孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「パラダイス文書」  違法ではないことに問題が 社会への信頼を揺るがす“アンフェア”

2017-11-13 22:47:07 | 民主主義・社会問題

(富裕層の租税回避を批判しているサンダース米上院議員【11月9日 朝日】)

0.001パーセントの富裕層のための“パラダイス”】
「パラダイス文書」でほんのわずかばかり垣間見えた富裕層の世界・・・租税回避、ペーパーカンパニー、オフショア投資等々・・・私には全く無縁な世界で、雲をつかむような感も。そんなことから取り上げるのも先延ばしにしてきました。

*****パラダイス文書******
ドイツの「南ドイツ新聞」は、バミューダの大手法律事務所アップルビーから何者かによって盗まれた大量の社内文書を受け取り、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に提供し、世界中のジャーナリストらとともに分析。

調査に協力している数多くのジャーナリストが、この文書から世界の企業や富裕層がバミューダ諸島の会社を通じてタックスヘイブン(租税回避地)で租税回避していた実態を暴露しはじめている。【11月11日 山田敏弘氏 courrier“「パラダイス文書」は要するに何が問題なのか?|「そもそも問題ではない」との声も”より】
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****オフショア投資とは****
簡単に言えば、企業や個人が居住する国の規制を逃れて低税率の恩恵を受けられる場所にお金や資産、利益を持っていくことだ。

人目につかない場所にお金を置いているのは誰か――最も富裕な0.1%の人々がオフショア投資の8割を所有。最も富裕な0.01%は5割を所有している

そのような場所は一般的にタックスヘイブンと呼ばれ、業界では、より正式にオフショア金融センター(OFC)と呼ばれている。(中略)

巨額の資産を持つ富豪が関わる分野でもある。「Capital Without Borders: Wealth Managers and the One Percent(仮訳:国境なき資本:ウェルス・マネジャーと1パーセント)」の著者、ブルック・ハリングトン氏は、オフショア投資は人口の1%にあたる富裕層のものではなく、0.001パーセントの富裕層のためにあると指摘する。資産が50万ドルあったとしても、オフショア投資にかかる手数料を払うのには十分ではないという。【11月6日 BBC】
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パラダイス文書に登場する著名人・企業は多岐にわたっています。

「楽園」に集う大物たち 英女王・カトリック神父・マドンナ・ナイキ・アップル…【11月6日 朝日】
パラダイス文書、アップルの新たな租税回避法も暴露【11月6日 AFP】
英女王資産15億円、租税回避地に=王室公領が投資、違法性なし【11月6日 時事】
ボノ氏が釈明「報道を歓迎」 パラダイス文書に記載【11月7日 朝日】
ケンブリッジ、オックスフォードなど名門大も税逃れか 100超校名、投資記録も【11月13日 産経】

政治絡みのところでは、アメリカ・ロス商務長官の取引がロシア疑惑関連で注目されています。

****パラダイス文書)米閣僚、ロシア企業から利益 ロス商務長官 利益相反の指摘****
米トランプ政権のウィルバー・ロス商務長官が、タックスヘイブン(租税回避地)にある複数の法人を介して、ロシアのプーチン大統領に近いガス会社との取引で利益を得ていたことが、朝日新聞が提携する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調べでわかった。

ガス会社の主要株主には、プーチン氏の娘婿や、米国の制裁対象である実業家らが含まれている。商務長官は外国への制裁判断にも影響力を持ち、複数の専門家が「深刻な利益相反の恐れがある」と指摘している。(後略)【11月6日 朝日】
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アメリカ政治の関連で言えば、タックスヘイブンを利用した租税回避自体は、ロス商務長官だけでありません。

“パラダイス文書に名前が登場したトランプ政権関係者はロス氏だけではない。閣僚や有力支援者など、ロス氏以外にも12人の名前がICIJ=キーワード=の取材で判明した。「既得権層による富の独占」を批判して大統領選に勝利したトランプ氏だが、政権はタックスヘイブンと深く結びついている。”【11月6日 朝日】

