◎グランド・マスター(2013年 香港、中国、フランス 123分)
原題 一代宗師
英題 The Grandmaster
staff 監督/ウォン・カーウァイ
製作/ウォン・カーウァイ ジャッキー・パン・イーワン
脚本/ゾウ・ジンジ シュー・ハオフォン ウォン・カーウァイ
撮影/フィリップ・ル・スール 武術指導/ユエン・ウーピン
美術・衣装デザイン/ウィリアム・チャン アルフレッド・ヤウ
音楽/梅林茂 ナタニエル・メカリー
cast トニー・レオン チャン・ツィイー チャン・チェン マックス・チャン ソン・ヘギョ
◎香港版を観てみたい
どうやら、違うらしい。どんな違いがあるのかはわからないんだけど、戦争時代から国共内戦時代の葉問(イップ・マン)の困窮ぶりをはじめ、各地の武術家たちの人生を追ったとき、避けて通れないのが日本軍の存在で、これについて、ぼくたちにあまり見せたくない部分の量の差があるのかもしれない。てなことを勘ぐってしまいがちだから、日本版と香港版という括りで別バージョンは作ってほしくなかった。
たしかに、日本軍に占領されていた時代から戦後の混沌期にかけて、香港には少なくない武術家たちが集まっていただろうから、戦前、完全な統一はされずに終わってしまった拳法が、香港という地で圧縮されていたという構図はとてもおもしろい。けれど、もしそうであるなら、やっぱり、トニー・レオンとチャン・チェンは闘わなければならなかったろう。
チャン・ツィイーがチャン・チェンを列車の中で助けたところからして、彼女がふたりを引き合わせるような展開になるのかとおもってたら、そうじゃなかった。ウォン・カーウァイという人はどうしてもこういうところがあって、ときどき、脚本がぬるい。
今回も、映像は圧倒的なものがあり、冒頭のワンカットめから、
「うわ、ウォン・カーウァイだわ」
と唸らせるところがあるのに、物語の展開がいまひとつ雨もりしてる。
なんでかは知らない。大筋だけ決めて撮るからだとかもいわれるけど、ほんとのところは知らない。ただまあ、満洲国についても触れざるを得ないから描かれてたけど、ちょっと驚いたのは、満洲国の国旗や街路がカラーで登場したことだ。
「え!?」
と、おもった。色、つけたんだね。
それだけの話なんだけど、冒頭の豪雨の中の街路のkung fuと、雪の中の満洲の駅のkung fuは好かった。ぼくは功夫をよく知らないからダメなんだけど、詠春拳、八卦掌、八極拳の違いが一目瞭然なほど、徹底した指導と撮影が行われたらしい。ただ、この映画は決して功夫の決戦を撮ろうとした映画ではないし、葉問のいちばん輝いていた人生といちばん辛かった人生に恋と戦いをからめて、中国とくに満洲と香港の戦前から戦後にかけての情景を描こうとしたんだろうから、拳法家同士の戦いを観に行くと、とんだ肩透かしを食らう羽目になる。
だから、そういう観客に対しての返答の意味も込めて、もしかしたら、ウォン・カーウァイは、トニー・レオンとチャン・チェンの戦いをカットしてしまったのかもしれないね。映画としては尻切れトンボな印象ができちゃうとしても、あえて。
ただまあそれはともかく、梅林茂の音楽はええね。どこまでが彼の作曲なのか詳しくエンドロールをチェックしてないけど、いつもながら雰囲気は抜群だ。いつもながらといえば、ウォン・カーウァイの特質は、キスをしそうでしないっていう微妙な距離なんだよね。このもどかしさで悶え狂いそうになるのがいいのかもしれないね。