
(10月、ブラジルのスラム街で無料の食事提供を待つ人々の列【11月8日 WSJ】)
【拡大する飢餓の危機 世界で4500万人】
日本を含め、各国は新型コロナの感染者数、死者数の動向には多大な関心を有していますが、世界各地で何百万人、何千万人もの人々が飢餓の危機に直面しているという事実にはほとんど関心がないようです。残念ながらそれが現実世界です。
****4500万人が飢餓の危機に 国連****
国連の世界食糧計画は8日、世界43か国で飢餓の危機に直面している人が、今年初めの4200万人から4500万人に拡大したと発表した。
WFPによると、アフガニスタンについて食料安全保障面から点検した結果、300万人が飢餓に直面していることが判明。このため全体の人数が押し上げられた。
デービッド・ビーズリー事務局長は「紛争や気候変動、新型コロナウイルス感染症によって飢餓に直面する人の数が増えている」と説明した。
WFPはアフガンで約2300万人を対象に支援を行っている。ビーズリー氏は最近、アフガンを訪問していた。
同氏はまた「燃料価格や食料価格が高騰しているのに加え、肥料の価格も上がっている。こうしたことすべてがアフガニスタンで現在起きているような新たな危機や、イエメンやシリアなどでの長期にわたる危機的状況を招いている」と述べた。
WFPによると、飢餓対策にかかる費用は世界全体で今年初めの66億ドル(約7500億円)から70億ドル(約8000億円)に膨らんでいる。
深刻な食糧難に直面する家庭では、子どもを早く結婚させたり、学校を退学させたり、バッタや木の葉、サボテンを食べさせたりといった「悲惨な選択を強いられている」。報道によるとアフガンでは、子どもを売らざる得ない家庭もある。
アフガンは、相次ぐ干ばつや経済破綻に見舞われている。一方、シリアでは約1240万人が毎回食事を食べられるかも分からない状況で、内戦が続くここ10年でそうした人々の数は最多となっている。
WFPよると、エチオピア、ハイチ、ソマリア、アンゴラ、ケニア、ブルンジでも深刻な飢餓の危機が拡大している。 【11月8日 AFP】
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国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は9月の国連食料システムサミットで「毎年900万人が飢餓で命を落としている」と指摘しています。
“飢餓対策にかかる費用は世界全体で今年初めの66億ドル(約7500億円)から70億ドル(約8000億円)に膨らんでいる。”・・・・正直な感想は「たった、8000億円?」
日本で大騒ぎしている18歳以下に一律10万円を給付する案の対象は約2000万人で、総額2兆円程度の予算規模となります。それに比べたらなんと“僅かな”金額か。それで4500万人の飢餓をさしあたり救えるのか?
各国が、「18歳以下に一律10万円」みたいなバラマキに使う費用の1割でも拠出すれば、たちどころに・・・というのは言っても仕方のない戯言ですが、世の中の不条理を感じます。
【貧困層を直撃する食料品価格上昇 10年ぶりの高水準】
こうした飢餓の基本的な原因は内戦や紛争によって国内統治が機能していないことでしょうが、気候変動に伴う干ばつなどの災害・不作、更に新型コロナ禍による経済混乱が拍車をかけることにもなっています。
そして、ここ数か月言及されることが多くなったのが食料品価格の高騰という現象。当然ながら貧困層の力量確保を困難にします。
世界で今、景気停滞とインフレが併存する「スタグフレーション」が進む気配をみせていますが、貧困層にとっては、収入は減るなかで食料価格が上昇するということで死活問題となります。
****世界で食料価格高騰、貧困層に大きなしわ寄せ****
ブラジル・サンパウロの郊外にある貧民街で暮らすシングルマザー、セリア・マトスさん(41)は、空腹のまま床に就く日々を送っている。4人の子どもに翌日もコメや豆を十分に確保しておくためだ。足元では肉など食料価格が30%高騰しており、今年の早い段階のようには十分な食料が買えなくなったという。
マトスさんは「本当に屈辱的だ」と話す。
ペルーからフィリピンまで、途上国全体で食料価格の高騰による痛みが広がっている。国連の食糧農業機関(FAO)は10月、世界の食料価格は2011年以来の水準に跳ね上がっていると指摘した。
各国政府や支援団体からは、食料高が飢えや栄養不良を招いており、新型コロナウイルス禍による経済への打撃ですでに苦しんでいる貧困層には、とりわけ深刻な影響が出ていると危惧する声が上がっている。
食料価格の値上がりは特に中南米で顕著で、国連では数千万人が栄養失調に陥っているか、食事を抜かざるを得ない状況にあると推定している。
それほど深刻な物価高に見舞われていないアジア諸国でも、悪天候が作物に影響を与えており、一部で食料価格が上昇している。インドではここ数カ月の豪雨による洪水や地滑りの影響で農作物に被害が出ており、カリフラワーやタマネギといった野菜の価格が高騰している。
