孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

感染拡大する「封じ込め優等生」アジア 中国ワクチン外交に対抗する日本のワクチン支援

2021-06-05 22:41:31 | 日本

(台湾で最も高いビル「台北101」の外壁に6月4日夜、「台湾♡日本」などの文字が点灯された。【6月5日 HUFFPOST】)

 

【蔡英文総統も「その深い友情に、心から感謝します。」】

これまで欧米に比較して新型コロナ感染を最小限に封じ込めてきた「優等生」の台湾やベトナム、そしてマレーシアなどアジア諸国での感染拡大が相次いでいます。

 

このうち台湾については、ワクチン確保の遅れ及び中国との関係という特殊性によって、中国のワクチン攻勢にさらされるという事態になっていることは、5月27日ブログ“台湾  ワクチン確保に苦慮 中国が独企業との契約妨害?”で取り上げたとおり。

 

この事態に、日本政府は国内で現在使う予定のないアストラゼネカのワクチンを台湾に支援するという、日本にしては比較的早い決断・実行を示し、124万回分が4日午後、台湾北部の桃園国際空港に到着しました。

台湾側も概ねこれを歓迎しているようです。

 

****台湾への日本からのワクチン提供に台湾の蔡英文総統もコメント 「友情に感謝」=台湾メディア***

日本からの台湾へのワクチン提供について発表され、台湾メディアの中時新聞網もこの件を報じている。提供されるのは、英アストラゼネカ製。ワクチン不足に悩む台湾を支援するための措置で、この支援について台湾の蔡英文総統からも、コメントが寄せられている。

蔡英文総統は、SNSでコメントしたが、コメントは日本語で寄せられている。「台日の絆は、ワクチンが人々に免疫力を与えるように、民主主義国家同士が協力を通じてお互いのガバナンスを強化できることを示しています。困難な時代を、支え合ってともに切り抜けようという姿勢がこれまでにも増して鮮明になったとうれしく思っています。その深い友情に、心から感謝します。」

こうした支援について、日本側からも「今回の支援は、世界保健機構(WHO)が提唱する、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、つまり“すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられるようにする”という方針を受けて決定したもの」と説明した。

一方、こうした支援に対して、日台両国のネット民も反応している。「こうした支援により、過去の東日本大震災の際に、台湾が日本に行った支援活動への感謝を表せる」とのコメントも見られた。

 

台湾からは、東日本大震災の際に200億円という多額の義援金が届いたこともあり、今でもそのことを覚えている人もいるようで、「これまでの日台関係に基づき、台湾を支援すべき」との意見も出ている。さらに、「日本も台湾も大国の脅威にさらされている点で共通している。互いに助け合うべき」という意見も寄せられていた。【6月1日 Searchina】

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“4日付の台湾各紙は、日本政府が台湾に新型コロナウイルスの英アストラゼネカ製のワクチンを提供することを「日本の124万回分が今日台湾到着」との見出しで1面トップに掲載し、日台の友情を改めて証明したと報じた。”【6月4日 時事】

 

****「日本は気概を示した」 台湾、ワクチンを歓迎****

日本政府が台湾に提供した英製薬大手アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチン124万回分が4日午後、台湾北部の桃園国際空港に到着した。台湾のテレビ局が飛行機の到着を実況中継するなど高い関心が示され、歓迎の声が広がった。

 

蔡英文総統はフェイスブックで「自由と民主主義という同じ価値観を共有するパートナーからの迅速な支援に感謝する」と表明した。外交部(外務省に相当)の欧江安報道官も「日本の友人からの温かいご支援は永遠に心に留めておく」とのコメントを発表した。

 

台湾のメディアは「ありがとう、日本!」などとワクチン到着を大きく報道。大手紙、自由時報は「中国の脅しに直面しながら日本は気概を示した」と見方を示した。インターネット上には「日本こそ真の友人だ」などの書き込みが相次いだ。

 

ワクチンの到着に先立ち、南部・台南市の黄偉哲(こう・いてつ)市長は3日夜、フェイスブックで、日本に対する感謝の気持ちを表すために、台南在住の日本人にワクチンを優先的に接種する考えを表明し、大きな話題となった。

 

台湾では5月に入り、新型コロナの感染が急速に拡大する一方、ワクチン調達が中国の妨害などにより大幅に遅れていた。日本からのワクチンが到着するまで約2300万人の人口に対し、確保したワクチンはわずか約85万回分だった。【6月4日 産経】

