孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  対中国では、親中派大統領と世論には乖離もあるなか、中国漁船「当て逃げ」事件

2019-06-15 23:12:29 | 東南アジア

(フィリピンの首都マニラの中国領事館前で抗議する活動家ら(2019年6月12日撮影)【6月15日 AFP】)

 

【親中国のドゥテルテ大統領、中国に厳しい国民世論を刺激する中国側対応に苛立ちを示す場面も】

米中間の貿易や5G・ファーウェイなどの新技術をめぐる争いやイラン周辺でのキナ臭い動きなどがあって、最近はニュースで目にする機会が少なくなった南シナ海での中国の領有権主張をめぐる争い。

 

南シナ海での“もめ事”に関する報道を目にする機会が少なった理由は、他のホットな問題の陰に隠れていることのほか、中国に対しかつてはもっとも厳しい姿勢を示していたフィリピンが、ドゥテルテ大統領に代わって以降、中国との協調路線に転じたことが大きな理由となっています。

 

ただ、フィリピン周辺海域で我が物顔にふるまう中国漁船、海域の軍事拠点化を進める中国に対し、フィリピン世論は不満を強めており、国民ベースでの対中国感情が良い訳でもありません。

 

特に、今年4月ごろ、フィリピンの中間選挙直前の頃は両国間の不協和音が目立ちました。

 

****フィリピンで反中デモ、「侵略に等しい」と市民が反発****

フィリピンの首都マニラにある中国大使館前で9日、フィリピン国内で強まる中国の影響力に対する抗議行動が行われ、1000人ほどが参加した。係争地域となっている南シナ海での中国の存在感をめぐり、緊張が高まっている。

 

フィリピン国旗を振るデモ隊は、「中国は出て行け」とシュプレヒコールを上げたり、「わが国の主権を守れ」と書かれた横断幕を掲げたりして、海底資源豊かな南シナ海での中国の領有権拡大に抗議した。

 

デモに参加した男性教師は、「ロドリゴ・ドゥテルテ政権は対応が甘い。中国の行為は侵略に等しい」と不満をもらした。

 

ドゥテルテ大統領はこれまで、中国との争いは無益であり、貿易や投資を求めてきた中国と事を構える意図はないと繰り返し述べるなど、一時過熱した南シナ海の領有権問題に目をつぶる姿勢を示していたが、フィリピンが実効支配するパグアサ島(中国名:中業島)付近でこの数か月間に中国船数百隻の航行が確認されたことを受けて緊張が再燃。

 

政府は中国船の存在は「違法」と断じ、ドゥテルテ氏はパグアサ島に立ち入ろうものなら軍事行動も辞さないと警告している。 【49日 AFP

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中国船は単なる漁船でもないような指摘も。“フィリピン軍幹部は船舶に軍事訓練を受けた民兵が乗船している可能性に触れ、「船舶は釣りをせず、停泊していることもある」とも指摘した。”【47日 産経】

 

国内の中国に対する反発を受けて、選挙直前ということもあって、親中国的なドゥテルテ大統領の口からも以下のような発言もありました。

 

“ドゥテルテ氏は演説で中国に対し、「友人同士でいよう」と呼びかけながらも「パグアサ島やその他の島に手を出してはならない」と強調。「それらの島々に向けてことを起こすなら、話は変わってくる。わが軍の兵士たちに『自爆任務の準備をせよ』と命じることになるだろう」と語った。

そのうえで自身の言葉について、警告ではなく「友人への忠告だ」と付け加えた。”【45日 CNN

 

“自爆任務”云々は、他の指導者が発言すれば国際的大問題になりますが、ドゥテルテ大統領だと、「ああ、またなんか派手なことを言っているね・・・」で終わってしまいます。

 

****南シナ海に中国漁船、一日で87隻 フィリピン反発****

領有権をめぐる国際的な争いのある南シナ海で、中国船が多数確認されているとして、近隣のフィリピンベトナムが反発を強めている。中国と東南アジア諸国連合ASEAN)の関係改善などにともない「安定」していた情勢が、再び緊張している。

 

フィリピン国軍によると、南シナ海南沙(スプラトリー)諸島で同国が実効支配するパグアサ島周辺では1月から3カ月間、中国漁船が600隻以上確認された。2月には1日で87隻が集まった日もあった。沿岸自治体は「中国船に漁師が操業を妨害されている」と訴える。

