孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  訪米中のスー・チー氏、制裁緩和を容認

2012-09-20 22:41:57 | ミャンマー

(「議会名誉黄金勲章」を授与されたスー・チー氏 “flickr”より By Senate Democrats http://www.flickr.com/photos/sdmc/8004457323/

【「(経済)制裁に不必要に執着することはない」】
“つい数年前までは実現不可能と思われていた”ミャンマー民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏とオバマ米大統領の面会が、19日、ホワイトハウスで行われました。

****スー・チー氏、オバマ米大統領と面会 米議会から最高勲章を授与****
訪米中のミャンマーの最大野党、国民民主連盟(NLD)党首、アウン・サン・スー・チー氏は19日、ホワイトハウスの大統領執務室でバラク・オバマ大統領と面会した。

共にノーベル平和賞受賞者でもある両者の面会は、つい数年前までは実現不可能と思われていた。スー・チー氏は黒いブラウス、白と黒のロンジー(巻きスカート)とピンクのスカーフという装いでオバマ大統領と並んで座り、両者共ににこやかな表情だった。

面会に先立ち、スー・チー氏は米議会最高位の勲章「議会名誉黄金勲章」を授与され、「ここから先の道のりは困難なものとなるでしょう。ですが、私たちの友人からの支援と協力により、どんな障害も乗り越えられると確信しています」米国の支援に対する感謝の意を述べた。

米財務省は同日、ミャンマーのテイン・セイン大統領とトゥラ・シュエ・マン下院議長に科していた制裁の解除を発表した。米国は2007年、当時ミャンマー軍事政権の第1書記だったテイン・セイン氏と陸海空軍作戦調整官だったトゥラ・シュエ・マン氏を制裁リストに加えていた。【9月20日 AFP】
*********************

注目されていたアメリカのミャンマーに対する経済制裁解除については、「軍政時代には政治的効果があった」と民主化を後押しした意義を認めたうえで、「(経済)制裁に不必要に執着することはない」と、制裁緩和を容認する姿勢を明言しました。

民主化の進展がまだ道半ばの現在においては、スー・チー氏はかねてより早期の経済制裁解除には慎重な姿勢を示していました。海外投資についても、一昨日ブログでも取り上げたように、6月1日、タイ・バンコクで行われた世界経済フォーラム東アジア会議では、ミャンマーの基盤整備の不備、気まぐれな若年層、劣悪な教育レベル、依然影響力を維持する軍部――など障害を列挙して、「対ミャンマー投資には用心が必要」と警告しています。【6月12日 読売より】
こうした発言は、これまで改革を二人三脚で進めてきたテイン・セイン大統領の不興を買ったとも言われています。

****スーチー氏:訪米後初演説、対ミャンマー制裁緩和を支持****
ミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)党首、アウンサンスーチー氏(67)は18日午後(日本時間19日未明)、ワシントンのシンクタンク「米国平和研究所」で行った訪米後初めての演説で、オバマ政権が進める対ミャンマー制裁緩和を支持する考えを表明した。

オバマ政権はスーチー氏の意向を踏まえて制裁全面解除の是非を検討する方針。スーチー氏の理解が得られたことにより、全面解除へ向けた動きが加速する可能性がある。

スーチー氏は、米国による制裁について、「軍政時代には政治的効果があった」と民主化を後押しした意義を認め、「私は制裁緩和を支持する。(ミャンマーの)国民は自らの運命に責任を持つことを始めるべきだと考える」と明言。外圧に依存しない民主化運動の重要性を強調した。

ミャンマー政府の改革を評価するオバマ政権は制裁の段階的緩和を進め、7月には97年から禁止されていた米企業の対ミャンマー新規投資が解禁された。残る制裁には、03年から継続中のミャンマー産品の米国への輸入禁止措置などがあり、解除されるかが焦点だ。

ただ、スーチー氏の演説に先立ちあいさつに立ったクリントン国務長官は、改革に抵抗する勢力の存在を指摘。政治囚の存在、少数民族との紛争、北朝鮮との軍事関係などミャンマー政府が解決すべき課題を列挙し、今月下旬に国連総会出席のため訪米するテインセイン大統領に民主化の継続を求めた。【9月19日 毎日】
*******************

“「われわれは民主化の推進力を米国の制裁に頼るべきではない」と述べ、国内での取り組みの必要性を強調。その上で、民主化プロセスは「テイン・セイン大統領によって提案されたことを思い出さねばならない」と述べるなど、政権側への配慮もにじませた”【9月20日 産経】とのことで、これまでの理想を高く掲げた民主化運動指導者としての立場より、現実を重視した政治家としての立場を優先させる姿勢を見せています。

