(中国本土における無気力な「寝そべり主義」若者が増加することで、不動産価格への影響は?・・・という、香港の不動産関連記事)
【14億人による熾烈な競争社会】
昨日ブログでは中国・習近平政権の政治的状況を取り上げましたが、今日はそうした政治的なものから離れた中国社会の“意外な”一面を最近のニュースからいくつか取り上げてみます。
中国社会については、人権・民主主義がないがしろにされた共産党支配のもとで抑圧されている、みんな金儲けに走っている、自分の利益のためならマナー・ルールを守らない、自己主張が強く協調性に欠ける・・・等々のネガティブなイメージがありますが、必ずしもそうとも言えない側面も多々あるようです。
中国というと、政府・共産党の指示に従って人々・社会が動く・・・というイメージがありますが、話はそう簡単でなく、政府・党が“笛吹けど・・・”ということも多々あるのは、例えば“中国3人目解禁、不満噴出 「まったく考えられない」SNSで9割超”【6月7日 朝日】などにも現れています。
指示に従わないだけでなく、住民と主に地方政府との衝突は土地収用などをめぐって日常茶飯事的に起きています。
ですから、日本のように選挙はないものの、共産党も「世論」の動向は非常に気にします。
最近の“衝突”のニュースでは、「学位の価値」をめぐる学生と教育機関の騒動も。
****中国の学生数千人、校長を人質に取って抗議 学校統合めぐり****
中国・江蘇省にある南京師範大学の「独立学院」の学生数千人が、職業学校と統合されれば学位の価値が下がるとして、学長を人質に取って抗議した。警察が8日、発表した。
江蘇省丹陽市の警察によると、南京師範大学の中北学院の学生らが6日以降にキャンパスに「集まり」、学長(55)を30時間以上にわたって拘束した。
学生らは「暴力的な言葉を叫び、警察の邪魔をし」、学校当局が統合計画の停止を発表した後も、学長を解放しなかったという。
報道によると、出動した警官隊が警棒や催涙スプレーを使用し、学生の一部がけがをした。
中国では大規模行動が規制されており、今回のような抗議はまれだ。
独立学院の学生が反発
中国には、今回の中北学院のような「独立学院」という教育機関があり、大学や社会組織、個人らの共同出資を受けている。大学入試で合格点が取れなかった学生は、それら独立学院に入学し、大学卒と同じ学位を得ることができる。ただ学費は大学より高くなる。
独立学院の学位は、職業学校の学位より価値があると考えられている。独立学院の卒業生らは、学位が厳しい就職戦線で役立つと考えている。
中国の今年の大学卒業生は、過去最多の900万人になると見込まれている。
警官隊の出動でけが人も
(中略)
統合は見合わせ
江蘇省の教育当局は、独立学院の統合計画について、職業学校と一緒にするよう求める、中央政府・教育部(日本の文部科学省に相当)の指示に従ったものだと説明していた。
中国紙・環球時報によると、統合の決定を受け、江蘇省内の他の4つの独立学院でも最近、同様の懸念から抗議行動が起きた。一部では身体的な衝突もあったという。
江蘇省にある独立学院全6校はその後、3月に発表していた統合計画を見合わせると表明した。【6月9日 BBC】
*******************
「学位の価値」という、なんとも現実的な問題をめぐる衝突ですが、それだけ厳しい「競争」にさらされているということでもあるのでしょう。
厳しい「競争」を勝ち抜いて就職しても、「競争」は続きます。
“だらだらと仕事をして時間ばかりかける人が少なくない。仕事効率はともかく、とりあえず残業する”と言えば、「ああ、日本のことね」とすぐに思いますが、日本ではなく中国の実情とか。
****日韓すら「超越」してしまった・・・中国人の平均労働時間=中国メディア****
日本人の勤勉さは有名だが、中国人も負けず劣らず勤勉で、平均労働時間は今や日本を超えるまでになった。中国メディアの網易はこのほど、「中国の長い労働時間は本当に豊かさをもたらしているか」と問いかけ、その実態を指摘する記事を掲載した。
