孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  BLMデモ参加者3人を死傷させた10代の被告に無罪評決 抗議と祝福

2021-11-20 22:58:21 | アメリカ
(19日、米ウィスコンシン州ケノーシャで無罪の評決を言い渡された後、弁護人から声をかけられたカイル・リッテンハウス被告(右)【11月20日 朝日】)

【「何も悪いことはしていない」】
アメリカ・ウィスコンシン州で今年8月、BLM(Black Lives Matter 黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える運動)のデモ参加者3人を死傷させた白人男性被告(当時17才 自警団を名乗り半自動ライフルで武装)に対し、陪審員は11月19日、第一級殺人罪を含む5つの容疑全てで無罪評決を言い渡しました。
被告側は、発砲は正当防衛だったと主張していました。

この件は多くのメディアが取り上げていますが、被告が3人を死傷させた状況、および裁判の様子について下記記事が詳しく示していますので引用します。

****BLMデモ参加者3人を死傷させた10代の被告に、無罪評決が言い渡される****
(中略)
事件があったのは、2021年8月。ケノーシャでは、黒人のジェイコブ・ブレイク氏が警察から背中を複数回撃たれたことに対し、人種差別や警察の暴力に反対する抗議デモが起きていた。

当時17歳だったリッテンハウス被告は「建物などを守る自警団」を名乗って、AR-15型の半自動ライフルで武装し、自宅のあるイリノイ州アンティオックからケノーシャに入った。そしてデモ参加者3人に発砲して2人を殺害した。 
裁判では、犠牲者の1人ジョセフ・ローゼンバウム氏が撃たれた時の動画も流された。

ローゼンバウム氏は、武装していない状態でリッテンハウス被告を追いかけていた。しかし、事件があった夜にリッテンハウス被告と一緒にいた元海兵隊員のジェイソン・ラコウスキー氏は「自身も武装していたものの、ローゼンバウム氏を脅威と見なさなかった」と裁判で証言した。

ラコウスキー氏は、ローゼンバウム氏が「撃ってみろ」と何度か挑発したものの「彼に背を向けて無視した」と説明している。

一方、リッテンハウス被告は、「彼は私を追いかけてきました。私は1人で、彼はその前に私を殺すと脅していました」「彼を撃ちたくはありませんでしたが、彼が私を追いかけてきて、私は追いかけられたくなかったので、彼に銃を向けました」と述べ、命の危険を感じて発砲したと主張した。

リッテンハウス被告は、ケノーシャを訪れた目的の一つは医療援助であり、「救急バッグを持参していた」とも述べていたものの、倒れたローゼンバウム氏に応急処置を施さず、救急車も呼ばなかった。

動画には、リッテンハウス被告がローゼンバウム氏を撃った後に友人に電話をかけ、現場から走り去る様子も映っていた。これについて被告は「警察を探すために走っていた」と説明した。

また、リッテンハウス被告は自分を止めようとしてスケートボードで殴りかかってきたアンソニー・フーバー氏に向けて発砲し、殺害した。

さらに、救急救命士のガイジ・グロスクロイツ氏を撃って負傷させている。

グロスクロイツ氏は「自身も銃で武装していたものの、リッテンハウス被告に撃たれた時は両手を上げて降伏を示す状態だった」と証言した。

白人が多数を占めた陪審団
裁判では何度か、緊張が走る場面があった。
11月10日の審理では、採用しないとした証拠を検察が法廷で持ち出したことにブルース・シュローダー判事が怒り、強く批判した。

その後、被告の弁護団は審理を無効にするよう求めたが、受け入れられなかった。

この時の審理では、リッテンハウス被告が証言中に「何も悪いことはしていない」と述べて証言台で嗚咽している。
また裁判中にシュローダー判事の電話が複数回鳴ったが、この時の着信音がドナルド・トランプ前大統領が選挙集会で好んで使う「ゴッド・ブレス・ザ・USA」だったことも話題になった。

さらに、陪審員の選定はたった1日で行われた。このことについてニューヨークタイムズ紙は「異例の迅速さ」であり、その結果「圧倒的に白人」の陪審員になったと指摘している。

その後、陪審員の1人が、ケノーシャ警察に撃たれたブレイク氏について「なぜジェイコブ・ブレイクを7発撃ったのでしょうか」「弾丸を使い果たしたからですよ」と人種差別的な冗談を言ったことで、陪審員から外された。
今回の無罪評決には反発の声が上がっており、抗議運動が起きることも予測されている。

また、ウィスコンシン州トニー・エバーズ知事(民主党)は、暴動を懸念して評決の前に数百人の州兵をケノーシャで待機させた。

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。【11月20日 ハフポスト日本版】
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“シュローダー判事の電話が複数回鳴ったが、この時の着信音がドナルド・トランプ前大統領が選挙集会で好んで使う「ゴッド・ブレス・ザ・USA」だった”・・・・まあ、何の意味もない偶然かもしれませんが、この判事の政治信条を想像してしまうのも正直なところです。

陪審員が「圧倒的に白人」・・・・“米メディアによると、陪審は白人女性7人、白人男性4人、ヒスパニック系男性1人で、黒人はいなかった。”【11月20日 毎日】

人種絡みの裁判にしては随分と人種的に偏ったイメージがありますが、ウィスコンシン州の人種構成は“86.2% 白人(ヒスパニックでは83.3%) 6.3% 黒人 2.3% アジア人 1.0% インディアン 1.8% 混血 5.9% 人種によらずヒスパニック系”【ウィキペディア】とのことですから、こうした一般的人種構成を反映したものでしょうか?
(アメリカの陪審員選定基準は知りません)

【控訴できないため、評決が確定 大統領は平静を呼び掛ける】
検察側は憲法に基づき無罪の場合は控訴できないため、評決が確定するそうです。

“州法で裁かれた今回の裁判とは別に、司法省が連邦裁判所に被告を起訴することもできる。だが、バイデン大統領は報道陣に「陪審団が結論を出したことを支持する。陪審員制度は機能しており、我々はそれに従う必要がある」と話し、ライト氏も、司法省が行動を起こす可能性は低いとみる。”【11月20日 朝日】

法律論的には、今回判決は意外なものではなかったようです。
“州法に詳しいウィスコンシン大マディソン校のスティーブン・ライト准教授は取材に「有罪とするには陪審団が合理的な疑いを超えて判断する必要があり、こうした事件では検察側が有罪を勝ち取るのは極めて難しい。評決には驚かなかった」と話した。”【11月20日 朝日】

バイデン大統領の陪審団が結論を出したことを支持する」との判断も、そうした事情を反映したものでしょう。
ただし、「評決に怒りと不安を覚えるだろうが」と、心情的には大きな不満があることも明らかにしています。

****デモ隊2人射殺の白人少年無罪=大統領は平静呼び掛け―米中西部****
(中略)事件は反差別運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」に関連し、その司法判断に全米が注目していた。

無罪の結果に暴動が広がる恐れが指摘されており、バイデン大統領は19日、声明を発表し「評決に怒りと不安を覚えるだろうが、受け入れなければならない」と述べ、暴力行為を慎むよう呼び掛けた。【11月20日 時事】
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【本来問題とすべきことは・・・】
今回裁判では正当防衛の妥当性が争われましたが、(おそらく被告に批判的立場の)前出ハフポスト記事を読むと、正当防衛との判断にはやや疑問も感じます。

更に言えば、事件当時の状況がどうこうという話以前に、自宅のあるイリノイ州からわざわざAR-15型の半自動ライフルで武装して駆けつけた者の起こした事件が「正当防衛」というのも「いかがなものか・・・」という感はします。

アメリカが(人種問題と併せて)本来問題とすべきは、事件の状況、この被告人の有罪・無罪よりは、17歳の若者が半自動ライフルで武装して「自警団」を名乗って活動する状況、端的に言えば「銃規制」の問題でしょう。
ただ、銃規制はアメリカでは全く進まないのも現実です。

【各地では抗議の声 トランプ前大統領は「祝福」】
今回判決に対し、全米各地で抗議の声はあがっています。

****白人被告無罪、全米で抗議 NY市長「おぞましい」 BLMデモ銃撃****
米中西部ウィスコンシン州で昨夏、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ、BLM)」デモの参加者3人を銃撃して死傷させたとして、殺人罪などに問われた白人のカイル・リッテンハウス被告(18)の無罪評決を受け、米国各地で抗議デモが相次いだ。
 
AP通信によると、米西部のオレゴン州ポートランド市では19日夜、約200人が中心街の通りを封鎖して抗議デモを行い、一部の参加者が同市関連施設のドアや窓を破壊。駆けつけた警察官にモノを投げつけるなど暴徒化した。
 
カリフォルニア州オークランド市やイリノイ州シカゴ市でも抗議デモがあり、評決への不満を訴える動きが全米に拡大する可能性がある。ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長はツイッターで「おぞましい判決だ」と批判した。【11月20日 毎日】
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ただ、懸念される大きな混乱は“今のところ”起きていないようです。

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一部の都市では評決に対する抗議デモがあり、ニューヨークでは約300人が集まって「正義なくして平和なし」と声を張り上げた。教師のナタリー・ランドルさん(34)は「5件のうち、少なくとも1、2件は有罪になると思っていた。米国は少しずつしか変わらない。黙っているだけでなく立ち上がらなければ、また同じことが起きる」と話し、司法制度改革の必要性を訴えた。
 
首都ワシントンでも裁判所の前で抗議集会が開かれ、数十人が参加。黒人のキャメロン・ウィートさん(24)は「間違った評決だが、予想はしていた。同じようなことがいつも起きている」と話した。無罪評決を受け、各地で衝突や暴動が起きることも懸念されたが、20日未明まで大きな混乱は起きていない。【11月20日 朝日】
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一方、保守層は判決を歓迎し、トランプ前大統領も「祝福」しています。

****トランプ氏「祝福」、3人死傷させた白人男性が無罪 BLMデモ銃撃****
(中略)
被告については、政治的な右派が「愛国者」、左派が「白人至上主義者」といった見方をしてきた。人種や銃所持の権利、刑事司法制度、抗議デモと警察のあり方といった国を二分するような問題もからみ、裁判が進むにつれ、政治的な色彩もより強まっていた。
 
保守的な政治家からは評決を歓迎する声が相次いだ。事件時から被告を擁護してきたトランプ前大統領は「全ての罪で無実となったことを祝福する。もしこれが自己防衛でなければ、何も自己防衛にはならない!」と声明を出した。
 
また、共和党のコーソーン連邦下院議員は「カイル、インターンシップをしたいなら連絡をくれ」と記した動画をインスタグラムに公開。動画内では「武装せよ、危険であれ、モラルを持て」と語り、銃所持の権利の正当性を示唆した。(後略)【11月20日 朝日】
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天然痘「ヒトが唯一勝利した感染症」 廃棄したはずのウイルスが冷凍庫の中から?

2021-11-19 23:07:03 | 疾病・保健衛生
(天然痘ウイルスの電子顕微鏡写真【11月17日 CNN】)

【冷凍庫の奥から天然痘ウイルス?】
日本の新型コロナ感染は(不思議なくらいに)落ち着いた状況になっていますが、一方で、(未接種が一定に存在するとは言え)一定にワクチン接種が進んだ欧州や韓国で感染が再拡大している事実は、コロナとの戦いが一筋縄ではいかないことを示しています。

そんななかで、ドキッとするニュースが。

****「天然痘ウイルス」と書かれた瓶、研究所の冷凍庫で発見****
疾病対策センター(CDC)は16日、数十年前に根絶された伝染病、天然痘の表記がある複数の小瓶が、東部ペンシルベニア州のワクチン研究施設で見つかったことを明らかにした。

瓶は冷凍状態だった。中身に異常はみられず、だれかが接触した形跡もないという。

CDCによると、研究施設の冷凍庫を片付けていた職員が偶然見つけた。CDCと関係機関、捜査当局が詳しく調べている。

天然痘はかつて年間1500万人が感染し、そのうち約3割が死に至る疫病として恐れられていたが、1980年に世界保健機関(WHO)が根絶を宣言した。米国での感染は47年を最後に報告されていない。

2014年には東部メリーランド州で、国立衛生研究所(NIH)の研究室を移転するための準備作業中、倉庫から天然痘ウイルスのサンプルと書かれた6本の瓶が見つかり、このうち2本から生きたウイルスが検出された。

天然痘ウイルスのサンプルを保管し続けるか、完全に処分するかをめぐっては、各国政府の間で議論が続いている。【11月17日 CNN】
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【「ヒトが唯一勝利した感染症」 ウイルス保有は米ロの施設2か所だけ・・・のはずが・・・】
新型コロナや多くの感染症とヒトとの戦いが続く中で、天然痘は「ヒトが唯一勝利した感染症」とも言われてきました。

****ヒトが唯一勝利した感染症 天然痘****
人類の歴史は、感染症との闘いの連続であったと言っても過言ではありません。

感染症を撲滅するため、先人たちは、下水や上水道の整備、住宅環境の改善、予防接種の普及、抗菌薬の開発など、たゆまぬ努力を続けてきました。その結果、20世紀半ばには結核や肺炎などの感染症で死亡する人は急激に減少しました。1960年代には、専門家が「人類は感染症に勝利した」と錯覚したこともありました。
 
しかし、そう思えたのも、つかの間のことでした。
エイズ、プリオン病、SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルエンザ、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラウイルス感染症など、たくさんの新たな感染症が出現しています。感染症との闘いは、勝利には程遠い状況と言えるでしょう。
 
これまでに唯一勝利を収めたと言えるのは、天然痘との闘いです。
 
天然痘は、天然痘ウイルスによって引き起こされます。ヒトにしか感染せず、ヒトからヒトへ飛沫(ひまつ)を介して感染します。1~2週間の潜伏期の後、急激な発熱や頭痛、関節痛で発症し、数日たつと発疹が出現します。発疹は水疱(すいほう)性となり、やがて水疱が化膿(かのう)して膿液がたまった膿疱(のうほう)となり、かさぶたへと変化します。助かる場合には2~3週間で回復しますが、死亡率は20~50%に達します。
 
発疹のあとが「あばた」として残るため、江戸時代には「見目定(みめさだ)め(見た目を悪くしてしまうこと)」と言われました。天然痘の流行は古代エジプトでもあったという人もいますが、確証はありません。
 
しかし、少なくとも16世紀のヨーロッパではすでに猛威を振るっていて、当時子供を中心に多くの人々の命をさらっていました。

さらに、流行地のヨーロッパから中南米に持ち込まれると、感染は爆発的に拡大し、人口が激減したとされています。アステカ帝国やインカ帝国が滅んだのは、侵略者との戦いもさることながら、ヨーロッパから持ち込まれた、天然痘などの新しい感染症の影響が大きかったようです。
 
1796年、イギリスの田舎で開業していたジェンナーは、「牛がかかる牛痘に感染した農民は天然痘にかからない」という言い伝えにヒントを得て、ある少年の皮膚に傷をつけて牛痘にかかった農民の発疹の膿(うみ)をすり込みました。その後数十例の症例を重ねて効果を確認し、1797年にその成果を発表しました。
 
実は、「種痘」はジェンナー以前にも農村で行われていたようですが、きちんと検証して世の中に認めさせたのは、やはりジェンナーの功績と言えるでしょう。
 
この種痘に使われた膿は、今でいえばワクチンにあたります。ヒトからヒトへ接種して引き継がれたワクチンは、1848年に日本にもたらされ、全国に普及していきます。
 
1956年以降、日本国内で天然痘の発生はなく、世界的にも77年のソマリア人が最後の感染者になりました。WHOは80年に天然痘撲滅宣言を行いました。
 
種痘は日本や米国、カナダでは実質的には72年に乳児への接種が中止され、その後、日本では80年に法律で廃止されています。【2017年10月6日 弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授 萱場広之氏 朝日】
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ジェンナーの種痘実験は、今の基準で言えば人体実験に近いようなものかも。ただ医学の発達の歴史はそういうものでしょう。

また、「1960 年代、当時普及した Lister 株(主にヨーロッパ)、NYBH 株(主に米国)、池田株(日本)等 6 種類程の牛皮型ワクチン株が使用 されていた。これらのワクチンは副反応が強く特に 神経合併症による種痘後脳炎が社会問題として起き た。日本は 1972 年から Lister 株に変更されたが年度別の脳炎・脳症発生率は 100 万人の初種痘当たり 20 人前後、死亡率は年度により差があるが平均すると 6 人程度と報告されている。」【「種痘廃止して 28 年目の痘瘡抗体保有状況」 武内安恵氏等】といったワクチン副作用リスクは、新型コロナワクチンに比べて小さいものではないようにも思えます。

ワクチンを含め医薬品には必ず副作用・副反応がありますので、悪戯にそうしたリスクを騒ぎ立てるのではなく、ベネフィットとの冷静な比較を行うバランス感覚が重要になります。

日本では1976年(昭和51年)に定期種痘が廃止されていますので、それ以降の世代(40歳代前半より若い世代)は免疫を持っていません。世界でも同様。

免疫のないものが天然痘ウイルスに接触すると罹患率 は 80%近くとなり、発症後の死亡率は 40%を超えると言われていますので、冒頭ニュースにドキッとした次第です。

なお、根絶宣言後もアメリカとロシアは「研究用」に天然痘ウイルスを保有し続けており、これが万一市中に漏れだすと・・・という脅威があります。

****天然痘ウイルスの処分 ****
根絶宣言と前後して WHO は世界各地で研究用と して保管されていた天然痘ウイルスの廃棄に取りかかった。

米露以外の国で持っていたウイルスは 1980 年頃までに廃棄し、残余は米国とロシアの 2 つの研究所に送られた。

WHOの廃棄処分決議にも拘らず、米露 2 カ国は「生物テロ対策」研究用として処分反対し、その後 2 カ国が独占保有して現在に 至っている。

衝撃的なことは旧ソ連の崩壊によって ロシア共和国に保管されていた大量の天然痘ウイル スが 80 年代後半から 90 年代初めにかけて科学者と 共に他国に散逸し、テロ国家の手に渡っている可性が出てきたことである。【同上】
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【今回は天然痘ウイルスではなかったものの、リスクは常に存在】
世界で唯一ウイルスを保管している米ロの研究施設(ジョージア州アトランタにあるCDCの施設と、ロシアのコルツォボにある国立ウイルス学・生物工学研究センター)からの流出も(人間のやることにはミスが絶対にあり得ますので)可能性ゼロではありませんが、そうした施設の奥深くからではなく、そこらの冷凍庫の中からひょっこり・・・というのは怖すぎます。

“このほかの施設でも天然痘ウイルスが保管されている可能性はあり、それが誤って、あるいは意図的に流出される可能性が懸念されている。CDCは「そのような事態が起きれば、破壊的な影響がもたらされかねない」と言っている。”【11月18日 Newsweek】

確認の結果、今回は天然痘ウイルスではなかったようです。

****「天然痘」と記載の瓶、中身は天然痘ウイルスではなくワクシニアウイルス 米****
 米ペンシルベニア州のワクチン研究施設で「天然痘」と記載された瓶が複数見つかった件で、米疾病対策センター(CDC)は18日、中身は天然痘を引き起こす天然痘ウイルスではなく、天然痘ワクチンの作成に用いられるワクシニアウイルスと判明したと報告した。

