウクライナ以外のほかの国からも多くの難民が出ている。今年、紛争が起きたスーダンにおいても、日本人が飛行機に乗って去ってから報道はほとんど消えたが、紛争は当然終わっておらず、むしろ大きくなっている状態だ。今年だけで、現時点で約480万人の難民と避難民が出ていると言われている。

メディアと人道支援は密接に関わっている。つまり、メディアの注目が集まっているところにも支援が集まり、注目されてないところには多くの支援は集まらない。

卵と鶏の話ではあるが、メディアがどこに注目するかが、多くの人命に関わっている。【9月18日 日テレNEWS】
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移民・難民問題は、世界政府が存在せず、国家に分かれている現実のもたらす「欠陥」だと思います。
そうしたなかで、格差があろうが、差別的であろうが、何らかの“人道支援”が行われるだけ、昔の世界に比べまだまし・・・と考えるべきでしょうか。
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欧州  難民受け入れの限界を訴える声 受け入れの分担で合意 反対国もあるなか、承認は今後

2023-08-30 23:06:30 | 難民・移民

(ベルギー・ブリュッセルで、テントで生活する亡命希望者(2023年3月2日撮影) 【8月30日 AFP】)

【EU内相理事会 難民受け入れの分担で、反対国はあるものの一応の合意】
「難民」の問題は、現代国際社会の大きな問題のひとつです。現在の「国」を前提にしたシステムではうまく処理できない問題のようにも見えます。

「難民」と言っても、その背景は様々。
紛争の戦火から逃れる難民、政治的迫害から逃れる難民、ギャングなど治安の悪化から逃れる難民、自国では食べていけないということで、よりよい生活を求めて移動する経済難民・・・等々

最後の経済難民については、単なる不法移民に過ぎないという考えもあるでしょうが、出国の必然性に関する線引きは難しいところもあります。

難民の数が増加すると、人道上の配慮の必要性はわかるものの、現実問題として受け入れ国側も対応に苦慮することになります。 
あるいは、「苦慮」するまでもなく難民を拒否する国もあります。


欧州各国はドイツなど難民への配慮を重視する国の存在もあって多くの難民を受入れてきましたが、そのことが大きな社会問題をも惹起し、難民・移民に否定的な世論の台頭を招くことにもなっています。

また、難民への対応についてドイツのような寛容な国がある一方で、中東欧諸国は一般に否定的であり、また、中東・北アフリカからの「玄関口」となっているギリシャ・イタリアなどとその他の国の違いもあって、欧州内部でも統一的対応が困難な問題となっています。

一方で、状況は悪化しています。

****地中海渡る移民が急増 今年だけで死者2153人 過去6年で最悪****
アフリカや中東から地中海などを通ってヨーロッパへと渡った移民の数が今年に入って急増していることが国連の調べで明らかになりました。

国連のIOM(国際移住機関)によりますと、今年上半期にボートに乗るなどしてヨーロッパへと渡った移民の数が去年の同時期に比べ50%余り増え、約9万5000人に上り、2018年以降では最多となりました。

そのほとんどが地中海を渡ってきたもので、装備が不十分なボートに定員オーバーで乗っている場合も多く、転覆などにより、今年だけでここ6年では最悪となる2153人の死亡が確認されています。

アフリカ北部のチュニジアやリビアが主な出発地となっていて、イタリアやギリシャを目指す事例が多いということです。

先月には700人余りを乗せてリビアを出発した船が転覆し、数百人が犠牲となった事故も起きています。

移民急増の原因については貧困問題に加え、ウクライナ侵攻による食糧事情の悪化、気候変動により広がる干ばつなどが影響しているものとみられています。【7月26日 テレ朝news】
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難民船事故増大を憂えるローマ教皇フランシスコは8月6日、砂漠に置き去りにされた難民らを念頭に、「地中海は墓場だが、最大の墓場は北アフリカだ」と懸念を表明しています。

EUでは今年6月、この各国の立場が異なる難民問題に関して、各国の分担ルールに関する“一応の”合意がなされました。

****EU内相、難民受け入れの分担で合意****
欧州連合(EU)は8日の内相理事会で、移民・難民受け入れの負担を分担することで合意した。

シリアの戦火を逃れた難民を中心に100万人以上が地中海から流入した2015年の移民危機以降、受け入れ問題で加盟国間の溝が深まっていたが、ようやく合意にこぎ着いた。

イタリアやギリシャなど地中海沿岸国は海から渡ってくる難民への対応で他の国々の支援を求めてきた。両国はこの日、12時間の交渉の末に合意を受け入れた。

具体的には各国が受け入れる移民・難民の人数枠を設けるが、受け入れを義務化せず、受け入れを拒否する国は代わりに、受け入れ国に1人当たり約2万ユーロの現金や資材、人材を提供すると定めた。

合意案は2024年のEU欧州議会選挙前に最終決定される見通し。【6月9日 ロイター】
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要するに、受け入れない国は難民一人当たり300万円ほどのカネを出せ・・・というものです。
ただ、“合意”とはいっても反対する国はあります。欧州議会での承認はこれからです。

****EUの難民受け入れ分担案「承服できない」 ハンガリー首相****
欧州連合(EU)の加盟国内相が合意した、難民と移民の受け入れに関する規則を改定し受け入れを分担する案について、ハンガリーのオルバン・ビクトル(Viktor Orban)首相は9日、「承服できない」と反発した。

オルバン氏はフェイスブック(Facebook)に「EUは権力を乱用している。ハンガリーに移民を強制移送しようとしている。承服できない。ハンガリーを無理やり移民国家に変えようとしている」と投稿した。

EU加盟国は過去数年にわたり、難民をめぐる方針で対立してきた。内相らは8日にルクセンブルクで開かれた会合で、難民らの受け入れの負担をより公平に分担することで合意した。合意案は今後、人口の合計がEU全人口の少なくとも65%に当たる国々の承認を受けなければならない。

加盟国間の相互支援を義務付けるこの案では、二つの選択肢のうち一つを選ぶことができるとしている。優先される選択肢は、主にEU圏の外側に位置するギリシャやイタリアにたどり着いた難民を分担して受け入れること。

受け入れを望まない国は、難民1人当たり2万ユーロ(約300万円)を、EUが運用する基金に納めるという二つ目の選択肢を選ぶこともできる。
  
ポーランドとハンガリーは同案に反対。ブルガリア、マルタ、リトアニア、スロバキアは棄権していた。【6月9日 AFP】
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【難民受け入れの限界を訴える国々】
反対はあるものの、難民受け入れの限界を訴える国も。

****亡命希望の単身男性、シェルター受け入れ一時停止 ベルギー****
ベルギー政府は29日、亡命希望の単身男性について、国内シェルターでの受け入れを一時的に停止すると発表した。シェルター不足を受けた措置。

ベルギーでは昨年から亡命希望者の流入が急増しており、すでに逼迫(ひっぱく)していた受け入れ制度の負担が深刻化している。

ニコール・デムーア難民・移民担当国務長官は今回の措置について、入国する家族や子どもの数が増えることが予想されるためと説明した。「子どもたちが路上で倒れるような事態は避けたい」としている。

また、欧州連合加盟国内での難民・移民の受け入れに関する負担が不平等だと指摘した。
「わが国は長年、相応以上の受け入れをしてきたが、これ以上続けるのは不可能だ。今年はこれまでに1万9000人以上の亡命希望者が登録している。一方、人口が同じぐらいのポルトガルの受け入れ人数は1500人だ」

EU加盟国は6月上旬、長らく停滞していた亡命希望者受け入れに関する規則の改正で合意した。亡命希望者の受け入れ負担をEU全体で分担し、受け入れを拒む国は受け入れ国に金銭を支払うことが盛り込まれている。

だが、改正案の採択をめぐり、加盟国間で激しい議論となっているほか、欧州議会による承認も必要となる。 【8月30日 AFP】
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****これ以上の治安悪化は国民が許さない…EU諸国がこれまでの「難民擁護」を見直しはじめたワケ「生活苦」で海を渡る人たちをどうするべきか****
甲板までぎっしりと人が埋まっていた
6月14日未明、地中海でリビアからイタリアへ向かおうとしている難民船が転覆し、500人超が死亡したとみられる。15日の段階で確認された死者は79人、救助されたのが100人ちょっと。(中略)

なぜ今回は大きく報道されなかったのか
ところが今回は、過去最悪レベルの事故となりそうなのに、人権を声高に叫ぶNGOのコメントもなく、事実を淡々と報道するにとどまっている。

その背景にあるのは、EU各国政府の難民政策の変化だ。そして、主要メディアはいつものごとく、政府に歩調を合わせているのだろう。あるいは、もう難民の悲劇は珍しくなく、ニュースの価値がないのかもしれない。(中略)

国境の管理というのは、主権国家の重要な仕事の一つであり、それが機能しないと、いったい自国に誰が何人住んでいるのかがわからず、国家の体をなさなくなるが、現在、EUはまさにその瀬戸際のところにいる。(中略)

大半の難民は、生命の危険があるからではなく…
(難民認定)審査に通れば一定期間の滞在が可能になる。ただし、母国の状況が好転すれば戻ることが前提だ。片や審査に通らなかった人たちは、本来ならば出国しなければならないが、現在はそれがほとんど機能していない。

なお、誰もが難民になれるわけではなく、現在、シリア、アフガニスタン、イラクなど、本当に生命の危険があるとされている国以外の難民はチャンスが少ない。単に「生活が苦しい」では難民申請はできない。

ところが実際には、チャンスが少ない国々の生活苦に苛まれた人たちが、命がけでEUに侵入してきて、さまざまな理由で申請を行うため、収拾がつかなくなっている。前述の遭難船の乗客も、エジプト人とパキスタン人が多かったというが、どちらも、本来なら難民申請が受理されにくい国だ。

前述の“EU各国の難民政策の変化”とは、主だったものを挙げると下記のようになる。
スウェーデンはこれまで半世紀近く、来る者はすべて受け入れ、難民と移民はほぼ同意語だったが、現在180度の方向転換中。理由は治安の劇的な悪化だ。特に銃を使った犯罪が急増している。そこで、移民・難民の8割減を目指し、来年からは原則として永住権は与えない。

また、犯罪者や麻薬常習者はもとより、売春に関わった者、過激派と接点のある者などは、すでに与えた滞在許可も剝奪。帰化は特に難しくする。なお、これまで多くの移民や難民を受け入れていたデンマークも、すでにスウェーデンと同じ方針だ。

行き場のない難民を押し付け合っている
一方、EUの外壁に位置するハンガリーはセルビアとの国境に、EUの南方の飛び地ともいえるギリシャはトルコとの国境に、それぞれ柵を造った。