“ミャンマー政府は外貨獲得手段として制裁の全面解除を熱望しており、スー・チー氏はクリントン国務長官との会談でも同様の見解を伝えたもようだ。
ただ、クリントン長官は改革が「逆行しないよう監視することがカギとなる」と述べ、早期の制裁解除には慎重な見方を示した”【9月20日 産経】

“米国は民主化の促進を歓迎しながらも、今後の改革の進展には警戒感を崩していない。クリントン長官はスー・チー氏の講演に先立つ演説で、スー・チー氏の訪米実現を歓迎する一方で、ミャンマーには「チャンスがあれば国家を誤った方向に導こうとする勢力が存在する」との懸念を示した。
特に、政治犯の釈放や少数民族の弾圧、北朝鮮との軍事交流の停止などが遅れている点を強調、演説でも「より一層の改革が必要」と繰り返した。”【同上】

このあたりは、スー・チー氏の置かれている政治環境に配慮して、スー・チー氏がテイン・セイン政権の方針に賛同を示す一方で、今後への懸念はクリントン国務長官が代弁を引き受けるという役割分担のシナリオのように思えます。

【「予想を上回る早いペースに驚いている」】
制裁解除については、手続き的には時間を要するもののようです。
ミャンマー経済制裁は、5つの連邦法と4つの大統領令が複雑に絡み合ってできており、連邦法の改正には議会の承認が必要になります。【9月19日号 Newsweek日本版】
ミャンマー進出を狙う経済界は早期の解除を求めていますが、一方で、“米政府に制裁強化を求めてきた在米ミャンマー人社会からは、急激な制裁緩和に戸惑いの声も出ている”とも。

****オバマ米政権:対ミャンマー制裁の全面解除へ環境整備****
オバマ米政権が対ミャンマー制裁の全面解除に向けた歩みを加速している。米財務省は19日、ミャンマーのテインセイン大統領とトゥラシュエマン下院議長を制裁対象リストから除外したと発表した。
訪米中のミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウンサンスーチー氏は18日の講演で、米国の制裁解除を容認する考えを表明。民主化運動指導者のスーチー氏の「お墨付き」を得たことにより、全面解除へ向けた環境は着々と整いつつある。

テインセイン大統領に対する制裁解除について、コーエン米財務次官は19日、「(大統領は)抑圧・独裁から民主主義と自由に向かう改革に取り組んでいる」と述べ、米国管理下の資産凍結などを解除することを明らかにした。テインセイン大統領は今月下旬、国連総会出席のため訪米の予定で、オバマ大統領との首脳会談の可能性も指摘されており、制裁解除は両国関係の正常化へ向けた地ならしとみられる。

オバマ政権は2月に国際機関のミャンマー支援を容認したことを皮切りに、制裁の段階的解除に着手。7月11日に米企業の対ミャンマー新規投資と金融サービス提供を15年ぶりに解禁した。今後はミャンマー製品の米国への輸入を解禁するか、ミャンマーの世界銀行などへのアクセスを保障するかが焦点だ。

在ワシントン外交筋は、米国の制裁緩和について「予想を上回る早いペースに驚いている」と語る。新規投資解禁から3日後の7月14日には石油、建設機械など米国の大企業37社がミャンマーの最大都市ヤンゴンを訪れており、制裁緩和の背景にはミャンマー進出を急ぎたい米財界の意向もあるとみられる。

米政府に制裁強化を求めてきた在米ミャンマー人社会からは、急激な制裁緩和に戸惑いの声も出ている。ワシントンの民主化支援団体「ビルマ(ミャンマー)のための米キャンペーン」のアウンディン代表は19日、毎日新聞の取材に「現状は完全な民主化にはほど遠い。制裁を全面解除してしまえば、ミャンマー政府を動かすテコを失ってしまう」と危機感をあらわにした。【9月20日 毎日】
********************

【「中国を敵視するものではないし、米中両国の友好関係はわれわれにとっても有益だ」】
スー・チー氏は、対米関係の進展は「中国を敵視しない」と、中国への配慮も示しています。

****中国を敵視しない」=対米関係の進展でスー・チー氏―制裁解除、容認の姿勢****
訪米中のミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏は18日、ワシントン市内で講演し、対米関係が2011年から急進展した現状について「中国を敵視するものではないし、米中両国の友好関係はわれわれにとっても有益だ」と強調した。同氏がミャンマーの外交や東アジア情勢に言及するのは珍しい。