 

ドゥテルテ大統領は今月4日の演説で「パグアサ島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を批判。軍による自爆作戦を辞さないともほのめかした。

 

2016年6月に就任したドゥテルテ氏はこれまで、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、批判を封印してきた。急務とされるインフラ整備などへの支援が必要だからだ。

 

議長国を務めた17年のASEAN首脳会議の議長声明では、中国を念頭に14年から続いた「懸念」という表現も外すなど、融和ムードを演出してきた。

 

一転して中国に厳しい態度を見せたのは、国民の反中感情の高まりからだ。公共工事のために中国から多額の借金をしているのに加え、多数の中国人労働者が工事現場で働くために流入していることが、問題視されている。

 

中国船問題は、火に油を注いだ。今月9日には、国旗を掲げた市民ら約900人がマニラの中国大使館前で「中国は出て行け」と叫び、政権の弱腰姿勢も批判した。

 

フィリピンでは、5月13日に中間選挙(上院の半数と下院、地方選)がある。任期折り返しの年にあたる「通信簿」と位置づけられ、ドゥテルテ氏も無視できなくなったとみられる。

 

一方、中国外務省の陸慷報道局長は今月11日の記者会見で「昔から中国の漁民が漁をしており、その権利への挑戦は許されない」と述べ、南シナ海での自国の立場を改めて正当化した。

 

中国船をめぐるトラブルは、ベトナム海域でも起きている。3月には西沙(パラセル)諸島でベトナム漁船が中国船によって沈没させられ、ベトナム外務省が中国側に抗議。今月7日、ベトナム海域で違法操業をした中国漁船が警告に従わず、ベトナム側が高圧放水で追い払う騒動があった。

 

ベトナムでは14年、中国による南シナ海での石油掘削活動に抗議する大規模デモが発生。18年にも、経済特区で中国などの投資家に99年間の土地租借を認める案に反対するデモが起きている。【413日 朝日】

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苛立ちを強めたドゥテルテ大統領は、習近平主席との会談で、2016年の仲裁裁判所の判断を議題に取り上げたとも報じられています。

 

****比、南シナ海問題「いらいら」 大統領が中国主席に不満示す****

フィリピンのパネロ大統領報道官は29日記者会見し、ドゥテルテ大統領が25日の中比首脳会談で、南シナ海での中国の主権主張を退けた2016年の仲裁裁判所の判断を議題にしたと認め、ドゥテルテ氏が判断を受け入れない中国の習近平国家主席に対し、南シナ海で「いらいらさせられることが起きている」と不満を示したことを明らかにした。

 

仲裁判断があるにもかかわらず、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ(同ティトゥ)島周辺に多数の中国船が出没していることに不快感をあらわにしたもようだ。【429日 共同】

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しかし、中間選挙に圧勝したのちは、ドゥテルテ大統領は再び親中国路線を前面に押し出しています。

 

****ドゥテルテ大統領、中国人の働きぶりを称賛―中国メディア****

2019512日、中国メディアの観察者網は、フィリピンの不完全就業率がここ十数年で最低となる中、同国のドゥテルテ大統領が中国の経済発展と中国人の働きぶりを称賛し、国民に学ぶよう奨励したと報じた。

フィリピンメディアの報道を引用して伝えたところによると、ドゥテルテ大統領は10日、ダバオでの選挙運動で「中国をよく見てほしい。われわれは彼らの進歩にかなり遅れている。中国人を見てほしい。彼らの仕事の効率はプレートが飛ぶほど速く、仕事の時は本当によく働く」と述べた。

さらにドゥテルテ大統領が「彼らは雷雨でも働き続ける。それに比べて私たちは、こぬか雨でも肺炎にかかる」と述べると、会場は大きな笑いに包まれたという。(中略)

記事はさらに、ドゥテルテ氏就任以来、大量の中国人がマニラに流入し、その多くは中国人ユーザーを対象とした複数のオンラインゲーム企業に雇用されていることをめぐり、一部政治家から中国人流入が地価上昇を招き、フィリピン人の職を奪い、税収にも影響しているとの懸念の声が上がっていることについて、ベリョ労働雇用相が「外国人がフィリピン人の職を奪うという状況は起きてないない」と述べたことも伝えている。【514日 レコードチャイナ】