記事は、中国統計局の調査によると中国人の1日の平均労働時間は9.2時間だったと伝えた。これは日本や韓国よりも長いと指摘している。なぜ中国の労働時間はこんなにも長いのだろうか。
記事によると、1つの要因は「中国国内における競争」が原因だという。つまり、約14億人という人口を背景とした膨大な労働者の数に対して仕事が少ないので、多くの人は職を失わないように一生懸命働く必要があり、自主的に残業すると説明した。
もう1つの要因は「だらだらと仕事をして時間ばかりかける人が少なくない」ことだ。今では996と呼ばれる「朝9時から夜9時まで、週に6日間働くこと」が奨励される風潮があるので、「残業しない社員は悪い社員」とのイメージが定着しており、仕事効率はともかく、とりあえず残業するという。
しかし、こうした働き方は非常に非効率的で、例えば、ドイツの平均労働時間は中国よりずっと少ないにもかかわらず、生み出す利益は非常に多いと指摘した。それで、労働時間が長いことは必ずしも富や豊かさに直結するわけではないと結論している。
中国では個人経営の小さな会社だと、週に1日の休みすらもらえず、休日は「月に2日」というところも少なくない。個人経営の店などでは旧正月の時くらいしか休みがないところがほとんどだ。労働法はあっても守られていないのが現状で、中国の労働環境は非常に厳しく、労働時間が長いだけで勤勉かどうかはまた別問題とも言えそうだ。【6月10日 Searchina】
************************
【「中国の夢」への「奮闘」を求める党 何もしない「タンピン」を主張する若者】
“14億人による熾烈な競争社会”ということになると、反作用的に、そういう「競争」を否定する人々もでてきます。中国の若者の間で共感される“タンピン主義”とは。
****中国の若者に広がる“寝そべり主義”とは****
今、ある言葉が中国のインターネット上で広がりをみせています。それが「タンピン」です。(タンは身へんに尚 ピンは平)元は中国語で「横たわる」という意味ですが、“あえて頑張らないライフスタイル”を意味するキーワードとして使われ始め、若者の間に流行し社会現象になっているのです。
■SNS投稿から社会現象に 若者の支持広がる
発端はことし4月、あるネットユーザーが中国で人気のSNSに投稿した「タンピンは正義だ」と題する文章でした。
「2年以上仕事がなく、ずっと遊んでいるけれど、私は何も間違っていない。いつも周囲との比較や伝統的観念から圧力を受ける。人間はそうあってはならない」。
さらに、自らを古代ギリシャの哲学者と重ね…
「私はディオゲネスのようにたるの中で日光浴をし、ヘラクレイトスのように洞窟で“ロゴス”について思考することができる」
そして、こう締めくくりました。「“タンピン”は私の賢明な行動です」。
投稿された文章は、仕事や結婚などあらゆる場面で圧力を受ける現実から逃れ、タンピン、つまり、何もしないで“横になっている”ことこそ人間の正しい姿だと主張したのです。
その後、投稿は削除されましたが瞬く間に拡散し、今も中国の若者の間で大きな反響を呼んでいます。
「タンピンさえしていれば資本は我らを搾取できない」「タンピンは新時代の非暴力・非協力運動だ」
いつしか元の投稿者は、“悟り”を開いた「タンピンの達人」などと呼ばれ、ネット上には、競争せず、頑張らず、欲張らず、ストレスのない生き方をうたう「タンピン主義」や、「タンピン学」「タンピン族」という言葉まで出回るようになりました。
これまで経済の右肩上がりが続いてきた中国では、猛烈に働き地位や財産を得て裕福な家庭を築くことが人々の目標となってきました。
しかし、低賃金や「996」(朝9時から夜9時まで、週6日勤務)とよばれる過酷な勤務などが社会問題化。「90後」「00後」(それぞれ90年代と2000年代生まれ)とよばれる世代には、親が望む出世や結婚などに関心をもたない人が増えており、「タンピン」はそうした若者たちの心をとらえたのです。