CDCは16日、「天然痘」との記載がある瓶が数個見つかったことを確認していた。
検査の結果、中身は天然痘ウイルス(バリオラウイルス)と近縁のワクシニアウイルスであることが判明した。ワクシニアウイルスは天然痘ワクチンの作成に使われ、「ワクチン」の語源となっている。

CDCは声明で「天然痘の原因となるバリオラウイルスが瓶に含まれている証拠はない」と説明。州や地元保健当局、法執行機関、世界保健機関(WHO)と緊密に連携しているとも述べた。(後略)【11月19日 CNN】
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今回は無事にすんだようですが、こんな形で終わったはずの感染症が再び人類を襲う・・・という危険性は、映画・小説の中だけではないようです。

シベリアの永久凍土が温暖化でとけだすと、凍土のなかから太古の未知のウイルスが出現することも、あるいは、人間の活動領域が拡大することで野生動物との接触機会が増えて、新たな感染症が・・・・、あるいは、これまでのありふれたウイルスが変異で強毒化する・・・といった危険も。

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台湾をめぐるアメリカの「戦略的曖昧さ」政策 欧州は台湾支持強化 台湾では日本の出兵協力へ期待

2021-11-18 23:32:51 | 東アジア
(台湾総統府で会談した蔡英文総統(右)とグリュックスマン欧州議員=4日【11月4日 共同】)

【台湾武力統一への中国社会の声は中国政府を突き上げる】
台湾をめぐっては、米中の政治的駆け引きや台湾海峡での米中双方の牽制活動などを含め、中国・習近平政権の武力統一の可能性を懸念させる台湾への圧力と、そうした中国の圧力に抗する台湾への国際的支援の双方が高まる、一言で言えば“緊張が高まる状況”が続いています。

そうした“緊張”を象徴したのが中国で起きた、生活必需品備蓄指示に対する過剰反応、あるいは中国国民の“深読み”でした。

中国商務省が11月1日夜に、今冬から来春にかけて野菜など生活必需品の供給と価格を安定させるとの内容の通知を発表。その中で「必要に応じて一定量の必需品を備蓄するよう推奨する」と盛り込みました。
これに対し、「今冬に新型コロナウイルス感染が大規模に拡大する可能性があるほか、台湾を武力統一するため、供給制約が生じるということか」という解釈がネット上で広まり、一部のスーパーで買いだめの動きが広がりました。

その後、当局・官製メディアは“火消し”に。

****「台湾を攻撃」のデマ拡散、中国人の「過剰反応」はなぜ起きたのか―独メディア****
中国で最近「台湾を攻撃する」との情報が流れたことについて、ドイツメディアのドイチェ・ヴェレは8日、その原因を分析する記事を掲載した。

中国商務部が1日、国民に対して「突発的状況」に備えて生活必需品を備蓄するよう指示したことを受け、一部で「台湾を攻撃するのではないか」と解釈する人が多数現れ、当局が国営メディアを通じて火消しに走る事態となった。

記事によると、ネット上で「統一後、台湾省で家を買うのはどうするのか?」との書き込みが注目を集めたほか、10月末に国務院台湾事務弁公室の劉軍川(リウ・ジュンチュアン)副主任が台湾統一後の台湾の財政収入を「民生の改善に役立てることができる」と述べたことも手伝い、中国ネットユーザーの間で台湾統一の可能性についての議論が高まっていた。

今回の中国人の「過剰反応」について、シンガポール南洋理工大学ラジャラトナム国際研究院の李明江准教授は「強制や武力で台湾統一を実現しようとする人々の長期的な心理に起因する」と指摘。同氏は「台湾武力統一の声は中国社会の中でずっと目立ってきたもので、こうした主張は政府をも上回る(勢いがある)。武力統一は中国政府にとっては選択肢にすぎず、最後の手段だ」と説明した。

また、「米中の戦略的駆け引きや台湾海峡での中国軍機の頻繁な活動は、中国国民に政府が台湾を統一するための準備をしていると錯覚させ、軍事行動が起こり得ると誤解させている」と指摘。さらに、「中国人にとって台湾独立の実質化がますます顕著になっているため、中国政府の発表を深読みしてしまいがちな状況にある」とした。

台湾国防安全研究院の曽怡碩氏は「中国は武力統一をデマだと明確にした後も、社会でこの問題を議論することを許可している」とし、その背景として「対内的には『ナショナリズム動員』の効果を発揮でき、対外的には台湾や日米などへの牽制の効果がある」と読み解いた。

李氏は今回のデマは純粋に中国人の過剰解釈だとする一方、「台湾武力統一への中国社会の声は政府を突き上げる」とも指摘。「なぜ中国の指導者が台湾問題で譲歩する余地がないのか。それは中国国民の大部分はこの問題で強硬な姿勢を示しているためで、政府はこの民意に逆らうことはできない」との考えを示した。【11月11日 レコードチャイナ】
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「台湾武力統一への中国社会の声は政府を突き上げる」状況が中国国内あり、当局側にも台湾武力統一の議論による「ナショナリズム動員」を利用するような思惑があるようにも見えます。

【アメリカの「戦略的曖昧さ」政策】
一方、アメリカの台湾政策は、バイデン大統領の真意不明な「台湾防衛」発言などがあって注目されていますが、基本的には中国と台湾の関係、台湾有事の際の防衛などについて敢えて玉虫色の曖昧な表現にとどめることで、中国の立場に配慮しつつ、台湾に関する現状を維持するという「戦略的曖昧さ」政策が維持されています。

****バイデン政権が続ける台湾への「戦略的曖昧さ」****
10月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の解説記事が、バイデン米大統領が台湾を中国の軍事攻撃から守ると述べたことについて、これは米国の台湾についての「戦略的曖昧さ」政策に反するものだが、同政権の高官の多くは政策転換に消極的であると報じている。
 
台湾をめぐる中国の軍事的攻勢が強まるなかで、バイデン大統領の発言が注目されている。それは、いざという時に米軍が台湾防衛のために駆けつけてくれるか否かの議論に直結している。
 
バイデンは10月21日、テレビ番組において、台湾が中国に攻撃されたときに「アメリカは台湾を防衛するか否か」と質問された際、“Yes, we have a commitment to do that”と発言した。この発言はたしかに、これまでより一歩踏み込んだものと言える。米国には台湾の「防衛義務」がある、あるいは「防衛の約束」がある、とでも訳すべき発言だ。
 
サキ大統領報道官は、その発言の直後に、これは米国の対台湾政策の変更を意味するものではないとして、米国としては台湾の自衛を引き続き支持し、台湾問題の一方的な現状変更には反対することに変わりはないと、従来通りのラインの説明を行った。(中略)
 
もともと、中国の「一つの中国原則」には極めて曖昧な中国の一方的主張があり、これに対し、米国は米国でこの曖昧な主張を米国なりに同床異夢的に解釈してきたところがある。バイデンの前述の発言もその曖昧さの産物と呼んでも良いだろう。
 
振り返ってみれば、1978年、米中が国交樹立した際の共同声明の中で、米国は「中国はただ一つ、台湾は中国の一部である、という中国の立場を『認識する(acknowledge)』」と述べた。このacknowledgeという言葉は法律上の「合意」とか「承認」を意味するものではない。【11月12日 WEDGE】
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中国側が「承認」と解釈できるような「認識」という言葉で中国側の立場に配慮しつつ、「承認」したわけではないと台湾支援は続ける・・・利害の相反するなかで一定の「妥協」を可能とする外交的曖昧さです。

お互いが都合よく解釈する「戦略的曖昧さ」は、6日に行われた米中首脳のオンライン会談でも。

****バイデン大統領が「台湾独立を支持しない」と発言? 米中発表“食い違い”の理由―独メディア****
米中首脳会談での台湾問題に関するやり取りをめぐり、米中で発表された内容に食い違いがあったことについて、ドイツメディアのドイチェ・ヴェレは16日付の記事で「米国があいまいな部分を残した」との専門家の見方を伝えている。

16日に行われたオンラインによる会談では、台湾問題が一つの大きな焦点となった。記事は、今回の首脳会談で大きな進展はなく、台湾問題についても改めて互いの立場を再確認するにとどまったと説明。しかし、会談後に中国のポータルサイトやSNSでは「バイデン大統領が台湾独立を支持しないことを再確認した」との文言が急速に拡散した。

新華社の報道では、バイデン大統領は「米国側は中国の体制変更を求めておらず、同盟関係の強化を通じた中国への対抗も求めておらず、中国と衝突するつもりはないことを改めて明確に確認したい。米政府は長期的に一貫した『一つの中国』政策を推進することに取り組み、『台湾独立』を支持しておらず、台湾海峡地域の平和と安定を望んでいる」と述べたとされている。

ところが、ホワイトハウスの公式声明によると、バイデン大統領は「米国は依然として『台湾関係法』、三つの共同コミュニケ、六つの保証のもとで『一つの中国』政策を実行することに取り組んでおり、かつ米国は現状を一方的に変更したり、台湾海峡の平和と安定を破壊したりする取り組みに強く反対する」と述べたとされる。

この食い違いはなぜ起きたのか。記事によると、オーストラリア国立大学アジア太平洋学部の宋文笛講師は「中国がバイデン大統領の発言を『再解釈』したのは、中国国内の民衆を満足させるため」と指摘。一方で、バイデン大統領の発言も中国側が独自の解釈ができるように十分な余地を残しているとの見方を示した。

同氏は、今回の米中会談の重点は「意思疎通ルートを円滑に保ち、互いに対する基本的な信頼を維持すること」だとし、その意味から「バイデン大統領は台湾問題を、新疆や香港など他の国内問題と区別しており、『一つの中国』政策に関して十分なあいまいさを残した」と分析。

例として、バイデン大統領が今回の会談で「われわれ(米国)の『一つの中国』政策」という言葉を使わずに「『一つの中国』政策」とだけ述べたことを挙げ、「『われわれの』を外したことは中国側に国内向けに操作してもらうための一つの方法と見ることができる」と読み解いた。

ただ同氏は、バイデン大統領が「三つの共同コミュニケ」や「六つの保証」よりも前に「台湾関係法」に言及していることから、「実際には米国は何も譲歩していない」と指摘。

今回の会談はあくまで双方が競争の中で破滅的な事件にエスカレートしないための確認であり、画期的な議論はそれほどなかったとし、米中の関係は依然として「競争」であり、台湾は米中協力の兆しに過剰反応する必要はなく「慎重かつ楽観的な姿勢でこの結果を見るべき」との考えを示した。【11月17日 レコードチャイナ】
********************

ただ、「戦略的曖昧さ」が通用するのは、お互いが現状維持を本音としている限りにおいてであり、一方が現状変更を明確にすれば、その虚構は崩壊します。

****中国、台湾侵攻能力を確保 「最小限核抑止」から離脱 米報告書****
米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は17日、中国の軍事経済情勢をめぐる年次報告書を発表した。

中国軍が台湾侵攻の初期能力を確保した可能性を示し、米通常戦力による抑止が困難と警告。また、中国が「限定的な核兵器先制使用」という新戦略を進めていく可能性にも言及した。

報告書は台湾情勢をめぐり、「中台間の紛争抑止が危うい不確実性の時期にある」と初めて指摘。2020年を人民解放軍が台湾侵攻の能力を確保する重要な節目と指導層が位置づけてきたとし、同軍は台湾に対する空中・海上の封鎖、サイバー攻撃、ミサイル攻撃に必要な能力をすでに獲得したと分析した。

特に侵攻の初期段階で2万5千人以上の部隊を上陸させる能力、民間船を軍事作戦に動員する能力があるとの見方を示し、軍事侵攻は中国指導層に依然として高リスクの選択肢としつつ「米国の通常戦力だけで台湾への攻撃を思いとどまらせることが不確かになってきた」とした。

米国に軍事介入の能力や政治的な意思がないと中国指導層が確信すれば、米国の「抑止策は破綻する」と警告。台湾も過去数十年の軍事への過小投資のつけで重大な課題に直面しているとし、封鎖に耐えられる重要物資の備蓄が不足していると分析した。

台湾関係法上の義務を果たすため軍事的抑止力の信頼性を強化する緊急措置も提言した。 

報告書は一方、中国の核戦力に関する項を新設。「1960年代に最初に核兵器を保有して以来、核戦力の拡大・近代化・多様化のため最大級の取り組みを実行している」と強調した。(中略)

また、中国指導層は台湾侵攻の際、米国の介入を阻止するなど政治的な目的達成のために核戦力を活用でき、介入を阻止できると確信した場合には米国の同盟国との通常紛争を誘発しかねないと警告した。

国防総省が今月発表した年次報告書でも、中国が約10年後の30年までに少なくとも千発の核弾頭を保有する可能性を指摘しており、中国の核戦略の行方に対する米国政府・議会の危機感は高まりそうだ。【11月18日 産経】
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【欧州で強まる台湾支援の動き】
アメリカ以外の動きとしては、米英とともにAUKUSを構成するオーストラリアが、台湾有事の際にアメリカと共同歩調をとる姿勢を示しています。

****豪州、台湾有事なら米国支援 中国を牽制****
オーストラリアが台湾有事の際、米国と共同歩調をとる姿勢を示した。豪州は米英と安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設するなど、中国を念頭にインド太平洋地域の安定に関与する姿勢を強めている。

国内には対中融和論もある中、台湾への軍事行動を座視しない姿勢を鮮明にし、中国の動きを牽制(けんせい)した形だ。

ダットン国防相は12日付の地元紙オーストラリアン(電子版)のインタビューで、米国が台湾防衛のために軍を投入した場合、同盟国である豪州がその軍事行動に参加しないことは「考えられない」と述べた。(中略)

ダットン氏の発言について、中国共産党系メディア「環球時報」の胡錫進編集長はツイッターで「豪州が台湾海峡で戦うことになれば、中国が激しい攻撃を加えるだろう。豪州は台湾と米国のために犠牲になる覚悟をした方がいい」と強く反発した。【11月18日 産経】
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また、台湾外交部(外務省)はバルト三国のリトアニアの首都ビリニュスに代表機関を開設し、運営を始めたと発表しました。名称を「駐リトアニア台湾代表処」とし、欧州に置く代表機関としては初めて名称に「台湾」を用いています。
 
欧州での新設は、2003年の東欧スロバキア以来、18年ぶり。台湾はリトアニアへの代表機関設置を契機に、バルト3国との関係を一段と強化したい考えです。【11月18日 時事より】

当然中国は強く反発していますが、リトアニアは中国との経済関係は大きくありませんので、中国の脅しにも屈する必要がないのでしょう。
リトアニアに代表されるように、欧州は台湾との関係強化の動きが強まっています。

****中国の怒りを買おうとも...EUの台湾への急接近は、経済的にも合理的な判断だ****
<中国経済に逆らえなかったはずの欧州が「台湾重視」に豹変。民主主義的価値観だけではない2400万人市場の魅力とは>

去る11月3日、欧州議会の公式代表団が史上初めて台湾に足を踏み入れた。欧州議会の「外国の干渉に関する特別委員会」の面々は台湾に3日間滞在し、総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)や行政院長(首相)の蘇貞昌(スー・チェンチャン)、立法府(立法院)を代表する游錫堃(ヨウ・シークン)らとの協議に臨んだ。

10月末にも、やはり史上初めて台湾外交部長(外相)の呉釗燮(ウー・チャオシエ)がブリュッセルで、9カ国を代表する欧州議会議員や複数のEU本部当局者(個人名や肩書は公表されていない)と「非政治的レベル」の協議をしている。

こうした相互訪問は前例のないもので、欧州の台湾政策における大きな変化を示唆している。これまで欧州議会や加盟国の一部が主張してきた路線を、欧州委員会や(加盟国全体の外交政策などを調整する)欧州対外行動庁も支持するようになってきた。

その背景には、民主主義の友邦である台湾を支えるためなら政治的にも経済的にも投資を惜しまないという欧州側の意思がある。それは経済的な利益にもなり、台湾海峡の現状を守り平和を保つことにも役立つ。台湾にも欧州にも攻撃的な姿勢を強める中国に対し、ひるまず剛速球を投げ返す姿勢だ。

10月には欧州議会が、台湾との関係を強化し「包括的かつ強化されたパートナーシップ」の確立を求める決議を採択している。(中略)これが580対26の大差で可決された事実は重い。

EUの足並みがそろう
さらに注目すべきは、長年にわたり中国政府の怒りを買うことを懸念して台湾との関係強化に消極的だった欧州委員会や欧州対外行動庁が、この決議に賛同したことだ。(中略)

(欧州議会における親台勢力でドイツ選出の)ビュティコファーらに言わせると、台湾はこの数十年で「開かれた複数政党制の統治形態へと進化し、個人の尊厳を重んじる」民主主義の友邦となった。だから欧州の支持・支援を得るに値する。

経済的、科学的にも双方に利が
実は経済的な理由もある。台湾の人口は2400万、市場として小さくはない。それにハイテク産業の基盤があるから、協力すれば経済的にも科学的にも双方に利がある。

いい例が台湾積体電路製造(TSMC)だ。この会社は半導体の世界生産の半分以上を占めている。だからこそEU幹部のボレルもベステアも、台湾は「欧州半導体法の目標達成にとって重要なパートナー」だと言っている。この法律は半導体の設計から製造に至る全過程(バリューチェーン)で欧州勢のシェア拡大を目指している。

皮肉なもので、欧州の台湾接近を主張するビュティコファー議員に共鳴する仲間が増えたのは中国政府のおかげでもある。中国のこれまでにない攻撃的な姿勢こそが、欧州各国にビュティコファーの望むアプローチを支持させた最大の要因だ。(後略)【11月17日 Newsweek】
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【台湾 日米の台湾軍事支援に対する期待の高さ】
日本でも台湾支援の強化を求める政治家の声が強まっていますが、台湾有事で台湾防衛に自衛隊が動くということになれば、日本は欧州とは異なり、アメリカ以上の「最前線」に立つことになります。
(“「覚悟なき台湾有事支援」で日本が直面するとんでもない事態”【11月11日 北村 淳氏 JBpress】

台湾側の日本への期待も大きいようです。

****台湾「日本が出兵協力」58% 中国の武力攻撃に対して****
台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が2日発表した世論調査で、中国が台湾に武力攻撃した際に「日本が出兵して台湾防衛に協力すると思うか」との問いに58.0%が「見込みあり」と回答、「見込み無し」は35.2%だった。米軍については「見込みあり」が65.0%だった。
 
日米の台湾軍事支援に対する期待の高さが浮き彫りになった。
 
台湾軍による自衛能力については48.4%が「自信あり」と答えたのに対し、「自信なし」も46.8%。中国による武力攻撃に対する備えは「十分」が43.7%だったが、47.6%が「不十分」と回答した。【11月2日 共同】
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日本が出兵協力・・・・ことの是非は別として、そういう議論が日本国内でなされているようには思えませんが・・・
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フィリピン次期大統領選挙  ドゥテルテ政治の継承か脱却か マルコス独裁の「過去」は?

