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言の葉の庭

2013年06月11日 01時06分54秒 | 邦画2013年

 ◇言の葉の庭(2013年 日本 45分)

 英題 The Garden of Words

 staff 監督・脚本・原作・絵コンテ・演出・撮影監督・色彩設計・編集/新海誠

     作画監督・キャラクターデザイン/土屋堅一

     美術監督/滝口比呂志 音楽/KASHIWA Daisuke(柏大輔)

 cast 入野自由 花澤香菜 平野文 前田剛 寺崎裕香 井上優 潘めぐみ

 

 ◇新宿御苑、行こうか?

 どうでもいい話ながら、ぼくは『小さな恋のメロディ』が大好きだ。

 大学に入って間もない頃、サークルでそのことを話したら、

 先輩たちに鼻で嗤われた。

(こいつら、純粋な恋愛がわからないんだ)

 とおもっていたら、ある日、新宿御苑につれていかれた。

 何人かで出かけたとおもうんだけど、なんで出かけたか憶えてない。

 当時、新宿にはミニシアターが何館かあって、

 いわゆる芸術映画みたいなものを上映してた。

 それをサークルの先輩と観に行ったついでに立ち寄ったのかもしれない。

 ともかく、新宿みたいなごみごみした町とはおもえないような庭園だった。

 以来、何度か足を運んだけど、さすがに雨の日は行こうとはおもわなかった。

 だって、

 雨の音や水の音に耳を傾けるなんていうリリカルな大学生活じゃなかったし。

 ただ、この映画を観てて、ふとおもったのは、こんなことだ。

「時代設定って、いつなんだろ?」

 もしかしたら、ぼくたちの大学時代くらいなんじゃないだろうか、と。

 だって、携帯電話はいっさい出てこないし、

 水商売の母親と同棲を始める兄がいて、

 自分は高校に通いながらもなんとなく靴職人に憧れて、

 雨が降ったら地下鉄に乗るのが嫌になって御苑でデザインしてるなんて世界は、

 ほぼまちがいなく、70~80年代の世界なんだもん。

 ちょっとだけ違うのは、

 ぼくたちは学校をさぼるという行為を正当化する理屈をつけたがったけど、

 この主人公はなんとなく曖昧で、なかば現実逃避してるように見えることだ。

 御苑の東屋で出会う学校の古典の女教師にしても、それは同じことがいえる。

 不倫したか、それが噂になって生徒や親に糾弾されたのかよくわからないけど、

 ともかく、ストレスの塊になって心身症がかってしまったために味覚音痴になり、

 缶ビールとチョコレートだけを抱えて、授業を放棄して御苑にやってくる。

 いいのかそれでっていう文句はさておき、

 つまりは、

 社会とうまくつきあえないふたりが、現実逃避しに行った先で、知り合うわけだよね。

 でもまあ、

 自分たちが背を向けてきた学校の話題は触れたくなかっただろうからしないにしても、

「いきなり万葉集はないんじゃないか?」

 と、おもってしまった。

 引くだろ、ふつう。

 そんなことからすると、

 なるほど、新海誠は、スチールをもとにして、独特な自分色に染め上げ、

 雨と水の絶妙な混ざり具合の美しい音色を奏でてくれたけど、

 話の内容が、そうした背景と妙にアンバランスで、

 なんとも古色蒼然として、現実味に欠けてるような気もする。

 たしかに、

 男と女が知り合い、恋をするのは、別にどんな立場であろうとかまわない。

 教師と生徒であっても、そんなことに目くじら立てるのはお門違いだ。

 けど、リアリティってのもちょっとだけ要るかな~とおもっちゃう。

 電車とか、町の風景とか、自然の雨や光とか、部屋の中とか、

 そうした写実的なリアリティのことじゃないよ。

 写実を独自の芸術にまで高めている新海誠の技量は、他の追随を許さない。

 ぼくがいってるのは、主人公のことだ。

 ふたりとも自己陶酔しがちな、つまりセンチメンタリズムな性格で、

 夢の中に身を置きながらさらに夢を見たがってるところが垣間見える。

 だから、この先、ふたりはどうなるんだろうとか、余計なことまで考えちゃうんだ。

 彼女は四国に帰って教師をすることになるんだろうけど、

 社会に復帰したら、いつまでも夢の中だけでは生きていけない。

 料理は下手だけど、美人だし、スタイルもいいし、

 たぶん、さほど遠くない未来、

 彼女をちからづくで現実に引き戻そうとする同級生とか先輩とか、

 ともかくお節介な熱血漢を気どった野郎が現れて、

 その田舎特有の野蛮なまでの強引さに、

 もともとガラスのように脆い彼女は、おもわず目覚めの時を迎えるんだろう。

 そんなとき、

 たぶん、寸法を測ったときの不十分さからして、

 足に合わないぎゅうぎゅうきつきつの靴を抱えた彼が、現れるんだ。

 バイトでためた金をはたき、はるばる四国までやってきて、

 男と女の現実を突きつけられ、淡い初恋は終わりを告げることになるんだろう。

(ああ、なんて嫌味なやつなんだ、ぼくは)

 でもさ、

 そんなふうに意地悪で、醜悪な未来を予測してしまいそうになるのは、

 かれらふたりが、地に足のついた自己観察が出来ていないからじゃないかな。

 雨に濡れた地下鉄の匂いもまんざらじゃないし、

 不倫で抜き差しならなくなっても歯を食いしばって社会で生活してる人もいるし、

 自分が授業を放棄してしまったことで受験に支障をきたしてる子もいただろうし、

 母親が年下の男とどっかに行っちゃっても学校に皆勤してる子もいるってことを、

 かれらはもうすこしくらい認識してもいいんじゃないかな。

 そんなことをおもいつつ、映画を観終わったんだけど、

 ふと、『小さな恋のメロディ』を観たときの感覚をおもいだした。

 ぼくはどうやら、当時の先輩たちになっているらしい。

 都会の絵の具に染まっちゃったのね。

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