ただ、ギリシャは海上でも、トルコ当局との間で、難民船の熾烈しれつな押し戻し合戦を展開している。それを一部のEU国が非人道的であると非難していたが、だからといってそれらの国々が積極的にその難民を手分けして引き受けるわけでもない。ギリシャにしてみれば、柵を造れないだけに、海からの難民は深刻な問題だ。

英国では法律が改正され、今後、不法入国者は難民申請ができないばかりか、見つかれば逮捕状なしに最大28日間拘束され、追放になるという(例外は18歳以下と病人など)。また、ドーバー海峡を越えて侵入する難民を防ぐため、フランスに5億4000万ユーロ(3年分)を提供し、厳重に監視してもらうことも決まった。

さらに、これまで中東やアフリカから一番多く難民が流れ着いているイタリアでは、現メローニ政権が難民そのものよりも、難民を運んで暴利を得ている組織の取り締まりを強化するという。ただ、彼らは国際的なプロの犯罪組織なので、そう簡単に尻尾を掴ませるかどうかは不明だ。

いずれにせよ、これまでドイツの主導もあり、難民の権利や人道を掲げ続けていたEUだが、今や受け入れ能力が限界を超え、治安が悪化し、国民の不満が膨張してきたことで、急速な仕切り直しが始まっている。

“入ってきた者勝ち”になっているドイツ
そんな中、今なおドイツだけが従来の方針を固持しており、それどころか、21年12月に社民党政権になって以来、難民擁護はさらにエスカレートしている。最近になって難民申請の条件も帰化の条件も緩和された上、審査中に殺人を犯した難民希望者でさえ、「母国に送り返すと死刑になるかもしれない」という理由で送還を拒否している状態だ。

ドイツは、政治的に迫害されている人を庇護するということを憲法に明記している唯一の国で、元々、難民には親切だったが、今ではまさに“入ってきた者勝ち”だ。

そんなわけで、これまでなかなか統一した難民・移民対策を編み出せなかったEUだったが、6月8日、ようやく各国の内相が集い、大筋の方針が合意を見た。結果を言うなら、今後、EUは難民受け入れにブレーキをかけることになる(これはドイツの影響力の低下とも無関係ではないだろう)。

新しい法案によれば、難民はこれまでEU域内のどこかに着地すれば、そこで難民申請ができたが、今後はEU国境が厳重に見張られ、難民(希望者)はEU域内に入る前に、国境のところに新設される施設に収容される。そして、脱走しないよう監視され、身元確認が行われ、難民として認められるチャンスがあるかどうかが審査される。

「人道的」では成り立たなくなっている
その結果、あるとみなされた人だけが難民申請に進み、その他の人はEUには入れず、もちろん申請もできない。現在、密航の多いチュニジア、モロッコ、エジプト、バングラデシュなどからの難民希望者のほとんどは、ここで門前払いになるだろう。

もちろん、この法案にドイツは最後まで反対した。現内相は社民党のフェーザー氏だが、氏は子連れの難民に限り、国境での収監と審査を免除するよう強く主張。子供は学校へ行くべきであり、国境で閉じ込められ、犯罪者扱いされるのは非人道的であるという理由だ。

ただ、EUは現在、まさにこの「人道」を行き過ぎであるとして、縮小しようとしており、フェーザー氏の主張はあっさりと却下。法案が欧州議会に回った時点で、若干の修正はあるかもしれないが、無制限に難民を入れ続けようとするドイツはすでに孤立している。

もっとも現実問題として、難民希望者や不法入国者の母国送還は簡単ではない。新しい規則ができたからといって、彼らが素直に祖国に戻るはずはないし、罪を犯した難民でさえ、彼らの母国が引き取らない限り送り返せないのが現在の国際法だ。

しかも実を言うと、国境のところに造るという施設も、EUの内側なのか、外側なのかさえ決まっていない。つまり、すべてが絵に描いた餅になる可能性もありうる。

そこで内相会議の3日後、EUは苦肉の策として、チュニジア政府に10億ユーロを援助し、その代わりに、チュニジア政府が海岸線を監視し、難民を出さないようにするという協定を結んだ。

「日本も難民受け入れを」という声もあるが…
(中略)そもそも彼らが危険を冒してまで国を離れる原因は、貧困である。だから、チュニジア政府にお金を積んで出航を阻止してもらったところで、抜本的な解決にはならない。

本来なら、現地の生産性を上げ、人々が出ていかなくても済むような援助が必要であることは、皆が百も承知だが、しかし欧米(日本も)とて戦後70年間、何もしなかったわけではない。特にアフリカには莫大な開発援助を注ぎ込んだが、それがいまだに実を結んでいないだけだ(それはアフリカだけのせいではないが)。

なお、日本はもっと難民を受け入れるべきだなどという声もあるが、ヨーロッパと同じ過ちを繰り返さなければならない理由はどこにもない。資金援助も、お金はどこかに蒸発してしまう可能性が高いので要注意だ。しかし、日本にできることもある。

その支援は、貧しい人々に行き届いているのか
例えば、経済発展を望んでいるアフリカ諸国に熱効率の良い火力発電所を建てること。電気は殖産興業に役立つばかりか、夜も灯りが確保でき、また、薪やら動物の糞でなく電気で調理ができるようになるだけで、人々の生活は画期的に向上する。

(中略)どこの国でも、電気があってこそ産業が発展し、インフラが整備され、教育が向上し、情報が行き届き、民主主義も進んでいく。火力発電所の建設は真の援助として、難民受け入れよりもずっと効果的で、素晴らしい方法だと思う。ところが、発展途上国が切望しているせっかくの火力プラントに対し、日本政府はCO2を排出するという理由で融資を止めてしまった。

CO2削減は先進国の理念が結集したものだが、そもそも世界で本当に困った人たちを助けていない。先進国の人々は無視しているが、薪で調理をしている人たちにとっては、煤すすの健康被害のほうがCO2よりも危急の問題であることすら、先進国の人々は無視している。

日本政府が途上国を応援するなら、現地のエリートたちの利益ではなく、貧しい人々が本当に必要としているものを提供すべきだ。そして、それこそが回り回って、間違いなく難民の命を救うことにもつながる。【6月27日 川口マーン 惠美氏 PRESIDENT Online】
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上記の川口マーン恵美氏はドイツ在住の日本人作家で、かねてより寛容なドイツの難民政策や脱原発政策を辛辣に批判している方ですので、その前提で読む必要があります。(自身が「外国人」として暮らす環境にありながら、何が彼女をそこまで外国人嫌いにさせるのかは不思議ではありますが)

日本の難民政策に関しても、これまで万単位で受入れてきた欧州各国と、ほとんど鎖国状態を貫いている日本を同列に扱うことには異論もあります。

さはさりながら、欧州各国で「限界」「パンク状態」の声が強くなっているのは事実でしょう。
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サウジアラビア  国境警備隊がエチオピアからの難民を銃撃・砲撃 数百人殺害と人権団体公表

2023-08-23 23:36:39 | 難民・移民

(イエメン側のサウジアラビアとの国境地帯で墓を掘る移民ら=2023年4月24日公開の動画から、ヒューマン・ライツ・ウォッチ提供・ロイター【8月23日 毎日】)

【再燃するエチオピアの内戦 今度はアムハラ州】
アフリカ東部エチオピアでは、ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、更にオロモ人主体の反政府武装勢力なども加わって混乱を極めていましたが、昨年11月にはエチオピア政府とティグレ人勢力の間で政府側に有利な内容で和平合意が締結されました。

****一筋縄ではないエチオピア和平交渉の勝者と敗者****
11月2日、2年間に渡り数十万人の死者、数百万人の避難民と人道危機をもたらしたエチオピア内戦を終わらせる合意が、南アフリカのプレトリアにおいて、アフリカ連合の仲介の下、エチオピア政府とティグライ族代表の下で署名された。和平交渉の成り行きには悲観的な見方もあったため、この合意は驚きももって受け取られた。

合意は欧米を始めとする各国政府及び海外メデイアからは概ね歓迎されているが、ニューヨーク・タイムズ紙のナイロビ特派員のラティフは、11月3日付の解説記事‘Details in Ethiopia’s Peace Deal Reveal Clear Winners and Losers’で、合意内容がティグライ族に一方的な降伏を求めるようなものであるとして、現実に平和が回復されるのかを危ぶむ見方があることを紹介している。主要点は次の通り。

・専門家によれば、この合意は、戦争を始めたアビー首相にとっての決定的な勝利のように見え、ティグライ勢力指導者にとっては、配下のティグライ族の納得を得るのが難しいかもしれない。

・合意自体は、未だ公表されていないが、ティグライの部隊を30日以内に完全に武装解除することを求めており、両軍の司令官は5日以内に会合を開き、武装解除の方法を検討することになっている。

・この協定は、連邦政府軍が「迅速、円滑、平和的、かつ協調的」にティグライ州の州都メケルに進駐し、連邦治安部隊による州内のすべての空港、高速道路等を掌握することとされている。これらの部隊は過去2年間ティグライ人と戦ってきた兵士であり、一部は戦争犯罪に相当する残虐行為を行ったとして人権団体や国連から非難されている者もいる。

・アビー首相は3日、この合意を歓迎し、連邦軍の戦場での「歴史的勝利」が和平合意に道を開くことになったと称賛した。彼はティグライ人に流血を終わらせるよう呼びかけ、策略、悪事、妨害行為はこのあたりで止めるべきだと述べた。

・ティグライの指導者たちはコメントの求めに応じなかったが、専門家は、ティグライ軍に「2年間戦ってきた敵の前で自発的に武装解除する」よう説得することは、降伏と見なされ、「極めて議論を呼ぶ問題」となろうと述べた。

・アビーはティグライ勢力を打ち負かしたかもしれないが、国内の他の地域ではまだ不安を抱えている。ここ数カ月、オロミア地方とソマリア地方で民族間の攻撃が相次ぎ、すでに壊滅的な干ばつと感染症の発生に直面しているこの国は、さらに不安定化している。多くのエチオピア人は、この和平合意が切望されていた休息をもたらすことを期待している。

*   *   *   *   *   *
2020年11月3日に勃発したエチオピア内戦は、アビーが、その権威に逆らった抵抗勢力であるティグライの指導者に対して支配力を行使しようとしたものである。

ティグライ民族の指導者たちは、エチオピアでは少数民族でありながら、30年近く政府の主要な権力を握っていたが、アビーは、18年に政権を獲得してすぐに彼らを追い出していた。(中略)