2021-11-17 23:01:45 | 東南アジア
(【11月15日 産経】)

【マルコスJrとドゥテル長女・サラ氏の「正副大統領ペア」 人気先行】
フィリピンの大統領選挙は、政党や政策ではなく、候補者個人の人気が優先される、悪く言えば“人気投票”的なところがあって、かつては元映画スターのエストラーダ氏が役柄のイメージで当選するということも。

次期大統領選挙(来年5月)については、ドゥテルテ大統領の長女で世論調査での人気トップのサラ氏が出るのか、出ないのか、出るなら正副大統領のどういう組み合わせで出るのか、ドゥテルテ氏はどうするのか、父娘ペアはあるのか、あるいは父娘対決になるのか・・・といったあたりに関心が集まっていましたが、結局、サラ氏はマルコス元大統領長男とのペアで副大統領候補になることが決まりました。

****ドゥテルテ氏長女、副大統領選へ=故マルコス氏長男とペア―フィリピン****
フィリピンのドゥテルテ大統領の長女サラ氏(43)は13日、来年5月に行われる副大統領選への立候補を届け出た。取り沙汰されていた大統領選への出馬を見送り、大統領候補のフェルディナンド・マルコス氏(64)とペアを組む。
 
マルコス氏は元上院議員で、20年以上の独裁政治を敷いた故マルコス大統領の長男。陣営は同日、「サラ氏をマルコス氏の副大統領候補に迎え入れる」との声明を出した。
 
英字紙マニラ・タイムズが先月から今月にかけて行った世論調査で、マルコス氏とサラ氏の「正副大統領ペア」は55.7%の支持を獲得。2位以下に大差をつけた。

マルコス一族とドゥテルテ一家は親密な関係にあるとされ、両氏が当選すれば、ドゥテルテ氏は大統領を退いた後も一定の権力を維持する可能性がある。
 
一方、ドゥテルテ氏自身も副大統領選への立候補を15日に届け出る可能性が報じられた。アンダナル大統領広報官は13日、時事通信の取材に「現時点では計画だ」と認めた。実行されれば父娘の対決となる。【11月13日 時事】
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再選は憲法規定で出来ないドゥテルテ大統領の方は、父娘対決は避けて、上院議員に立候補することに。

****ドゥテルテ大統領、フィリピン上院議員選出馬へ 政界引退を撤回****
フィリピンのドゥテルテ大統領(76)は15日、2022年5月の大統領選と同時に実施される上院議員選への立候補を届け出た。与党「PDPラバン」が明らかにした。

大統領の再選が禁止されているドゥテルテ氏は任期後の政界引退を表明していたが、撤回した形となった。ドゥテルテ氏は、PDPラバンと連立を組む別の政党から出馬する。
 
ドゥテルテ氏は10月、大統領選と同時実施の副大統領選への出馬を断念し、政界引退を表明。だが地元メディアは、ドゥテルテ氏が長女で南部ダバオ市長のサラ氏(43)と対決する形で副大統領選に出馬する可能性も報じていた。結局、娘との対決は回避した格好だ。(後略)【11月15日 毎日】
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ドゥテルテ陣営としては、長女のサラ氏を副大統領にすることで次期政権に強い影響力を残すねらいがあると一般的にはみられていますが、よく知りませんが、ドゥテルテ父娘の間には、父親の女性問題で確執もあるとか・・・サラ氏が父娘ペアを拒否したのもあのあたりがあってのこととも。【10月14日 大塚 智彦氏 JBpress】

ということで、必ずしも父娘関係は良好でもないとの想像もできますが、まあ、さすがに父親逮捕といった事態は回避出来るのでは・・・というところか。

いずれにしても、マルコスJr(通称)ボンボン氏とドゥテルテ長女サラ氏という人気のツートップのペアを軸として今後の選挙戦が進むことになります。

****マルコス氏長男とドゥテルテ氏長女が共闘 混戦のフィリピン大統領選****
フィリピンで来年実施される正副大統領選で、立候補受け付けの手続きが15日に終わり、選挙戦の構図が固まった。独裁体制を敷いた故マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス元上院議員が支持を得ているが、国民には警戒感もあり、混戦となりそうだ。ドゥテルテ大統領の強権的な政治や親中的な外交政策の是非が争点になる。

正副大統領は来年5月9日に同時実施の直接選挙でそれぞれ選ばれる。立候補の締め切りはいずれも10月上旬だったが、今月15日までは政党の公認候補の変更が認められていた。大統領の再選は憲法で禁じられており、ドゥテルテ氏は同日、上院議員選に立候補した。

調査会社が明らかにした10月の世論調査によると、大統領選ではマルコス氏が47%の支持を集め、トップに立っている。国民からの人気が高く有力候補だったドゥテルテ氏の長女サラ氏は立候補を見送り、副大統領選に立候補した。今後は共闘を決めた両陣営を軸に選挙戦が進むことになる。

2人の連携の背景には、ドゥテルテ家とマルコス家の良好な関係があるという見方がもっぱらだ。前回の大統領選では、ドゥテルテ氏がマルコス元大統領の遺体を国立の英雄墓地に埋葬する方針を表明。マルコス氏とサラ氏が正副大統領に選ばれれば、6年間の大統領任期を半分ずつ分け合うという臆測も流れている。

大統領選でマルコス氏に対抗する有力候補としては、ドゥテルテ氏の政策を批判してきたロブレド副大統領が支持を集めている。世論調査でモレノ・マニラ市長やボクシング元世界王者のパッキャオ上院議員を上回る2位の支持を得た。

マルコス家が権力の座に戻ることや強権的な現政権に近いマルコス氏自身の立場への警戒感から、人権団体などは「反マルコス」を訴える街頭デモを始めている。ロブレド氏は前回の副大統領選でマルコス氏を破っており、大統領選に向けてあらためて反対勢力を結集できるかがカギになる。

ドゥテルテ氏の今後の言動も選挙戦に影響する可能性がある。10月には任期満了での政界引退を宣言したが、一転して上院議員選に立候補した。サラ氏が大統領選に出なかったことに不満を抱いているとされ、マルコス氏の不支持を表明している。

一方で、国際刑事裁判所(ICC)が麻薬対策について「人道に対する罪」の疑いで正式捜査を決めたことから、責任を問われる事態を回避するために次期政権で影響力を維持したい思惑があるとみられる。【11月17日 朝日】
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【マルコス独裁の「過去」とマルコスJrボンボン氏の関係】
マルコスJrは、前回は副大統領候補として出馬するも、ロブレド副大統領に敗れました。このとき母親イルメダ夫人はどうして正大統領候補で出馬しないのか嘆いたとか。

これまではサラ氏の話題性に隠れた感もありますが、なにせ今回は正大統領候補ですから、今後の選挙戦ではその資質とともに、マルコス独裁との関係性が注目されることにもなります。当然に対立候補は「過去」を問題にしてきます。

政策的にはドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」を継続する立場のようです。

****比大統領選でマルコスJrが快走、あの暗黒の記憶は消えたのか****
(中略)かつてフィリピンに独裁政権を築き、改革派将校によるクーデターと民主化運動で失脚したマルコス元大統領は、イメルダ夫人の贅沢な生活ぶりも相まって、日本でもあまりいいイメージは持たれていない。ところがその長男ボンボン・マルコス氏は現在、世論調査でも極めて高い人気を集めているのだ。
 
マルコス元大統領の実家のあるルソン島北イロコス州で州知事を務め、同州選出の上院議員を務めるなどボンボン・マルコス氏は父親の地盤を引き継ぎ同州では圧倒的な支持がある。それに加えて「マルコス元大統領」の知名度もある。いまや全国的に若年層を中心に支持が広がっている。

中高年層にはいまも「マルコス政権」のネガティブイメージが強いが
9月に世論調査会社「パルスアジア」が実施した大統領候補に関する調査では、ドゥテルテ大統領の長女で、ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長が20%でトップに立ち、次いでボンボン・マルコス氏が15%と2番目の人気となっているのだ。首都圏マニラではボンボン・マルコス氏の支持は28%、地盤であるルソン地方でも20%と、サラ市長を抑えて一番人気となった。
 
サラ市長が大統領選に出馬していない現状では、世論調査で二番手に付けているボンボン・マルコス氏が実質的な人気No1候補となっているのだ。

このため地元紙でも「今大統領選の投票が行われればボンボン・マルコス氏が当選する可能性が高い」(インクワイアラー紙ネット版10月18日)と報じている。
 
だが、フィリピンの人々の中にあったはずの「マルコス大統領」に対するネガティブな感情はもう消え去ってしまったのだろうか。
 
マルコス元大統領時代は反マルコス運動の盛り上がりに対して、マルコス政権は「戒厳令」で対抗。反政府活動の学生や運動家に対する逮捕、拷問、殺害などの激しい人権侵害が行われていた。
 
実はこの「暗黒時代」の記憶は現在も一定の年齢層以上のフィリピン人の脳裏には刻み込まれており、実際にマルコス一族への反発は根強いものがある。

過去を封印、強い指導者像で支援を訴え
それだけに、「反マルコス気運」が自身の大統領選出馬を機に沸騰することを懸念するボンボン・マルコス氏は、立候補届け出を前に報道陣の取材を受けた際、父であるマルコス元大統領時代の戒厳令や母であるイメルダ夫人の汚職疑惑などに関する質問に対して、こう釘を刺した。

「何か新しいことを聞きたいならいいが、35年間も聞き続けているのと同じ質問をするなら、今ここでなく別の機会に改めて聞いてほしい」 やはり両親に関連した「過去」に神経質になっているようなのだ。
 
そのボンボン・マルコス氏は政策的にはどのようなスタンスで大統領選に臨んでいるのだろうか。出演したCNNの番組において、大統領選で当選した場合には「ドゥテルテ大統領の麻薬関連犯罪との戦いを継続する」ことを明言した。

ドゥテルテ大統領は、麻薬捜査の現場において、警察官による法的手続きを無視した容疑者の射殺という「超法規的殺人」を事実上容認しており、これが内外から厳しい批判を浴びている。ボンボン・マルコス氏もこの捜査手法を継続すると表明したことで、「マルコス元大統領時代の強権支配の復活」に繋がると警戒する声も出ている。
 
ボンボン・マルコス氏は大統領選への届け出を前にしてフェイスブックにアップした約5分間の動画で、コロナ禍への対応に関してこう語っている。
「統率力のある指導者の下で国民は現在の危機を脱し、安全に職場に復帰して元の生活に戻ることができる」
 
この動画の中で出てきた「統率力のある指導者」という表現に、強権独裁体制を敷いたマルコス元大統領の姿を想起した年配者も多かったようだ。
 
両親の過去を「封印」しようとする一方で「統率力のある強い指導者」を目指すボンボン・マルコス氏の姿勢に対して、同じく大統領選に出馬しているマニラ市のイスコ・モレノ市長は10月15日に「過去を決して忘れてはならない」と牽制してみせている。

ボンボン氏の人気は「教育に原因」との指摘
しかし、ボンボン・マルコス氏にこうした警戒感を持つ人々がいる一方、熱烈に支持する人もいる。なぜこのような現象が生まれたのだろうか。
 
フィリピンの有力紙「インクワイアラー」は、10月18日、コラムニストであるジョエル・ルイス・ブトゥアン氏の筆による「マルコス・ジュニアの人気をどう説明するか」と題するコラムを掲載した。

その中では、ボンボン・マルコス氏が2016年に副大統領選に敗れた直後から、TikTokやYouTubeを駆使し短めの動画や簡潔な記事で「マルコス神話」を浸透させていったとしている。そこではマルコス元大統領は「虐待者」ではなく「犠牲者」として描かれているという。

さらに同コラムでは、若い有権者の多くは、マルコス元大統領による「大規模な人権侵害と汚職」という独裁強権政治の「暗黒時代」を知らないという現状を、危機感を持って説明している。
 
その理由は「教育現場で使われている教科書にはマルコス元大統領時代の歴史的評価には言及されていない」からとして、現在の教育システムの欠陥がボンボン・マルコス氏への支持と期待につながっているのではないかと指摘した。
 
さらに政治経済社会に存在する貧困、暴力、腐敗などのあらゆる問題の解決に国民が自ら直面して取り組むのではなく、指導者にその解決を委ねる傾向がフィリピン人にはあることなどを指摘して「強い指導者」への待望論がその結果としてあると分析。

それが現在のドゥテルテ大統領の2016年の大統領選での当選にも影響したとし、ボンボン・マルコス氏の人気にもそうしたフィリピン人の性格が反映されているのではないかと警告している。(中略)

「ドゥテルテ政治、継承か脱却か」が争点に
これまで大統領選に立候補を届け出た主な候補者の中でドゥテルテ大統領の政策継承を表明しているのは連邦党のボンボン・マルコス氏と、ドゥテルテ大統領が名誉総裁を務める最大与党「PDPラバン」のロナルド・デラ・ローサ上院議員の2名である。

これに対して、野党「自由党」などで組織する連合体「イサンバヤン」から出馬しているレニー・ロブレド副大統領、国家統一党のマニラ市長イスコ・モレノ氏、与党「PDPラバン」所属ながら“反ドゥテルテ”を掲げるプロボクサーのマニー・パッキャオ上院議員などは「ドゥテルテ政治からの脱却」を訴えている。
 
このため「ドゥテルテ政治の継承か脱却か」が大統領選の争点の一つになるのは確実だ。(後略)【10月22日 大塚 智彦氏 JBpress】
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【ドゥテルテ政治の継承か脱却か】
反ドゥテルテの立場のプロボクサーとして国民的英雄のマニー・パッキャオ上院議員はマルコス一族の富の収奪を問題視すると同時に、ドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」における殺人の責任をめぐり調査を実施する意向を表明しています。

****比大統領選出馬のパッキャオ氏、勝利の場合は現政権の同僚を汚職容疑で訴追****
ボクシングの元世界王者で、フィリピンの上院議員に転身したマニー・パッキャオ氏が、立候補を表明した来年の大統領選で勝利を収めた場合、ドゥテルテ現政権内のかつての同僚らを汚職容疑で訴追する意向を明らかにした。

今月11日に行ったCNNのインタビューで同氏は、退陣するドゥテルテ政権のメンバー数人を調査することを計画していると発言。
「このように腐敗した高官は皆、刑務所に入らなければならない」とし、「それが我々の国が経済発展する唯一の方法だ。それはこの国のがんであり、発展への障害だからだ」と述べた。

来年5月9日に実施される大統領選の最有力候補の1人は、故マルコス元大統領の息子フェルディナンド・マルコス・ジュニア(通称ボンボン)氏(64)。

25年にわたって同国を統治した独裁者のマルコス大統領は在職時、莫大(ばくだい)な富を収奪し、多数の人々を投獄し拷問に掛けたとされる。

パッキャオ氏は、マルコス一族から「盗まれた富」の一部を回収することも視野に入れているとし、「私は恐れない」「我々の国を発展させ、フィリピンの富を盗み続けている人々を投獄することが私の戦いだ。私は彼らを投獄したい」と述べた。

さらに同氏は、憲法の規定で出馬できないドゥテルテ氏の政権について、「麻薬戦争」における殺人の責任をめぐり調査を実施する意向を表明。

「私は麻薬戦争を正しいやり方で続行する」としつつ、「路上で人々を殺す必要はない。法の手続きがあるのだから、自分たちは無実だと証明するために自身を弁護する機会を与える」と述べた。【11月17日 CNN】
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【買収 「釣り針でなく餌をとれ」との議論も】
フィリピンでも投票の「買収」は法律違反ですが、カネをくれるというならもらって、投票は自分が思う者にすればいいという形で、“買収を許容しようではないか”という気運が高まっているとか。

****フィリピン副大統領が「選挙で票の売買はOK」と発言 パッキャオも既に1人1000ペソ配った?****
(中略)
副大統領が“買収容認”発言
ことの発端は10月26日、家事労働者とのフォーラムの席で発せられた「大物候補者」の次のような発言だった。
「票の売買は確かに悪いことではあるが、そのお金は元々皆さん国民のお金である。だからどうぞ受け取ってください。そして投票はみなさん一人一人の良心に従ってすればいいのです」。
 
この発言をしたのは何を隠そう、フィリピンの副大統領、レニー・ロブレド氏その人だった。野党統一候補で政権交代を目指す切り札ともいわれるが、ドゥテルテ大統領に次ぐフィリピンのナンバー2ゆえに、その影響力、ニュースバリューは大きかった。(中略)
 
「パッキャオ候補」にも買収疑惑が
副大統領がわざわざこんな発言をするほどの選挙事情とはいかなるものか。実は来年の次期大統領選をめぐっても、すでに買収をめぐる報告がいくつかある。
 
たとえば、日本でもおなじみの元ボクサー、マニー・パッキャオ上院議員。(中略)7月に起きたタール火山噴火の被災者約7000人を見舞う意図で、米パックなどの支援物資と共に現金1人1000ペソ(約2250円)を配った。これが買収ではないか、といわれているのだ。
 
本人は票の買収が目的ではないと疑いを否定したうえで、「選挙の時だけ金を配るのではなく、政治家であれば常に国民を助ける必要がある。有権者はたとえ貧しくても誰が本ものであるかを見分ける力をもっている」と述べた。(中略)

一方で同じく大統領選に立候補しているマニラ市のイスコ・モレノ市長は「たとえ国民が(票買収目的の)現金を受け取ったとしてもそれを責めることはできない。国民は賢く、誰が本もので誰が偽者かを知っている。国民を過小評価してはならない」とレニー・ロブレド副大統領を援護している。(中略)

発言の背景に、社会事情もあることを忘れてはならない。もともと貧困格差が激しいフィリピンだが、折からのコロナ禍で失業者はさらに増加し、時短や自宅待機などによる収入減も大きな悪影響を与えている。

生活苦に喘ぐ人々にしてみれば、“支援”を目的で配られる現金の受け取りを拒むことは難しく、それゆえに「もらえるものならなんでももらってよい」とレニー副大統領やイスコ市長は呼びかけているわけだ。そして彼らは貧困層を中心に大きな支持を得てもいる。(後略)【11月15日 大塚智彦氏 デイリー新潮】
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韓国  不動産バブルで遠のくマイホーム 高まる不満 バブル崩壊の危険も

2021-11-16 23:03:58 | 東アジア
(【11月3日 FNNプライムオンライン】不動産取引の国家資格の受験会場 受験者が急増している理由は、マンション価格急騰で取得できる取引時の手数料も高額になっていることに加え、就職難もあるとか)

【就職難に住宅価格高騰、若者世代の生活困難で出生率は0.84 大統領選挙の争点にも】
日本も困難・重大な問題は多々抱えていますが、ひとまずそれらを棚に置いて言えば、お隣韓国では、日本を上回る一人当たりGDPを達成しながらも、特に若い世代での生活苦が著しいことがよく指摘されます。

熾烈な競争社会、(いわゆる一流企業への)就職難、住宅価格の高騰・・・・就職も結婚もあきらめる若者も多いとか。

必然的に結婚・出産も減少し、昨年の出生率は「1を」切る0.84という信じがたい低水準に。(通常は、出生率が「1」を下回るのは戦争などよほどの異常事態とも言われています。)

日本と韓国は常々いがみ合っていますが、どうせそのうち両国とも人口減少で消えてなくなる国だからほっておけ・・・という感も。
コロナ禍はそうした若者の苦境に追い打ちをかけています。

****「若者の65%が就職を諦めた」と韓国シンクタンク、傾向と「意外な」妥協案とは?****
コロナ禍による業績悪化の影響から、2020年度・2021年度の新卒内定取り消しが大々的に報じられている。新型コロナウイルスの影響は、日常を超えて生活基盤にまで浸食している。その影響はお隣・韓国も受けていて、こちらはよりひどい状況と言える。

