◇わが青春のとき(1975年 日本 106分)
監督/森川時久 音楽/佐藤勝
出演/栗原小巻 山本圭 三國連太郎 小林桂樹 夏圭子 井川比佐志 村地弘美
◇小林勝『狙撃者の光栄』
こういう時代もありました
いやまあ、なんというのか…。こういうことをいったら怒られるんだろうけど、簡単にいってしまえば、人を人ともおもわないような夫に嫌気がさし、篤実な青年医師と不倫して妊娠し、その純粋だと信じる愛のために夫に三行半をつきつけて家を出る話なんだけど、こんなふうに書いちゃったら身も蓋もなくなるわけで。
舞台は、昭和19年、朝鮮。夫こと三國連太郎は、闇稼業でしこたま儲けた観のある資本家。妻こと栗原小巻は、若く美しくどうして三國の妻になったのかが不思議な淑女。医師こと山本圭は、叔父が大逆事件で逮捕され、日本に背をむけてきた青年。栗原小巻は、常に上品で淑やかで、悲愴感にあふれ、三國連太郎も、病院の院長役の小林桂樹と同様、持ち前のあぶらぎりようで、山本圭は、相変わらず代表的左傾青年を演じてる。
余談だけど、この頃の圭さん、髪さらさらで、なんだか妙にカッコイイんだ。
ま、圭さんの話はともかく、この濃厚すぎる三角関係となれば、もうなにをかいわんやって感じだけど、それはそれで傾向がしっかりわかる。
でも、
「無数にある映画の一本とすれば、これはこれでいいんじゃないかな~」
とおもう。
おもうけど、しかし、この映画は1971年に倒産した大映が、ようやく復活して、あらたしく歩み出そうとしたときの記念すべき第一回作品だ。
「もうちょっと考えようよ」
と、誰もいわなかったんだろうか?
実は、ぼくは、この映画を企画された武田敦さんにご挨拶したことがある。おだやかな紳士だった。おそらく、武田さんは武田さんなりに考え悩まれた末に、この映画の製作に踏み切られたんだろうけど、できれば、新生大映の皮切りには、一般的な娯楽大作か文芸大作を持ってきてほしかった。
とはいえ、映画史においては、記念碑的な作品ではあるんだよね。