それでも懸念事項は山積
これらのことがその通り実施されれば大変結構なことであるが、ついこの間まで激烈な戦闘を繰り返していた、勇猛果敢で知られるティグライ人戦闘員らが、何らの保証もなしに素直に武装解除に応ずるのかは疑問であり、身柄の拘束や報復行為が行われないかといった不安もあるであろう。

平和維持や文民保護のために国連やアフリカ連合の国連平和維持活動(PKO)が介入する訳でもなく、合意事項の実現を監視し担保する仕組みが特にある訳でもなさそうである。

また、内戦中に行われた数々の非人道的な戦争犯罪がどう処理されるのかも不明である。特に、エチオピア政府を支援して軍事介入を行い、その部隊が戦争犯罪を行ったと非難されているエリトリア政府やティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないことも、気掛かりである。

しかし、これまで和平交渉を拒否して来たティグライ側が、交渉に応じ、戦闘員の身の安全を連邦政府軍の善意に委ねることに合意した事実は重く、その背景には、軍事的にこれ以上の意味ある抵抗ができないくらいに追い詰められている状況があるものとみられる。

昨年、一時は、反乱軍側がアディスアベバに迫ろうという時期もあったが、戦況が逆転したのは、政府側がアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、イランから攻撃用ドローンを大量に入手し活用したことによる。その後も、ドローンは有力な兵器としてティグライ側を追い詰めることに有効であったようである。

いずれにせよ、オバサンジョ元ナイジェリア大統領がアフリカ連合を代表して「この合意で和平プロセスが完了したのではなく始まったばかりなのだ」と述べたのは正しい指摘である。

国連、アフリカ連合、及び米国を始めとする主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)等、国際社会は一致して今般の和平合意プロセスが確立し履行されエチオピアに平和と安定が戻る様、常に関与し圧力を継続する必要があろう。日本も和平プロセスに積極的に関与することが求められる。【2022年11月25日 WEDGE】
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ここでもドローンが戦況を決定づけたようです。(8月16日ブログ““ドローン戦争”の様相を呈する現代の戦争 日本の対応は?”)

上記記事でも“ティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないこと”への懸念が指摘されていましたが、実際、今月に入りアムハラ州での武力衝突激化が報じられています。

アムハラ州の民兵組織は北部ティグレ州での紛争時、独自のティグレ州との確執を背景に、政府に協力して反政府勢力ティグレ人民解放戦線(TPLF)と戦いましたが、停戦後に政府が正規軍以外の武装解除に乗り出したことに反発し、政府軍と敵対するようになっていました。

****エチオピア北部、6カ月の非常事態宣言 武力衝突が激化****
エチオピア政府は(8月)4日、北部アムハラ州で政府側と民兵組織との武力衝突が激化しているとして、同州を対象に非常事態宣言を発令した。

今週初めに起きた衝突は、アムハラ州に隣接するティグレ州で2020年11月に発生した紛争が昨年11月に停戦となって以降で最も深刻な治安危機をもたらしている。

非常事態宣言により政府は外出や集会禁止などを命じられるようになるほか、令状なしの身柄拘束や捜査を行う権限なども与えられる。【8月7日 ロイター】
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****空爆か、26人死亡 エチオピア北部****
エチオピア北部アムハラ州の町フィノテセラム中心部に13日、空爆とみられる攻撃があり、少なくとも26人が死亡した。ロイター通信が14日報じた。同州では政府軍と民兵組織との武力衝突が激化している。

攻撃実行者は明らかになっていないが、昨年11月に停戦した北部ティグレ州を中心とした紛争では、政府側によるとみられる空爆が頻発し、多くの住民が犠牲になった。【8月15日 共同】
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【干ばつによる飢餓も】
上記のような内戦に加え、エチオピアでは深刻な干ばつによる飢餓が広がっています。

****子ども500万人食料難に エチオピア、干ばつ被害****
アフリカ東部が過去数十年で最悪の干ばつ被害に見舞われている。国連児童基金(ユニセフ)エチオピア事務所の篭嶋真理子副代表が4日までに東京都内で共同通信のインタビューに応じ、エチオピアだけで500万人以上の子どもが食料難に直面していると明らかにした。

温室効果ガスをほとんど排出しない地域で今、気候変動により子どもが亡くなりかけている」と述べ、国際社会に早急な対応を訴えた。

干ばつは気候変動が一因とみられ、3年ほど前、隣国ソマリアとケニアを合わせた3カ国で始まった。農地が枯れ、住民の貴重な財産である多数の家畜も死んだ。今年に入り降雨が確認されたものの、十分なかんがい施設はなく一部地域で洪水が発生。コレラなどの感染症も流行している。

篭嶋さんによると、人口約1億2千万人のエチオピアでは、70万人ほどの乳幼児が重度の急性栄養失調の危機にさらされている。「家族が生き延びるため、幼い娘を結婚させるケースが増えている」と指摘。10歳ぐらいで児童婚を強いられる少女もいるという。【7月4日 共同】
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【サウジアラビア国境警備隊 エチオピアからの難民を銃撃 数百人殺害と人権団体が報告 サウジは否定】
こうした内戦の混乱、干ばつによる飢餓によって生活に困窮した者は難民となって国外に出る動きがあります。
難民に利用されているのが、アデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至るルートです。

そのエチオピアからの不法移民(難民)にサウジアラビの国境警備隊が銃弾を浴びせるなどして、2022年3月~23年6月に「少なくとも数百人を殺害した」と国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」が発表しています。砲撃もあったとも。サウジ側は事実無根と否定しています。

****サウジ国境警備隊、エチオピア不法移民数百人を殺害 HRW報告****
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は21日、サウジアラビアの国境警備隊が昨年以降、イエメンから越境を試みたエチオピアの不法移民に「雨のように」銃弾を浴びせ、数百人を殺害したとの報告書を公開した。
サウジ政府筋はこれについて、「事実無根」だと否定している。

HRWがインタビューしたエチオピア・オロミア州出身の女性は、サウジの国境警備隊が当局に解放されたばかりの移民集団に向かって発砲したと証言した。
「(銃弾が)雨のように降ってきた。思い出すと涙が出る」「ある男性が、両足を撃たれ動けなくなり、助けを求め叫んでいたけれど、みんな自分の命を守るのに必死で助けられなかった」

HRWの調査員ナディア・ハードマン氏は声明で「サウジ当局は人里離れた国境地帯で、数百人もの移民・亡命希望者を殺害している」とし、「サウジはイメージ向上のためにゴルフの大会やサッカークラブ、エンターテインメントのイベント誘致に巨額の金を費やしているが、これらの恐ろしい犯罪から注意をそらすべきではない」と強調した。

サウジの長年の同盟国である米国も「徹底的かつ透明性のある調査」を行うよう求めた。
米国務省の報道官は、これらの疑惑についてサウジ政府に懸念を表明したとした上で、「サウジ当局には国際法に定められた義務を果たすよう強く求める」と述べた。

サウジ政府筋はAFPに対し、HRWの主張は「事実無根で、信頼に足る情報源に基づいていない」と述べた。

国連のステファン・ドゥジャリク事務総長報道官は、HRWの報告書は「非常に憂慮すべきもの」だが、疑惑の真偽を確かめるのは難しいと述べた。

HRWは、移民の殺害は「幅広く、組織的に」行われていると見られ、人道に対する罪に当たる恐れがあるとしている。

国連は昨年、サウジ南部とイエメン北部で2022年1〜4月に「移民約430人が、サウジの治安部隊による国境を越えた側への砲撃と発砲で殺害された」恐れがあると報告していた。

HRWによると、サウジ当局に書簡を送付したが、反応はなかった。

報告書は、イエメンからサウジに入国しようとしたエチオピア人移民38人へのインタビューをはじめ、衛星画像やソーシャルメディア、「他のソースから集めた」動画や画像を基にまとめられた。

それによると、調査対象者の証言から、砲撃を含む28件の「爆発する武器の使用」があったことが分かった。
近距離から攻撃されたとする証言もあった。エチオピア人移民に「手足のどこを撃たれたいか」と尋ねた国境警備隊もいたという。

さらに、レイプの強要や石や鉄棒での殴打があったと証言する人もいた。

HRWはサウジ政府に対し、移民や亡命希望者に向けて殺傷能力のある武器の使用する政策を撤廃するよう訴えた。また、国連に対しては、今回の件について調査を要請した。 【8月22日 AFP】
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****サウジ国境警備隊、エチオピア人移民を数百人殺害か 国際人権団体報告****
(中略)東アフリカのエチオピアでは20〜22年、北部ティグレ州を拠点とするティグレ人民解放戦線と政府軍の内戦があり、食料不足などの人道危機が深刻化。和平合意が結ばれたものの経済状況は厳しく、国外脱出を目指す人も少なくない。HRWの報告書によると、サウジでは約75万人のエチオピア人が働いているという。

サウジを目指すエチオピア人の多くは密航業者を通じ、隣国ジブチからボートでアデン湾を渡り、イエメンに入国。その後、北上してサウジへの越境を目指す。

イエメンでは15年から内戦が続いているうえ、サウジとの国境地帯には地雷が埋められている可能性もあり、極めて危険なルートとされる。移民には女性や子供も多く含まれているという。【8月23日 毎日】
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経由地イエメンの内戦、サウジ国境の地雷に加え、ボートでアデン湾を渡る際の“業者”に関して、利用者が追加料金を払わないと殴って海に捨てるなどの悪辣な行為が昔から絶えません。

そうした危険に加えて、サウジアラビア国境警備隊の銃弾・暴力・レイプ・・・

真相は未だ不明ですが、カショギ氏の暗殺事件や、東南アジア諸国からの出稼ぎメイドへの虐待など、サウジアラビアの人権意識には大きな疑問もありますので、「サウジアラビアならやりかねない・・・」という“憶測”も。

アメリカ・バイデン政権は、9.11へのサウジの関与やカショギ氏暗殺事件などへのアメリカ国内のサウジ批判を抑えて、国際政治上の利害から中東の地域大国サウジアラビア、その実力者ムハンマド皇太子との関係を改善しようとしてきましたが、こうした事件が表面化するとおいそれとサウジとの関係を強める訳にもいかなくなります。

エチオピアはサウジアラビアとの共同調査を開始すると発表しています。

****エチオピアとサウジアラビア、国境での銃撃事件を調査****
エチオピアはサウジアラビア当局と協力し、数百人のエチオピア人移民がサウジアラビアの国境警備隊に殺害されたとの人権団体の申し立てを調査すると、アディスアベバの外務省が火曜日発表した。(中略)

エチオピア外務省は次のように述べた: 「エチオピア政府は、サウジアラビア当局と連携し、速やかに事件を調査する。調査が完了するまでは、不必要な憶測をしないよう、最大限の自制をするよう強く勧告する」と述べた。