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****「私は中国が好きだ」ドゥテルテ大統領、親中派アピール****

フィリピンのドゥテルテ大統領は31日、東京都内で開かれたシンポジウムで講演し、南シナ海で領有権を争う中国について「私は中国が好きだ」と話し、親密な関係ぶりをアピールした。

 

5月中旬にフィリピンであった中間選挙の前に、南シナ海問題をめぐって中国への態度を硬化させたが、「親中派」に戻った。

 

ドゥテルテ氏は2016年の就任以来、中国との関係を重視して南シナ海問題での中国批判を抑制してきた。だが、フィリピンが実効支配している島周辺に多数の中国漁船が現れたことなどで国民の対中感情が悪化。今年4月、「島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を牽制(けんせい)するようになった。

 

この日の講演でも「海全体が自分たちのものだと主張するのは正しいことだろうか」と指摘したが、全体的なトーンは一転させた。4月に会談したばかりの習近平(シーチンピン)国家主席について「機会があればぜひ南シナ海問題も話してみたい」と秋波を送り、閣僚レベルでの対話の可能性にも言及。「国際法を使いながら緊張を緩和することができるかもしれない」などと話した。【61日 朝日】

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そのときどきの政治事情で対応に変化はあるものの、基本的にはドゥテルテ大統領は中国へのシンパシーが非常に強いようです。

 

【中国漁船“当て逃げ”事件で更に硬化しそうな世論】

しかし、大統領の中国への好意的共感にもかかわらず、中国船の“傍若無人”な対応は改まらないようです。

 

****南シナ海 フィリピンの漁船が中国漁船に衝突され沈没****

(中略)フィリピン国防省は、中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海のリード礁付近で、今月9日夜、停泊していたフィリピンの漁船が中国の漁船に衝突され沈没したと発表しました。

この際、フィリピン人の乗組員22人が海に投げ出されましたが、衝突した中国の漁船は救助活動を行うことなく、その場を離れたということです。

乗組員たちは、近くを航行していたベトナムの漁船に全員救助され、命に別状はないということです。

フィリピン国防省は、中国の漁船が救助活動を行わなかったとして、「中国の漁船の卑劣な行動を最も強い表現で非難する。これは友好関係がある国の行うことではない」と強く非難しました。

また、フィリピン外務省も、外交ルートを通じて中国政府に対し、正式に抗議したことを明らかにしました。

衝突のあったリード礁周辺はフィリピンの排他的経済水域内ですが、南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張する中国は多数の漁船を操業させているほか、2012年にも中国の貨物船がフィリピンの漁船に衝突して沈没させたあと、そのまま立ち去る事故があり、今回も両国の緊張が高まりそうです。【613日 NHK】

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中国側は“衝突”は認めているものの、“当て逃げ”は否定しています。

 

****中国政府、フィリピン漁船への衝突認める 「当て逃げ」は否定****

中国政府は15日、領有権問題で周辺国と係争中の南シナ海のリード堆(フィリピン名:レクト環礁)近海に停泊していたフィリピン漁船に9日に衝突したのは中国のトロール船だったことを認めた。ただし、フィリピン当局が批判する「当て逃げ」行為については否定している。

 

中国のトロール船は9日、リード堆近海で起きた衝突事故の後に逃走。フィリピンの当局やメディアからは怒りの声が上がっていた。

 

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、豊富な資源を有する南シナ海をめぐって対立する中国への批判を一時期よりはトーンダウンさせているが、フィリピン国民の多くは同海域における中国政府の動きにいら立ちを募らせている。

 

フィリピンの首都マニラにある中国領事館は、中国のトロール船「粤茂浜漁42212」がフィリピン漁船に衝突したことを認めたが、安全性を懸念してその場を離れたとして、「中国人の船長は、フィリピン漁船の乗組員たちを救助しようとしたが、他のフィリピン漁船から包囲されることを恐れた」と主張。

 

フィリピン当局から「当て逃げ」と批判を受けたことについて、問題のトロール船は「フィリピン漁船の乗組員たちが救出されたことを確認した」として、当て逃げを否定した。だが、フィリピン側の乗組員22人は海の中で数時間、救助を待っていたと主張しており、言い分に食い違いをみせている。

 

乗組員らはその後、ベトナム漁船に救助され、14日にフィリピン海軍の船で帰国した。

 

