孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

石炭消費量が再び過去最高水準に 11月末から中東ドバイでCOP28 議論となる「unabeted」

2023-10-01 23:40:03 | 資源・エネルギー

(G7において1kWhの発電に伴い排出されるCO2の量は、昨年、フランスが最も少なく85グラムだった。一方、石炭比率の高い日本は495グラムに達している。

もっとも、脱化石燃料で優等生とされるドイツは385グラムであり、米国やイタリアの後塵を拝する結果となっている。

隣国のフランスは原子力比率が62.7%に達し、26.3%の再エネと合わせてクリーンエネルギーが総発電量の89.0%を占めた。ベースロードに原子力を活用、供給の不安定な再エネとの相互補完関係を重視するフランスは、コスト、効果の面で明らかに先進的と言えるだろう。

ドイツは、再エネの活用を拡大すると同時に、良好な関係にあったロシアからの天然ガス調達をエネルギー政策の基本としてきた。その戦略は、ロシアによるウクライナ侵攻でシナリオが大きく狂っている。

再エネの優等生として注目を集めてきたドイツだが、(エネルギー価格高騰が経済の足かせとなっているだけでなく、CO2排出量も高く)抜本的なエネルギー戦略の見直しを迫られているのではないか。【9月8日 市川眞一氏 「エネルギー政策で躓くドイツ経済」 PICTET】)

【世界の石炭消費量が再び過去最高水準に】
国際社会の大きな流れとして、地球温暖化防止のために脱化石燃料の動きがありますが、化石燃料のなかでも石油・天然ガスに比べてCO2排出が多い石炭について、その使用削減を求める声があります。

****ブルームバーグ氏、米国の石炭火力全廃活動に5億ドル追加拠出****
元ニューヨーク市長の米実業家マイケル・ブルームバーグ氏は20日、2030年までに全米の石炭火力発電所を閉鎖し、ガス火力発電施設を半減させる目標に向けた次の取り組みとして5億ドルを投じると表明した。

これは同氏が10年来取り組んでいる「ビヨンド・カーボン」事業で、今回の拠出は稼働を続けている150の石炭火力発電所の閉鎖、ガス発電の半減とガス火力発電所の新設禁止に向け自治体などの組織と協力することが目的。

同氏は既に、2020年までに米国の石炭火力発電所の30%を引退させることを目指した環境保護団体シエラ・クラブの「ビヨンド・コール」事業に5億ドル以上を投じている。

この事業では結局、20年までに60%超の引退が実現。石油化学工場拡大を抑制する活動にも8500万ドルを投じた。【9月21日 ロイター】
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しかし一方で、各国のエネルギー事情から石炭に対する需要は減っていない、むしろ増えている現実もあります。
特に、世界最大の石炭消費・輸入国である中国の動きが目立ちます。

****石炭4カ月ぶり高値圏 中国が調達拡大、渇水で火力依存****
石炭価格が4カ月ぶりの高値圏で推移している。猛暑による渇水に見舞われた中国が火力発電への依存を強め、石炭を積極的に購入している。

石炭をエネルギー源とする他の消費国にとり、燃料コストを抑える財政の負担が重くなったり産業活動が停滞したりする要因となる。(後略)【9月14日 日経】
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****インドネシアの石炭国際会議、中国の需要強く売買契約が続々成立****
インドネシアのバリ島で24─26日に開催された世界最大の石炭国際会議「コールトランス」では、火力発電用に大量の石炭を求める中国と、最大輸出国インドネシアとの間で石炭の売買契約が次々と成立した。

会議を協賛したコールシャストラによると、今年は中国からの参加者が過去最多だった。中国と取引を結ぼうとするインドネシアの商社や鉱山企業の代表らが群れを成して会議に出席した。

インドネシアの石炭企業オムビリン・エネルジのラムリ・アーマド社長は「今回のコールトランスでは既に多くの取引が成立している。『うちは契約を結べるだろうか』という質問が寄せられているからだ」と語った。

調査会社ノーブル・リサーチが会議に提出した資料によると、中国の石炭輸入は今年、前年比1億トン増えて過去最大の3億2900万トンに達し、来年はさらに4900万トン増える見通しだ。

中国は昨今、不動産市場が低迷し経済成長が鈍いが、異常気象や他業界の経済活動によって電力および石炭の需要は増えている。

ロイターが取材した中国の業者6社は、気象の悪化により今年10─12月期に石炭輸入が増えると予想。うち5社は、来年は今年より輸入が増えるが、ノーブルの予想よりは少なくなるとの見方を示した。1社は、来年の方が今年より輸入が減ると予想した。

世界最大の石炭消費・輸入国である中国の需要が底堅く推移すれば、気候変動目標の下で予想されている世界の石炭利用のピークが後ずれしかねない、と業者らは語った。【9月27日 ロイター】
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ただ、石炭への依存は中国だけでなく、日本も原発再稼働が遅れる状況で石炭火力に依存していますし、脱原発を進めたドイツもウクライナ戦争の影響で一時的に石炭火力を再開するといった動きも。