人権団体は、イエメン国境沿いに配置されたサウジアラビアの警備隊が、人里離れた山道を歩いて国境を越える移民を「広範かつ組織的に」攻撃していると非難した。

アフリカの角からアデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至る移民ルートは、エチオピア移民にとってよく確立された通路である。2022年、サウジ当局は、サウジの国境警備隊が組織的に移民を殺害しているという国連の申し立てを強く否定した。

国際移住機関によると、サウジアラビアには約75万人のエチオピア人が住んでおり、そのうち少なくとも45万人は不法入国者であろう。エチオピア北部のティグライ地方では、2年にわたる内戦で数万人が避難した。【8月22日 ARAB NEWS】
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難民・移民の悲劇については、ボートの海難事故も頻繁に報じられていますが、地中海沿岸を襲っている熱波による山火事も・・・

****山火事が続くギリシャ北東部で18人の焼死体 トルコからの不法移民か****
乾燥した空気や強風などによってヨーロッパ各地で山火事が相次いでいます。ギリシャ北東部では、移民とみられる18人の焼死体が発見されました。

山火事が続くギリシャ北東部アレクサンドルポリスの近くで22日、18人の遺体が見つかったと消防当局が発表しました。隣のトルコからの不法移民の可能性があるとみて調べています。(後略)【8月23日 ABEMA TIMES】
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欧州(オランダ・イギリス)  苦慮する難民移民対策 

2023-08-19 22:22:14 | 難民・移民

(英ドーバーで、英仏海峡に沈没したボートに乗っていた仏からの移民を引き上げる救助隊員(12日)=Stuart Brock提供、ロイター【8月17日 読売】)

【オランダ 難民流入制限巡る対立で連立政権崩壊 ルッテ首相、総選挙後の極右と連立排除せず】
欧州各国にとって流入する難民・移民への対応が大きな問題となっており、難民・移民に反発する声を背景に政治の右傾化・極右勢力の台頭も起きています。

オランダもその一つ。7月には難民流入制限を巡る与党内の意見対立から連立政権が崩壊しました。

****オランダ連立政権が難民流入制限巡る対立で崩壊、秋にも総選挙****
オランダのルッテ首相が率いる連立政権は7日、難民流入制限を巡る与党内の意見対立が修復不可能となったために崩壊した。秋にも総選挙が実施されるとみられる。

ルッテ氏が属する自由民主国民党(VVD)が、戦争を逃れて既にオランダに滞在している難民の子どもたちの入国を抑制する措置を新たに提案したが、キリスト教民主同盟と民主D66の2党が支持を拒否したことがきっかけだ。

ルッテ氏は「難民政策で連立与党間の見解がそろわなくなったのは明らかだ。残念ながらわれわれは本日、この違いが克服できない事態になったと結論付けざるを得ない。このため私は国王に内閣総辞職を伝える」と述べた。

地元メディアがオランダの選挙委員会の話として伝えたところでは、11月半ばまでには総選挙が行われる見通し。それまでルッテ氏が暫定政権を運営していく。

暫定政権になれば新しい政策を打ち出すことはできない。ただルッテ氏はオランダのウクライナ支援に影響はないと説明した。

オランダは既に欧州で最も難民受け入れ基準が厳しい国の1つだが、連立政権内の右派勢力からの突き上げを受けたルッテ氏は、さらに難民希望者の流入を絞り込む手段を模索していた。【7月10日 ロイター】
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ルッテ首相は、“一時的亡命と恒久的亡命という2つのクラスの創設と、渡来できる家族の数を制限するために、2年間家族を呼び寄せられない期間を設けることを打ち出した。”【7月10日 COURRiER Japon】とのことですが、一部の連立与党の賛同を得られなかったとのこと。

オランダの政治は単に難民対策だけでなく、近年政治全般について大きく変化してきているようです。

****オランダ連立政権崩壊、移民政策の相違が引き金に****
オランダ連立政権は移民政策をめぐる連立4党の意見の相違から金曜日崩壊した。ルッテ首相の率いる連立政権は、自由民主党(VVD)、キリスト教民主党(CDA)、民主66党(D66)そしてキリスト教連盟(CU)の4党からなっていた。難民施設がパンク状態にあることで、VVD党はオランダへの流入難民申請者数を減らそうとしていたが、連立内のCU党とD66党の2党がこれに反対していた。

オランダは過去には難民を積極的に受け入れる国だったが、現在ではEU内でも最も厳しい難民政策をとる国のひとつとなっている。

昨年には申請待ちの難民多数が水やトイレや薬も提供されずに野外で寝るという事態が発生し、大きな問題となっていた。

これに対応するため、ルッテ首相は流入難民数を制限するという政策を発表。難民としてオランダに居住する人の子供がオランダに来ることを禁止する政策を出していた。連立する政党2党はこれに反対し、今回の政府崩壊の引き金となった。

ルッテ内閣は2010年から4期目という長期政権を保持してきた。しかしその期間にオランダの政策はそれまでの社会民主主義から経済成長に力を入れ弱者を顧みない政策へと変わってきた。

オランダは極端な住宅不足や窒素排出問題による農地の接収や新規の建設工事中止など、多くの解決されていない問題をかかえている。総選挙は11月に行われる予定。【7月8日 Portfolio】
**********************

ルッテ首相は11月予定の総選挙後について、極右政党との連立も排除しない考えを表明しています。
実現すれば、難民・移民政策は更に厳格化することが予想されます。

****オランダ、移民厳格化も 与党、極右と連立排除せず****
オランダのルッテ首相は18日、11月22日に予定される下院選後の政権枠組みについて、自身の中道右派の与党、自由民主党(VVD)と、ポピュリスト政治家ウィルダース氏率いる極右野党の自由党(PVV)との連立を排除しないと明らかにした。同国メディアが報じた。

反移民の立場を取ってきたPVVが政権入りすれば、オランダの移民政策が厳格化する可能性がある。

オランダでは7月、ルッテ氏率いる4党連立政権が難民流入抑制策を巡り崩壊した。ルッテ氏は下院選を実施し、政界を引退する考えを表明。新内閣が発足するまで暫定政権を率いている。

VVDは14日、女性のイェジルゲス司法・安全相を首相候補として選挙戦に挑むと発表。VVDが勝利し政権樹立に成功すれば、イェジルゲス氏は同国初の女性首相となる。クルド系で、子どもの時に難民としてトルコからオランダに渡った経験があるが、ルッテ氏が提案した難民流入抑制策を支持していた。【8月19日 共同】
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極右政治家ウィルダース氏・・・・ひと頃、フランスのルペン氏と並んで台頭する欧州極右を代表する存在として注目を集めていましたが、最近はあまりその名前を聞くことはありませんでした。まだ健在だったようです。

“難民としてトルコからオランダに渡った経験がある”イェジルゲス氏が厳しい難民対策で初の女性首相を目指す・・・その考えを聞きたいところですが、あまり情報がないので・・・

このところスウェーデン・デンマークでコーランを焼却したり踏みつけたりする反イスラム行動が目だっていますが、オランダでも。 反イスラムは反難民移民とも大きく重なる考えでしょう。

****コーラン踏みつけ破る オランダ、反イスラム団体****
オランダ・ハーグのトルコ大使館前で18日、反イスラム団体の男性活動家がデモを行い、イスラム教の聖典コーランを踏みつけたり破ったりした。現場周辺にはデモに抗議するため数十人が集まり、一部が石を投げるなどしたため警察が介入する騒ぎとなった。オランダメディアが報じた。
デモを行ったのは反イスラム団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的な欧州人(PEGIDA)」の活動家。トルコ大使館に向かって「おまえたちはここの者ではない」「エルドアン(トルコ大統領)は売春婦の息子だ」などと叫んだ。
イェジルゲス司法・安全相は、オランダではデモの権利が認められていると強調した上で「本の破壊は幼稚で哀れな行動だ」と非難した。【8月19日 共同】
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【イギリス 不法移民ルワンダ移送計画も進まず対応に苦慮 フランスと協力合意とのことだが・・・】
一方、イギリス・スナク政権はドーバー海峡を渡って密入国する者が増加、海難事故も起きており、その対応に苦慮しています。

****小型ボートで密入国、英政府が対応に苦慮…2018年以降10万人超****
フランスから英国を目指して小型ボートで英仏海峡を渡る不法移民が後を絶たず、英政府が対応に苦慮している。

13日までの1週間に英政府が確認した不法移民は1600人を超え、12日にはボートが沈没して6人が死亡する事故が起きた。スナク政権は対策の強化を図ってきたが、目立った効果は上がっていない。

英BBCなどによると、沈没したボートには定員を超す65人ほどが乗っていた。大半がアフガニスタン人で、スーダン人もいたという。

英政府の統計によると、10日に小型ボートで英仏海峡を渡って密入国した移民は756人に上り、1日当たりの人数では今年最多を記録した。12日にも509人が確認された。天候が比較的穏やかで、「海岸警備に当たる仏当局者の人数が休暇のため大幅に減っていた」(英紙タイムズ)との指摘もある。

小型ボートで英国に密入国した移民は2018年の約300人から年々増え続け、22年は約4万6000人と150倍以上になった。今年もこれまでに約1万7000人が確認され、今月には18年以降の累計が10万人に達した。

中東やアフリカの英植民地だった地域から欧州に渡った移民の中には英語が通じ、移民に寛容な政策を取ってきた英国行きを望む人が多い。このため近年、密入国をあっせんする犯罪組織の活動が活発化している。

スナク首相は今年1月、政権の最重要課題の一つに不法移民対策を挙げ、3月のマクロン仏大統領との首脳会談では取り締まりの強化で合意した。スナク氏には、来年にも行われる総選挙に向けたアピール材料にしたい思惑がある。

しかし、今回の沈没事故で不法移民問題に改めて注目が集まる中、与党・保守党内からも政府の対応が不十分だとの声が上がっている。14日付のタイムズ紙は「スナク氏にとって公約を巡るさらなるプレッシャーになるだろう」との見方を示した。【8月17日 読売】
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イギリスでは、ジョンソン前政権からアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を進めようとしていますが、ルワンダでの安全が保証されていないことへの批判や難民条約上の責任を他国に押しつける行為(グランディ国連難民高等弁務官)といった批判から計画は難航しています。

****英政府、不法移民の対策に苦慮 ルワンダ移送計画は難航*****
英政府が増加する不法移民・難民への対応に苦慮している。小型ボートで英国に入る密入国者は2018年から150倍以上に増え、受け入れ施設の費用などで財政を圧迫。

スナク政権はアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を推し進めたい考えだが、英控訴院は移送は違法との判決を下した。国連や人権団体、司法が計画に待ったをかけており、円滑な実現は困難とみられている。