スー・チー氏はこの中で、最近の米・ミャンマー関係の進展には中国を封じ込める狙いがあるとの見方があるが、「ミャンマーの対中関係が損なわれることを意味しない。3カ国関係の強化のために新たな状況を活用できる」との考えを示した。

オバマ政権は11年12月、中国との結び付きが深いミャンマーの民主化進展を受け、クリントン国務長官をミャンマーに派遣。今年7月に22年ぶりに大使を復帰させたほか、経済制裁も15年ぶりに緩和している。
一方、スー・チー氏は自国の民主化プロセスについて「どれくらい本物で、どれほど持続性があるのか。これらの疑問に完全には答えられていない」と語り、オバマ政権に対し投資面だけではなく、政府や議会を含めた改革全体の支援を訴えた。(後略)【9月19日 時事】
**********************

経済制裁を受けている間に拡大した中国とミャンマーの経済関係については周知のところですが、ミャンマー側には中国への警戒感もあると報じられています。

****中国マネーがあおる「属国化」の恐怖****
ビルマ投資の先陣を切る中国の「侵略」に対する警戒感が高まっているが

中国とインドに挟まれたビルマ(ミャンマー)は、まるで巨人の遊び場に迷い込んだ子供のようだ。人口も経済力も圧倒的な両国に比べれば、ビルマは牧歌的な農業国にすぎない。

ビルマと欧米の緊張関係が和らぐ以前から、中国とインドは国境のジャングル地帯をまたいで活発にビルマと貿易を続けてきた。特に大きな存在感を放っているのが中国。政府統計によれば、ビルマでの外国投資の50%が中国からのものだ。

とはいえ、ビルマ経済はまだ隣国タイの7分の1の規模にすぎない。中国からの年140億ドル相当の投資-そのほとんどは水力発電、石油・天然ガス、鉱業の分野に集中している-の大き過ぎる影響力は、時にビルマをまごつかせている。

侵略的でない、互恵的な対中関係を維持することはビルマにとって難題だ。政府は昨年9月末、抗議活動が起きていた北部カチン州のミッソンダムの建設を凍結した。カチン州は少数民族との紛争が世界で最も長引いている地だが、ダム建設によって中国企業による支配が強まるのではないかという恐れが広まっているのだ。

ビルマはもともと排他的な愛国感情が強い国だ。少数民族が複雑に共存するなかにあって、主権確立を求める気持ちも強い。
「ビルマが中国の省の1つになってしまう」と、旧首都ラングーン(ヤンゴン)に本社を置く調査会社SAILマーケティング&コミュニケーションズの創業者キン・キン・チョーートは嘆く。

「それに今では中国と同じように貧富の差も存在する」。ビルマ国民の70%は農村経済に依存しており、高等教育どころか中等教育も受けられない人が多い。

ビルマでは1960年代にインド移民に対する暴動が発生している。外国に侵略されるという恐怖心が原因だが、現在のビルマ人が「属国化」を懸念するなら、中国も暴動の対象になる危険がある。

それでも減らない投資
中国とビルマが協調した時代もあった。日中戦争中の1938年には、両国の労働者20万人がビルマ北部の険しい山岳地帯を貫く全長1154キロの「ビルマ公路」を完成させた。

現在、ビルマ企業とその従業員が警戒するのは北京、上海、そして昆明から進出してくる中国企業だ。中国からの投資家は地元の産物を安く買いたたき、労働者を安い賃金で使うという不満が広がっている。
現地の専門家によれば、ビルマ企業の中には中国製の機械を好んで使う企業との取引を避けるところもある。中国が東南アジア諸国との問に領土問題を抱えていることも、国民の不安のタネだ。

それでも中国からの投資が減る兆候はない。中国は来年、ビルマ西部のチヤウピューと昆明を結ぶ771キロの石油・天然ガスのパイプラインを完成させる予定だ。
短期的には国境沿いの少数民族をめぐる衝突などの摩擦は起きるかもしれないが、長期的には双方が潤う関係をつくれる、という点で両国の専門家は一致している。観光インフラが整備されれば、中国人のビルマ旅行熱も高まるだろう。

ビルマはアジアの「失われた輪」だ。中国のインフラ技術によってビルマは中国とインドの懸け橋になり、さらにタイを通じて両国と東南アジアを結び付けるだろう。南東部のダウェイに建設が予定されている深海港は、中国製品をベンガル湾へ運ぶ最初のルートになるはずだ。

そのためには中国が、ビルマの複雑な少数民族問題や微妙な政治の舵取りにも配慮する必要があるが。
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする