(夕食会に出席したドナルド・トランプ米大統領(右)とチャールズ皇太子(2019年6月4日撮影)
バッキンガム宮殿でのチャールズ皇太子との茶会では、会話の大半が気候変動の話題だったとか【6月5日 AFP】)
【「最悪のシナリオ」の可能性は5%】
災害などにおける「最悪のシナリオ」の起こる“確率”を、個々人がどのようにイメージ・認識するかはもちろん各人によって異なります。楽観的な人もいれば悲観的な人もいるでしょう。
地球温暖化による海面上昇幅はが2100年までに2mを超え、1億8000万人以上が住む場所を追われるという「最悪のシナリオ」の可能性が「5%」・・・・という報告が。
5%の可能性・・・・小さいか? 大きいか?
この研究報告を主導した英ブリストル大学のジョナサン・バンバー教授は以下のようにも。
「もし道路を渡るときに20回に1回の確率で車にぶつかると言われたら、道路には近付かないだろう。1%の確率だって、あなたが生きている間に100年に1度の大洪水が起こる可能性を示している。5%という可能性は、なかなかどうして、深刻なリスクだと思う」
確かに、そう言われれば・・・という感も。
****海面上昇、従来予測の2倍に 氷解が加速=英研究****
海面上昇、従来予測の2倍に 氷解が加速=英研究
グリーンランドや南極大陸の氷解が加速していることから、海面の高さがこれまでの予測を大きく上回り、2100年までに最大2メートル上昇する可能性があることが、最新の研究で明らかになった。
これまで、海面は2100年までに最大でも1メートル弱しか上昇しないと考えられてきた。
しかし今回「米国科学アカデミー紀要」で発表された専門家の評価に基づく研究によると、実際にはこの2倍ほど高くなる可能性があるという。
研究者は、これによって数億人が住んでいる土地を失うかもしれないと指摘している。
海面上昇は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に発表した第5次評価報告書の中で最も議論を呼んだ問題だ。
この報告書では、排出ガス削減が進まず地球温暖化が続けば、海面は2100年までに52〜98センチ上昇すると指摘した。
しかし多くの科学者が、この試算は極めて保守的な数値だとみている。
また、海に浮かぶ大きな氷床の影響を予測するために使われている現在のモデルでは、氷床が解けていく際の不確定要素全てを考慮に入れられないことを問題視している。
審判の日
より明確に状況を把握するため、この領域の科学者が集まり、専門家による組織的な評価研究を行った。この研究では、科学者がグリーンランドや南極大陸で起こっていることに対する知識や理解をもとに、推測を行った。
その結果、もし温室効果ガスの排出が現在と同じように続けば、世界の海は2100年までに62〜238センチ上昇するという試算が出た。その頃には世界の気温は5度ほど上がっていることになる。これは、地球温暖化の中でも最悪のシナリオのひとつだ。
研究を主導した英ブリストル大学のジョナサン・バンバー教授は、「2100年までに、氷床の融解による海面上昇は7〜178センチとなる可能性が非常に高いが、これに氷河や氷床の周りの冠氷の影響、さらに海水の熱膨張を含めれば、200センチを超えることはたやすい」と説明した。
IPCCの第5次評価報告書は何が起こる「可能性が高いか」だけを記しており、これは科学的には17〜83%の確率だという。
一方、今回の研究ではより広範囲の可能性をカバーしており、確率は5〜95%に広がった。
2100年までに地球の気温が2度上がった場合、海面上昇の主原因はグリーンランドの氷床のままだ。しかし気温がこれ以上、上がった場合は、より大きな南極の氷床も考慮に入れなくてはならないという。(中略)
「しかしこうした現象が始まる可能性が高くなるのは、気温が5度上昇した場合だけだ」
それでも、このシナリオは地球にとって大きな示唆になると研究チームは指摘している。
氷が解けることで、地球は179万平方キロメートルもの陸地を失うことになるからだ。これは、リビアの国土と同じ大きさだ。
水面下に沈んでしまう陸地の大半は、ナイル川のデルタのような重要な農業地域だ。バングラデシュも大部分が人間が住み続けられない場所になるだろう。ロンドンやニューヨーク、上海といった世界的な大都市も脅威にさらされる。
「シリア危機では100万人の難民が欧州にやってきたが、海面が2メートル上昇した場合、住む場所を追われる人はこの200倍になる」とバンバー教授は指摘した。
研究チームは、向こう数十年にわたって温室効果ガスの排出を大幅に削減すれば、このシナリオを回避する時間はまだ残されていると強調している。また、このシナリオの上限が現実のものとなる可能性は5%と小さいものだとしている。(後略)【5月21日 BBC】
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「確率」の問題もさることながら、この種の報告の妥当性は素人ではなかなかわからないという問題が基本にあって、評価が難しくなります。
【2050年人類滅亡の可能性?】
“刺激的”“衝撃的”(あるいは“真実を描き出している”)報告は多々あるようです。
****2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来予測****
<オーストラリアのシンクタンクが、今後30年の気候変動にまつわるリスクを分析し、最悪の場合、人類文明が終焉に向かうかもしれないという衝撃的な方向書を発表した>
2050年には、世界人口の55%が、年20日程度、生命に危険が及ぶほどの熱波に襲われ、20億人以上が水不足に苦しめられる。食料生産量は大幅に減り、10億人以上が他の地域への移住を余儀なくされる。最悪の場合、人類文明が終焉に向かうかもしれない──。(中略)
「気候変動は人類文明の脅威である」
豪メルボルンの独立系シンクタンク「ブレイクスルー(Breakthrough-National Center for Climate Restoration)」は、今後30年の気候変動にまつわるセキュリティリスクをシナリオ分析し、2019年5月、報告書を発表した。(中略)
2015年12月12日に採択された「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えることを目標に掲げているが、報告書は、この目標値が未達に終わると予測する。
永久凍土が消失し、アマゾン熱帯雨林は干ばつに
報告書のシナリオによると、人為的な温室効果ガスの排出量が2030年まで増え続け、2030年までに気温が1.6度上昇する。
温室効果ガスの排出量は2030年をピークに減少するものの、炭素循環フィードバックやアイス・アルベド・フィードバックなど、気候プロセス上の要因も加わり、2050年までに気温が3度上昇する。1.5度の気温上昇で西南極氷床が融解し、2度の気温上昇でグリーンランド氷床が融解する。
気温が2.5度上昇すると、永久凍土が広範囲にわたって消失し、アマゾン熱帯雨林は干ばつに見舞われて立ち枯れる。ジェット気流が不安定となることで、アジアや西アフリカの季節風にも影響が及び、北米は熱波や干ばつ、森林火災など、異常気象の被害を受ける。陸地面積の30%以上で乾燥化がすすみ、南アフリカ、地中海南岸、西アジア、中東、米国南西部、豪州内陸部で砂漠化が深刻となる。
ゼロ・エミッションベースの産業システムを構築すべき
元オーストラリア国防軍最高司令官のクリス・バリー氏は、報告書の序文で「この世の終わりを避けられないわけではないが、直ちに思い切った行動をとらなければ望みは薄い。
政府、企業、地域コミュニティがまとまって行動するべきだ」と訴えている。また、この報告書では、一連のリスクを軽減し、人類文明を維持するために、廃棄物をゼロにするゼロ・エミッションベースの産業システムを早急に構築するべきだと提唱している。【6月7日 Newsweek】
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【持論を変えないトランプ大統領「天候は変化していて、どちらにも転がると思う」】