韓国経済研究院が全国の四年制大学に通う3〜4回生と卒業生2713人を対象に先日行ったアンケート調査によると、回答者の65.3%が就職を諦めている状況ということがわかった。

中でも、33.7%は最初から就職活動をしておらず、23.2%は形だけ就職活動をしていると回答した。「ただ何もやっていない」という回答も8.4%に上った。積極的に就職活動をしているとの回答は10人中わずか1人(9.6%)だった。

また、韓国の求人サイトであるジョブコリアのアンケート調査でも、似たような結果が出ている。それが、「就職希望目標を下げた」という回答だ。

ジョブコリアが下半期の求職活動をする新入職男女求職者812人を対象に「就職目高の現況」についてアンケート調査を行った結果、回答者の66.7%がすでに、希望ランクを下げていると回答した。さらに、これらのうち30%は「目の高さを下げて求職活動をしているが、就職ができないときはさらに下げる」という立場まで示している。

一方、36.7%は「すでにランクを下げて求職活動をしているので、これ以上は下げられない」と回答している。「目標ランクを下げず、就職できなくても下げない」という求職者は11.5%で10人のうち1人水準にとどまった。

ランクを下方修正した求職者が増加した結果、中小企業への就職を希望する人が増加しているようだ。
つい最近まで、一流企業に就職できなければ負け組のような風潮があった韓国だが、中小企業への有能な人材が増えていく結果がどうなるのか、気になるところだ。【11月9日 サーチコリアニュース】
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生活困難の大きな要素のひとつが住宅価格が高騰し、手の届かないところにいってしまったという現実。

次第に熱を帯びている次期大統領選挙でも、そのあたりの対策が焦点にもなっています。

****マンション価格高騰、遠ざかるマイホームの夢 韓国大統領選の争点は****
韓国大統領選では、新型コロナウイルスで傷ついた経済の立て直しや暮らしの改善などについて、各候補の公約に注目が集まっている。文在寅(ムンジェイン)政権が進めた融和的な対北朝鮮政策の行方も争点だ。
 
大きな争点が不動産問題だ。文政権に入って、投資資金が集まるなどして価格高騰が続き、ソウルのマンションの平均価格(10月現在)は約12億ウォン(約9700万円)に達した。マイホームの夢が遠ざかった人々の不満は高まるばかりだ。
 
与党「共に民主党」候補の李在明(イジェミョン)前京畿道知事(56)は価格を押さえ込む強力な措置を打ち出す。不動産取引を監視する機関を設け、不動産関連の事件の捜査権を持たせることも検討するという。
 
広がる格差への対応も焦点だ。李氏は格差解消へ分配を重んじる。「基本所得」として全国民に1人当たり年100万ウォン(約9万6千円)を支給し、若者にはさらに100万ウォンを上乗せすると訴える。賃貸住宅を増やす「基本住宅」、希望する国民全てに1千万ウォン(約95万円)を最大20年にわたって低利で貸し出す「基本金融」などと合わせ、「基本シリーズ」政策と名付けてアピールする。
 
最大野党「国民の力」候補の尹錫悦(ユンソクヨル)前検事総長(60)は格差拡大について「教育や資産づくりなどのために公正な機会を提供する」と訴える。機会の平等を図りつつ、困難を抱える層は福祉政策で救済するとの姿勢だ。不動産問題では5年の任期内で全国に250万戸の住宅を供給すると主張。宅地再開発を促す規制緩和も進めるとしている。(後略)【11月5日 朝日】
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問題はそれら施策の実効性ですが・・・

【不動産価格は文在寅政権発足からの4年間で2倍近くに高騰】
高騰するマンション価格は「不動産バブル」の様相を呈し、「バブル」はいつかはじけるもので、そのバブル崩壊の危険性が現実味を帯びてきています。

****「マンション価格は2倍近くに高騰」崩壊間近か…“韓国不動産バブル”のヤバすぎる現状《文在寅の大失策》****
韓国では今、不動産バブルが深刻だ。不動産価格は文在寅政権発足からの4年間で2倍近くに高騰。このバブルが崩壊すると経済再建が難しくなる可能性が高く、今後も上昇し続けるのか、あるいは暴落するのか、多くの韓国人のみならず、世界中がその動向に注目している。

不動産政策を乱発
文在寅政権は2017年5月の発足以降、大統領選で公約に掲げた「住宅価格の安定」を実現するため、25回にわたって不動産政策を発令した。賃貸事業者を廃止し、個人の多住宅保有に懲罰的な税金を課すなど何でもありで、事態は泥沼に陥っている。
 
地方の不動産価格は下落傾向にある一方で、都心はますます高騰。今年、首都圏のマンション価格は19年ぶりの高い上昇率を記録した。
 
韓国有数の経済市民団体の一つである経済正義実践市民連合(経実連)によると、朴槿恵政権時(2013年2月〜2017年3月)の不動産価格の上昇率は4年間で7.6%、李明博政権時(2008年2月〜2013年2月)は5年間で2%だった。

その経実連は今年6月の記者会見で、文大統領の就任からの4年間で、ソウルにある75か所のマンション団地(11万5000戸)の相場が一坪あたり2061万ウォンから3971万ウォンまで93%も上昇したと明らかにした。

政府内には“諦めムード”も漂う
文政権の不動産政策は裏目に出続けている。例えば、政府は不動産価格が高騰している原因は投機にあると考え、多住宅保有を抑制するため、住宅供給を減らして、住宅融資を規制した。だが、その影響で「一日でも早くお金を借りて住宅を購入しよう」というパニック・バイイング(Panic Buying)が起きた。今では、韓国の標準的な30坪型マンションは、一戸あたり10億ウォンを超えている。
 
こうした状況を前に、政府にはもう諦めムードさえ漂っている。金富謙(キム・ブギョム)首相も今年6月、国会で「住宅価格(高騰)の解決策があるのなら、どこかから盗んできたい気持ちだ。皆がこの泥沼から抜け出したいと思っているが、抜け出せない」と、絶望的な心境を露わにした。

不動産バブルが崩壊する予感
この異常な不動産バブルは、近いうちに崩壊するのではないか――。韓国では、そう囁く声も増えている。
 
今年7月には、首相(国務総理)直属の機関である金融委員会の都圭常(ト・ギュサン)副委員長までもが、金融リスク対応チームのテレビ会議で「不動産市場に“暗雲”が近づいているという専門家の警告を無視してはならない」と述べるなど、経済崩壊への懸念を表明した。
 
この状況を、日本のバブル期と重ね合わせて見る向きも多い。日本のバブルの主な要因には、低金利政策があった。1985年のプラザ合意以後、日本政府が利下げを行ったことで流動性資金が増大し、株価と不動産価格が上昇。しかし、90年に橋本龍太郎大蔵相(当時)が「融資総量規制」を発表したことで、融資なしでは売買が難しい不動産取引が停滞し、不動産価格が暴落した。これが、日本の「失われた30年」の始まりだった。
 
そして、文在寅政権の任期終了が近づく韓国は、それと同様の流れを辿っている。不動産価格の高騰を受けて中央銀行(韓国銀行)が金利を引き上げ、融資も規制されはじめたのだ。

不動産取引が激減している
新型コロナウイルスの影響を受けて、韓国では昨年5月に政策金利が0.5%に引き下げられ、それ以来、据え置かれていた。しかし、韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁が今年6月、そうした緩和的通貨政策を「秩序をもって正常化していかなければならない」と述べ、8月に0.25%引き上げた。その先、年内には、さらなる引き上げが行われるという見方が強まっている。
 
そして融資規制も始まった。所得に占める負債割合が増えると内需経済が萎縮し、ひいては雇用難の長期化につながるとして、銀行をはじめとする金融機関が家計向け融資の敷居を高めているのだ。
 
そうした影響は数字にも現れている。ソウル市の10月17日の発表によると、9月の市内のマンション取引件数は2348件で、8月の4178件から43.8%も減少しており、前年同月の3775件と比べても37.8%少なかった。

 
不動産取引の激減は、市場が上昇から下降に転換するシグナルだ。しかし、家を購入する人が少なくなった一方で、ソウルの高層マンションは増え続けている。不動産ビッグデータ会社「アシル」が集計したソウルの直近のマンション物件は4万1890件で、2か月前より11.4%多かった。

不動産関係者は「住宅価格は上昇すると考える購入希望者が夏までは多かったが、融資規制の報道以降、問い合わせが途絶えた」と話している。(後略)【11月15日 チャン・ドンドン氏 文春オンライン】
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【止まらない「パニック買い」 家計負債は世界でも最も高い水準に】
規制が強化されるなかでおきた、一日でも早くお金を借りて住宅を購入しよう」というパニック・バイイング(Panic Buying)については、現地紙が以下のようにも。

****「危ない」レベルを超えた「パニック買い」、住宅価格下落への警告に耳を傾けるべきだ****
2030世代(20代と30代)の「パニックバイイング」が、危険なレベルを超えたという懸念が高まっている。

今年に入ってから8月まで、ソウルのマンション取引で30代以下の割合は40%を超えた。一部の団地では、若者層の購入件数が半分を超え、住宅価格の50%近くを借金でまかなっている。

彼らに住宅価格下落への警告は通じなかった。「住居梯子」が外されてしまうのではないかという懸念の方が大きかったからだ。

しかし、バブル崩壊の可能性に背を向けるには、住宅価格の高騰や家計負債への後遺症が深刻なのが現状だ。「金の宴」が終わったという警告に耳を傾けなければならない時だ。

国際通貨基金(IMF)は先月、グローバル住宅価格が急落するリスクがあると警告した。各国が資金源を圧迫することになれば、資産バブルが崩壊しかねないという。IMFは今後3年間、住宅価格が先進国では14%、新興国では22%下落しかねないとし、具体的な数値まで発表した。

韓国銀行は、韓国の住宅価格の上昇幅は主要国のうち、大変高いと診断した。グローバル資産価格の下落が現実となれば、韓国は最大の衝撃を受けかねないという警告だ。

市場はすでに異常な兆しを見せている。政府が融資規制に乗り出し、ソウルでは「取引の崖」現象が現れている。価格を引き下げても売れずに売り物件が増え、一部の新規分譲マンションは半分近くが売れ残りとなっている。

住宅価格全体が下落に転じたとは言い難いが、住宅価格を支える買い手の余力は減り続けている。国内総生産(GDP)比家計負債が100%を超えている現状で、政府の資金繰り圧迫は当面続くと見るべきだ。

パニックバイイングに動員された借金は、2030世代を押さえつけている。若者層の総負債元利金返済比率(DSR)は37%を超えている。所得の3分の1以上を借金の返済に使わなければならないという意味だ。食べていく日常生活費を減らさなければならない状況だ。

住宅価格が下落すれば、購入した家は「カントン住宅(債務超過の住宅)」に転落し、莫大な借金を残すこともある。所得と資産を考慮した融資は合理的選択だが、恐怖心理で過度に借金をすれば「金不足」時代には耐え難い。


借金をした住宅購入について、若い世代のせいばかりするわけにはいかない。現政権に入って住宅価格が2倍近く急騰した。「今でなければ永遠に住宅が買えない」という不安は当然の反応だ。

しかし、多くの不動産対策にもかかわらず、住宅価格が上昇したとして、一歩遅れてパニックバイイングに乗り出すには韓国国内外の経済環境があまりにも不安で混乱している。

住宅価格の下落への警告にも耳を傾け、自分の資金余力にあわせて、合理的な購買をしなければならない必要がある。政府も潜在的な住宅価格の不安要因がないように公共万能から抜け出し、持続的に供給を増やさなければならない。【11月2日 東亜日報】
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多額の借金で住宅を購入する結果、韓国の家計負債は世界的にみても極めて高い水準になっています。

****韓国の家計負債がGDP超え、規模も増加速度も全て「1位」=韓国ネット「またIMF危機が?」****
2021年11月15日、韓国・文化日報などは「国家経済規模を考慮した韓国の家計負債は、世界37カ国・地域のうち最も多いことが分かった」と伝えた。

国際金融協会(IIF)の報告書によると、今年4〜6月期を基準とする37カ国・地域の対国内総生産(GDP)比の家計負債比率は、韓国が104.2%で最も高かった。2位は香港(92.0%)、3位は英国(89.4%)、4位は米国(79.2%)、5位はタイ(77.5%)で、日本は7位(63.9%)となっている。調査対象国・地域で家計負債がGDPを上回ったのは韓国が唯一だった。

家計負債の増加速度も、韓国が1位を記録した。昨年4〜6月期の韓国の家計負債比率は98.2%で、1年間で6.0ポイント上昇している。各国・地域の上昇幅は香港が5.9ポイント、タイが4.8ポイント、ロシアが2.9ポイント、サウジアラビアが2.5ポイントなどとなっている。

また、対GDP比の非金融企業の負債比率を見ると、韓国は115.0%で、香港(247.0%)、中国(157.6%)、シンガポール(139.3%)、ベトナム(125.0%)に続き、5番目に高かった。

IIFは「調査対象国・地域のほぼ3分の1で、家計負債比率が上がっているが、特に韓国とロシアが顕著だ」と分析している。

この記事に、韓国のネットユーザーからは「世界一、おめでとう」「またIMF(国際通貨基金)危機を味わうことになるかも」「不動産低迷期が来たら、IMFのころのような試練が訪れるだろうね」「不動産価格が上がって、猫もしゃくしも借金してまで投機したんだから、家計負債が増えて当然だ」「メディアが不動産を買えとあおったせいだ」「今の不動産の状況を見てごらんよ。借金をせずに暮らせるか」「住宅ローンも含めたら家計負債はGDPの150%、世界で最も危険な国に転落するだろう」などのコメントが寄せられている。

また「文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の日常」「文在寅大統領と『共に民主党』の最高の業績だ」「数年後、歴代で最も無能な政権と与党だと烙印(らくいん)を押されるだろう」などの政権批判と、「コロナ時代にこの程度の管理ができているなら、韓国政府はよくやっているよ」という擁護の声も上がっている。【11月16日 レコードチャイナ】
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【バブル崩壊が起きると家計直撃】
家計負債(その6割が住宅担保融資)が極めて高い状況で不動産バブルがはじけると、その衝撃は家計を直撃します。

****日本のバブル崩壊よりも酷い惨状も……****
一方で、日本と韓国の不動産バブルには大きな違いもある。日本では主に企業が不動産負債を抱えていたが、韓国ではその多くを個人が負っているのだ。(中略)
 
韓国の不動産バブルは「崩壊」の岐路に立っている。だが、本当にバブルが崩壊したら、家計負債が蓄積された低所得層は生存の危機に追い込まれるだろう。そこから融資した銀行も連鎖的に破綻し、経済全体が「災難レベル」の打撃を受けることになる。
 
家計負債が大きい韓国の場合は、その影響が広範囲に及ぶことは必定で、日本のバブル崩壊よりも深刻な状況に陥ると考えられる。
 
不動産と金融当局にとってはまさに正念場だ。しかし、経済に疎いと言われる文在寅大統領が危機感を感じている様子はない。【前出 チャン・ドンドン氏 文春オンライン】
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【ソウル脱出も加速】
一方で、すでに住宅に手が届かなくなったソウルから脱出する人も増えているようです。

****住宅高騰で「脱ソウル」加速 6年間に341万人が流出=韓国****
韓国・ソウルの住宅価格と家賃の高騰に加え、売り物件不足も加速し、「脱ソウル」現象が何年も続いている。

韓国の不動産専門リサーチ会社、リアルトゥデーが統計庁の国家統計ポータルの国内人口移動統計を分析した結果によると、2015年から昨年までの6年間に341万4397人がソウルからほかの地域に移住した。毎年平均56万9066人がソウルを離れた計算になる。今年は9月までに43万4209人が離れた。

特に20〜30代のソウル離れが著しい。15年から昨年までにソウルを離れた20〜30代の割合は全体の46.0%だった。具体的には30代(24.1%)の割合が最も高く、20代(22.0%)、40代(14.1%)、50代(11.8%)などが続いた。

リアルトゥデー側は「マンションの売買価格と家賃が数年間で大幅に上昇し、サラリーマンがソウルで住む家を探すのは難しくなった。首都圏の鉄道・道路網が大々的に拡充され、ソウルにアクセスしやすくなるほど脱ソウル現象はさらに加速するだろう」との見方を示した。実際、ソウルに隣接した主要地域の人口は毎年急増している。【11月16日 聯合ニュース】
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中国でも恒大集団の綱渡り資金繰りが続き、不動産バブル崩壊も取り沙汰されていますが、そっちがはじけると韓国のバブル崩壊の引き金になるのかも。

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中国  過酷な「ゼロコロナ」政策に住民には疲れも その有効性は?

2021-11-15 23:31:25 | 中国
(【インヴェスドクター on twitter】)

【「ゼロコロナ」の厳しい感染対策をめぐるトラブルが各地で】
つい先ほど目にした中国の三面記事的な事件。

****「金持ちは偉いのか」警備員の男が感染対策の検温をめぐり客を刺殺 中国****
中国・広東省の公安当局によると広州市のショッピングセンターで13日、警備員の男(39)が客の男性(39)を刃物で刺したということだ。男性はその後、死亡が確認された。
 
中国メディアは、施設側の話として「駐車場に入る際の体温検査でトラブルになった」と報じている。
 
「ゼロコロナ」政策を続ける中国では厳しい感染対策をめぐるトラブルが各地で相次いでいる。【11月15日 ABEMA TIMES】
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三面記事的な事件ではありますが、中国社会の抱える大きな二つの問題と関連付けられています。

一つは、“厳しい感染対策をめぐるトラブルが各地で相次いでいる”という、“ゼロコロナ対策”の問題。
もう一つは、犯人である警備員の「金持ちは偉いのか」という言葉が想起させる格差の問題。

量的に二つの問題を今日同時に取り上げるのは無理なので、今日は前者のゼロコロナ対策のみ。後者の格差問題は習近平政権の目指す「共同富裕」とも関連し、中国社会の根幹に関わる重大問題ですが、また別機会に。

厳しいコロナ対策ということでは、これもつい先ほどの記事。

****消毒員がドアこじ開け、ペットの犬を撲殺…中国でコロナ対策の殺処分相次ぎ物議****
香港紙・明報は15日、中国南部の江西省上饒市で、地元当局が新型コロナウイルスの感染拡大防止のため住宅の消毒作業を行った際、ペットの犬が消毒員に撲殺されたと報じた。中国ではコロナ対策でペットが殺処分されるケースが相次ぎ、ネット上で批判を招いている。
 
報道によると、市内の感染者が出た地域で今月5日、住民をホテルに強制隔離し、各家庭を消毒する措置が取られた。ペット帯同は禁止だったため、ある住民女性は愛犬を自宅室内に残し、施錠して隔離先に向かった。

自宅の監視カメラで確認したところ、防護服姿の消毒員が玄関ドアをこじ開けて入り、愛犬を鉄の棒で殴りつけ、持ち去ったという。
 
女性がSNSにカメラの映像入りで告発すると、地元当局は13日、飼い主に謝罪したと発表した。しかし、犬を撲殺したことを「無害化処置」と表現し、更なる物議を醸した。

人口600万人超の上饒市では、10月30日から今月14日まで82人の感染者が確認され、当局が厳戒態勢を敷いている。【11月15日 読売】
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江西省上饒市(じょうじょうし)・・・始めて聞く都市名ですが、それでも人口600万人超。さすが、14億人の中国には、こういう「大都市」がゴロゴロしている・・・と思ったのですが、確認すると、都市部の何倍もの面積を有す農村部を内包する行政区画「地級市」としての人口(面積は岩手県の1.5倍ほど)で、都市部人口は120万人ほどのようです。

【大連からの来訪者は施設で14日間隔離】
それはともかく、新型コロナの件。ゼロコロナを目指して躍起になっている中国では、このところ「感染拡大」が抑えきれていません。

“公式データに基づくロイターの算出によると、10月17日から11月14日の間に中国本土では症状が確認された国内感染者数が1308人報告され、夏季のデルタ株流行時の感染者数1280人を上回った。”【11月15日 ロイター】

ただ、「感染拡大」とは言っても、4週間で1308人なら、人口14億人で1日あたり46人あまり。
このところ感染状況が落ち着いている日本よりはるかに少ないレベルで、世界的にも極めて感染が少ない状態です。

「ニア・ゼロ」とも言えるほどですが、それでも中国政府は「ゼロ」を目指して厳しい対策を続けています。現在、地域的に感染が報じられているのが東北部・大連。

****中国で最大規模のデルタ株流行、東北部・大連からの人流制限も****
中国が新型コロナウイルスを巡り、感染力の強いデルタ変異株のこれまでで最大規模の流行に苦慮している。一部の地域では感染が急速に拡大している東北部の都市・大連からの人々の流入を制限している。

公式データに基づくロイターの算出によると、10月17日から11月14日の間に中国本土では症状が確認された国内感染者数が1308人報告され、夏季のデルタ株流行時の感染者数1280人を上回った。

これは中国で最も広範囲に広がったデルタ株流行で、21の省・地域・市に影響を与えている。多くの他国の流行に比べれば小規模だが、中国当局は「ゼロ寛容」政策の下、感染阻止に躍起になっている。

12の省レベルの地域では、厳格な接触者追跡、リスクのある地域の人々に対する複数回の検査、娯楽や文化施設の閉鎖、観光や公共交通機関の制限といった規制の迅速な実施で、数週間以内に感染を抑えた。

しかし、大連ではウイルスとの戦いが続いている、と国家衛生健康委員会の担当者は13日のブリーフィングで語った。

ロイターの算出によると、人口750万人の大連では11月4日に最初の有症者が報告されて以来、1日平均で約24人の新規感染者が確認されており、これは中国の他のどの都市よりも多い。

丹東、鞍山、瀋陽など大連近郊のいくつかの都市では、大連からの来訪者が自由に移動できるようになるには施設で14日間隔離しなければならないとしている。

中国本土では11月14日時点で、国内の市中感染者と海外からの感染者を含め、症状のあるコロナ感染者が累計9万8315人確認されている。死者数は累計4636人。【11月15日 ロイター】
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日本で言えば、現在程度の感染状況の東京から他の地域に移動した場合、施設で2週間隔離が必要になる・・・といった厳しさです。

学校の対面授業削減、文化施設の閉鎖はもちろんです。
“大連市当局は、公共交通機関の運行に制限を掛けたほか、不必要に市を離れることのないよう市民らに指示。運輸関連の当局者によると、市外に移動する人の数は96.5%減少し、1日当たり平均で918人となっているという。”【11月12日 Newsweek】

【市民生活への大きな負担 疲れの色も】
“中国政府が「ゼロコロナ政策」を堅持する中、地方当局は感染抑制に向けてあらゆる手段を講じている。”【同上】という状況ですが、さすがに“疲れ”の色も。

しかし、来年2月の冬季五輪に続き、秋には習氏が3期目続投を目指すとされる第20回共産党大会といった大型イベントを控えており、来年も今のような厳格な「ゼロコロナ」が続くことが予想されています。

****中国「ゼロコロナ」戦略の功罪、市民疲れ色濃く****
「いつまで耐えられるか」という悲痛な声も

中国はここ1年余り、国境沿いの街に相次ぎ厳格なロックダウン(都市封鎖)を導入してきた。地元住民は国外からの感染流入を防ぐため、まさに「歩兵」としてコロナとの闘いで最前線に立たされている。
 
ミャンマーとの国境沿いにある宝石取引拠点の雲南省瑞麗市。地元の母親らは投稿で、幼い自分の子どもは定期的に受けるコロナ検査に「まひ」しつつあると嘆いている。2歳児ですでに検査を100回も受けたと話す母親もいる。

検査で次々と陰性結果が出ても、数カ月連続で隔離を強制されたとの投稿もあった。一部の飲食店は半年以上、休業に追い込まれたままだ。
 
中国では変異株「デルタ株」により、2020年初頭に初めて武漢市を封鎖して以来、最大規模の感染拡大に見舞われており、全国的に新たなロックダウンや厳しい規制が敷かれている。さらに多くの省で感染が広がっているが、全体では1日当たりの新規感染者数が100人未満にとどまる。
 
公衆衛生の専門家は2022年もほぼ年間を通して制限措置が続くとの考えを示唆しており、中国が掲げる「ゼロコロナ」戦略への疲れを指摘する声が各地で目立ってきた。
 
10月31日には、上海ディズニーランドで数万人が閉じ込められた。入場客1人が検査で陽性反応が出たことが発端で、残る全員が待機を命じられ、足止めに遭った。花火が上がる中、園内には検査を受ける長い列ができた。
 
首都・北京では、共産党幹部300人余りが集まる重要イベントを来週に控え、ウイルス封じ込めに向けた「厳戒態勢」が敷かれている。10月28日には、上海―北京間の高速鉄道に乗っていた数百人が車両から退避させられ、隔離施設へと送られた。乗務員1人が濃厚接触者に特定されたためだ。

北京の学校2校は今月1日、各校の教師1人と生徒1人がそれぞれ検査で陽性結果となったことで閉鎖された。ネットに出回った動画によると、そのうち1校の校長は、生徒らは検査結果を待つ間、校内で一夜を過ごすことになるとして、親に枕と毛布を届けるよう指示。その後2週間の隔離には、生徒1人につき親1人が同伴できると説明している。
 
また陽性反応が出たその教師と同じワクチン接種会場でブースター接種(追加接種)を受けていた学校職員が勤務する別の数十校もドミノ連鎖で閉鎖に追い込まれた。
 
北京住民の中には、追跡アプリで感染者が出た場所に居合わせたことが判明し、当局が一元管理する隔離施設に送られたか、ドアの外にセンサーが設置された状態で自宅待機を命じられたと話す者もいる。たとえ、それが数分の滞在であってもだ。
 
中国商務省は1日、冬場を控え、家庭や業者に対して必要品を確保しておくよう指示。さらなるロックダウンに住民を備えさせるための措置だと広く受け止められた。ただ、同省はその後、発表について考えすぎないよう市民に促している。
 
中国は2年近く前に武漢の封鎖を決めて以降、引き続きロックダウンに加え、大量検査や強制隔離を徹底して実施している。厳しい規制を敷いていたオーストラリアやシンガポールといった国々が緩和方向へとかじを切った後でも、中国は変えていない。
 
データをみる限り、中国は他の国・地域に比べて、驚くほど封じ込めに成功している。米ジョンズ・ホプキンス大学によると、累計の感染者数は11万人、死者は5000人未満だ。これに対し、米国は感染者が4600万人余り、死者は75万人近くに上っている。

習近平国家主席は2020年1月以降、中国を出ておらず、20カ国・地域(G20)といった国際会議にもネット経由で参加するなど、バーチャル外交に徹している。
 
ミシガン州立大学の社会学者、スーフェイ・レン氏は、中国は世界で最も厳しいと言える封じ込め対策を講じていると話す。中国のような地方と中央政府の双方が市民を徹底監視する仕組みは、危機時には極めて有効だとし、これは市民が比較的従順に規制を順守していることからも見て取れるという。
 
だが、自身も中国にいる父親に2年会えていないというレン氏は、厳格な国境封鎖による人間への影響をあなどるべきではないと指摘する。「中国が扉を閉ざしていることで、人と人の交流が断絶されており、その喪失感は計り知れない」
 
中国は来年2月の冬季五輪に続き、秋には習氏が3期目続投を目指すとされる第20回共産党大会といった大型イベントを控えており、近く規制が緩和される兆しは全くみえない。
 
中国の呼吸器疾患の専門家、鐘南山氏は、感染拡大が発生するたびに封鎖の導入と解除を繰り返すよりは、ゼロコロナ戦略の方が代償が少なくて済むとして、適切だとの考えを示している。(中略)
 
在中国欧州連合(EU)商工会議所のヨルグ・ワトケ会頭は、中国のコロナ対策により、外国企業は将来の計画を策定するのが一段と困難になっていると話す。
 
ワトケ氏は「隔離が長いほど、中国への影響も大きくなる――とりわけ、ハイテク業界はそうだ」と指摘。実質3週間の隔離措置など、中国と簡単に行き来できないことで、専門家やビジネスマンの間で中国への渡航を避ける動きが広がっていると述べる。
 
瑞麗市の当局者らは、昨年9月以降、4回実施しているロックダウンやその他の封じ込め対策は、ミャンマーからのウイルス侵入を阻止する手だてだと話している。

雲南省保健委員会のデータによると、瑞麗市の市中感染者は年初来、おそよ300人にとどまるが、ミャンマーを中心に外国からの帰国者による感染が7月以降、700人余りに上っている。
 
中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では先週、ある大学生が瑞麗市当局が国境沿いの宝石取引市場を閉鎖したことで両親が仕事を失ったと投稿していた。「収入も何の補助もない中で、両親はなお弟の学費を支払わなければならない。Rにはこのような家族が数え切れないほどいる」。この投稿には12万以上の「いいね」の反応があった。Rとしているのは、瑞麗市の規制に絡む投稿に対する当局の検閲を逃れるためだとみられている。
 
瑞麗市のある住民は、検査ですべて陰性反応だったにもかかわらず、21日間たっても仮設隔離施設から出られないと不満を漏らしていた。半年も隔離施設に閉じ込められ、残る半年は恐怖と絶望の中で生きているという住民もいる。その男性は過去1年に100回近く検査を受けたと言い、こう述べた。「いつまで耐えられるだろうか」【11月5日 WSJ】
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中国商務省が家庭や業者に対して必要品を確保しておくよう指示したところ、台湾進攻の戦闘準備かと大騒ぎになった話は広く報じられています。

それにしても、2歳児ですでに検査を100回、数カ月連続で隔離を強制、一部の飲食店は半年以上休業・・・日本では考えられない措置ですが、政治体制の違いでそれが可能になる中国です。

【「コロナの煉獄」 実現不可能な目標を追いかけているのでは?】
しかしながら、「そうは言っても、いつまで続けるのか?」という話になりますが、中国以外の国々が「ウィズ・コロナ」に舵を切っている以上、ワクチン・治療薬で画期的前進がない限り、今後も中国は外からの感染流入に脅かされ続けるということになります。どうするのか?

中国は世界から切り離されてもやっていけるという中華思想的な発想なのか・・・、あるいは中国製ワクチンの効果によほど自信がないのか・・・といった邪推も起きます。

****中国ゼロコロナ政策は「コロナの煉獄」 米、香港紙などが批判****
<感染者ゼロを掲げる中国当局だが、市民生活に大いなる犠牲が。デルタ株にゼロコロナ路線は無意味との指摘も>

新型コロナウイルスによるパンデミックの長期化に伴い、各国政府は「ウィズコロナ」の考え方に舵を切りつつある。ウイルスの完全な駆逐は非常に難しいとの前提に立ち、医療と経済のバランスを模索するアプローチだ。
一方で中国政府は、新型コロナを国内からほぼ完全に駆逐する「ゼロコロナ」戦略を堅持する。入国時の厳しい隔離措置により水際対策を万全のものとするほか、国内での感染者発生の際には厳格な対応を取っている。しかし、市民生活への影響は甚大だ。

米公共ラジオのNPRは、中国南西部の雲南省瑞里の町が昨年3回もロックダウン対象となったと報じている。ある女性は45日間の隔離生活を命じられ、その間十分な食糧の供給も受けられなかった。

別の夫婦も、不衛生で湯も出ないホテルの一室に突如隔離され、食事も不十分だったという。家には4歳と14歳の娘だけが取り残された。隔離費用は自己負担となり、ホテル代を賄えない人々は貨物用コンテナでの生活を強いられる。

都市部でも厳しい対応が続く。10月30日には、感染者1名が上海ディズニーランドを訪れていたことが判明した。翌夜、警察の部隊がパーク全体を突如として封鎖した。滞在中だった3万人以上の入園者が深夜まで帰宅を許されず、寒さのなか保健所職員による全数検査を待った。(中略)

「ゼロコロナ中止は代償伴う」 中国紙が社説で警告
私生活を大きく制限するゼロコロナ政策に関し、中国国内では肯定的な評価が出る一方、SNSを中心に疑問の声も上がっている。これに対し中国共産党の関連紙『環球時報』は編集長名の論説を掲載し、ゼロコロナを廃止すれば大きな代償が伴うと警告した。

11月4日付の同記事は、「ゼロコロナ政策の維持は高くつくが、廃止はさらに高い結果を招くことに」と題するものだ。記事は一部でゼロコロナへの批判が聞かれるとしたうえで、「私は彼らに反対する」「私が出会った人々のほとんどは、中国のダイナミックなゼロ感染者政策を支持している」と主張する。

記事はさらに、中国は医科学上のブレイクスルーを目指すべきだとも述べている。これにより、中国は「いかなるステージにおいても戦略的主導権を発揮できる」と社説は結んでいる。

厳しい国外の視線 「コロナの煉獄」
しかし、国外の目は厳しい。米CNNは環球時報の記事公開と日を同じくして、「中国のゼロ感染への執念が、いかに同国を『コロナの煉獄』に変えるか」と題する動画を公開した。

動画は、世界でも有数の高いワクチン接種率を誇る日本やオーストラリアなどがウィズコロナ路線を歩みつつあるとし、対比する形で中国路線の特殊性を論じている。ゼロコロナで成功を収めていたニュージーランド、オーストラリア、シンガポールなどでさえ、デルタ株以降は方針を転換する柔軟な姿勢をみせている。(中略)

香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙も、ゼロコロナ路線を転換すべきとの立場だ。同紙記事は「ウイルスが順応した今、中国ゼロコロナの目標は可能性ゼロ 複数の専門家が指摘」との見出しを掲げる。

2004年にSARS第2波の防止に尽力した感染症の専門家などが同紙に対し、SARSとは異なり新型コロナは人間社会に定着しているなどとの見解を明かしている。いま目指すべきはウイルスの完全排除ではなく、(中国製)ワクチンの抗体レベルの減少を把握するための大規模な検査だ、と専門家らは指摘する。

デルタ株の封じ込めは可能か
入念な感染防止対策にもかかわらず、局地的なアウトブレイクが中国の広い地域で繰り返している。ブルームバーグは、中国は過去5ヶ月ほど第4波に見舞われており、半数以上にあたる20の行政区で新規感染者が報告されていると報じている。日ごとの新規感染者数は全土で100人前後と大きくないものの、ゼロコロナへの道は険しい。

CNNは、「にもかかわらずウイルスは急速な拡がりをみせ、ゼロコロナの持続性に疑問を投げかけている」と述べる。中国では感染ピークの到来間隔が短くなり、ピーク期間も長期化する傾向にあることから、当局の感染対策自体の有効性にも疑問符がつくとの指摘だ。

ゼロコロナは、経済面でもリスクを伴う。独コメルツ銀行のアナリストらは米CNBCの取材に対し、中国がゼロコロナに固執するならば、すでに電力危機で弱体化している中国経済がさらに下振れしかねないと警告している。
市民生活に大きな犠牲を強いるゼロコロナ路線は果たして実を結ぶのか、動向が注目される。【11月10日 Newsweek】
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シリア  アサド政権の暴力と恐怖による支配 米軍の民間人殺害隠蔽も

2021-11-14 23:31:30 | 中東情勢
(2回拘束されたシリア人画家のナジャ・ブカイが自らの拘束体験の記憶を元に描いた拷問「つるし」【11月2日 朝日】)

【比較的落ち着いた戦況 トルコ、対クルド人勢力への4回目の再進攻を準備中とも】
シリアでは反体制派がトルコを後ろ盾として依然としてイドリブを拠点として支配地域を維持していますが、最近はほとんど政府軍との衝突のニュースを目にしません。後出のトルコ関連の記事を読むと、政府軍が圧力を強めてはいるようですが。

政府軍支配地域についても、首都ダマスカスでの下記のようなテロがニュースになるのも、逆に言えば、そういう事件がほとんど起きないほどにダマスカスなどは落ち着いているということでしょう。

****攻撃で27人死亡=首都標的、最近では異例―シリア****
シリアの首都ダマスカスで20日、アサド政権軍の兵士らが乗ったバスに対する爆弾攻撃があり、少なくとも14人が死亡した。一方、反体制派が政権側への抵抗を続ける北西部イドリブ県でも砲撃があり、子供を含む13人が死亡した。
 
シリアの国営メディアによると、ダマスカスでは、事前に仕掛けられた爆弾2発が爆発した。アサド政権は「テロ攻撃」とみなしている。

シリアでは2011年に始まった内戦が現在も続いているが、ダマスカスの情勢は比較的落ち着いており、こうした攻撃があるのは最近では異例だ。【10月20日 時事】 
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ただ、反体制派を支援するトルコが、最大の関心事である北部のクルド人勢力に対し、再び越境攻撃を準備しているとの報道も。

トルコは、国内クルド人反政府勢力がシリア北部のクルド人勢力と連携しているとして、2016年に続き2018年にも越境攻撃し、それまで米軍のIS追討作戦に協力していたクルド人勢力からアフリンを奪い、トルコが支援する反体制派に治めさせる形で実質的支配下に置いています。(アメリカは、ここでも協力者を見捨てる形になりました)
その後も、2019年に3回目の進攻を実行しています。

****トルコ、シリア侵攻作戦を準備か ロシアと水面下協議も****
クルド系掃討で政権浮揚狙う

トルコが隣国シリアへの越境軍事作戦の準備を進めているもようだ。政府は侵攻の用意を表明しており、シリアに影響力を持つロシアと水面下の交渉を行っているとの情報もある。テロ組織とみなすクルド系武装勢力を掃討し、低迷する政権支持率回復につなげる思惑がある。

「いつでも必要な時に越境作戦を行う。テロ組織との戦いから退却することはない」。トルコ国営放送によると、エルドアン大統領はローマを訪れていた1日、同行記者団にこう語った。

シリアと国境を接するトルコ南部では10月、シリア側からの越境ミサイル攻撃を受けてトルコ人警察官2人が死亡した。トルコはクルド系武装勢力によるものだとして、越境軍事作戦で国境の安全を確保する考えを示唆している。

トルコの議会は10月26日、シリアとイラクへの派兵期限を2年延長した。シリア人権監視団(英国)は9月末以降、550台以上の軍用車両がトルコからシリア国内に入ったほか、トルコが支援するシリア反体制派がクルド系勢力の支配地近くに移動していると指摘する。

ロイター通信は4日、「軍事作戦の実施に必要な準備はまもなく完成する」とするシリア反体制派スポークスマンの話を伝えた。

トルコは2016年以降、3度にわたってシリアへの越境軍事作戦を実施し、国境沿いの一部地域を占領下に置いている。

テロ組織とみなすシリアのクルド系武装勢力を国境沿いから排除し、「安全地帯」を設ける考えだ。4度目の軍事作戦を実施する場合、現在の占領地域を分断するユーフラテ川以東の国境地帯が目標になるとみられている。

このタイミングで再び軍事作戦の実施をほのめかす理由について、シンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドのオズギュル・ウンルヒサルジュクル氏は「経済の苦境から国民の関心をそらす狙いがある」とみる。20%近い高インフレで、エルドアン氏の支持率は複数の世論調査で軒並み過去最低水準に沈んでいる。

ウンルヒサルジュクル氏は、トルコが支援する反政府勢力がシリア北西部イドリブ県で守勢に立たされていることも背景にあると指摘する。

イドリブではおおむね停戦が維持されているが、アサド政権や後ろ盾になっているロシアの力が強く、トルコの勢力圏は徐々に後退している。こうした情勢を受けて「代わりの土地を取ってみせる必要がある」という。

中東のネットメディア「ミドルイースト・アイ」は、シリアでは対立する立場にあるトルコとロシアがひそかに協議していると報じた。クルド系勢力の拠点をトルコが占領するのをロシアが黙認する代わり、トルコがイドリブで主要幹線道路周辺から後退する案などが検討されているという。

もっとも、ロシアと同じくアサド政権を支援するイランや、クルド系勢力と協力関係にある米国などもトルコのシリア侵攻に反対する立場にある。

シンクタンクEDAMのアナリスト、シネ・オズカラシャヒン氏は、新たな軍事作戦が実施されるかは判断しがたいとした上で「実施されても規模は限定的だろう」とみる。【11月7日 日経】
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トルコは国境地帯からクルド人勢力を排除して緩衝地帯とする一方で、そこにトルコ国内に350万人以上いるとされるシリア難民の一部を帰還させるという計画も有しています。

【アサド政権 暴力と恐怖で支配する実態も】
上記のような話を除いては、軍事的には比較的安定しているとも言えるシリア情勢ですが、アサド政権は熾烈な暴力と恐怖によって支配を維持しているとも指摘されています。

****消える市民、秘密施設で死者数万人か アサド政権の拷問、指摘相次ぐ****
内戦下のシリアで、多くの市民が行方不明になっているとの指摘が相次いでいる。なかでもアサド政権の治安機関によって拘束されたケースが多いとされる。

国連の最新報告書は、混乱が始まった2011年以降、政権の秘密施設に収容された市民が拷問や性暴力にさらされ、死者数は数万人規模にのぼるとの見方を示している。
 
10年末に始まった中東の民主化運動「アラブの春」はチュニジア、エジプトの独裁政権を倒し、11年3月にはシリアに波及した。政治改革を求めて全国に広がったデモをアサド政権は徹底的に弾圧。反体制派や過激派組織が入り乱れる内戦に突入した後も、政権は治安機関をフル活用して、幅広い市民を対象に拘束を続けたとされる。
 
この問題に関して国連のシリア独立調査委員会は今年3月に報告書をまとめた。11年以降、アサド政権の収容施設での死者数は「控えめに見積もって数万人」とし、逮捕された人たちのうち数万人の居場所がわからないとしている。施設では少なくとも20種類の拷問が確認され、レイプを含めた性暴力も多数確認されているという。

■アサド政権は疑惑を全面否定
米財務省で経済制裁を管轄する外国資産管理室(OFAC)も今年7月、シリアのアサド政権による八つの拘束施設を制裁対象リストに加えた。同省の発表によれば、内戦下でアサド政権が収監した市民のうち少なくとも1万4千人が拷問の末に死亡した。

消息不明になったり、拘束されたりしたと伝えられる市民は13万人以上。その圧倒的多数はすでに死亡したか、家族との連絡が取れないまま拘束中と推定されるとしている。
 
国連調査委などは、アサド政権側が関与したと判断された拷問などについて、人道に対する罪、戦争犯罪にあたると警告を発してきた。
 
これに対し、アサド政権は「シリアに拷問を担当する部隊や政策はない」と全面的に疑惑を否定してきた。しかし、拷問の現場とされる収容施設は、外部の目が全く届かない状態にある。人権侵害の疑惑の全容は権威主義国家の壁に阻まれ、秘密に包まれている。【11月2日 朝日】
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拘束・拷問された者の証言からは恐怖政治の実態が浮かび上がります。

****シリア人権侵害、証言次々 17歳を2年半拘束、「自白」強要****
(中略)西部バニヤス出身のオマル・アルショグレ(26)がダマスカスの収容施設に連行されたのは2012年11月、17歳の時だったという。父親に連れられて反政権デモに参加して以来、何度か捕まったがいつも短期間で釈放された。だが、この時は事情が違った。

看守が交わす会話やほかの収容者の話から、オマルは自分が連行されたのが軍事情報部の収容施設、215支部だと知った。シリア国内には治安機関が管理する数十カ所の収容施設があるとされ、215支部は「死の支部」という異名をとる。国連人権理事会のシリア独立調査委員会は「最も死亡者数が多い施設」の一つに挙げている。

ペンチで生爪をはぐ。両手を縛って天井からつるす。タイヤの輪の中に体を押し込む。椅子を使って背中を無理やりのけぞらせる「ドイツ椅子」。通算2年半超に及ぶ拘束生活で、様々な拷問を受けたという。

オマルは数時間にわたって拷問を受けた後、一緒に拘束された17歳のいとこの女性ヌールについて聞かれた。尋問官には「ヌールは爆弾をつくって政権軍将校を殺した」という筋書きの「自白」を求められた。

「本当かうそかなんて関係ない。拷問に耐えられないから、尋問官が求める内容通りに証言した。しまいには『どんな答えがほしいのか』と聞いていた」

地下の雑居房は血まみれの男たちで満杯だった。開いたままの傷口にうじ虫がたかっていたのを覚えている。座る場所がないので、最初の4日間は立ち続けた。眠くなって倒れると、傷にぶつかって怒るほかの収容者から殴られた。ぶつかっても文句を言ってこないと思ったら、すでに息を引き取っている人だった。

拷問による傷の治療を受けられず、命を落とす収容者たち。立ちながら睡眠を取らねばならないほど満杯の房。最小限の食事。不衛生な環境で蔓延(まんえん)する皮膚病。国連調査委は、元収容者への聞き取りからまとめた報告書に、収容施設の壮絶な様子を描写している。

オマルが215支部に入って3カ月後、ともに収容されたいとこ、ラシッドが死んだ。拷問による腹部の痛みと飢えを訴えていた。遺体が別室に移されると、オマルは看守からペンを渡され、ラシッドの額に数字を書くように命じられた。この時から傷だらけの遺体に数字を書くことが、日々の仕事になった。

「こわいのは死ぬことじゃない。どんな死に方をするかだった」

 ■軍警察の遺体写真、5万枚流出
多くの市民がアサド政権の治安機関に捕まって姿を消し、拷問を受けて死んでいる――。この話が真実味を帯びたきっかけは、13年にシリアを逃れた軍警察の元カメラマンの男性(仮名「シーザー」)が仲間と秘密裏に持ち出した、5万枚以上に及ぶ遺体の写真だった。(中略)

 ■アサド大統領「拷問などない」 国連委「10年で数万人不明」
(中略)国連調査委が今年3月にまとめた最新報告書によると、この10年で政権に捕まり行方不明になっている人は数万人にのぼる。政権の施設で死んだ収容者の人数は不明としつつ、「控えめに見積もって数万人が死んだとみられる」とした。

こうした疑惑を大統領のアサド(56)は否定してきた。15年1月、米外交専門誌の取材でシーザーの写真についてこう答えた。「何も具体的なものはない。誰かからもらった写真を持ってきて、『これは拷問だ』とも言える。誰が写真を撮ったのか。彼(シーザー)のことを誰も知らない。すべては証拠のない疑惑にすぎない」

19年11月にロシアメディアのインタビューでドイツでの裁判について尋ねられたアサドはこう答えた。「シリアに拷問の政策などない。なぜ拷問など必要なのか。情報が必要だから? 我々は全ての情報を持っている」

13年から5年間にわたって拘束され、拷問を経験したという元収容者のムタズ・ビスキ(56)は、政権が拷問を通じて社会にメッセージを発していると考える。「釈放されれば、収容者は施設での残虐な実態を周囲に語る。治安機関はそれを織り込んでいる。『政権に刃向かえばとんでもない目に遭うぞ』と思わせることができるから」

拘束と拷問の恐怖は、シリア難民に帰還をためらわせる要因となっている。19年の国連難民高等弁務官事務所の調査では、周辺国で暮らすシリア難民のうち、「1年以内には帰国しない」と答えた人の最大の懸念は「治安」。「生計の手段」などとともに「拘束の恐怖」も挙げられている。

トルコ・イスタンブールで暮らすリハム・ムハンマド(27)もその一人だ。16年末まで1年近く拘束された記憶を振り返り、「拷問の叫び声を忘れられない。戻れば収監される可能性があるうちは絶対にシリアに帰らない」と語った。=敬称略【11月8日 朝日】
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拷問の恐怖と飢えから逃れるために治安機関への協力を約束して釈放された者は「スパイ」として活動することになります。アサド政権は治安機関が政権を支えてきたという「スパイ社会」の実態が指摘されています。
(“アサド政権支える、監視社会 シリア、密告し合う市民 尋問「スパイになれ」”【11月8日 朝日】)

【米軍の民間人殺害隠蔽】
一方で、民主主義のリーダーを自任するアメリカのシリアにおける軍事作戦が人道的だったかと言えば、そういうことでもありません。

****米軍、民間人犠牲の空爆隠蔽か=シリアの対テロ戦で―NY紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は13日、米軍が2019年3月にシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)を掃討中、空爆で女性や子供を含む80人を殺害したにもかかわらず、その事実を隠蔽(いんぺい)していたと報じた。米軍内部から戦争犯罪に当たる可能性を指摘する声が上がったが、徹底した調査は行われなかったという。
 
空爆があったのは、シリア東部バグズ付近。米無人機が抵抗を続けるISの残党を監視していたところ、川岸に身を寄せ合っていた女性や子供らの一団をF15戦闘機が爆撃。砂煙が収まり、逃げ惑う人々の姿があらわになると、さらに2度にわたって爆弾を投下した。
 
米特殊作戦部隊による航空支援の要請に応じた爆撃とされるが、米軍は空爆の事実を公に認めてこなかった。国防総省監察官が独立調査を開始したが、報告書は遅れに遅れ、爆撃に言及した部分は削除されたという。
 
ほかの報告書も処理が先延ばしにされたり、機密指定を受けたりした。空爆現場は米軍主体の有志連合によって整地され、最上層部はこの空爆の事実を知らされなかったとみられる。
 
米中央軍は同紙に空爆で計80人が死亡したと認めた。ただ、その内訳はIS戦闘員16人と民間人4人で、残る60人については民間人かどうか不明と説明。自衛のための空爆で、「われわれ独自の証拠に基づいて調査が行われた」と主張した。【11月14日 時事】 
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戦闘に誤爆・巻き添え被害はつきもの・・・ではあるものの、隠蔽というのは人道に反します。
ただ、それをその時点で明らかにすれば世論の批判で戦闘遂行が困難になり、結局広範な暴力によって成り立つアサド政権や、暴力を隠そうともしないISが戦いに勝利することになるという現実も。
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中国  急速に進む高齢化で深刻化する介護と年金

2021-11-13 22:55:07 | 中国
(【10月31日 朝日】)

【伝統的な「家族による介護」】
日本のゴミ捨て場からよく現金が見つかることが中国の人には不思議に思えるようで(日本人の私も不思議ですが)、その背景には現金主義に加えて、日本の高齢化の進展、中国とは異なる親子関係・介護のあり方がある・・・とのユニークな推論。

****日本のゴミ捨て場からよく現金が見つかる、日本ならではの理由=中国メディア****
中国のポータルサイト・網易に10日、「どうして日本のゴミ捨て場にはたくさんの現金が落ちているのか」とする記事が掲載された。
 
記事は、現在中国では現金が携帯電話内の「数字」へと変化し、現金で決済するシーンが少なくなり、日常生活の大部分においてバーコード決済が用いられるようになったと紹介。一方で、外国では中国の現状とは異なりまだまだ「現金主義」の国があるとし、その最たる例が日本だと伝えた。
 
また、中国ではモバイル決済が普及する以前より大量の現金を手元に置いておくことは少なく、多くの人が銀行に預けて利息を得ようとすると指摘。何よりも多額の現金が家にあれば不安だとした上で、日本ではしばしばゴミ捨て場に大金の現金が捨てられているのが発見されるという、中国ではあまり考えられない事象が起きていると紹介し、その理由について考察している。
 
まず、ゴミ捨て場で見つかる大金の多くは、失くしたものではなく「その存在を知らない人が、ゴミだと思って捨てた」ものであると説明。このような現金は大方高齢者が家庭内で貯金していたもので、高齢者が亡くなった後で家の整理をした子どもが現金だと知らずに袋ごと捨ててしまうのだとした。

その背景には「日本の家庭は中国と大きく異なり、年老いた親の面倒を子どもが見るということが少なく、家を出ていった子どもがしばしば実家に親の様子を見に行くことがあまりない」という事情があるのだと解説した。
 
さらに、近年では深刻な高齢化が進んでおり、身寄りがなく一人で生活している高齢者が多いことも要因の一つであると指摘。日本の若い世代は単に親に薄情、ということではなく、仕事が忙しいために年長者の世話をみきれないという側面もあるとした。

そして、高齢者はなんとか自活していけるようにとお金を銀行に預けることなく手元に置いておくことを選ぶのだと伝えている。(後略)【11月13日 Searchina】
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「なるほど・・・・そういう視点があったか」と面白い記事ですが、ゴミ捨て場で現金が見つかる理由かどうかは別として、日本と中国で介護のあり方が異なることは常に指摘されるところです。

****中国、介護の支えは「家族の絆」****
中国は、36年間の「一人っ子政策」の影響で、少子高齢化が急速に進んでいます。経済の発展に伴い、昔のような家族構成が変わり、核家族や一人暮しの高齢者が増えてきています。

そのため、伝統であった家族による介護が段々と物理的に不可能となってきました。介護施設に対してのイメージも変わりつつあり、入居することに徐々に抵抗もなくなってきました。

しかし、家族間の関係密度が日本より強く、家族間の助け合いや家族に依存するなど、いわば自助優先社会はそれほど衰えていないです。(後略)【11月7日 王 青氏 日中福祉プランニング】
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【「家族による介護」の限界 急がれる介護制度の確立 日本の介護事業にもビジネスチャンス】
高齢化の急速な進行、介護問題の顕在化が、日本同様、中国の大きな社会問題となりつつあるのは、多くの者が指摘するところで、一人っ子政策の影響もあって、伝統的な「家族による介護」の限界も表面化しています。

中国政府もことの重大さを認識し、介護事業に力をいれるようになっています。
それに伴い、この分野では一歩先を行く日本の介護事業にも大きなビジネスチャンスがあると言えますが、現実には高い壁もあるようです。

****老いる中国、挑む日本式介護 保険や人材の壁、進出に苦戦も****
高齢化が急速に進む中国で65歳以上の人口が1・9億人となり、日本の総人口を超えた。介護需要はますます高まる見通しだが、課題は未整備の介護保険と人材不足。一足先に日本でノウハウを蓄積した日系企業も進出するが、苦戦している。

9月上旬の上海市は蒸し暑い。約1カ月ぶりに入浴した兪鳳娟さん(73)は「さっぱりするからお風呂は好き。力がみなぎるような気持ちになる」と笑った。(中略)
 
サービスを提供するのは、日本で介護事業を展開するアースサポート(東京都渋谷区)と、台湾企業が合弁で立ち上げた「アースワン(愛志旺)」だ。
 
中国では、自宅に浴槽がない家が多く、入浴介護は一般的ではなかった。同社のサービスは、入浴介護が発達した日本ならではの気配りやノウハウの蓄積が詰まっている。(中略)
 
夫の胡紹麟さん(74)は「介護の効果もあって、いまは2時間、ソファに座れるようになった。以前に比べてだいぶ良くなった」と喜ぶ。

 ■65歳以上1.9億人、政府も対策急ぐ
5月に発表された中国の人口調査で、総人口は14億人で頭打ちになる一方、65歳以上の人口が1・9億人に達し、高齢化が鮮明になった。
 
国連の人口推計によると、30年代半ばには3億人に達し、50年には3億6千万人まで増える見通しだ。
 
中国政府も事態を重く見ており、習近平(シーチンピン)国家主席は今月13日、日本の敬老の日に当たる重陽節に合わせて重要指示を発表。党や政府の各層に対し、「高齢者関連の仕事を重視し、社会保障制度などの改善を加速すべきだ」と呼びかけた。
 
中国には伝統的に「家族が高齢者の世話をするのが当然」という考えが根強く、社会保障の一環としての介護サービス制度は未発達だった。
 
だが、2010年代以降には「一人っ子世代」の親が高齢になり、子ども1人で両親を支えるケースが急増。今後は、現役世代の負担が重くなることが予想され、介護サービスの需要は高まっている。
 
中国社会科学院は、中国の介護関連市場が30年には13兆元(約230兆円)にまで膨れあがるとみる。
 
高齢化で先を行く日本の企業はこうした中国の事情に着目。10年ごろから、本格的に中国に進出した。
日本貿易振興機構(JETRO)のまとめによると、中国で施設の運営や支援に携わる日本の企業は、少なくとも10社にのぼる。車いすやベッドなど介護用品市場に参入する企業も多い。
 
欧米企業も進出するが、中国では日本式介護のノウハウに期待が高い。アースワンの彭雨・総経理は「介護施設を大規模に開発して利用者が移り住む欧米方式より、地域に根付いた日本のきめ細かいサービスの方が中国には合っている」と指摘する。
 
ただ、苦戦も強いられている。中国の介護事情に詳しい日本の関係者は「最近も数社が撤退した。赤字でも我慢している会社は多い」と話す。
 
日本の介護サービス最大手のニチイ学館も13年に中国に進出した。現地企業と組んで老人ホームや訪問介護などを運営したが、事業を徐々に縮小。いまは介護施設の運営支援などのコンサルティングや介護人材育成の事業に集中している。
 
坂本健執行役員(中国事業担当)は「中国で介護を必要とする人は確かに多いが、費用を自己負担できるのは富裕層に限られる。介護の価値を知ってもらい、顧客層を広げるのが難しく苦労も多い」と話す。

 ■「成熟にあと10年、日本がリードを」
中国では、全国的な介護保険が整備されていないため、自己負担が重いことが市場拡大の壁となっている。
 
中国保険業協会と社会科学院の調査によると、要介護の程度が比較的高い高齢者は、介護サービスの利用額は平均月2千~4500元(約3万5千~8万円)ほど。半数以上の人が、年金などの可処分所得の8~9割超を費やす額にあたる。
 
政府は25年までに全国で介護保険を導入する方針。16年から試験的な運用を始めたが、上海市や天津市、重慶市など49地域にとどまる。
 
財政事情が苦しい地域では、1回のサービスで数十元ほどのわずかな補助しかない場合もあり、自己負担が原則1~3割で済む日本と比べ、気軽にサービスを利用できない。
 
介護人材の確保も急務だ。中国で介護を必要とする高齢者は約4千万人。これに対し、介護の資格を持つ人材はわずか30万人で、資格保有者1人当たり133人の計算になる。人材不足が深刻な日本でも、資格保有者1人当たりに対する高齢者は約4人。中国を取り巻く環境は厳しい。
 
中国政府は、訓練施設を増やし、22年までに介護従事者を200万人以上とする計画を策定。また、日本の「特定技能」などの制度を利用して日本式介護を学び、帰国後に国内の介護基盤を支える人材に育てる構想もある。
 
日中の介護制度に詳しい日本女子大の沈潔教授は「中国の介護制度や運用実態は、都市部と農村とで大きく異なる。成熟するには、あと10年はかかるだろう」と話す。「日本には、いち早く高齢化を迎え、苦労したからこそ得られた経験がある。高齢化するアジアをリードする役割を果たすべきだ」と指摘する。

 ■(point of view 記者から)実情に合えばチャンスに
(中略)日中間で共通する課題は多く、高齢化で30年先を行く日本の事例を、中国は熱心に研究している。
 
習近平指導部は「共同富裕」を掲げ、格差是正に本格的に取り組む構えだ。ただ、現状は住む地域によって、老後の保障に格差があることは否定できない。介護政策でしくじれば、高齢者だけでなく、現役世代の不満にもつながりかねないだけに、本腰を入れざるをえない面もあるようだ。
 
日系企業が中国に本格進出して約10年。今後はいかに中国の実情に合わせた形で提案できるかが問われるのではないだろうか。それができれば、巨大な市場は、日本の介護ビジネスにとってさらに大きなチャンスとなる。【10月31日 朝日】 
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中国の介護保険制度については、以下のようにも。

****新たに14都市で介護保険開始/王青氏****
新たに14都市で介護保険開始

中国政府機関の「国家医療保障局」と「財政部」は9月、「長期介護保険」の試験都市として新たに14都市を指定すると公表した。2016年に15都市を指定して以来、4年ぶりとなる。

また、介護保険の適用範囲や利用対象者の認定基準、財源確保策などについても見直した。

介護保険の財源は、これまで医療保険から一部を切り分けて確保されていたが、今後は地域の状況に応じて、医療保険以外からの財源を確保するよう要請した。将来的には介護保険の独立運用を目指している。

4年前は上海、蘇州、成都、重慶、広州など経済発展している地域が指定され、今回は、貴州省、甘粛省、内モンゴル、山西省などの内陸地域に拡大された。

前回の規定と異なる点は大きく3つ。
(1)介護保険制度を段階的に独立させる (2)認定システムをより正確・公平なものにする (3)給付対象は介護サービスと一部の医療サービスに限定。これまでの一部の都市で実施されていた現金給付を禁止。

今回の方策修正では、財源確保の拡大と、在宅介護への給付が優先されることとなった。
中国では経済格差が大きいため、日本のように全国統一の制度を整備できないのが現状だ。中央政府は方針を示し、各自治体が地域の実態や財力に合わせてそれを具現化し、独自の制度を創設する。4年前に指定された15都市の介護保険も地域状況を踏まえて整備されている。(中略)

◆ ◆ ◆
中国は現在、60歳以上の高齢者が2億5400万人、要介護高齢者人口が4000万人という深刻な高齢社会を迎えている。国はこの問題を看過できない。かといって、日本のようにサービスを手厚くすることもできない。高齢者の絶対数が多い、介護人材の専門性の低さ、財政逼迫など、課題が山積している。

「一歩ずつ状況を見ながら調整し、細く長く持続させる」という政府関係者らの見解は、制約が多い中での政策実現の難しさを物語っている。【2020年11月3日 王 青氏 高齢者住宅新聞Online】
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【日本同様に年金の財源問題も深刻】
介護保険制度はまだまだ“これから”という段階ですが、高齢化の方はまったなしで進行しています。また、並行して少子化も進んでいます。
当然、高齢化加速に中国政府は危機感を強めています。

****中国、3人目の出産も容認 少子高齢化加速に危機感****
中国共産党は31日の政治局会議で、1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。2020年の出生数は1949年の中国建国後最大の落ち込みとなった。中国にとって巨大な人口は国際的な影響力の源泉だ。少子高齢化による経済成長鈍化などへの危機感は強く、産児制限の緩和に動く。

国営新華社が報じた。中国は1980年ごろから夫婦に1人の出産しか認めない一人っ子政策を始めた。強制的な出産抑制で出生率は下がり、16年にすべての夫婦に2人目の出産を認めたが、産児制限をさらに緩める。

20年の国勢調査によると、14億人超の人口はなお増加したが、減少への転換は間近だ。中国共産党系メディアの環球時報は人口統計学者の見方として「22年にも総人口は減少に転じる」と伝えた。従来の見通しより5年ほど前倒しになる可能性がある。

少子高齢化は急速に進んでいる。65歳以上の高齢者は20年までの10年間で6割増えた。人口に占める割合も13.5%に達し、国際基準で同14%超と定める「高齢社会」に間もなく突入する。

対照的に、働き手や子どもの数は減少に歯止めがかかっていない。生産年齢人口は13年のピークから4%落ち込んだ。1人の高齢者を支える現役世代の数は減り続ける。

社会保障をめぐる財政へのしわ寄せも拡大している。年金や医療、労災、失業、出産保険の収支を管理する社会保険基金の21年予算は、25.5%を財政支出で補う。15年から3ポイント上昇した。

20年までに携帯電話の出荷台数は4年連続、新車は3年連続で減った。若い世代が減り、習近平(シー・ジンピン)指導部が重視する内需拡大にも影を落とす。

中国人民銀行(中央銀行)は4月のワーキングペーパーで「高齢化の危機を技術進歩や教育水準の向上で補うことは難しい」と結論づけた。人口問題への早急な対応を求めていた。

働き手を確保するため、政治局会議は「法定退職年齢の引き上げを着実に進める」とも強調した。年金支給開始年齢の引き上げや若年雇用も絡み、庶民の反発も強い。年金など社会保障の充実とともに複雑な問題だ。(後略)【5月31日 日経】
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高齢者対策としては、介護と並んで年金も早急な対応を必要としていますが、財源問題で苦慮するのは日本と同じです。

****中国「定年引き上げ」の大問題 年金受給増で財政圧迫、老若ともに怒りの声 ****
国民の急速な高齢化が進む中国は、公的年金の受給資格を得る定年退職年齢を60歳から引き上げようとしている。こうした方針への国民の不満が広がる中で、共産党の改革実行能力が試される。(中略)

老若ともに怒りの声
平均寿命が延びる中で、事務職の男性60歳、女性55歳という中国の定年は40年余り変わっていない。ドイツの保険会社アリアンツが70カ国・地域を対象にまとめた分析によると、定年の世界平均は男性62.7歳、女性61.3歳。
 
共産党の発表後、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」には数十万人が怒りのコメントを投稿。最も多かったのが、年金の受け取り開始が遅れそうだとの定年に最も近い人々からの不満だった。若年層からは年長者の働き手が増えると就業機会が減るとの憤りが寄せられた。
 
それでも中国は計画を進める方針だ。(中略)
専門家らは定年引き上げが年金制度の持続可能性を確保する上で極めて重要だと指摘する。

中国の政府系シンクタンク、中国社会科学院(CASS)が昨年公表した推計によると、2019年末に4兆3000億元(約68兆円)あった年金積立金は27年の7兆元をピークに急減し、35年に底をつく。
 
定年引き上げは少子化による生産年齢人口の減少の速度を遅らせ、経済成長の維持にも寄与する。中国の60歳以上の人口は昨年末時点で2億5400万人だったが、50年には4億8700万人に達すると当局は予測する。
 
反発で棚上げの過去
中国では1960年代前半にべビーブームが起こり、この時に生まれた2億人以上が今後10年以内に60歳に達する見通しだ。「このため、当局が来年から始まる5カ年計画で定年引き上げを実施することは必然的な趨勢(すうせい)となる」と米カリフォルニア大学アーバイン校の人口統計学者、ワン・フェン教授は指摘する。
 
ワン教授は「次の5年間で大量の人口が60歳になる。いま手を打たなければ、国は巨額の財政負担を強いられることになる」と説明した。(中略)

実は12年にも年金給付開始年齢引き上げを推進する動きがあったが、国民からの強い反発を受けて棚上げになった経緯がある。中国人力資源・社会保障省は16~20年の現行の第13次5カ年計画に定年引き上げ実施の奨励を盛り込んだが、実際には実施されなかった。(後略)【2020年12月10日 ブルームバーグ SankeiBiz】
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アフガニスタン  増大する飢餓の脅威 身売り・強制結婚も 米に替わってテロの標的となる中国

2021-11-12 23:21:38 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタン北西部バードギース州に住むアブドゥル・マリクさん(写真左)一家は8人家族。今年8月にイスラム主義勢力タリバンが同国を制圧してから生活が困窮し、9歳の娘パルワナさん(同右)を売らざるを得ない状況に陥った。娘の買い手はコルバン(同中央)という男で、金額は20万アフガニ(約30万円)。【11月6日 日刊ゲンダイ】)

【干ばつ、タリバン統治の混乱で飢餓の危機が深刻化】
イスラム主義武装勢力タリバンが支配するアフガニスタン、そのアフガニスタンでの「紛争や気候変動、新型コロナウイルス感染症によって飢餓に直面する人の数が増えている」という生活困窮・混乱が改めて注目されています。

****4500万人が飢餓の危機に 国連****
国連の世界食糧計画は8日、世界43か国で飢餓の危機に直面している人が、今年初めの4200万人から4500万人に拡大したと発表した。

WFPによると、アフガニスタンについて食料安全保障面から点検した結果、300万人が飢餓に直面していることが判明。このため全体の人数が押し上げられた。

デービッド・ビーズリー事務局長は「紛争や気候変動、新型コロナウイルス感染症によって飢餓に直面する人の数が増えている」と説明した。

WFPはアフガンで約2300万人を対象に支援を行っている。ビーズリー氏は最近、アフガンを訪問していた。

同氏はまた「燃料価格や食料価格が高騰しているのに加え、肥料の価格も上がっている。こうしたことすべてがアフガニスタンで現在起きているような新たな危機や、イエメンやシリアなどでの長期にわたる危機的状況を招いている」と述べた。(後略)【11月8日 AFP】
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気候変動によるものか、干ばつの被害が深刻になっており、タリバン以上の脅威にもなっています。

****タリバンの攻撃より危機的 干ばつ広がるアフガニスタン****
アフガニスタン辺境のバーラーモルガーブでは、あちこちの畑がからからに乾燥し、干ばつが広がっている。この地域で恐れられているのは、電撃的な攻勢で政権を掌握したイスラム主義組織タリバンよりも気候変動だ。

「最後に雨が降ったのは去年です。それも大した量ではありませんでした」。同地域にあるハジラシドカーン村の首長、ムラー・ファテフ氏は言う。
 
西部バドギス州のこの一角では、緩やかな丘陵がどこまでも広がり、点在する泥れんがの家で暮らす人々は必死に命をつないでいる。仏援助団体「ACTED」によると、州の人口60万人のうち90%は畜産か農業で生計を立てている。

「羊を売って食料を買いました。それ以外の羊は水不足で死んでしまいました」とファテフ氏は語った。前回、干ばつに見舞われた2018年には羊を300頭飼っていたが、今回の日照りで20頭にまで減ったという。
 
村に水が必要になると、ファテフ氏は、少年や大人の男性にロバで丸一日かけて水をくみに行かせる。今年は、この丘陵地帯で若い羊飼い2人が水不足から命を落とした。
 
水不足は、家族の絆にも打撃を与えている。
学校も診療所もないハジラシドカーン村では、今年に入ってから、食べ物を買う金銭を工面するために20世帯が幼い娘を売って結婚させた。
 
7人の子どもを持つビビ・イェレさんは、金銭と引き換えに15歳の娘を結婚させた。じきに7歳の娘も同じ運命をたどるだろう。干ばつが続けば、今は2歳と5歳の娘たちも、後に続くことになるとイェレさんは言う。
 
ドイツの環境シンクタンク、ジャーマンウオッチの調査では、二酸化炭素などの温室効果ガス排出によって気候変動の影響を最も受けている国のランキングでアフガニスタンは6位になっている。
 
世界銀行のデータによると、アフガニスタンでは国民1人当たりの年間CO2排出量は0.2トン。同じデータで米国の平均は15トンだ。
 
国連機関は10月25日、アフガニスタンではこの冬、2200万人以上が「深刻な食糧不足」に陥るおそれがあると発表。情勢が不安定な同国は、世界でも最悪レベルの人道的な危機に直面すると警告した。 【11月4日 AFP】
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もともと存在する絶対的貧困、それに加えての上記のような天候不順による被害、そこに更にタリバン政権の機能不全と外国政府からの援助停止が・・・

****アフガニスタンの小児病院で25人が餓死、医師は無給*****
<タリバン政権の機能不全と外国政府からの援助停止が、飢饉寸前のこの国を「破滅」に追い込もうとしている>

アフガニスタンの首都カブールの中核的な小児病院で亡くなる子どもの数は、この国で急速に進行する栄養失調の深刻さを示している。AP通信が報じた。

国連の世界食糧計画(WFP)は11月8日、ほとんど飢饉に近い食糧不足に苦しむアフガニスタン国民の数は870万人に達し、2021年初頭の数字と比較しても300万人増加していると報告した。この週末にアフガニスタンを訪れたWFPのデイビッド・ビーズリー事務局長は、「破滅的な状況だ」と述べた。
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飢饉寸前の食糧不足によって、カブールのインディラ・ガンディー小児病院に運ばれる栄養失調の子どもの数は増える一方だ。

地方の医療センターでも、世界各国からの資金援助が途絶えた結果、限定的な医療サービスしか提供できず、病院そのものが閉鎖を迫られるケースも出てきている。栄養失調に苦しむ子どもを抱える家族が、支援を受けるのも困難になる。

医師のサラフディン・サラーはAP通信の取材に対し、この2カ月間に病院に運ばれてきた子どものうち、少なくとも25人が死亡したと証言した。「病院の職員の大半は、医師や看護師から清掃スタッフに至るまで、3カ月は給料を受け取っていない」

8月にイスラム主義組織タリバンが全土の実権を掌握した後、アメリカをはじめとする西側諸国がアフガニスタンへの財政援助を打ち切ったため、同国の経済状況は急激に悪化している。アフガニスタン政府の外貨準備も、国外に預けられているためタリバンはアクセスできない。多くの職員は給与ももらえず無給で働いている。(中略)

WFPは8日、飢饉の瀬戸際にある人々の数が、世界43カ国で4500万人に達したと発表した。この数字は直近の調査時の4200万人と比べて上昇している。この増加分の大半はアフガニスタンだ。

アフガニスタンの全人口の60%にあたる2400万人が、飢餓に苦しんでいる。さらに、5歳未満の子ども約320万人が年末までに急性の栄養失調に陥るとの予測もある。

2021年に入ってアフガニスタンで発生した深刻な干ばつも、事態を悪化させた。この国では食料を買う金すらない人が増加している。

厳しい冬が近づく中、WFPはアフガニスタンの人々に食料支援を行うため、物資の供給を急いでいるが、援助活動の費用をまかなうにも資金が必要だ。【11月9日 Newsweek】
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【窮地から逃れるための身売り・強制結婚も タリバン統治が助長】
上記のような苦境から逃れるための手段が、(単なる“時間稼ぎ”に過ぎませんが)、上記記事のもある身売りや強制結婚です。

****タリバンによる強制婚、防ぐ手段は知人との結婚****
イスラム主義組織タリバンが8月にアフガニスタンの権力を掌握した1週間後、アフガン新政府の役人になったあるビジネスマンがアイシャさんの家を訪れた。彼はアイシャさんの家族に対し、アイシャさんと彼女の4人の姉妹を引き渡すよう要求した。彼女の兄弟の借金25万ドル(約2850万円)を返済する代わりに、というのがその名目だった。
 
アイシャさんとその姉妹は、この男と彼の息子たちの妻になると伝えられた。アイシャさんによると、この男は彼女の家族に対し「金がないなら、姉妹で払えばいい」と言ったという。アイシャさんの要望により、彼女の家族の姓は明らかにできない。
 
大学でジャーナリズムを学んでいたアイシャさんは現在、支援団体関係者が用意してくれた安全な場所に家族とともに身を隠している。彼女は「タリバンのメンバーとは絶対に結婚しない。捕まれば私たちの未来はなくなる」と語った。

タリバンの指導者らは、彼らがイスラムの適切な枠組みと考える範囲内で、女性の権利を尊重すると主張している。アフガンのタリバン政権が女性の自由を大幅に制限するような法改定に正式に踏み切っていないのは、国際社会の支援と諸外国政府からの承認を得たいためだ。
 
しかし、女性たちや人権団体によれば、実際には女性の権利は急速に侵害されている。タリバンの個々のメンバーに対して、タリバン中枢部の統制力が限られていることがその一因だ。個々のメンバーは、イスラム教徒の適切な行動や伝統的規範と自らみなすものに基づいた見方を押し付ける。
 
女性たちによれば、タリバンのメンバーとの強制「結婚」はしばしば、誘拐と強姦を意味する。そしてそれは、ここ何カ月か、頻繁に起きていることだ。アイシャさんの母親は、娘たちをあのビジネスマンらの妻として差し出すことは、娘たちを「奴隷」として送り出すのと変わりないと語った。

内務省のカリ・サイード・コスティ報道担当者は、女性を自らの意思に反して結婚させることは禁じられていると指摘し、イスラム法によると、脅迫の下でなされたそのような結婚はいかなるものも無効とみなされると述べた。「イスラムでは認められない。そのようなことをすれば、姦通罪に問われる」(後略)【11月4日 WSJ】
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しかし、「女子向けの中等学校の閉鎖や女性の大学での勉学に関する新たな厳しい規制により、タリバンは強制結婚のリスクを著しく高めている」(国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の女性の権利担当アソシエートディレクターのヘザー・バー氏)というのが実情です。

こうしたアフガニスタンから逃れようととしても、そこには危険な罠が。

****アフガニスタンで女性4人殺害される 渡航名目で誘い出されたか****
アフガニスタンを統治するイスラム主義組織タリバンの報道官は6日、北部マザリシャリフで女性4人が殺害されたと発表した。地元の情報筋によると、うち1人は人権活動家だった。
 
タリバン内務省の報道官によると、4人の遺体はマザリシャリフの住宅で見つかり、容疑者2人が拘束された。
 
地元の情報筋はAFPの取材に対し、被害者の一人は女性人権活動家で、大学講師のフロザン・サフィさんだと語った。
 
情報筋によると、女性らは避難便への搭乗を誘う電話を受け、迎えの車に乗り込んだとみられる。
 
匿名を条件に取材に応じた国際機関の女性職員はサフィさんについて、「市内でよく知られた存在だった」と話した。
この女性職員も3週間前、外国へ安全に渡航できるよう手引きすると装った何者かからの電話を受けた。
 
疑わしいと思った女性は発信者を着信拒否に設定したが、今も恐怖感にさいなまれているという。4人が殺害されたと聞いて強い衝撃を受けたと語った。
 
職員は「すぐさま怖くなった」と話し、「最近は精神状態が不安定で、誰かが私を拉致して撃ち殺すのでは、という恐怖に常にさらされている」と不安を口にした。
 
タリバンは米国の支援を受けたアフガニスタン政府との20年に及ぶ対立の末、今年8月に実権を掌握。旧タリバン政権では公の場での女性の行動が厳しく制限されたこともあり、多くの人権活動家は国外に避難した。