更に、共和・民主の党派を問わず広く行われています。

*****パラダイス文書)米政治動かす富裕層、次々 政党問わず、租税回避地と関係****
エスタブリッシュメント(既得権層)への米国社会の怒り――。それが、1年前の大統領選の勝敗を分けた。

だが大口献金で政治に影響力を持つ富裕層が、支持政党を問わず、タックスヘイブン(租税回避地)とつながっている実情が「パラダイス文書」で明らかになった。
 
「カネが政治を支配する。これこそ米国政治の問題だ」。民主党候補の指名争いをしたバーニー・サンダース氏はこう批判した。
 
矛先は、民主党候補となったヒラリー・クリントン氏。「既得権層の代表」だとして、共和党候補のトランプ氏も攻撃した。ヒラリー氏が集めた選挙資金の総額は約8億ドル。半分以上が大口個人寄付者からだった。
 
クリントン氏への主要な大口献金者の一人が、投資会社創設者のシモンズ氏。数学者として独自の投資システムを生み出してウォール街で名を上げ、献金を通じて政治に関わってきた。
 
ICIJの取材では、シモンズ氏は英領バミューダ諸島に信託財産を持っていたことが発覚。2030年までに信託額は350億ドル(4兆円)に膨れあがると試算される。
 
一方、トランプ氏側の支持者の名前も文書に登場した。米CNNから「家族の次にトランプ氏に近い人物」と評された不動産投資家トーマス・バラック氏。選挙戦で3200万ドル(36億円)の資金を集めた。

バラック氏の会社は世界各地のタックスヘイブンにネットワークを持ち、自身もケイマン諸島の二つのペーパーカンパニーで取締役を務めていたことが文書から判明した。
 
投資ファンド社長のポール・シンガー氏もトランプ氏への大口献金者。文書からは、ケイマンの傘下企業を通じ、海外で債権回収の事業を展開してきたことが明らかになった。【11月8日 朝日】
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アメリカ以外では、“コロンビアのサントス大統領は、バルバドスの保険会社2社の役員として記録されていた”“インドネシアでは、故スハルト元大統領の息子と娘の計3人や、野党グリンドラ党のプラボウォ・スビアント党首がタックスヘイブンに作られた会社に関与したことが分かった”【11月6日 朝日】なども。

情報流出元のアップルビー「(批判は)合法で合理的なタックスヘイブンの構造への理解が欠如している」】
情報流出元のバミューダの大手法律事務所アップルビーは、以下のように。

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・・・・アップルビーはICIJの質問状に回答せず、代わりに10月下旬からホームページ上に相次いで声明を掲載した。要旨は次の通り。
 
《我々の会社が情報を流出させたのではなく、違法なコンピューターハッキングを受けた。違法に入手された文書は、世界のジャーナリストによって使用されるだろうが、根拠のない主張に対して、会社と、正当で合法な事業を守る》
 
《違法行為を容認していない。不正もない。無実の当事者が、データ保護の違反にさらされる可能性があることに失望している。ICIJの主張は根拠がなく、合法で合理的なタックスヘイブンの構造への理解が欠如している》【11月6日 朝日】
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秘密主義、不透明性が隠す反社会的取引
租税回避の妥当性とは別に、社会的に問題がある取引が租税回避地を隠れ蓑にして行われる・・・という問題はあります。

****パラダイス文書)環境軽視の企業へ融資 欧州大手銀、租税回避地隠れみの****
インドネシアの熱帯林をめぐって、環境破壊を指摘されている同国の大手製紙会社がタックスヘイブン(租税回避地)の法人を抜け穴に、欧州の大手銀行などから融資を受けていた。

「パラダイス文書」をもとにした国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の取材でわかった。

環境への配慮に欠ける企業への社会的な批判が高まるなか、タックスヘイブンを隠れみのに利用した構図だ。

問題のエイプリル社は、インドネシアの2大製紙会社の一つだ。スマトラ島に世界最大級の紙パルプ工場を持ち、安価なコピー用紙などは日本にも輸出されている。一方で、違法な森林伐採で供給元が罰金を命じられるなど、環境破壊がたびたび問題視されてきた。
 
近年は欧米の企業や銀行を中心に、環境への配慮に欠ける企業との取引を控える傾向にある。だがエイプリル社はタックスヘイブンに迂回(うかい)させる仕組みで、欧州の大手銀行などから多額の融資を受けてきたことがパラダイス文書からわかった。(後略)【11月9日 朝日】
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英王室についても、“女王は05年、タックスヘイブンで有名な英領ケイマン諸島のファンドに750万ドル(約8億6千万円)の個人資産を投資。3年後に36万ドル(約4100万円)の分配金の知らせを受け取った。
女王のお金はこのファンドを通じ、別の会社へ投資された。英国の家具レンタル・販売会社「ブライトハウス」を支配下に置く会社だ。ブライト社は、一括払いができない客に年率99・9%の高利を求める手法が、英国議会や消費者団体から批判を浴びていた。”【11月6日 朝日】

【「何が問題なのかわからない」との声も
そうした問題を別にすれば、租税回避自体は法律事務所アップルビーの言うように「違法行為を容認していない。不正もない。」ということなのか・・・。

****パラダイス文書」は要するに何が問題なのか?|「そもそも問題ではない」との声も****
・・・・ただこうしたケースも、悪く言えば「租税回避」だが、よく言えば「税金対策」の範疇だとの見方もあり、ほとんどの行為に何ら違法性はない。

たまたまバミューダ諸島で登録している会社の株を持っていただけ、というケースもあり、いまのところ大きなスキャンダルに広がる気配はない。

もちろん、租税回避によって、世界の政府が迷惑を被っているのは確かである。経済協力開発機構(OECD)の2015年の調査では、こうした租税回避によって、世界の国々は合計で年間2400億ドルもの歳入を失っているという。

豪メディア「ABC」は、税収が減ることで国の公共サービスが減り、税金を真面目に払っている中間層や他の企業などにとってアンフェアになる、といった理由で租税回避はやめさせるべきだと指摘する。

一方で、このパラダイス文書について、「何が問題なのかわからない」との声もある。

先の「フィナンシャル・タイムズ」は、「『オフショア(海外の税制優遇地域)の資金管理は、ますます世界的に貿易と投資が増える現代において、重要な歯車になっている』と強く主張する声もある。

タックスヘイブンの『課税の中立性』は、国境を超えて集合的に投資をする個人が二重に課税されるのを防ぐことを保証するからだ」という。

つまり、国境を股にかける国際的なビジネスにはオフショアは必要なものである──そんな見方もあるのだ。

同紙はさらに、専門家のコメントから「バミューダの銀行に口座を持つのは何も違法ではないが、唯一の問題は納税申告で明らかにしないことである」と書く。

この調査に参加している米紙「ニューヨーク・タイムズ」も、「オフショアに会社を作るのは違法ではない。企業が合併や買収など国境間のやり取りを円滑にするのに普通にやっていることだ」と書き、アップルビーの言い分として「規制のかなり厳しい地域で、頻繁に規制当局のチェックを受けている」という主張を載せている。(後略)【11月11日 山田敏弘氏 courrier】
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****オフショア投資を擁護する意見****
OFCがもし存在しなかったら、各国政府の課税への抑制がきかなくなるとする主張がある。お金はそこに貯め込まれるのではなく、世界中で使われる資金になるという。

BBCパノラマが番組のために取材した当時、バミューダの財務相を務めていたボブ・リチャーズ氏は、各国の税徴取は自分の責任ではなく、各国政府が解決すべき問題だと述べた。

BBCパノラマは今回リークされた資料に大きく関わる王室属領のマン島のハワード・クエール首席大臣にも取材。クエール氏はリチャーズ氏同様、地域では規制が行き届き、国際的な金融取引に関する報告義務を完全に守っており、タックスヘイブンだとみられること自体が正しくないと語った。

アップルビーは過去に、OFCが「腐敗した政府からの盾となることで、犯罪や汚職あるいは迫害の犠牲となった人々を守っている」と述べている。【11月6日 BBC】
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ぬぐえない“アンフェア”の印象が揺るがす社会への信頼 “お金をどんどん増やしてくれる世界”】
しかしながら、税金を真面目に払っている中間層や他の企業などからすれば“アンフェア”の印象はぬぐえません。

****我々への影響――気にするべきことなのか*****
まずはその規模だ。ボストンコンサルティンググループによると、10兆ドルがオフショア投資に向けられている。これは英国と日本、フランスの国内総生産(GDP)を全て足し合わせた額にほぼ相当する。10兆ドルという額は保守的な見積もりに基づいている。

オフショア投資を批判する人々は、違法行為を生み出しやすい秘密主義や不平等性が主な問題だと指摘する。また、これまでオフショア投資を抑制しようとする各国政府の対応はのろく、効果を上げてこなかったという。

ハリングトン氏は、もし富裕層が課税逃れをしているのであれば、代償を払うのは貧困層だと話す。「政府が機能するため必要な最低限の額があり、富裕層や企業から得られなかった分は我々の懐から徴取される」。

英下院の決算委員会を委員長を務める野党・労働党のメグ・ヒリヤー議員はBBCパノラマに対し、「オフショアで起きていることを我々は知る必要がある。オフショア投資が秘密にされていなければ、このようなことの一部は起きなかった。(中略)透明性が必要で、日の光が当たるようにしなくてはならない」と語った。【11月6日 BBC】
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民主社会主義者を自認し、不公平な社会、エスタブリッシュメント(既得権層)を批判する、先の米大統領選挙候補者のサンダース氏は、当然のように吠えています。

****サンダース氏、富裕層の租税回避を批判 パラダイス文書****
昨年の米大統領選の予備選で既得権層を批判して支持を集めたバーニー・サンダース米上院議員は7日、「パラダイス文書」を受けて、米議会による調査と、租税回避に対抗する新法の制定を求める書面を上院予算委員長に提出した。

「上位1%の富裕層が自らの利益のため、他の人の犠牲のもとに課税システムを都合よく変えている」と主張した。

また同氏は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と提携する英ガーディアン紙に声明を寄せ、「トランプ政権の富裕層たちが数十億ドルの税を逃れ、利益をタックスヘイブンに移している。抜け穴をふさぎ、公平な税制を求めなければならない」と訴えた。

「世界経済がごく少数の億万長者に支配されつつあることは、現代の大きな問題だ。パラダイス文書は彼らがどう税を逃れ、富をため込んでいるのかを見せてくれた」とも指摘した。【11月9日 朝日】
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パラダイス文書が示す問題は、こうした租税回避などの富裕層による行為が違法でないことが問題だ・・・ということでは。

違法であれば、法律の運用を厳しくすれば事足ります。
違法ではないということになれば、法律云々ではなく、社会に対する信頼の問題になります。

通常であれば、サンダース氏のやや現実離れした言い様は聞き流すことが多いのですが、“違法ではない。正当な行為だ”と言われると、サンダース氏の社会批判にも耳を傾ける気にもなります。

アップルビーの主張する「腐敗した政府からの盾となることで、犯罪や汚職あるいは迫害の犠牲となった人々を守っている」云々に至っては、喧嘩を売っているようなふざけた言い様です。

「違法性はない」としてタックスヘブンを使った租税回避に走る富裕層・企業は、税金を真面目に払っている中間層や他の企業の社会に対する信頼という重要なものを損ね、結局は自らの首を絞めることにもなるように思われます。

パラダイス文書で名前があがっている詐欺罪に問われている西田信義被告は“「ビジネス界で成功している人には、マン島とかいろんな所から必ず声がかかる。火がつくとお金をどんどん増やしてくれる世界がある」”と。【11月12日 朝日】

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