もちろん、上記のような報告について、「出来の悪いハリウッド映画じゃあるまいし・・・」と嗤う人もいるでしょう。
そうした一人が“政府、企業、地域コミュニティがまとまって行動する”ことを不可能にしているトランプ米大統領。
****トランプ米大統領 「気候変動はどちらにも転がる」 英テレビ番組に出演****
3~5日に訪英していたトランプ大統領は、英ITVの番組「グッドー・モーニング・ブリテン」に出演。3日にチャールズ皇太子と90分にわたって会談した際に気候変動について話したと述べた。そのうえで、「天候は変化していて、どちらにも転がると思う」と話した。
トランプ氏は、皇太子の「良い気候」を求める気持ちに共感したと述べた半面、汚染の拡大は他国のせいだと非難した。(中略)
情熱に感動、でも意見は変えず
トランプ大統領はチャールズ皇太子の「次世代への情熱」に心を動かされたと話した一方、気候科学に関する自身の意見は変わらなかったと述べた。
その上で、中国やインド、ロシアが大気や水質を悪くしていると避難。半面、アメリカは「最もきれいな気候」を持つ国の1つだと話した。
「忘れないで欲しいのは、これは昔は地球温暖化と呼ばれていて、それがうまくいかなくなると気候変動と呼ばれ、今は異常気象と呼ばれている。異常気象は避けられないからだ」
また、気候変動の影響で「異常気象」が増えたという考えを否定するため、過去の自然災害の例を挙げた。
「アメリカの竜巻が今ほど深刻だった覚えはないが、40年前にも史上最悪の竜巻被害があった。1890年代にも史上最悪のハリケーンがあった」
トランプ大統領はかつて、気候学者は「政治的目的」を持っていると非難し、気候変動を「嘘っぱち」だと述べた。この発言は後に撤回された。
2017年には、気候変動への国際的な取り組みを決めた2015年のパリ協定から離脱すると宣言。地球の気温上昇を産業革命前と比較して2度以下に抑えるとするこの協定が、アメリカの労働者に不利だと訴えた。
政府機関からの警告も無視し続けており、昨年には気候変動によって経済に深刻な悪影響が出るという報告書を「信じない」と一蹴した。
トランプ政権は環境保護や気候変動にまつわる政策を次々と後退させる一方、石炭工場や石油掘削に対する規制を取りやめる法案を提出している。(後略)【6月6日 BBC】
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「天候は変化していて、どちらにも転がると思う」というのは、「気象は人間の活動とは無関係で、悪化を防ぐための努力を行うつもりはない」ということの表明でもあります。
“アメリカは「最もきれいな気候」を持つ国の1つだ”・・・・例年の大規模山火事とか、大型ハリケーンの襲来とか、必ずしもそうとも言えないように思うのですが・・・・。
仮に、今はアメリカは「最もきれいな気候」を持つ国の1つだとしても、そのことと「将来の世界全体のために何をすべきか」という問題は別だとも思うのですが・・・。
****米政権、気候変動巡り証言妨害 ホワイトハウス職員らが****
米紙ワシントン・ポストは7日、ホワイトハウスの職員らが、気候変動が「壊滅的な結果を引き起こしかねない」との国務省分析官の議会への書面証言がトランプ政権の立場と相いれないとして、提出を妨害したと報じた。複数の政府高官の話としている。
トランプ大統領は地球温暖化の悪影響を認めない立場を取っている。米政府内には、トランプ氏と異なる見解を排除する空気が強まっていると指摘されている。【6月8日 共同】
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【アメリカ議会で活発化する温暖化論議】
“米政府内には、トランプ氏と異なる見解を排除する空気が強まっている”かどうかは知りませんが、野党・民主党が下院を制したことで、議会では大統領と異なる動きも出ているようです。