ドゥテルテ大統領の報道官はこの事故について、漁船の乗組員を見捨てるとは「あってはならない、残忍な」行為だと非難。フィリピンの沿岸警備隊は、事故に関する調査を進めている。 【615日 AFP】

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ドゥテルテ大統領はともかく、中国に対するフィリピン世論の方はこの事件でまた硬化しそうです。

 

【批判を封じる強権体質 中間選挙圧勝で体制を固め、次期大統領戦略も】

国民からの高い支持率を維持するドゥテルテ大統領ですが、“フィリピン大統領「私も同性愛者だったが『治した』」”【63日 Newsweek】といった「なんじゃ、そりゃ?」という話題など多々あります。

 

大統領の強硬な麻薬対策は国民世論の支持を得ていますが、一方で、その強権的体質はやはり大きな問題をはらんでいます。

 

****フィリピン民放最大手、大統領に批判的報道で閉鎖危機****

フィリピンドゥテルテ大統領に批判的な報道を続けてきた民放最大手ABSCBNが閉鎖の危機にある。議会下院は11日、同局の営業認可更新に関わる法案審議を凍結。7月に法案が再提出されなければ、来年3月20日に認可が切れる見通しだ。

 

同局はアキノ前大統領に近いロペス家が経営。現地報道によると、ドゥテルテ氏は2016年の大統領選の際に自分に好意的な宣伝の放送を断られ、抵抗勢力のCMが流されたことへの怒りをたびたび口にしてきた。同局は多くの死者が出ている麻薬犯罪撲滅キャンペーンにも批判的で、凍結はこうした内容への圧力とみられている。

 

一方、同局所属の人気アーティストや国民の反発も想定され、閉鎖には至らないとの見方もある。同局作品は世界50の国・地域で放送され、最近も中国、トルコ、インドネシアでの放送が決まったばかりだ。

 

フィリピンではドゥテルテ氏就任以来、政権に批判的なメディアの閉鎖を示唆する動きが頻発している。【612日 朝日】

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中間選挙圧勝で現体制を強固なものとした大統領は、後任に自分の娘を考えているとか。

 

****フィリピン中間選挙でドゥテルテ派圧勝、勢い増す強権体制****

フィリピンで5月13日に中間選挙が行われ、上下両院でドゥテルテ大統領(74)を支持する勢力が圧勝した。2016年6月末に発足以来、7〜8割という高支持率を維持してきた現政権に対する国民の信任が裏付けられた形だ。

 

今回の勝利は政権内で「ドゥテルテマジック」と呼ばれ、任期が終了する22年まで強権体制が続く見通し。大統領が公約に掲げていた死刑制度の復活や連邦制導入に向けた憲法改正の審議が前進しそうだ。(中略)

 

外交では、大統領がこれまで進めてきた親中路線の行方が注目される。南沙諸島の領有権問題では、中国から経済援助を引き出す見返りに軍事拠点化を黙認してきた。

 

しかし、中間選挙の1カ月前には中国への態度を硬化させる発言が飛び出し、5月下旬の訪日時にも「海全体を一国が主張するのは正しいのか」と疑問を呈するなど、中国に対する不信感を示す場面も出てきた。一方でこうした姿勢は、選挙を踏まえたリップサービスとの見方もある。

 

憲法では大統領の再選は禁じられている。ドゥテルテ大統領は22年に任期を終えることになるが、次期大統領選で反ドゥテルテ派が巻き返しを図れば、麻薬撲滅戦争による超法規的殺人や隠し資産疑惑などで逮捕、訴追される可能性がある。歴代政権では、エストラダ(任期19982001)、アロヨ(同0110)両大統領が汚職に関与したとして政権交代後に逮捕された。

 

次期大統領選の候補者には早くも、ドゥテルテ大統領の娘で、サラ・ダバオ市長の名前が上がっており、今回の中間選挙でも改革党を立ち上げて勝利に貢献した。大統領は任期終了後に自身が逮捕されることを阻止するためにも、サラ市長を次期候補に見据えた政権運営を行うとみられる。【614日 WEDGE】

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超法規的殺人に手を染めていますので、反対派による政権奪取となれば、逮捕は間違いないでしょう。

なんとしても、信頼できる者に後を託す必要があります。

 

コメント
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