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中国側は“中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は4日の記者会見で、日本が新型コロナウイルスワクチンを台湾に援助したことを受け、「政治パフォーマンスに固執するな」と日本を牽制した。”【6月4日 産経】と不快感を示しています。

 

また、中国ネットでも“日本が台湾に「自国で使わないワクチン」を提供と中国メディア、ネット「これ善意?」「あくどい」”【6月4日 レコードチャイナ】といった反応もあるようです。

 

今後については、“台湾メディアの情報として日本政府が最終的には1000万回分のワクチンを台湾に提供する見込みである”【同上】とも。

 

また、アメリカは“国際枠組み「COVAX(コバックス)」を通じ、台湾を含むアジアに700万回分を提供する”【6月4日 共同】とも報じられています。

 

アメリカが前面に出ると米中関係を強く刺激するため、アメリカに代わって台湾とのつながりが強い日本政府が前面に出る形で日米の調整がなされた・・・ということでしょうか。全くの想像です。

 

いずれにしても台湾の窮状を考えると、今回の日本による支援はタイムリーな決定であり、台湾の動揺を防ぐことができること、併せて、親日国台湾との絆を強化できることで、日本にとってもメリットの大きい対応でしょう。

 

【日本、感染拡大のベトナムにも支援 “意地とプライド”ながら中国産ワクチン承認も】

台湾と並ぶ「封じ込め優等生」ベトナムも。

 

****ハイブリッドの変異ウイルス、ベトナムで拡大か…「封じ込め優等生」が危機に直面****

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えてきたベトナムで、5月以降、新規感染者が急増している。インド型(デルタ型)と英国型(アルファ型)が混ざったハイブリッドの新しい変異ウイルスが感染拡大に影響している可能性がある。

 

1か月で2・5倍

米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、2日の新規感染者数は245人で、5月上旬の2桁台から大幅に増えた。昨年来の累計の感染者数も5月末で7432人と、2928人だった4月末から1か月で2・5倍になった。

 

首都ハノイに近い北部バクザン省の工業団地や南部ホーチミンのキリスト教施設で、インド型などのウイルスによる大規模クラスター(感染集団)が相次いで発生している。グエン・タン・ロン保健相は1日、「適切な対策を講じなければ、危機的な状況に陥る」と訴えた。

 

各自治体は、飲食店の営業停止や外出制限を徹底した上で、感染者数の早期把握に向けて検査を増やす取り組みを始めた。ホーチミンでは、医大生を動員し、1日の検査数を5万件から10万件に倍増させる。

 

両方の特徴

ベトナムはこれまで、入国制限や隔離対策を厳格化して感染者数を抑え込み、コロナ対策の「優等生」とされてきた。今回の感染急増の要因が特定されない中、5月29日に政府が発表した新たな変異ウイルスの発見が注目を集めている。

 

ロン保健相は政府の会合で、「このウイルスはとても危険だ」と警告した。政府系ニュースサイト「VNエクスプレス」によると、ウイルスは複数の感染者の遺伝子解析から見つかり、英国型とインド型の両方の特徴を持ち、感染力が強いという。

 

接種率1%

感染急増を受け、政府はワクチンの確保に本腰を入れ始めた。共同購入・分配の国際的枠組み「COVAX(コバックス)」などから年内に計約8000万回分を調達する予定が遅れているためだ。

 

英オックスフォード大などが集計するアワー・ワールド・イン・データによると、ベトナムの5月31日現在のワクチン接種率は1%で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国中で最低となっている。

 

グエン・スアン・フック国家主席はバイデン米大統領とロシアのプーチン大統領に書簡を送り、ワクチン入手への協力を求めた。一方で、「ワクチン外交」を展開する中国からは供給を受けていない。南シナ海で領有権を争うなど対立を深めていることが背景にあるようだ。【6月4日 読売】

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ベトナムも中国との関係においては、台湾ほど死活的ではないものの、同じ社会主義国家であるにもかかわらず安易に中国に頼れない事情があります。

 

単に、昨今の南シナ海での対立というより、侵略・戦争を繰り返してきた長年の歴史的関係というべきでしょう。

 

”中国の歴代の王朝は何度も東南アジアへの侵略を試みたが、ラオス、ミャンマーとの国境は山岳地帯にあり大軍を動かすことができない。それゆえに中国はベトナムの海岸沿いからのルートで侵略を試みた。しかし、その度にベトナムの激しい抵抗によって退けられている。それだけではない。900年ほど前には、ベトナムの英雄である李常傑が大軍を率いて広東省に攻め込んだこともある。中国にとってベトナムはなんとも厄介な相手なのだ。”【4月13日 川島 博之氏 JBpress】