(中略)政情が不安定なイラクやシリアなどからの不法移民が増えたほか、バルカン半島のアルバニアからも仕事を求めて若者が殺到。犯罪組織が金銭を受け取り小型ボートを手配しているとの情報もある。

英国は受け入れ施設の費用などで年間約30億ポンド(約5440億円)を負担しているとされ、財政を圧迫。スナク首相は「不法移民の流入を阻止することは優先事項だ」と断言する。

スナク政権はルワンダに1億2千万ポンド(約218億円)を投資する代わりに、英国に密入国した亡命希望者を受け入れてもらう計画の実現を目指す。英国での居住を容認しない方針を明示することで密航を抑止する狙いがある。政権は今月、不法移民らの英国への難民申請を認めないとする法を成立させた。

ルワンダへの移送計画をめぐっては、ジョンソン政権が不法移民の増加は「医療や福祉の負担となる」とし昨年4月に掲げた。

ジョンソン元首相は当時、1990年代の大虐殺を乗り越えて高度成長を遂げ、リビアなどから難民を受け入れたルワンダを「世界で最も安全な国の一つ」と強調した。英政府は難民の生命や自由が脅かされない国を「安全な第三国」と定義している。移送された移民らはルワンダで亡命申請手続きを行い、申請が受理されれば、最長で5年間の教育や支援が受けられる。

しかし、国連や人権団体は計画を受け継いだスナク政権に厳しい目を向ける。グランディ国連難民高等弁務官は難民条約上の責任を他国に押しつけることは「国際的な責任分担に反する」と批判した。

強権的とされるカガメ大統領の下、ルワンダで難民が虐待されたとの報告もあり、メイ元英首相が移送による不法移民の人権状況の悪化を懸念するなど与党・保守党内でも計画に否定的な発言が目立つ。

英控訴院は6月29日、ルワンダを「安全な第三国」とみなせないとし、移送は違法との判決を下した。スナク政権は上訴の意向を表明したが、司法での争いは数年間続く可能性がある。

一方、スナク政権は非正規なルートで渡航した亡命希望者ら約500人を英南西部の港に係留させたバージ船に入居させる計画も準備。1日600万ポンド(約11億円)の宿泊費を削減できるが、この計画に対しても人権団体が亡命希望者らを船に閉じ込めるのは「残酷だ」と非難しており、「円滑に入居が進むかは不透明」(元議員)という。【7月30日 産経】
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バージ船とはいわゆる“はしけ”のことで、停泊中の船と陸地との間や、離れた2地点間を往復して人や荷物を運ぶためなどに使われる荷船のこと。 自分で航行する能力はなく、押し船や曳き船とともに航行します。

居住環境も問題ですが、火災でも起きたら多くの犠牲者を出して大問題にもなりそう。

ドーバー海峡をわたる難民移民を取り締まるためにはフランス側の協力が不可欠です。3月にはイギリスが資金提供しフランスが不法移民収容所の新設などに充てるといった内容の合意が成立したことが報じられていました。

****英仏首脳、英から仏へ対策費用提供で合意 小型ボート使う不法入国めぐり****
小型ボートを使って英仏海峡を渡りイギリスに不法入国する移民の問題をめぐり、英仏首脳は10日、イギリスの資金提供による対策強化で合意した。

イギリスが3年間で約5億ポンド(約810億円)を提供し、フランスはそれを不法移民収容所の新設などに充てる。イギリスでは、政府が提示した移民取締法案への批判が高まっている。

パリで行われた英仏首脳会談で、リシ・スーナク英首相とエマニュエル・マクロン仏大統領は、不法移民対策の強化を宣言。イギリスがフランスに対策資金を提供するほか、フランスも予算措置を講じる方針という。

イギリス側が提供する約5億ポンドは、取締官500人の増員とフランス国内での新しい不法移民収容所の設置に充てられる。ただし、新しい収容所が全面稼働するのは早くても2026年末になるという。

イギリス政府はすでに今年、約6300万ポンドを移民対策費としてフランスに提供する予定だった。今回合意された金額はその倍以上で、イギリス政府は今年から来年にかけてフランスに1億2000万ポンドを提供すると約束した。

フランスも、不法移民取り締まりを強化するため予算を増額するとしているが、具体的な額は示していない。(中略)

「人命売買の商売を終わらせる」
パリのエリゼ宮で共同記者会見したマクロン大統領は、英仏の協力で小型ボートによる不法移民は減少していると主張。両国の合同チームは過去1年間で、3万件の小型ボートによる海峡移動を阻止し、500人を逮捕したと明らかにした。

スーナク首相は、英政府が提供する資金が、「人命を売り買いするこの不快きわまりない商売を終わらせる」ことにつながると述べた。「英仏の協力を通じて、両国の制度を悪用されないようにする」とも強調した。

スーナク氏は、両首脳の合意によって、新たに500人のフランス取締官がドローンなど「増強された技術」を使い、イギリスを目指して海峡を渡る不法移民ボートを阻止することになると説明した。

加えて、フランスにはすでに26カ所の不法移民収容所があるが、イギリスからの資金でさらに1カ所を新設するという。

英首相官邸は、収容所の増設によって「フランスの沿岸部から(さらに多くの不法移民を)遠ざける」ことができると説明した。

「英仏協力の再開」
両首脳は、パリでの会談は英仏関係の新しい始まりだと強調。マクロン大統領は「結びつきを再開した瞬間」だとして、スーナク首相は「英仏協力の再開」だと述べた。

マクロン氏は、近年の両国関係悪化につながっていたのはブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)だったという姿勢を明示し、スーナク氏の前任の英首相3人を言外に批判した。

一方で、共同記者会見では友好関係を強調し、マクロン氏はスーナク氏を「親愛なるリシ」と呼び、スーナク氏はマクロン氏を「モナミ(私の友人)」とフランス語で返した。さらに両首脳は、共同記者会見を抱擁(ほうよう)で締めくくった。【3月11日 BBC】
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新しい収容所が全面稼働するのは早くても2026年末・・・ということで、効果があらわれるのはまだ先のようですし、そもそも、フランスが自国を出ていく不法移民取締りに力をいれるか・・・疑問も。イギリスに出ていってくれればフランスとしては厄介払いできて大助かり・・・という話にもなりますので。

ましてや、相手はEUを勝手に飛び出したイギリス。フランスの協力はあまり期待しない方がいいようにも思えます。

その他、ドイツでは反移民世論を背景に極右政党「ドツのための選択肢(AfD)」の支持率が高まっているという話は、これまでもしばしば取り上げてきましたので今回はパス。

各国が悩む難民移民対応ですが、「だからそうした難民移民は極力受け入れない方がいい」というのは、自分たちさえよければ・・・・といった、いささか短絡的で品格に欠ける発想のようにも。
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チュニジア  EUと移民に関する“手本となる”合意 一方で、強制連行した不法移民を砂漠に置き去り

2023-08-02 22:28:08 | 難民・移民
(2023年7月30日、リビア・チュニジア国境のアルアッサー付近の無人地帯に到着後、チュニジア当局に放置されたされるアフリカ系移民に水を提供するリビアの国境警備隊の隊員たち。【8月1日 ARAB NEWS】)

【EUとチュニジア 移民に関する“他国にも手本となり得る”合意】
リビア・チュニジアなど北アフリカからの地中海を渡る移民流入は欧州にとって大きな課題となっています。
何とかして自国に流入しないように、かなり非道な方策もとられているようにも。
一方、移民側からすると、まさに“命がけの渡航”になります

そうした状況で、EUがチュニジアと“手本”となるような移民に関する合意を結んだとか。

****欧州・チュニジアの移民合意、今後のモデルに=欧州委員長****
 欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は23日、EUとチュニジアの間で成立した移民に関する合意は他国にも手本となり得るとの見解を示した。

EUとチュニジアは先週、人身売買取り締まりや国境規制強化などを含む「戦略的パートナーシップ」を締結した。
またEUは、チュニジアの経済・財政支援に10億ユーロ(11億ドル)拠出を確約した。

フォンデアライエン氏はローマで行われた会合で、「チュニジアとの合意が地域の他国とのパートナーシップに対する一つのひな型となり、将来の青写真となることを望む」と説明。移民に危険な航海をさせず、合法的に受け入れる道を提供すべきと述べた。

戦略的パートナーシップにはこのほか、経済発展、貿易、投資に関する内容が含まれるとともに、気候や再生可能エネルギーなど相互にとっての優位店も盛り込まれるという。

フォンデアライエン氏はまた、欧州とエジプト、モロッコの水素関連パートナーシップに言及し、「地中海地域には太陽光や風力、広大な土地といった莫大な天然資源が豊富に存在する」と述べた。【7月24日 ロイター】
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【不法移民を強制的に連行し、熱波のなかで水も食料も与えず砂漠地帯に置き去り】
“EUとチュニジアの間で成立した移民に関する合意”というのがどういうものかは知りませんが、チュニジアの移民に対する扱いについては大きな疑惑が指摘されています。

****チュニジア、不法移民をリビア国境の砂漠に置き去りか****
北アフリカのチュニジアとリビアの国境に広がる砂漠地帯に置き去りにされた不法移民が、支援を訴えている。移民らはチュニジア当局により、水や食料もなしに置き去りにされたという。

チュニジアのリビアやアルジェリアとの国境地帯に、移民が置き去りにされる事例はこれまでにも報告されている。国境警備隊や移民、そして過去に同様の事例を確認したNGO職員によると、今回は約140人のサハラ以南のアフリカ諸国出身者が放置された。

ナイジェリア人のジョージさん(43)は、リビア沿岸部ラスジェディルの国境検問所から30メートル離れた、有刺鉄線の間に作られた仮設収容キャンプにいる。「今にも死にそうだ。毎分、死が近づいている」とAFPに語った。
 
どうかお願いだから、今すぐここから連れだしてほしい。助けに来て」「ここがどこかも分からない。食料も水もなく、苦しんでいる」と懇願した。

リビア内務省は25日、チュニジア国境付近でアフリカ系移民5人の遺体が見つかったと発表した。

ジョージさんは、チュニジアの沿岸の街スファクスで18か月間、理髪師として働いていた。妻と幼い子どもは今もスファクスにいる。

「チュニジア警察は、武器を向け、私たちをテロリストと呼んだ」
リビア政府は、移民らに国境を超えないよう通告してきた。ジョージさんたちは、地中海が熱波に襲われる中、行き場を失った。ただ、リビアは赤新月社を通して、水と食料を提供してくれた。
 