残った女性の一部は、首都カブールで女性の権利の尊重を訴えるデモを行っているほか、女子生徒が高校に出席できるよう求める抗議活動を行っている。 【11月7日 AFP】
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【踊る国際会議 目的は自国影響力拡大】
関係国はアフガニスタン情勢に関する協議を重ねていますが、上記のような苦境にある人々を救済するというよりは、いかにして自国の影響力を強めるかが主眼・・・とも思われます。まあ、それが現実政治です。

****アフガン周辺国会議、インドが主催 ロシアやイランに続く動き****
インド政府は10日、首都ニューデリーにアフガニスタン周辺国の外交・安全保障担当幹部を招き、イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンの情勢を議論する会議を開いた。ロシアやイラン、中央アジア5カ国が出席し、中国とパキスタンは参加を見送った。
 
地域への影響力拡大を狙うロシアやイラン、パキスタンなど各国がアフガニスタンについての会議を主催するなか、インドはいずれにも招かれていない。自ら会議を開くことで、地域大国としてアフガニスタンに関与していく姿勢を国際社会に示す狙いとみられる。
 
会議では、各国が懸念する治安情勢やタリバンによる統治体制、難民や食糧危機といった人道上の問題が話し合われた模様だ。インドのドバル国家安全保障担当補佐官は「議論がアフガニスタン国民への支援や、我々の集団安全保障の強化につながるだろう」と述べた。
 
タジキスタンは、アフガニスタンとの国境で麻薬の密売やテロのリスクが増しているとの認識を示した。
 
インドメディアによると、中国は日程の調整ができなかったとして欠席した。
 
パキスタンは、対立するインドを念頭に「問題を引き起こす国は平和への貢献者たりえない」(ユスフ国家安全保障担当首相補佐官)として、参加を拒否した。インドのアフガニスタンへの影響力拡大を阻止したい考えがある。
 
一方、インドはタリバンを招待しなかった。
これまでインドは、パキスタンが支援しているとされるタリバンとの交渉を拒否してきた。だが、タリバンが復権し、米国を中心に国際社会が対話を始めており、方針を転換せざるを得なくなった。
 
ただ、ロシアやイランがアフガニスタンの首都カブールに大使館を残しているのに対し、インドは撤退。ウズベキスタンやトルクメニスタンがタリバンと相互の連結性強化について協議を重ねているなか、インドは資金支援の表明もせず、慎重な姿勢を続けている。【11月10日 朝日】
*******************

インド主催の会議には出席しなかったパキスタンは独自に会議を。
こちらには、中国もタリバンも出席しています。

****パキスタンで米中ロ、タリバンと会談=アフガンで存在感誇示****
イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立し、混乱が続くアフガニスタンをめぐり、米国、中国、ロシア、パキスタンの代表が11日、パキスタンの首都イスラマバードでタリバン幹部と会談した。人道支援問題などが取り上げられた一方、アフガン駐留米軍撤退を受け、各国が存在感を誇示する場にもなったもようだ。(後略)【11月11日 時事】 
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【アメリカに替わってテロの標的となる中国】
タリバンの人権抑圧的体質から欧米は今後もタリバンとの距離を一定に維持すると思われますが、そうした状況で影響力を増すと予測されるのが、内政不干渉の中国。

ただ、中国としては米軍撤退でアメリカが影響力を失うことを喜んでばかりはいられません。中国のタリバン支援は、ウイグル族関連組織などがアフガニスタン国内で活性化し、中国へのテロを企てるようなことがないように、タリバンが国内過激派を十分に統制することが交換条件になります。

“アフガニスタンからのテロの輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と利権を守らなければならなくなっている”【11月12日 藤和彦氏 JBpress】というように見ることももできます。

アフガニスタンには(これまではタリバンと連携していた)ウイグル人過激派が多数存在していますが、タリバンが中国からの要請に従ってウイグル人過激派と絶縁し、追放しようとすれば、ウイグル人過激派はタリバンの敵対組織であるより過激なIS系組織と連携して、中国への攻撃を強めることにも。

結果、アメリカに替わって中国がテロの標的とされるようにもなってきています。

****アフガンで再興するイスラム国が、「中国」を次のテロ標的に定めた必然***
<タリバン政権下で加速するウイグル人の取り込みとシーア派への攻撃は過激派組織からのメッセージだ>

10月8日、アフガニスタン北部クンドゥズ州にあるイスラム教シーア派のモスクで自爆テロが発生、礼拝中の少数民族ハザラ人70人以上が死亡、140人以上が負傷した。

間もなく過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」がオンラインの声明で犯行を認めた。実行犯は「ムハンマド・アル・ウイグリ」で、中国の要請に応じてウイグル人をアフガニスタンから追放する「ラーフィダ」(シーア派の蔑称)とイスラム主義勢力タリバンの政権を標的にしたという。

IS-Kが宗教的・民族的少数派を攻撃するのは珍しいことではない。(中略)

しかし、アフガニスタンのハザラ人社会を標的にすることを、中国のウイグル問題を引き合いに出して正当化しようとするのは異様で、理解に苦しむ。

今回の自爆テロの分析結果からうかがえるのは、IS-Kが従来あまり挑発的ではないとみられていた対中国戦略をより強硬路線に転換することを検討している可能性だ。

さらにタリバンがウイグル人民兵を追放する意向を表明したことを、自らをウイグル人の新たな庇護者と位置付け、不満を抱くウイグル人民兵を戦力に迎える好機と捉えているようだ。(後略)【11月2日 Newsweek】
******************

ISのような過激派にとっては「敵」がいないと困ります。
アメリカが撤退した現在、今まで以上に「一帯一路」で存在感を強める中国が目立つようになり、ISにとっては格好の標的となります。

その際、タリバンから縁切りされたウイグル人戦闘員を巻き込んで中国に対しテロ攻撃を・・・というシナリオです。

“中国政府はアフガニスタンの内政には関与せず、ひたすらテロの侵入阻止に注力する姿勢に終始している。だがタリバンの代表と頻繁に接触しても「新疆ウイグル自治区の安全が保たれる」との確信は持てない。タリバンの失政が続けば続くほど、IS-Kの脅威は強まる。「タリバンによる政権奪取は中国にとってリスク以外の何ものでもない」との認識が募るばかりだろう。”【11月12日 藤和彦氏 JBpress】
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ベラルーシ・ポーランド国境での移民・難民の押し付け合い 寒さで状況は更に悪化

2021-11-11 22:58:48 | 難民・移民
(ポーランド国境沿いのベラルーシ・グロドノ地方でたき火をする移民(2021年11月10日撮影)【11月11日 AFP】)

【移民・難民が「ピンポン玉」のように扱われる「人間を生きた盾とする新たなタイプの戦争」】
2週間ほど前の10月29日ブログ“欧州移民・難民問題 ベラルーシ国境でピンポン球のように扱われる移民 再び壁を作る中東欧”で取り上げた、ベラルーシとポーランドの移民・難民押し付け合いは未だに続いており、寒さも厳しくなる状況で、命に係わる深刻さを増しています。

状況は簡単に言えば、不正選挙を訴える国民を力で抑えつけEUから制裁を受けるベラルーシ・ルカシェンコ大統領が、(おそらく制裁への報復措置ととして)イラクやアフガニスタンからの移民・難民を意図的に自国へ運び、彼らを「人間爆弾」としてポーランドなどへ送り付けている、一方、難民への嫌悪感が強いポーランドは難民流入を一切認めず腕ずくで阻止。 両国国境で難民らはピンポン玉のように両国の軍・警察によって翻弄されている・・・という話です。

****ポーランド国境に移民数千人殺到 EU「ベラルーシが意図的に派遣」****
旧ソ連のベラルーシ西部のポーランド国境付近にイラクなどから来たとみられる数千人規模の移民らが押し寄せ、入国を阻もうとするポーランド当局との緊張が高まっている。

欧州連合(EU)はベラルーシが経済制裁への対抗策として意図的に送り込んでいると非難し、制裁の拡大も検討している。
 
ベラルーシ西部のフロドナ周辺では8日朝からポーランド国境に向かう大量の移民らの姿が現地メディアなどで伝えられた。移民らの一部は国境の鉄条網を破って侵入を試み、ポーランド当局が催涙ガスを使うなどして対応。

移民らはそのままテントを張って国境近くで夜を明かした。食糧や水の不足も伝えられている。10日には二つの集団が越境し、拘束されたとも伝えられた。ベラルーシ当局も周囲で様子を見守っているが、越境の試みを止めようとしていないという。
 
タス通信によると、ポーランド政府は9日、移民らが国境付近だけで2000〜4000人に上り、ベラルーシ全体では約1万5000人が滞在しているとの見方を示した。軍や警察も動員して国境警備態勢を約2万人まで増やすという。
 
ポーランドのモラウィエツキ首相は9日の議会で移民の越境を黙認するベラルーシを「人間を生きた盾とする新たなタイプの戦争」を仕掛けていると批判し、目的を「EUに混乱を生み出すため」と指摘。「黒幕はロシアのプーチン大統領」と後ろ盾のロシアも批判した。隣国リトアニアでも10日、緊急事態が宣言された。
 
現地の報道によると、移民らの多くはイラクから来たクルド人とみられる。ポーランドが加盟するEUのフォンデアライエン欧州委員長は8日の声明で「ベラルーシが政治的な目的のために移民を利用することは受け入れられない」と述べ、同国に対する制裁拡大を承認するよう加盟国に求めていることを明らかにした。ロイター通信によると、ベラルーシのマケイ外相ら30の個人・団体を対象とした制裁が検討されている。
 
一方、ベラルーシ政府は移民らの規模を「約2000人」とし、入国を許さないポーランドの対応を「人権侵害」と非難。ルカシェンコ大統領は9日、国境付近のポーランド軍の増強を「(ベラルーシへの)脅し」と批判し、プーチン大統領との電話協議で懸念を伝えたという。

ポーランド政府もベラルーシが国境付近で部隊を増強していると指摘しており、非難の応酬が続いている。
 
EUはベラルーシのルカシェンコ政権による反体制派への弾圧や、5月にジャーナリストを拘束するために民間機を強制着陸させた事件などを受け、6月に経済制裁を発動した。

この頃からベラルーシを経由して隣国のリトアニアやポーランドに向かう中東やアフリカからの移民や難民の数が急増。タス通信によると、ポーランド国境では今年だけで3万人以上が越境を試み、リトアニアでは4000人以上が拘束されたという。
 
ベラルーシ政府は関与を否定しているが、EUは制裁への報復として、ルカシェンコ政権が欧州への移住を希望する移民らを集めていると批判している。【11月10日 毎日】
*********************

ポーランド警備隊員らは押し寄せる集団を鎮圧しようと催涙ガスも使っている様子で、一方のベラルーシ側は送り出した難民らがベラルーシへ戻ることを許さない・・・と、まさに「ピンポン玉」状態。

“(移民・難民らの)多くがビザを取得して航空機でベラルーシ入りしており、ポーランドやEUはベラルーシ当局が組織していることを疑わない。”【11月10日 朝日】

“シリア出身の37歳の男性は、ベラルーシからの3度の越境を試みた後、最近ポーランドに入国した。ビャウィストクの難民センターで取材に答えた男性は、4人のグループで国境に到着した時のことを振り返り、警備隊に殴られたと明かした。顔面を負傷し、鼻が折れ、胸にも打撲傷を負ったという。

最初の越境は失敗に終わったが、ベラルーシの当局者は男性の治療を拒否。ポーランドへ向かうよう再三告げ、ベラルーシの首都ミンスクには戻らないよう指示した。”【11月11日 BBC】

【厳しさを増す寒さ すでに8人死亡とも】
こうした状況で、厳しい寒さの中、一部の移民・難民が低体温症にかかったり骨折したりするなど、状況は深刻さを増しています。すでに8人が死亡しているとの報道も。

****押し寄せる移民を催涙ガスで阻止 ポーランド、ベラルーシ国境に軍も****
(中略)
ポーランド側への越境を阻止された人々と、あとからやって来た人々とで、立ち往生する人の数は増える一方だ。3千~4千人にのぼるとの見方もある。
 
森林の中でテントを張り、たき火で暖をとる家族連れの映像がさかんに伝えられる。警察発表や報道で、川でおぼれたり、心臓発作を起こしたりしてこれまでに少なくとも8人が死亡したとされる。
すでに夜間の気温は0度を下回り、今後さらに環境が悪化すると犠牲者が増えかねない。

AFP通信によると、ベラルーシの首都ミンスクから来てポーランド当局に押し戻されたあるシリア人一家は「ベラルーシの兵士にポーランドへ行くかここで死ぬか選べ、と言われた」と話したという。
 
一方、ポーランドも非常事態を理由に国境地帯への立ち入りを厳しく制限。難民支援団体や医師にも人々との接触を認めず、人権団体に懸念が広がる。
 
ポーランド議会は10月、外国人に関する改正法を可決。不法入国した直後に拘束された外国人に対しては、国境警備隊の判断で難民申請の提出を拒めることになった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「難民申請者は不法入国を理由に罰せられてはならないとする難民条約に違反する」と指摘する。
 
ポーランドの現政権は移民・難民の受け入れに対する厳しい姿勢で知られる。ベラルーシは、ポーランドの過剰反応を引き出し、難民問題で意見が割れるEU内に混乱を起こすことを狙ったとの見方も出ている。
 
ベラルーシを支援するロシアのラブロフ外相は9日、中東に対する北大西洋条約機構(NATO)やEU加盟国の過去の軍事介入をあげ、「前例のない難民の流れを生み出したのは西側諸国だ」と皮肉った。【11月10日 朝日】
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【プーチン大統領が黒幕」との批判にロシア反論】
EUも移民・難民に関しては、人道的対応を求める理念と、大量流入を嫌悪する社会の本音で現実的対応に苦慮し、EU内部においても、難民割り当てなどを求める西欧と、拒否感が強い中東欧の間の対立軸ともなっています。

そうしたEUが対応困難な問題で、特に難民への嫌悪感が強くEU内部でも指導部と対立することが多いポーランドに大量の難民を送り込むというのは、EUの“痛い所を突く”報復措置とも考えられます。

“フォンデアライエン欧州委員長は8日、「ベラルーシがEUに圧力をかけるため、移民を道具にしている」と非難。EUへの「ハイブリッド攻撃」だとみなし、対ベラルーシ制裁を強化する構えを示した。”【11月10日 産経】

この問題でポーランド側は、ロシアのプーチン大統領を「黒幕」として名指し批判、これにロシアが反論する形でロシアも“参戦”。

****ベラルーシ移民「黒幕」名指しロシアが反論****
ポーランド東部の国境地帯に隣国ベラルーシから、中東などの移民が押し寄せる中、問題の「黒幕だ」と名指しされたロシアが10日、反論しました。

ポーランドとベラルーシの国境では現在、ポーランド軍が1万2000人を派遣し、移民の流入を阻止しています。こうした中、9日にはポーランドのモラウィエツキ首相がベラルーシの同盟国であるロシアのプーチン大統領を移民問題の「黒幕だ」と批判しましたが、10日、ロシアのペスコフ大統領報道官はこの発言について「無責任で受け入れられない」と反発しました。

プーチン大統領はこれまでも移民問題はロシアに関係ないと表明していて、10日に行われたドイツのメルケル首相との電話会談では、EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました。

一方で、タス通信によりますと、10日、ロシア国防省は、長距離爆撃機2機がベラルーシ上空を巡回飛行したと発表していてロシア側がEUをけん制したものとみられています。【11月11日 日テレNEWS24】
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【プーチン大統領、メルケル首相も加わって、責任ある対応を】
プーチン大統領が直接関与しているとは考えにくいですが、事態を鎮静化させるためにはベラルーシに影響力を持つプーチン大統領に仲介を頼むが現実的ということで・・・

****ベラルーシの移民利用やめさせて メルケル氏、プーチン氏に要請****
ポーランド国境にベラルーシ経由で不法入国を試みる中東などからの移民が押し寄せている問題で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は10日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、ベラルーシに「非人道的な」移民の利用をやめさせるよう要請した。
 
独政府のシュテフェン・ザイベルト報道官は「(メルケル氏は)ベラルーシ政権による移民の利用が非人道的で容認できないことを明確に示し、(これをやめさせるため)プーチン大統領に影響力を行使するよう求めた」とツイッターに投稿した。
 
ロシア大統領府(クレムリン)の声明によると、プーチン氏は、欧州連合がこの問題についてベラルーシ政府に「直接連絡を取る」べきだと提案。両首脳は「本件について議論を続ける」ことで合意した。(後略)【11月11日 AFP】*****************

プーチン大統領の返答については、前出【テレNEWS24】では“EUがベラルーシと直接協議するよう提案し、突き放す姿勢を示しました”とのことですが、ベラルーシ・ポーランドに加えて、ロシア・プーチン大統領、ドイツ・メルケル首相と“役者が揃ってきた”感も。

国境地帯での緊張の高まり、軍の派遣という事態は、“ポーランドは国境に部隊を追加配備している。同国は、ベラルーシ側が紛争を誘発しようとし、「武力」衝突にエスカレートする可能性があると警告した。”【11月10日 BBC】という状況にも。

一方のベラルーシ・ルカシェンコ大統領は「自分は狂人ではない」とも。

****ベラルーシの主張****
ルカシェンコ氏はベラルーシ国営の通信社のインタビューで、ロシアを紛争に巻き込むことにつながるような、国境での軍事的な事態悪化は避けたいと述べた。

また、自分は「狂人ではなく」、何が危機にひんしているのかは分かっているとした。ただ、「自分たちがひざまずくことはない」と、抵抗する姿勢は崩さなかった。

ベラルーシ国防省は、ポーランドが国境に数千人の部隊を派遣し、協定に違反したとして非難した。
ベラルーシは、移民は合法的にやってきているとし、同国は単に移民を「温かくもてなす国として」行動していると主張している。

ロシアは同盟国の国境問題への「責任ある」対応を称賛し、状況を注視しているとしている。【同上】
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「武力」衝突はともかく、移民・難民らが「ピンポン玉」のように扱われ、寒さのなかで命を落とすような事態は早急に改善する必要があります。プーチン大統領、メルケル首相と“役者が揃ってきた”ところで、何らかの具体策が出ることを期待したいのですが・・・。

追加
11月12日 0時15分

****欧州向けガス停止を警告 ベラルーシ、難民問題で****
ベラルーシ西部のポーランド国境で欧州連合(EU)入りを狙う難民数千人が立ち往生している問題で、ベラルーシのルカシェンコ大統領は11日、EUが同国に新たな制裁を科せば、ロシア産天然ガスを自国経由で欧州に送っているパイプラインを止める可能性があると警告した。インタファクス通信が伝えた。
 
ルカシェンコ氏は、ポーランドが難民流入阻止を名目に国境に約1万5千人の兵士を展開しているとし「全く不適切だ」と非難した。
 
この問題を巡っては国連のドゥジャリク事務総長報道官が10日、人道上の原則や国際法に基づく解決を呼び掛けた。【11月11日 22時31分 共同】
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ロシアにとって天然ガスは大切な商品、欧州は大切な顧客であり、こういうガスを露骨に政治目的に使うことは嫌がるのでは。
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