■共産党系メディアは批判 広がる若者との温度差
一方、中国共産党系の新聞などは相次いで論評を掲載。広東省の『南方日報』は先月、「タンピンは恥だ。正義感はどこに?」と題し、厳しく批判しました。
論評では、「地下鉄の混雑、住宅価格の高騰、熱心な教育…若者のプレッシャーや混乱は想像に難くない」と一定の理解は示しつつも、「中国では勤勉である限り自己実現ができる」として、次のように強調しました。
「奮闘すること自体が一つの幸福であり、奮闘する人生こそが幸福な人生だ」。
「奮闘」は、習近平国家主席が発言の際にたびたび使ってきた言葉の一つです。国営新華社通信のウェブサイトは、「新時代は奮闘の時代」と記し、“心に響く金言”として習主席の奮闘語録を紹介しています。
「全ての偉大な成果はたゆまぬ奮闘の結果」「強者は常に挫折から奮起し、気落ちすることなどない」「奮闘する人生こそが幸福な人生だ」
党指導部が繰り返し呼びかける「奮闘」という言葉に、「タンピン主義」を掲げて背を向ける若者たち。両者の間にはあきらかな温度差がうかがえます。
中国では近年、就職難や都市部の物価の高騰など、これから社会に出る若者たちをとりまく環境は厳しさを増しています。また、若者たちの発信やコミュニケーションの場であるはずのSNSも、当局により厳しい情報規制が行われており、若い世代には閉塞(へいそく)感も漂っています。
さらなる成長路線でアメリカと肩を並べる経済大国への道を突き進もうとする習近平指導部。しかし水面下では、社会に疲弊した若者たちの“静かな抵抗”が広がりを見せ始めています。【6月5日 日テレNEWS24】
*******************
上から目線で「奮闘すること自体が一つの幸福であり、奮闘する人生こそが幸福な人生だ」なんて言われても、何言ってんだか・・・という感じも。
昨日ブログで触れた“中国指導部を少しでも批判する者が表れると寄ってたかって吊し上げる輩”とは全く別種の若者たちもいるようで、こっちの“寝そべり主義”には日本でも共感する人も少なくないのでは。
中国では2018年ごろにも「喪文化」という言葉が流行りました。
****中国の若者の間に広まっているとされる「喪文化」とはなにか****
これは、無目的で希望のない言動に共感したり「かっこいい」と感じる文化である。そこに市場性があると目を付けたクリエイターたちが、ネットで映像や文学、あるいは商品を通じてはやらせた。
きっかけは、中国の人気俳優、葛優(グォ・ヨウ)がうつろな目をして寝そべるドラマのシーンのキャプチャ画像が、2016年夏ごろにネットで流行したことから。キャプチャ画像に文字をつけて、SNSで自嘲的に「僕はもうだめだ」「廃人同然」「やる気が出ない」などの気分を表すのに使われていた。
この葛優の画像自体は1993年のコメディドラマからとられたものだが、なぜか2016年に流行したので、敏感なマーケッターたちは、ここに一種の文化的需要があると捉え、「絶望的気分」の商品化を考え始めた。
ちなみに同じようなカルチャーは日本にもあって、たとえば怠惰な様子の卵キャラ「ぐでたま」なども一種の「喪文化」として中国でも人気だ。
「失われた20年」を経験している日本の若者の間にこういう“無気力”カルチャーが蔓延するのはなんとなくわかるのだが、2028年には米国を越える経済規模に成長するかという中国で、「喪文化」がはやるのは興味深い。【5月20日 福島 香織氏 JBpress「なんだか疲れてきた中国の若者たち、無気力カルチャーが蔓延中」】
**********************
福島氏はこうした社会現象について、共産党政権・習近平政権への思想的拒否感があるのではと指摘しています。
****なんだか疲れてきた中国の若者たち、無気力カルチャーが蔓延中****
(中略)「喪文化」にしても「躺平(タンピン)学」にしても、これは習近平政権が近年スローガンにしている「正能量(ポジティブパワー)」に対する、暗黙の抵抗ではないだろうか。