同じく移民のニジェール人女性、ファティマさん(36)は、チュニジア兵は移民から携帯電話などの私物を「全て没収」し、砂漠に置き去りにしたと話した。ファティマさんも姓は名乗らなかった。 別の移民は「われわれは人間だ」と訴えた。

 ■「強制的に連れて来られた」
スファクスは、イタリアのランペドゥーザ島からわずか130キロの距離にある。チュニジアは、欧州でのより良い生活を夢見て危険な航海に挑む不法移民と亡命希望者の主な出発地となっている。

ムバラク・アダム・モハマドさん(24)は内戦の続くスーダンを離れ、リビアを経由して、チュニジアに入った。「スファクスで逮捕され、強制的にここに連れて来られた」とし、「国際組織」などに救済を訴えた。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、7月だけで最大1200人の移民が、チュニジアの憲兵隊によってリビアやアルジェリアとの国境地帯の砂漠へと「強制的に退去・移送された」としている。

チュニジアの赤新月社は7月中旬、同月3日以降にラスジェディルに連れていかれた少なくとも移民630人を支援したと述べた。
リビアの国境警備隊は同時期に、水も食料も持たずにチュニジア当局によって砂漠に置き去りにされた移民数十人を救助したと報告している。

AFPも、ラスジェディルの南に位置する、人里離れたリビア・アルアッサー近郊で、明らかに疲弊し、脱水状態にある移民が、気温40度の中、木陰で砂の上に座ったり、寝そべったりして暑さをしのぐ移民の姿を目撃した。【7月31日 時事】
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同内容の記事をもうひとつ。

****チュニジア・リビア国境の砂漠で生死の境をさまよう移民たち****

(2023年7月30日、リビア・チュニジア国境のアルアッサー付近の無人地帯に到着後、倒れるアフリカ系移民。)
ラス・ジェディールでは、350人が仮設キャンプに残っており、その中には65人の子供と12人の妊婦が含まれている

リビア、アルアッサー:耐え難い真昼の暑さの中、リビアのパトロール隊がチュニジアとの国境近くで、赤茶けた砂漠の砂の上に倒れているアフリカ系黒人の男性を発見した。かろうじて息をしている彼の唇に数滴の水を垂らし、隊員たちは慎重に、彼を回復させようと試みた。

この男性は、チュニジアの治安部隊によって砂漠の国境地帯に放棄された後、毎日リビアに到着する何百人もの移民のうちの一人に過ぎない。これはリビアの国境警備隊や移民たち自身が語っている。

これらの、サハラ以南のアフリカから来る移民たちは、リビアに到着するまでに、摂氏40度を超える気温の中、疲労困憊している。

日曜日にAFPは、リビアとチュニジアの国境沿いにある塩湖、サブカ・アル・マグタ(Sebkhat Al-Magta)近くの無人地帯から、国境警備隊が約100人の男女を救出する様子を目撃した。

遠くの陽炎の中に、最新の到着者である6人の人影が現れた。彼らはアラビア語を話し、チュニジアから来たと言う。

リビアの国境警備隊がAFPに語ったところによると、過去2週間にわたり、トリポリの西約150キロに位置するアルアッサー近郊の国境地帯で、チュニジア当局に置き去りにされたという数百人の移民を救助したという。

7月初めには、サハラ以南のアフリカ諸国からの数百人の移民が、チュニジアの港湾都市スファックスから追い出された。これは、地元住民と移民との間の衝突でチュニジア人男性が死亡した後、人種間の緊張が高まる中での出来事だ。

スーダン出身のハイサム・ヤヒヤ氏は、ニジェールとアルジェリアを経由してチュニジアに密入国した後、建設関連の仕事に付き、1年間働いたと言う。

「仕事中に捕まって、最初はパトカーで、それから(治安部隊の)トラックでここに連れてこられた。その後、彼らは、リビアに行けと言い、私を置き去りにした」と、アルアッサーで彼は語った。

イタリアからチュニジアに最も近い地点であるスファックス近郊は、イタリアのランペドゥーザ島からわずか130キロの距離だ。

北アフリカの同国は、ヨーロッパでのより良い生活を求めて危険な海上航海を試みる移民や亡命希望者の主要な玄関口であり、ヨーロッパの指導者たちはチュニジアがこの流れを管理するのを助けるために財政援助を提供している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、7月にチュニジアの治安部隊によって「追放された、又は強制的に移送された」アフリカ系黒人は最大で1200人に上り、同国の砂漠地帯であるリビアやアルジェリアとの国境地帯へ移送されたという。

7月中旬、チュニジア赤新月社は、7月3日以降にアルアッサーの北約40キロにあるラス・ジェディールに連行された少なくとも630人の移民に避難所を提供したと述べた。

しかし数日後、AFPはラス・ジェディールの緩衝地帯で立ち往生している数百人の移民からの証言を集めた。彼らはチュニジアの治安部隊によってそこに強制的に連れて行かれたと述べた。

ラス・ジェディールでは、350人が仮設キャンプに残っており、その中には65人の子供と12人の妊婦が含まれていた。

「彼らの生活状況は非常に問題だ」と人道支援機関の関係者はAFPに語り、「長期的には持続可能ではない。トイレも水タンクも本当の避難所もない」と付け加えた。

アルアッサーには、足元はサンダルのみの、フラフラになった移民たちが、よろめきながら到着している。
彼らは、2人、3人、または数十人単位で移動してくる。倒れる者もいる。衛兵は彼らの乾いた口元に水の入ったボトルを差し出す。(中略)

パトロール範囲はアルアッサー周辺15キロだ。ワリ氏(リビア国境警備隊第19大隊報道官)によれば、日によって「150人、200人、350人、時には400人、500人もの非正規移民」を見つけることもあるという。この日は110人で、うち女性が2人だった。他にも2人いるはずだと言われ、兵士は双眼鏡で周辺を探した。

木曜日、国連機関の共同声明は、チュニジアの国境地帯における移民、難民、亡命希望者の「展開する悲劇」に言及した。
「彼らは砂漠で立ち往生し、猛暑に直面し、避難所、食料、又は水を手に入れることができない。緊急かつ人道的な解決策が見出されるまでの間、生命を救う重要な人道支援を提供することが急務である」と声明は述べている。

国連は過去にも何度か報告書でリビアを取り上げ、60万人の移民(そのほとんどがキャンプに収容されている)に対する暴力を非難している。

リビア政府は最近、チュニジアから到着した移民の自国領内への「再定住」を拒否していることを表明している。
一方、移民たちは知らず知らずのうちに国境を越えている。彼らは、チュニジアの治安部隊が向かうように指示した方向、リビアに向かって歩いていると語る。(中略)

ワリ氏によると、隊員が土曜日に2人の遺体を発見したという。その1週間前にも5人の死体が発見された。その中には女性と彼女の赤ちゃんが含まれていた。彼らはまた、1週間前にも5体の遺体を発見したと語った。
「どうやって生き延びろと言うのだ?この暑さの中、水なしで、2、3日の行軍で」と、ワリ氏は語った。

AFPが連絡を取ったリビアの人道団体は、過去3週間で少なくとも17人が死亡したと報告した。【8月1日 ARAB NEWS】
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ちなみに、北アフリカ・南欧の地中海沿岸諸国は50℃に迫る熱波に襲われ、各地で山火事が発生し、手が付けられない状況にもなっています。

****地中海13カ国、松明のように広がった山火事…「50度に迫る」災害に見舞われる****
地中海沿岸の国々が摂氏50度に迫る猛暑と相次ぐ山火事で燃えている。南欧のギリシャ・イタリア・フランスなどと北アフリカアルジェリア・チュニジアなどで高温で乾燥した天気と強風で山火事が広がり人命被害が相次いだ。
専門家らは地中海沿岸の猛暑と山火事を気候変動による自然災害と診断した。

26日(現地時間)、欧州森林火災情報システム(EFFIS)によると、同日イタリア南部のシチリア島、フランス南部のコルシカ島、ギリシャ中部のボロス・ラミアなどで山火事が新たに発生した。前日にはポルトガルの首都リスボン郊外とクロアチアの人気観光地ドゥブロヴニク南側で山火事が発生した。

その他アルバニア・トルコの地中海近隣地域と地中海南側にある北アフリカアルジェリア・チュニジアの海岸都市でも山火事が起きた。 

EFFISデータを確認してみると、今月に入って地中海を囲む13カ国で山火事が発生した。事実上、地中海沿岸国家のほとんどが山火事の危険にさらされている状況だ。

ガーディアンは「地中海国家に炎が松明のように広がり、地中海が燃えている」と報じた。(中略)

 地中海諸国は今夏、歴史上最も暑い7月を過ごしている。ほとんどが摂氏30度後半から40度序盤の猛暑にも苦しんでいるが、特に山火事が数日間続いているギリシャ・イタリア・アルジェリア・チュニジアなどは摂氏50度に迫る高温を記録した。 地中海の海面温度も史上最高記録を更新した。(後略)【7月28日 中央日報】
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リビア国境の砂漠への水も食料も与えない移民置き去りは、上記のような気象環境のなかで行われています。
それは昨日今日の話ではなく、多くの関係者が知るところでした。

当然にEUフォンデアライエン委員長も知っていたはず、あるいは知っているべきことです。そのうえでのチュニジアとの移民に関する“他国にも手本となり得る”合意というのがどういうものか、私は知りません。

【権限集中を進めるサイード大統領 事態好転せず首相交代】
チュニジアの国内政治は、2011年の中東民主化運動「アラブの春」の唯一の成功例と言われているものの、昨今はサイード大統領への権力集中が進んでいます。サイード大統領の言い分としては、議会の混乱で内政が麻痺状態に陥っているため、その状況を打破するための措置ということにもなります。

****チュニジア警察、反大統領派さらに逮捕 最大野党「誘拐」と非難****
北アフリカ・チュニジアの警察当局は13日、反大統領派を標的とした逮捕劇の一環として、新たに野党幹部ら2人とサイード大統領に批判的な放送をしてきたラジオ局の代表を拘束した。

弁護士らによると、拘束されたのは最大野党ナフダ幹部のNoureddine Bhiri氏、政治活動家で弁護士のLazhar Akremi氏、ラジオ局モザイクFMの代表Noureddine Boutar氏。

警察は11日以降、サイード大統領に対して反対の声を上げたり、抗議行動を起こそうとしたりした多数を拘束している。その中には著名なビジネスリーダー、元財務相、別のナフダ幹部、裁判官らも含まれている。弁護士によると、いずれも国家安全保障に危害を加えた疑いで逮捕された。