 

そうした歴史的国民感情、昨今の南シナ海での他率に加え、中国製品に対する“安かろう、悪かろう”不信感も根強いようです。

 

そのベトナムは国産ワクチン開発に取り組んでいますが、まだ実用化されていない現段階では、独自に購入契約を結んだ欧米メーカーからの供給も進んでおらず、ASEAN最低の接種率という現実もあります。

 

****「中国製ワクチンはいらない」ベトナムが見せる意地とプライド****

(中略)

中国製ワクチンを購入しないASEAN唯一の国

中国は現在「ワクチン外交」を世界中で展開しているが、優先度を最も高くしていたのはASEAN(東南アジア諸国連合)の国々だった。実際に中国製ワクチンが流通する前から、中国政府はベトナム、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジア、フィリピンのASEAN5カ国に対して優先的にワクチン支援を行うと表明していた。インドネシアやシンガポール、マレーシアもすでに中国製ワクチンを購入している。

 

一方、ベトナムは中国からの購入を拒み続けてきた。今年(2021年)2月26日、ベトナム外交部のスポークスマンは、「中国製ワクチンを買う計画はあるのか」という質問に対し、「ベトナムは世界の、その他のパートナーと交渉して、国内の需要を満たすつもりだ」と回答した。

 

こうしたベトナム外交部の発言に、中国では「なぜベトナムは拒絶するのか」と物議を醸した。一部の中国メディアは、中国のワクチン開発の経験の浅さが原因ではないかと推測する。

 

確かに、中国は国際的なワクチン供給において“新参者”である。主要メーカーの仲間入りをするのは新型コロナワクチンが初めてだ。未知数の高い中国産ワクチンに対してベトナムの国民が安全性や有効性を疑っている可能性はある。

 

しかし、原因はもっと根深いところにあった。

 

今なお残る中国製品アレルギー

ベトナム国民はなぜ中国製ワクチンを信頼できないのか? その理由について都内在住のグエンさん(仮名)は次のように話す。

 

「ベトナムでは中国製ワクチンに対する反対の声が非常に強い。というのも、ベトナム国民は、“安かろう、悪かろう”の中国製品に今までさんざんな目に遭わされてきたからです。なにしろバイクも自動車も中国製は2〜3年ですぐに壊れてしまいます。トラクターなどの農機具も同じです。修理もできず捨てるしかない。こうした経験をした人がたくさんいて、みんな中国製品に不信感をもっているんです」(中略)

 

想像以上に根深い中国への反感

「一帯一路」は、中国製品の販路を世界に拡大する巨大物流構想だと言えるが、中国はこれまで築いた物流ルートを、「健康のシルクロード」として、新型コロナワクチンを送り込むためにも活用しようとしている。

 

中国政府は、「公共財」として新型コロナワクチンを無条件で提供するとし、特に東南アジア諸国を優遇する態度を示してきたが、ベトナムは中国の“厚意”を受け入れない。それほど中国を信用していないのだ。

 

もっとも、ベトナムと中国の間には、南シナ海の領有権問題が存在する。度重なる国境紛争もあった。“同じ共産党国家の兄弟”と言われながらも、私たちの想像以上にベトナム人は中国に反感を抱いている。

 

2020年、中国の名目国内総生産(GDP)は14兆7000億ドルに達したが、ベトナムは3400億ドルにとどまった。中国の背中ははるか先だ。そんなベトナムが自力でワクチン開発に挑んでいる。その姿からは、「弟分」に甘んじるのをよしとせず、中国の影響力から自立しようとする強い意地とプライドが滲み出ている。【5月25日 姫田 小夏氏 JBpress】

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こうしたベトナムに対しても、台湾同様、日本政府は支援の動きを見せています。

 

****ベトナムにもワクチン提供を検討 6月中の輸送目指す 政府****
新型コロナウイルスワクチンの海外への提供をめぐり、政府は、4日、台湾におよそ120万回分を無償提供したのに続き、接種が遅れているベトナムに対しても、ワクチンを提供する方向で検討に入りました。

 

新型コロナウイルスワクチンをめぐって、政府は、国内の接種に必要な量を上回る分については、海外に供給する方針で、4日、台湾に対してアストラゼネカのワクチン124万回分を無償で提供しました。