中国でも豪雨が野菜の主要産地を襲い、不足が深刻化している。フィリピンなど一部の東南アジア諸国では、野菜やパーム油の値上がりが痛手だ。
エコノミストや政策担当者によると、中でも中南米では、食料価格値上がりによる影響がさらに深刻かつ長引く恐れがあるとみられている。
中南米諸国の中央銀行はインフレ抑制に向けて急激な利上げを迫られており、ブラジル、チリの中銀は最近、いずれも20年ぶりの大幅な利上げを発表した。
ただ、中南米諸国にとって利上げは「劇薬」だ。同地域はコロナ禍により世界で最も深刻な不況に見舞われたほか、英オックスフォード大が運営する「アワ・ワールド・イン・データ」によると、人口あたりの死者数も世界最悪の水準だった。
英調査会社キャピタル・エコノミクスの新興国担当チーフエコノミスト、ウィリアム・ジャクソン氏は「中南米では他のどの地域よりもインフレ高進がひどく、非常に厄介な問題だ」と話す。
コロナに見舞われる数年前から成長が低迷していたブラジルなどの中南米諸国では、ここにきて極めて打撃の大きい「スタグフレーション(不況と物価上昇の併存)」に直面しているという。
アルゼンチンの首都ブエノスアイレス在住の看護師、フリエタ・イルレタさん(27)は、4歳の息子にもはやバランスの取れた食事を出すことができないと話す。「2年近くも医療の最前線で命がけで働いてきたのに、この賃金では食事もままならなくなっている」
人々はかつてペットのえさとして買っていた鶏の臓物を今では家族に食べさせるために購入している。
冒頭のマトスさんは非営利組織「G10ファベーラス」が無償で提供している食事をもらうため、地元のコミュニティーセンターで毎日何時間も列に並んでいる。
だが数週間前には、昼食前にセンターを閉鎖しなければならない事態に陥った。食料の提供が途切れたことで、けんかが発生したためだ。
そのセンターはスーパーや富裕層からの寄付に頼っているが、ブラジルでコロナによる死者が減少するのに伴い、寄付も枯渇してきているという。
G10ファベーラスの責任者、ギルソン・ロドリゲス氏は「人々は分かっていないようだ」と話す。「貧困層にとってはコロナ禍の最中よりも現在の方が苦しい状況に置かれている」【11月8日 WSJ】
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****10月の世界食料価格、3カ月連続で上昇 10年ぶり高水準=FAO****
国連食糧農業機関(FAO)が4日発表した10月の世界食料価格指数は平均133.2ポイントと、9月の129.2(130.0から改定)から上昇し、2011年7月以来10年ぶりの高水準となった。
上昇は3カ月連続。穀物と植物油が価格上昇を主導した。前年比では31.3%上昇。
品目別では穀物価格指数が前月比3.2%上昇。その中でも小麦は5%急伸し、12年11月以来の高水準を付けた。
FAOは小麦について、「カナダ、ロシア、米国をはじめとする主要輸出国の収穫減を背景とする世界市場での供給逼迫が引き続き、価格に上昇圧力を加えた」と分析した。
世界の植物油価格は前月比で9.6%急騰し、過去最高を更新。マレーシアの労働者不足による供給制約でパーム油が一段と値上がりしたことが主因だった。
一方、世界の砂糖価格は1.8%低下し、7カ月ぶりの低下となった。【11月5日 ロイター】
上昇は3カ月連続。穀物と植物油が価格上昇を主導した。前年比では31.3%上昇。
品目別では穀物価格指数が前月比3.2%上昇。その中でも小麦は5%急伸し、12年11月以来の高水準を付けた。
FAOは小麦について、「カナダ、ロシア、米国をはじめとする主要輸出国の収穫減を背景とする世界市場での供給逼迫が引き続き、価格に上昇圧力を加えた」と分析した。
世界の植物油価格は前月比で9.6%急騰し、過去最高を更新。マレーシアの労働者不足による供給制約でパーム油が一段と値上がりしたことが主因だった。
一方、世界の砂糖価格は1.8%低下し、7カ月ぶりの低下となった。【11月5日 ロイター】
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現在の食料価格の高騰は、品目ごとに様々な要因がありますが、全体的には、新型コロナウイルス禍からの急速な経済再開で中国やアメリカなど世界的に食料需要が急増し、供給が追いついていないという側面があります。
トウモロコシ、小麦、大豆などの穀物について、もう少し詳しく見ると、中国の豚肉生産の拡大に伴う飼料需要の増大、原油価格回復に伴うアメリカのガソリン価格上昇、代替品のトウモロコシ由来のエタノール需要増大など、様々な要因が絡んできます。
日本でも10月から多くの食料品が値上げになりましたが、日本では家計に占める食費の割合はさほど大きくないので、その影響も限定的です。一方で、世界の貧困層の場合、収入の大部分を食費にあてて命を繋いでいるとも言えますので、その価格上昇は甚大な影響をもたらします。
****食料品価格上昇の背景と食料安全保障****
Q1:食料品の値上げが相次いでいますが、何が起きているのでしょうか?
