△イノセント・ガーデン(2013年 アメリカ、イギリス 99分)
原題 Stoker
staff 監督/パク・チャヌク 脚本/ウェントワース・ミラー
製作/リドリー・スコット トニー・スコット マイケル・コスティガン
撮影/チョン・ジョンフン 美術/テレーズ・デプレス 音楽/クリント・マンセル
cast ミア・ワシコウスカ ニコール・キッドマン マシュー・グード ダーモット・マローニー
△鍵で開かれるもの
ヒッチコックに『疑惑の影』っていう映画がある。
実業家の叔父に憧れているヒロインがいるんだけど、
あるとき、この叔父が殺人を犯して追われているようで、
ヒロインの屋敷に突然やってくるや、叔父を追って刑事まで登場し、
ヒロインの叔父に対する憧れと恐れが巨大な疑惑になっていくって話だ。
それが元になった物語かな~とかおもって観に行ったら、ちがってた。
ただし、
姪と叔父のおりなすサスペンスっていう構図はおんなじだ。
行方不明だった叔父が帰ってくる前後から父親の惨殺と行方不明が前後し、
その疑惑が叔父に向けられるんだけど、叔父は母親を誑し込み、
叔母を殺害し、姪に対しては異常といえるような興味を持っているのか、
ハイヒールをプレゼントし、姪を犯そうとした不良を殺す。
で、どうなるんだって話だけど、
これは、父親の葬儀のあった誕生日に、祖母から贈られた鍵が、物語の鍵になってる。
鍵というのは、もちろん扉や棚や抽斗を開けるためのものだ。
でも、心の開かせる、秘密を解かせる、っていう意味もある。
で、鍵のかかった抽斗の中から、叔父から姪にあてた夥しい手紙が見つかる。
問題は世界中から出しているように書かれているのに、
封筒に印字されているのは、とある精神病院だ。
つまり、叔父はそこに収容されているんだけど、
「なんで、何十年も入れられっぱなしだったたの?」
っていう疑問が湧き、佳境へ突っ走る。
でも、鍵の意味しているのは、少女から大人へ脱皮する鍵でもあるんだね。
祖母は、孫に赤ん坊のときから同じ靴を送り続けた。
それは、
「いつまでも可愛い孫でいてちょうだい、たとえ叔父の秘密を知った後でも」
っていう祖母の願いが込められてる。
一方、叔父は、実家へ帰ってきて初めて、姪にハイヒールをプレゼントした。
それは、
「もう大人になるときがやってきたんだよ。おまえに伝えられた遺伝子の目覚めるときが」
っていう叔父の期待が込められてる。
叔父は、母親との情交を姪に見せつける。
自分の母親が「女」になっているところを見るのは、なによりおぞましい。
姪はどうしようもなく胸が弾み、体が疼き、不良を相手にセックスを誘う。
なんで不良にしたかといえば、同級生が、こんなふうにいったとき助けてくれたからだ。
「おまえのかーちゃん、おじさんとセックスしてんだぜ。おまえは毎日オナニーしてんのか」
その言葉が体内をめぐり、生まれて初めて発情したとき、
初体験の相手にしたいとおもったのが自分を好きでいるらしい不良だったわけだ。
けれど、そんなチンピラに犯されそうになる程度じゃ、彼女の目覚めは来ない。
異常な遺伝子が蠢き出さない。
叔父が巧みな指さばきでピアノを弾く横で、自分も指を乗せ、連弾をすることで、
かすかに姪の異常遺伝子は蠢き、官能にめざめ、股を擦りつけて絶頂を知る。
だけど、まだ足りない。
叔父は手助けをしなくちゃいけない、そう、姪の上に乗っかっている不良を殺して。
姪は、眼の前で人間が殺されるという異常事を目撃することで、初めて目覚める。
そしてようやく、シャワーを浴びながら、自慰をして絶頂感を知り、遺伝子が動いた。
姪は、おとなになった。
ただし、異常なおとなにだ。
過去に幼い弟を生き埋めにした叔父の目的は、異常な遺伝子をめざめさせ、
Stoker家の正統な血を伝えてゆくというところにあるんだけど、
ところが、
「めざめた姪は叔父以上の怪物になっていくんじゃないのか?」
てな、展開が待ってる。
冒頭、逆光気味に立っている姪のスカートは翻り、男物のベルトをつけ、
白い花になぜか赤い斑点が飛び散り、それをほくそ笑みながら彼女は見つめてる。
(なんでこんなカットがあるんだろう?)
っていう最初の疑問が、佳境になってようやく明かされていくわけだ。
いや、なんとも凄まじい、不思議の国のミア・ワシコウスカ。
ただ、
こんな淫靡で陰湿で異常な話をよく作ったもんだとおもいながらスタッフを見れば、
いやまあ、びっくらこいた。
製作が、リドリー・スコットとトニー・スコットじゃんか。
だから、
ブロンドの髪の毛が緑の草原になっていったりするカットが絶妙なのか~。
あ。
てことは、トニーの遺作?