中国は人口減少期に確実に予定より早く突入しそうだし、少子高齢化の問題もあるが、国家としては登り坂、少なくとも表面的には米国相手に対等にわたり合い、「中国の夢」「中華民族の偉大なる復興」実現に向けて、時の利は中国にあり、と勢いを誇示している。新型コロナを早々に抑え込み、ワクチン外交を展開し、一帯一路こそ世界の公道だと胸を張り、人類運命共同体の中心で舵取りを行い、ポストコロナの国際社会の米国に代わるルールメーカーたらんという意欲にあふれている。
だが、だからこそ今時の中国の若者の「がんばりたくない」「『内巻』されたくない」という言動の根底には、共産党政権、習近平政権への思想的拒否感があるのではないか、という見方もあるのだ。つまり習近平政権、共産党政権の「中華民族の偉大なる復興、中国の夢」に俺たちを巻き込まないで、と言いたいのではないか。ところが中国には言論の自由がないので、ストレートには言えない。
現実に目を転じれば、数世代前の中国の若者と比較すると、現代の若者は格差拡大と失業率悪化の問題に直面し、都市の不動産価格の上昇、物価の上昇、監視社会の不自由さが重なって、1990年代からゼロ年代の高度成長期の若者にあった活力は明らかに衰えている。「中国の夢」の実現は、若者たちに重い負荷をかけずには進まないのだ。
ノッティンガム大学・寧波中国校 デジタルメディア文化研究 副教授の陳志偉は「中国の大部分の地域はすでに脱貧困を達成しているが、青年たちが夢を実現するのは困難になった。父母、祖父母世代と比べて社会の不平等はむしろ広がっているからだ」とBBCに語っている。
さらに、「『996』(朝9時から夜9時まで週6日働く長時間労働)をやってみたけれど一向に豊かさが実感できない」という挫折感、新型コロナの大流行と、それに伴うロックダウンなどの経験が、中国の若者の無力感や閉塞感をさらに強くさせている。だから、(視聴者審査によるグローバルオーディション番組に何となく巻き込まれ、そこから離脱したいと訴えて逆に人気者となった)利路修の「この現状から抜け出したい、解放してほしい」という精神に共鳴したのではないかと、陳志偉はみている。(後略)【同上】
***************************
厳しい現実に疲れた心を癒そうとTVのドラマを観ると・・・そこには現実離れした世界が。
****ドラマのストーリーがあまりにも現実離れ、中国で「劇怒症」がホットワードに****
中国で放送されるテレビドラマが現実と著しくかけ離れているとして、ネットユーザーから怒りの声が噴出している。中国メディアの観察者網が9日付で報じた。
記事によると、近頃「劇怒症」という言葉がSNS上でホットワードとなり、多くの共感を呼んだ。ユーザーの意見をまとめたところ、「劇怒症」は「ドラマを見た際に、ストーリーがあまりに現実離れしていたり、ストーリーや登場人物が腹立たしいものだったりすることで、視聴者が大いに怒りを覚えてしまうこと」を指すという。
「劇怒症」の具体例は、「定職に就けず、パン屋などを掛け持ちして体の不自由な祖父母を養いつつ勉学にも励む女性主人公が、きれいで大きな家に住み、おかずが何品も並ぶ食事を取っていて『フリーター』らしさが全く感じられない」「建築を学んで北京に実習にやって来た女性主人公が、大きなロフト付きの部屋を借りて住んでいて、北京の賃貸住宅事情が全く考慮されていない」「平凡で専門技術もなく、会議で上司から嘲笑されていた女性が、2年後にいきなり著名化粧ブランドの中国エリア副社長に昇進する」などだという。
記事は、ネットユーザーから「今のテレビドラマの多くは、視聴者のリアルな生活のはるか上をふらふらと漂っている。それゆえ視聴者からの共感が得られない上、視聴者がドラマの中の生活や世界感を理解することもできない」との指摘が出ており、「脚本家の先生たちは、もっとわれわれ凡人の生活を観察してほしい」「もう浮ついたドラマは作らないで。視聴者は疲れちゃったよ」といった意見が続々と寄せられていると伝えている。【6月10日 レコードチャイナ】
*********************