****世界の石炭消費量が再び過去最高水準に、CO2排出削減に影****
2022年に石炭は一次エネルギー消費量の26.7%を占めた。これは石油(31.6%)を下回るが、天然ガス(23.5%)より多い。だがこれらの中で最も多くの二酸化炭素(CO2)を排出したのは石炭だ。

その理由を説明しよう。化石燃料の主成分は炭素と水素、つまり炭化水素だ。炭化水素が燃焼すると、炭素はCO2を、水素は水蒸気を生み出す。石炭は石油や天然ガスよりも炭素の割合が高い。そのため、石炭を燃焼させると、石油や天然ガスよりもエネルギー単位あたりのCO2発生量が多くなる。(中略)

これら3つの化石燃料のCO2排出量に対する相対的な累積寄与率は、石炭43%、石油37%、天然ガス20%だ。

石炭はまた、発電所で燃やされる際に多くの有害物質を排出する。過去を振り返ると、石炭発電所は酸性雨の原因となる二酸化硫黄を大量に排出していた。規制によりこの問題は最終的に解決されたが、石炭火力発電所はいまだに水銀などの有害物質を排出している。

また、環境に放出される放射性元素は原子力発電所より多い。そのため、石炭が環境に与える影響を抑制しようと多くの規制が可決されてきた。

石炭はさまざまな公害問題を引き起こすことから、ほとんどの先進国は石炭火力発電から脱却してきた。だが石炭は安価なため、発展途上国は電力源として石炭に大きく依存し続けている。発展途上国における石炭消費は現在、世界のCO2排出量増加の最大要因となっている。

石炭の消費量に目をむけると、過去10年間に先進国では減少した一方で、発展途上国で増加した。

経済協力開発機構(OECD)を構成する38カ国の石炭消費量は過去10年間で年平均3.9%減少。非OECD諸国では年平均1.4%増加した。

欧州連合(EU)の石炭消費量はOECDと同様に減少傾向にある。過去10年間、年平均4.2%の割合で減少した。だが2022年には増加に転じ、2%増となった。これは、ロシアのウクライナ侵攻を受けてEU諸国がロシア産の天然ガスを石炭に置き換えたためだ。

その結果、同年の世界の石炭消費量は過去2番目に多くなり、2014年の水準を0.01%しか下回っていない。世界中でCO2排出量を削減する取り組みが展開されているにもかかわらず、石炭消費量は過去最高水準にある。

石炭消費が最も多い10カ国のうち6カ国がアジア太平洋地域の国だ。中国は依然として世界の石炭消費量(および生産量)の大半を占めており、この傾向は今後も長年にわたって続く可能性が高い。次いで消費が多いのはインドだ。以下、米国、日本、インドネシアと続く。

石炭を大量に消費する大方の国は多くの石炭を生産してもいる。最大の例外はオーストラリアで、主要な石炭生産国でありながら消費量は14番目となっている。コロンビアもトップ10に入る生産国だが、消費に関しては50位に入る程度だ。【9月6日 Forbes】
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【COP28で議論される「unabeted」(排出削減策が採られていない)という言葉 立場によって異なる対応】
2021年末にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26では、「(CCS等の)対策をしていない石炭火発の段階的削減」という文言が決定文書に入りました。 CCSとは日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれ、 発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです

2022年11月6日〜11月18日にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)では、更に進めて化石燃料全体の段階的削減が議論されましたが、合意には至りませんでした。

****(COP27)化石燃料全体の「段階的削減」は入らず****
前回COP26において出た例外的な成果の一つが、決定文書の中に「(CCS等の)対策をしていない石炭火発の段階的削減」についての言及が入ったことでした。

国連の気候変動枠組条約の交渉では、特定の技術や燃料について方針を出すことは非常に合意が難しいため、避けられることがこれまでは多かったのです。

しかし、近年形成されつつある「電力部門の脱炭素化は先行しなければならない」という国際的なコンセンサスを受け、昨年のCOP26では議長国がこの問題を重視したこともあり、石炭火発の段階的削減への言及が入りました。

今回のCOP27では、そのCOP26での文言から、さらに踏み込んだ発信ができるのかどうかが注目されました。特にエネルギー危機を受けて、各国中でエネルギー安全保障への不安が高まる中、それでも移行を強く打ち出せるかがカギでした。

交渉の中では、この点を強く推す国々はいました。島嶼国や、EUや、コロンビア、チリなどを含むAILACと呼ばれるグループなど。最後の局面ではアメリカですら、「(対策のされていない)化石燃料の段階的廃止」を支持していました。

しかし、その他の国々の強い支持は得られず、議長国もこれを重視しませんでした。サウジアラビアは、エネルギーに関して言及したセクションを丸ごと削除することを要求しました。結果として、合意が得られなかったため、最終的にはCOP26の時と同じ表現にとどまりました。

深刻化する気候危機の中で、今一歩、化石燃料からの移行について強いメッセージを打ち出すことに、COP27は失敗したことになります。【2022年11月21日 WWFジャパン】
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今年11月末からUAEのドバイで開かれる国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)においては、石炭を含む化石燃料の段階的削減が再度議論されると思われますが、段階的な廃止を求める国々と役割を維持するべきだと主張する国々の溝は埋まっていません。