警察当局などは今回の逮捕についてコメントしていない。ナフダは「反サイード派に対する誘拐」だとして非難した。

サイード大統領は2021年7月、議会を突如閉鎖し、政府を解体させ、大統領令による統治に移行。その後に憲法を改正した。反対派はこれらについて、11年の革命後に築かれた民主主義を引き裂くクーデターだと批判している。【2月14日 ロイター】
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****デモ弾圧批判に反論=議会停止を正当化―チュニジア大使****
チュニジアのエルーミ駐日大使は14日、東京都内で時事通信のインタビューに応じ、強権色を強めるサイード大統領の下で相次ぐ反体制派の拘束について「裁判官の法に基づく判断」で行われていると反論した。「自由で開かれたインド太平洋」構想で重視される「法の支配」の理念をチュニジアも共有していると主張した。

大使は、チュニジアの議会が「国にとって主要な問題に取り組まず、政争に明け暮れていた」ため、市民の求めに応じサイード氏が2021年に停止させたと強調。強権手法を巡っては「(クーデターで権力を握った国軍が反対派を弾圧している)ミャンマーとは全く違う。軍は市民の側にいる」と持論を展開した。【3月14日 時事】 
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****元サッカー選手が警察に抗議し焼身自殺 ネット上で拡散 チュニジア****
ロイター通信などは14日、チュニジア中部で元プロサッカー選手の男性が警察に「テロリスト」呼ばわりされたことに抗議し、警察署の前で焼身自殺をはかったと報じた。

男性は火を付ける場面を自ら動画で撮影しており、ソーシャルメディアで拡散した。男性が死亡した13日には抗議デモが起き、警官隊との衝突に発展したという。

報道によると、男性はニザール・イッサウィさん(35)。バナナが通常の倍の値段だったことから警察に苦情を申し立てたところ、「テロ」扱いされたという。

拡散した動画では「10チュニジア・ディナール(約440円)でバナナを売っている人と口論になっただけで警察からテロだと非難された。バナナの文句だけでテロだ」と叫び、自分の体に火を付ける様子が映っている。13日のデモでは参加者が警察に投石し、警官隊は催涙ガスで鎮圧をはかったという。(後略)【4月15日 毎日】
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サイード大統領への権限集中でも、経済・社会の立て直しはうまくいっていないようです。
チュニジア初の女性首相として2021年に任命したブーデン首相(地球物理学者で政治的には無名で、政府役職も未経験)を解任し、後任にチュニジア中央銀行幹部だったハシャニ氏を指名しています。

****チュニジア大統領、新首相指名 中銀出身のハシャニ氏****
チュニジアのサイード大統領はブーデン首相を解任し、後任にチュニジア中央銀行で人事部長を務めたアハメド・ハシャニ氏を指名した。大統領府が2日、発表した。

サイード氏は2021年7月、当時のメシシ首相を解任。議会を停止させ、ほぼ全ての権力を掌握した。その後、ブーデン氏が首相に指名されたが、経済と社会の危機を修復することはできなかった。【8月2日 時事】
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行政経験のない地球物理学者には荷が重かったかも。今回のハシャニ氏も中央銀行幹部と言っても人事部長で行政手腕は未知数とのこと。 大統領の意のままに動く人材ということか。
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ギリシャ沖で転覆した移民船が明らかにする現実

2023-06-25 22:47:04 | 難民・移民

(沈没する前の漁船【6月23日 ロイター】)

【実際の死者は600人前後か?】
6月14日、リビアからイタリアへ向かう移民船がギリシャ沖のペロポネソス沿岸で転覆し、81名の死者が確認されていますが(生存者は104名)、船には最大750名が乗船したとも言われ、実際の死者数は確認されている数より500人ほど多いとも推測されています。

****死者は81人に ギリシャ沖の移民船沈没事故 最大750人が乗船か****
ギリシャ沖で数百人の移民を乗せた船が沈没した事故で、ギリシャ当局は81人の死亡を発表しました。

今月14日、移民を乗せた漁船がギリシャ沖で沈没した事故について、ギリシャの沿岸警備隊はこれまでに81人の死亡が確認されたと発表しました。

ロイター通信によりますと、船に乗っていたのは主にエジプト、シリア、パキスタンからの移民で、北アフリカのリビアを出発し、イタリアに向かっていました。

ギリシャ当局は密航に関わった疑いでエジプト国籍の男9人を逮捕していますが、船には最大750人が乗っていたという情報もあり、死者は数百人単位で増える可能性があります。【6月20日 TBS NEWS DIG】
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【ギリシャ当局 意図的に救助を行わなかったとの疑惑】
この移民船は誰にも知られずに転覆した“不幸な事故”ではなく、転覆する数時間前からその存在・トラブルで停止している状況が確認されており、関係機関・ギリシャ当局などが接触しています。

しかしギリシャ当局は意図的に救助を行わず、その結果、数百人規模の犠牲者が出たのではないか・・・と、転覆するまでの間のギリシャ当局の対応が疑問視されています。

****600人死亡した難民船「疑問の7時間」…ギリシャが知りながら無視したとの疑問提起****
14日にギリシャ南部の海岸で難民の密入国船が沈没し600人以上が死亡した中、「反移民」基調で国境統制を強化したギリシャ政府が難民を意図的に放置し最悪の人命事故を招いたという疑惑が提起された。 

ガーディアンは19日、船舶位置追跡会社マリトレースの衛星航法装置(GPS)航路追跡の結果、ギリシャの民間船舶「ラッキーセーラー」と「フェイスフルウォリアー」が沈没前にエンジン故障で止まっていた難民船の周辺で最小4時間にわたり動き回っていたと報道した。 

ギリシャ当局によると、この民間船舶2隻は沈没前日の13日午後3時ごろ地中海上で遭難したという難民船の連絡を受け水と食べ物など補給品を伝達しに向かった。それから4時間ほど難民船の周囲を回っていたというガーディアンの報道が出てきた。

ギリシャ当局が難民船の航跡と緊急状況を事前に知っていたものと推定される。 ガーディアンの報道内容は同日午後3時30分ごろに「海岸警備隊がヘリコプターで把握したところ難民船は安定した速度と正常航路を運航中だった」と報告したギリシャ当局の公式立場と相反する。

これに先立ち18日にBBCもこの難民船が沈没する前に少なくとも7時間にわたり同じ位置にいたものとGPSによる航路追跡の結果わかったと報道した。ギリシャ当局はBBCの報道をすぐに否認した。 

今回の事故は2015年に1100人が死亡した地中海難民船沈没事故後最悪の惨事だ。だがギリシャ政府の真相究明は一進一退している。 

ギリシャ政府が「沈没前に船舶は正常運航しており、ロープで結んだことはない」と明らかにしたが、現場に出動した海岸警備隊がロープで難民船を牽引しようとしたが転覆したという生存者の証言が相次いだ。
その後ギリシャ政府は「難民船上の難民の健康状態を確認するために船首にロープを短く結んだ」と覆した。 

(中略)衝撃を受けたギリシャは事故直後3日間の国家哀悼期間を宣言し、25日に総選挙を控えた各政党は公式選挙運動を一時中断した。 ギリシャ当局がもっと速やかに救助に出るべきだったという指摘も相次いでいる。

ギリシャ海岸警備隊は「沈没3時間前に漂流する難民船を救助するために到着したが、難民が助けを拒否した」と明らかにした。 だが難民人権団体はこの難民船が沈没する15時間前から遭難したと随時救助要請をしていたと反論した。国連はギリシャ政府に事故の真相調査を要求した。(後略)【6月21日 中央日報】
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EUの国境警備隊にあたる欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)からの救助支援提案にギリシャ当局が応答しなかったことも報じられています。

****移民船沈没事故、支援提案にギリシャが応答せず=EU当局****
(中略)欧州連合(EU)の国境警備隊にあたる欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)は23日、この移民船を監視する飛行機を送るという提案にギリシャ当局が応答しなかったと述べた。(中略)事故への対応が足りなかったとして、ギリシャは批判を受けている。 

BBCはまた、移民船が安全に航行を続けていたとするギリシャ沿岸警備隊の説明と食い違う証拠を入手している。 定員超過の漁船はリビアを出発後、6月13日朝に国際水域上でギリシャに向かっているところを発見された。 

発見したのはフロンテックスが運用する飛行機だったが、この飛行機は間もなく給油が必要となった。 フロンテックスは、この飛行機を再び漁船の状況監視のために派遣してもよいと、ギリシャの沿岸警備隊に連絡したが、応答がなかったと述べている。 

ギリシャ当局は、迅速な対応が足りなかったという指摘を否定。乗船者たちはイタリアに行くから放っておいてほしいと沿岸警備隊に伝えのだと、ギリシャは主張している。 

しかしBBCの調査では、この船は転覆するまでの少なくとも7時間、動いていなかったことがわかっており、当局の主張と食い違っている。 

ギリシャの沿岸警備隊は、フロンテックスの提案に応答しなかったという主張について、コメントを発表していない。(後略)【6月24日 BBC】
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EUは移民の上陸を抑えるため、玄関口となるギリシャの海上警備を財政的に支援してきました。フォンデアライエン欧州委員長はギリシャを「欧州の盾」と称賛したこともあります。

しかし、ギリシャ当局については、欧州を目指す難民や移民の上陸を阻む「プッシュバック(押し返し)」の横行が問題視されており、今回の事故でもその可能性が浮上しています。

【「自分たちの利益を守るためには厄介な連中は来てほしくない」 ギリシャ当局だけではない国民の心情 本音は難民を受け入れる気はない日本政府と国民も同じ】
ただ、この問題はギリシャ当局だけのものではないでしょう。ギリシャ当局が「押し返し」のような厳しい移民対応をとっていることはギリシャ国民も、EUも、欧州市民もうすうす知っていながら、そのことへの抗議の声を敢えてあげてこなかった・・・ということではないでしょうか。
そうしたギリシャ当局の対応によって、自分たちの利益が守られるという理解から黙認していたのではないでしょうか。

更に言うなら、こうした構図は欧州の移民対応に限らず、入管法改正が議論になった日本の難民対応でも見られる問題です。

国会の政党間では一定に“議論になった”としても、また、一定にメディアなどに取り上げられてはいるものの、広く国民を巻き込んだ真剣な議論とはなっていません。
はっきり言えば、国民は当局の難民対応に無関心であり、あるいは外国人受入れを厳しく制限している当局対応を許容しています。

****入管を責め難民を拒む矛盾...入管法改正問題の根本は「国民自身」にある****
<国民の議論を二分する入管法改正問題の根本は、難民条約を批准しながら議論を先延ばしにしてきた国民自身にある>

6月9日、改正入管難民法が国会で成立した。3回目以降の難民認定申請者が強制送還の対象となることから、メディアではこの法律が人権無視につながると懸念されている。また、参院法務委員会で採決時の混乱もあったため、世間の印象は非常に悪い。だが私は入管だけが悪者にされる世論には首を傾げてしまう。