これに続き、政府は、接種が遅れているベトナムに対しても、ベトナム側からの要請を受けて、ワクチンを提供する方向で検討に入りました。(中略)

 

政府は、早期に届けられるよう、国際的な枠組みは経由せずに直接、ベトナム側にワクチンを提供したい考えで、早ければ今月中の輸送を目指し、検討を急ぐことにしています。【6月5日 NHK】

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もっとも、前出記事では“意地とプライド”との指摘がありましたが、ベトナムは一方で「現実主義」の国で、中国との関係についても、過熱しないようにコントロールしながらという対応をこれまで見せてきました。地続きで、1979年にも戦火を交えた関係にあることから、当然のことでしょう。

 

今回のワクチンについても、中国製ワクチンを急遽承認したようです。

 

****ベトナム、中国シノファームのコロナワクチン承認=報道****

ベトナムは、中国国有製薬大手の中国医薬集団(シノファーム)が開発した新型コロナウイルスワクチンを承認した。オンラインメディアのVNエクスプレスが4日報じた。

英アストラゼネカ製、ロシアの「スプートニクV」に次いで3例目の承認となる。【6月4日 ロイター】

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このことが、日本からのワクチン支援に影響するのか、しないのか・・・は知りません。

 

【中国ワクチン外交に対抗 マレーシアに月内にも無償で提供する方向で調整】

マレーシアでも感染が拡大しています。

 

****新型コロナ、アジアで続く「負の連鎖」、今度はマレーシアで感染急拡大、1日から都市封鎖****

マレーシアで新型コロナウイルス感染症が急拡大している。人口当たりの新規感染者数は5月末、インドを超えた。事態を重視した政府は1日から2週間、全国で経済や社会活動を停止するロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。ワクチン接種が進み、日常が戻りつつある欧米とは対照的にアジアでは「負の連鎖」が続いている。

 

多くの海外メディアが引用する米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、マレーシアの累計感染者数は1日現在、57万9462人。感染者が急増した結果、人口100万人当たりの7日間の平均新規感染者数は5月26日の時点で211人となり、インドの165人を大きく上回る深刻な状況となった。累計死者数は人口3200万人に対し約2800人だが、5月だけでその40%以上を占めている。

 

AFP通信はイスラム教徒が大多数を占めるマレーシアで、変異株に加えて感染拡大の要因となったのは「5月12日に終わった断食月ラマダン(Ramadan)と、その終わりを祝う大祭「イード・アル・フィトル(Eid al-Fitr)」期間中の集まりだ」と報道。「こうした集まりでは新型コロナ対策の規則が守られないことが多い」とも伝えた。(後略)【6月5日 レコードチャイナ】

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日本のワクチン支援構想には、このマレーシアも入っています。

 

****ワクチン提供、ベトナム・マレーシアにも…米とも連携して中国に対抗****

日本政府は、国内での使用を見合わせている英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンの一部を、感染が急増しているベトナムとマレーシアに月内にも無償で提供する方向で調整に入った。ワクチンの海外供与は、台湾に続いて2例目となる見通しだ。(中略)

 

日本政府は、すでに両国の保健当局がアストラゼネカ製のワクチンの使用を許可していることから、日本国内で当面使用予定のない同社製のワクチンを提供しても問題がないと判断した。国際機関を通さず、直接供与する方向だ。数量は今後、決定する。

 

また、太平洋の島嶼とうしょ国への提供も検討している。日本政府が今月下旬にテレビ会議方式で開催する島嶼国首脳らによる「太平洋・島サミット」で、菅首相が表明する方向だ。国際機関を通じた支援となる見通しだ。

 

ワクチンの提供を巡っては、日本政府は2日に開催したワクチンサミットでアストラゼネカ製ワクチンを念頭に3000万回分を海外に提供する方針を表明し、4日に台湾に124万回分を無償供与した。

 

中国は国産ワクチンを80か国以上に供給するなど、積極的な「ワクチン外交」を展開している。日本政府としては、米国などと連携して中国に対抗する狙いがある。【6月5日 読売】

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中国に対抗云々は別にしても、日本国内で当面使用予定のないワクチンを支援に回すことは有意義なことと考えます。

 

ただ、「国内でもワクチン接種が進まない状況で、外国支援をしている場合か!」いった批判があるかも・・・と思ったのですが、そういう声は今のところ大きくないようです。良く言えば“物分かりのいい”、悪く言えば”おかみのやること従順・盲目的”ということでしょうか。

 

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