◎ローマでアモーレ(2013年 アメリカ、イタリア、スペイン 101分)
原題 TO ROME WITH LOVE
staff 監督・脚本/ウディ・アレン 撮影/ダリウス・コンジ 美術/アン・セイベル
衣裳デザイン/ソニア・グランデ 主題歌/ヴォラーレ『Nel Blu Dipinto di blu』
cast ウディ・アレン ペネロペ・クルス アレック・ボールドウィン ロベルト・ベニーニ
◎やっぱり、愛を語るならローマ
とはいえ、ローマだからって観光名所が出てくるわけでもない。
たしかに4つある物語のひとつで、
出会いの場となるのはスペイン階段だし、そのままトレビの泉で会話は深まる。
それとラストの結婚式をおもわせる大フィナーレの音楽隊もスペイン階段に並ぶ。
フォロ・ロマーノや嘆きの壁は遠景として捉えられているし、
コロッセオとおもわれる遺跡に、雷雨の夜半、忍び込んでキスもするけど、
それだけのことで、この映画がローマでないと語れないのかといえば、
その必然性はあんまりない。
でも、おもしろかった。
さすが、ウディ・アレン。
カットバックして語られてゆく4つの物語は、別に関連してるわけでもないし、
実をいえば、時間の推移もまるで関係ない。
同一時間でさまざまなカップルを描いてるのかとおもったら、全然ちがってた。
つまり、
アレンは自分の作った物語を期待を絶妙なタイミングでカットして、
ローマで起こっている不条理な出会いと別れを描いてるんだと。
だったら、
「4つの短編を4本立てにしてくれればよかったんじゃない?」
といえなくもないんだけど、やっぱり、この方がいいんだろね。
古代と現代がごちゃまぜになってる町なんだから、
いろんな恋の物語もごちゃまぜになってる方がいいのかもしれない。
秀逸だったのは、やっぱりアレンみずから出演している、
浴室でシャワーを浴びると美声になる葬儀屋の話で、
オペラの舞台にまで
浴室を引っぱり出して歌うまでエスカレートしていくんだから、たいしたもんだ。
ただ、目をひくのはどうしたところで娼婦を演じたペネロペ・クルスで、
ローマに新居を持とうとする新婚カップルの話に出てくるんだけど、
豊満で魅惑的な肢体とすれっからした態度と高慢そうな眼光が、
なんとも役にぴったりはまってる。
ふと、ソフィア・ローレンをおもいだした。
顔つきはまるで違うんだけど、醸し出してるものが似てるんだろうか?
他の出演者とちょっとだけ違う雰囲気なのは、アレック・ボールドウィンだ。
建築家をめざしている学生の浮気話に出てくる。
なんだかずんぐりしちゃったけど、ま、それはいいとして、
以前のアレン作品だと、心の相談相手を必要とするのはアレンだったはずで、
今回はアレンのかわりにジェシー・アイゼンバーグが登場し、
エレン・ペイジとの浮気をするとき、
ボールドウィンがいきなり出てきてあれこれと囁く。
アレンの物語ではときおり使われる手法だけど、ほとんど違和感はない。
有名と無名について茶化した物語に登場するロベルト・ベニーニも、
これまたひと昔前からアレンが自身で演じてたかもしれない。
ある朝起きたら有名人になっていたっていうシュールな物語は、
有名人という人種に対する風刺になってて、
「結局、どれだけ有名になったところで流行が終われば誰も知らなくなるんだ」
っていう、ちょっぴり残酷で哀愁のこもった内容は、
ウディ・アレンというオシャレな天才の自戒が籠められてるんだろね、たぶん。