日本が1981年に難民の地位に関する条約(以下「難民条約」)を批准してから40年がたっている。だが日本で難民が認定される割合は諸外国よりもかなり低いことは、ここ最近の改正入管難民法のニュースで一般に広く知られることとなった。

なぜこんなにも低いのか、入管当局が非人道的だからではないのか、という話の流れになることが多いが、私自身は入管のせい「だけ」にすることは考えものだと思う。(中略)

入管とは以前は入国管理局という法務局の内部部局だったが、現在の正式名称は出入国在留管理庁で、法務省の外局である。収容された外国人は2019年までの数年は年間1000人を超え、長期収容も問題とされてきた(コロナ禍以降は一時的に激減)。

収容された外国人の死亡事件が相次ぎ、現在とてもネガティブな印象を持たれていることは周知のとおりだ。21年に名古屋入管の収容施設でスリランカ人のウィシュマさんが亡くなるまでの経緯が遺族と弁護士によって明らかにされたが、確かに人道的とは言えない、厳格すぎる扱いがされているように思える。

そして最近は長期収容の是正が目的だという入管難民法の改正への大きな反対デモが続いた。だが14年に収容中のカメルーン人男性が適切な医療を受けられず死亡したことなど、以前から入管の人権侵害は報道されてきた。それなのに国民の多くはずっと変わらず、この仕組みを維持し続けている与党を選び続けているのだ。

収容者の扱いだけではない。難民認定においても、日本は非常に厳格だ。皆さんは、今年3月に出入国在留管理庁がホームページで掲載した、「難民該当性判断の手引」を読んだことがあるだろうか。これは、難民条約を細かく読み込み、その一字一句を解説し、難民かどうかを判断するためのガイドである。

全27ページのこの手引を頭に入れて審査することは、厳格にやろうとするほど迷いも多く、時間もかかり、認定は進まないだろうと思われる。

ましてや、難民はビザやIDカードなど自分を証明するものを出身国に置いてきている場合が多い。自分に起こったこと・起こり得たことを証明するものも持ち合わせてなどいない。

だからこそ彼ら彼女らは難民なのであるが、何の証拠も持たない人を、この手引でどの程度まで難民認定できるのか。難民支援を行う弁護士の集まりである全国難民弁護団連絡会議も「基準として厳しすぎたり、運用によって難民として認められる範囲が狭められたりするおそれ」があると指摘している。

ただ多くの難民を受け入れている国でも状況は同じで、自分を証明するものを何も持たない難民申請者がたくさんやって来る。だがドイツの年間難民認定者は5万3973人、カナダの難民認定率は51.18%である。対して日本での認定者は44人、申請者のうちの0.29%しか認定されていない(いずれも19年の国連、法務省のデータ)。

ではドイツやカナダが特殊なスキルを持って難民認定をしているかというとそんなことはなく、難民条約の規定に「合いそうな」場合は認定することにしているようだ。つまり日本のような厳格な審査はしていない。

日本は難民条約違反?
(中略)だがドイツは難民かもしれない、と考えられる人は積極的に認定する。厳格な審査ではたくさんの申請者を審査し切れず、本当の難民を認定から取りこぼしてしまうリスクが大きい、人道的に問題があると考えているのだ。

では日本がドイツやカナダのように、難民を積極的に受け入れる政策を掲げる党が政権を取る日は来るのだろうか。いや、そのような日は来ないだろう。今までの経緯から考えて、国民の大多数の賛成が得られるとは思えない。

それなのになぜ日本は難民条約を批准しているのか。70年代のインドシナ難民流出が直接の契機ということだが、その背後には大国としてのメンツや体裁があったのだろうか。(中略)

難民条約を批准しているが、本音は難民を受け入れる気はない日本政府と国民、その矛盾のしわ寄せが入管に来ているのだ。

本当は法改正よりも先に「ウィシュマさんがかわいそう」「入管ひどい」だけで話を終わらせず、これからの日本をどうするのか、この矛盾をどこまで続けるのかということについて国民が意見を持たないとならなかった。今からでもそうすべきだ。(後略)【6月20日 石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー、イラン出身)Newsweek】
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【事故船舶内での国籍と性による差別】
話をギリシャ沖で転覆した移民船に戻すと、単に数百名規模の犠牲者が出た、ギリシャ当局の対応が疑問視されているというだけでなく、“事故船舶内で国籍と性による差別があった”ことも指摘されています。

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一方今回の事故船舶内で国籍と性による差別があったという主張が提起された。

ガーディアンによると、生存者は陳述書で「パキスタン国籍者らが転覆時に生き残る可能性が低い甲板の下の階に追いやられた。女性と子どもも貨物室に乗せた」と話した。実際に確認された生存者は全員成人男性だ。【6月21日 中央日報】
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事故船には少なくとも209人のパキスタン人が乗船していたとみられています。

甲板の上か下では、転覆時の生存可能性が全く異なります。人々が密集した甲板下ではまず助かる可能性はないでしょう。

生存者が男性ばかりである理由として、“「女性たちは全員、子供を抱えたまま溺れた」と聞いた。信じがたい悲劇だ。”(シリア協会の事務総長)【6月25日 FNNプライムオンライン】という指摘もありますが、それ以前の問題もあったのでは。

【黒人移民を危険な移民船に追いやる差別も 「黒人向け欧州密航ルート」に流れ込むスーダン黒人難民】
民族差別ということで言えば、移民船内部だけでなく、移民船が出発する北アフリカにおいて激しい差別が存在し、そうした差別があるがために、差別される黒人などが命の保証のない移民船に身をまかせるしかない状況に追い込まれているという現実もあります。

****スーダン難民は密航船の出発地チュニジアへ 現地を揺るがす「アラブ人」と「黒人」の軋轢****
アフリカから粗末な密航船でヨーロッパを目指す移民・難民が引きも切らない。チュニジアから今年急増している黒人移民の密航ルートに、4月に政府軍と準軍事組織の間で戦闘が始まったアフリカ東部スーダンからの難民も流れ込み始めた。密航の出発地では、続々と集まる黒人の移民・難民への地元のアラブ系住民の不満もたまっていた。(中略)

洋上で阻止、「いっそ死なせてくれ」
取り締まり船の甲板上に連れてこられた彼らに出身国を尋ねると、ニジェール、ガンビア、ベナンといった西アフリカの国名とともに、数千キロ離れた東アフリカのスーダンという声がいくつも上がった。

赤いニット帽をかぶったオスマン・アブバカル(20)は、私をにらみながら吐き捨てるように言った。
「スーダンに安全はない。だから停戦の時に逃げてきたんだ。先に行かせてくれないなら、どうすればいいっていうんだ? いっそ海で死なせてくれ。国連だって助けてくれなかったんだ」(中略)

「スーダンは愛する母国だ。戦争がなければチュニジアやリビアなんかに来るもんか」
サハラ砂漠を越え、無政府状態が続くリビアに密入国したが、多くが道中で兵士に連行されたり行方不明になったりした。安全を求めて、さらに西に進んで隣国チュニジアに逃れた。

「でも仕事がなく、寝る場所すらなかった。雨が降っても公園に野ざらしだった」
アブバカルは私に、(チュニジア)スファックス中心部にあるその公園に行ってみてくれ、といった。「人間が暮らせる環境じゃない。まともに暮らせるなら、だれも命がけで地中海なんて渡らない」(中略)

その公園は、吐き気を催すほどの強烈な生ごみの臭いで満ちていた。チュニジア第二の都市スファックスの中心部で、城壁に囲まれたメディナと呼ばれる旧市街の市場に隣接した広大な公園だった。再造成のために、あちこち生ごみで埋め立てられていた。

風が吹くたびに異臭が拡散し、ポリ袋が舞う。そんな地元住民が寄り付かなくなった園内に、青年がたむろしていた。数人で立ち話をしたり、毛布をかぶって寝ていたり、椅子に腰かけてぼんやりしたりしている。ほとんどが戦闘勃発後にスーダンから逃れてきた若い黒人男性で、150人ほどいるという。アラブ系が多数派のスーダンだが、この街は少数派の黒人の脱出先となっていた。

スファックスはもともとアラブ系の地元チュニジア人が欧州に向かう密航拠点だったが、最近になって国内外から黒人移民が続々と集まるようになっていた。

その引き金は今年2月、チュニジアのカイス・サイード大統領が黒人移民を非難した演説だった。捜査当局による非正規滞在の黒人移民の一斉摘発が始まり、黒人へのヘイトクライム(憎悪犯罪)も急増した。

仕事を失ったり、部屋を追い出されたりした主に西アフリカからの出稼ぎの黒人移民がスファックスに逃れ、安価だが危険な「鉄板ボート」で欧州に脱出する動きが加速した。この新たな「黒人向け欧州密航ルート」に、戦闘で国を追われた東アフリカのスーダンからの黒人難民が流れ込んだ形となった。(中略)

スーダンを逃れた後、安全な地を目指してすでに4カ国目という高校生もいた。
ハミス・ガファクワル(18)は、ハルツームから西部ダルフール経由でチャドへ、そしてニジェールからサハラ砂漠を越え、リビアを経由してチュニジアにたどりついた。道中に通った難民キャンプで助けを求めたが、相手にしてもらえなかったという。

「スーダンで戦闘が行われているのは全世界の人たちが知っているはずなのに、誰も助けてくれません。どうして僕たちは、犯罪者のようにいつも野宿しないといけないんですか?」

際立つ存在感、ざわめく住民
(中略)アラブ系がほとんどの地元住民の中には、街の中心部で急速に存在感を高める黒人の姿に眉をひそめる人が少なくない。

路上でスマホを売るムハンマド(44)は「黒人は我々が商売していた場所を使って、見たこともない商品を売っているんだ」と警戒する。会社員ロトフィ・キック(64)は「我が国は清潔で美しかったのに、黒人が来てからひどい状態になった」と嫌悪感をあらわにし、「我々が路上で物を売れば逮捕されるのに、彼らは野放しだ」と取り締まりの徹底を訴えた。

カメラを回していると、魚屋のカレッド・アズージ(46)が話に割って入ってきて、スーダン難民が野宿する公園の方角を指さしてまくし立てた。「公園だって、やつらが侵入して乗っ取られちまったんだ!」

チュニジアを追い出されるように欧州に向かう黒人移民・難民が乗り込む鉄板ボートは沈没が相次ぎ、地中海中央部の5月末までの死者・行方不明者は、前年同期比約1・5倍の1030人に達している。(敬称略)【6月25日 新潮社Foresight】
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