トウモロコシ、小麦、大豆などの穀物などの国際価格(取引価格)が上昇しています。2014年から昨年までは低い水準で安定していましたが、大豆でトン当たり300ドルほどだったのが600ドル程度になるなど、直近の価格はその2倍になっています。
2008年、2013年にも、これらの価格が上昇しましたが、今回はそのときとほぼ同じ水準となっています。
Q2:(穀物などの価格が上がるというと、天候不順などを思い浮かべますが、)どんな理由があるのでしょうか?
世界全体では、生産は若干増える見通しです、需要の増加が関係しています。
2018年から中国でアフリカ豚熱という病気が大流行したため、中国の豚肉生産が大変落ち込みました。昨年から、その生産が回復、リバウンドしてきたため、豚に食べさせるエサ用のトウモロコシや大豆などの需要が増加しています。中国は世界の大豆輸入の6割を占めていますから、国際価格に大きな影響を与えます。
もう一つの要因は、昨年新型コロナの影響で暴落した原油価格の回復です。意外に思われるかもしれませんが、原油価格と穀物価格は関連しています。トウモロコシやサトウキビから作られるエタノールはガソリンの代替品です。ブラジルでは、サトウキビから作られるエタノールで自動車が運転されています。アメリカではガソリンにエタノールを混ぜて車を走らせています。トウモロコシの最大の生産国、アメリカでは、トウモロコシのエタノール向けがエサ用と同程度まで拡大し、この二つがトウモロコシ用途の7割以上を占めるようになっています。
原油価格が上がると代替品であるエタノールの需要も増えるので、トウモロコシの価格も上昇します。そうなると、トウモロコシの代替品の大豆や小麦などの価格も上昇します。こうして穀物や大豆の価格が原油価格にも連動するようになっています。(中略)
Q4:穀物などの価格の値上がり。世界では、どのような影響があるのでしょうか?
国際相場が高騰すると、日本など所得水準の高い先進国に与える影響は限定的ですが、途上国の人たちには大きな影響を与えます。途上国では、貧しく所得のほとんどを食費、しかも穀物に支出している人が多いのです。例えば、所得の70%を食費に支出する途上国の人の場合、穀物の価格が倍になると、全体の支出額に占める割合が大きいため、食料を買えなくなってしまいます。
また、米のように、インドやベトナムなどの途上国が主な輸出国となっている場合は、国際価格が上昇すると輸出制限をする国が出てくるという問題もあります。インドなどでは、国際価格が上がると輸出が行われて国内の供給が減少するので国内の価格も上がってしまい、貧しい(国内の)人が食べられなくなります。これを防ごうとして輸出制限をします。(後略)【6月29日 山下 一仁氏 キャノングローバル戦略研究所】
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2008年の食料品価格上昇のときは世界各地で暴動が頻発しました。
2011年には、中東・北アフリカで大規模な抗議・デモ活動が広がりをみせた「アラブの春」が起きましたが、その一因として小麦価格の高騰などを受けて貧困層の困窮が深刻化した影響が指摘されています。
前述のように、貧困層にとって食料品価格上昇は命をつないでいくうえで、死活的に重要な問題です。賃金が上がらず、失業が増える状下でのインフレとなると、その痛みはなおさらです。
食料品価格上昇は各国で政治体制を揺るがすことにもなりかねませんが、現在の価格はそういうレベルにもなっているようです。