議論になるのは「unabeted」(排出削減策が採られていない)という言葉。

****COP28、見えない化石燃料廃止への道筋 止まらぬ温暖化****
第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の開催が2カ月後に迫ったが、化石燃料の段階的な廃止を求める国々と、石炭や石油、天然ガスの役割を維持するべきだと主張する国々の溝を埋めるには程遠い状況だ。

COP28は11月30日から12月12日にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される。

先週の国連総会では、長年の議論が再燃した。グテレス国連事務総長は、総会と並行して開催された気候関連サミットで、化石燃料利権者の「むき出しの強欲さ」を嘆き、地球を温暖化することにより「人類は地獄への門を開いてしまった」と語った。

化石燃料を生産、あるいはそれに依存している国々は、化石燃料の使用を完全に止めるのではなく、温室効果ガス排出を「削減」する、つまり回収する技術を活用すべきだと強調した。

COP28の議長を務めるUAEのスルタン・アル・ジャベール氏はサミットで「化石燃料の段階的な削減は避けられない」と述べた。

世界最大の化石燃料消費国である中国は、今後何十年間も化石燃料を使い続ける意向を示している。

米国は、短期的に化石燃料に投資する一部途上国の計画を認めつつも「排出削減策が採られていない」化石燃料の段階的な廃止に支持を表明してきた。しかし、ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は、そもそも排出削減策、すなわちガス回収技術を十分なスピードで拡大できるかが疑問だとしている。

<言葉の戦争>
昨年のCOP27サミットで段階的削減の合意に失敗して以来、各国間の亀裂が埋まっていないため、交渉担当者らは妥協点を探るために新たな用語に目を向けている。

主要7カ国(G7)は今年4月に「排出削減策が採られていない(unabated)化石燃料の段階的廃止」を加速させることに合意した。

化石燃料の前に「unabated」という語句を挿入することで、排出ガスの回収技術を使わずに燃やされる燃料のみを対象としたのだ。

だが、7月にはサウジアラビアやロシアなどの石油・ガス生産国も参加した20カ国・地域(G20)会議では合意できず、この案は頓挫した。

アイルランドのライアン環境・気候変動相は、全ての化石燃料を段階的に廃止するのか、それとも排出量だけを削減するのかが、COP28で最も厄介な問題になるだろうと述べた。

ライアン氏は排出ガス回収技術を巡る議論について、ロイターに対し「石油や天然ガス、石炭の探査を続けるための単なる白紙委任状になるのではないかと懸念する声も、当然ながらある」と語った。

フランス、ケニア、チリ、コロンビア、そして太平洋の島国ツバルとバヌアツを含む17カ国からなるグループは先週、回収技術の使用を制限する形の化石燃料の段階的廃止を求めた。

共同声明では「化石燃料の拡大にゴーサインを出すために、この技術を使うことはできない」と明言している。

これに対し、米国石油協会(API)など石油・ガス業界団体は「より少ない排出量でより多くのエネルギー」を供給するために、世界は排出削減技術を必要としていると主張している。

また、一部の途上国は、日本や米国がやってきたように、経済を発展させ発電能力を拡大するために化石燃料が必要だとして、段階的廃止に抵抗している。

アフリカ連合(AU)内の一部諸国は、自国で天然ガスを燃やし続けながら、気候変動論を盾に途上国のガスプロジェクトへの融資を拒否する先進国の偽善を非難している。

<1.5度を守れるか>
エクセター大学の気候科学者ピーター・コックス氏は、化石燃料の使用を急速に減らさなければ、10─15年以内に、産業革命前と比較して1.5度という世界的目標を超えて地球温暖化が進むと予想している。

「両立はできない。1.5℃(以上の温暖化)を避けたいと言いながら、化石燃料の段階的廃止について口を閉ざすことはできない」と言う。

国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は今月、再生可能エネルギーが増加するにつれて、石炭、ガス、石油の需要は2030年までにピークに達するとの見通しを示し、各国に化石燃料への新規投資をやめるよう呼びかけた。

この発言は、石油輸出国機構(OPEC)の怒りを買った。OPECは、ビロル氏の予測には排出権回収の可能性が含まれていないと異議を唱え、新規投資の中止を求める呼びかけを「危険」と表現した。

一方、小島嶼国連合(AOSIS)は、気候変動に起因する暴風雨や海面上昇による国土の喪失に直面しており、化石燃料の段階的廃止と、各国政府による年間7兆ドルの化石燃料補助金の停止を求めている。【9月30日 ロイター】
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排出削減技術を活用して「より少ない排出量でより多くのエネルギー」が得られるなら問題ないではないか・・・というのは理屈ではありますが、現実には「それではいつまでたっても化石燃料依存から抜け出せない」「石油や天然ガス、石炭の探査を続けるための単なる白紙委任状になるのではないか」という懸念も。

先進国、島しょ国のように温暖化の危機に直面している国、成長の可能性を求める途上国、中東など化石燃料産出国、さらには中国や欧州など温暖化対策を戦略的に位置づける国・・・・それぞれの立場が絡み合った複雑・困難な議論になると予想されます。
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