****温暖化にGND、米で政策論争 民主議員が提案、弱者救済と両立****
トランプ政権下で停滞していた地球温暖化対策の議論が米議会で再び活発になっている。野党・民主党の一部議員による提案「グリーン・ニューディール」をきっかけに、与党・共和党からも対案が出始めた。
■急進的内容、党内外で賛否
(中略)温暖化対策と弱者救済策を組み合わせたGNDは、民主社会主義者を自任するオカシオコルテス氏と、環境派のマーキー上院議員(民主)が起草、2月に議会に提出した。その名は1930年代の経済政策ニューディールにちなむ。
拘束力のない決議案だが、2050年で世界の温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指して今後10年間、国家総動員をすると明記。
電力からの温室効果ガス排出をゼロにし、建物の改修、高速鉄道網整備などで雇用を生み出す一方、温暖化対策の影響を受ける地方やマイノリティーなど社会的弱者に配慮。最低賃金引き上げや国民皆保険につながる考えも盛り込む。
トランプ大統領の就任後、米国で温暖化対策の議論は低調だった。トランプ氏は「温暖化は中国のでっち上げ」と主張し、17年には温暖化対策の国際ルール「パリ協定」離脱を宣言。石炭火力発電の排出規制などをことごとく覆した。上下院で多数を占めてきた共和党も議論を避けてきた。
ところが昨秋の中間選挙で民主党が8年ぶりに下院の過半数を取り、状況は変わった。議長についたペロシ氏は特別委員会を設置し、温暖化の公聴会も復活させた。温暖化対策は民主党がトランプ政権に対抗する柱。GNDがさらなる議論に火をつけた。
発表されるや、急進的な内容に党内外で賛否両論が巻き起こった。共和党は「社会主義だ」と激しく攻撃。保守系のFOXニュースは「温暖化対策のために自家用車やハンバーガー、飛行機が取り上げられる」とあおった。上院トップのマコネル院内総務は、3月末に多数を握る上院で否決してみせた。
■共和も対案、支持者に変化
実現が難しく、将来のアキレス腱(けん)になりかねないため、民主党でもペロシ氏ら主流派は距離を置くが、大統領選の同党候補は共同提案者に名を連ねたり支持を表明したりしている。
有力候補のバイデン前副大統領は4日、「GNDは重要な枠組みだ」とその考えを踏襲し、2050年までに米国内からの排出ゼロを目指し、10年間で連邦予算1・7兆ドル(約180兆円)をつぎ込む構想を発表した。
イエール大などの世論調査では、昨年12月は「GNDを全く聞いたことがない」有権者が8割以上だったが、今年4月には4割に低下した。
民主党支持層の9割が賛同し、共和党支持層でも穏健派に限れば6割が賛同している。
GNDを進める若者を中心とした環境団体「サンライズムーブメント」のアラセリー・ヒメネスさんは「社会主義でも急進派でもない。我々は多数派だ」と胸を張る。
ハリケーンや山火事、洪水など温暖化の影響とみられる災害が頻発。共和党支持者でも若い世代を中心に温暖化対策を求める声は強まっている。
16年に超党派の気候問題解決議連を設立した共和党のクーベロ前下院議員はGNDを批判するものの「以前は議論すらしたくなかった多くの共和党員が、温暖化を現実の危機と捉え、解決策を議論している。好ましいことだ」と評価する。
5月2日、下院でパリ協定から米国が離脱するのを阻止する法案が可決。共和党からも3人が賛成に回った。下院で温暖化対策関連法案が通るのは約10年ぶりだ。
共和党からも対案が次々と発表されている。二酸化炭素(CO2)の排出に税金を課す炭素税導入法案のほか、再生可能エネルギーやCO2回収・貯留技術の研究を加速させる「ニューマンハッタンプロジェクト」、規制緩和と技術革新で温暖化対策を進める「グリーン・リアルディール」などだ。
GND起草者のマーキー氏は「前回の大統領選では温暖化は悲しいほど論点にならなかったが、今度はそんな心配はない。候補者は答えを用意する必要がある」と話す。(後略)【6月7日 朝日】
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こうしたリベラルな主張は、全国ベースの選挙ではマイナスになるとこれまでは見られていましたが、今後はどうでしょうか?