◇化石の森(1973年 日本 118分)
監督/篠田正浩 音楽/武満徹
出演/萩原健一 杉村春子 二宮さよ子 八木昌子 岸田森
◇石原慎太郎『化石の森』
マニキュアにミステリ。
ぼくの田舎には、いちばん多いときで11館の映画館があった。けど、70年代には、5館に減ってた。東宝、松竹、東映、大映、日活の映画を上映してたんだけど、この内、東宝系の邦画を上映してる映画館がいちばんましだった。
とはいえ、それでも椅子は固く、スクリーンに近づくにつれて傾斜が高くなってるんじゃないかっておもったけど、たぶん、まったいらな館内だったんだろう、ともかく、前の人の頭が邪魔で邪魔で仕方なかった。
そんな劇場に、授業をさぼってよく出かけたもんだけど、この映画もそういう時代に観た。
印象に残っているものといえば、どこかの郊外にあるお城のようなラブホテルに回転ベッドがあって、そこの掃除を杉村治子がするんだけど、うぃ~んとベッドが上に昇っていって、それでようやく天井の鏡が拭けるんだ。
これにはカルチャーショックを受けた。
「ほお、こうして掃除するんだあ」
ほかにはなんにも憶えてないくらいだったんだけど、今回あらためて、いや~、杉村春子の上手さっていうか凄みを実感した。
ほんとに凄い女優さんだわ。
二宮さよ子の可愛さがなければ息苦しくなりそうな感じで、彼女の時代を感じさせるミニのワンピはとっても良だ。
それはいいけど、劇薬をいくら致死量とはいえ、マニキュアにいれて爪に塗ったらほんとに殺せるのかな?
なにか出典とか実際の事件とかあったんだろか?
ま、それもさておき、子どもにとってなにより残酷なことは、母親のセックスを観ちゃうことだ。ショーケンが杉村春子のそんな場面に遭遇してトラウマになるのはよくわかるし、おとなになった自分が今度は八木昌子とセックスして子どもに観られるっていう、なんとも重苦しい因果をよくも考えたものだっておもうんだけど、でも、最後までわからないのは、それがなんで化石の森なんだろってことだ。
化石の森ってのはアリゾナの砂漠地帯にある国立公園で、そこが舞台になった1936年のアメリカ映画に『化石の森』ってのがあるんだけど、この映画とはなんの関係もない。
わからないんだよね、そのあたりが。
でもまあ、70年代特有の刹那的な性衝動と重苦しさは、ぼくは好きだ。